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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と塔の騎士団
242/497

※裏舞台8※ 昼下がりの乙女たち

※東の塔の騎士団編※

 ※(セイ視点)


 週に一度の休日は陽射しが暖かな春日だった。その日、俺は新しくできた恋人と過ごす予定だった。恋人と愛を語らいながら過ごす一日。素晴らしい一日になる事は間違いなし。そう思っていたのも束の間、その素晴らしき日は始まって早々、無情にも夢芥と消えていこうとしていた。しかもその時にはまだ、この日が暗雲の立ち込める散々たる一日になろうなどとは、予想だにしていなかった。



 ーパンッー


 鋭い痛みが頬を突き抜ける。


 音に対してそれほど痛くはない。寧ろ打たれた俺の頬よりも手を振り上げた相手の手の方が痛かったかも知れない。現に、目の前に佇む彼女の方が俺なんかより余程痛い顔をしているじゃないか。

 肩を震わす彼女。俯く顔は苦痛に満ちている。瞳にはじんわりと涙の粒が浮かぶ。


 ーあーあ。こんなん見せられてもオレ、何も感じないんだ……?ー


「その……ごめんね?」

「っーー!」


 自分の感情の揺れなさに呆然としながらも取り敢えず謝ってみたら、余計に傷ついたように顔を顰めた彼女。何かを言い出そうとして口を開いたが、結局は何も言わずに口をキュッと詰むぐと「さよなら」と一言だけ言い残して去って行った。



 ※※※



「ーーで、何で君がこんな所にいんのかな?」


 まるで奥様向け恋愛小説の脇役ように、俺と彼女との別れのシーンを三軒隣の壁の奥から除いていた少女に向かって俺はジト目を向けた。


「あの、いや、そのぉ……」


 しどろもどろになって俺から目を逸らし、一歩、また一歩と下がって行く少女に向かって俺は大股で近づいた。そして、


 ードンー


 壁に手をついて退路を断つと、肩を震わせる少女を真上から見下ろした。


「ーーんで?どーして君がこんなトコロにいんのかって聞いてるの、アーリアちゃん」


 念押しとばかりにもう一度聞いた。

 俺の気迫に押されたのか、少女ーーアーリアちゃんは恐る恐るといった風に俺の顔を見上げてくる。

 『少女』と言ってはいるけど、確か昨年の夏頃に成人したと聞いたから立派な淑女だ。でも、一般的な成人女性より小柄な彼女は意図せず幼く見えてしまいがちだ。まぁ、システィナでは成人年齢18と定められているのは、女性の結婚年齢=出産年齢を18歳以上とする為であり、それ以上の意味はあまりない。あと、貴族が親から家督を継ぐのに必要な年齢が成人年齢なんだけど、こちらの理由は平民には関係がない。ま、話は逸れたけど、この娘を少女と呼ぶのに指したる理由はないってコトだ。


「えぇ……っと。あの店の中からセイの姿が見えた、から?」


 アーリアちゃんは目線で対角線上にある店を示した。その店は最近、新装開店リニューアルオープンした軽食屋で、食事と言うよりも茶や甘味を楽しむ茶店だ。その為、女性客の方が男性客よりも多い。


「ふーん。んで?」

「店でお茶してたら、そのぉ、窓の外に見知った人がいて……」

「なるほど〜〜。んで?」

「その人が若くて可愛い女の人と一緒にいるのが見えて……」

「そんで、コソコソと俺を追ってきたってワケ?」

「……ハイ。ごめんなさい!」


 アーリアちゃんは素直に頭を下げた。自分のした事に少なからず罪悪感を覚えたのだろう。俺から出る不機嫌なオーラに押されたのもあるかも知れないけど。元々、アーリアちゃんに悪気のなかったのはすぐに分かった。それに加えてあまりにも一生懸命頭を下げるもんだから、俺もこれ以上怒る気にはならなかった。


