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魔宝石物語  作者: かうる
幕間4《誘拐編》
290/498

※裏舞台8※ 俺の大切なひと

 ※(リンク視点)


 俺はあの夜、夜半から降り出した雨にある気配を感じて空を見上げた。


「姉ちゃん……?」


 ポツポツと顔に当たる雨は次第に強くなって、ザァァァと地面を打ち鳴らした。雨は街を焼いていた火を消す勢いがあって、俺の目の前で盛大に燃えていた家屋は次第に収まっていったんだ。


「どうした、リンク?」


 雨を避け屋根の下へと促しかけた父ちゃんが、俺の異変に気がついて声を掛けてきた。


「父ちゃん、これ、姉ちゃんだ!この雨から姉ちゃんの魔力を感じる!」

「姉ちゃん……?あぁ、あのお方か?」

「うん」

「そうか。あのお方が動いてくだされたのか?」

「うん。きっとそうだ!」


 姉ちゃんーーアーリアは俺たちのような移民の親子を助けてくれたくらいだ。アルカードが火に包まれたのを見て、放っておけるハズがない。きっと、火に包まれる街を見兼ねて魔術を使ってくれたに違いない。


「そうか。あのお方が……」


 父ちゃんは雨に濡れるのも気にせず、寧ろ、天を仰いで雨に感謝を伝えるように地面に膝を付いて両手を組んだ。そして、組んだ手をぐっと額に押しつけている。それはライザタニアにおける精霊崇拝ーー全てを司る天上神への感謝を示す所作だった。

 父ちゃんはアーリアに脚の傷を治して貰ったあの日以来、アーリアの事を神様か何かだと思ってる節がある。近頃はそれ程でもないけど、俺が気軽に『アーリア』と名を呼び捨てする事に、顔を顰めていたくらいだ。そりゃ、治らない筈の怪我を治してくれたアーリアに恩義を感じるのは分かるけど、信仰するのはヤリスギだろ?そう思ったのは一度や二度じゃない。だけどある日、父ちゃんは怪訝顔の俺に向かってこんな事を言ってきた。


『アーリア様は特別なお方だ。何事かあれば、お前が身体を張って守って差し上げなさい』


 あの時の父ちゃんの表情かおは、俺がこれまで見たどんな顔より真剣な表情だった。だから俺は、父ちゃんに握られた手を握り返して強く頷いた。


 男が女を守るのは当然だ。そう、父ちゃんからは口酸っぱくなるほど教えられていたけど、俺はアーリアに会ってからその言葉の意味が本当の意味で理解できたと思う。

 アーリアはスンゲー魔術が使える魔導士だけど、魔術がなければタダのか弱い女子ジョシなんだ。自分の足に蹴躓いて転ぶくらいドジで、ちょっとした事で怪我をしちゃうくらい弱い。力なんて子どもの俺より弱いんじゃないかと思う。いつかアーリアが転びそうになった時に咄嗟に腕を引いた事があったけど、アーリアの腕はめちゃくちゃ細くて柔らかかったんだ。ちょびっと力わ込めれば折れちゃうんじゃないかと思ったくらいで、あの時、胸がドキドキしたのを覚えている。


 ー俺が守ってやんなきゃ!ー


 アーリアには護衛が沢山いる。何でか分からないけど、アーリアには騎士のお守りがついているんだ。だから俺みたいな子どもが出しゃ張る場面なんてないのかも知れない。けど、俺がアーリアを『守りたい』、『守らなきゃ』という想いは俺自身の意思なんだ。だって、アーリアは俺の『大切なひと』だからさ。

 だから、アーリアに何かあったら助けるのはアタリマエだし、寧ろ、ずっと側にいて守ってやりたいって気持ちもある。まぁ、実際にはそうは問屋トンヤが卸さないワケで……悔しい事に、俺は成人前の子どもだからさ。自立している成人女性をーーアーリアを守るなんてコトは軽々しく言えない。まずは俺自身が身体カラダ精神ココロも成長しなきゃなんない。アーリアは『自立した大人が好きだ』って言っていたから、俺もアーリアに認められる大人になりたい。今はそう思っている。



