反撃はできるうちに5
※(リュゼ視点)
「さぁて、そろそろ現実が見えてきたかしら?」
第一王子殿下は妖艶に微笑んだ。艶かしく光る紅い唇。少し垂れ目がちな瞳には泣き黒子。極上の容姿から齎されたそれは正に『天使の微笑み』。しかし、薔薇でも背負っていそうな背景から溢れて出すのはドス黒い闇なワケで……。
「天使って云うより、ありゃ悪魔かな?」
「……」
ポツリと呟く声に、ナイルからの反応はナシ。ま、無難な判断だね。なまじ見知った人物だけに口を開けばボロが出るだろうし。
『まさか、あの方が本当の第一王子殿下だったとは……』
そう言ったきり、ダンマリなナイル。
ま、まぁそうだよねぇ〜。僕もマサカあの治療士がホンモノの第一王子殿下だったなんて、誰が想像できるってんだ。
東都で会った時、すぐそうだと気づかなかったのは僕たちの失点。大失点さ。でもさ、まさか化粧と雰囲気だけであれ程イメージが変わるなんて、誰が思うよ⁉︎ーーそう。あの時僕らが会ったのは影武者ではなく本物。先輩と二人して『なーんか見たことあんな、この王子』なんて首を傾げていたけど何の事はない、本当に『見知った人』だったんだから。
彼の偽りの名はアリストル。アリストル・フォン・ヴァンゲート。システィナの極東の軍事都市アルカード駐在の騎士団、『東の塔の騎士団』の専属治療士を務めていた。天上の女神を思わせる容姿は女性のみならず男性をも虜にし、何人もの騎士を禁断の世界へと誘った。また、男性にありながら女性的な言動に度肝を抜かれた騎士も多数おり、何言う僕自身もその一人だ。
初対面で『あらいい男。タイプだわぁ』などと揶揄われ、ビビるなという方が可笑しい。ど迫力美人(男)に迫られる経験なんて、長い人生、そう何度も起こるワケない。何よりあの猛禽類の様な目で全身舐められる様に見られるなんてコトは。
「ハァ、全くヤになるよ……」
容姿言動云々はさて置き、彼は『アリストル』という名で何食わぬ顔をして治療士をしていた。敵国の、それも軍事拠点で、『東の塔の魔女』の信頼を勝ち取って、専属治療士という地位まで得ていた。
偽名から見ても、彼がシスティナ上層部と遣り取りがあったのは間違いない。でなけりゃ『フォン』なんて名乗れない。上位貴族、もしかしたら王族との密約なんてものもあったのかも知れない。誰のストップもかけられず、中枢にまで入り込めたのは、彼を背後で支援する何者かの存在がと考えるのが妥当じゃないかな。
「ハメられた、いや、担がされたかな?」
誰がーー?そりゃ言わずもがな『東の塔とその運営に関わる皆』がだ。多分、ルイスさんーールイス・フォン・アルヴァンド宰相閣下もその中にいる。あの宰相サマが一度受けた恩を仇で返すなんてマネはしない。例え国益優先とはいえ、恩人を敵国にみすみす手渡すなんてマネはしない筈なんだ。
「殿下!私共を騙しておいでだったのですか?」
「騙す?人聞きの悪い!なによ、口調一つで騙すだなんて、よっぽど偏った思考をしているのね?」
目の前じゃ件の治療士が獲物を吊り上げ、その紅い唇に舌を這わしている。『どう料理してやろうか』とも言いたげな笑みは、間違っても天使のソレじゃない。
「そうだ。イリスティアンは愛する息子のひとり。我が愛の前ではどんな物も支障になり得ない」
「アレク……王様、ややこしくなるから黙って!」
「む?何故だ?我は何も偽りを言っている訳では……」
「シー!お口にチャック!」
見ぬ間に随分と丸くなった(予想)ーー現王の言動に驚きつつも何処か困った笑みを見せるイリスティアン殿下。空気を読まぬ現王をアーリアが静止している。
「父上、会わぬ間に随分と丸くなっておいでですのね……?」
喧嘩別れしたままの父親との再会。嫌われていると信じていた期間が長いだけに、現実は受け入れ難いに違いないと思われた。けど、これまでのアレコレがあった所為か、イリスティアン殿下の態度には、苦笑しつつも受け入れている面があるように見える。ま、自分自身がこれ程のバクダンを隠していたんだから、親とはいえ他人のコト言えるワケないよねぇ。
