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魔宝石物語  作者: かうる
幕間2《番外編》
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番外編④ 毒を食らわば皿まで

 帝都ウルトは世界百選に選ばれるほどの美しい街だ。千年続く都は時代を経て尚、多くの人々を魅了してならない。

 白い漆喰の壁に色とりどりの瓦屋根。四大精霊を表す幾何学模様が施された円柱。水蜘蛛の糸で編まれたタペストリーと国旗が棚引く公道。一定感覚で並ぶ石畳み。何もかもが計算し尽くされている精霊都市ウルト。そこに住まう人々は皆、精霊を信仰し、精霊と共に生きる『精霊の民』であった。


「街並みが素敵ですね」

「まーな」

「千年の都って聞きましたが、いつ頃からこのような街並みなんですか?」

「千年前から基本的には変わっていないと聞く。ただ、上下水道を併せて工事をした時期に一部、取り壊さるを得なかった場所がある」

「やっぱり。システィナも五十年ほど前に大規模な水道工事をしたと聞きますから」

「環境を整えなければ感染病が蔓延するからな。我が国も下水問題が一番の課題だったと聞いた」


 千年間、何も変わらずになど生活はできない。人間はより豊かな生活を求めて進化するものだ。いくら『精霊と共に』と謳っているエステルであっても、いつまでも森の民のような生活ではおれなかったのだろう。


「五月蝿く言っている奴らもいるが、エステルがシスティナの技術を取り込んで治水工事を行った事は事実なんだ。そろそろ諦めて、他国の技術を認めれば良いものを……」


 魔術を生み出した魔導士の造る魔宝具は多岐に渡る。その中には土を掘るのに役立つ物もある。勿論、魔法でも魔術でも同じ効果を齎すわざはあるのだが、人の手による工事には時間も労力も予算もかかる為、システィナでは魔宝具の使用が欠かせないものとなっているのだ。それをエステルでも密かに取り入れているという事なのだろう。


「こっそりと色々な場面で魔宝具が入り込んでいるんですね?」

「馬鹿だろう?『魔術など蛮族のわざ』と言いながら、一方でその恩恵に預かっているんだ。魔法にプライドを持つのは悪いことじゃない。だが、他を受け入れる寛容な気持ちを持つ事が、今のエステルには必要なんだ」


 憤りを通り越して呆れを持っているユークリウス殿下は、話の最後には願いにも似た想いを吐き出していた。

『他者を認めること』は自分を卑下することにはならない。ユークリウス殿下はそう言いたいのだろう。


人間ヒトはーー人間ヒトの価値観は簡単には変えられませから……」


 アーリアはユークリウス殿下から視線を外すと、美しい街並みの方へ目線を移した。

 粉雪の降る公園には何人もの子どもたちがいて、楽しそうに雪遊びに興じている。その向こうにはテントを張った市場あり、人々の喧騒が公園こちらまで聞こえてくる。アーリアの座る場所からエステル国民、その生活の営みが一望できた。

 アーリアもエステル帝国に来る事がなければ、このような風景を見る事はなかっただろう。帝宮の在り方を知る事も、そこで政治を行う王侯貴族ーーユークリウス殿下の想いも知る事もなかった。


 ー遠い異国の知らない人々ー


 そうとしか思わなかっただろう。そこに暮らす人々の想いになど興味を向けなかったに違いない。『自分には関係がないこと』とバッサリ切り捨てて。

 こうして自分自身の目で見て耳で聞いて体験する事で、アーリアの価値観に新たなページが加わっていったのだ。だからアーリアには自国のーー自分の価値観を持ち、他国や他人を貶める言葉を吐く者たちの事を、一概に『悪』だと決め付ける事は言えなかった。


