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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と狂気の王子(下)
431/497

かくも儚き夢の跡5

 頭上には荒れ狂う黄竜。そしてその遥か上空を、藪蚊のように飛び回る亜竜(ワイバーン)の群れが。亜竜は王都を守る《魔法障壁》に激突しては、空砲のような音を響かせている。

 それらが何処から現れたのか、その答えは、潰れた蛙のように転がるゼッペル准尉の傍にあった。

 ゼッペル准尉は騎士たちによって取り押さえられる瞬間、懐から取り出した笛を咥え、思い切り吹いた。ピュイーーッ!とけたたましい音が響き、その2拍後には黄竜が人間を相手に暴れ始め、100を数える間に何処からともなく亜竜の群れが飛来した。王都上空へ現れた亜竜の数はゆうに50を超え、忽ち王都はパニックに陥った。

 外の状況を知らないアーリアだが、現れた亜竜が王都に齎すであろう状態には想像がつく。例え妖精族の血をその身に宿すライザタニア人だとしても、誰も彼もが丈夫で、死に遠い存在とは考え難い。子どももいれば、老人もおり、助けを待つ者が大勢いる筈だ。

 アーリアから見ればその者たちは赤の他人ーー所詮、赤の他国のこと。ライザタニア国民がしでかした事は、ライザタニア国民で始末をつけるのがスジというもの。しかし、それでは遅いのだ。


「早くしないと王宮が瓦礫になっちゃう!」


 シュバルツェ殿下の出した報酬。それらは王城内の最も安全な王宮内にあるとはいえ、この騒ぎの中、破損、または、焼失等という憂き目に遭う事態も考えられる。それらの事態を想像するだけで、アーリアの胸はぎゅうっと締め付けられ、駆り立たされるのだ。こうしちゃおられない!と。

 そんなアーリアの憂いに満ちた表情を、他者がどう捉えたのかは分からない。人によっては、他国の為に心を砕く慈悲ある魔女に見えたかも知れない。


「アーリア様、御命令を」


 アーリアの決断を後押しするかのように、副団長アーネストとナイル、そしてリュゼが側に侍る。


「招かねざる敵の排除。それをこの()()()()の一環とす。我々は自らの行動により責務を果たす事としましょう」


 七色に輝く(オパール)がアーネスト副団長を射抜く。アーネスト副団長は満足そうに微笑むと「は」と一言、頭を深々と下げた。


「来て、いますよね?」

「勿論です、我が魔女姫(あるじ)。我々『塔の騎士団』一同は、貴女と共にあります」


 システィナ東部に於ける最大の守護軍勢『東の塔の騎士団』、その副団長がただの一人で敵国ライザタニア王城まで乗り込んでくる筈がない。アーリアはアーネスト副団長の気質を、そしてルーベルト団長率いる『塔の騎士団』の気質を知るが故に、そう決めつけた。

 アーネスト副団長は先駆け。現状を把握し、その後の指示を出す。何事もなければそのまま主を敵国より連れ出し、何事かあれば主の手足となり働く。この日この時を見越して、リュゼとナイルを先に敵国の内部へと送り込んだのだ。何事もない筈はない。


「目標は王都を襲う魔獣ーーいいえ、あれらが齎す脅威のみ。民の一人にも危害を加えてはなりません」

「ご命令、承りました」


 アーネスト副団長は己が主の聡明さ、そして決断力の速さに満足し、了承を告げる。仔細の一つも告げずとも状況の理解が出来る事を期待していたが、まさかこれ程だとは思ってはいなかった。それこそが、主と掲げながらも侮っていた証拠ではないだろうか。

 僅かな罪悪感を抱いたアーネスト副団長だったが、アーリアはそんな事で目くじらを立てるほど小さな心をしていない。自分自身がどれ程頼りないかを自覚しているのだ。命令を遂行してもらえるだけで構わない。