 日が明けて翌日。雨はまだ降り続いていた。


 雲もないのに途切れぬ雨に、俺はーー俺たちアルカード領民は、この雨が自然の雨じゃない、魔術の雨だって気づいた。そのまま雨は三日三晩降り続いて、アルカードの街に燻っていた火を全て消し切った。後から聞いた話だけど、どうやらアルカード城壁の外ーー東の森の一部も火に包まれていたみたいなんだ。東の森には『東の塔』があるから、領主館職員や騎士たちは大慌てだったようだけど、その火も天から降り注ぐ雨によって全焼は免れたらしい。奇跡的に『東の塔』自体も無傷で済んだらしく、アルカードの領民は東の空に《結界》が無事であるのを確認して、みんなホッと胸を撫で下ろしていた。やっぱり、アルカード領民にとって『東の塔』と《結界》はトクベツなんだ。そしれに《結界》を施してくださっている魔女様も。アルカード領民の日課は先ず朝起きたら東の空を見上げる事から始まるんだから……。


「良かった。どうやら魔女様はご無事のようだな?」

「ほら、東の空に《結界》がある。本当に良かった」


 現在に至るまで火災の原因は領主館より発表されてはいない。けど、アルカードを襲った火災が公共施設の多くを焼いた事から、領民たちはこれがタダの猟奇的な犯罪じゃないってコトには気付いてた。誰も彼もハッキリとは口に出さないけど、『東の塔』や『塔の魔女』様が狙われた事は明らかだったからだ。だってこの街を狙う理由なんて、ソレ意外に考えられないだろう?

 不安に駆られた領民たちの中には、忙しそうに走り回る騎士や役人らを捕まえて『魔女様はご無事なのだろうか⁉︎』と問い質した人もいたみたいだけど、即座に『空を見れば判るだろう?』と一蹴されたそうだ。騎士様たちからしたら『このクソ忙しい時に話しかけんなッ!』て気分だろう。俺だって、そんくらいの空気は読める。でも、そんな俺の余裕も、一週間、二週間と日が経つ内に無くなっていった。


 アーリアからの連絡が途絶えたんだ。


 アーリアは俺の魔術の師匠センセイだ。アーリアは俺たち二人の予定が合う日を見つけては、俺に魔術を教えてくれていた。連絡はアーリアが貸してくれた魔宝具マジックアイテムでとってた。

 システィナじゃ魔術が使えない人でも魔宝具さえあれば簡単な魔術を使う事ができる。そのほとんどが生活を快適にする為の魔宝具で、『水を出す』トカ『洗う』トカ『乾かす』トカ……家事に役立つ物が多い。そんなのはそこまで値段が張らないから、平民でも一家に一つや二つくらい持ってる。そん中でも『離れた場所へ行く』トカ『離れた場所にいる人と話す』トカいう魔宝具は別格だ。そもそも作れる人が限られてくるし、値段も目玉が飛び出るほど高価なんだ。俺ん家みたいなビンボー人にとっちゃ、どんな魔宝具もお宝みたいなモンさ。なのに、アーリアは《通話》の魔宝具を俺なんかにポーンと投げてよこしたんだ。あの時は正直、『売ったらいくらになんのさ⁉︎』って内心ビビった。顔にも出てたと思う。だから思わず……


『コレ、高価な魔宝具モノなんだろ?壊したり無くしたりしたらどーすんのさ⁉︎』


 と聞けば、アーリアは……


『心配しないで。壊れたらまた作るから』


 って言ってきた。しかも、爽やかな笑顔のオマケつきで。

 ハァ⁉︎って思うだろ?実際、俺は驚愕したよ。だって、アーリアは魔宝具さえ作っちまえるんだ。人は見た目じゃないってのは知っていたけど、アーリアはホントに規格外なんだと再確認した瞬間だった。