「はぁ……もう良いよ。悪気はなかったんだろうしさ。ーーでもさ、このヒトは何なの?」


 俺は脱力しながらアーリアちゃんの背後にーー壁の奥に視線を向けた。そこには瞳をキラキラさせながら俺たちの様子を観察する麗人が……。

 柔らかな栗毛。白い肌。涼やかな目元。美術館の天使の彫刻のように整った顔立ち。その口元に浮かぶ妖艶な笑み。


「これがウワサに聞く『壁ドン』ね?ステキだわぁ〜〜ドキドキしちゃった!」


 壁に手をついた俺。そして俺と壁に挟まれたアーリアちゃん。その相互に忙しなく視線を送りながらキャッキャと騒ぐ麗人の姿に俺はゲッソリした。


「ふふふ。昼下がりの茶店から見える恋人たち。一見すると仲睦まじい雰囲気だけど実はそうじゃない。徐に俯く娘。その顔には苦悩の色。普段との様子の違いに気づいた男が声をかける。しかし、その時!男は娘の口から突然別れを切り出されて……」

「…………」

「まるで恋愛小説のようねぇ‼︎」


 麗人の話を黙って聞いていた俺の堪忍袋もそこまでが限界だった。壁から手を離すと今度は麗人に向けて歩を進めた。


「オイ!コラッちょっと待てぇ⁉︎」

「なによ?」

「アンタら一体ドコから見てたワケよ⁉︎」

「ドコからって?そんなのハジメからに決まってるでしょぉ?」


 鬼気迫る俺の表情を他所に、麗人はさも当然だと言わんばかりの口調で告白した。


 ードンー


 イラッとした俺は麗人に攻め寄ると、今度は麗人を壁と挟む様に手をついた。「キャッ」と悲鳴が上がるが知ったこっちゃない。


「アンタは俺のプライベートを何だと思ってんだ⁉︎」

「うふふ。決まってるでしょ?殺風景な日常を彩るエッセンスよ!」


 麗人は人差し指を立てると非常に爽やかな笑みを浮かべた。


 ードゴッー


 今度は拳を思い切り壁に叩きつけた。するとまた麗人の口から「キャッ」と言う悲鳴が上がる。


「〜〜〜〜『キャッ』て何だ⁉︎ そもそもアンタはオトコだろーが?」


 怖がる素振りが無いのにあからさまにお遊びで上げられた悲鳴に、怒りが怒髪天を突いた。しかし、眉根を上げ瞳を見開き憤怒の感情を前面に出した俺を、麗人は恐る事などなかった。


乙女ヲトメに向かってヒドイ言い方!もぉ、そんなに怒っちゃや〜よ!」


 言うや否や、麗人は俺に向かって投げキッスを寄越した。


「ーーーー⁉︎」


 思わず掴みかかろうとした俺の手をスルリと抜けた麗人は、俺から逃げるようにアーリアちゃんの背後に回る。そしてまるで盾にするかのようにアーリアの両肩に手を置くと、ニヤリと笑って見せたのだ。


「ッてめぇ……!」


 『やれるモンならやってみろ』とばかりの笑みを浮かべる麗人に、俺はぶつける事のできぬ怒りを抑えながら拳を握りしめた。


「ごめんなさい、セイ。私が悪いんです」


 俺の怒りを察したアーリアちゃんがペコペコと頭を下げる。


「アリス先生な誘われて『侍女は見た⁉︎』ごっこで盛り上がっちゃったから……」

「ハァ⁉︎ 『侍女は見た⁉︎』ごっこ?」

「えっと……はい。アリス先生に借りたこの恋愛推理小説にハマっていて」


 そう言ってアーリアちゃんは何処からともなく一冊の本を取り出した。本を受け取るなり俺はアーリアちゃんから背後で笑う麗人へと視線を向けた。


「……。やっぱりアンタの入れ知恵か!アリストル先生」


 俺はアーリアちゃんを通り越してその背後で舌を出す麗人ーー騎士団の治療士アリストルに掴みかかった。

 オカシイと思ったんだ。アーリアちゃんは他人の恋愛事に首を突っ込むタイプじゃない。それどころか彼女は自分の恋愛事にも疎い面があるんだ。その彼女が間者スパイの真似事をしながら他人の色恋の動向を確認しようとするなんて、どー考えてもオカシイじゃないか。


