偽装?擬装?擬態?
能力《偽装》:それは本来の姿を別のものに見違えるような色や形をして見つけにくくする能力。
能力《擬装》:他人の目を誤魔化すための装いを纏う能力。
能力《擬態》敵の攻撃を避ける為に周囲の事物や他の動植物によく似た形態をとる能力。
どれも敵や他人の目から自身を隠し、目線を晒せる為の装いだ。
実際、動物や植物の中には、木や花に擬態し、己の命を守っているものもいる。小枝ににた虫や木の葉に似た蝶などが有名だ。
軍事目的で使われるのは擬装だ。敵から軍事行動や目標を隠蔽。或いは的な判断を誤らせる為に戦争時にはよく用いられている。
「で、何でコイツがココにいるんだ?」
リュゼを視認したジークフリードの初っ端の言葉はこれだった。ですよね?とアーリアもげっそりと肩を落とす。
リュゼと遭遇したアーリアはリュゼを伴って、ジークフリードとの合流場所に来ていた。実際には『伴って』ではない。リュゼが『勝手に』アーリアの後をついて来たのだ。
アーリアにリュゼを巻き切る力はない。リュゼは安定の追跡能力があるのだから。
「ひっどい言われようだね!僕は子猫ちゃんについて来たの。獅子くんに会いに来たんじゃないからね?」
僕が見つけたくて見つけたんじゃなくて、そっちから僕の所にやって来るんだ、と訳の分からない事をリュゼは言ってくる。
『ジーク、ごめんなさい!』
「アーリアのせいでは断じて無い。この馬鹿猫が一方的に悪いから気にするな」
「獅子くんはすぐに僕のコト、馬鹿扱いする!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い?」
「悪いに決まってるでしょ!?」
「馬鹿がダメなら阿保だ!この阿保猫!アーリアに纏わりつくな!」
「ひっど!子猫ちゃんも獅子くんのこの言い様、ビドイと思わない?」
『え〜〜と……』
アーリアもジークフリードの言い様は確かに酷いとは思うが、かと言って上手いフォローも思いつかなかった。ジークフリードの言わんとする事にも一理あるのだから。
「ええー⁉︎ 子猫ちゃんも同意見なの?」
『いや……そのぅ……』
「アーリア、こんなヤツに同情など要らない。この際だからはっきりと言ってやれっ」
ジークフリードの言葉は更にアーリアを追い詰めた。アーリアは別にそこまでして言いたい事などないのだから。
アーリアにジークフリードとリュゼからの視線が集中した。
アーリアは両手を胸の前であげて、言い澱みつつ二人から後退った。
「って言うか何なの?獅子くんさ、子猫ちゃんに変なワザ仕込まなかった?」
「……は?」
「さっき、子猫ちゃんに投げ飛ばされたんだけど!」
リュゼがアーリアを指差してジークフリードに抗議する。ジークフリードはリュゼの言う意味を理解すると、してやったり!という表情になった。ジークフリードの眉尻が少し上がる。
「ああ。護身術を少々、な」
「護身術?あれが??何っていうもんを子猫ちゃんに教えちゃったの?僕が安心して抱き締められないじゃない!」
「アーリア、良くやった!成功したようだな?」
『ハイ!上手くいきました!』
ジークフリードはリュゼを無視して、アーリアの頭をよしよしと撫でた。気分は先生と生徒だ。ジークフリード先生は教え子の成長が誇らしかった。何せ、宿敵リュゼに一泡吹かせられたのだから。
「子猫ちゃんまでビドイ!僕は可愛い子猫ちゃんを好きに愛でてるだけなのに!」
「酷いことあるか、この発情猫が!アーリアは貴様の愛玩動物ではないわっ。ぽんぽん気軽に抱きつくな!話すな!ついてくるなッ!」
「そこまで言っちゃうの⁉︎ 僕は陰日向から子猫ちゃんをそっと愛でてるだけなのに。誰にも迷惑かけてないじゃん?」
「現にその本人に迷惑がかかっているじゃないか?」
「そんなコトないよねー?ねぇ子猫ちゃん」
追手であるリュゼに見つけられて、今現在、迷惑しています。とリュゼに言ったところで意味のない事だろう。アーリアは心の中でそう結論づけた。
彼は前回もちゃっかりと長い物に巻かれて、敵にアーリアたちの位置情報を流してしまっている。リュゼ本人がアーリアに危害を加える事は ー今の所ー ないのだが、言うなればそれだけだ。完璧な味方では決してなく、敵になる事も間々ある。唯一救いなのは『アーリアを傷つけることはない』と本人が断言していることだけだ。
