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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と砂漠の戦士
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※裏舞台2※家族の団欒と魔女への褒美

※(ライザタニア国王アレキサンドル視点)


「父上、かの魔女へ爵位を授けたく思います」

「うむ、許可しよう」

「感謝致します」


 その会話は家族揃っての晩餐中、親戚の子どもの誕生日プレゼントを決める気軽さで行われた。


 二人目の息子の「仔細、こちらで取り纏めます」との言葉に黒牛のステーキを切り分けながら「お主の思う通りにするがよい」と顎を下げる。その間、互いの手が止まる事はない。

 親子の会話に加わるのはもう一人の息子ーー給仕よりシャンパンを受けていたーーは「ルツェ、もう領地は決めたの?」と小首を傾げる。

 するとルツェと呼ばれた息子ーー第二王子シュバルツェは兄王子に向かい「ヴァルダバールを」と即答する。その答えに満足したのか、第一王子イリスティアンも「良い土地ね」と天使もかくやという微笑みを浮かべた。「はい」と素直に頷くシュバルツェの顔も、知る者が見れば微笑んでいると分かる。


 白を基調としたダイニングルームには、現在ライザタニア王家の家族たちが集っていた。

 我、ライザタニア国王アレキサンドルと愛しき二人の息子、愛する二人の妃、四人の最愛たち。

 温かな食事と和やかな会話。少し前までの冷えた親子関係を考えれば、このような光景はまるで夢のようであり、思わずじーんと胸と目頭が熱くなる。


 ライザタニアは少し前まで戦乱の最中にあった。


 凶王と呼ばれしライザタニア王は流血を求めて他国への侵攻を繰り返し、凶王に集う佞臣たちによって瞬く間に王宮は腐敗し、暗殺未遂により怪我を負った王太子たる第一王子は王都を追われ、病床の国王に代わり王宮を治める第二王子は狂気のままに国を操り、二人の王子たちによって国を分けた内乱に発展し、混乱に乗じた死の商人は跋扈し、政治を軍事が支配する軍事大国として他国から蛮国の判を押され、遂にはシスティナの尾を踏んで引くに引けぬ所まできていた。

 家族を心身ともに傷つけ、家族の絆を引き裂き、いらぬ不安に眠れぬ夜を与えたのは、己の政治手腕の至らぬが故。それに一才の言い訳はない。

 今、この様に家族の絆を取り戻せたのは二人の愛息のおかげ。息子たちが国を憂い、未来を憂いたからこそに他ならない。

 平穏な未来の為に他国をも巻き込み、システィナをーーシスティナの東の魔女をも巻き込んだからこそ、こうして家族の絆を取り戻す事ができ、団欒が戻ってきたのだ。

 他国への賠償問題にも着手し、本当の忠臣たちと共に、そして息子たちと共に国政に勤しむ日々は忙しくはあるが、着実に傾いていた国が正しき位置に戻る感覚が手に取るように判るのは、大変に嬉しいものだ。


「かの魔女には世話になった。十分な褒賞を与えて然るべきであろう」


 大山に積もる雪の如き髪と、晴れた日の空から振る雨の後の虹の如き瞳を持つ魔女。

 システィナの東方アルカード。そこに聳える『東の塔』、その管理者として国境守護を担う麗しき魔女。彼女には親子共々大変世話になった。

 彼女が我が国に蔓延る悪しきモノを、憂いの全てを吹き飛ばしてくれた。ーー物理的に。


「ええ勿論。けれど父上、きっと彼女は爵位も領地も必要ないと申しますわ。本当にルツェの所蔵する書物で十分だと思っていますもの」


 なんと欲のないと思いつつも、同時にらしいとも思う。

 然程付き合いは長くないが、いや付き合い的には寧ろ短いのだが、かの魔女が爵位や領地の類にあまり興味がないように見受けられた。

 働いた分の対価としての金品は受け取るであろう。

 世の中金が全てではないが、金がなくば何事も立ち行かぬのをあの娘は重重に理解しているからだ。そしてまた、金があっても解決しないものがある事も。

 なればこそーー爵位や権力など好まぬからこそ、彼女にこそ身分が必要なのだ。


「それにしても、どうにも瑣末事を言い出す者共がいたものだな?そなたの本を誰にどうくれてやろうが、その者らには何ら関係なかろう。そも、我らが恩人を王城へ招くのに何の理由があって妨げるのか……?」


 シュバルツェが先頃の礼として自身の蔵書を差し出したのは、それがかの魔女にとっては金品以上の価値があると判じたからこそ。またそれについて我も、そしてイリスティアンも、妃たちもが納得し、同意している。

