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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と獣人の騎士
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※裏舞台1※師匠、穴に落ちる

 頭上からドタバタと音が聞こえる。同時に髪の上にパラパラと埃が落ちてくる。


「……消えた⁉︎」

「……どうしますか?……」

「……2人同時転移など……」


 複数の男の声。ガタガタと物を退ける音。何かを漁る音。その後、男たちが話し始めた。


「……撤収だ」

「は?よろしいので?」

「ヤツが消えたということは、ここにアレはないのだろう……」

「では、今後は……」

「……あの娘……あの白い髪の娘を追え。彼奴は……私が探る。一先ず撤収だ」

「は!」


 会話が終了すると足音が上部の部屋から遠ざかっていった。暫くすると静寂が戻る。


「……師匠?」

「なんだい?」

「大丈夫っすか?」


 寝っ転がった格好の男ー師匠ーは、20歳くらいの青年ー弟子その1ーの問いかけに耳を傾ける。


「何がだい?」

「……ものすっごい格好っすよ?痛くないんすか?」


 そう言えば身体がギシギシという。


「君があのタイミングで落とし穴を開けたからでしょ?」

「ベストタイミングでしたっしょ?」

「…………」


 微妙に眉をひそめて弟子その1を見ると、弟子その1のドヤ顔がそこにあった。まだ少年の面影を覗かせる弟子はどこか飄々とした雰囲気を醸し出している。

 弟子その1は腹ばいになって師匠の横に近づく。師匠は落とし穴に落ちた時の姿勢のまま寝転がっていた。

 確かに、タイミング的にはバッチリだった。

 転移魔術でアーリアを飛ばした瞬間に師匠の足元にあった落とし穴の罠を作動。落とし穴に師匠を落とすと同時に床の穴を元に戻す。

 これで不審者どもには1拍目で1人目が、次の2拍目で2人目が消えたように見えただろう。しかも転移魔術は1回分しか起動していないように見えたはず。

 実に見事な手際だった。褒めてもいい。しかし。


「すごくびっくりしたからね⁉︎」

「だからバッチリじゃないっすか!ヤツらも騙せたっしょ?」

「……。あちこち痛いし……」

「受け身くらいとりましょうよ?師匠。アーリアのこと言えないっすよ」


 師匠がぐちぐち溢すと、弟子その1は実に正論で責めてくる。しかも最後には説教か。正論すぎて胸が痛い。

 師匠は弟子その1の言葉を無視して体制を整えた。


「で、どうします?」

「暫くこちらは大丈夫だろうね。アーリアが囮になってくれるはずだし」

「………」

「彼女は壊滅的なまでに察しが悪いから、きっと追っ手を引きつけて逃げ回ってくれるはずだよ!」


 にやにや笑いながら師匠がこれからの予想を話す。


「少し考えれば、転移した後すぐ逃げずにこちらと合流した方が安全だ、と解るはずなんだけどね。きっと彼女は思いつかないよ〜。変に逃げた方が追い詰められるのにね!」

「……マジで鬼畜っすね、師匠。可愛い弟子を囮にするなんて」

「失礼な!聡明な師匠と呼びたまえ!」

「そういうのは“悪知恵”って言うんすよ」


 師匠の容姿が整っている分、言っている言葉の鬼畜さと相まって余計にタチが悪いと思えた。弟子その1はそんな師匠と、鬼畜師匠の罠にハマる妹弟子を思って嘆いた。だが師匠の考えに否定もできない。

 妹弟子は察しが悪いし、何をしても空回り、俊敏さはカケラも無く、はっきり言って鈍臭い。

 根は真面目で、一つのことにコツコツと取り組み突き詰める集中力、魔宝具の生成能力、魔術への探究心といった才能には富んでいる。本人の性格も温厚で人当たりも良く、人を騙すという考えは一欠片もない。だから師匠からも弟子たち一同からも好かれているのだが。

 今回は彼女の鈍臭さが命にも関わってくることが心配でならなかった。


「と……とにかく、ここを移動しますよ。付いてきてくださいね、師匠」

「そうだね。ここは埃がすごいし湿気臭いし……」


 いまいち噛み合わない二人の理由ではあるが、特段、修正する事でもない為、弟子その1は早速師匠を案内し始めた。ズルズルと床を這い、二人揃って四つん這いになって横穴を移動していく。


「そう言えば君、今日は仕事で出かけてなかったかい?」

「そうっすよ?実際、出かけましたし……」

「じゃあ、何でここに居るんだい?まぁ、居てくれたから助かったんだけど……」

「ああ!屋敷の防犯対策としての仕掛けが壊された気配があったんで、途中で引き返して来たんすよ。アーリアが屋敷に入った後だったんで、引き留められなかったんすが……」

「君は相変わらず察しが良いね!アーリアにその察しの良さを半分くらい分けてやってほしいよ」

「ハハ!無理っす」


 乾いた笑いの後、弟子その1はレンガの壁に手をかけてその一つをぐっと押した。


 ーガ……ガガガ……ー


 少しずつ突き当たりの壁が開いていく。


「まぁ、仕方ないよね。なるようにしかならないし」

「そうっすよ!気にしたら負けっす」

「じゃあ、アーリアには世間の世知辛さを学んでもらおうか!まさか自立してもうすぐ成人するって時にこんな苦労が待ってたなんて、本人にはビックリだろうけどねぇ」

「……。……やっぱり鬼畜っすよ、師匠」


 この国の成人年齢は18歳。17歳の終わりの時期に波乱万丈の気配が濃厚で、これだけでアーリアの運のなさが解るというもの。

 弟子その1は兄弟子として、彼女を思うと少しだけ切ない気分になった。2人ともこの師匠を“師匠”とした段階で、同じような運命なのだとも。今は彼女の無事を生暖かく祈ろうではないか。

 目線を遠くしながら、弟子その1はその狭い穴から這い出るのだった。



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