「……まぁ、な。帝国は千年かけて今のカタチが出来上がった。またこれから千年かけて成していけばいいさ……」


 アンニュイな雰囲気を醸し出したユークリウス殿下に、アーリアは即座にツッコミを入れた。


「随分と気の長い政策だね?ユリウスは千年そんなに待てるの?」

「はっはっはっ。待んな!俺の代である程度は淘汰してやるさッ」

「それでこそユリウスだよ!」


 ユークリウス殿下の宣誓に、アーリアは満面の笑みを浮かべた。

 アーリアの瞳には偽りがない。『ユークリウス殿下は己の言に責任を持っており、必ずやり遂げるであろう』という確信を持っているのだ。


「全く。お前は良い嫁だな?」

「仮の嫁、でしょ?それにもう任期も切れるからね」


 と晴れ晴れした顔をユークリウス殿下に向けるアーリアはそのまま、「私とユリウスとは他人同士になるのね?いや、寧ろ今までもそうだった……アレ?」とアーリアが首を捻り出した。『他人同士』という言葉に眉を顰め、半眼になったユークリウス殿下は、意趣返しとも呼べる言葉を放った。


「そんなワケがなかろうが?我が国であれほど大々的に婚約を披露をしたのだ。システィナでも大規模な偽装工作が行われたと聞く。これからもお前は俺から離れられんぞ?」


 ハハハと笑いながら告げるユークリウス殿下にアーリアは驚愕し、抗議の声を上げた。


「システィナに帰ったらお役御免なんじゃないの⁉︎ 」

「そんな事、誰が言った?俺とウィリアムの芝居のくだりを聞いただろうが?アリア姫は『一時帰国』だろ?しかもウィリアムは『エステルが落ち着いたらアリアを迎えに来てくれ』と言っていただろ?」


 なんて事を⁉︎ とアーリアは老婆した。

 臭い芝居にばかり気を取られて、その内容をザックリとしか把握していなかった自分が悔やまれてならない。アーリアは頭を抱えて悶絶した。小さい子どものワガママのように地団駄を踏みたい気持ちを抑えた。


「ハハッ!ツメが甘いなぁ、アーリア」

「っ!ぐうの音も出ない……」

「諦めるんだな。もうお前は俺の処へ来るしかない」

「断固諦めません!ユリウスは可愛くて清楚な妃を迎えてくださいっ」


 一瞬の沈黙。ユークリウス殿下は目をしばたかせて、不意に悲しげな顔を作るとアーリアの腰に手を回してそっと身体を引き寄せた。


「お前という者がありなが、他の妃など娶ろう筈もなかろう?」


 憂い顔のユークリウス殿下。アーリアの手を取り、そこへ唇を落とす。そのワザとらしい態度にアーリアは照れるどころか呆れてため息を漏らす。


「あーはいはい。お好きに何でも言ってください。もー!」


 ぷいっと顔を背けるアーリア。敬語もマチマチな言葉遣い、その態度は皇太子殿下に向けるには相応しくない。それどころか不敬極まりないのだが、ユークリウス殿下はその事に憤りを見せる事は全くなく、寧ろ嬉しく感じていた。


「つれない女だ」

「申し訳ございません」

「まぁ、そんな所も可愛いのだがな」


 引っ込めようとしたアーリアの手を逆に掴んで引き寄せると、アーリアの頭を胸に抱き込んだ。アーリアの動揺など丸っ切り無視しーー寧ろ動揺するアーリアを楽しむような手つきで、アーリアの頭を撫でる。


「あぁ、せっかく使えるようになってきたのに手放さねばならんとはなぁ……」

「……。私より優秀なヒトはごまんといます」

「俺は『お前が良い』と言っているのになぁ……お前にはトンと伝わらん」


 ユークリウス殿下は溜息をそっと落とすと、何事もなかったかのように、アーリアをその胸から解放した。

 解放されたアーリアは何を言われたのかその意味を考えあぐねているようだ。そんな顔を見ると、ユークリウス殿下の表情は益々苦いものになるのだった。


「……それでユリウス。いつヒースさんたちは来るの?こんな所にいて大丈夫なの?」


 アーリアは辺りを見回して人影を確認した。噴水の向こうの側で子どもたちが雪遊びをしている。友だち同士か家族なのか、行き交う人も少なくはない。目眩しの為、能力スキル《偽装》と《擬装》を施し、念の為に《結界》を張ってあるので、アーリアたちに気づく者はいない。


