帝国の未来2 後継者
ユルグ大山の山中でエルフ族のリュシュタールと偶然の再開を果たしたアーリア。リュシュタールは『精霊女王』を解放する為にエステル帝国を訪れていたのだ。第二皇子エヴィウス殿下からもたらされた情報により『精霊女王』が皇帝陛下に囚われている事を知ったアーリアは、リュシュタールと共に囚われの『精霊女王』を助け出す為に帝宮へと戻った。
帝宮では精霊濃度の上昇により体内の気が狂わされた飛竜が理性を失い暴走していた。飛竜の暴走は『精霊女王』の周囲に集う精霊たちから齎される気が、その密度を増した事によって引き起こされていたのだ。
精霊濃度の上昇により魔法が思うように使えぬ状況の中、アーリアは魔術を行使して暴走した飛竜を捕らえ、そしてリュシュタールがその隙に精霊の気を一時的に鎮めるに至った。
その後アーリアたちはエヴィウス殿下の案内によって、『精霊女王』の捕らえられているという禁苑へと足を運んだ。そこでは皇帝陛下に対して皇太子ユークリウス殿下、そしてブライス宰相閣下が『精霊女王』の解放を願い、陛下を説得している最中であった。
エルフ族のリュシュタール、そして大山調査に出ていた筈のエヴィウス殿下とアリア姫の登場に、皇帝陛下を始め、ユークリウス殿下は驚きを持って迎えた。
精霊を神の使徒と崇めるエステル帝国に於いて、精霊の化身である妖精族に属するエルフ族は、帝国皇帝であっても頭を下げるべき存在であったのだ。リュシュタールの神秘的な瞳ーーその何もかもを見通した輝き、紡がれた言の葉に、皇帝陛下はついに膝を折った。
そしてリュシュタールからの問いかけ、そしてアーリアの助力によって『精霊女王』を無事解放するに至る。
千年の時を精霊と共に生きる事を選択したエスエルの民。『精霊女王』はその愛に心を打たれ、枯れ行く『生命の木』の袂に若木を遺した。それは『精霊女王』からエスエルの次代を担う者たちへの祝福でもあった。
ー未来を求めよー
そう言い残して『精霊女王』は空に虹の軌跡を残し、エスエルを飛び立って行った。世界を愛する為にーー……
※※※
皇帝陛下は『生命の木』の若木の袂で膝をつき、飛び立って行った『精霊女王』に視線を向けたまま呆然自失となっていた。ユークリウス殿下は皇帝陛下の前に膝をつくと、皇帝陛下と顔とその目線の高さを合わせた。
「エヴィウスはこちらの手に落ちました。陛下に味方する者は此処にはおりません」
皇帝陛下の命令で動いていた第二皇子エヴィウス殿下。エヴィウス殿下は元来より精霊に信仰する信徒。皇帝陛下と同じように『精霊女王』にも一方ならぬ想いを持っていた。しかし、その想いの方向性は真逆であった。
『精霊女王』を帝国に縛り付け、帝国の富の為に活かそうとする皇帝陛下のやり方に、エヴィウス殿下は反目していたのだ。彼は精霊を愛するが故に『精霊女王』を捕らえる事を良しとせず、帝国より解放したいと目論んでいた。
そのエヴィウス殿下の『想い』と、帝国の未来ーー新時代の為に『精霊女王』を解放したいというユークリウス殿下の『想い』とが合致した。根本にある『想い』はまるで違うのだが、目的は一致したのだ。だからこそ、二人は巧く協力関係を築く事ができたといえる。
ユークリウス殿下は皇帝陛下の紫の瞳から流れる涙に対し、笑うことなどできないでいた。皇帝陛下の『精霊女王』に対する想いがどんな類のモノであるかに関係はない。全ては『エステル帝国の未来』を想って起こされた事件であり、その為に皇帝陛下が今日までの人生を歩んで来られた事は確かなのだから。それを分かっているからこそ、飛び立った『精霊女王』に涙する皇帝陛下を嗤う事など、決してできはしなかった。
「陛下、『精霊女王』はもう、この帝国のどこにもいらせられません。『精霊女王』から得られていた過度な加護はもう得られぬのです。しかし、我らの母なる『精霊女王』は我々に『若木』を残されました。『未来を求めよ』と励ましの言葉をくださいました。ーー今こそ、我々エステルの民は盲目的な精霊依存から放たれ、未来へ進むべきなのです!」
