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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と北国の皇子
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大山と精霊10 青竜討伐

 帝都ウルト。そこは大帝国エステルの首都であり、建国より千年続く古都だ。十数マイルもある堅牢な城壁は、未だ外敵により破られた事はない。街の中央に聳える白亜の城ーー帝宮。エステル帝国を千年に渡り繁栄させた皇族と、第57代皇帝の住まう宮殿である。

 帝都に住まう事のできる者は上級貴族と財のある商人、そして精霊魔法の扱う事のできる国民のみだ。エステル帝国では身分制度があり、その中でも精霊の加護を持つ者が優遇される制度が取られていた。


 帝都には飛竜を駆る『空挺部隊』という騎士が存在する。青騎士(=一般騎士)から選抜された騎士が飛竜を駆る事が許されている。

 空から攻撃を可能にした『空挺部隊』。飛竜を駆る騎士は、エステル帝国の力の象徴であった。


 その『空挺部隊』の宿舎にて、ある一人の騎士が身震いを起こして目を覚ました。騎士は三交代の勤務体制。夜勤から帰ってきたその騎士は、窓から聞こえる騒音に身体が反応し、寝台から飛び起きた。

 ここは帝宮の内部にある騎士宿舎ーー騎士寮とも呼ばれる施設だ。このような場所で騒音など起きるはずがないのだ。ましてや悲鳴などは……。


「ッ⁉︎ なんだ……⁉︎」


 遮光カーテンを乱暴に開けて窓の外を見たその騎士は、呆然と口を開けた。


 咆哮。怒号。悲鳴。


 凡そ帝宮内部とは思えない騒音。しかもそれは自分の駆る飛竜に原因があったのだ。


「飛竜が人を、襲う……だと……⁉︎」


 あり得ない。騎士はかぶりを振った。『空挺部隊』の駆る飛竜は、騎士が卵から孵した竜なのだ。産まれた時より人間ヒトに飼われ、人間ヒトに調教された飛竜は人間ヒトによく懐き、人間ヒトを襲う事などないのだ。ーーいや、これまではなかった。

 だがその飛竜が人間ヒトを襲っている。

 そのあり得ぬ事態に、騎士は現実を受け入れる事がなかなかできなかった。彼にとって飛竜は相棒ーー家族に等しい存在なのだ。毎日餌をやり、身体を洗い、竜の宿舎を掃除し、共に訓練に励んでいる仲間なのだ。この騎士は相棒の飛竜には『心が通い合っている』とさえ思っていた。


 その飛竜が人間ヒトをーー……。


 騎士は靴を履くと枕元に置いた剣を手に取り、部屋を飛び出した。そして騎士寮の扉を乱暴に押し開いた。


 そこは正に地獄絵図のような光景が広がっていた。


 飛竜に襲われ応戦する騎士たち。血を流し力なく倒れる同僚。恐怖から道の片隅に蹲る料理人……。

 その光景に騎士は、叫ばずにおれなかった。


「こんな、こんな事はあり得ない……!誰か……誰か嘘だと言ってくれっ‼︎」


 騎士の叫びも虚しく、飛竜は鮮血のような赤眼を獰猛に輝かせて人間ヒトをーー騎士を襲った。



 ※※※※※※※※※※



 エヴィウス殿下とアリア姫(=アーリア)、アリア姫の護衛騎士リュゼの三人は大山に至る山中に取り残されていた。


 ーグギャァァオアアアー

 ーギャォァァアアアアー


 けたたましい咆哮の後、魔術の鎖に捕らえられた青竜たちは『竜の吐息ブレス』を吐き出した。吐息ブレスは業火となり、雪の積もる山肌まで降り注ぐ。雪が熱によって溶け、枯木が燃え爆ぜる。


「アレ、ヤバくない?」

「わぁ……」


 リュゼが指差した先には、魔術の鎖に拘束されるも、それを力任せに引き千切ろうと空中を暴れまわっている青竜の姿があった。吐息ブレスも狙いを定めて放っている訳ではなく、鎖から逃れたいが為の行為だと分かった。だがその光景を見たアーリアは思わず遠い目になった。

 未だアーリアの魔術によって鎖で身体を拘束されている青竜たちが、羽や手足をばたつかせ、最後の手段とばかりに獰猛な口を開けたのだ。

 アーリアは青竜の足止めばかりに気を取られ、この時まで青竜が吐息ブレスを放つ事ができるという事実を、すっかり忘れていたのだ。

 この辺りの考えの浅さがアーリアが師匠に怒られる所以の一つだ。慌てて事を成そうとすると何か一つミスをしてしまうのは、このような場面においては特に考えものだ。

 アーリアは木の枝から額に落ちてきた雪を手で払いながら、エヴィウス殿下に顔を向けた。


「……。エバンス、彼らと連絡はとれましたか?」

「ああ、飛ばしたよ。第一班は間もなく撤退を始めるだろう」


 アーリアの問いにエヴィウス殿下は閉じていた瞳を開けた。

 エヴィウス殿下が使ったのは、この調査の為にアーリアが用意した《通信》の魔宝具だ。念話の要領で対となる魔宝具を持つ相手に意思や言葉を送る事ができる。長い会話には向かないが簡潔な言葉を伝える場合には有効であり、このように離れて作業する場面ではでは大変使い勝手の良い魔宝具だ。


