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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と砂漠の戦士
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国境戦士団と相談先

 システィナの南方に位置するドーア国はその国土の多くが砂漠に覆われており、数少ない緑地に街を築き暮らしている。国土はシスティナと然程変わらないが人口はおよそ半分ほどだ。

 近年になり積極的に砂漠の緑地化を推進しており、魔導国家と名高きシスティナに協力を仰ぎ、王宮に支社を遣わした。システィナとしても国境を密に接しているドーアが砂に塗れるを良しとせず、また他人事ではない為、ドーアの呼びかけに賛同し、魔導士を派遣するなどしている。

 互いの国境を、延いては国民たちの生活を守る為の武装組織、それがシスティナ、ドーア共々に存在するが、今回目下の問題となっているのはドーアに属する組織である。

 『国境戦士団』ーードーアを守る武力組織の一つであり、システィナでいう所の『塔の騎士団』に相当する。

 ドーアの戦士団はその全てが貴族のみで構成されており、中でも『戦士』と名乗れるのは選ばれたほんの数十名。戦士1人につき万の騎兵を指揮し、騎馬に乗って戦場を駆ける。その強さはさながら狂戦士(バーサーカー)。歪刀を片手に敵を屠る姿を見た者は、皆、その強さに怖気を覚えるという。

 砂漠には砂と気温に適応した魔物が潜んでおり、旅人は勿論、住人たちをも振るわせている。そんな魔物を退治するのもまた、砂漠の戦士たちに課せられた任務なのだ。


「ーーで、そんな戦士の方々が、なんでこんな国境ギリギリにいるわけ?てか、何気にシスティナ(こっち)の国境に抵触してない?」


 リュゼの言葉は最もで、アーリアもまさかこんな所で他国の軍隊と鉢合わせするとは思ってもいなかった。というのも、アーリアたちが砂蜥蜴を狩っていたのは、紛れもなくシスティナの国境内だったからだ。


「もともとドーアだけであった砂漠地帯が広がり、南都のすぐ側まで魔物の被害が拡大したのもあり、魔物を追って戦士団が国境を跨ぐ事は違法でも何でもないんだ」

「へえ?それじゃあ、ドーア(あっち)の武装組織は国境を跨ぎたい放題じゃん。国防としてそれは良いワケ?」

「それについては王宮でも賛成派と反対派が半々で口論していると聞くからな。一概にどうとは言えない現状ではあるのだろう」


 動植物に国境が関係ないように、魔物にも国境は関係がない。

 これはどの国境に於いても同じ事で、アーリアの担当する東の国境でも魔物の被害等は良く聞く事ではあった。

 但し、東の国境はアーリアの築いた《結界》によりバッチリ線引きされている為、魔物の対処は出た地域によって各国がそれぞれに対象している。その点、東の国境で隣国ライザタニアと揉めた事は一度もない。


「因みに、ナイルの意見は?」

「立場的には賛成できない。魔物の対処は必須ではあるが、それを理由に国境を跨いでまで対処するのは間違っている。きちんと区分を守るべきだ」

「ハハッ、だよねぇ」


 貴族の身分や立場によってはっきりした発言ができないナイルも、この問題については以前から問題視していた事柄である。


「まぁ、ドーアとは長年友好関係にあるし、砂漠緑化についてシスティナの協力を得ているだけに、今すぐ敵対して襲ってくるとは考えにくいが……」

「それにしたって、無防備が過ぎると思うけどね〜」


 リュゼの言葉は素人意見ながら的を得ており、ナイルも難しげに眉を顰めて頷いている。


「そう考えると、僕にはこの問題をあの方が放っておくのが変だと思うんだケド?」


 あの方と名こそ出さないが、アーリアにはそれが誰を指しているのかすぐに見当がついた。

 我らが敬愛する王太子殿下は唐竹を割ったかのような性格の持ち主で、即決即断がモットー。優柔不断な態度や言葉を最も嫌う、ある意味真っ直ぐな性格をしている。だからと馬鹿正直に意見を真っ直ぐ伝えるばかりが正義とは思っておらず、策謀も策略もお手のもの。その点、実に次期国王として素晴らしい才覚をお持ちなのだ。


王太子殿下(お兄さま)の性格からしても、この問題を放置しているのは変に思えるよね」


 アーリアも僅かに眉を下げる。

 どう考えても、らしくない。何か理由があって放置しているのだと考える方が、しっくりくる。


「あの方の事を我々が考えるのは非礼に当たる。ここでの議論はやめよう」


 ナイル、そしてリュゼもアーリアと同じような結論には到達しているだろう。だからとこれ以上議論を続けるには、少々ナイーブな内容には違いない。


「今問題となるのはただ一つ。先程の男に『正体が看破されてはいないか』という事だ」


 先程の男とは、砂漠の戦士と名乗る褐の男ーーアズライトのことだ。アーリアは勿論のこと、ナイルとリュゼも『南の塔の魔女』からの謝罪(?)を受ける場に於いてアズライトを目撃している。二人の魔女による、ある意味極秘会談であったにも関わらず、アズライトは何の前置きもなく現れた。