ユークリウス殿下はゆっくり確実に言葉を紡ぐ。皇帝陛下の瞳を見つめながら帝国の過言と現在と未来、そして自らの強い『想い』を口にした。
『精霊女王』を捕らえた事により精霊の加護を受けたエステル帝国は、確かに一時的な富を得た。しかし、精霊濃度の急激な高まりの末に帝国領土内では自然災害が引き起こされ、更には精霊の気を糧に生きる大山の青竜や『空挺部隊』の飛竜もが暴走してしまう結果を生んだのだ。
度重なる災害から帝国を守る為、事件の解決を図る為には、囚われの『精霊女王』の解放こそが有効であった。ユークリウス殿下の真の目的は『精霊女王』の解放にあったのだ。
国の未来の為にユークリウス殿下は精霊を解放するという選択を下したのだ。それはアーリアがエステルへと連れて来られるより以前から画策していた事であった。
「陛下。我々帝国の民は今こそ、自らの手で自らの足で、地に根ざして生きていくべきなのです!」
ユークリウス殿下はそう言い切ると皇帝陛下の手を取り、強く握りしめた。
「皇帝陛下ーーいえ、父上。帝宮の権限を私にお譲り頂けますね?」
※※※※※※※※※※
あれからエステル帝国内は『精霊女王』が帝宮より解放された事が影響し、『精霊濃度』は著しく低下した。鎖に繋がれた飛竜たちはそれまでの暴走が嘘のように従順になったという。
怪我人は治療機関へ収容され、穢された帝宮内外の修繕作業が急ピッチで進められている。帝都ウルトには帝宮より近衛騎士が派遣された。皇族を初め貴族官僚、政治家たちは帝都と帝宮の復旧作業に忙殺されているそうだ。
「ユークリウス殿下……いいえ、陛下とお呼びした方が良いですか?」
「いや、まだ戴冠していないのでな。もう暫くは皇太子を務めるつもりだ」
「そうですか」
アーリアはあの後、大山から帝都へとんぼ返りした弾丸ツアーの影響で、暫くの間、熱を出して寝込んでいた。魔術の複数行使の影響もあって、身体と精神が極度に疲労していた事が体調不良の主な原因だ。体調不良の原因は決して、リュシュタールに泉の中に叩き落とされたせいではないとアーリアは思いたかった。
しかし復旧作業には『システィナ国の姫』は邪魔なだけであるので、皇太子宮に引っ込んでいるのは正解だったと思われた。飛竜の暴走を魔術で収めたアリア姫は、少なからず注目を浴びていたのだ。また注目を浴びた原因は、魔法が有効でない場面において魔術を行使した事ではないかとアーリアは考えていた。
暇人のアーリアとは違い、皇太子殿下は皇族を代表し、陣頭を切って復旧作業に従事していた。それもその筈。ユークリウス殿下は皇帝陛下より帝宮(=政治機関)の権限の殆どを受けとったのだから。これにより帝国は、実質的に皇太子ユークリウス殿下に次期皇帝としてバトンが渡された状態だと言えた。
「疑問に思っていたのですが……」
「何だ?ああ、もう少しラフでいいぞ」
復旧作業も目処が立ち、ユークリウス殿下の様子が落ち着いてきたのを見計らったアーリアは、ユークリウス殿下の執務室を訪れていた。これもユークリウス殿下の婚約者アリア姫としての仕事の一環だった。所謂、婚約者ユークリウス殿下への陣中見舞いだ。
訪れた執務室でユークリウス殿下は書類の山に頭を突っ込んでいた。アーリアは自分の為に置かれた椅子に座りながら、遠慮なく質問した。
「ユリウスは最初の頃、『帝位を求めている』と仰っていましたよね?」
「そうだ」
「じゃあ、いつから四人で動いていたんですか?」
ここで言う『四人』とはエステルの四人の皇子たちの事だ。その事は言われずとも分かったようで、ユークリウス殿下は書類に判やサインを入れながら答えてくれた。その口調は限りなく素っ気ないものだった。
「何か勘違いしているようだが、俺たち四人は共謀などしていない」
「え……えっ⁉︎」
