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魔宝石物語  作者: かうる
幕間4《誘拐編》
272/497

夜間移動1

 ※(アーリア視点)



 馬車に揺られながら格子の嵌った小窓の隙間に見える小さな空。その色は濃紺。小さな星が疎らに輝いている。昼間よりも空気が澄んでいて、車内に清涼な風を運ばれてくる。


 地図上では、システィナとライザタニアを隔てるように大山脈地帯が広がっていた。それが両国の国境線の役割を果たしている。

 山の一つひとつの標高が高くて、とてもじゃないけど素人が踏破できる山じゃないと言われている。だから通常、人が国境を越える為の道は一つしかない。システィナとライザタニアを繋ぐ深い谷ーーつまり大山脈地帯の山々の隙間で、その両端に両国の国境を守る軍事施設が建てられている。その一つが軍事都市であり、『東の塔』でもあるんだけど、どうやら襲撃者たちは堂々とこの道を通ってライザタニア入りを果たしたのではないかな。

 システィナからライザタニアへと国境を越えれば、その先には大森林地帯が広がっている。星の位置から予測できる現在地は多分この大森林地帯のどこかになるはず。

 ライザタニアの内陸部を南に下ればそこには砂の大地が広がっていて、風向きによって黄砂が舞う日があると聞いた。ちょうど今日の昼間がそうだったみたいで、黄砂による目の痒みや喉の痛みが出た。それに、休憩時に車外へ出た時には、黒い馬車の表面が黄砂によって真っ白になっていたのには驚いた。


 襲撃者たちによって拉致されてからおよそ七日。彼らの正体は『月影』という名の特殊工作部隊で、部隊に所属する者は皆、人間ヒトと妖精族との間に生を受けたハーフ。それぞれが何らかの特殊能力を有しているそうなの。ライザタニアはその土地柄、妖精と人間との生活圏が近い為、まれにこのような半端者が産まれるのだという。彼らの事をライザタニアでは『亜人』『半獣』などと呼び、純粋な人間ヒトからは畏怖される存在なのだとか。

 これらは全て朱鳥ルツェ様情報。人間ヒトの言葉を話す不思議な朱鳥は約束通り、暇を見つけては私の話し相手になってくれている。ルツェ様ーー声音から勝手に男性だと思うーーは、私にライザタニアの歴史や文化などを教えてくれる。隣国同士であるにも関わらず、システィナとライザタニアとでは食事のマナーひとつとっても違いがあって、ルツェ様が語る話はどれも興味深い。

 紳士的で理知的なルツェ様は鳥にしておくのが勿体ないくらいのヒト。物事を主観と客観の双方から話し、決して私情を挟まない、私情で語らない姿勢から頭の賢さが伝わってくる。教師役としては最適な朱鳥ヒトで、私は人間の言葉を話すルツェ様な事を不審に思うどころか、信頼できるヒトとまで思ってしまっている。

 そんなルツェ様には感謝して止まないけど、不満がない訳じゃない。どうやら私はルツェ様から『アホの子』と認定されてしまったみたいで、ルツェ様は私に対してまるで幼子に言い聞かせるような話し方をするの。それってどうなの?と思う時もあるけれど、今更訂正するのは難しい。

 いつも上から目線で高圧的な物言いのルツェ様だけど、とっても頭が良いんだもの。一つ問えば十は答えてくれる。とても普通の鳥とは思えない。ーーいや、人間ヒトの言葉を話している段階で、既に普通の鳥とは言えないんだけどね。


 ールツェ様も亜人なのかな?ー


 この疑問をルツェ様本人にぶつけた事はない。なんとなく聞きそびれている。でも、黒竜に変じるセイや黒犬に変じるレオを見た事があるだけに、胸に湧いた疑惑を否定しにくい現実があるのも確かで……


 あの夜から今夜で七日。私の背の傷はアリス先生の治療によって徐々に完治へと向かっていると思う。時々ピリピリと痛む時があるけど、我慢できない程の痛みじゃなくなってるもの。