「……ま、まぁいいわ。陛下とは後でじっくり話すとして、話を戻すわね?ーーバーレン、アナタは彼女を止めるように進言したけれど、私の答えはノーよ。私は彼女を止める権利なんて持ち合わせてはいないし、そんなチカラもないもの。そもそも彼女は私の恩人。恩を返す意味でも、この場を譲っても良いと考えている」
イリスティアン殿下の言葉に青年騎士、バーレンとかいうボンボンはポカンと口を開けて放心状態だ。何不自由なく贅沢な暮らしをしてきた貴族子弟(予想)に正論ブチかましたって、聞く耳がないだろう。会話すら無意味だ。それでもイリスティアン殿下が語りかけるのは、それが彼だけに向けての言葉ではないから。この場にいる皆に向けての言葉だからこそ、ハッキリと口にして、意志を示しているんだ。
「恩人?一体何を言って……」
「そのままの意味よ。ねぇ?アーリアちゃん」
ウインクを投げかけられたアーリアは首を傾けている。あの表情は『恩人となる様なコトしたっけ?』って顔だな。空気を読んでとりあえず黙っているって感じか。あー、あの様子。やっぱり記憶戻ってるっぽいな。
「もう気づいているヒトもいるでしょう?此処は私たちが作り出した状況だってコトを」
「「「ーーーー⁉︎」」」
腕を組み、妖艶な笑みを浮かべるイリスティアン殿下。周囲には戦慄とも呼べるものが疾る。
平然としているのは当の第一王子殿下と第二王子殿下、現王陛下、そして数名の貴族と騎士たち。事前に知らされていたのか、はたまた忠臣故の忠誠心からか。該当しない者たちが浮かべる驚愕が、その場の空気を殺気立たせる。
「もしや、現王陛下が病床にお着きになられていたのも……?」
騙されていた。一方的な被害者意識からそう感じているであろうアホ貴族たちの呟きに反応したのは、第二王子シュバルツェ殿下。アホヅラを晒す貴族に辟易した表情を隠しもせず、不機嫌そうに顎をしゃくった。
「あのまま傀儡となった現王を玉座に置いていても、何も良い事はなかったのでな。陛下には少々休んで頂く事にしたのだ。幸い陛下はお疲れであったご様子。ちょうど良い休暇となったであろう」
しゃくった顎の先では現王が「あんな休ませ方をされた我の身にも……」と、ゴニョゴニョ文句を垂れ流すが、それをシュバルツェ殿下が目線で黙らせた。
「殿下がお見せになっていたお姿は、我々を騙す為の演技だったのですか⁉︎」
叫んだ直後ハッと口籠る七三分け貴族。絶対零度の氷の瞳が突き刺さらんばかりに射抜いている。
あれがウワサの『狂気の王子』サマか。なまじ容姿が整っているだけにホラー感が醸し出されている。おー怖っ。
「私がいつお前たちを騙した?」
口元に浮かぶ微笑みは嘲笑。
「いつだと聞いている。嘘つき呼ばわりするんだ、答えられるだろう?なぁ、ヘーゲル男爵」
これ以上の王族への嘘偽りは叛逆を疑われる恐れがある。そのような素振りを見せるだけでも罰されるだろう。不況を買った貴族の結末、弟王子殿下がこれまで見せてきた様々な狂気を思い出した貴族たちは、それぞれ顔を青くさせた。
「あれこそお前たちの望む姿ではなかったか?『傲慢』で、『我儘』で、『狂気』の王子というのは」
「ッーーーー⁉︎」
再び、貴族たちの間に驚愕が襲った。舌の根も乾かぬままやらかした貴族は、自分の言動のマズさに舌を引っ込める。
現王を騙し、傀儡政権をつくり、ライザタニアを操ってきた貴族たち。現王と王子たちを仲違いさせ、内乱状態を作り出した貴族たち。己の利権利益を求めるあまり、政治を蔑ろにしてきた貴族たち。
ライザタニア貴族たちの大半はこれまで通り、思い通りに事が運ぶと考えていたに違いない。少なくとも、今日この時までは。
国王や王子、王族の前でこれ程横柄な態度を取れるのも、彼らが仕えるべき対象を見下しているからなのだろう。システィナーーいや、他国でこれをやらかしたら一発アウト、退場だ。文字通り首を斬られ、人生からの退場を余儀なくされる。それほどマズイ状況にありながら、ここにいる貴族たち(王子たちの側近は除く)は何の証拠もなく王族の言動を疑っている。ホント、正気の沙汰とは思えないね!
