都合良い歴史
低くの柔らかな声音は澄んだ朝の空気に溶け込んでいく。語られる内容はこの国の成り立ちーー歴史であった。
「時は百五十年前まで遡るーー……」
後に独裁者となるその男はライザタニアと呼ばれる国の基となった七部族の内の一つ、ライゼンターニャの出自であった。圧倒的な強さを示し七部族の頂点に立ったその男。絶対的な力を持つ神への信仰心のように人心を掴んだその男は、やがて独裁者へと道を進めていく事となる。
その男こそが民衆が求めた指導者、軍事国家ライザタニア建国の父、賢王イスタールであった。
七部族を一つに纏めたイスタールはライザタニアを建国し、国主となる。イスタールは国家の在り方を決め、方針を決め、近隣諸国と渡り合い、国民をより良い暮らしへと導いていった。国家がーー国民の生活が豊かであれば、誰からも文句は出ないもので、国家に良き治世を齎らしたイスタールはやがて国民より『賢王』と呼ばれ讃えられていく。
しかし穏やかな国家運営も束の間、賢王イスタールは徐々に真の顔を現し始める。賢王はペンよりも剣をーー武力を持って独裁制を強めていったのだ。
権力が一手に集中する独裁制の恐ろしい点は、苦手な分野がおざなりになるという事だ。遊牧を生業にしてきたライザタニアには、建国当初、主となる産業がなかった。遊牧生活を止めて定住する者が増えた事によって、国民の生活は牧畜から酪農へ、そして農耕へと移行していく。しかし、ライザタニアの風土に合った農作物が潤沢に栽培されるに至るには、ある程度の時間と試行錯誤とを有した。試行錯誤の期間が長く続いた事により、国民の生活は目に見えて疲弊していった。
そこで、賢王イスタールは安定した富を得る為に、軍事産業に力を入れ始めた。他国に侵攻し、占領し、富を掠奪する事で、手っ取り早く富を手に入れる方策へと着手し始めたのだ。元来、ライザタニアは遊牧民族の集団。掠奪行為は悪事とは捉えない。生きる為に掠奪する。掠奪は生きる上で大切な行動ーー正義の行いであったのだ。しかし……
「軍事の拡大、それこそが国家を腐敗させる原因であったのだ」
賢王イスタールは近隣の小国を中心に侵攻を開始、侵略した諸国を次々に吸収合併していった。そして、その勢いに任せて大陸の覇者たるエステル帝国へと侵攻を決意する。しかし、大帝国エステルに侵攻した新興国家ライザタニアは、侵略着手も早々に、大帝国の名はダテではないと悟る事になる。
大陸一広大な領土を持つ精霊帝国には現代に至り、国土を治め得るだけの組織と、組織を支え得る人員が配備されている。特に、軍事面には定評があった。帝国は随時平民から兵士を集っており、貴族によって編成された騎士団や軍団だけではなく、平民による兵団も数多く構成されているのだ。また、魔法が発達した帝国特有の騎士組織ーー『魔法騎士団』の存在は、亜人部隊を有するライザタニアから見ても脅威の対象であった。加えて、飛竜を駆る『空挺部隊』の存在は、戦果を交える以前に敗北を悟る程の戦力差を生んでいたのだ。
時を待たず、ライザタニアは敢えなくエステル攻略を断念する。
以降百年、ライザタニアはエステルへの一切の侵攻行為を停止させた。その代わりとばかりに、小国相手に侵攻しては略奪行為を繰り返した。
その頃になると、国内では酪農による乳製品の生産と輸出が軌道に乗り始め、鉱石採掘による鉱山産業にも力を入れ始め、安定した収益を得る事になる。奇しくも隣国、魔導国家の魔宝具生産が爆発的な高まりを見せ、魔宝具の素材となる魔力を含む魔鉱石の需要が増加した事が、ライザタニア鉱石産業の利益増加に繋がっていく。システィナが魔導国家として現在の国家としての形をつくる過程ーー魔宝具産業が盛んになった事で、偶発的にもライザタニアは潤沢な富を手にする事になる。
「システィナを侵略すれば輸入輸出の手間なく、利益を手に入れる事ができる」
賢王の息子やその子孫たちが、賢王と称えられたイスタール王と同じ治世を築ける筈はない。
現王アレクサンドルは賢王イスタールの再来とも呼べる剣舞の才こそ持つものの、政治の才はなく、尊き賢王の血を引く誇りだけは人一倍強く持つ『裸の王』であった。