 怪我の治りと共に次第に高熱も引いてきていて、身体のダルさも随分とマシになってきているの。でもその代わり、魔宝具ーーレオは呪具と言ってたーーによる倦怠感が表に出てきて、今はそちらの方が辛い。常に魔力が吸い取られているそれ所為で、始終身体の怠さが付き纏っている。

 魔宝具には何かの細工がしてあるみたいで、私自身には外せなくなっていた。試しに何度か外そうと試みたけど、無理だったの。だってね、首の魔宝具に触れた途端、触れた箇所から魔力を吸い上げられてしまうのだもの。もしかしたら、以前見た狩猟用の魔宝具と原理は同じなのかも知れない。捕らえた相手の魔力を吸って動力に変換してるんだ、きっと。


 カラカラと車輪の廻る音が聞こえる。馬の蹄の音が耳に心地良い。微風が小窓から入り込み、私の髪を僅かに揺らした。


 移動は専ら夜に行われた。今夜も陽が山に隠れたのを見計らい車列は出発した。極力、人目を避けているのね。

 気絶させられて意識が無かったからライザタニア入りした時の事は全く覚えてないんだけど、どうもこの部隊、隠密行動しているみたいだ。現在、ライザタニアは内紛中だと聞いたけれど、その子細を私は知らない。ライザタニア国内がどういう情勢下にあるのか知らないから、私が『誰』の下に献上されるのかは予想し辛い。ただ、彼ら『月影』は王家直下の部隊と聞いたから、どこぞの王族の下に連れて行かれるんじゃないかと予想はしている。


 ーこんな事になるのなら、もう少しライザタニアについて調べておくんだった!ー


 元は遊牧の民。酪農大国。乳製品万歳!くらいしかライザタニアの事を知らないって……自分の無知さ具合にはホトホト呆れてしまう。


『《探査》』


 私は心の中で呟くとスキル《探査》を起動させた。魔力が縛られていても魔力消費の少ないスキルなら何とか起動できると分かってから、時折こうしてコッソリとスキルを発動させている。

 目の前にはスキルを発動した本人にしか見えない可視化された地図が広がっている。そこには自分を中心とした半径3キロ圏内の地図が映し出されている。どこもかしこも木、木、木で、森林を北に上っているって事しか分からない。しかも、地図はかなり不明瞭。きっと、この部隊の誰かが何らかのスキルを発動させて、他者のスキルを妨害しているのだろう。この部隊の動きを他者の目から隠しているんだ。


 ーどうするべきだったのかな?ー


 この自問自答はもう何百回と繰り返してきたもの。魔力不足によってスキルが自然と解かれると、脱力した私は膝の間へと顔を埋めた。

 アルカードで襲撃を受けた時、襲撃者たちが良く見知った人物ーーそれも『親しい』と呼べる人たちであったが為に、かなり動揺してしまった。まさか、こんなにも身近な場所に襲撃者が紛れていただなんて、考えにも及ばなかったから。勿論、襲撃を受けた事自体にも驚きはあったけど、相手が見知らずの襲撃者だったなら、きっとここまで困惑しなかったはず。

 今更、『きっと』とか『はず』とか言った所でどうにもならないのは分かってる。起きてしまった過去を振り返っても意味が無いもの。でも、こうして馬車に揺られていると、周りを囲む襲撃者たちがついこの間まで仲間だとーー味方だと信じていた人たちだなんて俄かには信じられない思いがして、ラチもいかない事を悶々と考えてしまう。

 時々、胸がずくずくと痛んで目の前が真っ暗になるのは、きっと、私の精神ココロが未だに現実を受け入れられていない為だと思う。


 でも、どれだけ目を背けたって現実は一つ。


 私はあの日、あの時、最善の選択を選べず、判断を誤り、迂闊にも捕獲されて、現在いま、襲撃者たちによって敵国の中枢へと移送されている。


 敵国の手に『塔の魔女』が渡る危険性リスク。本来、これを回避する為には、あの時、魔女を捕らえようとする襲撃者たちを全て排除しなければならなかった。場合によっては襲撃者の生命を断つ必要も勿論あった。それが分かっていながら、私は襲撃者たちを排除する事に戸惑いを覚えてしまった。しかも、命を賭して魔女わたしを逃がそうとした騎士たちの努力まで踏みにじってしまった。


 ーもう、主だなんて、言えないー


 ナイル先輩、アーネスト様、沢山の騎士たち……そして、私の大切な専属護衛。彼らのーー彼の『想い』を私自身が踏みにじった。台無しにした。

 それでも私には、自分の生命よりも彼の生命の方が大切で、あんな所で死んで欲しくなかった……!