「男爵、貴様が『精霊女王の瞳』を欲し、後宮へ放ってきた間者の存在を私が知らぬとでも?くそ面倒な!幾度対処しても湧いてくる。貴様らはボウフラか?魔女は私の物だというのが分からんとは、随分とめでたい頭をしているのだな。死にたいのか?」
ドタッと腰を抜かしたヘーゲル男爵。現王の近くで「私は貴方の物じゃ……」とか何とか、ゴニョゴニョ文句を垂れるアーリアを、またまたシュバルツェ殿下は目線一つで黙らせた。
「漸く現実が見えましたか?」
「……ィっ……っ、ゼネンスキー侯爵……!」
「王族は貴殿らのオモチャではないのです。彼らは王族である前に一人の人間。意思もあれば、個人の権利もある。それを貴殿らは蔑ろにし過ぎた」
確か、彼はシュバルツェ殿下の側近のゼネンスキー侯爵。あの若さで軍務省長官なのだから、侯爵がどれほど優秀で、どれほど重用されているかが伺える。
ゼネンスキー侯爵の言う通りなら、彼らは貴族という立場に胡座をかき、優先すべきものを見失い、忠誠心すら持たず好き放題してきた。端的に言えば『調子に乗った』んだ。
「部族統治であった時代の感覚が抜けぬまま国家運営を蔑ろにし、好き放題を極めた。自覚はおありでしょう?」
滔々と語り始めたゼネンスキー侯爵。知る者は知る事実をあえて口にするのは、聞かせねばならないと判断したから。口に出す事で、『知らなかった』という言い訳を封じる為だろう。
曰く、ライザタニアの起りは、ある部族の若者が各部族を武力で統一した事により建国に至る。故に今日まで『国主の代わりなど何時でも成り代われると』という認識が残り、国家運営に歪みを生んだ。古い血筋を持つ貴族の根底には古い因習が根強く残り、王族に対する敬意を失わせる原因ともなっている。
仕えるべき王族へ敬意すら抱かず、傀儡とし、弱者からの搾取を正当化し、自らの部族のみの益を考える。それが許される行為だと思い込んでいる。しかし、『複合部族集団』ではなく『ライザタニア』として他国と渡り合うなら、古い感覚のままで良い筈はない。ーーそう語るゼネンスキー侯爵の顔にはありありと失望の色が浮かぶ。
「何故、己の好きにできると思うのです?王族方を傀儡にして自らが益を得る。その様な不遜が許されるとでも思ったのですか?」
「こ、これまでは何の問題にも……」
「ええ、貴殿らの言い分には一定の理解を示しましょう。確かに、これまではそれでまかり通ってきました。ですが、果たしてそれは『正しい姿』でしたでしょうか?」
偽りをの姿から脱却すべく、古い踏襲を悪とし、正しい国家を作り守って行こうと行動を始めた者がいる。ライザタニアの二人の王子、シュバルツェ殿下とイリスティアン殿下が中心となり、二人を次世代の担い手と認め集った者たちだ。その者たちは、国家への忠義を果たす為に今も正に水面下で戦っている。例え国が割れ、犠牲が出ようとも、真に国を思えばこそ、彼らは止まる事はないのだろう。
「リヒャルト、時間の無駄だ」
「殿下……」
「語って聞かせた所で幼児ほども通じぬ。私はもう、時間を無駄に過ごす気はない」
語る時は過ぎた、と話を打ち切るシュバルツェ殿下。
「わ、我々は、どう……」
「どうなると思う?」
「ヒィッ!」
他人事ならば酒の肴だ。けれど、自分事ならばそうもいかない。これまで幾人もの貴族が辿ってきた道を思えばこそ、楽天的にはおられない。
ここで重要なのは『自身の首一つで事態を抑えられるか』という点に尽きる。被害が自身の家や家人に飛び火するのを防がなければならない。領土没収や爵位降格くらいならまだマシな部類。けど、領土没収に加え家の没落となれば、今後二度と立ち直れはしない。平民落ちなど以ての外。これまで見下してきた者たちと同じ目線に落ちるなど、矜持が許さないだろう。屈辱的な目に晒されるくらいなら、死を賜る方がずっといい。死んでしまえば少なくとも屈辱を味わう事はなくなるのだから。ーーと、ここまではごく一般的な貴族の考え。さぁて、およそ一般的じゃないライザタニア貴族のミナサマはどうするのかな?