賢王の布いた治世の下、何不自由なく過ごしてきた現王アレクサンドルは、国王としての権力を振りかざし、臣下からの諫言を遠退け、甘い蜜に群がる官僚からの甘言を受け入れた。また、国庫を我が物のように使い、散財し、女に溺れ、『この世の全てが手中にある』と疑いもせぬ愚王であった。
しかし、現王は悪事の才だけは他者よりも優っていた。現王はこれまで誰も思いもよらなかった政策により、権力拡大を謀っていった。それこそが『隣国システィナより輸入した魔宝具を軍事転用させる』という政策であった。しかも、技術運用の為の人員を他国ーーそれも、システィナから取り寄せる方法を思いつたのだ。物資と同じく人員をも掠奪するという方法であった。
システィナは魔法を基に編み出した魔術を扱う魔導士が名を為す国家。魔術を組み込んだ魔宝具を生み出した魔導士発祥の魔導国家だ。しかし、魔導士に確かな倫理観を求めたシスティナはいかんせん善人の集まり過ぎた。魔宝具を民衆の豊かな生活の為の道具に留め、それ以上のーー戦争の道具にする事を国法で禁じている程であった。
国家の定めた法を守る。それを『当然』と言えるのは民度が高いからに他ならない。全国民が国家の決めた法を守ろうと努力する。それは、システィナが建国以来より法治国家の体を成してきたからであり、国民の根底に確かな道徳性が根付いていたからに他ならない。だからこそ、まさかその道徳性に目をつけられるとは、夢にも思わなかったのである。
そして、今からおよそ四年前ーー現王アレクサンドルは独断で隣国システィナへの侵攻を決定すると軍部を動かし、一方的な宣戦布告を行うと、システィナへと侵攻を開始した。
侵攻後間もなく、ライザタニアの西の国境ーー『東の塔』と呼ばれるシスティナ国境線を守護する機関を攻略する。自国からの亡命した移民を盾として『塔の魔女』を塔内部より誘き出し殺害。魔女の死に伴い国境線に施された結界魔術が解除され、その機に乗じてシスティナ国境に侵入し、アルカード蹂躙を開始した。
だが、そこでライザタニア国軍は、その勢いを殺さざるを得ない事態に直面する。
ー《結界》の復活ー
夜空に広がる光の花。《結界》は『東の塔』を中心に国境線上に再展開され、ライザタニア国軍をシスティナの領土から外へーーライザタニア領土へと押し出した。以降三年間、現在に至るまで、ライザタニアはシスティナの地を踏む事が不可能となった。
潤沢な利益を得ていたシスティナとの貿易が途絶える事になり、次いで、帝国との関係も滞るようにもなった。近隣諸国との貿易こそ途絶えはしなかったものの、これまでと同じように対応する国は少なくなっていった。
どの国も、ライザタニアの強引なやり方には決して少なくない不満を抱いていたのだ。
そのような情勢がおよそ三年に渡り続き、ライザタニア国内は徐々に食料難へと陥っていく。その事態に、国民は当然の権利として国家への不満を爆発させた。全ての責任を国家へーー現王へと転嫁させたのだ。だが、現王は民衆に対して『全ての責任は、システィナに有り!』と声高に宣言し、システィナへと責任転嫁したのである。
本来ならば誰も信じ得ぬ言葉なのだが、これまで政策の全てを王家にーー国王に委ねてきた国民は、その流言を信じてしまったのであった。
ライザタニア国民は賢王の治世から百五十年、政治の全てを国王に任せてきた。その為、国民は自分たちの生活であるにも関わらず、何処か他人事のように考える癖がついてしまっていたのだ。
その状態こそ、建国の父、賢王イスタールの狙いではあったのだが、百五十年を経た現在、それは弊害とも呼べる大きなものとなり、ライザタニアを益々閉塞的な社会へと向かわせる大きな要因となっている。
※※※
「ーーそれでルツェ様。結局のところライザタニアって、どのような国なのですか?」
アーリアは目の前にいる赤い鳥に向かって話しかけた。赤い鳥は自称ルツェという名で、頭の先から爪先まで赤ワインのように鮮やかな色をした鳩ほどの大きさの鳥だ。アーリアは鳥には詳しくないのでルツェが何の種類の鳥なのかは分からないでいたが、人の言葉を話す段階で、もうそのような些事は気にならなくなっていた。
