プロローグ
※(主人公視点)
カーテンから溢れる朝日に目覚めた初夏。この日が自身の生き方の転機を迎える転換日だなんて、その時は考えにも及ばなかった。どちらかと言えば胸躍る陽気が身体を包んでいた。
月に一度の里帰り日。大好きな師匠に会える日。定期検診を名目に、師匠の屋敷を訪れる日だったからーー……
※※※
師匠のもとを離れて約二年。今年で十八、成人の年を迎える。独り立ちをするには少し遅かったのかもしれないけど、どんくさい私にはちょうど良かったと思ってる。現在は一人暮らしにも慣れ、街の人々とも打ち解け、日々の暮らしが安定しだしたところ。
私の仕事は『魔宝具職人』。
師匠のもとで十年間生活し、魔法と魔術とを習い、魔術と魔宝石、貴金属などの材料を組み合わせて作る魔宝具ーーその製作を担う職人として数多くの技術を教わった。師匠はその道の玄人で、国からお声がかかる程の有名人。
魔宝具の使い道は多岐に渡る。
・火を起こす
・水を出す
・風を起こす
・洗濯をする
・身体を洗う
・乾燥させる
ーーなどなど、生活する上で便利な魔宝具が多い。だけど……
・結界を張って身を守る
・力を増幅させる
・力を減少させる
・魔物を寄り付かせないようにする
ーーといった対人間、対魔物を対象とした魔宝具もあって、その大抵が、力のある素材と魔術との融合で創り出すものなの。あると何かと便利。それが魔宝具が民間に受け入れられている一番の理由だと思う。
それで魔宝具職人とは、魔宝具を創り出すことができる者の事を指す。でも、思うがまま、欲望のままに創り出すのは三流職人のすること。一流の職人は、創り出した魔宝具に責任を持つのを当然とするから、定期検査や点検なんかも行うし、勿論、修理も受け持っている。
魔導国家と呼ばれるこの国では、魔導士と同じくらい魔宝具職人も大勢いる。勿論、職人の技術力はピンからキリまでいるもので、既に日用品となっているメジャーな魔宝具を造る職人なら結構な人数がいるけど、新しい技術を織り込んだ魔宝具を生み出す事のできる職人となると一握りしかいないかな。そして、私の師匠はそんな一握りの職人だと云うこと。
私は月に一度、師匠のもとを訪れる。
今日はちょうどその日。
今は春も終わりに差し掛かる初夏。夜はまだ肌寒い日が多い。昼間も暑くなるにはまだ早くて、今日も日差しは暖かいけど汗ばむ程じゃない。
空気はじっとり暑いけど、私は腕が袖から出るのが苦手で、夏でも半袖じゃなくて七分袖のブラウスに膝丈まである『包』とよばれる上着を着ている。それをウエスト部分をベルトで巻き止め、脚にピッタリフィットした足首まであるズボンを履いている。足には歩きやすいハイオーク皮でできたショートブーツ。そして、頭から足下まですっぽりと隠れるフードのついた白いマントを被っている。
暑苦しく思えるだろうけど実際はそうでもないの。マントの中には冷暖房完備の魔宝具が仕込んであって、快適そのもの。
「春も終わりかな?日差しが強くなってきてる……」
私は頭上に降り注ぐ太陽の光を見上げると眩しげに眉を顰め、日差しに肌が焼けるのを気にしてフードを深く被った。
この街の治安はそれほど悪くはない。けど、どの街にも『はみ出し者』と呼ばれる類の人たちはいるもので。商店や露店なんかで店員さんと話す時以外、誰とも目を合わさずいるのは、無用なイザコザに巻き込まれない為の予防策なの。怪しげな雰囲気を感じた時には、早足で素知らぬふりをして通り過ぎるのが良いと師匠や兄弟子たちに言われていたので、キチンとそれを守っている。
師匠の屋敷はその街の外れにあって、屋敷の周りをぐるりと背の高い塀が囲っている。