リュゼとの関係性に苦笑しながら、アーリアが話題を無理矢理変えた。
『そ、そんな事より!ジーク、リュゼさんの顔!』
「ああ。チャラチャラしたふざけた顔だな?」
「ひどーい!」
『いや、そうじゃなくて……。リュゼさんのこの顔、呪いが解けた訳じゃないんですよ』
ジークフリードがアーリアの指摘を受けて、リュゼの顔をチラリと見た。リュゼは陽の下であって、その顔は人間のソレだった。アーリアの当初の説明からすると、ある能力によるものらしい。
「そうだよ〜〜。この顔は他人からは人間に見えるように細工してあんの。流石に触るとバレちゃうけど、遠目からなら全然大丈夫。スグレモノでしょ?このスキル」
アーリアはーーこっそりジークフリードも確かにと頷く。こう近くで対峙していても違和感がない。瞳などしっかり瞬きもしているし、コロコロ変わる表情もリュゼそのものに見える。
『リュゼさんは、能力《偽装》と《擬装》と《擬態》を重ね掛けしているんですか?』
アーリアがリュゼの顔を見上げながら質問すると、リュゼはアーリアの言葉を読み取って答えてくれた。
「そうだよ。《偽装》で他人の目を誤魔化して、《擬装》で姿形を人間のソレに見えるように細工して、《擬態》で周囲に溶け込むように仕向けてる。どう?すっごく画期的でしょ?コレ」
アーリアはリュゼのテクニックに舌を巻いた。無駄に小器用だ。能力は使い方次第とは言うが、リュゼの技を使いこなすセンスは一流だ。
アーリアはもう一度、リュゼの顔へと手を伸ばした。アーリアはリュゼの頬をサワサワと触る。掌で感じる感触は、猫の毛並み。だが、目で見えているのは人間の皮膚。
不意に触られたのにリュゼはアーリアに触られて怒るどころかご満悦な表情をしている。
ジークフリードはそれに眉をひそめて、アーリアの手をリュゼから引き離した。
『あ、ごめんなさい!つい能力に興味が惹かれてっ』
「良いよ〜〜子猫ちゃんにならいつでも触らせてあげる!」
リュゼが嬉しそうにアーリアへ言う態度が、ジークフリードは何となくムカついてリュゼの頭を叩いた。
「いったー!暴力禁止!」
「……アーリア、お前は何がしたいんだ?」
『あ、その……。私にもこの能力が使えれば良いなぁ、と。そしたらジークにも掛けてあげられるし……。ジークも日中にも堂々と街中を歩けるようになるでしょう?』
「そ……そうだな」
アーリアが熱心にリュゼの話を聞いていること、こんな所まで自称味方で追手のリュゼを連れてきたこと、その全てがジークフリードの為だということ気づき、ジークフリードは言葉を詰まらせた。
ジークフリードはリュゼの事になると、馬鹿に挑発的になってしまう。その事で本来の目的や本質を見失いがちになる事に改めて反省した。
「……それなら、俺自身がこの能力を覚えた方がいんじゃないか?」
『そうですね。あ、でも……?』
アーリアはリュゼへと視線を投げかける。リュゼは何処吹く風、と言った風に飄々としている。張り付いた笑顔からは感情が読み取れない。
「ん?なぁに、子猫ちゃん?あ、もしかして、この能力を教えて欲しいの?」
『ダメ……ですよね?』
「良いよ?」
『え⁉︎ 良いんですか?』
個人所有の能力は本人にとっての宝だ。そう簡単に他人に教えるものではないし、教えてもらえるものでもない。だからアーリアも頼むのを躊躇っていたのだ。寧ろ頼んでも快諾してもらえないだろう、とも思っていた。
それをリュゼがいとも簡単に快諾した。
頼んだ当のアーリアが驚いてリュゼの顔を見上げた。
「あ、但し。知ってると思うけど、能力は教えたからと言って、そんなに簡単に身につかないよ?あと、教えるのは子猫ちゃんだけ」
「オイ」
『それは……?』
「なーんで僕が可愛くもない獅子くんに手取り足取り教えなきゃなんないの?獅子くんが可愛い女の子なら、一も二もなく教えたけどさっ」
「『……』」
「だから教えるのは子猫ちゃんだけ。あーでも、子猫ちゃんに教えているのを横で見てるくらいなら許すよ?」
『十分です!リュゼさん、ありがとうございます!』
