子猫の飼主1
善意は悪意よりも厄介だ。アナタの為、国の為、家族の為、愛する人の為……そう言いながら『善意』を前面に押し出してくる。そして、そのような善意を持って行動する者は一様に、相手の都合など構いはしない。善意とはその人にとっては『正しい』行い。だからこそ、相手が自身の示す善意に拒否感を表すなどとは、考えてもいないのだ。それほどに身勝手な感情ーーそれこそが、善意の本質ではないだろうか。
アーリアもその様な善意の恐ろしさに、漸く気づくに至っていた。
「治療士がくる」
今日も今日とて顔だけは一流で無駄にキラキラしいモノを振りまきながら現れたシュバルツェ殿下に、アーリアは「そうですか」とだけ言葉を返した。というのも、シュバルツェ殿下が自分の体調に気にかける理由が『優しさ』からではないというのを、重々理解していたからだ。
狂気の王子たるシュバルツェ殿下がアーリアの体調を気にかけるのは、ただ単に『死なれては困る存在』だからだ。殿下にとってアーリアとは『自身の政策に必要な小道具』に過ぎず、その小道具か必要となくなるその時まで、五体満足で生き永らえさせておく必要が彼にはあった。だから気にかける。大事な武器が壊れぬように定期点検するのと同じ用件なのだ。
それは果たして善意からの行動だろうか。いや考えるまでもなく否だ。凶王子との渾名を持つシュバルツェ殿下の行動に限って、善意や悪意などという可愛らしい言葉だけで片付くはずが無い。
『第二王子シュバルツェ殿下』という人物像を測りかねているアーリアからしても、『悪意があるから』と言われた方が幾分も精神的に楽だった。
「何を他人事のような顔をしておる?治療士はソナタの身体を診るのだぞ」
「は……?結構です」
アーリアはあっさりと断りを口にした。これは罠に違いないと即断したのだ。しかし、シュバルツェ殿下はアーリアからの拒否反応を不満に思ったようだ。眉根を険しくさせると視線から放つ威圧を強くした。
「結構な事があるか。貴様、全く食欲が戻らぬではないか」
「え……でも、結構です」
アーリアは確かにと思った。しかし、死ぬほどではないとも思った。一瞬思案した後、アーリアは再度断りを入れたのだが、どうやらその事が余計に狂気の王子の琴線に触れたようであった。シュバルツェ殿下は何故かムッとした雰囲気を醸し出し始めたのだ。
「因みに貴様に拒否権はない」
「なら、始めから聞かないでください!」
「何を勘違いしておる?貴様の意見を伺った訳ではない。我は『治療士がくる』と連絡しただけだ」
どの組織に於いても報告・連絡・相談は重要だ。しかし、この二人の間にあるのは一方通行の連絡のみ。相談などありはしない。そう分かっていても良い気分になる訳もなく、アーリアはぐぬぬと唇を噛んで恨めしげにシュバルツェ殿下の顔を見上げた。
「呪具さえ外してくだされば、自分で治癒魔術をーー……」
「却下だ」
「な⁉︎ 最後まで言ってない……」
「魔力が回復した途端に黒コゲにされては敵わん。しかも、後宮どころか王城をも破壊されかねん」
「それはその…………」
「なんだ、ズボシか?」
シュバルツェ殿下はジト目のアーリアを鼻で笑う。
「だ、大丈夫ですよ?」
「全く信頼できん『大丈夫』だな?」
「お世話になった方には、迷惑かけないようにしますから」
アーリアの言う『お世話になった方』とは、この後宮へ押し込められてからアーリアの世話を申し付けられている者の事だった。彼らもまたアーリアを拐うように命じたシュバルツェ殿下と同じライザタニア国民には違いはないが、だからとアーリアは全てのライザタニア国民に恨みを持つほど狭量ではなかった。恩には恩を、仇には仇を。アーリアはそのように教育を施されていたからだ。
「ほう?では勿論、俺にも迷惑をかけないのだな?」
