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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と狂気の王子(上)
313/500

尋問には温かい紅茶を

 

 ードンッ!!ー


「オラッ!さっさと吐かねぇか!? ネタは上がってんだ。もう言い逃れはできねぇぞ」


 アーリアは机を叩く音にビクリと肩を震わせた。目の前に迫る猛禽類の眼光。鳶を思わせる赤褐色の瞳。机上に置かれた節榑た大きな手、自分の太腿よりも太い腕に疾るこれまた太い血管。触れてもいないのに感じる体温。


 ー熱量カロリー消費高そう……ー


 自身を取り巻く状況とは明後日の考えがアーリアの脳内を過ぎる。虎に睨まれた子兎。今にも捕食されてしまいそうな状況にありながら、アーリアの精神は何処か落ち着いていた。


 第二王子殿下の宮に監禁されてから十数日。この日、捕虜アーリアの『尋問』が行われてようとしていた。

 朝方ーーそれも朝食モーニングの最中、第二王子殿下より紅茶片手に連絡を受けた後も、アーリアは自身への尋問がなされる事について、さしたる驚きを持たなかった。寧ろ、『漸く、本来あるべき対応に戻るのか』とさえ感じた程であったのだ。

 アーリアはライザタニアが喉から手を出るほど欲しがっている国のーーシスティナの国境を守る魔女。国防の秘密を抱える魔女を誘拐し捕虜としたのだから、本来ならば真っ先に尋問が行われて然るべきなのだ。敵国の魔女から国境を突破するに必要な情報を聞き出す事こそ、システィナ攻略の為の必至事項。にも関わらず、これまでアーリアには余程捕虜とは名ばかりの扱いを受けていた。牢獄に繋がれる事なく、それどころか綺麗な寝床が用意され、三食の食事まで提供されていたのである。しかも、枷こそ嵌められているとはいえ、日中は放し飼い状態。監禁された部屋から出なければ、極論、何をしていても咎められはしない。三食昼寝付きーー但し、自由はないーーが、現在に於けるアーリアの置かれた状況だった。

 だが、この日になって漸く敵国の捕虜らしい対応が取られる事となった。軍務省の管理下、捕虜の尋問を執り行うというのだ。


「……発言をよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「これは『尋問』なのですよね?」


 温かな日差しの差し込む談話室サロン。机上に置かれた美しい銀食器。香り立つ紅茶。銀の皿に置かれた色とりどりのマカロン、クッキー、チョコレート、プディング……。色鮮やかな季節の花が生けられた花器。ライザタニア特有の紋様刺繍が施されたタペストリー。

 ふかふかのクッションが置かれたソファの真ん中に座らされたアーリアは、熱量の高い大男から視線を晒すと、眼前で優雅に茶器を傾ける黒髪青年の顔を凝視した。


「ええ、尋問ですよ。現にその男は貴女に詰め寄り、詰問しているでしょう?」


 確かにと頷いたアーリアは視線を青年から筋肉隆々たる男へと向けた。

 年齢は青年と呼べるギリギリの年齢ーー三十代前半ほどだろうか。黒い軍服。胸に光る勲章。緻密に編まれた金の刺繍。宝石があしらわれた飾り房。平軍人が着る簡素な軍服でない。部屋の扉と窓付近に立つ騎士から向けられる視線からも、この男が只者では無いという事は明らかだった。

 アーリアの小さな肩を背後から覆い被さるように手を伸ばした大男は机上を叩き、敵国の魔女を脅した。『真実を話せ』と。しかし、何の前触れもなく叩きつけられた台詞に対して、アーリアは困り果てていた。『何を話せば良いのか?』と。


「あ……えっと……?」

「お気になさらず」

「はぁ……?」

「ただの芝居ですから」

「芝居?」

「ええ」


 困り果てたアーリアが瞬きを繰り返していると、眼前の紳士は優雅な所作で茶器を下ろし、眼鏡の位置を直しながら答えてくれた。一見すると文官のようにも見える紳士。だが、その隙のない身のこなし、貴族服の裾から覗く逞しい腕から、恐らくは文官ではなく武官もしくは軍人だろうと判じた。このように眼鏡で武力を擬装カモフラージュしている騎士を幾人か知っていたからだ。


