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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と塔の騎士団
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紳士の嗜み1

※東の塔の騎士団編※

 『東の塔の騎士団』の駐屯する基地には鍛錬場や騎士寮、迎賓館など様々な施設が併設されており、騎士団長たち管理職の執務室や騎士団員の執務室などがある管理棟には今日、『塔の魔女』の執務室も設えられていた。

 本来なら『塔の魔女』は塔の内部に滞在するのが決まりなのだが、この『東の塔』は例外であった。現魔女は自身が『塔』に常駐せずとも《結界》を維持できる術を構築するに至っていたからだ。その為、現魔女はこれまでアルカードの地に滞在する事はなかったのだが、昨今、『塔』の定期点検という名目で凡そ二年半振りに滞在していたのであった。


 『東の塔の魔女』が駐屯基地に滞在して早くも一月ひとつき余りが経ち、野山はめっきり春の装いになっていた。先日、野の花が美しい東の森ににて騎士団主催の『特別訓練』なるものが行われ、そこには魔女も特別に参加し、騎士団員の能力向上が行われたという。

 空が透けるほど青い本日、騎士団の駐屯基地ーーその管理棟の中庭では、屈強な騎士たちが滞在する施設には余程似つかわしくない可愛らしい声がこだましていた。


「ほーら、レオ。取っておいで〜!」


 アーリアは力一杯ボールを投げた。ボールはヘロヘロ〜〜と飛んでポテッと芝生に落ちると、惰性でコロコロと2、3回転して止まった。しかし、アーリアの隣に銅像のように鎮座している大型の犬系獣は、飼主に命じられたにも関わらずそのボールの行方を目線で追うだけ追って、全く動こうとはしない。


『……』

「……れ、レオ?」


 アーリアは犬と呼ぶには些か大型過ぎる大型犬イヌモドキに呼びかけると、レオと呼ばれた飼犬はフゥと溜息を吐いた。そして、『仕方ないな』という表情を浮かべると重い腰を上げてトコトコとボールの方へと歩き出した。アーリアが見守る中、あからさまに嫌そうな表情で転がったボールを口に加えると、またゆったりとした動作でアーリアの元まで戻ってきた。


「ありがとう、レオ」

『ワウ』


 ぽてっと掌の上に置かれたボール。ボールは羊毛素材で作られており柔らかい。それをニギニギ握りながらアーリアはレオの顔を覗き込んだ。


「……。あの、もしかして、レオはこういう遊びは嫌いだった?」

『…………』


 レオは無表情のままアーリアからスッと目線を外した。


「じゃ、じゃあさ。こういうのはどう?」


 アーリアはボールを置いて、次は薄い円盤状の玩具を取り出した。取っ手の無い鍋の蓋のような形をしているソレを見て、レオはまた、あからさまにげっそりした表情になった。


「セイが買ってきてくれたの!犬ってこういう玩具で遊ぶのが好きなんだって!」


 円盤状の玩具を地面と水平に投げ遠くへ飛ばす遊びだそうで、賢い犬ならば投げた端から走り出してジャンプし、玩具を口でキャッチして取って戻ってくるそうなのだ。

 そう、飼主アーリアの説明を律儀に聞いていた飼犬レオは、飼主アーリアの護衛の一人である騎士ーー常にヘラヘラした巫山戯た顔の青年騎士を思い浮かべた。そして、『またあの人間か?なんて余計なことを!』と、今にも舌打ちしそうな表情になった。しかし、当の飼主アーリアはそんなレオの表情には気づかず、キラキラした目を飼犬レオに向けてくる始末。


「ね、レオ。一回だけ、一回だけでいいからやってみようよ!」


 飼主アーリアの言葉にこの飼犬レオはかなり弱かった。玩具を胸の前で持ちながらワクワクと心をトキメカセているアーリアを見上げると、何かを諦めるように肩を落とし、レオは力なく『ワウ』と鳴いて承諾を示すのだった。