「ふふっ。バレちゃったら仕方ないわね?そうよ。私がアーリアちゃんを誘ったの」

「『誘った』じゃなくて『そそのかした』の間違いだろ⁉︎」


 悪びれる事なくーーいや、寧ろ胸を張って告白するアリストルに、俺は怒りを通り越して呆れの境地だった。


「今流行りの喫茶店でお茶をしていたら窓の外に見知った騎士が。それも女連れで歩いて行くじゃない?そりゃあもぉ、後を追いたくなるってものじゃない?」


 嗚呼と俺は声にもならない声をあげた。『気持ちは分かる』とは口が裂けても言えない。もしも街でナイル先輩辺りが女連れで歩いてるのを見つけたら、俺はきっと追いかけるに違いないんだから。俺自身、騎士隊員のゴシップネタは大好物なんだ。でも、だからと言って、自分がそのゴシップネタになるのは勘弁願いたい。矛盾してるって言われるかも知れないけど、人間ヒトの心理ってそんなモンだろ?


「……まぁ、もう良いですよ」


 終わったコトだしなと思い肩を落とす。肩から全身に掛けてドッと疲れが出た俺は、アリストルの首根っこを掴もうとしていた手を力なく下ろした。


「そもそもさ。何でアンタら二人だけなワケ?」


 未だ済まなそうな表情をしているアーリアちゃんの頭をポンポンと撫でながら周囲を見渡した。

 ここは茶店や飯屋の並ぶ通りの路地を少し入った場所なので表を歩く人波も確認できる。しかし、いくら見渡してもアーリアちゃんを守るハズの騎士の姿は見えなかった。


「今日は護衛の騎士には遠慮してもらったのよ」

「ハァ?そんなコトできるワケ……」

「『乙女ヲトメの買い物だから』って言ったら誰もついて来なかったわよ?」

「…………。」


 ー『乙女ヲトメの買い物』。何て凶悪な響きだー


 確かに男所帯の騎士団に於いて、アーリアちゃんは紅一点。組織上、女の騎士や職員を置けない事情もあって、彼女は騎士たちの主君だと云うのに、身の回りの事は全て自分でやらされていた。本来、『塔の魔女』につくべき侍女の選別がなされていなかった内部事情もあるけど、不便な事も多々あると思われる中でアーリアちゃんが文句を言った事は一度もなかった。まぁ、アーリアちゃん本人が平民出だから身の回りの事は自分で出来ちゃうみたいで、特段、不便はないそうなんだけど。

 んで、アーリアちゃんの体調管理ヘルスケア精神管理メンタルケアを担当しているのが目の前にいる麗人ーー治療士アリストルだ。アリストルは男装の麗人のように美しい容姿の持ち主で、ファンは騎士団内にも多くいる。だけど……


 ーアリストルは歴とした男だー


 その性別を超越した容姿にコロッといっちまった可哀想な若手騎士(子羊)を、俺は何人も知っている。

 そんな魔性の治療士から『乙女ヲトメの買い物をするから騎士達オトコドモはついてくるな』と言われてついて行ける強者などいるだろうか。貴族子弟で構成された騎士団の紳士オトコ共にとっては淑女の扱いなど慣れたモンだろうけど。だからって『乙女ヲトメの買い物』という無理難題に立ち打ちできる紳士ヤローが騎士団に何人いるかは未知数だ。そう思えば目頭がぐっと暑くなった。きっと同僚たちは泣く泣く見送るしかなかったに違いない。


 ーしかも、今日はナイル先輩もいないー


 俺はナイル先輩から直接『副団長に呼ばれて遣いに出る』と聞いていた。あの生真面目騎士(ナイル先輩)ならば、この魔性の治療士に何を言われた所で眉一つ動かさずについて行っただろう。しかし、騎士団にはナイル先輩以上の堅物は存在しないのだ。


