かくも儚き夢の跡8
風に髪が吹き上げられる。ゼネンスキー侯爵リヒャルトは城下を見下ろせる大屋根の上から、ライハーン将軍に向けて《念話》を発信していた。
「そうですか、システィナの騎士たちが……分かりました。中央軍はそのまま彼らと合流して、共に残りの亜竜の対処に当たってください」
『了解。それで、東方軍だが……』
中央軍はスループニス平原に於いて東方軍との戦いの後、先に王都へ帰還したライハーン将軍の指示で王都へと引き返していたが、途中、大蜥蜴の群れと遭遇。大蜥蜴は王都から見て北西の位置にある森から溢れ出ており、しかも、人間の住む街に向けて猛進しているではないか。
慌てた中央軍は王都へ向かう途中の大蜥蜴の壁となるべく反転。部隊を2つに分け、一方を既に王都の壁際まで到達している大蜥蜴の対処へ当てた。
何故という疑問を考える猶予も無く、ライハーン将軍と連絡を取りつつ対策を行なっていた副官ランベックの頭上に黒い影が複数現れたのは、王都を囲む壁が目前に迫った時だった。
逆光を浴びて黒い翼を広げた亜竜が数十頭、まるで隊列を組むが如く飛んで行くではないか。しかも、王都の《結界》に阻まれる大蜥蜴とは違い、亜竜には結界の効果が及ばず、悠々と壁を飛び越えていく。忽ち、王都の上空は亜竜の群れで覆われ、人々を脅かし始めた。
しかし、王都へ帰還するその前に、立ち憚る問題ーー大蜥蜴をどうにかする必要がある。
ランベックは一軍を率いて王都の壁に群がる大蜥蜴へと突進。容赦無用とばかりに千切っては投げ、千切っては投げ、堀を大蜥蜴の血で青く染めていた時、王都上空ーー王城の真上に黄竜が出現した。
その後を追う様にして黒竜まで現れ、驚愕を通り越して正に青天の霹靂。思わず呆けた顔で上空を見上げていたランベックの目に飛び込んで来たのは、黒竜の背に騎乗する三つの影。その一つが純白の髪を持つ少女であった事から、事態の深刻さをより知る事となる。
ーーだが、ランベックの心配を他所に、少女の登場で事態は好転へと転び始める。
黒竜は黄竜を牽制し、少女が魔術を使ってトドメを刺した。次いで、王都上空を飛ぶ亜竜を空に縫い止め、氷魔術により滅多刺しに。そして地上で暴力を振るう亜竜を地に縫い止め、それを見計ったように白い騎士服の一団が冷静に対処し始め、見る間に王都から脅威が取り除かれていった。
「……全く、容赦がない」
白髪の魔女と忠実なる騎士たちとの活躍は、意図して聞かずともゼネンスキー侯爵の目と耳に入っていた。
力を解放した魔女は、それは容赦なく黄竜と亜竜を打ちのめした。バカ貴族共を相手にしていた時には、余程手加減していたのだなと思う程に。
「取り敢えず王子たちには、その頬を差し出して貰いましょうか?」
頬の一発二発ならば安いものだ。その時は勿論、主と共に自分の頬も差し出そう。その方が魔女の怒りに触れて王城が瓦礫と化すよりは、ずっと安上がりで済む。
「ハハッ!この後に於いてそれは蟲の良すぎる事でしょうかね?」
ライザタニア王城。その崩れかけた大屋根の上から王都を見下ろしていたゼネンスキー侯爵は、嘲笑し、意識せず幾度目かの溜息を吐いた。
煙が鼻をつく。王都には亜竜による被害多数により各所で火の手が上がり、未だ悲鳴と怒号が飛び交っていた。隣国の魔女とその忠実なる騎士たちにより騒動は収束を見せていたが、未だ完全に収束とは言えない状況にある。
混乱に乗じた犯罪というのはいつの世もついて回る。強盗、強姦、誘拐、殺人。亜竜による被害よりもこちらの方が性質が悪いと思えた。モラルの低さだと言えばそれまでだが、モラルの有り様こそが今のライザタニアの最大の課題とも言えた。
ーズズンッ……ー
