吾輩は王である1
その日、奇跡と呼ぶには浅はかで、偶然と呼ぶには不可思議な現象が起こった。その不可思議な現象は奇跡的な出会いを生み出すに至るのだがーー……
「なんと珍妙な!鳥頭とは良く言ったものよな?フハハハハーー!」
「なんだと!? 言わせておけばこの猫風情がッ!」
「ちょ、二人とも落ち着いてっ!」
鳥は翼をはためかせ、猫は前足で応戦する。
鳥は爪を剥き出し、猫は牙を剥き出す。
鳥はぴーちく、猫はにゃーにゃー。
二匹の妖精を前に、人間であるアーリアは己の無力さに溜息を吐く。表情には「なんでこーなった?」との疑問符を浮かべながら……。
時は遡る事、二時間前ーー
「……む?むむむ?むむむむむ?? 此処は何処だ?」
その者は唐突に開けた視界を廻らせた。意識と共に停止していた思考が覚醒されていく。
ぽっかり開けた視界の先に見えるのは闇。夜の闇ではない。どこかの屋内だ。しかし、そこは上下左右どちらを向いても窓の類はなく、陽の光はおろか、灯りりをとる道具すらない。仕方なく手探りで立ち上がりジッと闇を見据える。すると、徐々に目が闇に慣れ、漸くそこが細く長い通路だという事が判明した。
「石の壁……?此処は一体……」
その者は小さな手足をバタつかせながら右へ左へと方向転換し、自身の居場所を把握し始める。
「もしや、隠し通路か?何故、この様な場所に……?いや、そもそも……」
見知った場所ではないが、知った場所ではある。だが何故、この様な陰湿な場所に自分は立っているのかという事は判らない。
その者は覚醒し始めた意識を総動員して思考を廻らせた。だが、いくら思考を廻らせようとも、その側から思考が霧散していくのには困惑を隠せずにいた。何故?と頭を傾げる事数十回。その者はウムと頷くと、通路を先に進む事に決めた。『同じ場所に立ち止まり頭を捻らしていても先の展開はない』と結論づけたのだ。
「立ち止まるのは性に合わぬ」
元来、部屋でジッと過ごすよりも身体を動かす方が好きなのだ。ーーと、自の正体すら定まらぬまま、その者は歩き始めた。
ーペタペタペタ……ー
軽い足音を立てながら歩く。時折、目印のように姿を現す神像や壁の彫刻を頼りに、迷いなく先へ先へと進み行けば、間もなく、通路の突き当たりに到達した。
「む……この扉、この様に巨大であっただろうか?」
首を大きく晒さねば視界に入らぬほど大きな扉。木製のノッペリとした大扉を前に、その者はウムムと呻くとペタリと扉に手をかけた。そしてそのままグググと力を入れていく。
「か、硬い……むむ、むむむぅ〜〜〜〜」
全身の力を掌に集結させ、身体全体で体当たりするかのように力を込める。しかし、微動だにせぬ大扉を前には、顔色もやがて曇りゆく。次第にムキになるようになり、最終的には足裏を踏ん張って動かぬ扉を押し進めた。すると、見る見るうちに頭に血が昇り、顔が真っ赤に染まっていく。
「むぅぅ〜〜!……あ、開かぬ!?」
この扉は外開きだったはず。なのに何故押せども押せども開かないのか?ーーその者はフーフーと荒い息を吐き出すと、真っ赤になった顔に困惑と憤怒の表情を交互に浮かべた。
「仕方ない。こうなれば、奥の手……!」
額の汗も渇ききらぬままそう言うと、その者は尊大な態度のまま大扉に手をつき、大きく息を吸い込み、こう叫んだ。
「おーい‼︎ 誰ぞおらぬかぁーー〜~~〜!」
その必死なび声は、若干、マヌケで情けのないものであった。だが、その者はその様な事は些末だと割り切り、力の限り声を張り上げた。
※※※※※※※※※※