「む……?今し方、話して聞かせたではないか?」
ルツェはアーリアからの問いに少し息を詰まらせると、鸚鵡のように問い返した。
「虚偽とまでは言わないでしょうけど、全部が全部、真実ではないんでしょう?」
早朝。まだ陽も昇りきらぬ時間にアーリアはルツェの来訪を受けると、身支度もそこそこにルツェとの対話を望んだ。そしてルツェは『ライザタニアについて知りたい』と言うアーリアに対し、歴史的な観点を交えながら語って聞かせた。だが、アーリアがルツェが話し合えるや否や開口一番に放った言葉が『だから、どんな国なの?』では、語ったルツェからすれば悩みもので。唸り声が口を吐い出た事は仕方のない事であった。
「ほぅ?なかなかに聡いではないか?」
同時に、アーリアの持った疑問と着眼点には、ルツェの中に形成されつつあった『アーリア』という人間の評価を変えざるを得なかったのも確かであった。
「何故そう思ったのだ?」
「ルツェ様の話し方が、まるで教科書を読んでいるみたいだった、から……?」
ルツェは「成る程」と呟くと小首を傾けた。
「ソナタ、強ちアホの子ではなかったのだな?」
「…………」
今度はアーリアが唸り黙る番だった。一人と一羽はこの日までに幾度か顔を合わせてはいたのだが、どうやら不思議な紅鳥は人間の娘の事を、まるで幼子のように扱っている節があったのだ。物事を知らぬ赤子ーーとまでは行かぬまでも、それとそう大差ないのではない扱いではなかろうか。アーリアはルツェと出会った当初より『アホの子』扱いされているので、この手の発言にも既に慣れたものではあったが、それでも、このようにズバリと言われてしまうと、胸に小さな痛みを覚えるもので……。
暫く遠い目をしていたアーリアは気を取り直すと、ルツェの小さな目を見つめ、話を再開させた。
「あ、えっと……王宮に近い場所にいた事があるのだけど、その時にも同じような疑問を持った事があったので……」
「ほう、因みにそれはどんな疑問だ?」
「歴史は誰かの都合の良いように改竄されているのではないか、と……」
それはアーリアがエステル帝国で姫生活をしていた時の事だ。アーリアは皇太子殿下の婚約者として相応しい存在となる為にお妃教育を施されており、その中でも特に歴史教育は重きを置かれていた。国の興り、成り立ち、王侯貴族の在り方、国民の生活スタイルなど、その全ては歴史が物語ってくれる。歴史を知らねば現在の在り方が判らぬとも言われものだ。
だが、アーリアは帝国の歴史を学ぶ中で、多くの疑問を持つようになった。その疑問は図書棟通いするようになって、益々大きく膨らんでいった。
「ふむ、何故そのように思った?」
ルツェの仕草はまるで人間のよう。ルツェが人間だったならば、きっと、腕組みして教卓の前に立つ教師ではなかろうか。アーリアは自分が生徒となり教師ルツェより教えを受けている気分になった。
「全く同じ歴史を伝える本であっても、書き手の伝えたい情報が違うと、受け取る側は書き手の都合の良い情報だけを受け取ってしまうのではないか、と思ったのです」
背筋を正すとアーリアはそう答えた。
「それで?」
「書き手の思惑次第で、読み手は虚偽の情報を得てしまう事になる。私にはそれが気持ちの良いものには感じられなくて……」
Aという歴史を見た時、貴族視点で書かれた歴史Bと平民視点で書かれた歴史Cとは、全く同じとは限らない。これは歴史に限った事ではない。だが、歴史とは言わば国の成り立ちそのもであるのだ。にも関わらず、真実は何処にあるのか曖昧なままでは良い筈がない。
「歴史とは常に、権力者に都合よく利用されるモノであるからな……」
ポツリとルツェは呟いた。その声は何時もより覇気のないものだった。
「ルツェ様……?」
「してアーリア。ソナタは我から何が聞きたいのだ?」
アーリアはゴクリと喉を鳴らすと、ルツェの朱い目を見つめ、教えを乞うた。
「ルツェ様はこの国のーーライザタニアのご出身ですよね?でしたら、ルツェ様の瞳から見た『ライザタニア』という国が、どのようなものかをお聞かせください」