 意識が戻って襲撃者たちに捕まったのだと知ったあの時、そして、セイに受けた背中の傷によって身体が毒に蝕まれていると知ったあの時、私はこのまま死んでしまっても良いんじゃないかって思った。だって、『東の塔』は術者わたしが居なくとも大丈夫だから。

 塔の《結界》は自動的に連続発動するように設定してあるのから、アルカードにーーいや、実はこの世界に私が居なくても問題はない。魔術に必要な魔力は汲み取り式になっている。あの地域に人が住み続ける限り、《結界》は作動し続ける。

 だから、今、一番やっかいなのは、あの《結界》魔術を解析される事だと言える。だからこそ……


 ー私の口から技術漏洩しちゃったら、元も子もないじゃないっ!ー


 私自身が敵の手に落ちる前に自身の生命を断つ必要がある。だからこそ、捕らえれたと知ったあの時、一度は生命を落とす覚悟をした。けど……死ねなかった。私は生きる事を選択してしまった。


 脳裏に浮かぶ大切な人たちの顔。

 もう一度逢いたいと願ってしまった、私の騎士の顔。


 ーリュゼ……リュゼ、リュゼ、リュゼ……ッ!ー


 沢山、傷ついていた。沢山、血を流していた。

 傷の手当てしてもらえただろうか。身体の傷は治っただろうか。

 きっと怒っている。ひょっとしたら怒り狂ってるかも知れない。『なんてバカなコトをしたんだ!』って。今度こそ失望されたかも知れない。嫌いになられたかも知れない。見限られたかも知れない。けど、それでも……



 ー彼が無事ならそれで良いー



「……眠れないの?」


 その声は右脇の方から聞こえてきた。もたげていた顔をほんの少し上げると、一つの影が視界に入り込んだ。暗がりの中に一人の青年の姿が浮かんでいる。青年の表情は此方こちらからは良くは見えないけど、どこか戸惑いのある雰囲気を感じられた。


「眠れないの?」


 私の視線を受けて、青年ーーセイはもう一度同じ事を尋ねてきた。私は『うん』とも『いいえ』とも言わずにセイの顔を見つめ続けた。するとセイは苦笑し肩を竦めて、馬車の中を摺り足で此方の方へと近寄ってきた。

 セイは伸ばせば手の届く距離でドサリと腰を下ろした。そのまま胡座をかいて自分の膝に肘をつくと、ジッと私の顔を見つめてきた。


「体調はどう?」

「まし」

「ご飯、食べれるようになったって聞いた」

「ええ」

「ミケさんが喜んでたよ」

「そう」

「隊長の代わりが俺でビックリしたでしょ?数日のコトだから、我慢してよ」


 彼との対話が面倒で、どの問い掛けにも一言で返せば、セイは何だか居た堪れなさそうな表情かおをした。でも、私にはセイの機嫌を取る必要なんてないでしょ?セイが私の事をどう思おうと関係なんてないもの。そもそも誰が見張りであったとしても、私には拒否権なんてない。なら、誰が見張りでも構わない。ただ、犬の姿のレオだったら別。モフモフが温かくて毛布代わりになるから。


「髪、揃えてもらったんだね」


 ふと視線を逸らしていたら、セイが再度話しかけてきた。


「……。アリス先生に」


 襲撃を受けた時、髪の一部が切れちゃったの。戦闘中に起こった事だから仕方ないんだけどね。髪は治療ついでにアリス先生が切り揃えてくれた。髪には魔力が宿るとされているから、本当はあまり切りたくなかったけど、仕方ないと諦めた。