シュバルツェ殿下はアーリアの顎に手をかけるが、その手はアーリアによってすぐさま外された。
「そんな訳ないでしょ⁉︎ 私にとって一番の迷惑はアナタなのに!」
「後宮でこうして貴様を世話してやってるではないか?」
「アナタは他所の国から飼猫を攫ってきたドロボーみたいなものじゃない。拉致監禁は飼育でも世話でもないわ!」
このようにアーリアがカッと頭に血が昇らす事こそがシュバルツェ殿下の策略だというのに、アーリアはこと第二王子の事になると、こうも調子が狂い放題になる始末。
アーリアは幼い頃より誰かと口論になった事などなかった。兄にしろ姉にしろ、年長者は年少者であるアーリアに対しては叱り嗜める立場であった。また、弟子の中で最年少であったアーリアには同年代の友は一人もなく、幼少時ですら喧嘩や言い争いを経験した事はなかった。しかし、ライザタニアに来させられてからというもの、セイやシュバルツェ殿下相手に口論してばかり。しかも、アーリアだけが口論だと思っているだけで、相手側はそう思ってはいないのだ。それがどれほど虚しい事か分かるだろうか。
「なんだ。ソナタ、自分の事を飼猫だと分かっているではないか?」
「あっ!そんなつもりじゃあ……」
「そう、貴様はシスティナ産の子猫。我は隣国から子猫を拾って来ただけに過ぎぬ」
シュバルツェ殿下は口をパクパク開けて反論の言葉を探すアーリアの頭を、まるで愛猫を愛撫するかのように一撫ですると、そのまま髪をスルリと梳いた。
「さて、治療士が来る前に貴様の背の傷とやらを見せてもらおうか?」
「え……?」
「さぁ、脱げ」
「は……?」
「脱いで見せろ」
ー何を言い出すの⁉︎ー
アーリアの手はわなわなと身体を震わせた。その震えは怒りからか呆れからか分からなかった。だが、眼前の無駄に容姿の整った青年が如何にも真面目な表情で莫迦な事をーーそう、目の前の青年がそう思わなくとも、少なくともアーリアには戯言だと思う言葉を言い放つ現実に、頭がクラクラと揺れるような感覚に陥った。
「この変態王子!何でアナタの前で脱がなきゃならないの⁉︎」
アーリアはシュバルツェ殿下から一歩下がると、胸元をキュっと握り込んで叫んだ。
「傷の程度を知らねばならぬではないか?」
真顔のまま『何を怒っているんだ』とばかりに肩を竦めるシュバルツェ殿下。駄々を捏ねる子どもを諭す大人。そんな雰囲気を醸し出している。これではどちらが正しい事を言っているのか分からない。
アーリアは首を左右に大きく振りながら一歩ずつ後退ると、逆にシュバルツェ殿下は開いた分だけ詰めていった。
「ほら、大人しくしろ。傷を見るだけだ」
「やっ……やめ……」
シュバルツェ殿下はたった一歩でアーリアに追いつくと、アーリアの腰に手を回して抱き上げた。手足をバタつかせるアーリアを抱き上げたままズカズカと寝室へと運び込むと、ドサリと寝台へと下ろした。そして、シュバルツェ殿下はアーリアの背後から抱き込むように両足で挟み込む。「やだ」、「やめて」、「離して」等と騒ぐアーリア。
シュバルツェ殿下からすれば、そのように暴れる子猫を力で押さえつける事は容易い事。寧ろ、子猫が嫌がれば嫌がる程、その顔に凶悪な笑みが浮かぶというもの。嫌がるアーリアの上着に手をかけるとサッと脱がせ、白いブラウスのボタンに手をかけると背後から器用に一つひとつ外していく。
「ほんとにイヤなの!やめて、殿下」
もはや涙目のアーリアだが、背後から拘束する青年の力を阻む事など出来ず、シュバルツェ殿下の手に手をかけて首を振るのみであった。だが、イヤイヤと首を振るアーリアの様子は、かえって男の支配欲を燻るものがあり、肩越しに顔を上げ懇願してくる子猫の様に、何事に於いても執着心を持たぬ凶王子の支配欲を満たしていくようであった。