 ※※※



「アレは何だ?馬鹿猫」

「見て分かんないの?獅子くん」

「俺には獣に見えるのだが……」

「僕にもそう見えるよ……」

「「…………」」


 『目線の先に見える光景はどうやら現実だったようだ』と、ジークフリードは眉間を親指と人差し指とで押さえながら、再度、中庭を見遣った。


 二人の青年騎士は長方形の中庭をぐるりと囲む回廊ーーその円柱の柱の前に直立不動で立ちながら、『中庭で愛犬と遊ぶ少女の図』というモノを眺めていた。光景だけ見れば、大変、微笑ましい。

 ここは騎士駐屯基地ーー『国を守る騎士の集まる施設』と言えば聞こえが良いが、単純に考えれば『むさ苦しい男集団の巣窟』。いくら貴族階級ばかりの子息の集まりと言えども、一日中、訓練と鍛錬とで汗を流す男たちはむさ苦しい事この上ないのだ。それはどの騎士団も同じであり、全騎士の憧れの的ーー近衛騎士とてその点はまるで同じだった。だからこそ……


「微笑ましい光景なのは確かだが……」


 むさ苦しい男集団の中にあって少女が楽しそうに愛犬と戯れている光景は、騎士オトコたちの心を和ませているようだ。護衛担当の騎士は勿論、所用で通り掛かった騎士や非番の騎士らもが、回廊の一、二階から微笑ましい表情を浮かべながら少女アーリアの様子を見守っている。その目が大変、穏やかである事から、騎士たちが少女アーリアに対してある種の癒しを求めている事は分かった。しかし……


「……。おい、リュゼ。何でこんな状況になっているんだ?」

「何でって言われてもねぇ……。アーリアがあのイヌを飼いたいって言い出してさぁ……」

「オイオイ!アレは犬じゃないだろう?どう見ても獣じゃないか!?」

「だよねぇ〜〜」


 ジークフリードが指差したのはアーリアの側にいる大型の獣。その顔立ちから犬に見えなくもないが、それにしては大き過ぎはしないだろうか。立ち上がればアーリアの背を優に越すだろう。ふさふさした黒い毛覆われた体躯。特徴的な赤い瞳が太陽の光を浴びて輝いている。


 ー魔物ではないのか?ー


 ジークフリードもこの世界の魔物全てを知っている訳ではないが、これほど大きな犬はもう魔物と呼んでも支障ないのではないかと思う程だった。しかし、魔物ならばこのように人間と共存できたりはしない。アーリアが戯れても動じていない獣の姿を見ると、とても凶暴な魔物には見えなかった。

 しかし、とジークフリードはリュゼの方へ視線を向けた。リュゼは肘で脇を小突かれながら怒鳴られているにも関わらず、言い返す気はさらさらないようで、それどころか通常いつもの余裕や覇気といったものすらなかった。


「……何だ?お前らしくもないな。あんな得体も知れない獣をアーリアの側に置くなんて」

「だよねぇ〜〜」


 その煮え切らない態度にジークフリードの苛立ちが強まった。


「そもそも、誰も止めなかったのか?」


 明確に『何を』とは聞かない。


「みんな、一旦は止めたんだよ?」

「だったら!」

「痴漢退治に侵入者撃退」

「は……?何だそれ?」

「あのイヌが挙げたテガラ」

「はぁ?」


 意味が分からないとジークフリードは首を傾げた。リュゼは仕方ないとばかりにワケを説明し始めた。

 あのイヌモドキは人間並みに知能が高いそうで、アーリアにつきまとってきた痴漢共を退治したしたそうだ。その痴漢事件だけに留まらず、どこからか白き髪の魔女の噂を気がつけてやってきた不法侵入者を見つけるや否や、その脚力で追いかけ倒した挙句、全体重を持って踏みつけ、見事に捕獲したそうだ。


「今じゃ立派な護衛その1だよ」


 リュゼは「騎士顔負けなんだよね〜〜」と両手もろてを上げた。

 本来なら、このような男所帯に年頃の少女が身を置く事は望ましくない。しかし、そこは道徳性を重んじる騎士団だからこそ、アーリアは身を置く事を許されたと云っても過言ではない。要は、騎士たちの理性を試したのだ。そしてそこに、今は傍らに頼もしい忠犬がいる。