魔宝具作りは失敗と成功の繰り返し。時には大掛かりな魔法や魔術を仕込む事もある。当然、創作途中には相応の騒音もあるから、師匠の屋敷は街の住人からの苦情を考慮して《防音》の結界なんかが施されている。その他にも色々と細工が施しているらしいけど、詳しくは知らない。
「あっ……」
私は塀の上に見える屋敷の屋根を見ながら正門近くまで来ると、その異変に気づいた。すると、バサバサッと屋敷の周りに自生している木々から鳥たちがけたたましい鳴き声をあげて飛び立つ。その時、腕にぞわりと鳥肌が立った。
「えっ⁉︎」
いくら周りの人たちから鈍いと言われる私でも、これくらいの異変には気づける。
本来なら異変に向かって自分から飛び込むなんて愚行でしかない。でも、この時ばかりは異変を感じてその場から逃げ出すなんて事はしなかった。逸る心臓の鼓動はこれから騒動に巻き込まれる事への緊張ではなくて、師匠や兄弟子の身を案じての感情からくる焦り。
私は額に汗を滲ませながら正門の正面まで小走りに駆け抜けた。その道中、一部の塀が崩れている箇所に視線が釘付けになった。
「この塀、強化されていたはずじゃ……?えっと、兄さまが『手入れが面倒だ』とか言って、《防塵》やら《防腐》やらを仕込んだ、って……⁇」
あの師匠や兄弟子たちが仕込んだ塀が、そう簡単に壊れる筈がない。彼らは本当に『後片付け』というものが嫌いなの。散らかすのは大の得意なんだけどね。なのに製作時には後の事なんて考えてない。彼らの使った後の部屋の中はいつも悲惨たる惨状になるんだから。
私がこの屋敷からの独り立ちが遅れたのは、何も自分だけの所為じゃない、師匠と兄弟子たちの所為でもあった。自分や兄さまがいなくなったら、一体誰が彼らの面倒を見るというの?
「《証文》」
正門に触れてみれば、機能は正常に起動していなかった。いつもは正門でペンダント型の魔宝具をかざして錠を開けて入る。これは不審者防止の措置の一つ。お客様がこの屋敷を訪れたなら、正門にある魔宝具が反応して、屋敷内にいる住人に伝わるようになっていた。
こんな些細な事に貴重な魔宝具を使うあたり、屋敷の住人は『変わり者』に分類されても仕方ない人種だと思う。魔宝具はそれなりの価値があるし値段も張るのだから。
ー外で待つべきかな?それとも中へ……?ー
明らかに不審者、それも己の持つ能力を悪い方向に使っている類の不審者の仕業だ。
『力のある者は狙われやすい』とは聞くけれど、近頃、本当にそう思うようになった。特に、ここ最近の師匠の周囲は穏やかとは言い難かった。
師匠はどの街にもどの国にも属さず、好き勝手に生きているから、これまでにも付け狙われる事が多々あったの。力ある魔導士であり、魔宝具職人としても超一流。そんな師匠をよく思わない者が大勢いる。
「えいっ!」
私は少し戸惑ってから正門から敷地内へと足を踏み込んだ。そして、屋敷の扉まで足を進めるとアッと声をあげた。正面玄関の扉がバラバラに砕かれていて、粉々になった破片がそこら中に飛び散っていたの。しかも、そこを何人もの人が踏みつけた跡もあった。
玄関の扉跡を跨いでから中をそっと見渡す。緊張感からゴクリと生唾を飲んだ。
師匠の部屋は正面玄関から奥に真っ直ぐ行って、地下に降りたところにある。じっと耳を傾けていると、屋敷の奥から小さな物音や人の声と思える音が聞こえてきた。
「……⁉︎ ……! ……っ!」
ドンと騒音が起きて、拍子に誰かの声が響いた。
ーお師さま……⁉︎ー
師匠の事を思うといてもたっても居れず、私は今後の展開も考えずに、思わず駆け出していた。
走りながら腰のポーチに手を突っ込んで幾つかの魔宝具を取り出すとギュッと両手に分けて握りこみ、同時に魔力を込め始める。トトトトっと早足で階段を駆け下り、光の漏れるその部屋へと向かって走りゆく。