机上に並べられた資料を見比べる一組の男女。十八歳に満たぬ少年少女。机上に散らばる書類を指差し、ああでもない、こうでもない、と議論を交わす。次第に白熱する討論。一見、仲良さげに見える男女だが、二人の間に流れるのは感情は愛情ではなく友情。気兼ねなく素を曝け出し、相手に意見をぶつけ合っている様は、仲の良い友人のようだ。
『何故、そなたはそれほど意地が悪いのだ?』
自身の意見を真っ向から反論され、口を尖らせた少年がそう返せば……
『殿下、貴方様の考えが甘いのですよ』
と、少女は朗らかに笑う。
語調はキツくとも、どちらの目にも相手を慮る気持ちが宿っており、それは他者から見ても分かること。
『殿下、そのような仏頂面では女性にモテませんわよ?』
『ふん、モテずとも構わん』
『あらあら……』
朗らかに笑う少女と、苦々しく眉を細める少年。そんな二人のやり取りを遠くから見つめる青年がいた。
『っ…………』
柳眉に憂いを滲ませながら背を向けるその青年は、長い小麦の髪を揺らして足場にその場を去っていく。
ーゴーン、ゴーン、ゴーン……ー
時は移り変わり、どんよりとした灰色の雲で敷き詰められた空の下、鐘の音が響く。白い石碑の立ち並ぶ庭園には黒を纏う少年の姿。表情は、暗い。
少年は真新しい石碑の前でじっと瞑目し、唇をきつく噛んだ。行き場をなくした感情。握られた拳が震える。
『……ぃ…………』
葬送の行列。その先頭を棺が行く。純白のレースを掛けられた棺の中、花々に囲まれて横たわるは先ほどの少女。見に纏うは天使の羽を思わせるドレス。この地では若くして生命を落とした少女は神の元へ嫁ぐとされ、『神の花嫁』と呼ばれる。
その純白のドレスを纏う少女の顔を見つめる少年。少女の顔を脳裏に刻みつけるかのように、ただただじっと見つめている。
ーバサバサバサ……ー
鳩が飛び立つと、更に時は移り変わる。
金泊を貼られた椅子。翡翠の床。白磁の杯。荘厳を極めたそこは玉座の間。
『お前もなのか、イリスティアン……』
怒りに任せて破られる書状。苦悩を隠さぬ美丈夫。豪奢な椅子に座す権利を有するのは、一国に一人、国主のみ。
『なぜ……何故、誰も我をーー……』
黄金の髪に埋もれ、表情は分からない。しかし、それが喜怒哀楽のどれかは想像がつく。それは凡そ『狂乱の王』が見せる類のものではない事を。
ーバサ、バサバサ……ー
白い墓石が立ち並ぶ丘陵。俯く少年の肩。儚く空に溶けそうな背を見つめる一対の宝石。
『シュバルツェ、私はお前を王にする!』
決意の言葉。俯く少年の肩を力強く掴む両手。内包された感情が爆発する。ーーしかし、互いの視線が交差する事はなく、それぞれ別方向へと向かう……。
ーこれは夢?ー
次々に移り変わる時と場。中には見覚えのある場所もある。後宮の中庭。賢王の愛した庭園。荘厳を極めた玉座。そして……
ーシュバルツェ殿下……?それに、あの人は……ー
まるで現実のようにリアルな非現実。夢の中に登場する少年、少女、青年……今よりもずっと幼い横顔、翡翠の瞳には狂気はない。けれど彼らが『誰』なのかは分かる。
ー泣いている……ー
登場する誰もが怒り、嘆き、悲しんでいる。
それぞれが幸せな未来を願っているにも関わらず、時の神は彼らを裏切り、残酷な現実を突きつける。
すれ違う視線。すれ違う想い。すれ違う心。
『……さ…しぃ…………』
ぽつり。誰かの呟く言葉。視界と共に場は移る。青一色。霧の瀑布。清水を湛える広間。その中央には今にも動き出しそうな精巧な彫刻。瀑布に濡れて、まるで涙を流しているよう。
ーこれは過去?それとも……ー
「っ……あっ……」
木漏れ日の差し込む書斎で微睡みから目を覚ましたアーリアは、現状を確認するなり一つ息をを吐く。夢から覚めても、まだ悪夢は覚めてはくれないようだと落胆して。