「あぁ〜〜もぉ〜〜!何となく事情は飲み込めました」

「そ?」

「仕方ないから俺が護衛しますよ」

「あら、随分とお利口なのね?」


 ポリポリと頭を掻きながら護衛を申し出した俺に、治療士は心底意外そうな表情だ。


「まぁ丁度、予定が無くなった所ですからね」

「フラれちゃったものね?」

「……」


 ワザワザ、生傷に粗塩を塗り込んでくる美麗の治療士。心の狭い俺が思わず目を細めたのは仕方ないと思う。


「……。もう何とでも言ってください」

「そ?なら、フラれ男さん。乙女ヲトメ二人の護衛、ヨロシクね?」

「……ハイ。」


 ヒドイ物言いだが、俺は一度許可を出した手前文句も言えず頷くしかなかったが。


 ーちょっとくらい慰めてくれても良くないか?ー


 そう思う俺に、何とも言えない表情のアーリアちゃんがそっとハンカチを貸してくれた。



 ※※※



 ーちくしょー。何でこんな扱い受けなきゃなんねぇの?ー


 『護衛』とは『荷物持ち』の俗語だろうか。俺は両手いっぱいの荷物を持たされながら心ん中で愚痴った。一時間前の浅はかなオレの考えを正してやりたい。少し前まではたかが非戦闘員の護衛だと軽く考えていた俺だけど、いざ、『乙女ヲトメの買い物』を体験してみた今はその認識をガラリと変えざるを得ない状況に陥っていた。


 ー『乙女ヲトメの買い物』って怖ぇ!ー


 服屋と服屋のハシゴ。装飾品屋でウィンドーショッピング。甘味処でケーキバイキング。腹ごなしに蚤の市を練り歩き、今は真白い布の屋根が広がる市場を物色中であった。そこまでノンストップで行動できる乙女ヲトメたちはもう『非戦闘員』とは言えない。騎士である俺ですらグッタリと疲れてきているのだから。


「アンタたち、そんな細い身体のどこにそんな体力あるんですか?」


 ゲッソリしながら尋ねる俺を、二人の美女は振り返るなりキョトンと首を傾げた。


 ーくっそ可愛いなぁ!ー


 いかんいかん。二人のうち一人はオトコだ。俺は首を大きく振るとヤマシイ妄想を振り払った。


「セイ、疲れちゃった?少し休む?」

「なぁに?騎士のクセに随分と軟弱ヤワなのねぇ?」


 心配そうに顔を覗き込んでくるアーリアちゃんは天使。妖艶な笑みを浮かべて挑発してくる治療士は悪魔だ。ただ、どちらも極上の容姿を持っている事は確かで、道ゆく人々ーー特にオスーーは此方コチラをチラチラと振り返って見ていく。


「ふふ。本当は嬉しいんじゃないの?私たちとデートができて」


 ー否定はできん!ー


 これが『仕事』でなかったらどれだけ楽しかった事だろうか。休日返上した『護衛任務』だけど、実質的には乙女ヲトメ二人の買い物に付き合うだけであって、然程さほど労力は必要ない。しかし、彼女たちーー特にアーリアちゃんは護衛が必要な身だ。彼女はこの街をーーこの国を守る一柱なんだから。