 にも関わらず、何者が何の理由(ワケ)あって非難を申すのか意味が分からぬのだが……それも我が長年政治を蔑ろにしてきたらからこそ生じる障害なのだろうか。あのような世迷言を言えてしまうのだ。要はナメられているのだろうよ。

 非常に面倒だ。だが、全ては我の怠慢さが招いたこと。面倒とは言ってはいられない。


「本当に、どこのおバカさんかしら。ルツェには心当たりがあるみたいだけど……?」


 首を傾げたイリスティアン。肩へ流れる髪と共にシャラリと翡翠と真珠の髪留めが音をたてる。

 爪の先から爪先まで寸分なく整えられた美貌を横目に、薄銀色の髪と蜂蜜色の瞳を持つ王子はカトラリーを置くと「先頃処罰を申し付けた豚どもの縁者です」と前置きした後、「恐れ多くも、兄上に色目を使って叩き出されていたと聞きましたが……」と一度言葉を切り兄の表情を少し伺い「罪状を加えておきましょうか」と提案すれば、「そうしてちょうだい」と何か嫌な物を思い出したのかイリスティアンは目を眇めて即答した。


「ホント、美しいって罪ね……」

「兄上が言うとシャレになりません。老若男女問わず吊り書が来るのは兄上くらいのものです」


 ややげっそりとした表情のシュバルツェに、イリスティアンは「いや〜ね!そんなコトないわよぉ〜」と乾いた笑いをあげる。


「私はこれでも一途なの!誰でも良いってワケじゃないんだからねっ?!」


 吊り書は燃やしてちょうだいと言葉を続けるイリスティアンに視線を向けぬまま、シュバルツェは「私だってそうですよ」と呟いた。

 シュバルツェの婚約者が不遇の死を遂げた経緯を知るからこそ、シュバルツェの言葉に我はハッと息を呑んだのだが、当のシュバルツェの表情に以前はあった悲壮感はない。


「燃やす前に目だけは通してくださいね」

「ちぇ、分かったわよ。……ルツェにだって吊り書がワンサカ来てるの知っているんだけど?」

「国難な時に妃なんて考えられませんよ」

「だけど恋するのに国難は関係ないわよ?」

 

 どこか拗ねたように口を尖らせる兄王子の言葉にシュバルツェはどこか諦めにも似た表情を浮かべた後、兄王子から視線を外すと目の前に置かれた柑橘のソルベにスプーンを入れた。

 美しき我が妃たちを見れば、息子の言葉に驚く訳でもなく、二人ともが似た微笑みを浮かべている。どうやら、息子たちの色恋についてとやかく口出しするつもりはないらしい。


「なるほど。イリスティアンにはもう決めた相手がいるのか。ならば好きにするが良い。お主が誰を妃に選ぼうと、我が反対する事はない」


 それが女であろうと男であろうと、例えどれほど歳が離れていようと、住む国が違おうと、身分が違おうとも……。

 我も妃たちと同様に息子の色恋に口出すつもりはない。好いた相手がいるなら全力で口説けば良いだけの話。

 すると、何故か我の言葉に驚いたイリスティアンがーーシュバルツェまでもがポカリと目と口を開けていた。


「え……あの、お父様?私ってほら、第一王子だし、政略的なコトを抜きに考えてはいけないのではなくって?」

「うむ、大帝国(エステル)辺りからの催促があれば考えなくもないが……それを置いても、お主が選んでくる相手に間違いはなかろう」


 親愛なる我が息子たちが選ぶ相手。その者が我が国にーー家族に害を及ぼすような者な訳がない。

 そう断言すれば、イリスティアンとシュバルツェは空けていた目と口を閉じて、真剣な目で我を真正面から見据えてきた。

 何か困ったような、それでいて寂しさを混ぜたようなその表情(かお)には、見覚えがあった。

 なればこそ、我は今度こそはっきりと想いを言葉にする。


「なに、我が愛息のことなればこそ、我は信じるのみぞ」


 そう、愛する息子2人に向かい笑いかけた。


お久しぶりです。

お読みくださりありがとうございます。

ブックマーク登録、感想、評価などありがとうございます!


『家族の団欒と魔女への褒美』をお送りしました。

ライザタニア王アレクサンドルは内戦終結後、マジメに王様業に取り組んでいます。

政治は向いてないと本人は言っていますが、能力値として決して低い訳ではありません。ただ、机に向かって仕事するのが好きではないという理由こそが、『向いていない』発言の根本にあるだけです。


次話も是非ご覧ください(^人^)


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