夢から覚め、ぽっかりと開けた瞳が写す光景は、今ではもう見慣れたもの。古いインクと紙の匂い立ち込める書斎。此処はアーリアが敵国にあって唯一安らげる場所であった。
ふぁあーーとても年頃の乙女とは呼べぬ欠伸顔。ぐうっと天井にむけて腕を伸ばしたアーリアは、欠伸を噛み殺す事もせず大口を開けた。それはとても年頃の乙女とは呼べぬ間抜けヅラであったが、此処にはそれを咎める者はいない。つい先日、『イタイケな侯爵子息たちを誑かす』という事件を犯したにも関わらず、室内には魔女を見張る騎士もいない。どうやら、うたた寝をする魔女に気遣って、退室しているようだ。
「えっと、あれ?どこまで……」
アーリアは長椅子の下へ落としていた本を拾うと、徐にパラパラと頁を捲った。文字に紛れて挿絵がチラチラと入っている。人型のモノや獣型のモノ、羽を持つモノや長い耳を持つモノなど形態は様々だが、そのどれもが力ある妖精であった。そして、妖精の姿に紛れて花のような幾何学模様が描かれている。それらの模様に指を這わせば、ザラリとした感触がある。インクが盛り上がっているのだ。
「ライザタニア古語で描かれた魔術方陣、さすが妖精王国だよね?もしかすると、魔術の歴史はシスティナよりも古いのかも……」
うっとりと眺めるアーリアに、最早、先程まで見ていた夢への探求心はない。泡沫の夢は覚醒と同時に霧散してしまっていたのだ。
アーリアは鞣革で装丁された本を閉じると、そっと表紙に手を添えた。厚みのある書籍。年季を感じさせる滑皮の色。その味のある色味に魅力を感じてならない。
ーカリ、カリカリカリ……ー
百年以上も前に作られた書物をうっとりと見つめていたアーリアであったが、何処からともなく聞こえるカリカリっという怪音にハッと顔を上げた。
まずは左右上下に目線を動かし、そして首を大きく廻らすが、音の発生源が分からない。気のせいかと息を吐くと、すぐまたカリカリと何かを爪で引っ掻く音が聞こえ出す。
「何の音?まさかネズミ、とか……?」
厳重な警備を極めた王宮。大勢の使用人が仕え管理する王族の住まいに、害虫の類が入り込めるものだろうか。そう思えど、一度芽生えた疑惑に思わず腰を上げたアーリアは音の鳴る方へ耳を傾けた。シンと鎮まる室の何処からか聞こえる音。アーリアは興味本位のまま音の鳴る方へと足を向けた。
天井まで届く本棚の間をそろりそろりと歩み行き、着いたその場所。そこは数日前、侯爵令息アベルに連れられて訪れた本棚のーー隠し通路への入り口の前であった。
「えっ……ココ?」
アーリアは懐疑的な目で本棚を見つめる。
アベルとソアラとの探検は、日が経つにつれアーリアにとって苦々しい思い出になりつつあった。自身が押しに弱い性格だとの自覚はあったものの、まさか、あのように無垢な子どもの言葉にも押し負けてしまうなど思ってもいなかっただけに、アーリアは自身の性格の弱さに愕然とし、そして反省する前に諦めた。『意識改革などというものは急にできるものではない』として。
アーリアは侯爵子息たちを誑かした魔女ではあったが、あの愉快な事件以来、それほど警備が強化された訳でもなく、周囲の変化も然程なかった。ほんの少し監視の目が強まっただけで、あとは普段通りの警備、普段通りの日常、普段通りの食事、普段通りの軟禁生活……アーリアが首を傾げる程に変化はない。どうやら第二王子殿下を含め周囲の者たちは、捕虜である魔女が暴動の末逃亡する恐れなどない、と考えているようであった。
「まさか、でも、うーん、やっぱりこの奥から聞こえる……」
身を屈めたアーリアは、片耳を本棚に預けて耳を澄ませた。すると可動式の本棚の奥からカリカリと木を引っ掻くような音と共に、ニャーという仔猫の鳴き声のような声が聞こえてくる。