「ちょちょ、ちょ、アーリアちゃん、それに副隊長サマも!一体何する気⁉︎」

「何って、殲滅戦だよ。黄竜と、それにあの空飛ぶ亜竜(トカゲ)も、一匹残らず料理してあげる」

「ーー!」


 アーリアの過激な発言にギョッと目を剥くセイ。一度アーリアによる赤竜討伐の場に居合わせた事があるだけに、この後、どの様な状況になるかがありありと想像できてしまった。きっとこんがり料理(意訳)されるに違いない。

 腰に手を当てセイを翻弄するアーリアの姿を横目に、アーネスト副団長はクスリと笑った。なかなかにいい気味だ。


「滅亡させたくないんでしょう?」

「そ、そりゃね」


 顔を引き攣らせるセイに対して、アーリアはどこか晴れ晴れとした表情をしている。吹っ切れたとも言う。もうこうなりゃどうにでもなれ。溜まりに溜まった怒りを野獣共にぶつけてやるまでだ。


「シュバルツェ殿下もそれで構いませんよね?」

「ああ。もとよりお前一人に背負わせる気はない。こちらも中央軍を討伐に充てる。そちらと連携して動けるよう、配備しよう」


 シュバルツェ殿下の言葉を受け、軍務省長官たるゼネンスキー侯爵が早くも部下たちへ指示を飛ばし始めた。

 アーリアはそれを横目に、ライザタニアの兵士と騎士が総力をあげて押さえている黄竜へと視線を上げた。肉眼で位置を見定め、距離を測る。重量は赤竜と然程変わらないだろう。


「さて、始めましょうか?ーー《光の壁》!」


 高まる魔力を外へ放出する。本来、個人を中心としたドーム状に広がる《防御魔術》だが、この時、アーリアは黄竜の真下を中心として定め、そこから円状に範囲を広げた。光の幕はシャボン玉の様に大きく膨らみ、外円が黄竜の下腹に接触。ドムンッとボールが跳ねるが如くに黄竜の全身が揺れ、天井高く押し上げられた。


 ーギャイッー


「「「なぁっーー⁉︎」」」


 とは、誰の叫びか。黄竜は非難の鳴き声をあげると防御魔術に跳ね飛ばされるままに天井に開いた大穴を突き破り、青空へ放り出された。残された者たちは呆然と空を見上げている。


「さてと。セイ、貴方も殿下たちが大切なら協力なさいよ」

「ちぇっ、別に殿下たちが大切って訳じゃ……」

「分かってるって。セイたちは賢王様のつくったこの国を守りたいんでしょう?ーー賢王様が帰って来る場所を残して置きたいんでしょう?」


 ーー全ては恩人たるレオの為に。


 その輝く虹色の瞳で本音を見抜かれたセイは笑みを消し僅かに目を見開くと、少し黙った後、唇をへの形に歪ませた。

 自分たちの想いを理解されないのも辛いが、理解されるのもシャクに触る。十数年しか生きていないお前に何が分かるというのか。俺たちの想いの何がーー……!

 セイはむすっと頬を膨らませた後、はぁぁと深い溜息。前髪をガシガシ掻き回すと、フンと鼻息一つ、「仕方ないなぁ」と言い放った。

 相手の想いを理解するつもりのない自分に、自分の想いを相手に理解して欲しい等とは、厚かましいにも程がある。ワガママを言っているのは自分の方なのだ。怒るのはスジ違いというものだろう。


「セイ、早く」

「へいへい」


 せっつかれたセイは後頭部を掻きつつ、チンピラのような足取りでアーリアから距離をとった。同じ部隊の者たちはセイの意図を察した様子で、周囲の者たちを下がらせている。

 セイは地底湖スレスレまでーー要するに、天井の穴近くまで足を進めると、ハッと息を一つ、出来るだけ体の力を抜いた。そして瞳を閉じ、開いた時、セイの全身が内側から外側へと力を解放するかの様に眩い輝きを放った。


 ーぐぉおぉおおおおおお!!ー


 あまりの眩しさに閉じていた瞳を開いた時、目の前には黒々とした鱗輝く巨体が翼を広げていた。神々しいまでのオーラを放つ黒竜に、人々が恐れ慄く。


『これでいい?』


 セイの言葉がアーリアの脳内に響く。念話だ。竜体となったセイには、人語を話す機能はない。その為の策が念話という訳だ。アーリアが「ええ」と頷くと、首を跨げたセイの瞳がアーリアを見下ろした。


