相合い傘のイタズラ書き
帰宅したら、家の前にイタズラ書きがしてあった。なんだろうか。矢印のようなものの左右に私、ルーと妻のサラの名前がある。
「ただいま」
「おかえりなさい、あなた。ご飯の用意ができてますよ」
「ああ、ありがとう」
家に入ると子供たちはすでに眠っていてサラが一人で出迎えてくれた。上着を脱いでいる間に食事の用意が進められて、手を洗い終える頃には食卓が整えられている。素晴らしい手際だった。いつも感心しているものの、なかなか伝えられずにいる。
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
「うまいなあ」
それだけは必ず言う。子供の頃、言わずにいたら母にいたく叱られたからだ。食事のたびに感謝を述べろとまでは言わないが、感想くらい言えと。言わないと品数が減っていくので、それだけは必ず言う習慣となっている。
「お口に合ってなによりです」
サラは向かいでニコニコしながら茶を飲んでいる。それで思い出した。
「なあ、家の前に変なイタズラ書きがあったんだが。矢印みたいな」
「ああ、相合い傘のおまじないですね」
「なんだそれは」
まじない? 私と妻の名前があったわけだが、我々は魔法使いの連中に恨まれるようなことをしただろうか。
「そんな大仰なモノではありませんよ。ちょっとした恋のおまじないです。相合い傘の左右に名前を書いておくと恋が叶う、とかそういうの」
「ますます意味がわからない。私と君は十分な恋仲ではないか」
そう言うとサラはなぜか茶を吹き出した。
「どうした、大丈夫か」
「はい、大丈夫です。あなたは……昔からそうですね」
「なにがだ」
サラは困ったような顔で目をそらす。なにか悪いことでも言ってしまっただろうか。
「昔から、照れるような恥ずかしいことをさらっと言ってしまいますね、とそう申しているんです」
「……そうか?」
「そうですよ」
わかったような、わからないような。そんなおかしな事を言っているつもりはない。でもまあ、サラが嫌そうなわけでもないからいいのだろうか。
「ところで、この肉の焼いたモノはうまいな。また作ってほしい」
「はい、わかりました。あ、おかわりありますよ」
「もらおうか」
君と結婚して良かったなあ。そう言おうとして止めた。