「ね、猫ぉ?うそっ!どうやって入り込んだの?あ、もしかしてあのとき……?」
アベルたちと共に隠し通路に入り、通路の先、外界へと続く扉を開けて庭園へと出たあの時ではないだろうか。あの時、暫くの間、扉は開け放たれていた。あの扉から野良猫でも入り込んだのではないか。
そう考えたアーリアは顔を真っ青にした。
あれからもう数日もの時が経過している。もしも本当に野良猫が入り込んでいたとしたら、飢餓状態に陥り、そろそろ生命の危機に差し掛かる頃ではないか。
「どうしよう。開けたら……ダメだよね?」
前科一犯。頭を過ぎる文字に目を眇める。
アーリアは腕を組み、眉に似合わぬシワを寄せてウンウンと唸ると、隠し通路へと続く本棚の前を右へ左へ、左へ右へと足を運ばせた。
「ほ……ほんのちょっと開けて中にいる猫を出すだけなら、大丈夫だよね?抜け出そうってワケじゃないんだから」
そうだ。それなら大丈夫。前科二犯にはならないハズ。ーー誰に言う事のない言い訳に一人納得のアーリア。アーリアはウンと一つ頷くと本棚に向き直り、目当ての本を見つけるとそっと指を掛けて手前に引いた。
カチャンと小さな金属音が一つ。同時に本棚の一部が奥へと動く。重量のある本棚は滑らかに横滑し、人ひとりが通れる程の空間が開かれた。
「えっと、猫はどこにーー……わわっ!」
突然、目の前が真っ暗な影が落ち、フワフワとした毛が鼻先を擽ぐった。身を屈めて闇に包まれた通路に目線を送っていたアーリアは、自身の顔目掛けて飛び掛かってきたソレに驚きの声を上げた。
押し掛けられた勢いで後ろのめり、床に腰をついたアーリアは、ソレに両手で左右から挟むと、ベリッと顔から剥がした。
「か、可愛いぃ〜〜!」
長い艶やかな黒毛。毛足の長い尾。青く粒らな瞳。ピクピクと鼻を動かす素振りが何とも愛らしい。アーリアは家犬ほどの大きさのあるソレを抱き上げると、ぎゅうっと小さな胸に押し抱いた。
「わぁ、すっごくふわふわ!」
可愛い可愛いと声を上げながら、アーリアはソレに顔を押し付ける。綿毛のように柔らかな毛に手を這わせば、思ったよりもひんやりとした体温が掌から伝わってきた。
一方、見知らぬ少女に猫可愛がりされたソレはニャーッと抗議の声をあげる。だが、興奮したアーリアにその声は届かない。すると、ソレは耐え兼ねたとばかりに再度非難の声をあげた。
「〜〜にゃ、にゃにをするか、小娘っ!」
「喋った!?」
「喋らないでか!」
青い眼を見開き牙を剥いたソレに、アーリアの腕の力が緩んだ。すると、ソレはその隙を突いてアーリアの腕から逃れた。ストンと軽々とした動きで床に脚をついたソレは、クルリと身を翻すと、毛繕うように腕をペロリペロリと舐めた。
その様子を床に両手を付いたアーリアはマジマジと見つめる。ーーいや、舐め回す如く上下左右と視線を送り込んだ。
「タダ猫じゃない?もしかして、ルツェ様が猫の姿に化けて……?」
「なに、ルツェだと?人違いも甚しい!」
「え、人違い?」
そもそも『人違い』ではなく『妖精違い』。
アーリアはその猫ーーいや、猫もどきをしげしげと眺めていると、そのアーリアの態度がお気に召さなかった猫もどきはフンッと鼻息あらく顎をしゃくり上げた。その上、腰に当たる部分に手をつき、剰え後脚二本で立ち上がると、床にへたり込む少女に向けて怒鳴りつけた。しかも、聴き間違えを疑う余地を許さぬ人語を用いて。
「無礼者め!我が誰かも分からぬのか!?」
「……?えっと。その、分からないかなぁ……」
「にゃにィッ!?」
「だだだって!猫に知り合いはいないものっ」