『それで、俺が黄竜の相手をすればいいのかな?』

「あ、違う違う。セイは私の足だから」

『足?』

「そう。セイは私を乗せて飛んでくれるだけで良いの」


 まさかの辻馬車(タクシー)扱いに慄くセイ。世界広しと言えど、黒竜を足扱いする者などそれほどいない。

 一方、セイの元相棒であり常識人代表ナイルは、アーリアの言葉に抗議の声を上げた。


「お待ちください!ソレに乗ると仰られるのですか?」


 黒竜となったセイを指差すナイル。指差されたセイは何か物言いたげだ。


「うん。だって、飛行魔術を維持しながら他の魔術を扱うのは難しいから。ほら、丁度いい足でしょう?まぁ、気持ち悪いから本当はあんなのには乗りたくないんだけど、仕方ないよね。黄竜を牽制してもらわなきゃだし」


 アーリアの言葉にナイルは眉を寄せ、セイは露骨に顔を顰める。人体なら「えー!その言い方ってないんじゃないの?」とかブツクサ言っていたに違いない。実際、念話で話しているのだが、アーリアの耳には左から右だ。


「なら、時間もないしちゃっちゃと乗っちゃおうか?」

「リュゼ、お前は止めないのか⁈」

「えー、あー、止めてもムダかなぁって」


 アーリアが見た目ほど大人しくないのを知るリュゼとしては最早諦めの境地で、両手(もろて)をあげて首を左右に振っている。こうと決めたアーリアを説得するのは時間が掛かる、いや、ムダだし、それならいっそアーリアの側で見守った方がずっと気苦労が少ない。


「ナイルもそろそろ慣れた方が良いよ」

「そうなのか……?いや、だからと……」


 ナイルの背を軽く叩いてアドバイスするリュゼに、アーリアはあれれ?と首を傾げる。仲が悪かった訳ではないが、これほど気安い関係だっただろうか。ーーまぁいい、今はそんな事を考えている時間はない。


「じゃあそういうことで。セイ、ちょっと屈んでくれる?」


 セイは命じられるままに翼と膝をたたみ、長い首を跨げた。そこへアーリアが恐れる事なく近づき、瓦礫を足場に黒竜へとよじ登ろうとした。たが、これが中々難しい。テカる皮膚には鱗がびっしりと並び、どこにも捕まる場所がないのだ。これはどうしたものか、やはり飛翔魔術で飛び乗るか等と考え始めた時、アーリアの背にそっと手が置かれた。


「こんな時くらい、僕らを頼ってよ」

「そうです。我々の見せ場がなくなってしまう」

「リュゼ、ナイルも……」


 専属護衛騎士が主だけを戦いの場所へ行かせる訳にはいかない。そもそも、戦いを生業にしない主を戦場へ向かわせる事自体、反対なのだ。だが、何をいう主自身が敢えて戦場へ向かうと言うので、仕方がない。


「ーーおい、セイ。もう少し屈めないか?」


 ナイルは竜体となったセイの脚を軽く叩く。すると、セイは「仕方ないなぁ」とでも言いたげに更に頭を下げた。


「リュゼ、先に」

「了解。アーリア、ちょっと失礼するよ」

「!」


 リュゼは本人へ確認するだけして、許可を得る前にアーリアの膝裏を掬うと横抱きに抱き上げた。そして驚くアーリアを他所に駆け、トンっとナイルの掌を足場に飛び上がった。

 あっと言う間に黒竜の背に飛び乗る。《跳躍》スキルを使ったとはいえ、鮮やかな跳躍だ。その後を追って、ナイルは自力で飛び上がってきた。

 

「え、ちょ、2人とも来るの⁈」

「当たり前じゃん。これ以上、君を一人にはしないよ」


 アーリアは黒竜の背に足をつけるやリュゼとナイルを交互に見た。彼らは逆に何故一人で行かせると思うのか、という目をしている。リュゼの目は「本当はこんな危ない事をして欲しくないんだ」と語っている。が、それを言わないのは、アーリアの意思を尊重しての事だ。


