王都、クーデター2
「クーデターだと⁉︎」
瞳が剣呑の色に染まる。ライハーン将軍は座っていた椅子から腰をあげ、掴み掛からんばかりに副官へ問い質した。副官ランベックは将軍と相対する前から困惑した面持ちで、自身の持つ情報を口に出す前から緊張していた。
「首謀者は⁉︎」
「っ、それは……」
「馬鹿貴族共かそれとも神殿か?あの生臭坊主ーールスティアナ侯あたりならやりそうな事だが……てめぇのそのツラ、どうやら違うようだな?」
ギラリとライハーン将軍の野獣の眼が光る。脳筋と称される将軍だが、こう見えて知恵も回る。野生の感と呼ばれる類の知恵だが、どうしてこの様な場面では百発百中の命中率を持つ。
余程言い難い事なのか、押し黙る副官ランベックを見てライハーン将軍はハッと溜息を吐いた。
「不景気なツラしやがって。嗚呼そうか、余程愉快な答えじゃあねぇんだな……?」
腰に手を当て深呼吸一つ。ライハーン将軍は意識して感情を抑えると、ランベック少将へ向き直る。
「で、首謀者は誰だ?」
ここまでの圧を受けてもまだ沈黙する副官。その沈黙をライハーン将軍は辛抱強く待った。すると、意を結した副官は舌の根から苦いモノが滲み出るのを感じながら、今しがた得た情報を口にした。
「……軍務省長官閣下です」
途端、ライハーン将軍の目元が陰った。
「は?軍務省、長官……って………」
「ゼネンスキー長官閣下が、クーデターの首謀者だとの報告であります」
パキンと硝子の器が割れ、中身が溢れ出す。紅い雫はライハーン将軍の手を濡らした。
「ばーーバカを言え!そんなバカな事が……」
ーーある筈がない。そう口を突いては出なかった。
思い当たる節があったからだ。
ゼネンスキー長官閣下をはじめ、第二王子派閥に属する者たちは現王政権ーーいや、ライザタニア王家から少なからず辛酸を舐めさせられてきた。特に、軍務省長官ゼネンスキー長官が持つ王家への恨みは、人一倍深い事は有名だ。現王政権下、なんと現王の手によって愛する妻を殺されている。その恨みは今も晴れてはいない。
それらの内情を知っていたライハーン将軍は、ワインに濡れる指先をジッと見つめた後、嗚呼と溜息を吐いた。
「っ……アイツ、それほどまでに……!」
消化できる恨みなどない。しかし、新しい思い出で塗り重ねる事はできる。例え、何物にも染まらぬ漆黒の思い出であっても、明るい色を重ねてやる事はできるのだ。だが……
ーアイツん中の色は、変わらなかったのか?ー
時を経ても変わらず漆黒の闇に閉ざされていた。生き残った子どもたちとの穏やかな生活を送っていてさえも。
だとしたら、なんという不幸な事だろうか。
しかも、自分は近くにいながら上司のーー友の闇に気づかずにいた。いや、気づきながらも、「アイツなら大丈夫だろう」と無責任な考えでいた。
実際、ゼネンスキー侯爵は他者へ自身の復讐心は愚か、感情などカケラも見せず、勤務態度は実に勤勉で、軍務長官職と宰相職をよく勤めていた。多忙さは侯爵の顔色に少しばかりの陰りを見せたものの、それでも『鬼の長官』という姿は変わらなかった。また、朋友として見せる姿にも、これまでと何ら変化がなかった。ーーだからと、内面の変化に気づかずにいた言い訳とはならない。
誰にも気づかれぬ事なくクーデターを企てていたとすれば、それは『気づかなかった』のではなく、『気づかせなかった』ということ。それほどまでに、ゼネンスキー侯爵の中に闇が燻り続けていたという証拠だろう。
「一言、言ってくれりゃ、俺だって……」
一言声を掛けられていたなら、自分はゼネンスキー侯爵のクーデターを助けていただろうか。いや、自分の立場でそれは難しい。ライザタニア軍を預かる身として王家へ弓引けば、それこそ、引くに引けぬ争いへと突き進む事になるだろう。今の計画的内乱とは比べものにならない、争いへと。