安定のブレ無さのリュゼだったが、彼の言葉には決して嫌な気持ちにならないのが不思議だった。それどころか、結局アーリアどころかジークフリードにも教えてやらうとするリュゼの言動に心が温かくなった。
『リュゼさん、ご指導よろしくお願いします』
「うん。任せてよ!こー見えて僕、教えるのは得意だから。子猫ちゃんには手取り足取り教えてあげるよ」
アーリアの両手をリュゼが掴んで身体ごと引き寄せた。アーリアは爪先立ちになって、リュゼの身体に身を寄せた。
「だから、僕も『リュゼ』って呼んでよ?獅子くんだけズルイじゃない?知らない内に仲良くなってるなんて、嫉妬しちゃうな……」
吐息がかかる程リュゼの近くに引き寄せられ、囁かれた。そしてそのままリュゼはアーリアの重ねた両手に唇を寄せた。
『ーー⁉︎』
アーリアはその仕草と柔らかな唇の感触にドキリと心臓が跳ねた。そして顔が火照っていくのが分かった。
そこをジークフリードが二人の間に無理矢理入って、リュゼからアーリアを引き離す。その手には剣の柄が。
「やっぱり今死ぬか?貴様」
「やだな〜〜も〜〜!親愛のキモチを態度で示しただけじゃん?タダで教えてあげるんだから、ご褒美くらい貰わないとさ?」
やる気ではないでしょ?とリュゼは何も悪びれもせず、言ってきた。
アーリアはジークフリードの背後で深呼吸すると、逸る心臓を落ち着けた。
リュゼの言動は心臓に悪い。思ってもいない事を平然と、しかも突然するので、アーリアはそれに毎回振り回されて不覚にも胸を高鳴らせてしまうのだ。
ジークフリードも時々ドキリとする事をアーリアに言ったりしたりするのだが、彼はアーリアに対して常に紳士的なので、この手のスリルはない。見た目がまさに物語から出てきた『王子様』なのだ。アーリアは普段から割と身構えているのでーーこれはジークフリードには内緒だがーー頭がついて行けなくなることは、あまりない。
「それじゃあ、いつにする?能力の伝授」
『そうですね……私は早い方がいいんですが?リュゼ、この街にあなた以外の獣人はいますか?』
「ん?この街にはいないよ?」
『そうですか。じゃあ、これから宿を取ってくるので、そこで教えて頂けませんか?』
「オッケー!じゃあ、僕もついて行くよ!」
「では俺も……」
「獅子くんはその姿で街には入れないでしょ?」
「……ッ!」
『宿がとれたら、もう一度ここへ戻ってきます。日が暮れたら一緒に行きましょう』
敵でも味方でもないリュゼの行動には警戒が必要だ。だが、アーリアとリュゼの言葉にジークフリードは納得せざるを得なかった。リュゼがアーリアについて行くのを止めたい思いもあるが、話せないアーリアよりもリュゼが宿屋での対応をした方が都合がいいのも理解できた。
そしてもう一つ。リュゼの『獣人』が『この街にはいない』という言葉にも警戒した。
『この街』には『いない』には、街にはいないが街の外にはいるかもしれない、という意味や警告も含まれる。
ジークフリードは、その街の外にいるかもしれない獣人に警戒しなければならなくなった。もし獣人と出くわした場合、アーリアのいるこの街からその獣人たちを引き離さなければならない。そしてその場合は必ず戦闘にもなるのだ。
「わかった。日暮れ前にもう一度ここで落ち合おう」
『はい』
「何があればすぐに連絡を。アーリア、気をつけて」
『わかってます』
アーリアが頷くのを見た後、ジークフリードは直ぐにリュゼに向き直った。
「お前、くれぐれも……」
『大丈夫!僕は子猫ちゃんを傷つける事なんてしないよ?』
リュゼの顔には不敵な笑みが浮かんでいる。ジークフリードはそのリュゼの顔を暫く見た後、深くため息を吐いた。表情からリュゼの本心など読み取れるはずがない。リュゼは本心や本質を奥底に隠して、軽々しく表に出すことなどしない。彼はジークフリードが今まで出会った中で一番の強敵だった。いや、天敵か。
リュゼはアーリアの手を強引に取って街の中へ入っていった。今はそれを見送る事しかできない自分に、ジークフリードは歯痒さを感じたのだった。
お読みくださり、ありがとうございます!
ブクマ登録、感想、評価等、本当にありがとうございます!
励みになります!!日々の糧です!
リュゼが驚きのハイスペックでびっくりです!リュゼとジークフリードの絡みには書き手側も楽しく思っています。