 さすがのリュゼもアーリアの眠る寝室を中から守る事はできなかった。だが、愛犬ならば話は別だ。


「今じゃあのイヌ、ちゃっかりアーリアの部屋で一緒に寝てるんだよ」


 イヌモドキはれっきとしたオスだという。

 専属護衛リュゼを押し退けて実に良いポジションを得た新参者イヌモドキに対して、リュゼの心情は複雑だった。何しろ、『怪しい獣をそこまで一緒にさせるのはどうなのか?』という考えと、『アーリアの夜の警備が強化されて良かったのでは?』という考えがせめぎ合っているのだから。理性と本能が鬩ぎ合い、今ではどうすれば良いか、よく分からなくなっていたのだ。


「くっそ羨まし……あ違った、けしからんイヌでしょ〜?」

「ま、まぁ、お前の気持ちは分からんでもないが……」


 この騎士団の団長ルーデルスは中央でも名の知られた豪傑だ。その肉体美は近衛騎士団長と張るとも言われている。明瞭明白で性格も良くできた人物だと聞く。そのルーデルス団長がアーリアに対して怪しい大型犬イヌモドキを飼う許可を出したのだ。近衛であろうとジークフリードは外部から来た騎士に過ぎない。外部騎士ジークフリード騎士団長ルーデルスの決定にケチをつける訳にはいかないのが現実であった。

 そう思い直したジークフリードは、明らかに落ち込んでいるリュゼを横目に、これ以上のイヤミを言う事を止める事にした。


「で、獅子くん。君、こんな所で油売ってて良いの?」


 リュゼのツッコミは最もなこと。今度はジークフリードの方が劣勢に立たされ、その最もなツッコミにウッと息を飲んだ。

 ジークフリードは『仕事』でこのアルカードを訪れていた。ジークフリードの仕事は言わずもがなトアル王族の護衛だ。その警護対象と言えば……


「大丈夫だ。殿下なら朝からアルカード領主と会談なさっているからな」

「だからさ。ついて行かなくても良かったの?」

「ああ。まぁ、その……俺にも色々あってな……」

「ふーん」


 リュゼはそれ以上深く探りは入れなかった。騎士には騎士の、貴族には貴族のアレやコレやがあるのだろうと推測できるが、生粋の騎士でもしては貴族でもないリュゼからすれば、そのどれもを正確に理解する事はできない。聞いたところで明確なアドバイスが出来る訳もなく、リュゼにとってはツマラナイ話でしかないのは分かり切っていた。ーーが、そう思った時……


「やぁ!ジーク!」

「ぃーー!?」


 ジークフリードは背中に寒気を感じて振り向いた。そこには無駄にキラキラしい雰囲気を醸し出した青年紳士が居た。

 金髪に碧眼。整った容姿。煌めく白い歯。爽やかな微笑。華美にならない程度の貴族の装い。要所要所に散りばめた装飾はその容姿を更に際立てている。

 美形紳士と視線が合った途端、ジークフリードは内心「げっ⁉︎」と声を上げた。しかし、これまで培われた貴族能力をフル活用し、咄嗟に表情を繕う事が出来たのは上々だった。

 しかし、美形紳士はジークフリードの困惑状態を見透かしているようだった。そんなモノは全く気にする要素にはならないようで、若干、引き気味のジークフリードに向かってズカズカと大股で歩み寄ってくるのだった。


「久しぶりだね〜、ジーク。元気にしていたかい?」


 美形紳士は手を軽く上げて親しげに話しかけてきた。


「ええ。カイネクリフ様こそ、お変わりはございませんか?」


 ジークフリードは引きつりそうになる顔をどうにか整えると、美形紳士の手を取った。


「ハハハ!相変わらずジークは堅苦しいねぇ!昔のように『クリフ兄さん』と呼んでも良いんだよ?」


 美形紳士ーーカイネクリフ・フォン・アルヴァンドーーつまり若きアルカード領主は、ジークフリードと握手を交わしながらその笑みをさらに深めた。年頃の令嬢の一人二人ならその笑顔だけで墜とせそうな蕩ける微笑だ。だが、それを男相手にーーしかも従兄弟相手に見せるのはどうだろうか。