「うむ、あい分かった!」
ルツェはバサァと羽を広げると王業しく承諾した。その仕草が余りにもワザトラシク、そして、可愛く見えたアーリアは、「わぁ、ステキ!」と目をキラキラさせると、手を叩いて喜んだ。このような仕草こそがルツェに幼子のような印象を与え、『アホの子』扱いされる所以なのだが、当のアーリアは全く気付いてはいない。
「うむ、何から話せばよいか……そうだのぉ……ライザタニア国民の人間性は大らかだと思われる」
ルツェはコホンと咳を一つ。その後、う〜むと唸ると、ルツェは切れ切れに話し始めた。
「大らか……?」
「やや大雑把だとも言えるやも知れぬ。身体つきが他国の者より大きい故に、態度も大きいのではなかろうか?」
「あ〜〜なるほど……」
アーリアは『大雑把』で『身体も態度もデカイ』との言葉に、身近にいるライザタニア代表ーー軽薄男セイの顔を真っ先に思い浮かべた。
「加えて、騙され易い者が多い」
「なぜ?例えばどんな時に騙され易いの……?」
「権力者が是と言えば素直に頷くという事だ。やはり百五十年来、王政の言いなりであったが為の弊害であろう。他者からの言葉を鵜呑みにする者が多いように思われる」
アーリアはふむふむと頷いた。
「緑豊かで水は旨い」
「確かに美味しいかも……」
アーリアはライザタニアに来て以来、毎日飲んでいる水について思い出した。水にはその土地特有の特徴があり、一口に水と言えども、どれも全く同じ味ではない。システィナはやや水が硬く、ライザタニアはやや柔らかな口当たりだ。
「広大に思える国土だが、実の所、妖精族の住まう土地が多分に含まれるが故に、自国とよべる領土はそれ程広くはない」
「そうなんですか?」
「しかも、妖精族は自由思想の塊であるが故に、領土なんぞ守りはせぬ。『およそこの辺り』といった具合に住んでおる。人間の生活など妖精からすれば些末事なのだろう。人間側は妖精側を気にしておっても、妖精側は人間側の事など気にしてはおらぬ」
「良好な関係を保つのが大変そうに思えるけど……?」
アーリアはルツェの言葉に眉根を潜めた。
「実際に大変ではある。だが、妖精族の気まぐれは今に始まった事ではない。だからと言って拒絶などできぬ。妖精族とはつかず離れずの良好関係を保つ事が重要であるとされている」
ライザタニアならではの国内事情に、アーリアは深い息を吐いた。アーリアにも一人だけエルフ族に知り合いがいるのだが、彼はまだ、人間の在り方に理解のある方なのだと思わされた。
「乳製品は旨い。我が国より上を行く国はないであろう」
「ライザタニアの乳製品、とっても美味しいです」
「ソナタもそう思うか?」
「はい!」
システィナとライザタニアとの貿易が停止されている現在も、何故か、ライザタニア産の乳製品だけはシスティナ国内に流通していた。高価ではあったが、手に入らない事はなかったのだ。食へのコダワリは易々と国境を越えさせるのだ。
「ライザタニアには他国にはあまり見ぬ制度ーー奴隷制度がある」
「そのようですね?」
「建国以前よりの制度故に解体するは困難だとされている」
アーリアは馬車の小窓から見た集落の風景を思い出すと、やや表情を曇らせた。奴隷は南、平民よりも簡素な服を身につけており、一目でそれと判断できたのだ。そして、奴隷たちが早朝から仕事に励む姿には、己の生活に疑問を持っているようには思えなかった。
「意識改革は、難しそうですね?」
「ヒトの意識など、そう簡単には変えられまいよ」
「そう、思います……」
自身の意識一つ改革できずにいるのに、他人の意識など変えられる筈もない。
「二人の王子様はどんなお方ですか?」
無意識に目を伏せていたアーリアは沈みかけた意識を無理矢理浮上させると瞼を上げ、今度は自分から教師へと問いかけた。すると、ルツェは大仰しく翼を羽ばたかせると、良くぞ聞いてくれたとばかりに話し始めた。
「第一王子は見目麗しい容姿をしていると聞く。実母である側妃はエルフ族の血を引く姫であるという」
「お美しい方なのでしょうね?」
「うむ。幼少の頃には美姫と間違われる事が多々あったそうだ」