「ーー去れ!お前のような者にくれてやる魔宝石など、此処にはないっ」
「そうか。貴様がその気なら此方も相応の手段を取らねばならんが……?」
「そんな言葉、脅しにもならないよ」
「ハッ!強がりにしか聞こえんな……」
あの温厚な師匠が声を露わに苛立っている。師匠の会話相手からは師匠に対する明らかな悪意が滲み出ている。
ーゾワリー
危険な魔力の気配を感じ取ると同時に肌が粟立った。肌が感じ取る魔力の気配。出入り口付近に複数の気配がある。不審人物が此方に気づくーー……
「……⁉︎ お、お前は……!」
私に向かって物申そうとした人物に向けて、右手に掴んでいた魔宝具を思いっきり投げ付けた。すると、魔法具がその人の太ももに当たった瞬間、魔宝具は相手の魔力に反応して爆ぜ割れ、同時に投網のような物が飛び出してその人に覆い被さった。
「なッーー⁉︎」
勢いのまま部屋の中へと入り込み、サッと左右に目配せする。そして、手近な人影に向けてもう一つの魔宝具を投げつけた。
「うぉ……⁉︎」
捕獲に成功。そのままもう一つの人影に向けて魔宝具を投げつつ、師匠の下まで一気に駆ける。
「お師さまっ!」
「えっ……⁉︎ アーリア⁉︎」
スルリと師匠を守るように師匠と不審人物との間に入り込む。すると眼前の不審人物は発動させようとしていた魔術の構築を途中で止め、此方をジッと見下ろしてきた。
「お師さま、大丈夫ですか⁉︎ お怪我は⁉︎」
「え……あ〜〜……まぁ、大丈夫かなぁ……」
どこか歯切れの悪い師匠の声音。何故か師匠は微妙な表情を浮かべて私の顔を覗き見ている。
ーアレ? なんかいけなかった…?ー
「あ〜〜うん……そ、そうだったね……今日は定期点検の日だったかぁ……」
トカ何とか言って、師匠は目頭と眉の間を指で押さえている。
「ほぅ……まだ邪魔者がいたのか……?」
その低い男の声に振り返ると、フードの隙間から不審人物たちを仰ぎ見た。
「えぇっ⁉︎」
呆然自失なほど驚いた声をあげたけど、なんと、さっき放り投げた魔宝具の罠に引っかかっているのは人間ではなかったの。あれは『獣人』という種族なのかな?頭が獣で、二足歩行で歩き、衣服を身につけていて、防具と武器まで手にしている。所作は四足歩行を行う野獣ではなくて、まるで人間みたいだ。人間と違う箇所と云えば、身体を覆うフサフサの体毛とその面立ちくらいかな。狼のような尖った牙と鋭い目つき、両耳が警戒心からなのかピクリピクリと動いている。
その中でも一番異質な存在感を放っているのは、獣人たちの中心に佇む一人の人間だった。
さっき勢い良く放った動物捕獲用魔宝具が不発だったみたいで、何処にもダメージを負わずに佇んでいる男性。
黒く足下まである長いローブ。ローブには金糸の刺繍で様々な模様が描かれている。背は師匠より少し高いくらいかな。年齢は多分三十代なかば。黒髪の間から覗く青い瞳がこちらを射抜くように見定めてくる。
「立ち去りなさい!此処は貴方たちのような者が来るところではないわっ!」
「……ほう?小娘一人を脅威に感じ、素直に立ち去るとでも思っているのか?」
そうだよね、立ち去らないよね。でも、そんなことは分かっている。これは単なる時間稼ぎ。この部屋には師匠と彼ら不審者集団しかいなかった。という事は、兄弟子たちはこの屋敷の何処かにいる筈なの。彼らなら、この異変を察知して直ぐにでも駆けつけてくれるはず。ーーと浅はかに考えていると、背後からトントンと遠慮がちに肩を叩かれた。
「何ですか、お師さま?」
「君ねぇ……ちゃんと考えてから行動しなきゃいけないよ」
「え……?何かいけなかったですか?」