ただでさえ他国からは軍事政権だと思われている節がある。内情を知らなければ、軍が王家へ弓引き、王家から政権を奪った様にも見えているだろう。しかし、実際そうなっていないのは、軍が王族のーー第二王子殿下の指揮下にあるからだ。
現王陛下に変わり第二王子殿下が内政の長を担っているからこそ、ライザタニアはそこまで堕ちてはいない。ただ、『今のところは』という注釈が付くが。
そこまで考えて、ライハーン将軍は顎を撫でた。伸び始めた髭がジャリっと音を立てる。
「ランベック」
「は」
「情報を集めろ。あと、此処の指揮はテメェに任せる。アチラが仕掛けて来てもマトモに受けるな。流せ。出来る限り損害を出すな。っても、アチラもマトモに仕掛けては来ねぇだろうが……」
割れたグラスを片付けていた小間使いから布巾を受け取り濡れた手を拭くと、ライハーン将軍は外套を羽織り直した。そして彼方此方と指示を出し、そのまま長剣を携えて天幕の外へ向かい足を踏み出そうとした。がその時、青い顔色治らぬままの副官が上官の足を止めさせた。
「お待ちください、閣下」
「なんだ?」
苛立ちを隠さぬライハーン将軍の威圧が副官を襲う。しかしその威圧に怯むようでは副官など名乗れない。副官ランベックは一歩進み出ると、蝋で封のされた封書を差し出した。
「……これは?」
「閣下が持ち場を放棄されるような事があれば渡すようにと、言付かっておりました」
訝しむライハーン将軍。誰からの指令なのかとの疑問を飲み込んだまま封書を受け取り、サッと封を切って中を確かめる。赤い眼球が左から右へと移動する。そして内容を確認するなりライハーン将軍は再びハッと短い息を漏らした。
「ッアンのチキン野郎が……!」
歯間に空気が通ると同時に呟かれた悪態。太い眉は怒りに吊り上がってはいるが、口元は苦虫を噛み潰したような苦々しいもの。怒りと呆れ。相反した感情が渦巻く。
「テメェの思い通りになるかよッ!」
そう吐き捨てると、今度こそライハーン将軍は外套を翻して天幕を後にした。
※※※
時は少し遡る。スループニス平原にて中央軍が東軍を迎え撃っている正にその時、ライザタニア王都王城、それも王宮の中心部にある玉座の間に於いて、対峙する人物たちがいた。
一つは、現在ライザタニアの内政を掌握せし第二王子シュバルツェ殿下とその一派。
いま一つは、王都より東方32.000キロ。ライザタニア第二の都市、東都を根城に王都を奪還せりと息巻く第一王子殿下とその一派。
そしていま一つは、本来、対面する事の叶わない双方を引き合わせた功労者ーーいや、この場合『裏切り者』であろうか、本来、第二王子殿下の傍らあるべき軍務省長官ゼネンスキー長官と彼の率いる軍人一派である。
三方は互いを牽制しつつ対峙していた。玉座を背に第二王子殿下が無表情で腕を組み、玉座を正面に余裕綽々たる表情で第一王子殿下が腰に手を当てる。その双方を丸い眼鏡越しにゼネンスキー侯爵は満足気な笑みを浮かべ眺める。
第一王子殿下、第二王子殿下、そして軍務省長官。三人三様の表情はあれど、一人として焦りは見受けられない。その事がかえって彼らの背にある一派たちの焦りの表情を浮き彫りにしていた。
「こっ、これはどういう事か、ゼネンスキー侯爵!」
耐えかねた貴族の一人が第二王子殿下の側から声を挙げた。額から汗を流し、腸詰のような脂ぎった指をブルブル振るわせながら、突然眼前に現れた第一王子殿下ら一派を指差して。
「モッドレ伯爵。どういう事かとは、何を指してでございましょうか?」