エルフ族とは妖精族の最たるモノだが、その容姿は人間とは比べようがないほど美しく優れている事は有名な話。天上の美神とも謳われるエルフ族の血を引くとなれば、それはそれは美しい王子様であるだろう。
「正妃はエステルから輿入れした姫である故に、第二王子は魔法を扱うと聞く」
「エステルから……⁉︎」
「政略結婚なのだが、あまり表立って公表されてはおらぬ。ソナタが知らぬのも無理からぬ話」
アーリアは初めてしる事実に驚きを露わにした。エステルに居た時にも、そのような話を耳にした事が一度もなかったのだ。
「二人とも聡明さを持ち合わせた王子だと聞くが、第二王子は賢王譲りの横暴さを振るう『狂気の王子』なのだとの噂がある」
その言葉にアーリアは「え?でも……」と反論を口に出すが、すぐに口をつぐんでムムムと考え込んだ。
「どうした……?」
「あの、以前にもお聞きした事なのですが、ライザタニアでは第一王子と第二王子のお二人が、国を二分した争いを起こしている最中なのですよね?」
「うむ。もう三年になるな」
アーリアは頭の中で、ルツェに聞いた話とレオやセイから聞いた話をノートに綴るように纏めていた。
「現在は第二王子が王宮を治めているって……?」
「そうだ」
「第二王子は現王に似て傲慢で凶悪?狂気の王子?でもこの三年間、第二王子が国を荒らしたとは、聞かないのだけど……?」
アーリアはルツェの顔を正面から見据えた。ルツェはアーリアに真正面から見つめられ、思わずと言った具合に押し黙った。そして、アーリアのそのキラキラした虹色の瞳をとっくりと眺めると、小さなクチバシをゆっくり開けた。
「第二王子は現王を病床に追いやり、王妃共々に幽閉し、大臣たちを惨殺して王宮を乗っ取った『狂気の王子』なるぞ?」
「はい、そのようにお聞きしました。じゃあ、その事件が起きた時、もう一人の王子様はーー第一王子殿下は何をしていたのかな?ただ、黙って見ていただけなの?」
うーんと唸りながら首を捻るアーリアに、ルツェは内心驚きを隠せずにいた。
「なんだかウラがありそうに思えるんだけど……?」
アーリアは目線を下げ、顎に手を当ててボソボソと呟いたその時、目の前でバサァと羽ばたきの音と風が起こった。アーリアは舞い上がる髪を押さえると、舞い降りた赤鳥に驚きの声をあげた。
「わっ!ルツェ様⁉︎」
窓枠の上を定位置にしていたルツェが突然、アーリア目がけて飛び降りてきたのだ。アーリアは咄嗟に手を大きく広げてルツェを受け止めた。
「ソナタ、やはりアホの子ではなかったのだな?」
「ルツェ様ヒドイ!それ2回目!」
「すまぬすまぬ。つい本音が……」
「余計にヒドイ!」
ワザワザそのような事を言う為だけに降りて来たのだろうかと、アーリアはガックリと首を傾げた。すると、どういう理由からか、ルツェはつるりとした羽の表面でアーリアの頬を撫でてきたのだ。その仕草はまるで、正解を導き出した生徒を褒める教師のようであり、雛の成長を褒める親鳥のようでもあった。
「あの、ルツェ様……?」
「なんだ?」
アーリアはルツェの羽の冷たさにうっとりと目を細めながら、最後に一つだけ問いかけた。
「二人の王子は何の為に争っているのですか?王座?それとも……」
頬を撫でていた羽の動きがピタリと止まった。アーリアはルツェの顔をーーその深紅の瞳を真っ直ぐに見つめ続けた。すると、ルツェは徐に満足げな笑みを浮かべ、「お主、やはりタダのアホの子ではないな?」と、アーリアの肩をポンと一叩きした。
お読み頂きまして、ありがとうございます!
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『都合のよい歴史』をお送りしました!
赤い鳥様ルツェによるライザタニア歴史講座(簡易版)でした。アーリアはルツェからの話を聴きながら、これから出会うであろう王子様たちについて思いを馳せています。アーリアにとっては王子様の容姿の美醜についてなど些末なこと。それよりも、王子様の性格や本質の方が重要でした。
そろそろ、噂の王子殿下が登場します。
次話も是非ご覧ください╰(*´︶`*)╯♡