「ああ、禁苑での事を指しているのならアレは諮っての事ではない。まぁ、お互いの動きは大体判ってはいたがな……」
禁苑に於いて、ユークリウス殿下は皇帝陛下に対面していた。そこにキリュース殿下とラティール殿下がブライス宰相閣下を連れて現れた。その後その場にはリュシュタールとアリア姫とを案内してエヴィウス殿下が乱入を果たしている。アーリアから見たら四人が共闘していたと思うのは当然の状況だったのだ。
それが簡単に言えば『偶然の産物』だというのだ。
アーリアの驚きは最もなものと受け取られたようで、ユークリウス殿下の背後ではヒースが苦笑している。
「あの頃はまだ、エヴィウスの立ち位置が微妙だったのでな。エヴィウスもエヴィウスで己の動向を他人に悟らせる事はない。ーーそう、俺にもな。あの段階ではエヴィウスが『皇太子』か『皇帝陛下』か『宰相』か……どこに転ぶか分からなかった。それに宰相府ーーブライス宰相閣下が事態を受けてどのように動いてくれるかも分からなかったのだ」
ユークリウス殿下は手を止めてアーリアの瞳を覗き込んだ。アーリアはユークリウス殿下の美しい瞳を見つめ返した。真正面から見る殿下の麗しのご尊顔には疲労の後があり、何処と無くお疲れ気味に思えた。
ユークリウス殿下はエヴィウス殿下が下手に何処かの派閥に取り込まれ、皇太子と対立するような事態になる事を極力、避けたいと考えていた。
皇族でも王族でも同じだが、一番の敵は己の『身内』なのだという。皇子同士が血を血で洗う争いを起こすこと。それが国にとって一番の打撃となり得るのだと。
アーリアが帝国に来るずっと以前より、のらりくらりと生活していたエヴィウス殿下。彼は何処の派閥からも逃げるように、適当な言い訳を作って政治から距離を置いていた。勿論、皇太子からも。それは自分を含めた四人の皇子ーーそして帝国を守る為のせめてもの抵抗だったのではないだろうか。今なら彼の不安定で掴み所のない行動の理由が、そのようにも取れた。
しかしその当時はまだユークリウス殿下の味方ーー敵にはならないという意味ーーになるか分からなかったのだろう。
「……それでな、アーリア。先ずお前を使って裏で暗躍する者ものを洗い出し篩にかける事にした」
ユークリウス殿下は『システィナ国の姫アリア』を餌に、政敵を釣っていった。その標的になったのは、皇太子を利用しようとする貴族や官僚たちであった。
「『皇太子の正妃になるシスティナの姫』の存在は貴族間で実に様々な思惑を生んだ。それはそれは面白いくらいにな!だから俺は『俺を含む皇族にどのように関わりを持ってくるか』、それで彼らを精査したのさ」
皇帝陛下。ユークリウス殿下を始め四人の皇子たち。皇后陛下に複数の側妃たち。その他皇族たち。帝室のメンバーに対して貴族や官僚たちがどのような関わりを持ってくるか。その関わりにはどんな思惑があるのか。
取り込もうとする者。
操ろうとする者。
暗躍しようとする者。
窘めようとする者。
諭そうとする者。
利を求めようとする者。
敢えて火種を放り込む者。
……等々、ユークリウス殿下は側近ヒースと近衛第8騎士団、そして配下の貴族たち使い、貴族官僚一人ひとりを見極めにかかったという。
「そこであの舞踏会だ。あの舞踏会に於いてエヴィウスはアリア姫をーーお前を助けた。その時点で俺はエヴィウスを皇太子側だと判断した」
ルスティル公爵家の舞踏会。その最中、見計らったかのようなエヴィウス殿下の来訪。あれはユークリウス殿下の意思ではなかった。そして意図した事でも全くなく、完全にエヴィウス殿下の独断であった。
あの舞踏会に於いてエヴィウス殿下が第8騎士団に要注意人物だとされていたのには、このような理由があったのだ。
舞踏会に於いてエヴィウス殿下はユークリウス殿下の警戒を無視してアリア姫の盾となった。エヴィウス殿下の意図には不安を孕んでいたものの、一応、あの場面での言動を鑑みたユークリウス殿下は、エヴィウス殿下が自分との敵対を望んでいないとのメッセージなのだと受け取った。