 アーリアはそんな俺の気持ちなんてちっとも気づきもしないで、『質問や困った事があったらいつでも連絡してきてね』と笑顔だった。


 ーアーリアは天使なのか⁉︎ いや、悪魔だと言われても俺は納得する!ー


 ココロを惑わす悪魔アーリアの天使の微笑みには、やっぱり勝てそうにねぇ。


 ーーで、俺はアルカードの街中がちょっとずつ整備されて少しずつ日常が戻ってきた時、アーリアに連絡を入れてみたんだ。けど、その日は一日中ずっと繋がらなかった。アーリアにも仕事があるだろうから忙しいのかと思って二、三日様子を見たけど、初めに連絡を入れた日から一週間、一向にアーリアからの返答がなかったんだ。


 こんなの普通じゃない。


 いつもアーリアと連絡を取り合っていたのは晩ご飯の後くらいの時間帯だ。どちらかが忙しくて連絡が受け取れない時は、時間を置いてからもう一度連絡をとるか、翌日の朝に連絡をとるかしていた。アーリアはその辺、律儀なんだ。俺からの連絡が取れなかったとしても気にする必要なんかねぇのに、折り返し連絡をくれた時には『ごめんね』と一言謝ってくれる。そんなアーリアが一週間も連絡を寄越してくれない。明らかにオカシイと思うだろう?


 俺はだんだん心配になってきて、気もそぞろになっていた。


「どうしたんだ?リンク」

「……姉ちゃんと連絡が取れないんだ」


 夕食後、項垂れる俺に父ちゃんが話しかけてきた。父ちゃんは脚が治ってからというもの、体力を戻す為に精力的にリハビリに励んでいた。筋力が戻ってきてからはこれまた精力的に就職先を探して、今はトアル大工の下で働いている。

 元々、父ちゃんは身体も大きくて筋力チカラも強いから、木材や石材を運ぶのはお手の物だ。早い段階で親方から気に入られて、毎日、早朝から夕方までバリバリ働いてる。そんで俺の方はガラス職人の下でバイトしてる。大工の親方のツテだ。俺は子どもだからあんまり大きな仕事は任せちゃ貰えない。だから、トンボ玉で作るアクセサリーやアミュレット作りの手伝いが主だ。職人さんたちからは『筋が良い』って、手先の器用さを褒められて嬉しかった。けど、ここ二、三日は上の空だったから久々に叱られちまった。


「今までこんな事なかった。何かあったのかな?」


 俺は『何か』なんてボカした言い方をしたけど、その『何か』は決してポジティブな内容じゃない。怪我や事故、病気といったネガティブな内容なんだ。想像するだけで胸がギュッと締め付けられて苦しくなる。アーリアが俺に『愛想を尽かした』トカ『飽きられた』トカなら良いんだ。仕方ない事だ。けど、アーリアはそんな薄情な人間じゃない。もし、アーリアがやむをえずアルカードを離れなければならなくなった時は、きっとーーいや、必ず、一言連絡を寄越てくれるハズだ。短い付き合いだけど、アーリアが面倒見の良い人間だって事を俺は知っている。だから、俺はアーリアの身に『何か』起こったんじゃないかってネガティブな想像しか出なくて、想像しただけで何だか泣きそうになっちまったんだ。


「リンク……?」


 父ちゃんは膝をついて俺の両肩に手を置いてきた。


「父ちゃん、どうしよう?もしッ、もしも、姉ちゃんにーーアーリアに何かあったら……!?どうしよう?もし、アーリアが苦しい思いをしてたら、俺……どうしたら……」


 俺は俯いてギュウッと手を握り込んだ。


「いつから、連絡が取れないんだ?」

「あの日ーー火事の晩から七日経った日、から……」

「そうか……」

「ッーー!確かに、あの雨は姉ちゃんの魔術だったんだ!」

「それは……」

「俺には分かった!だって、あの日の昼だって、姉ちゃんに魔力操作を習ってたんだから!だから……」


 俯いていた顔をキッと上げれば、父ちゃんは少し困った顔をしてた。魔法も魔術が使えない父ちゃんには分からない感覚だと思う。俺だって魔術を習う前には無かった感覚なんだから。でも、アーリアから文字通り手取り足取り魔術を習ってる俺には、アーリアの魔力の匂いが分かるようになっていたんだ。優しくて、暖かくて、ほんのり甘くて、とても良い匂いがするんだ。

 あの晩、空から降ってきた雨からはアーリアの魔力の匂いがした。絶対に間違ってなんかいない。これは言い切れる事なんだ!