「ん?ヒースなら来んぞ。言っていなかったか?」

「え?そうなの?聞いてないよ」


 アーリアは今朝、ユークリウス殿下に呼び出された挙句、平民の着る服に着せ替えさせられ、殿下に指示されるままにここーー帝都ウルトの中心地にある公園まで連れて来られたのだ。

 ここにユークリウス殿下の片腕である近衛騎士ヒースやその他の騎士、アーリアの護衛騎士リュゼの姿はない。二人っきりだ。


「いや〜〜やれば出来るものだな?」

「え?」

「さっすが俺の嫁。実に優秀だ!」

「は?」

「魔術についてもそうだが、お前の使う能力スキルも実に優秀だな?」

「へ?」

「こーもアッサリ帝宮から抜けられるとは!」

「ーー⁉︎」


 ユークリウス殿下は満面の笑みを浮かべていて大変ご機嫌が麗しい。


「……殿下。つかぬ事をお聞きしますが、ヒースさんたちと街で合流するんじゃないんですか?」

「……ん?そんな事、言ったか?」

「ーーえっ⁉︎ それじゃあ……」


 アーリアは事の重大さをここに来て実感していた。

 アーリアはユークリウス殿下に言われるがまま、魔術で帝宮を覆う魔法の結界を掻い潜り、能力スキル《偽装》に《擬装》を重ねがけして姿を溶け込ませた上で帝宮の裏通路を通り、帝宮外へと抜け出した。その際、『どこぞの賊が皇太子オレの命を狙っている。誰にも見つからずに城下へと抜け出したい』というユークリウス殿下の要望に最大限添う形をとった。その為、ユークリウス殿下は帝宮から抜け出し帝宮の何処どこにも存在しない、という事実を知る者が居ないと言える。

 ユークリウス殿下の『賊云々〜』という言葉がウソだとすると、アーリアは皇太子ユークリウス殿下を無断で連れ出してしまった事になるのだ。

 皇太子殿下を守る騎士たち―とは城下で合流予定だと言うユークリウス殿下の言葉を今の今まで信じていたアーリアは、自分の迂闊さを呪った。


「完璧なお忍びデートだな!……視察ともいうが」

「ユリウス‼︎ マズイでしょ、ソレ」

「何を慌てている?お前も共犯者ーーいや主犯だぞ?」

「ひぃ!」

「ああ、良い天気だなぁ……」

「騙したの⁉︎ ヒドイ!」

「ハハハ!騙される方が悪い。アーリアは迂闊に人の言葉を信じすぎるクセがあるな?エステルに来てからというもの、俺の言葉に騙されてばかりじゃないか?んん?」

「ああ〜〜いや〜〜も〜〜」


 そもそもエステル帝国に捕らえられた事さえユークリウス殿下の掌の上であったのに、アーリアはもうその事を忘れてしまっていたのだ。アーリアは人見知りなのだが、一度信じた人間ーー自分の内側に入れた人間を疑う事ができない。