「し、死を……」
「ほう、死を願うか?」
「っ……」
「死んで償うと?」
細められたシュバルツェ殿下の瞳に狂気を見た貴族たちは、ヒッと息を呑んだ。
「ああ、貴様らは『輪廻転生』を信じていたな?ならば何も怖がる必要はない。次ある人生を信じ、今の人生に幕を下ろせばよい。ただし、次に待ち受ける人生がどのようなものかは、『神のみぞ知る』だがな?」
輪廻転生。ライザタニアに伝わる逸話の一つ。僕から言わせりゃ眉唾でしかないハナシ。このホラ話、ライザタニア人は本当に信じているんだろうか。そう思いつつ目線をやれば、貴族たちは揃ってアホヅラを並べていた。
「『今世と同じく貴族に生まれ、何一つ不自由なく生活が送れる』。当たり前だがそんなものは戯言、夢芥、希望的観測に過ぎぬ。自分で自分が生まれる場所を選べるならまだしも、恐らくそんな事は実現不可能だろうな……?」
「「「ーー‼︎」」」
「貴様らは無垢でも無知でもない。だから固執するのだ。己が生命に、今世の人生に……」
「お、お助けください!どうか、どうか命だけは……ッ!」
頭を垂れ、足元に蹲り、地面に額を擦り付け、叫ぶ。醜く懇願する伯爵の姿にシュバルツェ殿下は何を思ったのか、溜息ひとつ。
「これまでも幾人もの命が失われた。自ら死を招き入れた者など、おらぬ」
「戦争で人が死ぬのは当然で……」
「当然ではあるのだろう。他人の物を奪おうとする者、他人から奪わせまいとする者。その両者がぶつかり合うのだ。どちらにも『守りたいもの』があるが故に、譲り合う未来などない。ならば、貴様が此処で死ぬのもまた、当然ではないか?」
滔々と語られる想い、それは何者にも崩せぬ固い想いであり、人生を賭して叶えたい願いなのだろう。だからこそ、譲れず、この様に堂々と宣誓しているんだ。自分たちの意志を伝える為に、自分たちの意志を貫く為に。
身に覚えがある貴族らは一様に顔が青い。『ライザタニアの未来が開ける』=『自分たちの未来が閉ざされる』のだから、当たり前だろう。二人の王子はライザタニアという一国を存続させる為だけに起こした内戦だけに、追求の手を弱めない。この機にクズを一掃するべく、集めた情報を以って処罰を下すに違いないんだから。
「諸君。これは戦争なのだぞ?私と我が兄が起こした戦争。そして此処がその終着地。さぁ、そろそろ覚悟の程はできただろうか?」
何の、とは言わない。けれどシュバルツェ殿下が、そしてイリスティアン殿下が言わんとする意味は分かる。
「よーするに、逃げ道はねぇぞってコトだよね?」
「ああ。これまでの所業が証拠として残っているのなら、彼らに逃げ道はない。詰みだな」
重い口を開いたナイルは、苦々しい表情をして成り行きを見守っている。いくら他国の事だとしても、王族にこれ程の苦難を敷いた貴族たちに不快感を覚え、身を切ろうとも重い決断をした王族へ深い哀愁を覚えたに違いない。
先輩は歴としたシスティナ貴族で模範的な騎士なので、勿論王族への敬意は深い。それは他国の王族であっても同じくしているので、必然的に忠誠なき貴族たちを見る目は厳しい。
「まさか、これ程だったとは……」
ライザタニアを旅して二ヶ月余り。国内の内情はある程度情報として入っていた。歴史や文化、食事や生活、人々の暮らしぶりからはライザタニアの生活水準を、市場の規模からは物流を、僕たちは知る事ができた。それらから分かったのは、ライザタニアの生活には奴隷が不可欠だという事、国民はライザタニア王族に依存している事だ。
王族、貴族、平民、奴隷と身分が四段階に別れ、しかも身分の差はシスティナのそれより広い。身分によって就ける職業も異なり、いくら頭が良くとも学者にはなれず、魔力が高くとも魔法士にはなれない。それに人々は不満を抱くどころか、王族の放つ言葉は絶対と捉えている。だから簡単に偽情報に踊らされる。扇動される。戦争に駆り出されても疑問を抱かない。
そんなライザタニア国民の気質は、上手く使えば国を潤す事に使えるだろう。しかし、ライザタニア貴族らは自分たちの利権や利益のみを追求するが為に使った。しかも、忠誠を捧げるべき王族をも利用して。
「僕らには報告義務があるんだけど?」
と、頬を掻けばーー
「それをも見越しておいでなのでは?」
と、ナイルは眉を僅かに上げる。