「じゃあ、キールくんとラースくんは?」
「アイツらは元々こちら側だ。大変な悪戯好きなんだが……貴族官僚の弱味やら思惑やらを集めるのが趣味らしくてな。時々、俺にもこっそり教えてくれるので助かってはいる」
「……。少しだけ先が思いやられるね」
「……。うむ。だが、二人は時々驚くほど敏感な感性を発する事があるのも事実だ。だから俺も、アイツらの趣味を一概に馬鹿にもできんのだ」
キールことキリュース殿下、ラースことラティール殿下は皇子としては問題行動が多い。しかし、ユークリウス殿下はその全てを叱る事も諌める事も出来ないという。それは……
「アイツらが一番に皇帝陛下の異変に気づいた。禁苑ーー『生命の木』のある部屋がアイツらの遊び場だったからな。当然、『生命の木』の異変にも敏感だった」
確かにあの二人の皇子たちにアーリアは禁苑へ連れて行かれたーーあの後にユークリウス殿下に話したら、アーリアは二人の皇子と共にこっ酷く怒られたーーのだが、彼らは禁苑に入る事に全く抵抗感がないようだった。それどころか、寧ろ慣れている様子すらあったのだ。
禁苑が遊び場であり、精霊に愛されし血の持ち主である帝国の皇子たちならば、『生命の木』の異変にも直ぐに気づいた筈だ。そしてそこへ出入りしている皇帝陛下の異変についても。
「しかし、あの二人では皇帝陛下に対抗する事はできない。『精霊女王』を泉の籠に囲い、捕らえていたのは陛下ご自身。陛下自ら魔法を解いてもらうしか、女王解放の手段はなかったからな」
だからユークリウス殿下は皇帝陛下に直接、説得を試みる事にした。
その為に先ず、皇太子として帝宮に於いての足場固めに精を出した。仲間の引き込み、貴族官僚の精査など、皇帝陛下に対抗できるだけの力を持つ事が必須だった。
その中でも宰相であるブライス公爵を味方につける事は、ユークリウス殿下にとって最も重要なカードだった。
「だから俺たち四人は一計を案じた」
まずアリア姫を帝宮より遠ざけること。
アリア姫を狙う宗教団体の暗躍も激化しており、下手をすると騒ぎに乗じて誘拐されてしまう恐れがあったというのだ。だからユークリウス殿下はアリア姫を連れて大山の調査へ行くと見せかけ、システィナ国へ逃す算段でいた。しかし、その計画は初っ端から頓挫した。
皇帝陛下の周囲で腰巾着のように纏わり付く貴族連中ーー『神聖精霊党』の暗躍によって、ユークリウス殿下とアリア姫は引き離される事になってしまったのだ。
「だから私はエヴィウス殿下と共に大山調査に出されたんですね?」
「すまん!あれは俺の落ち度だ。お前にはいらぬ苦労をかけてしまった」
ユークリウス殿下の代わりとなったのはエヴィウス殿下。エヴィウス殿下はユークリウス殿下寄りだと見てはいたが、彼の言動からは一概にそうとも思えなかった。それはエヴィウス殿下が皇帝陛下の命を受けて動いていたからだった。
「エヴィウスの意思はどうであれ、陛下からの命令は絶対だ。断る事などできまいよ」
ユークリウス殿下は背もたれに背を預けると深い溜息を漏らした。
「だけど、エヴィウス殿下は私を傷つける事はなかった。寧ろ庇ってくれていたわ」
「エヴィウスは根は悪いヤツじゃない。やや精霊には傾倒してはいるがな」
エヴィウス殿下は初対面時よりアーリアを気に入っていた。それはアーリアが『精霊の瞳』を持つ者だったからだろう。
「計画を変更し、俺はお前の居ない間に皇帝陛下を説得する事にした。ーーいや計画を前倒しにせざるを得なかったと言おうか」
「飛竜ね?」
「そうだ。精霊の濃度上昇に伴って、飛竜の様子がおかしくなり始めた。だから……」
ユークリウス殿下はキリュース殿下とラティール殿下を使い、禁苑の扉ーーその封を弛めさせた。その結果、帝宮にいる全飛竜が一斉に精霊濃度に充てられて暴走したのだ。
