しとしと、じめじめ
「雨ですねえ、吉川先輩」
「そうだねえ、花子ちゃん」
「ちょっと! その呼び方止めてください! カコと! カコちゃんと読んでください!」
「いいじゃない、花子ちゃん。かわいいよ? 花子ちゃん」
「喧嘩売ってるんですか!」
あるいはそうかもしれない。ムキー! といかにも『怒ってます!』という顔をする後輩がかわいくてついからかってしまう。
「雨の日だけに現れる妖怪っていなかったっけ?」
「いましたっけ? 妖怪……というかそういう歴史古い系の先輩方については、勉強が追いついてないんですよね」
「そうなんだ」
彼女は、長谷川花子(自称長谷川カコ)は人間ではない。しかし人間を止めて怪異になったのは比較的最近である。妖怪が怪異としての先輩だなんておもしろい言い方をするなと思う。でもまあ、そうなんだろう。まず自然としての神様がいる。それからいろいろなモノにまつわる神様や妖怪、お化けの類いがいて、それからさらに新しい存在として、彼女のような都市伝説につながっていくのだろう。それらに共通しているのは信仰と伝承であり、どちらかが途絶えたときが彼女らの寿命である。
「小学生くらいの時にダッシュババアとかテケテケとかいたけどさ、あれって雨の日に転んだりしないの?」
「しないんじゃないですかねえ」
「そうなんだ」
「天気に左右されるような伝承があれば転ぶかもしれませんけど、あの人たちは『そういう移動の仕方をする存在』として確立しているので、転ぶという機能はついてないと思いますよ」
なるほどねえ。じゃあ逆に言えば口さけ女の『ポマードと3回言うと消える』のように『雨の日は転びやすい』みたいな弱点のような言い伝えや噂が多ければ転ぶのか。それを彼女に伝えてみると、
「そういうことですね。ダッシュババアを知っている人工の内、6~7割くらいがそう認識していれば、雨の日は転ぶ可能性が高くなりますね」
「大変そうだ」
「そう思いますよ。私も噂を流そうと画策したことはありますが、うまくいきませんでしたから……」
いったいどんな噂を流そうとしたのか。聞いても教えてくれなさそうなので止めておこう。
「あ、もうすぐ雨上がりそうです」
カコちゃんはスマホ片手にそう言う。都市伝説も時流に乗らないといけないんだな、と感慨深いような、よくわからない気持ちで彼女のスマホをのぞき込んだ。