「大丈夫です。お気になさらず」


 掌を外に差し出して『大丈夫』だと強がる俺。そんな俺に二人は真逆の表情を浮かべた。


「もう。強がっちゃってぇ!」


 治療士せんせいは広げた俺の手を軽く叩くと、俺に持たせていた荷物を半分奪って行った。


「じゃあ私、あそこで飲み物買ってきますね?」

「ア、アーリアちゃん、ちょっと待って……!」


 アーリアちゃんは数軒先の果汁店を見つけると、俺の制止も聞かぬまま駆けて行った。仕方なく俺と治療士(先生)はアーリアちゃんを追いかけて歩き出した。


「ハァ……」

「なによ?さっきから」

「……え?何ですか?」

「あら、気づいてなかったの?アナタ、さっきから溜息ばかりついてるわよ」


 呆れた!と治療士は眉を潜めた。俺は治療士に言われて初めて、他人が気にするほどの溜息を吐いていたって事を知った。


「あぁ〜〜スミマセン」

「いいのよぉ、別に。気にしてないから」

「そうですか?」

「ええ。アナタ、フラれ男だもの。溜息くらい吐きたくなるわよね?」


 ふふふと笑う美麗治療士の笑顔は美しい。麗人は金の髪をかき上げると柔らかな栗毛を耳の後ろに梳き流した。


「フラれ男って。その言い方、あんまりじゃないですか?」

「あら?事実じゃない?」

「まぁ、そうっすけど……」


 俺は荷物を抱え直すと目線を遠くした。


「彼女とお付き合いしてたんでしょ?」

「ええ、まぁ」

「なぁに?その生返事は」


 怪訝な表情の治療士に俺は苦笑いした。


「彼女に別れを切り出された時も、別れた今も、俺、悲しくないんですよ」

「へぇ〜?」

「それはもうサッパリ。かえってスッキリしたくらいで」

「ふぅーん。真剣じゃなかったんだ?」

「うーん。付き合ってる時は真剣だったと思うんですけどねぇ?」


 そう言えば、これまで付き合ったどの女とも別れを悲しんだ事は一度もないように思えた。付き合う時は舞い上がるのに、別れる時はサッパリしたもんだ。それを『真剣じゃなかった』と言われたら、そうなのかも知れない。


「いつもそうなんですよねぇ」


 何でだろ?と首をひねれば、美麗治療士はなんとハッと鼻で笑ったのだ。


「そりゃ『本気の恋』をしてないからでしょ?」

「……ハァ?」

「相手に対して本気じゃないから熱も入らないのよ」


 「バカねぇ!」と鼻で笑う治療士に俺は思わずイラッとした。しかし、そんな俺の苛立ちを無視して治療士は話を続けた。


「『本気の恋』って言うのはね。相手の幸せの為なら何だってできちゃうくらい好きになるってコトよ」


 治療士はいつになく真面目な表情で白い屋根の下ーー数軒先を行くアーリアちゃんの背を追いかける。


「その相手ヒトの為なら何だってできちゃうの。それこそ、普段ならやらない事もその相手ヒトの為と思うならやれちゃうのよ?」


 治療士の言う事が本当ならば、これまで俺が付き合ってきた女の為に自分の意思を曲げてまで寄り添う事ができただろうか。いや、そんな相手は一人もいなかった。いつも自分の想いや事情が優先だったと思う。


「大切で大切で仕方がなくって……そうしている間に『恋』が『愛』に変わるわ。そうなったらもう、その相手ヒト無しでは生きれなくなっちゃうのよ」


 ふふふと笑う治療士の笑みは、それまでのように相手を惑わすような笑みではなかった。慈悲と慈愛の女神のような温もりがその笑みの中にはあった。


「……アリストル先生は、そんな恋をした事があるんですか?」


 俺はその時、普段なら恥ずかしくて口に出す事を躊躇う質問をしていた。治療士も俺のその質問は意外だったようだ。それでも、彼は僅かに目を見開いた後に「ええ」と頷いた。


「そのお相手は……まぁ、教えては貰えませんよね」

「勿論、ナイショよ」


 これまで俺に対して何かと嫌味を言って揶揄ってきた治療士だが、この時の表情はそれまでと違い紳士的な佇まいだった。まるで普通の青年のようだった。だから俺は、「因みに相手は男ですか?女ですか?」と聞きそうだった言葉をぐっと飲み込んだ。


 ーこの麗人ヒトもちゃんと紳士オトコだったんだな?ー


 美麗治療士の横顔を眺めながらそんな事を考えていた時、突如前方から騒めきが起こった。


お読み頂きまして、ありがとうございます!

ブックマーク登録、感想、評価など、とても嬉しいです(*'▽'*)本当にありがとうございます!


東の塔の騎士団編『裏舞台8:昼下がりの乙女たち』をお送りしました。後輩騎士セイ視点です。


セイは騎士団では異色のチャラ男ですが、口調とは裏腹に行動は紳士的です。彼は仕事は仕事、勤務外は勤務外とオンとオフとの切り替えが出来るタイプです。ただ、オフになった瞬間に素が表に出てしまうだけで……。将来有望な騎士なのでモテます。なまじ顔が良いのでウッカリ引っかかってしまう女の子は絶えませんが、彼氏にしてイイタイプとは言えません。

そんなセイの休日。チャラ騎士のセイも二人の乙女ヲトメにはタジタジです。


次話『昼下がりの乙女たち2』も是非ご覧ください!


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