 例え言葉巧みに騙し、操り、どんなにこき使われたとしても、アーリアは今更ユークリウス殿下を自分の内側から追い出す事などできはしなかったのだった。


「ああ、怒られる〜〜。絶対リュゼーーいやヒースさん『が』怒ってるよ〜〜」

「心配するな?俺も一緒に怒られてやるから」

「あ、当たり前でしょ⁉︎ 寧ろユリウスが怒られてよっ!」

「まぁ、そう怒るな。可愛い顔が台無しだぞ?」

「ーーーー‼︎ 」


 ユークリウス殿下は怒り心頭なアーリアの眉間に指を突きつけ、グリグリと押すと笑いながら立ち上がった。


「ほら、行くぞ?アーリア」


 ユークリウス殿下は爽やかな笑顔を浮かべながら、アーリアに手を伸ばした。銀髪を煌めかせた美青年は簡素な服を着ていても、その煌びやかさに何の遜色もなかった。


 アーリアは一つ溜息を吐くと、仕方なくユークリウス殿下の手を取った。



 ※※※※※※※※※※



「コレ、美味しいね!」


 アーリアは四角い揚げパイを口いっぱいに頬張りながら、ユークリウス殿下を見上げた。甘い物を食べたアーリアは先ほどとは打って変わって上機嫌だ。


「確かに美味いな。おい店主、コレは何と言う名だ?材料は何だ?」

「パルテと言います。パイ生地の中に煮詰めた林檎と乾燥果実ドライフルーツを詰めて揚げてあります」

「成る程。だが少し値が張るな……」

「これでも勉強しているんですよ?今年は麦が不作なんで、小麦の値段が軒並み高くてね……。これがギリギリの値段ですよ」

「そうか。だが、三軒隣の店では同じような物がもう少し安く売られていたのだが……」


 ユークリウス殿下の言葉に顔色を悪くする店主。店主は口に手を当てると、隣近所を気にしながら囁くような声音で話した。


「あそこは店主があるコネを持ってましてね。特別に場所代を見逃してもらっているらしいんですわ」


 ユークリウス殿下の眉根がわずかに上がる。


「あぁ、その分が浮いているのか……」

「それにあそこのは生地が悪い。混ぜ物がしてあるから味はずっと劣る。悪いことは言わないから、安くても買わない方がいいですよ」


 気の優しそうな店主はそう締めくくると、油の中のパイをひっくり返した。


「分かった。悪かったな、聞き辛い事を聞いて」

「いえいえ。こちらも商売なんで、お客様からの信用が一番ですよ」

「あぁ、悪いついでに聞くが、そのコネを持つ店は他にもあるのか?」

「ええ。ここいらでは……」


 ユークリウス殿下は店主の声に耳を傾けている。


「ユリウス、あそこのジュース買ってくるね?」

「ああ。あまり離れるなよ」


 アーリアはユークリウス殿下に一言断ると、二軒離れた生野菜果汁フレッシュジュースの露店へと足を運んだ。


「はい、いらっしゃい。何にします?」

「おススメは何ですか?」

「そうねぇ、今は林檎かしら。やっぱり季節の果物フルーツが一番よね」

「じゃ、それを二つ」

「あいよ。連れがいるのかい?」


 女店主に聞かれたアーリアは斜め二軒隣にいるユークリウス殿下を指差した。


「いい男じゃないか!恋人かい?それとも旦那様かい?」


 能力スキルをかけて髪色と目の色を変えて、更には注視しないと分からないようにしてあるのに、ユークリウス殿下の煌びやかさは消えてなくならないらしい。


「……。(仮の)婚約者です」

「まぁまぁ、初々しいわね!おまけに増量してあげるわ!」


 どう切り返そうか悩んだ末に絞り出した声を、女店主はアーリアが照れていると勘違いしたようだ。女店主はうきうきとした様子で果物を専用の容器に入れるとそれを潰し始めた。


「いいわねぇ。私にもそんなピュアな頃があったわ〜〜」

「……」

「大丈夫よ!結婚するまでは不安が沢山あるけど、してしまえばどうってコトはないわ!」

「はぁ……」

「そこんとこは旦那様に任せておけば大丈夫よ〜〜」

「……。そうします」


 一人で盛り上がり始めた女店主にアーリアは適当に相槌を打つ。なんとなく居た堪れない気持ちに胸を押さえた時、背後で悲鳴が上がった。


「きゃあ!」

「お、おい!待て‼︎ 」


 振り向くとアーリアの前を一人の男が女物の鞄を手に、走り抜けていく。


其奴ソイツを捕まえてくれ!引ったくりだ!」


 その声にアーリアは瞬時に反応していた。


「えーと。ー影の荊ー」


 こんな時は魔法の方が良いのか?と悩んだものの束の間、アーリアは言の葉を唱えていた。魔法は上手く作用し、御婦人から鞄を盗んだ男の脚ーーその影から薔薇の荊のようなモノが飛び出した。男の身体は影の荊によって地面に縫いつけられ、逃げる事に勢いづいていた身体は転倒を余儀なくされた。