「分かった。リンク、お前の言葉をウソだとは思っていない」


 父ちゃんは俺の肩をトントンと叩いた。


「しかし、あのお方の周囲には護衛の方たちがついておられる。早々オカシナ事は起こらないと思うが……それでもお前は心配なんだな?」


 父ちゃんの言葉に俺はコックリと顎を下げた。

 俺は父ちゃんにはアーリアとの魔術訓練の内容やその日あった出来事なんかを話してる。『アーリアはどこかのご令嬢みたいで、護衛が側についている』って事も話していた。父ちゃんはいつも『そうか』と頷いて話を聞いてくれる。その後には必ず『他所よそでは話してはならない』って念押しされていた。『余計な詮索はいけない』、『知らない方が幸せな事もある』とも。

 だから、今回も詮索中止を促してくるんだと思ったら、違ったんだ。父ちゃんは子どもの俺なんかよりよっぽど沢山の事を考えていたって事を、この日初めて知った。


「東の空に変わりがないから、安心していたんだが……」


 父ちゃんはハァァと深い溜息を吐くと、その顔に苦いモノをはしらせた。


「父ちゃん、それってどう言うこと?」


 俺は父ちゃんの話す言葉の意味が分からずに首を傾けた。すると、父ちゃんは表情カオを硬くして、俺の肩をもう一度強く掴んだ。


「リンク。アーリア様の事をよく思い出してみろ。ーーあのお方はどんなお方だ?」

「え……?姉ちゃんはスンゲー魔術が使えて、護衛の兄ちゃんが数人いて、俺はどっかのご令嬢なんじゃないかって思ってて……」

「それで?」

「……?小さくて、可愛くて、目がキラキラしてて、時々虹色に光るんだ……」


 父ちゃんは俺の言葉に何でか苦笑してから、もう一歩踏み込んだ問い方をしてきた。


「リンク。このアルカードで高位魔術を使いこなす若い娘など、そうは居られない。それにな……虹色の瞳を持つ魔女様など、お一人しか居られないんだよ」

「……は?」

「ハァ、お前は本気で気づいて居なかったんだな?あのお方の正体を」

「ーー!?と、と、ととと父ちゃんはアーリアの正体コトを知っているのか!?」


 俺は驚いて父ちゃんの顔を覗き込んだ。父ちゃんは硬い顔をして一つ頷いた。


「あのお方はアルカードで最も尊きお方。『東の塔の魔女』様ご本人だ」

「ーーーー!!」


 ヒュッと喉が鳴った。息を吸った瞬間、唾が乾いた喉にひっついて、俺は盛大に咽せた。ゲホゲホと激しく咳き込む俺の背を、父ちゃんの手がそっと撫でてくれる。


「ととととと父ちゃん!!そっそそそれ、本当のハナシ……!?」


 俺は父ちゃんの腕を掴んだ。


「年若い魔女様、類稀なる魔術の才、複数の騎士様による護衛……そこから考えられるのは、およそ3月前にこの街へお越しくださった『塔の魔女』様。そうとしか考えられないだろう?」


 た、確かにそうだ。父ちゃんの言う通りだ。何で俺はその考えに行き着かなかったんだろう⁉︎ 考えれば考える程に、アーリアと『塔の魔女』様の特徴は合致してくる。


「ででででも、アーリアの髪は白くなんかないぞ?」

「髪色など、魔術で何とでもなるだろう?」


 そりゃそうだ。それくらいアーリアなら何とでもしてしまえるだろう。


「白き髪の『塔の魔女』様。この情報が先ん出ているからな?目立つ髪色を隠されていた理由は分かる」


 俺は父ちゃんの言葉に納得した。そうだ。街中を白い髪のままプラプラするなんて、『襲ってくれ』と言ってるモンだ。国境を守る《結界》を施してくれている魔女様だけど、魔女様を大切に思う良民ばかりじゃない。魔女様を襲って拐って傷つけようとする悪人も沢山いるんだ。