「こんな不安定な場所、もし転んだりしたらどうするのさ?」


 最もな事を指摘され、ウッと息を呑むアーリア。横でナイルも真顔で頷いている。黒竜(これ)に乗って国境越えをしたと聞いたので、自分にもできると思っていたが、案外、そんなに簡単な事でもないのかも知れないとの今更な考えが頭を過ぎる。

 しかしこの時、アーリアはどうにも居た堪れない気持ちになっていた。二人の好意は有難いが、まだ、マトモにリュゼたちと顔を突き合わせるのはどうにも辛い。だからと突き放す事もできず、「そうだね、ありがとう」と無難に答えていると、背後から「これを使え」と低い声と共に手が突き出された。アーリアがぎょっと顔を上げればそこには、長い黒髪の堀深い美丈夫の姿があるではないか。

 

「れれレオ⁉︎ え、これは?」

「手綱だ。今、鞍も上げさせる」


 アーリアが疑問符を浮かべている間に、月影の隊員らが大きな籠ーー専用の鞍を上げ、テキパキと設置し始め。その間に、リュゼとナイルは鞍に仕込んである防御魔法の作動方法を習っていた。


「我々がいくら亜人であろうと、黒竜への騎乗は容易いものではない。一応、黒竜(コレ)には調教を施してあるが、十分に気をつける事だ」


 感情が分からぬ表情のまま、いたく真っ当な忠告が飛ぶ。アーリアはムダに整った顔を見ながらコクコクと頷く。この無口な男からこれほどマトモな言葉が放たれるとは、と驚きの境地だ。


「……お前を巻き込んだこと、悪いとは思っている」


 手綱を手渡すレオニード将軍の真っ赤な瞳がアーリアを射抜く。アーリアは突然の謝罪に「え?」と口を開けた。


「だが、恥を忍んで頼む。彼らの願いを叶えてやってくれ」


 視界を下げれば、彼らーー現王と二人の王子、この国の今後を担うであろう者たちの顔が見えた。現王アレクサンドル陛下は何故か悠々たる面持ちで、第一王子イリスティアン殿下はどこかハラハラした様子で、第二王子シュバルツェ殿下は一層晴れ晴れした表情で、アーリアの動向を見守っている。


「……そんなの知りません。私は私のしたいようにするだけです」


 アーリアは彼らと、目の前の人物からの視線から逃げるように目を逸らした。

 

「それに、何かをして欲しいなら、それに見合った報酬というものがあります。今度は正式に依頼してください」


 次こそはタダで相手の都合良くなど動いてやるものか。誰にどう思われようと、これ以上自分の意思を殺して動く事はない。しない。いや、できない。そう強い意志を込めてアーリアはレオニード将軍の願いを突っぱねた。すると、アーリアの上から息がそっと落ちてきた。


「そうか、それもそうだな……」


 ふとアーリアが顔を上げれば、レオニード将軍は初めてその顔に無表情以外の顔を浮かべていた。その表情に呆気に取られていれば、背後から「アーリア」と呼ぶ声があった。その声に意識が向いた背に「それでも、今だけは頼む」と声が。振り仰げば、そこにはもうレオニード将軍の姿はなかった。


「アーリアはここに。それと、この手摺を絶対離さないで」

「我々が後ろで支えていますが、万が一も考えられますので十分にご注意を」


 説明を受けつつ、アーリアは鞍に足を踏み入れる。黒竜の背に設置された鞍は呼ぶより大きな籠の様で、上下左右に手摺が設けられており、立ったまま騎乗する仕組みのようだ。

 アーリアは黒竜の首の付け根ーー先頭に立つと手摺を両手で持つ。その後ろにリュゼが立ち、アーリアから手綱を奪うように受け取るとそれをナイルへ渡し、リュゼ自身はアーリアの腰に手を回して固定した。更にリュゼの後ろにナイルが立ち、両手で手綱を掴むと、前2人に向かって「それでは宜しいですか?」と声をかけた。