「ハハハッ!気にするな。一度、言ってみたかっただけだ」


 獅子のような金の髪が揺らめいだ。大男の厳つい表情で睨みつけてきていた視線が和らぎ、口元にはニカッと笑みが浮かぶ。すると、それまでは何だったのかと思うほどに、パッと大男から威圧感が消えた。

 大男はゆらりと上体を起こすと机上から手を離し、その大きな体躯からは想像できないほどの柔らかな動作で椅子を引き、ドカリと腰を下ろした。


「全く……一体、何を始めるのかと思えば、どんなオドシ文句ですか、ソレは。小説の読みすぎではないですか?」

「うるせぇよ、眼鏡。尋問といやぁ、あの台詞セリフだろうが?」

「あれでは『尋問』ではなく『取り調べ』ですよ。これだから脳筋は困ります。我が国の軍人が皆、貴方のような脳筋ばかりだと思われたら、どうします?」


 手枷を嵌められ、更には首には《隷属》の輪まで嵌められ、監禁されている宮から軍務省まで連行されてきたアーリアを待ち受けていた二人の軍人。アーリアは、互いを『眼鏡』『脳筋』と呼び合う二人の軍人に覚えがあった。狂気じみたあの夜会にて、顔を合わせた者たちであったからだ。


「おら、手ぇ出せ。それじゃ紅茶も飲めねぇじゃねぇか」

「えっ……私は、捕虜で……?」

「イイから、ホラッ!」

「あ、はい……」


 隣の席に腰を下ろした大男は、アーリアの手をやや強引に取ると、アッサリと手枷の鍵を外した。


「細っこい手だなぁ……?お前ぇ本当に『国境線ラインの魔女』なのか?俺はてっきり、杖を振り回す大女かと……」


 手枷で擦れて赤くなった手首をゴツゴツとした大きな手が擦った。普段から武器しか握らぬ武骨な手。その手が今は、アーリアの手首を壊物を扱うように握っている。


「あーーコホン。セクハラですよ、ライハーン将軍」

「なッ⁉︎ よりにもよって性的虐待セクハラだと⁉︎」


 ジト目を向けられ注意喚起された大男ーーライハーン将軍はバッと手首から手を離すと、眼鏡の紳士へと噛みついた。その姿はさしずめ『牙を剥いて吠える獅子』であろうか。釣り上がった目がギラギラと怒りに燃えている。


「捕虜である女性に淫らな行為をするなんて……これだから野蛮な軍人は困ります」

「コレのドコが淫らな行為だ⁉︎ それにお前も『野蛮な軍人』だろうが!」

「『お前』とは何ですか?長官とお呼びなさい。私は仮にも君の上官なのですよ」

「うるせぇ!誰が好き好んでお前の部下なんかになるか!」


 ダンッ!と再び机に置かれた手。その振動で机上の食器がガタリと動く。アーリアは耳元で発せられた大声に肩を竦め、反射的に耳に手を置いた。すると、ライハーン将軍はそんなアーリアの姿を見てバツの悪そうな表情を浮かべ、浮かせていた腰をそろそろと下ろした。


「すまん。耳元で煩かったか?」

「だ、大丈夫です……」

「なら良いが……。あぁ、その首のは取っちゃならん事になっていてな……俺は取っても問題ねぇと思っているのだがな?」


 ライハーン将軍は自身の体躯よりも一回りどころか二回りも三回りも違う少女アーリアを、頭の天辺てっぺんから顔、耳、首、肩……と順に見下ろしていくと、最後には首につけられている金の輪に視線を定めた。それは、捕虜や囚人の自由を奪う為の道具ーー《隷属》の魔術が込められた魔宝具マジックアイテムであった。

 ライハーン将軍は敵国の捕虜とは云え、こんな年端もいかぬ少女の首に《隷属》の魔宝具などつけぬとも良いのではないかと思っていた。このような道具でわざわざ自由を奪わぬとも、自分一人が在れば、少女の動きなど幾らでも止められる筈だ、と……。しかし、上官である眼鏡の紳士の口から出るのは「規則ですから」の一点張り。


「規則規則って……ったく、これだから頭の固い制服軍人はッ!」


 思考するより先に身体が動くタイプの将軍ライハーン。将軍は常日頃から、口先ばかりで戦場に立たぬ制服軍人相手には、愚痴を溢しがちであった。それが例え長官ゼネンスキーが口先だけでない軍人おとこだと判っていてもーーいや、長官の言葉だからこそ、まるで己が実力チカラを疑われている様な言い草には、どうにも腹が立ってならないでいたのだ。