「あぁ、もぉ……君は本当に間の悪いというか鈍臭いというか……」
「ヒドイです。頑張って此処まで来たのにっ!」
「そうだね。でもさぁ……」
今更な事を師匠に言われて心が折れそう。この状態で説教をされるってどうなの、と思わず訝しんだ。
すると、師匠の美しい黒髪が揺れた。サファイアのような光沢のある美しい瞳がスウッと細められた。
「茶番は終わりにしてもらおう。魔宝石をよこせ。素直に渡せば、命だけは助けてやる」
「完璧に悪役のセリフですね、お師様。どの魔宝具の事か分かりませんけど、こんな奴らに渡したら駄目ですからね!」
「うーん、いやまぁ、渡す気は更々ないのだけどさぁ……」
師匠は何故か苦悩の表情を浮かべて私と不審者とを眺めると、こそこそ話をする時みたいに私の耳元に口を寄せてきたの。
「君さ……打開案はあるの?」
「打開案ですか?ーーえっ、まさか……?屋敷に兄さまたちがいらっしゃるんじゃ……?」
「彼らみんな、仕事で出てるんだよ」
「え……」
ツーと背中に冷や汗が流れ落ちた。サーと血の気が引いていく。すると、師匠は目を細めて、またまた微妙な表情で私の顔をとっくりと眺めてきた。
「「……」」
師匠も私も魔導士だから、魔法や魔術を駆使して不審者を撃退する事はできる。但し、此処が屋外であればの話。
特に魔導士の扱う魔術は、屋内の戦闘には不向きなの。大きな力はそれなりの被害をもたらすから。それに、此処には魔宝具を創る為の貴重な宝石や貴金属、薬草など様々な物が置いてある。しかも、この部屋は半地下。
術は発動させた本人には被害は齎さない。術の発動と同時に《結界》で守られるからね。でも、こんな所で術を発動したら、最悪の場合には生き埋めになる可能性がある。同時に貴重な素材は壊れる可能性が高い。
ーえ。それ困るー
このような理由から、魔導士であっても屋内で出来る事は限られてくるの。そして、ここで一番重要な事、それは、二人ともが体術や剣術などと云ったものが不得意だと云う事で……
よく考えて欲しい。
屋内で日がな一日魔法や魔術の研究に明け暮れ、魔宝具をチマチマ作って喜んでいる魔宝具職人が、体術や剣術を得意とするだろうか。いや無い。
実際には私みたいな運動音痴は少ないだろうけど、私の知り合いには体育会系魔導士は殆どいない。唯一の例外とも言える奇特な人物がアーリアの兄弟子に当たる人なんだけど、今、師匠の口から、彼が今はこの屋敷にはいないという厳しい事実が齎された。
「ど……どうしましょ……?」
「君ね‼︎」
それまで二人のやりとりを傍観していた黒いローブの男が口を開いた。どうやら私たちの遣り取りを律儀に待っていたようなの。
「貴様たちは圧倒的不利な状況にある。それが漸く理解できたか?ならば、さっさとアレを渡すがよい」
黒いローブの男がそう言うと後ろからさっきとは違う獣人が現れ、私たちに向かって飛びかかってきた。
「《光の壁》」
『力ある言葉』と共に魔術を発動させて、獣人からの攻撃を防ぐ。私を中心として現れた鳥籠のような光り輝く壁に阻まれて、獣人はボールのように弾かれて部屋の端に跳んだ。そして、ガチャン!と何かにぶつかって、ズルリと床に落ちる。
ーあぁ、貴重な素材が……ー
「お師さま、今の内に転移でください!」
師匠が魔術を展開しようとすると複数の獣人たちが押し寄せた。その間にも黒ローブの男が何かの魔術を発動させてしまった。すると、ドンッと真上と真下から圧縮されたかのように、《光の壁》に圧力がかかった。
「っ……く……!」
この防御魔術の弱点を見事についている。この魔術は左右には強いが上下には弱い。
目の端に獣人も迫る。防御壁を壊そうと弾かれながらも剣で壁を叩き続ける。