「なッ⁉︎ なな何を指して、だとぉ⁉︎」
激昂したモッドレ伯爵は唾を飛ばし目を血走らせる。太い指がゼネンスキー侯爵から第一王子へとプルプル揺れ、そして指差したのが自国の王子の一人と思い出すと、ヒッと息を呑んで押し黙った。いくら第二王子殿下と敵対する者であったとしても、忠誠を尽くすべき王族の一人に違いはないのだ。不敬はあってはならない。
「久方ぶりですね、兄上。ご壮健そうで何よりです」
「お前もな、シュバルツェ」
互いの陣営の焦りなど構いませず、先ずは弟である第二王子殿下が兄である第一王子殿下に話しかけた。話しかけられた第一王子殿下は笑みを浮かべ、輝く美貌を振り撒いた。
王都にいる貴族からすれば、第一王子殿下とはおよそ3年振りの再会である。それまで幾度も見ていた顔とはいえ、麗しい容姿には大変な破壊力があり、中には充てられたようにぽおっと頬を染める者まで出始める始末。これでは本当に王座をかけて内戦をしている相手同士なのか、眉を顰めざるを得ない。
「それにしても突然の訪問ですね」
「アハハ、そうかい?これでもお伺いを立ててから来たんだけど、君には連絡が入っていなかったかな?」
「ええ、どうにも連絡が行き違ってしまったようで。ですからこの通り、出迎えの準備ができていないのです」
「なに、そのような事を気にする必要はないよ。王城は私にとって我が家だ。出迎えの準備など必要はない。そうだろう?」
まるで茶番の様なやり取りが繰り広げられる。話している当人たちは毅然とした態度で、或いは余裕ある態度を崩す事はない。見る者が見れば、仲の良い兄弟の何気ない会話にも聞こえるだろう。しかし、周囲の者たちにとってはそう穏やかではいられない状況であった。
遠い東都で隠居の如く生活を送る傍ら、力を蓄え、王都へと反旗を翻さんと画策していた第一王子殿下が、どういう策を使ったか、王都王城、政治の中枢である王宮の、しかも玉座の間まで侵入を果たしているのだ。王都にはライハーン将軍率いる中央軍があり、また王城には王族を守護する近衛もある。いくら第一王子殿下が王族であれど、第二王子殿下と敵対勢力である以上、ここまで簡単に王城への侵入を許すというのは考え難い。誰かのーーそれも複数の手助けがあったとしか考えられないのだ。
ただ、現在、中央軍はスループニス平原にて東軍との戦いに出向いており、宰相権限下にある近衛は王族を守るにしてはごく少数しかこの場には姿を現していない。そのような采配ができ、しかも第一王子殿下を王城へ引き入れる事ができる人物。それは誰かと問われたら、この場で一人であろう。
王城から中央軍を遠ざけ、近衛の配置を采配し、王宮の警備を手薄にした人物、それは軍務省長官兼宰相であるゼネンスキー侯爵リヒャルト、その人だ。
「ゼネンスキー侯爵……!」
誰となく声があがる。自然、第二王子殿下陣営の視線は、本来、第二王子殿下の傍らにあるべき男ーーゼネンスキー侯爵へと向かう。疑惑、困惑、当惑……針の筵に立たされたゼネンスキー侯爵はそれらの視線を無視し、何食わぬ顔をして佇んでいる。
「さて、化かし合いもこれくらいにしようか!」
パンと柏手ひとつ。異様な雰囲気の中、兄弟の和やかな会話はそれ程長くは続かなかった。第一王子殿下が先に会話を切り上げたからだ。
「シュバルツェ、私が此処へ来た理由が分かるかい?」
「勿論。理由など一つしかありますまい。終わらせに来られたのでしょう?」
弟王子の言葉にニッコリと微笑む兄王子。
「そうだ。その為に彼に助力を願ったんだ。彼も、この状況が何時迄も続く事に不安を覚えているようでね?」
チラリと視線が向けられた視線はゼネンスキー侯爵へ。侯爵は光る眼鏡の奥では、意味深な笑みが浮かべられている。