「ご冗談を!私を幾つとお思いですか?」

「ハハハ。24歳だろ?知っているよ。君はいつまで経っても私の7つ下、追いつく事はないんだ」

「まぁ、そうですね?」

「弟のいない私にとって、君はいつまでも可愛い弟だよ」

「……。ありがとうございます」


 笑顔の中でもコロコロ表情を変えるカイネクリフ。ジークフリードはこの従兄弟の事が昔から苦手だった。

 父アルヴァンド公爵ルイスのすぐ下の弟ラルクの息子であるカイネクリフ。7つ年上の従兄弟殿は若い時から秀才で、早くから騎士としても栄達していた。更には商売の才能もあり、一代にして巨万の富をも築いた。そして騎士から政治家に転身し、現在に至っている。

 何をさせても十分以上に熟すカイネクリフ。それでいて性格もそう悪くないとくれば、世の中の貴族は放っておかない。カイネクリフを取り込み、あわよくばアルヴァンド公爵本家と繋がりを持とうと考える貴族があの手この手と策を講じて接触を試みた。

 ーーが、カイネクリフは逆にその貴族たちを掌で弄んだのだ。貴爵位と金目当てに近寄ってきた令嬢から情報を聞き出し収集し、貴族たちの弱みを握っていった。

 そのくせ、弄ばれた令嬢たちからカイネクリフが訴えられたという事例は殆どないという。遣り方が非常に汚いが、これぞ貴族の鑑と云われる程の手並みなのだ。


「あぁ、ツマラナイ。昔はもっと素直で可愛かったのに」

「……申し訳ございません。カイネクリフ様は相変わらずのようですね?」

「ん?何のことを言っているのかな?」

「知らないとでもお思いですか?」

「あぁ、君がどの事を言っているのか皆目検討がつかないよ」


 悪びれもせず「多すぎて検討もつかないよ」と答えるカイネクリフに、ジークフリードは嘆息した。


「奥様とお子様はお元気ですか?」

「アレ?言っていなかったかい?少し前に別れたんだよ」

「は……ハァ?婚姻関係を結んだのは昨年の夏頃だと……?」

「ハハハ!時とは移ろいゆくものさっ!」


 まるで移ろいゆく季節のようなその言い方に、ジークフリードは開いた口が塞がらない思いだった。


「何人目ですか、逃げられたのはッ!?」

「ん〜〜覚えてないね。ほら、私ってさ、恋愛関係ダケなら上手くいくみたいなんだけど、婚姻関係となると違うみたいなんだよね?」

「どんな言い訳ですか!?」


 ジークフリードの怒りのボルテージは徐々に募っていく。


「これ以上、アルヴァンド公爵家に妙な噂を立てないで頂きたい!」

「どんな噂か知らないけど大丈夫だよ。アルヴァンド公爵家は私の噂くらいじゃ潰れやしないさ」

「潰れる潰れないの話ではありません!オーセンに帰ってきた直後の夜会で、私がどんな目に遭ったか……!」


 あー言えばこー言う。ジークフリードの話をのらりくらりと躱すカイネクリフ。完全にジークフリードはカイネクリフの手中であった。


「……因みにどんな目だい?」

「いきなり顔にワインを引っ掛けられました」

「それは、まぁ……。ジーク、君、どこの令嬢に手を出したんだい?上手くやらないとダメだろう?」

「ッーー!? 全て冤罪です!私は三年以上、社交界から遠ざかっていたんですよ!どうすればご令嬢方に手を出す事ができるんですか!?」


 単純に、ジークフリードはカイネクリフに間違えられたのだ。

 従兄弟同士とは思えぬほど、ジークフリードとカイネクリフの面立ちは似通っていた。兄弟と言っても十分以上に通じるだろう。況しては夜会などでは男性も軽い化粧は施すもので、夜会衣装も相俟って普段以上に煌びやかな装いになるのだ。

 どうも、カイネクリフはトアルご令嬢と『一夜限りのラブロマンス』を楽しんだようなのだ。しかし、カイネクリフの方はそう思って夜を楽しんだとしても、令嬢の方もそうだとは限らない。己がカイネクリフの恋人になれたものだと思い込んでも仕方がない。