鳥にはいるけどーーと続くアーリアの言葉に、猫もどきはハタッと表情を停止させ、次の瞬間には苦虫を噛み潰したように眉根に当たる部分を顰め、不快感を露わにした。
「は?ねこ……?猫だとォッ⁉︎」
「ええ。猫さま、貴方は誰?」
「にゃっ……!?」
アーリアの問いを無視して、ソレーー妖精猫は叫んだ。混乱する自身の頭を両の肉球で挟むと、夢よ覚めよとばかりに激しく頭を振った。
その様子に「ちょっと待っていて」とアーリア。言うや否や駆け足で隣の部屋へ。すぐに引きかえしてきたアーリアの手には、大振りの手鏡があった。
アーリアは混乱し震える黒猫へむけて「ほら!」と鏡を差し出した。
「にゃんと!本当に猫の姿ではにゃいかッ⁉︎」
その姿はまるで妖精猫。美しい毛並みをした美猫であった。
ケット・シーは妖精族の中では割とポピュラーな部類に入る。人語を話し二本足で歩く上、どうやら彼らの国では王制まで布いて生活しているらしい。中には言葉を操る者もおり、交流を持った人間たちは、彼らの知性から高等な教育水準にある事を察して驚いたとの記述がある。姿形は小型犬くらいの大きさで、毛足の長い黒毛を持ち、胸に大きな白い模様があると一般的に記されているが、本によっては虎猫や白猫、ぶち猫など様々な姿で描かれる事もある。
「うむぅ、どこからどう見ても猫……?しかもにゃんだ?この言葉は……??」
妖精猫ふりふりと毛足の長い尻尾を振りながら、鏡の前でクルリクルリと回転する。そして、自身の言葉に違和感を持ったのか、口を大きく開けて「にゃー、まー、なー」ナドと発生練習をし始めた。
アーリアは鏡を胸の前に掲げながら、自身の姿に混乱している妖精猫の様子をジッと観察した。そして自身の不運ーーライザタニア絡みの案件ーーの度に現れる亜人族の存在に慣れを感じ始めている自身に苦笑する。妖精犬、黒竜、赤鳥に続き、妖精猫に出会うなんて、ついているのかいないのか、頭を悩ませる事案だと。
ーそれにしてもつくづく不思議ー
妖精族には人間と触れ合って生きるモノとそうでないモノとがいる。だが、小人妖精や家事妖精など、人間の生活に触れ合って生きる妖精の方が稀だ。亜竜や大蜥蜴など、人間に危害を加える妖精は魔物の仲間だと位置付ける事もあるほど。知性ある竜族やエルフであっても、人間の生活とは隔絶した世界で生きるモノの方が圧倒的に多い。妖精族がーーというよりも、人間の方から離れているのだ。彼ら力あるモノたちを怒らせないようにと。
人間と妖精族とは生き方そのものが全く異なる。性質が異なるのだ。勿論、価値観も異なる。寿命、生命力、性質、生活基盤、食事、繁殖……その他様々な事柄に於いて重なり合う事のないモノ同士は、永劫、折り合う事などない。妖精族の種類は数多あれども、人間と関わり合いを持つ妖精は『物好き』だと言わざるを得ない。
「あの、猫さん……?」
「何だ?」
どうにか人心地ついたの様子の妖精猫に向かって、アーリアは声をかけた。すると、妖精猫は「まだ居たのか?」とも云わんばかりの剣幕を浮かべ、かなり尊大不遜な態度で顔を上げた。
「私はアーリア。アナタは誰?」
すると、妖精猫は手を腰に当て顎を下げると、こう宣った。
「我が名はアレクサンドル、ライザタニアが国主である」
ーーと。
お読み頂きまして、ありがとうございます!
ブックマーク登録、感想、評価などありがとうございます!本当に嬉しいです!!
『吾輩は王である1』をお送りしました。
囚われの身であるにも関わらず、アーリアの下へ転がってくる不思議の数々。人の言葉を話す鳥に次いで、人の言葉を話す猫が現れました。しかも、その不思議な猫は、自らを『ライザタニアが国主』と名乗っており……?
次話『吾輩は王である2』も是非ご覧ください!