実は弱点はもう一つある。この魔術は永遠に発動し続ける事ができないの。
「《横転》」
師匠が私に向かってくる獣人の1人を転ばせた。その間にも、隙を突いたかのように上下のプレッシャーが増した。
ーパキンー
乾いた音を立てて砕け散る防御壁。編み込んだ糸が解けるように魔術が宙に散っていく。
「《光の……」
師匠へと迫る影。それに気を引かれて私が背後の師匠へと目線を向けたその時、フードの後ろを黒ローブの男に掴まれて、ぐっとそのまま持ち上げられた。
被っていたフードが外れて長い髪が宙に流れ出た。
「……あッ……」
「ほう……珍しき髪色だな貴様。ん、白き髪?それにその瞳。お前、『東の魔女』か……?」
何が面白いのか、黒ローブの男がくつくつと笑う。
私はフードを掴んだ男の手を外そうともがいてみたけど、その手が緩むことは無かった。
「……。貴様も貴重なサンプルだな……」
「な……に、を……?」
男の言う意味が理解できない。でも、そんなことよりも、首へかかる圧迫感の方が強くて、首が締まる苦しさに、思考を放棄せざるを得なかった。
「アーリアを離せ、バルド」
「いやはや、こんな所に居たとはな……。此奴は連れて帰るとしよう」
「え⁉︎ イ、ヤ……よ!離してっ」
思いっきり足を振り上げて男の腿を蹴り上げ、首を掴む手が少し緩んだ隙に、踠いて地面に降りた。だけどーー……
「《銀の楔》」
「ーーーー!」
男の魔術が発動した。聞いた事のない魔術だ。
黒い鈍く光る楔が首を中心にして身体に巻きついてくる。肌に触れる楔からは痺れるような痛みが身体を襲ってきた。声にならない声をあげて、私はその場に崩れ落ちた。
「アーリア!」
師匠が手にしていた魔宝具を投げると、その魔宝具は発動していた楔の魔術に当たると弾け、魔術の発動が停止した。そして、その隙を突いて私は風の魔術で師匠の元までズルズルと地面を引っ張られていた。
「バルド、この娘に何をした?」
「大したことはない。少々『声』を封じたのみよ」
「《禁呪》か?お前はまだ、そんな魔術に手を出していたのか⁉︎」
「善人気取りか?くだらん。まぁ、お気楽な魔宝具職人風情には分からんだろうさ」
師匠は男の言葉に眉を顰めると、徐にしゃがんで私の状態を確かめてきた。
「……! ……⁉︎ ……‼︎」
私は顔を上げて師匠に何かを話そうと声を出した。けど、空気は喉を震わせても音にはならなかった。すると、師匠は美しい柳眉を顰めて苦笑し、私の頭を優しく撫でてくれた。
「君ねぇ、いつも『身の丈に合わないことは止めなさい』って言っておいたでしょう?昔っから鈍臭さと空回りは何をしても直らないんだから」
「……! ……⁉︎」
「はいはーい、聞こえない聞こえない。言っとくけどね、これは君の自業自得だからね?」
「……⁉︎ ……‼︎」
「はいはいはいはい。言いたいコトは大体分かるけどさぁ、拗ねてもダーメ!」
師匠は私の首に、光り輝く宝玉のネックレスを引っ掛けた。その宝玉は青く澄んでいて、まるで海の青を溶かしたかの様にーー師匠の瞳の様に美しい。
「アーリア」
師匠は私の頬に手を置くと、ニッコリ微笑んで、そっと呟いた。
「一生懸命、逃げるんだよ?」
「!」
「貴様、それは何だ⁉︎」
男が怒気を強めて尋ねたけど、師匠は男をまるっと無視して立ち上がり、とある魔術を発動させ始めた。
「さぁ、何でしょーね?」
師匠はニヤリと笑ってそう言うと、途端に私の身体が赤い光の靄に包まれた。そして次の瞬間には、私の姿は忽然とその場から消えたのだった。
お読みくださり、ありがとうございます!
小説家になろう!での初めての作品です。
楽しんで頂ければ幸いです。