現王アレクサンドルに反旗を翻して以来常に第二王子殿下の傍らにあり、自らの能力を最大限に活かしてきたゼネンスキー侯爵。三十代前半という若さから不安視された事もあったが、それも束の間、疑惑を跳ね返す実績を叩き出した。他の貴族からは鼻持ちのならない男だと思われてはいるが、彼らの文句を実績を持って跳ね除けてきたからこそ、今の一定の評価があるのだ。
だが、それもこの様な場面に立ち会えばこそ、これまでの実績や評価、ゼネンスキー侯爵を見る目も変わらざるを得ない。
第二王子殿下の片腕として尽くして来たのは、一体『何』の為であったのか。第二王子殿下の懐に入り、油断を誘い、その裏で第一王子殿下と手を組み、第一王子殿下に玉座を差し出す為のブラフだったのではないか。
騙し合いが常である貴族であっても、この裏切りとも呼べる行為には驚愕が隠せない。それは、内政官とは名ばかりの貴族であるモッドレ伯爵とその腰巾着レアン男爵も同じであった。
「き、きき貴様ァッ!第二王子殿下をーーいや、我々を騙していたのか⁉︎」
忍耐力とは程遠い所にあるモッドレ伯爵の感情は熱湯の如く沸き上がった。沈黙を保って静観し、成り行きを注視していた周囲の貴族たちが眉を顰めるのも気付かぬまま喚き出したモッドレ伯爵。背後で慌てるレアン男爵の静止も聞かぬまま、ツカツカとゼネンスキー侯爵へと詰め寄ると、胸ぐらを掴まんばかりに叫び出す。
「一体何を考えておるのだ⁉︎ まさか、シュバルツェ殿下を裏切り、イリスティアン殿下に寝返った等とは言わぬだろうなッ?」
真っ赤な顔のモッドレ伯爵をシラっとした目で見下ろすゼネンスキー侯爵。
「貴様はこれまで何の為に動いてきたのだ?全ては第二王子殿下の為、延いてはライザタニアの未来の為に動いて来たのではないのか⁉︎」
傲岸不遜。普段から国の事など小匙一杯分も考えていない模範的腐敗貴族とは思えぬ発言に、同派閥ーー第二王子殿下政権下で政治手腕を振るう貴族の数人が鼻を顰める。内容自体に問題はない。ただ、『どの口が⁉︎』との文句はあるだけで。
これまでの功績を考えれば、モッドレ伯爵よりゼネンスキー侯爵を推す貴族は多い。だからこそ、ゼネンスキー侯爵の行動には疑惑と共に興味を持って注視しているのだ。これには何かの理由があるのではないかと。
ともあれ、同派閥からの視線など気づかず、モッドレ伯爵のある意味的を得た追求は止まない。額に汗し、拳を握って自身の正当性を叫ぶ。それを止める者はない。
「あはははは!貴方にそれを言われるとは思ってもおりませんでしたよ、伯爵。ええ、ええ。これまで私はライザタニアの為に働いてきました。それは今もこれからも変わりありません」
「ならば、何故、第二王子殿下を裏切っーー」
「裏切ってなどおりません。私はライザタニアに明るい未来が来る事を信じております。ですが、『望む未来』を手に入れるには、相応の代償が必要なのです。何の代償もなく手に入るものなどないのだから……」
笑いを収めたゼネンスキー侯爵。語る表情は笑顔。それがかえって不気味さを演出している。表情を読む事に長けた者さえも、今のゼネンスキー侯爵の感情を押し測るのは指南の技。不得手な者は単純に怒りを覚えるだろう。
「代償?何を代償に差し出すと言うのだ⁉︎」
モッドレ伯爵は怒りのままに問う。すると、ゼネンスキー侯爵はそれはそれは和かに微笑んだ。
「明るい未来とは、尊い犠牲の上に成り立つものです。私はね、『始まり』をこそ糺すべきだと思っているのです」
コツーー。一歩前進したゼネンスキー侯爵に押され、モッドレ伯爵は一歩背後へと退がる。