今もまた、王城から見える大きな屋根が一つ落ちた。あれは劇場であろうか。装飾が施された壁面が亜竜の爪によって大きく傷ついている。その隣にあるのは王都美術館。大きな窓が幾枚も破られている。中の美術品は無事だろうか。
王都の美しい街並みが瓦礫と化すにつれ、ゼネンスキー侯爵の胸は、何とも云えない思いに締め付けられた。
この様な時、自分はライザタニアという国に愛着を持っていたのだと思い知らされる。
大切な人を喪ってからというもの、こんな国など無くなってしまっても構わないと思っていた事もしばしばだったが、この様な無惨な光景を目の当たりにする事で、呼び起こされる記憶もあった。
愛する二人の子どもたちと訪れた劇場、植物園、美術館、公園。夕焼けに染まる欅道。愛する子どもたちと、そして何より妻の美しい横顔をーー……
「あぁ、私はこんな事も忘れていたのですね……」
王都へ現れた亜竜と大蜥蜴への対処、そして罪人たちの対処に当たっていたゼネンスキー侯爵は、これまでの自身の行動、そのあまりの不甲斐なさに項垂れていた。
本来なら、罪人など部下に任せて現場で指揮を執るべきである。しかし、ゼネンスキー侯爵には第二王子殿下を守護する役目があり、また、この混乱を作り出した原因の一旦が自分にもあると思えばこそ、どうしても王城を離れる事ができなかった。
「……罪悪感が、そうさせたのかも知れませんね」
一時であろうと、主である第二王子殿下への忠誠心を鈍らせてしまったこと。そして、自分の都合で復讐劇に家族をも巻き込んでしまったこと。それらが胸の奥で罪悪感として燻っている。
「本当に、私は『何』を見ていたのでしょうか……?」
現王陛下の、第二王子殿下の、家族の、一体何を見ていたのか。
大切な伴侶が殺されたあの日から、自分の中の何かが狂ってしまった。それをゼネンスキー侯爵自身も自覚していた。
親を子が、子が親を討つ。家の為、地位の為、忠誠を尽くすべき主の為、家族を犠牲にする事は厭わない。国政に携わる貴族ならば避けて通れぬ闇。不都合な者を家を陥れる為に暗殺者を送るなどよくある事。ーーそう、ゼネンスキー侯爵は家族の死を割り切れなかった。その割り切れぬ心の闇が、今のこの状況を生み出してしまったのならば、何と罪深い事だろうか。
ゼネンスキー侯爵は妻の死を目の当たりにしてから、愛する子どもたちだけは奪われてなるものかと心に誓った。
信頼ある家臣のみで周囲を固め、武の心得のある者を従者へ加えて、常に家族の生活に目を光らせた。ゼネンスキー侯爵家に楯突く者を洗い出し、事前に情報を得ては襲われる前に計画そのものを潰した事もある。その際第二王子殿下から借り受けた者たちは、とても良い働きをしてくれた。子守りに護衛に裏工作、給料以上の働きを見せてくれていた。
また、ゼネンスキー侯爵自身は平常心に務め、常より隙を見せない様に心掛けた。軍務省長官としてより優秀な者を身分問わず見出し、登用し、配置して、第二王子殿下の周囲を固めた。以前から目をつけていた亜人の採用を実行に移した。これまで亜人だからと忌避され、虐げられて満足な地位を得て来れなかった者は軍務省長官に見出されるや、精力的に働いてくれた。今や、第二王子殿下への忠誠を誓い、尽力している。
朋友と呼べる者もできた。
ライハーン将軍は学園の同級ではあったが、学生時代にはそれほど仲が良かった訳ではない。
ライハーン将軍は騎士科、ゼネンスキー侯爵は文官科とそれぞれクラスが違っていたのもあるが、必修の実技体育の選択科目でペアを組んだのが縁の始まりとなる。
性格は水と油ほど合わない。が、性質は恐ろしく合った。
2人で組んだ戦闘実践では奇策を用いて騎士科主席の秀才を打ち負かしたり、戦争を模した集団実践では若きライハーン将軍を遊撃隊に出し、敵を撹乱し、その隙に敵の補給路を断った事もある。補給路を失った敵軍が敗者となったのは、言うまでもない。