 アーリアはあの日、南都の領主からアズライトの来訪を聞いてはいなかった。本当に突然の来訪者であったのだ。

 あの時はエイシャのあまりの態度に呆れ、怒り、アズライトの来訪についてそれ程重く考えてはいなかったが、よく考えれば可笑しな事この上ない。

 どうやら南都領主の知り合いではあったようだが、それにしては不躾過ぎる。他の客の許可も取らず乱入するなど、あまりに無礼だ。


「多分大丈夫だと思うけど……」

「僕らもほら、今はこの通りいつもとは違うし、余程の観察眼がなければ気づかれないと思うけどね」


 顔もよく見られていないし、スキルによる偽装によって、髪も目もいつもとは異なる色を持っていた。

 けれど、顔貌まで変えた訳ではない。

 多分としか言えないのはその所為だ。


「そうだな。私も彼と話した感じでは、気づかれてはいないようにも思えたが……」


 部屋に控えている騎士、或いは衛兵を、一人ひとり観察する事はまずない。

 衛兵、侍女、侍従、使用人の類はオブジェのようなもの。飾られた絵画や置かれた花瓶と変わらない。基本、居ないものとして会話がなされる。また、彼らも壁紙と同居するように気配を薄くしている。余程の事態がなければ、主人を差し置いて動く事はない。

 客人が壁紙を注視する事がないように、壁際に控えていた騎士をアズライトが注視したかといえば、否と言えるだろう。


「まさかこんな砂漠のど真ん中で『塔の魔女』サマが狩をしてるなんて、誰も想像しないよ。それに、魔女なんてシスティナじゃ珍しくもなんともないんだしさっ」

「そうだな、冒険者のパーティに魔術士や魔導士が後方担当として入っている事は珍しくはないと聞く。また女性の冒険者も珍しい存在ではない。彼が我々を詮索する事は、まず無いと考えられるが……」

「絶対大丈夫だとは言い切れないよねぇ」


 結局は、絶対とは言い切れないが『多分』大丈夫だろうとしか、今は言えない。


「もどかしさはあるが、だからと探りを入れるなど危険な真似はできない」

「もし何があっても、知らぬ存ぜぬを通すしかないって!」

「それしかあるまい」


 結論を出した3人は互いに頷き合ったが、何だかどっと疲れた気になり、アーリアはハァと息を吐いた。

 気晴らしであった筈の冒険者としての立場で疲れる事態が待っていると、誰が思うだろうか。


「まーまー、そう思い悩む事もないって!僕らは駆け出し冒険者なんだ。調子に乗って失敗する事だってあるよ」


 リュゼはわざと明るく振る舞い、丸まりかけたアーリアの背を軽く叩く。

 アーリアはリュゼからの気遣いにほっと肩の力を抜くと、感謝の気持ちを込めてリュゼへと微笑んだ。


「ああ、それで思い出した。あの砂蜥蜴を売った金を孤児院へ寄付すると言ってしまったんだ」


 すまない勝手に。とナイルは頭を下げる。


「気にしないで。あんなに沢山あるんだもの。必要な分だけ素材が取れたら後は売ろうと思っていたし、それを孤児院に寄付するのを反対なんてしないよ」


 所詮、ここで儲けた金は泡銭だ。

 貧困に喘ぐ民や、況して孤児院に寄付するのに躊躇いはない。


「じゃ、早速行動に移そうか。日が暮れる前にさ」


 言うないなやリュゼは立ち上がり、さっとアーリアへ手を伸ばす。アーリアはリュゼの手を借りて立ち上がると、既にナイルが馬車の扉を開けていた。

 西に傾いた日差しが馬車内へ差し込んでくる。

 まだ日は落ちてはいないが、傾き出した日はあっと言う間に沈んでいくだろう。

 オレンジの光を受けながら、アーリアは「あ」と声をあげる。


「なに?アーリア」

「あのさ。彼があそこにいた理由、調べた方がいいのかな?」


 南都領主と親しい様子を隠しもしなかったドーアの戦士アズライト。隣国と密接にある南都の領主と砂漠の戦士に交流があるのは、可笑しな事ではない。だが彼が現れたタイミングとしては、良いものとは言えない。

 アーリアの提案にナイルは眉間に皺を寄せ、リュゼは「あー……」と間延びした声を出した。

 気になるからと、アーリアが調べる必要は何一つない。それこそ『知らぬ存ぜぬ』を通して、さっさと南都からオサラバし、その後は何もなかったかのように振る舞えばそれで完結するだろう。

 しかし、不覚にも一度と言わず二度までも関わってしまった今、再度関わりがないとは言えない。


「困ったときの専門家ってね!ーー()()に頼るってのはどうかな?」

「彼ら……?」

「そ。そーゆーの得意なヒトたちがいるでしょ?」

「ああ、なるほど」


 アーリアの脳内に並ぶ老紳士、美青年領主、敏腕宰相、そして頼れる王太子殿下(お兄さま)

 指導員の名目でついて来た老紳士はいま、南都の高級宿で優雅にお寛ぎ中だが、彼が今この時も暇を持て余している事は、アーリアが一番よく知っていた。そして、彼がこの手の事を調べるのに要する労力は、僅かに片手間にもならないであろう事も。


「そうだね。報告の義務もあるし。先生にも相談してみようか。きっと興味を持ってくれ筈だよ、ね?」


 丸投げ先が決まった事で、アーリアはるんるんと足取り軽く腕まくり。さーやるぞぉ!と気合い十分に砂蜥蜴の山へと向かっていった。



ブックマーク登録、感想、評価などありがとうございます!励みになります(^人^)


『国境戦士団と丸投げ』をお送りしました。

秘技!困った時は専門家に丸投げ!

自分でできそうな仕事でも先ずは上司に伺いをたてる事が必要で、同僚の立場や性格を見て手を出さない方が良い事ってありますよね……(遠い目)。

アーリアとリュゼの場合は面倒で給料分にならない仕事は全て丸投げの傾向にあります。素晴らしい!


次話も是非ご覧ください!



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