「何事にも『始まり』があり『終わり』がある。この内乱も間も無く終わりを迎えるでしょう。しかし、それには始まりを糺す必要があるのですよ」
ゼネンスキー侯爵から放たれる威圧に押され、モッドレ伯爵の額からドッと油汗が流れる。
奥底から湧いた感情に名前を付けるとしたら、それは恐怖。
馬鹿な!とモッドレ伯爵は内心狼狽する。この様な若輩者に臆する自分ではない。
軍務省長官などと大層な肩書きを持つが、それは所詮お飾りの職。第二王子殿下に取り入り、地位を掠め取った火事場泥棒に過ぎない。第二王子殿下の威を借りるだけしか能がなく、印籠片手に慣習を無視して亜人を将軍に採用し、軍部を好き放題に動かして、遂には反旗を翻した。明らかな蛮行だ。叛逆だ。
無能者は無能者らしく、大人しく甘い汁を吸っておれば良いのだ。それを何をトチ狂ったのか、この様な蛮行に打って出た。よりにもよって、今度は敵の総本山ーー第一王子殿下に取り入って。
「何を世迷言を!貴様は甘い汁を吸いたいだけであろう?シュバルツェ殿下から吸えぬと思うたからこそ、今度はイリスティアン殿下に取り入っただけであろうが!」
自身の定規でしか他者を判断できぬモッドレ伯爵にとって、ゼネンスキー侯爵は未知の生きもの。それはゼネンスキー侯爵にとっても同じこと。ただ、モッドレ伯爵とは致命的な点があった。ゼネンスキー侯爵はモッドレ伯爵と自身との違いをキチンと理解しているという点が。
「ハハッ!これだから貴方とは相容れない。いくら説明したところで意味がない。理解できぬなら初めから相手に答えを求めぬ事だ、伯爵。馬鹿がバレますよ?」
「ナッーー⁉︎」
「『糠に釘』ならまだ我慢できます。一応、刺さっていますからね?しかし、これでは押し問答にすらならない」
やれやれと首を振るゼネンスキー侯爵。馬鹿にされたと分かったモッドレ伯爵の顔がみるみる真っ赤に染まる。口を開閉させ身体を震わせる伯爵は漸くの思いで「無礼な!」と口にすると、伯爵の目の前に鋼の切先が突きつけられた。
「ヒッ!シュ、シュバーン将軍、なな何をーー⁉︎」
「無礼は貴殿ぞ、伯爵。誰ぞの許しあってイリスティアン殿下の言葉を遮ったのか?」
「わわわ私は、この無礼者を追求していただけだ!」
シュバーン将軍の鋭利な視線がモッドレ伯爵をその場に縫い付けた。
「皆も疑問に思うておる筈ではないか。何故黙っておるのだ?私は皆の言葉を代弁したに過ぎぬ!」
モッドレ伯爵の言葉は玉座の間に木霊する。自陣と敵陣、ぐるりと周囲を見渡し、最後には縋るようにシュバルツェ殿下を見た。が、シュバルツェ殿下の視線はモッドレ伯爵ではなく、真っ直ぐゼイリスティアン殿下、そしてネンスキー侯爵を見据えていた。
「っ……!」
味方が味方ではないと分かるや、唇を噛んで視線を地へ落とす。すると、その震える肩をポンと叩く手があった。
「両殿下、私に発言の許可を頂けますでしょうか?」
渋い嗄れた声が静かに響く。
「 バルドレート公爵!」
ハッと顔を上げたモッドレ伯爵は、自身の肩に置かれた手の主を見て目を見開いた。柿渋色のローブを羽織る老貴族が、まるで初めからそこに居たかの様に立っていた。
2022年は大変お世話になりありがとうございました!
2023年もどうぞよろしくお願い致します(*'▽'*)/
『王都、クーデター2』をお送りしました。
突如、王都王城へ現れた第一王子イリスティアン殿下。
これまで国の東西で覇権争いしていた二人が、どういう意図があってか、王城にて向かい合っています。それには第二王子シュバルツェ殿下の右腕とも呼べる人物の画策が関わっているようで……?
次話『王都、クーデター3』を是非ご覧ください。