 アーリアが「お願いします」と答えると、「では」とナイルが手綱を振るう。手綱を引かれたセイはぐっと立ち上がると、畳んでいた翼をばさりと広げた。そして一つ、二つ、三つと翼を羽ばたかせるとグッと膝を曲げた。


『行くよ』

「うん」


 答えると同時にぐんっと黒竜が伸び上がった。足下が地を掴む感覚が消える。お腹の下に空気が通り、アーリアは不安定な足場を踏みしめるように手摺を持つ手に力を入れた。


 ーブワッー


 突風(かぜ)が巻き起こり、長い髪を上空へ舞い上がらせた。咄嗟に目を閉じたアーリアは、『何処まで行けばよろしいですか?お客様』というセイの軽口を耳に目を開けた。

 するとそこはもう青空一色で、遙か下方に大穴の開いた王城の大屋根と、その周辺を飛び回る黄竜、そして複数の亜竜の姿が見えた。


「とりあえず、黄竜のもとまで!」

『了解』


 黒竜が翼を一つはためかせる。それだけでもう目の前に王城の黄金の屋根が迫った。黒竜の背にあるアーリアが空気抵抗をあまり感じずにおれるのは、鞍の四隅に設置してある宝玉のおかげである。

 これは、システィナでいう所の魔宝具。四つの宝玉に防御の魔法が込められており、それが互いに呼応するように作用している。


「セイ、黄竜を王城から引き離せる?」

『出来ないワケないじゃん、俺を誰だと思ってるの?』

「女好きのヘタレ騎士!」

『っ……』

「ウソウソ!泣く子も黙る黒竜サマだよ」


 ガックリと高度を落としたセイにアーリアがフォローを入れる。念話をオープン回線にしていた為、聞いていたリュゼたちは思わず笑い声を挙げそうになっていた。


『くそぉ……俺に拒否権がないのを知ってこの扱い……』

「あーもー!いじけないでよっ!さっ、カッコイイ黒竜サマ、あの黄竜を蹴散らしちゃってください!」

『わーったよ!そらっ!』


 黒竜は黄竜へと距離を詰めると、ヤケクソとばかりに体当たり。ドンっと振動が黒竜の上にいる人間たちを襲う。思わず手摺から手を離したアーリアの身体をリュゼが抱き込んでその場に留めた。「っアンのバカが」とナイルが愚痴り、「少しは加減せんか!」とその怒りのままセイを怒鳴りつけた。


「アーリア、平気?」

「っ、大丈夫」


 はっと短く息を整える。アーリアはリュゼの胸から顔を離すと再び手摺を掴み、空中でもんどりを打っている黄竜へと視線を移す。


「今度こそ逃してあげない。《銀の網》!」


 黄竜の上部に青く輝く大きな魔術方陣が出現。そこから伸びた魔力の光が鍵網のように編まれ、広がり、黄竜の身体を覆い尽くした。


「ー虚空より来たりて 我に雷電(いなつるひ)の槍を与えんー」


 アーリアの《言の葉》に周囲の精霊が踊り出す。精霊力を魔力へ、魔法を魔術へと変換し、世界の理を改変する。晴天の空に現れた黒雲。パリパリと空気が電気を帯びた。


『あ、ちょっと待っーー』

「《雷神の槍》!」


 ードオンッ!ー


 黒雲から伸びる光の筋。魔力の網を全身に絡み付かせた黄竜の背に、天からの鉄槌が落ちた。耳を劈く轟音が響き、音が収まった後には、煙を上げる黄竜が白目を剥いて転がっていた。

 よしっ!とガッツポーズ。後は五月蝿い程飛び回る亜竜だけだ。そう意気込むアーリアの耳に、セイの思わぬ言葉が飛び込んできた。


『あちゃーー!ありゃ死んだんじゃない?中の人、大丈夫かなぁ?』


 ーーと。


ブックマーク登録、感想、評価などありがとうございます。励みになります!


『かくも儚き夢の跡5』をお送りしました。

鼻先に餌をぶら下げられたアーリアに迷いはありません。

報酬の為、一刻も早く、この馬鹿げた騒動を終わらせるべく動き始めました。


次話、『かくも儚き夢の跡6』も是非ご覧ください!

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