 こんなに短い間なのに、セイとの対話に疲れてしまったみたいで、口からハァと小さな息が漏れた。私はセイから視線を外して俯き、視線を自分の髪に向けたその時、突然、視界の中に大きな手が飛び込んできたの。しかも、その手はそのまま私の髪を一房掴んできた。


「っ……!」

「あ、ごめん」


 突然の事に私の肩は大きく震え、反射的に上半身を仰反るように引いていた。そして、恐ろしいモノを見るような目つきで手の主をーーセイの顔を見上げた。すると、セイは大して反省もしてない口調で謝ってきた。


「綺麗だったから、つい……」


 ーこの人は何を言ってるんだろう?ー


 私の表情はものすごく怪訝なモノだったのね。表情には嫌悪感すら出していたかもしれない。セイはそんな私の表情を見るなり、肩を少し竦ませた。


「そんな目で見られると、さすがに傷つくなぁ……」


 全く傷ついていないようなその言葉。言葉と言動とが一致しないセイ。しかも、私がこんなにドン引きしているのに、セイは空気を読まずにそのまま私の目の前まで蹲み込んできた。


「ねぇ、ちょっとだけ触っていい?」


 セイは私の髪を指差した。その目は好奇心に満ちている。


 ーこれは『嫌だ』と言っても良い場面なのかな?ー


 私はあまり自分の髪が好きじゃない。だって、真っ白い髪はまるでお婆さんのようだし、何より人から好奇な目で見られる事が嫌なの。こんな風に興味本位で揶揄ってくる人なんかは特にキライ。

 でも、彼はこの髪を好きだと言ってくれたから。それにこの髪は姉様と兄様とお揃い、『特別な繋がり』だから、好きじゃないけど嫌いにはなれない。


「だめ?」

「……。少し、だけなら……」


 私の気持ちを知ってか知らずか、セイは私の髪に再び手を伸ばしたてきた。大きな手がこちらに向かって伸びてきて、私は思わずキュッと目を閉じていた。

 セイの手がスルリと髪の中に差し込まれた。彼の手は私の髪をスルスルと櫛笥付き、梳くように指を這わせた。


「やっぱり。めちゃくちゃ柔らかい」


 セイの手付きは思ったより優しいものだった。セイと騎士寮で対峙した時の記憶ーー髪を思い切り掴まれた時の記憶が生々しい残っているから、『触っていい?』と聞かれた時にはかなり緊張したけど、今回は乱暴にされる事はなさそう。そう思って閉じていた目をそろりと開けると、セイの顔が目の前にあった。


「アーリアちゃん。あの時はごめんね」

「え……?」


 目線を上げればセイと目が合った。


「ほら、その……アーリアちゃんに怪我させちゃったし……」

「……?」


 この時、セイが何故謝ってくるのか、私には理解できなかった。

 彼は敵国の、システィナの侵略を企むライザタニアの兵士。システィナの東の防衛を担う『塔の魔女』とは犬猿の仲ーー敵同士。彼ら襲撃者たちは私一人を拐う為だけにアルカードに火を放ち、街と街に住む人々を混乱に導いた。あの時きっと沢山の人たちが怪我をしたし、その中には死んだ人だっているかも知れない。

 でも、そんな事は彼らには関係ない。彼らが優先させるべきは自国ライザタニアであり、ライザタニアにいる彼らの主なのだから。だから、敵国システィナ民がいくら傷付こうが、彼らが心を痛める必要なんてない。


「俺さ、あの姿になるとちょ〜〜っと好戦的になっちゃうんだよねぇ……」


 セイの言う『あの姿』と言うのは、多分、セイが黒竜に化けた事を指しているんだと思う。確かに、あの時のセイは普段のセイとはまるで違っていた。すごく好戦的だった。私の目には凶暴な肉食獣に見えていたくらいだった。