ゼネンスキー侯爵が気に食わぬ者は不思議とライハーン将軍も気に食わない。つまりはそう言う事で、今まで互いに性格が合わないと思いつつも、これほど互いを知る者はないという関係となった。今では、互いに朋友だと思う程の仲になっている。
愛する家族、信頼できる朋友、そして忠誠を尽くすべく主がいる。これ以上の幸せがどこにあるだろうか。
瞑目すれば愛する2人の子どもたち、アベルとソアラの顔が瞼の裏に映る。家族とは此処へ足を運ぶ前に、シュバルツェ殿下の配慮により、一時、話す時間を持つ事ができた。
「父上!」
「アベル、ソアラも……」
駆け寄って来た子どもたちに、ゼネンスキー侯爵は一瞬躊躇した。
初め見たときは、何故この非常時に子どもたちがこの様な場所に居るのかと、焦りと怒りを持った。護衛と侍従たちは何をしているのかと。しかし、状況が進む毎に、子どもたちがこの騒動に巻き込まれているのは、自分の所為なのだと悟った。そして、それは正解だった。
「父上、何をしても母上は還ってきません!それは父上が一番分かっておいででしょう⁉︎」
「っアベル……」
「お父さま。私たちはお父さまが大切なのです。今はもうこの世に居られぬお母さまよりも、側に居てくださるお父さまの方が、ずっと、ずっと大切なのですわ」
「ソアラ……」
自身の両足に縋る2人の子どもたちに、子どもたちの言葉に胸を強く打たれた。氷塊が背筋を通る感覚。頭が一気に冷えていく。脳内を走馬灯の様に駆け巡る子どもたちの様子。
思えば変わっていく父親に、父親の言動に敏感に反応していた。何かと仕事の話を聞きたがり、仕事場にまで着いて行きたがった。たまに訪れていたライハーン将軍に強請って、王宮内での話を聞き出していた。
その時は、子どもらしい好奇心だろうと思った。けれど、それは違ったのだ。
子どもたちは、父親が何事かを起こそうとしているの察知して、どうにかして止める方法はないかと模索していた。
「母上は亡くなりました。僕たちを庇って。僕たちはあの日の事を忘れたことなどありません。母上の身体から流れる温かな血を忘れたことなんて、一日たりとないんです!」
「だからと、私たちは復讐なんて望んでいないのです。それがどれ程愚かな事か知っているのですわ」
アベルは拳を硬く握り、ソアラは涙ながりに訴える。
子どもだと思っていた、いや侮っていたのだろう。ゼネンスキー侯爵は子どもたちの言葉に絶句していた。言葉もないとはこの事で、アともエとも言えず、子どもたちの顔を見下ろしたまま固まっていた。
「……っ、だから、だから君たちは……」
やっと喉から出た声は、誰が聞いても弱々しく掠れていた。
「はい。姉上ーーアーリア殿へ協力をお願いするつもりで、ここへ参りました」
「アーリア様の不思議なお力に、お縋りしようと思ったのです」
聞けば、2人は前回王宮を訪れた際、病床にある現王の居所を掴んだのだという。そう、拒む魔女を脅し、地下迷宮を探検した際に。その時から、再び2人は現王へ近づく為にどうすべきか考えを巡らせていた。
「父上よりも早く現王陛下へお会いできれば、そうすれば……」
母親が殺されなければならなかった理由。真実を知る事ができれば、父親を止められるかも知れない。何かを起こそうとしている父親を、助ける事ができるかも知れない。
子どもである自分たちの言葉を信じ、力を貸してくれる者は少ない。何より、バカ正直に理由を話す訳にもいかない。子どもであろうと、ゼネンスキー侯爵家の一員として、由緒ある侯爵家の名誉が傷つく事があってはならないのだから。
そうして頼ったのは、血の繋がりのない異国の魔女。
何の柵もない、自身の記憶すらもない魔女だった。
「……そうですか……だから……」