「彼女は仮にも敵国のーー失礼、隣国システィナの誇る『塔の魔女』。この細い体躯の何処ドコにその様な力が隠れているのかは分かりませんが、侮る事などできませんからね」


 慎重論を唱える眼鏡の紳士。自身の眼前に在る少女は、ライザタニア国内に於いて悪の代名詞『国境線ラインの魔女』との異名を持つ魔導士。ライザタニアとシスティナとを繋ぐ国境線に、どれだけの衝撃を与えようと破れぬ強固な《結界》を築いた魔女に対して、紳士は畏怖と畏敬の念を抱いていた。だからこそ紳士は、眼前の少女がいくらか弱そうに見える容姿を持っていたとしても、侮る事など出来ないと考えていた。


 敵国の魔女を注意深く観察する複数の瞳に、アーリアは内心ビクビクしていた。捕虜らしからぬ扱いーー客人扱いを受けていた間にすっかり調子の狂わされていたアーリアであったが、なにも客人扱いに対して憂いているばかりでもなかった。


 ー痛いのも辛いのも嫌だものー


 アーリアは実に人間らしい感情を抱いていたのだ。

 頭の片隅では『捕虜らしい扱いをされるべきだ』と考えながらも、周囲を敵に囲まれた状態で衛生面や安全性に不安のある牢屋に入れられる事態は避けたいとも考えていた。何より、もう、侍女たちから受ける拷問モドキはもう懲り懲りであったし、それ以上のーー生命に係わる拷問も勿論遠慮願いたかったからだ。


「オイ」

「は、はいっ」


 尋問官である軍人たちの一挙一動作にビクビクしていたアーリアに、ライハーン将軍の赤褐色の瞳が向けられた。


「お前、名は?ーーおっと、相手に名を尋ねるのならば、こちらが先に名乗らればならぬな?俺はジークムント・リュィス・ライハーン。将軍の一人だ。で、コイツはーー……」

「リヒャルト・ラーナ・ゼネンスキー。この軍務省の長です」

「軍務長官と将軍閣下……?」

「捕虜の尋問を行うには、最適な人選でしょう?」


 イヤイヤイヤとアーリアは首を横に振りたい気分だった。捕虜の尋問など、本来ならもっと下っ端の仕事ではないだろうか。なのに、自身の取調べを担当するのが軍務省長官と将軍だという。豪華すぎる面子メンツを視界に捉えたまま、アーリアは呆然と口を開閉させた。

 尋問すると連絡を受け連行された部屋が地下の牢獄ではなく豪奢な扉の部屋だった時から、何かオカシイと考えていたアーリアも、まさか、このような豪華な面子メンツに対面するとは思ってもいなかったのだ。


「で、お前の名は?あ、コレは尋問だからな。素直に答えた方がイイぞ?」

「尋問、ですか?」

「そうだ。なんだ?痛ぶって欲しいのか?」

「い、いえ……!」

「なら、素直に質問に答えるんだな」


 漸く行われる尋問らしい問答に、アーリアは乾いた口を動かした。


「アーリア、です……」

「アーリアさんですか。捻りはないですが、良い名ですね?」


 感想を口にしたのは眼鏡の紳士。貶されているのか褒められているのか判断つかぬアーリアは、少し押し黙ってから「ありがとうございます」と答えた。


「ご職業は?」

「魔導士を少々……」


 まさかこの場で本業である「魔宝具職人マギクラフト」だと答える訳にもいかず、取り敢えず無難に「魔導士」だと答えたアーリアに、ライハーン将軍は「ハッ、少々だってよ!」と乾いた笑いを漏らす。


「あの《結界》は、お前が側にいなくとも発動していると聞く。本当にお前が()()塔の魔女なのか?」

「……違うとお思いなら、私をシスティナへ帰してください」


 自身の容姿みためから猜疑心を向けられるのには慣れていたアーリアも、今回ばかりは、『偽物』だ『人違い』だと思われるのも良いのではないかと考えた。しかし、その甘い考えも一瞬で泡と消える。ライハーン将軍が「それはできん。すまんな」と即座に謝罪を口にしたからであった。ちぇ、と内心舌を出すアーリアに、今度はカップをソーサーに置いたゼネンスキー長官が尋ねてきた。


