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ゆっくり歩くカタツムリ

 私の名前はミレーヌ・ニコラ。内務省の長官を務めるレオ・ニコラの妻である。私は技術省に勤めており、栄養や要素から見た食事を研究する部門で助手をしている。正規の職員ではなく、忙しいときや人手が足りないときの手伝い、ということで入っているものの、研究所はいつだって人手不足だし、軍部、貧困層、そういった上から下まで人間である以上食事が必要であるため、忙しくないときなどない。だからほぼ正規の職員同様に勤務している。その分のお賃金はいただいているので不満はなく、料理も食事も好きなので尚のこと不満などない。

 今日は私は休みだけど主人は休みではないので、家でのんびり過ごしている。外では雨がしとしとと降っていて、窓の縁を貝を背負った虫がのそのそと移動していた。かまどでは鍋がコトコトと湯気を立てていて、横にはパンが焼き上がっている。主人の帰りはまだまだ遅いだろうから、冷めないうちに味見と称して先に食べてしまおう。

「こんにちは」

「あら、アデール。いらっしゃい」

 戸がノックされたかと思ったら古い知人であるアデールがやってきた。横に小柄な影を連れている。

「この子が?」

「ええ。耳が早いわね。ご主人から?」

「ええ。不覚をとったとしばらく不機嫌にしていたわ」

「こう言ってはなんだけど、あれはニコラの自業自得ね。ロン、こちらミレーヌ・ニコラ。レオ・ニコラの奥方よ」

「は、初めまして。ヴェロニクと言います」

「はじめまして」

 アデールに紹介された子供はぎこちなく挨拶をした。短い髪に、少し肌は褐色だろうか。目の赤さが人以外の血を引いていることを表わしている。

「最近ミレーヌに会ってなかったから、通りすがりだけど寄らせてもらったの。ごめんなさいね、いきなり」

「いいのよ。こちらもすっかり無沙汰にしてしまったもの。雨だから冷えたでしょう。先ほどパンが焼き上がったから食べていかない? もう少しすればスープもできるわ」

 そう誘うとヴェロニクのお腹が鳴った。

「あ、スミマセン」

「待ってね、用意するわ」

「ありがとうミレーヌ。これよかったらご主人と食べて」

 アデールから差し出されたのは近所で売られている焼き菓子の詰め合わせだった。遠慮なくいただくことにする。

「じゃあ、お昼を一緒にいただきましょう」

 1人の食事も嫌いじゃないけれど。みんなで食べるのも大好きだ。さあ、ごはんにしましょう。

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