深い深い溜息と共に溢れたゼネンスキー侯爵の言葉は、言葉にならないものだった。
子どもの成長とは早いものだ。まだまだ親の手が掛かると思っていたのに、もう、こんなにもはっきりと自分の気持ちを表へ出す事ができる。行動する事ができる。それに加えて自分ときたら、何の進歩も無い。それどころか逆行しているではないか。これでは、何方が大人か分からない。
「……貴方ちちの気持ちは十分分かりました。すみません、心配をかけてしまいましたね」
「父上……!」
「お父さまっ……!」
ゼネンスキー侯爵は膝を着くと両腕でアベルとソアラの背を抱いた。2人の温もりに、凍っていた心が溶かされていく。もしも、この温もりすら失っていたらと、それすら考えられなかった自身に嫌気が刺す。本当に、自分は『何』も見ていなかったのだと痛感し、ジクリとした罪悪感が胸に突き刺さった。
「本当に私は、『何』を見ていたのでしょうね……?」
痛む胸を抑え、自身の余りの至らなさに打ちひしがれていたその時、背後から野太い男の声が掛けられた。
「なんだ。分かってんじゃねぇか!リヒャルト」
「……何しにきたのですか?ジークムント」
眼鏡を鼻上に押し上げつつ振り返れば、そこには先程までの念話相手の姿があった。
ライハーン将軍は精霊体を解き、人体として王城の大屋根に足を下ろしていた。
「何しにって。そりゃ、てめぇのシケたツラを見にな」
「持ち場へ帰りなさい。貴方にはやらねばならぬ仕事があるでしょう?」
「てめぇにもあるがろうが?」
「だからこうして此処に居るではありませんか」
「バカか、居るだけなら誰でも出来るだろうが。お前、俺の念話を無視しておいて何言ってんだ?」
「……は?誰が、何を無視した、と……」
そこでゼネンスキー侯爵はハタと我に返る。そう言えば、先程の念話はいつ切っただろうか。
「……すみません。どうやら謝るべきは私の方のようです……」
「ハッ!らしくねぇな、鬼の長官殿ともあろうお人が」
ゼネンスキー侯爵が素直に謝れば、ライハーン将軍は一笑いした。かつてこんなにも殊勝な朋友を見た事があるだろうか。いや、ない。それ程、呆然と項垂れている朋友の姿がそこにあった。
「ホントにらしくねぇな!オラ、シャキッとしろ。お前にゃ、まだまだやるべき事があるだろう?」
パンとライハーン将軍は朋友の背を叩く。
「こんな私が殿下のお役に立てるかどうか……」
「バカ言え。てめぇほど優秀なヤツが他に何処にいるんだよ。この腐った国をシュバルツェ殿下と共に立て直すんだろう?その為に今の地位に着いたんじゃあねぇのか?」
面と向かって『優秀』等と評価された事のないゼネンスキー侯爵は、思わぬ朋友の言葉に喉を詰まらせた。
「お前は自分が思ってる程器用じゃねぇ。子どもにバレてたくらいだ。それはもう分かっているだろう」
「……何が言いたいのです?」
「お前は今度の事で自分の視野の狭さを自覚した。器量の狭さを痛感した。だから、これからはもっと上手くできるさ!まぁ、今度何かする時にゃ、事前に一言相談してほしいがな」
ニカっと笑うライハーン将軍に、ゼネンスキー侯爵は目を見開き、そしてハァと嘆息した。
「……貴方に人生を説かれるとは、世も末ですよ」
「カカカ、恐れいったか!」
「ええ、ええ、恐れ入りました」
ゼネンスキー侯爵はライハーン将軍の言葉に眉を下げた後ハハっと嘲笑し、そしてグンと空を見上げた。
そうだ。ライザタニアにはまだまだ問題が山積みで、内乱騒動が落ち着いたからといって、状況が全て好転する訳ではないのだ。寧ろ、お家騒動が収まった後には、諸々の問題が湧き出てくるだろう。