「この髪は生まれつきですか?」

「……はい」

「このも?」

「……はい」

「では、貴女は『システィナの姫』ですか?」

「……いいえ」

「そうですか」


 紳士からの淡々とした質問にアーリアも淡々と答える。ジッと見定めるように向けられる視線に背を冷やしていたアーリアは、ゼネンスキー長官の反応があまりに淡白だった為にオヤ?と首を捻った。


「信じるの……ですか?私の言葉を」

「ええ、ある程度は」

「……」

「不思議な表情かおをなさっていますね?強引な尋問をーー拷問されないのがそれ程不思議ですか?」


 アーリアは「そうです」と答える代わりに僅かに首を下げた。すると、ゼネンスキー長官は長い脚を組みなおし、手を胸の上で組み合わせると、不敵な笑みを浮かべて説明し始めた。


「『塔の魔女』アーリア。貴女はどれだけ痛めつけられた所で真実など語らないでしょう?貴女は自身の矜恃ゆえに口を黙み続ける。真実を漏らすくらいなら死を選ぶ」


 だから拷問などしても意味がないーーそう語るゼネンスキー長官に、アーリアは同意した。捕虜らしく痛みを伴う拷問を受けた所で、アーリアは一言も話す気はなかった。それは、襲撃者たちに攫われた直後より決めていた事であり、そして未だ、その決意を覆してはいなかった。


「試しに尋ねてみましょうか?ーー魔女アーリアよ、『国境の結界を解く方法を教えなさい』」


 アーリアの表情と行動を見定めるように、ゼネンスキーの瞳が光る。次の瞬間、アーリアは口を大きく開けていたーーー


 ーガリィッ!ー


「いっーー噛みやがった!」

「ん、んっーー⁉︎ んーー!」

「暴れんな!お前の覚悟は分かった」


 舌を噛み切ろうと動かしたアーリアの口を、隣にいたライハーン将軍が阻止した。

 迷うことなく魔女アーリアの口の中に自身の指を二本纏めて突っ込み、指を噛ませる事で魔女の自死を止めると、将軍は指を噛まれながらも暴れる魔女の身体をぐっと押さえつけた。そして、噛まれた痛みを我慢しつつも決して魔女の口から指を放さず、魔女が落ち着くのを辛抱強く待った。


「んんーーはっ、い、ん……っ!」

「落ち着け……そう、良い子だ……」


 口の中にある太い指に餌付くアーリアの背を、ライハーン将軍の武骨な手が優しく摩る。苦しさから涙を零すアーリアの口からそろそろと指を抜き去ると、摩っていた手で涙の流れる頬を拭いた。


「ごめ……ご、めん……なさい。傷、が……」

「なぁに、大した事はない。舐めときゃ治る」


 アーリアは落ち着きを取り戻すと、直ぐにライハーン将軍の指へと視線を落とした。舌を噛み切る為に思い切り口を閉じた為、ライハーン将軍の指にはくっきりと歯形が残り、血まで滲んでいた。


「……本当にごめんなさい」

「いい、気にするな。悪ぃのはコイツだ。嬢ちゃんの覚悟を試したんだからな」


 ライハーン将軍は右手からアーリアの唾液と自身の血で汚れた白手袋を脱ぐと、控えていた従者に渡して捨てさせた。そして、代わりに手渡された布巾で血を拭うと、口実通り、ペロペロと舐め始めた。


「申し訳ございません。貴女の覚悟を甘くみていましたね」


 ゼネンスキー長官もまさか、自身の不用意な挑発ことばで捕虜の魔女が即座に自死を実行するとは思ってもおらず、見えぬ所で僅かに汗を流していた。この場で本当に魔女が死んでしまっていたものなら、主君である第二王子殿下に申し開きができない。加えて、ライザタニアとシスティナとの関係は、修復できぬまでに崩壊したであろう。


 ーそれに、帝国とも……ー


 訪れるかも知れぬ未来に思考を奔らせたゼネンスキー長官は、思わずブルリと背を震わせた。自国の内乱が片付く間もなく、魔導国家システィナ精霊帝国エステルとに挟み撃ちにされる未来を予測してしまったのだ。魔導国家システィナだけでも厄介だというのに、そこへ精霊帝国エステルが加わるともなれば、ライザタニアは一夜を待たずして地図上から消え去るだろう。それ程に、帝国の執念深さは大陸では有名なものであったのだ。