「イテェ⁉︎」


 そりゃ痛かろう。両脚から胴体に向かって伸びた影の荊が身体を拘束した為、男は顔から地面に突っ込む事になったのだから。


「な、な、なんだ⁉︎」

「……あのぉ、コレ。返してもらいますね?」


 アーリアは拘束した男の前にしゃがむと、転んだ拍子に手からこぼれ落ちた鞄を拾いながら立ち上がった。

 その時、アーリアと目の合った物取りの男は困惑したのもつかの間、すぐにその口を吊り上げて粘着質な笑みを浮かべたのだ。


「ーー危ない!」


 先ほどの女店主の声がアーリアの背後から上がる。アーリアが弾かれたように背後に振り返ると、頭二つ分ほど高い大男がアーリアに向かって手を振り上げていた。


 ーぶたれる⁉︎ー


 アーリアは防御の間に合わぬその攻撃に思わず目をつぶっていた。だが、いくら経っても身体に衝撃や痛みは訪れなかった。


「ーー全く。あまり遠くに離れるな、と言っただろうが?」

「……。ユリウス?」


 アーリアを庇うようにユークリウス殿下が立ちはだかり、大男の腕をひねり上げていた。


「ー影の荊ー」


 ユークリウス殿下は唸る大男を引ったくり男と同じように魔法で縛ると、地面に押し倒した。


「怪我はないか?」

「うん。ありがとう」

「ヒヤヒヤさせてくれるな」

「ごめん」


 ユークリウス殿下はアーリアの頭を何度か撫でるとホッと胸を撫で下ろした。

 店主から情報を聞き出し、他に二、三質問していたユークリウス殿下は、揚げたパイの他に小さなドーナツも追加で買うと、情報料として銀貨を一枚多く支払った。その時、背後から女の悲鳴が上がり、振り向くと既にアーリアが魔法を行使していたのだ。

 そこまでは良かったのだが、アーリアは背後から物取りの仲間が迫っている事に全く気づかないでいた。これにはユークリウス殿下も焦った。久しぶりに冷や汗をかいてしまったほどだった。


「鈍臭いとは思っていたが……」

「……ご、ごめんなさい」


 魔導士に運動神経を求めてはいけない。特にアーリアには。気配を読む訓練などしていないアーリアが、気配を殺して近づく敵に気付く筈がないのだ。

 ユークリウス殿下は「リュゼが過保護になる訳だ」と毒づくとアーリアの背を押して足早に歩き出した。騒ぎを聞きつけて青騎士がやって来たのだ。


「ヤバイな。ここで掴まるとヒース行きだ」

「じゃあ、逃げよう!」

「おっ!今日はやけに物分かりが良いじゃないか?」


 アーリアの提案にユークリウス殿下は気をよくすると、何時ものニヒルな笑みを浮かべた。


「ーーお客さん、ジュース!」

「ごめんなさい!また来ます」

「悪かったな」


 騒ぎ出し人々の喧騒の中、女店主の声がアーリアたちに届けられた。アーリアは頭を下げ、ユークリウス殿下は女店主に大銀貨を一枚放って渡した。そして二人は人混みを掻き分け、手に手を取って喧騒の中を走り抜けて行くのだった。



 その日一日、帝都ウルトを食べ歩きした二人は陽の傾き出した頃、額に青筋を浮かべたヒースとリュゼに捕まってしまった。

 リュゼからの怒気を受けて、牛串を美味しそうに頬張っていたアーリアは思わず喉を詰まらせた。咳き込むアーリアの背を撫でて甲斐甲斐しく世話をするユークリウス殿下の姿に、ヒースとリュゼの二人は唖然とし、深〜い嘆息を吐いたは言うまでもない。


 ーなんとも平和な光景だー


 ……と。そしてこうも思った。


 ーもし、この二人が結婚する事があれば、ユリウス殿下はアーリアの尻に敷かれるのでは?ー


 ……とも。


 こうしてユークリウス殿下とアーリアのお忍び視察デートは幕を閉じた。



 余談だが、後日、不正をしていた街の役員と商人とが逮捕される事となった。それは、さる高貴なお方からの指示であったという……。




お読み頂きまして、ありがとうございます!

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番外編④ 毒を食らわば皿まで をお送りしました!ユークリウス殿下とアーリアのお忍びデートです。

※番外編③より時系列は少し前になります。

ユリウスはアーリアを使う事に慣れており、悪巧みをさせれば大変良いコンビのようです。


次話、番外編⑤も是非ご覧ください!



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