アーリアの懇願虚しくブラウスのボタンは全て外され、スルリと襟首が肩を落ちた。そこに現れたのは白い髪に隠れぬ程に大きな傷がーー……
「ハイハイ、ストーップ!」
バタンと寝室の扉が乱暴に開かれ、そこから白衣を棚引かせた一人の美青年が入室してきたのだ。美青年は柔らかな金の髪を揺らしながら足早に寝台へと近づくと、アーリアにのし掛かるシュバルツェ殿下の前で腰に手を当てて嗜め始めた。
「何をしてやがりますか、この王子様は!」
シュバルツェ殿下はチッと舌打ちした。良いところを邪魔されて不機嫌なオーラを前面に出している所を見ると、やはり、傷の確認だと言いながらもアーリアを虐めて泣かす事に楽しみを見出だしていたようであった。
シュバルツェ殿下は姫青年に促されると、アーリアから腕を外して寝台から足を下ろした。
「アリス先生?」
「ハァーイ!アリス先生が来てあげたわよっ」
アーリアは恩人の姿を目に留めると、震える声でその名を呼んだ。白衣の美青年は王城入りの時点で別れた筈の治療士アリストルであった。アリストルは軽く手を上げると、にっこりと笑みを浮かべた。そしてその顔を微笑みから怒りの表情へと変えると、シュバルツェ殿下へと視線を向けた。
「どこの悪代官ですか!今時、若い子は誰も知りませんよ」
アリストルの言葉にフンっと鼻を鳴らして不満を現すシュバルツェ殿下。
「予定より随分と早い到着ではないか?」
「そりゃあもぉ!私はこの娘の主治医ですからね。呼ばれたらすぐに参上しますわ」
凶王子との名を持つシュバルツェ殿下相手に治療士アリストルの態度は何ら変わりがない。その女性的な振る舞いも含め、実に堂々とした立ち居振る舞いだ。
「というコトで殿下。野郎は外へ出ていてくださいませね」
アリストルは扉の向こうを指差すと、シュバルツェ殿下に指示を出した。言い方こそ謙ってはいるが、その態度は上から目線だ。勿論、シュバルツェ殿下は不満顔で「何だと?」と異論を唱えた。しかし……
「乙女の柔肌を覗き見ようなんて、紳士にあるまじき行動ですよ、殿下」
自称、世の中の乙女代表を名乗る美麗治療費によって、シュバルツェ殿下は部屋から叩き出されたのだった。
※※※
アーリアはアリストルの手によって治療を受けていた。
アリストルは背凭れのない大きなソファに防水シートとタオルを敷くと、そこへアーリアを座らせた。変態王子によってほぼ脱がされていたアーリアは、羞恥心に顔を赤らめながらブラウスで胸元を隠し、アリストルに背を向けている。アリストルはアーリアの長く美しい白髪を一つに纏めると、治療の邪魔にならぬように梳き下ろした。
「あら、まだ傷が塞がり切っていないわね?」
アーリアの背を右上から左下へかけて疾る大きな線が三本。その内、中央の傷を残して左右の傷の傷は塞がり、瘡蓋ができている。一際大きな中央の傷痕は所々傷が塞がり切ってはおらず、膿のような物が見受けられた。背は全体的に腫れており、触ると熱を持っているのが分かった。
アリストルは魔法で清水を生み出すと、そろそろとアーリアの背の傷の上から流しかける。すると紫に変色した傷から毒素がジュウジュウと音を立てて溶け出してきた。すると、アーリアは「んっ」と小さく呻き声を上げた。
「沁みる?」
「す、少し、だけ……」
少しだけとはアーリアの過小表現だという事はアリストルにはすぐ知れた。小さな背がふるふると揺れていたからだ。背を向いている為にその表情までは見えずにいたが、アーリアが痛みに耐えている事は容易に想像ついた。
「牢は衛生的に良くないから、監禁されたのが後宮で良かったわ。アナタにとっては、どちらも大差ないでしょうけどね」
アリストルは真新しい布を出すと、そこへ消毒薬を染み込ませた。そして、アーリアの背の傷の上にあった新しくできた傷を中心に布をトントンと当てていく。