あれは偶然の事故ではなく、故意に起こされた事故であったのだ。だが飛竜の暴走はその時期を早めただけで、いずれ起きていた事件でもあった。
帝宮と帝都に混乱を引き起こし、皇帝陛下と貴族官僚、延いてはブライス宰相閣下に『身近な危険』を身をもって体験させる事が狙いだった。それがユークリウス殿下に出来る、最後にして最大の駆け引きだったのだ。
結果、ユークリウス殿下は賭けに勝ち、無事『精霊女王』は解放されるに至った。『生命の木』は枯れはしたが、新しい生命の息吹が生まれた。それは嬉しい副産物であった。
「精霊女王をただ一国の繁栄の為だけに捕らえる事はなどあってはならん。人間は精霊の奴隷であってはなんからな」
ユークリウス殿下はアーリアに聞かせるようでいてその実、自分自身に言い聞かせているようだった。アーリアはユークリウス殿下の瞳を真っ直ぐに捉えて頷いた。
「精霊に善悪はない。精霊は人間の隣人。それ以上でも以下でもない」
「……よく、覚えていたな?」
「『魔法の師匠』に教わった言葉だから、絶対に忘れないよ」
アーリアの言葉に、ユークリウスはニヤリと何時ものニヒルな笑みを浮かべた。
「精霊が人間だけの味方である筈がないもの。それなのに一方的に加護を受け取ろうなんて勝手が過ぎるよ」
「そうだな。だが、その感覚が帝国では麻痺していた。千年の間に『精霊信仰』が捻じ曲がってしまっていたんだ」
建国当初の精霊への想いは、恵みを与えて貰ったことに対しての精霊への感謝であった筈なのだ。それが時を経て、精霊から恩恵を与えられる事が当然だと勘違いしていった。
「これでやっと、帝国は未来を歩める」
ー人間が未来をつくるー
ユークリウス殿下の瞳には強い決意が込められていた。
精霊は良き隣人。与えられる恩恵を当然の物とせず、人間が自ら努力して幸せを掴めるような社会作り。その基盤を整えていく事が、次代を背負って立つ皇太子ユークリウス殿下の責任であり仕事でもあった。
「ユリウス、頑張ってね」
「なんだ、随分と他人事だな?お前も手伝ってはくれぬのか?」
「私はただの魔道士だよ。……それにユリウスには三人の逞しい弟殿下もいらっしゃるじゃない?」
三人の逞しい弟殿下と聞いて、ユークリウスは盛大に溜息を吐いた。
「あーーアイツらは……。ある意味頼りにはなるんだが。面倒事になると逃げるのも速くてかなわん」
キリュース殿下とラティール殿下はブライス宰相閣下を『とあるネタ』で脅したそうだが、その後始末を兄ユークリウス殿下にポーンと丸投げしてきたそうだ。
因みに現在、ユークリウス殿下はこのように大量の仕事に忙殺されているのだが、エヴィウス殿下の方は然程でもないそうで、相変わらずあの変に色気のある微笑でのらりくらりと躱しているという。その結果、現在もユークリウス殿下『だけ』が仕事に追われる事となっていた。
「仕方ないよ。ユリウスは『お兄ちゃん』だもの」
「そうだ、仕方がない。ーーだがな、アーリア。俺には三人にはないモノを持っているぞ?」
「とっておきのモノだ」ーーそう言ってユークリウス殿下は身を乗り出してきた。アーリアはユークリウス殿下のその自信満々の顔に呆れながらも一応、尋ねてみた。
「それって何?」
「俺には妃がいる。自慢の嫁がなッ!」
「嗚呼、やっぱり」と呟くとアーリアはサッサと椅子から立ち上がった。
「アリア姫は仮の姿。私はユリウスの仮嫁ーーいいえ偽嫁だよ」
アーリアは何時ものフレーズを残してユークリウス殿下の執務室を後にした。ユークリウス殿下が浮かべた表情を見ぬままに……
お読み頂きまして、ありがとうございます!
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帝国の未来2 をお送りしました。
無事、皇太子ユークリウス殿下が皇帝陛下より帝宮の権限を受けとることになりました。ユークリウス殿下はこれまで以上に仕事仕事と仕事に追われる事でしょう。ヒースさんが大変だ~~!
次話も是非、ご覧ください!