「さぁ、召し上がってください。殿下から甘い物がお好きだとお聞きしましたよ?」


 ゼネンスキー長官はホッと息を吐くと、気分を変えるように眼前の魔女へと言葉を投げかけた。気を利かせた部下が覚め始めた紅茶を入れ替えたのだ。


「殿下……シュバルツェ殿下から?」

「ええ。今の貴女は、殿下の飼い猫ですからね」

「……不本意です」

「でしょうとも。ですが、本来捕虜とは不本意な状況に置かれるものです」


 せめてとばかりにライハーン将軍の指の傷口を清潔な布で押さえていたアーリアは、ゼネンスキー長官の言葉にやんわりと頷いた。


「毒など入っていませんよ?」

「毒を盛るより首を捻る方が早い。こんなに細っこい首から一瞬で折れる」


 傷のない左手でアーリアの首を掴む仕草をしたライハーン将軍に、「コラッ!脅してどうします?」とゼネンスキー長官の叱責が飛ぶ。ライハーン将軍は上官からの叱責を無視すると、「もう大丈夫だ」と自身の右手からアーリアの手を下ろした。アッと声を上げるアーリアの頭をライハーン将軍はポンポンと叩いた。

 ゼネンスキー長官に促されたアーリアは、「いただきます」とカップを取ると、恐る恐る口をつけた。


「……美味しい」

「それは良かった」

「嬢ちゃん、こっちのも食え。甘いぞ?」

「あ……はい」

「お前は細すぎるな。食わねば大きくなれんぞ?」

「なりませんよ?成長期、終わってますから」

「なにぃ?未だ成人してねぇだろう?ーーえ?は?18?そりゃあ、すまねぇな」


 小鳥に餌をやるように、ライハーン将軍はアーリアの口の中に小さなマカロンを放り込んだ。口の中でホロリと溶ける甘いマカロンに目を輝かせていると、また、ゼネンスキー長官とライハーン将軍の言い合いが始まった。


「女性に年齢を聞くなど……これだから脳筋は!」

「うるせぇよ」

「だから貴方は何時迄経っても独身なのですよ」

「関係ぇねぇだろ!お前こそ、女っ気がねぇじゃねぇか?」

「私は良いのです。可愛い娘と息子がいますからね」

「ハンッ。コレで父親たぁな、世も末だ……!」


 二人の遣り取りを見ていたアーリアは、尋問中という事を忘れてクスクスと笑っていた。まるで夫婦めおと漫才かのように交わされる会話。放っておけば何時間でも続くのでは……と、自身の立場も忘れて、アーリアは久しぶりの笑みを浮かべていた。


「嗚呼、やはり女性には笑顔が似合いますね」

「あっ……!」


 ゼネンスキー長官の指摘に、アーリアは思わず俯いていた。しかし、ゼネンスキー長官はそっと手を伸ばすと、アーリアの頬に手をかけて、ゆっくりと上向かせた。


「俯く必要などございません。この場には、貴女を害する者などおりませんから」


 顔を紅色に染めた魔女アーリア表情は、そこいらの少女となんら変わらぬもの。年相応の表情を見せるアーリアに、尋問官たちは漸く胸を撫で下ろした。


「さぁ、尋問アフタヌーンティーは始まったばかりですよ。武骨な軍人では役不足かも知れませんが、暫しの間、ゆるりと語り合おうではありませんか?」


 尋問アフタヌーンティーには温かいミルクティーが相場が決まっています。そう続くゼネンスキー長官の言葉に、アーリアはカップから立ち上る香に視線を下ろした。



お読み頂きまして、ありがとうございます。

ブックマーク登録、感想、評価など、とても嬉しいです(*゜∀゜人゜∀゜*)♪


『尋問には温かい紅茶を』をお贈りしました。

第二王子殿下の側近たちによる捕虜の尋問。その方法は少々変わった形で行われました。普通の尋問ではないだろうと考えていたアーリアも、まさかアフタヌーンティーに招待されるとは思わず困惑気味です。


次話『尋問には温かい紅茶を(余談)』を是非ご覧ください!



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