 それもこれも全て、カイネクリフの歯の浮くような台詞と態度が原因。初めは『遊び』と分かっていても、つい本気になってしまう令嬢が一定数以上は存在するのはそういう経緯があっての事だった。


「あはは!私に間違えてワインを引っ掛けらたって?面白いね、ソレ」

「全く面白く有りません!」

「ハハハ!怒ると可愛い顔が台無しだぞぉ?」

「ーークリフ兄さん!」


 これでは相手の思う壺だと分かりながらも止められず、とうとうジークフリードは叫んでいた。叫ばれたカイネクリフは、更にその笑みを深めた。


「やっと『兄さん』と呼んでくれたね?」

「……それが狙いですか?」

「そう睨まないでおくれ。久しぶりの再会なんだ。長く会わない間に私の可愛い従兄弟が変わってはいなかったと分かって、本当に嬉しいよ。まぁもう少し、冷静さは身につけた方が良いだろうがね」


 そう微笑むカイネクリフの瞳は優しい。アルヴァンド公爵家に於いて三年前の痛ましい事件、突然齎されたジークフリードの死は、公爵家に連なる者たちの心に大きな傷を残した。

 だからこそ、死んだ筈のジークフリードが生きて帰ってきたと知った時、カイネクリフは大いに喜んだ。勿論、大人しく死ぬとは思っていなかっただけに、どんな形であれ生き延びていてくれた事を、神に感謝した。どんな噂が流れようとも、カイネクリフはずっと、ジークフリードの生存を信じていたのだ。


「さて、ジークを揶揄うのもこれくらいにしようか」


 そう言うと、カイネクリフはそれまで黙っていた青年騎士ーー二人の様子を少し離れた位置で観察していたリュゼへと身体を向けた。


「君が『リュゼ』だね?」

「は」

「君のことは伯父上から聞いている。よく、伯父上を助けてくれたね。感謝しているよ」


 カイネクリフの表情にはそれまでの軽薄さが消え失せていた。その真面目な表情から語られる言葉には嘘がなかった。それが分かったリュゼは多くを語らず、頭を下げるのみでその謝辞を受け取った。


「あの姫の護衛は大変だろうけど、よろしく頼むね?」

「勿論です。彼女は私の大切なあるじでもありますから」


 カイネクリフは下げられた頭をほんのニ拍間見つめた後、リュゼの肩をトンっと叩いた。


「話も済んだ。さぁてジーク、出かけようか?」


 カイネクリフが振り向いてジークフリードを見たとき、またその顔には悪戯な笑みを浮かべていた。


「どこに、ですか?」

「『狩り』に、だよ?」

「生憎と、私は仕事でこの地に参りましたので、主の許可なしに動く事など出来ないのですが……」


 従兄弟同士と言えど立場はアルカード領主と一近衛騎士。ジークフリードは改まった態度でカイネクリフの申し出を断った。


「アハハハハ!大丈夫!君の主殿も参加されるのだから!」

「……?」


 そのような予定などあっただろうか?とジークフリードは首を傾げた。


「因みに言い出したのは私じゃなくて、あそこにいる殿下だからね?」


 カイネクリフが指差した先は中庭の中央付近。そこには大型犬イヌモドキと遊ぶアーリアと、アーリアと一緒になって遊んでいる爽やか笑顔の青年紳士の姿が。


「殿下⁉︎」

「いやぁ……実に微笑ましい光景だよね〜〜」


 驚愕のジークフリードの側には実にイイ笑顔のカイネクリフ。そして、カイネクリフに深く同意するリュゼ。兄妹たちの微笑ましい光景は、昼ごろまで続くのだった。






お読み頂きまして、ありがとございます!

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東の塔の騎士団編『紳士の嗜み1』をお送りしました。

久々の獅子vs野良猫の対決。犬猿の仲は相変わらずのようです。

ジークフリードは社交界でもその容姿と言動で上手く立ち回る自信を持っています。しかし、カイネクリフはそれを上回る才能を持っています。

色々問題のあるカイネクリフですが、彼からすればジークフリードはいつ迄も『可愛い弟』なのです。


次話、『紳士の嗜み2』も是非ご覧ください。

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