アリストルがアーリアと別れる前にはなかった傷。背の他にも、腕や肩にも紫に変色した傷痕が何箇所か確認できた。
ー誰に?ー
一番に凶悪で有名な第二王子の顔が浮かんだが、アリストルはこれを即座に却下した。シュバルツェ殿下がつけた傷ならば、彼が治癒士を呼ぶ訳がない。殿下はアーリアの体調不良を案じて治療士をわざわざ呼び寄せたのだから。ならば『誰』が『何処』でと考えた時、一つの可能性が浮かんだ。
ー牢で?ー
アーリアが王城の牢へ入れられ、シュバルツェ殿下に引き合わせられるまでの数時間。彼女は完全に一人だった。その時だろうか。
ーそれとも……?ー
アーリアは不可抗力にもライザタニア入りしてから今日まで、《隷属》の魔宝具により自由が封じられ、現在は体力気力ともに脆弱な身体となっていた。今のアーリア相手ならば、十に満たぬ子どもでも勝てるだろう。先程のアーリアとシュバルツェ殿下とのやり取りを見てもそれは分かる事で、相手にその気さえあれば簡単に組み敷けてしまうのだ。それはアーリアにとって大変、納得のいかぬ状況だろう。小さなきっかけ一つで生命の火が簡単に消えてしまう中、アーリアは賢明に己が生命を繋いでいる。
ーこの娘は『生きたい』と思っているー
少なくとも死を望んではいない。そう、アリストルが考えた時、アーリアから素っ頓狂な答えが帰ってきた。
「牢よりは、寝やすいです」
アーリアにとってはライザタニアに囚われている段階でどちらも大差なかった。しかし、衛生面を考えれば後宮の方が断然にマシだった。シュバルツェ殿下に振り回される事さえなければ、もっと快適であっただろう。
「あの、先生……」
「なぁに?」
「先生は、何者ですか?」
アーリアは肩越しに振り向くと、じっとアリストルの瞳を見つめた。アリストルの瞳は一瞬ふわりと揺れ動いた。
「うふふ。麗しの治療士よ」
美麗治療士はにっこり微笑んだままアーリアをじっと見つめてきた。その微笑みから感情を読み解く事は出来ない。簡単に教えて貰えるとは思っていなかったアーリアだが、アリストルの返答には肩を少し落として落胆した。
「毒が抜けるのに時間がかかってる。あのバカ、ああ見えても黒竜だから」
「魔術を使わせてもらえれば、こんな傷……」
「それは出来ないの、ごめんなさい。だから今はこれで我慢してね」
やはりダメかとアーリアは肩を竦め、そっと溜息を吐いた。
「なるべく綺麗に治ると良いのだけどね?」
右の首筋から左下の脇にかけて疾る鉤爪のような傷跡。あまりの痛々しさに、見ている方にも痛みが伝わって来るようだった。
「乙女の柔肌に傷が残っちゃうなんて辛いわよね?」
「心配してくださって、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ?」
「だめよ。アナタは女の子なんだから。それに、『肌の傷を理由に婚姻を解消された』なんてコトも良くあるのよ?」
「杞憂ですよ。誰かと婚姻関係を結ぶ事なんて、考えてもいませんから」
「え?でも、彼とは……」
アリストルはそこで口を噤んだ。アーリアの虹色に輝く瞳がアリストルの瞳を射抜いてきたからだ。
「アリス先生、私は虜囚の身。未来を夢見る事の愚かさを知っています」
怒るでも嘆くでもない表情。淡々とした口調。言葉の端々からアーリアが自分の置かれた現状を把握している事が理解できた。
「システィナの魔女なんて、どこで殺されても仕方ないも存在だもの」
ふとアリストルから視線を離すアーリア。そのアーリアからは諦めの感情を読み取る事ができたアリストルは、開きかけた口をそっと閉ざした。