「獣としての血が疼いちゃってさ」


 ーーだからごめん。


 そう頭を下げるセイに、私はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。だから私は暫くの間黙ってセイの瞳を見つめていた。でも、何だかセイが私の言葉を待ってるみたいだから、仕方なく口を開けた。


「……セイが謝る意味が分からない。貴方は貴方の正義を貫く為に動いた。それだけ」

「でも、その所為でアーリアちゃんに怪我させちゃった訳だし……」

「そもそも私とセイは敵同士でしょ?それなのに何でセイは敵である私に謝るの?」


 思った以上に冷たい声が出てしまった。でも仕方ないよね。セイが訳の分からない事を言うんだから。


「今もこうして何処ドコか分からない場所に移送されてる。私はこの国の事情なんて知らないから、この後どうなるのか予測すらできないのに……」

「それは……」

「セイは私を『誰か』に引き渡したら、そこで仕事終了でしょ?その後、私がどうなろうが知ったこっちゃないじゃない」


 なのに何故、セイは謝るのか……?

 彼の言動はめちゃくちゃだ。矛盾している。


「私はセイの行動を責めてなんていない。私には私の仕事があるように、セイにはセイの仕事がある。それぞれの仕事には善も悪もない」


 そりゃあ、セイはナイルを斬ったし、リュゼをボロ雑巾みたいに弄んだし、アーネスト様をボールみたいひ吹っ飛ばしたし……本当は言いたい事の一つや二つはあるけど、今更それらに一々文句言っても仕方がないじゃない。


「やっぱ、ちょっと怒ってんじゃん」


 そんな事を考えていたら自然と頬が膨れて、眉が吊り上っていたみたい。


「当たり前でしょ⁉︎ 仲間だと思ってた人に裏切られたんだよ?」

「だよねぇ……」


 セイは私の髪を掴んだまま、その肩をガックリと落とした。私はそんなセイにジト目を向けた。


「……。まさか、後悔してるの?」

「……しちゃダメ?」

「ダメ。そんなのズルイよ」

「だよねぇ……」


 後悔なら私の方が万倍多いのに、襲撃者であるセイの方が後悔するなんて間違ってると思う。そんなのズルすぎるよ。

 そんな私の気持ちが伝わったのか、セイは眉をハの字にして私の顔を見上げてきた。


「でもさ、一応謝っておきたかったんだ。許しては貰えないだろうけど……」

「うん、許さない」


 セイが私に謝ったのは己の中の自己嫌悪感を消したいからに違いない。それはとても身勝手な行動と気持ちだよ。自分の行動に後悔してないなら謝る必要なんてないもの。だから、私は彼を絶対に許さない。


「セイはこうなる事が初めから分かっていながら行動したんだから、後悔なんてしちゃダメだよ」

「うん……」

「……。セイって何だか得な性格してるね?」


 セイはきっと後悔なんてしてない。きっと少しだけ戸惑っているだけなの。自分の行動に少しだけ不安になって戸惑いを覚えたから、身近にいる私と話がしたくなっただけなんじゃないかな。許しを乞う為じゃなくて、許しを乞うた時の反応をーー私にどう思われているかを知りたくて……。


「セイ、貴方はとってもズルイ人ね」

「ごめん」

「謝らないで。許さないから」

「うん……」


 飼い主に怒られてしょげた犬みたいに項垂れているセイ。私はそんなセイに「許さない」と言いながらもそっと手を伸ばした。そして、セイの頭をゆるゆると撫でた。


「セイのバカ」

「ソレ、知ってた」


 子犬みたいに頭を撫でられたセイは、バカの一つ覚えみたいに「ごめんね」と繰り返した。






お読み頂きまして、ありがとうございます!

ブックマーク登録、感想、評価など、とても嬉しいです!ありがとうございます(*'▽'*)


『夜間移動1』をお送りしました。

囚われのアーリアと襲撃者セイとの対話その1。

アーリア自身、自己の犯した罪に苛まれているというのに、自分勝手に凹んでいるセイに手を差し伸べています。この辺りがアーリアが『お人好し』と呼ばれる所以ゆえんなのでしょう。


次話『夜間移動2』も是非ご覧ください!


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