 魔女様のおかげで安全な生活を送れているにも関わらず、魔女様を襲って金儲けしようってバカが後を絶たないと聞く。本物の魔女様がアルカードにお越しくださる前も、白い髪を持つ女が襲われたってハナシは何度も聞いた。その度に、『何でそんなコトすんだろう?』と頭を傾げたのは一度や二度じゃない。その都度、父ちゃんから『理屈ではなく己の利益を第一にする者が居る』って事を教えられた。


「じゃじゃじゃあ、本当に、アーリアは……」


 俺の言葉の先を読んで父ちゃんはコックリと頷いた。


「あの夜の火事は『塔の魔女』様を狙ったものではないだろうか?」

「そんなーー!!」

「皆、口に出しては言わない。だけど、そうとしか考えられない」

「でも!」

「ああ。東の空ーー《結界》には変わりがない。だから、魔女様はご無様であったのだろう……と、誰もがそう考えていたんだが……」


 父ちゃんはチラリと俺の真っ青な顔を見ると、再び深い溜息を吐いた。


「っ……嗚呼、こんな時くらい、お前のカンが外れてくれたら良いのにな……」


 父ちゃんは顔をクシャリと歪めた。その表情かおを見て、俺の目がぼぉっと熱くなってきた。


「父ちゃん。どうしよう⁉︎ 俺、どうしたら良い?」

「リンク……」

「俺、アーリアが大切なんだ!姉ちゃん、すごく鈍臭いから、襲われたら逃げれないよッ!怪我とかしてたらどうしよう?ねぇ、父ちゃん!!」


 俺は父ちゃんの手を握って、握り締めた。アーリアの事を考えると心配で、不安で、立っていられない。


「リンク、残念ながら俺たちには出来る事がない」

「そんな……!」

「騎士様たちが動いてくださっている。そんな中で平民のーーしかも、移民である俺たちに何か出来るとは思えない」

「ッ!」

「リンク。私もあのお方のご無事を祈っている。あのお方はこのアルカードにとってーーいや、システィナにとって無くてはならぬ大切なお方だ」


 父ちゃんは俺の手を取ると、握り締め過ぎて真っ赤になっている掌をさすってくれた。


「私たちにとっては、人生を救ってくださった女神様だ。だけど、私たちには受けた御恩に相応する恩を返せるとは思えない。しかし、いつかは御恩に報いたいと思っている。あのお方はそのような事を望んでは居られぬかも知れないが、な……」


 無欲な方だから……と続く言葉に俺は頷いた。アーリアが俺たちを助けたのは偶然だ。そんなに大した意味はない。気まぐれなんだ。でも、その気まぐれで俺たちは救われた。恩には恩を返す。それは父ちゃんの口癖だけど、アーリアはきっと恩返しなんて望んじゃいない。でも、恩返しって相手が望んでなくてもするもんだろう?


「今は、あのお方の無事を祈るしかない」


 そうだ。俺なんかが出て行ってどうなる?騎士団に押し掛けてどうなる?きっと、こんな小汚いガキなんて、相手にしてもらえない。けど……


「けど、父ちゃん。俺、アーリアに何があったか知りたい。アーリアが困ってたら助けに行ってあげたいんだ!」

「リンク……」


 俺の言葉に父ちゃんは困ったように眉を下げた。その時……


「ーーでは、手伝って頂けますか?」


 突然、背後から聞こえてきた男の声。俺たち親子は驚いて背後に視線を向けた。足音もなく暗闇から現れたのは、二人の騎士だった。その内の一人はズレてもない眼鏡をくいっと指先で上げると、怪しげな笑みを浮かべていた。


お読みくださりまして、ありがとうございます!

ブックマーク登録、感想、評価など、とても嬉しいです(*'▽'*)ありがとうございます‼︎


裏舞台8『俺の大切なひと』をお送りしました。

リンクにとってアーリアは『トクベツ』な存在。アーリアに何事かあれば助けたいと考えているのは当たり前の感情なのです。

リンクは子どもだと侮られがちですが、子どもだから大人のようにまどろっこしい言葉ことは言いません。言うならばストレートです。そんな所をリュゼなどは羨ましいと思っています。


次話も是非ご覧ください!


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