これまで、第一王子殿下と第二王子殿下、二つの陣営に分かれていた貴族たちは、再びそれぞれを次期王に推して争いを起こすかも知れない。そうすれば、意図せず担がれた王子たちは、その者たちの対処に当たらなければならなくなる。それらを阻止する為にも、現王陛下には早めの現役復帰を願い、そしてその下に新体制を築かなくてはならない。
現王陛下はゼネンスキー侯爵が考えていた様な人物ではなかった。本人曰く、政治には向いていない性格らしいが、それでも優秀な補佐をつければ、次代交代までは何とか保つだろう。
幸い、2人の王子たちは内乱状態をフル活用して、不要な貴族の分別と粛正を行っていたので、多少の手間は省けている。2人の仲もそう悪くないーーどころか、仲は良いそうなので、今後は協力して王宮内を治める事ができるだろう。
また、他国への謝罪と協力も願わなくてはならない。
特に、今回迷惑をかけたシスティナには、十分に配慮しなければならないだろう。勿論、帝国にも。
「考えれば、課題が山ほどありますね……」
「だろう?落ち込んでるヒマなんてねぇって!」
タラリとゼネンスキー侯爵の額を汗が流れる。励ます様に置かれたライハーン将軍の手。いつもなら「気安く触れるな」と払い除ける手を、今は頼もしく感じた。
「他人事のように言ってますがね、貴方も手伝うんですよ?」
「おう!任せとけ!……あ、でも、事務仕事はパスな。それ以外なら引き受けてやってもいいがよ」
「バカ言いなさい。事務仕事も職務の内です。いい加減、副官に丸投げするのも限度というものがありますよ」
ジトリと睨めば、今度額から汗を流したのはライハーン将軍の方だった。
「だってよぉ……」
「だってもへったくれもありませんよ。嗚呼っ、貴方を見ていたら、落ち込んでいたのがバカらしく思えてきました。さ、仕事しましょう!仕事!」
ゼネンスキー侯爵はグンと伸びをすると、深呼吸を一つ。何かが抜け落ちた様な、晴れ晴れとした表情でライハーン将軍へ笑いかけた。
「ああ!とりあえず、お前も城下へ来い」
「そうですね。バカが沸く前に、今一度、規律を糺すべきでしょう。血気盛んな愚か者どもが、異国の騎士と魔女相手にケンカを吹っ掛けるかも知れませんし」
「だろう?そんな事になりゃ、今度こそ王都が滅びちまう」
「ですね。これ以上負債を抱えるのは、御免被ります」
ライハーン将軍の誘いに乗り、足を踏み出したゼネンスキー侯爵。肩を揃えて歩き始めた2人。上官と部下というより、仲の良い友の様な足取りは軽い。
「王子らの警護はどうすんだ?」
「月影に任せましょう」
「そりゃ適任だ。あの根暗将軍も、此処ぞとばかりに働くだろうさ!」
「……貴方ねぇ、仮にも年上なんですから、もう少し配慮を持って接しなさい。亜人としても大先輩でしょうに」
「年上って言ってもよ。俺の曾祖父さんより年上を、どう扱えってのよ?」
「……。たまに肩を揉んで差し上げる、とか……?」
「ハ!それこそ配慮がなさ過ぎるだろうが」
「……と、とりあえず、その辺りの事はシュバーン将軍にでも任せましょう。彼なら上手くやる筈です」
「だな。適材適所。人には向き不向きっつーのがあんだから。てワケで、俺の事務仕事も……」
「それとこれとは話が別です」
「抜け目ねぇなあ……」
「だいたい貴方ときたら…………」
暖かな風が吹き下ろしてくる。春を告げる風が。高原の野に若葉が芽吹き、花開く。今正に、妖精王国ライザタニアに春の精霊が舞い降りようとしている。
新たな年を歩み始めた男たちの背を、真紅の翼を持つ鳥が一羽、柔らかな目で見送っていた。
ブックマーク登録、感想、評価などありがとうございます!励みになります(^人^)
『かくも儚き夢の跡8』をお送りしました。
長年降り積もった恨みが消化し、虚しさとやるせ無さに苛まれたゼネンスキー侯爵でしたが、友の存在が侯爵の背を押してくれました。
次話、『かくも儚き夢の跡9』もぜひご覧ください!