僕らにはシスティナへの報告の義務があるので、これまで見聞きした物全て、システィナ上層部へと齎される。今後システィナはライザタニアに対し、これまで以上に厳しく接するだろう。まぁ、自業自得なので、ライザタニア王族の皆様には以降も自ら苦労を買って貰うしかない。
「ま、僕らには関係ないか……」
いくら国の未来が掛かった戦争だろうと、僕らには何の関係もない。正しく『他人事』。勝手にやってくれと思う。僕らにとって重要な事はアーリアの無事と、無事な帰還のみ。
今、僕らが大人しくしているのは、この場がある程度落ち着かない事にはどうにも動き辛いからだ。
第一王子イリスティアン殿下とそのお供たち、第二王子シュバルツェ殿下と側近たち、そして現王陛下。二人の子どもと修道女はまだしも、他国の魔女と工作員は完全に部外者。
他国の魔女であるアーリアが堂々と立ち回っているのは、アーリアがライザタニアの被害者だから。ライザタニアに復讐する権利が、アーリアにはある。それを二人の王子が認めているからこそ、これ程の無茶が許されているんだ。
そんなアーリアもこの成り行きには困惑気味で、拷問宜しく人工池(?)に叩き落としていた貴族が幾度目かの生還を果たした後、ぐったりしているのを放置している。威勢の割に骨がなく、相手をするのが面倒になったのではないかな。
「相変わらずだよね、アーリアってば」
「ああ。見事な手腕だ」
「いや、褒めてるワケじゃなくてさ……」
「記憶も戻られているようだな」
「あ、やっぱりナイルもそう思う?」
「勿論。何故アーリア様が現王陛下と懇意なのかは疑問が残るが……」
ホントにね。可能性としては、記憶を失くす前に交流を持っていたってトコだけど、シュバルツェ殿下の監視下で、どうやって病床(?)の現王とて交流したのかとの疑問が残る。不運に巻き込まれるのを得意とするアーリアの事だから、何があっても今更驚きはしないけどさ。
「さてリュゼ、そろそろこちらも動くとしよう」
「了解っ」
ナイルの言葉に「待ってました!」とばかりに心が跳ねる。
ずっと我慢していたんだ。場の空気なんて読まずにアーリアに駆け寄りたいと。それが出来なかったのはナイルからの指示と、そしてアーリアからの視線が理由だ。
記憶が戻っているにも関わらず、視線を合わせようとしないアーリア。彼女の視線は二人の王子と現王、そして二人の子どもに向いている。取分け二人の子どもには気を払っているようで、だからこそ僕らは子どもたちに危害が加えられない様に側にいるワケだけど……。
「でもホント、相変わらずお人好しだよねぇ」
「それがアーリア様の長所でもある」
「まぁね。でもーー……」
ーー少しくらい、僕らの気持ちにも配慮してくれても良いのに。
ポロリと出る本音。ポンと肩が叩かれ、向けた先にある顔は苦い笑み。慰めてくれたナイルに笑みを返し、僕らは視線を上げた。白い髪が揺れる先へと。
「ってコトでシスター、この子たちを頼めるかな?」
「ええ。結界くらい張れるわ」
「そ?なら、任せたよ」
子どもたちがここに居る理由が父親と現王なら、その原因の半分は取り除かれた事になる。シスターを押し退けて子どもたちが無茶する事もない。そう踏んで、元公爵令嬢の修道女に子どもたちの保護を頼めば、快い返事が返ってきた。
シスターから子どもへ視線を向ければ、二人とも硬い表情ながら否定の言葉は挙らない。
それらにほんの少し安堵に胸を下げたその時、それまで大人しく黙っていた女児が「アッ!」と声を挙げた。女児の視線の先ーー現王の側にあるアーリアの身体がグラリと傾いだ。
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『反撃はできるうちに5』をお送りしました。
リュゼ視点からの2人の王子による反撃劇をご覧いただきました。
リュゼたちはアーリア救出を最大の目的にしている為、ライザタニアの内情には興味はなく、また関わる権利もありません。一時的にイリスティアン殿下の諜報員として活動していましたが、リュゼたちがその状況を利用していたのも確かなので、今は特段文句はありません。
(※因みに、リュゼたちがイリスティアン殿下の正体に気付かなかったのは、魔法による幻覚作用によるものです。)
次話、『反撃はできるうちに6』も是非ご覧ください!