アーリアはライザタニアに連れて来られてからーーいや、この王宮へと運ばれてからというもの、事あるごとに『災厄を齎す魔女』と呼ばれていた。ライザタニア国民から向けられる侮蔑の視線。自分の存在がライザタニア王宮にとって、第二王子殿下にとって災厄を招く者だという事を嫌と言うほど分らされていたのだ。
「先生が私を殺しに来た間者だって言われても、驚きませんよ?ーーあ、でも、殺すなら一言声を掛けてからにしてほしいな……」
空元気のような淡い笑みを浮かべたアーリアに、アリストルはアーリアの背に薬を塗る作業を止めた。
「……もし、この薬が毒だったらどうする?」
自分でカマをかけておきながら美麗治療士の言葉に驚くアーリア。アーリアは唇を一旦キュッと引き結ぶと、美麗治療士に背を向けたまま答えた。
「即効性じゃないなら遅効性の毒ですね?それは困りました」
「困るだけ?ここで貴女の生涯が閉ざされるかもしれないのよ?」
「でも、今の私にはアリス先生を跳ね除ける術がないから……」
「諦めるの?何か手を尽くそうとはしないの?」
アリストルはアーリアの正面へと回るとその場に膝をつき、俯くアーリアの頬を両手で挟んで無理矢理上向かせた。先程までの明るい声音とは違い、アーリアの表情は悲哀を含んだものだった。
「死を受け入れると言うのね?私がこんな風にしても……」
美麗治療士の大きな手が、その指がアーリアの細首に巻き付き、ゆっくりと締め上げていく。だが、その手の力もすぐに緩む事になる。アーリアが今にも泣きそうな表情をした後、そっとその瞼を閉じたからだった。
「うそ。大丈夫よ」
アリストルはアーリアの首から手を離すと、優しくアーリアの肩を抱き寄せた。背の傷に触れぬように手を回すと、アーリアの頭や肩を何度も優しく撫でながら「ごめんね」、「大丈夫よ」と何度も呼びかけた。
「冗談が過ぎたわ。私は間者でも暗殺者でもないから安心して」
アーリアはアリストルの胸の中で何度も咳き込んだ後、グズグズと鼻を鳴らして嗚咽を鳴らした。瞼から流れた滴がアリストルの服に染みを作っていく。
「そう、ですよね?こんな、綺麗な人が、暗殺者なんて、目立っちゃいますよね?」
「まあ、嬉しい!お世話でも嬉しいわ」
「お世話じゃ、ないですよ。アリス先生は本当にお綺麗です。こんな綺麗な人が男性なんて、わたし、診察される時にはいつもドキドキしてしまって……」
「まぁ!じゃあ、今もドキドキしてるのかしら?」
「はい。ーーえ、あの、その、近くありませんか?」
アリストルはアーリアの顎に手を掛けると、芝居がかった仕草でクイっと上向かせた。吐息がかかる程近くに美しい顔が間近に迫り、アーリアは恥ずかしさから思わず目を閉じていた。
すると、チュッとアーリアの頬に暖かな感触が降ってきた。まるで柔らかな羽が触れていくような感触は頬から瞼の上へ、瞼から額へ、額からまた瞼へと降ってくる。
「嗚呼、可愛いっ。食べちゃいたいくらい」
「せんせ……っ!」
「あら、ごめんなさい。ついウッカリ……」
アーリアの声に我に返ったアリストルはそれ以上の愛撫を止め、幾分、名残惜しそうにしながら手を離すと、薬瓶を手に取り直した。
「ほら、もう一度背を見せて。薬を塗ってしまうわ」
「はい、お願いします」
「ええ。お願いされました」
アリストルはアーリアの背中側に回ると「さっきの事だけど」と口を開くと、
「大丈夫よ。この傷ごと愛してくれる人がいるから」
そう言ってウィンクした。
お読み頂きまして、ありがとうございます!
ブックマーク登録、感想、評価など、とっても嬉しいです(*'▽'*) ありがとうございます!
『子猫の飼主1』をお送りしました。
なんと、王城入り前に別れた美麗治療士が登場しました。美麗鳥治療士と第二王子殿下とは知り合いであり、しかも、治療士は殿下からある程度の信頼を得ているようです。
次話『子猫の飼主2』も是非ご覧ください!