「あぁ。やっぱり戻ってきちゃったかぁ……」


 エヴィウス殿下の救出に『空挺部隊』の騎士たちが一旦退避した後、再びこちらへ戻ってきたのだ。呆れたような声音の割に確信のこもった言葉はリュゼのもの。

 雪の積もる大山、その木々に身を隠すように立っていた三人は、木々の隙間から飛来する三頭の飛竜を発見した。飛竜に載っているのは三人の騎士のみ。相乗りしていた騎士を何処かへ降ろしてきたようだ。三頭の飛竜は青竜を避けるように大きく迂回しながら、此方に向かってきている。


 アーリアはエヴィウス殿下の正面に立つと殿下の菖蒲色の美しい瞳を覗き込んだ。


「……()()()()()殿()()。私は貴方を生かす事を優先します。これから()()()()()()、殿下はご自分の命の事だけを考えてくださいね?」


 そのアーリアの言葉に、言葉に込められた意味に、エヴィウス殿下はぐっと押し黙った。


「アリア、私は……」

「文句は勿論、どんな意見も受け付けませんよ?エヴィウス殿下はエステル帝国の第二皇子。帝国にとってーー帝室にとっても大切なお方です。その事をよーく自覚なさってください」


 アーリアは掌を突き出してエヴィウス殿下を黙らせた。

 エヴィウス殿下をこんな山中で死なせる訳にはいかない。彼は大帝国エステルの皇族ーーそれも第二皇子殿下。対してアーリアは偽の姫。しかもシスティナの平民魔導士だ。どちらの命が大切かは秤に掛けなくとも判る。


「大丈夫です。私は奉仕労働なんてしないって言いましたよね?これはお仕事です。成功報酬はしっかり頂きます」


 アーリアはにっこり笑ってそう付け加えた。


 この緊迫した状況で何故これほど穏やかな笑顔を見せられるのか。エヴィウス殿下はアーリアの笑顔をとっくりと眺めると、詰めていた息を吐いた。そしてエヴィウス殿下はアーリアの手を取ってやんわりと握りしめた。


「ならばアリア、君も生き残らなければいけないよ?」


 エヴィウス殿下の柳眉が少しさがる。その声音はどこか困ったような、何か諦めたようなものだ。


「勿論ですよ。私は死ぬつもりはありません。ーーね?リュゼ」

「ええ、姫は私が守ります。だから姫は心置きなくエヴィウス殿下をお守りください」


 二人の役割は決まっているとばかりにアーリアとリュゼとは笑い合う。


「全く、君たちは……」


 エヴィウス殿下は長い髪を掻き上げると、耳の裏に梳くように掛けた。


「ですから殿下、多少手荒な事をしても見逃してください」

「……許可しよう。アリア姫、君の今後一切の行動をエステル帝国第二皇子エヴィウスが責任を取ろう」

「その言葉、絶対に忘れないでくださいね!」

「ああ、忘れないよ」


 言質は取れたとばかりにアーリアは悪戯に微笑むと、未だ空中で暴れている青竜に向き直った。


「リュゼ、マジックポーションは?」

「あと2本」


 アーリアはマジックポーションをリュゼから受け取ると、その中身を喉に流し込んだ。

 リュゼはエヴィウス殿下を守る位置に立つと、いつでもアーリアのフォローに入れるように気を研ぎ澄ませた。


「ー炎華は紅く燃ゆるー」


 徐に手を掲げるアーリア。自分と青竜との距離を目測で捉える。一瞬でアーリアの魔力が跳ね上がる。瞳が魔力を帯びて赤く染まり、髪と服の袖がふわりと揺れた。


「《爆ぜる炎》」


 空中に魔術方陣が展開され、そこから炎の塊が放出された。その炎の塊は、狂ったように旋回していた青竜の土手っ腹に触れた瞬間に爆ぜた。


 ーズドォォンンンー


 爆音が山中に木霊する。

 爆風と煙幕。青竜は腹の肉を抉られ内臓と血を撒き散らしながら落下する。力を失った巨体は枯れ木をなぎ倒し、雪の斜面を滑る。


『カイトさん、聞こえますか?』

「ーー⁉︎ アリア姫?」


 近衛騎士カイトは爆風と熱波を避けながら背後の二頭の騎手に指示を出していた。そこへ思わぬ人物からの声が耳の奥に響き、思わず飛び上がった。


『これより先ほど捉えた青竜の拘束を解きます。カイトさんたちは囮になって青竜を私の前まで連れて来てください』

「ーー!」

『青竜は私が仕留めます』


 アーリアは《鳥》という魔術を使い、一方通行の言葉をカイトに届けた。つまりアーリアはカイトに対してこの提案に於ける拒否を受け付けるつもりはなかった。アーリアの中で今言った言葉は既に決定事項だからだ。


『貴方たちには結界魔術を施します。安心して囮になってくださいね』


 ーこれほど鬼畜な命令おねがいあるか⁉︎ー


 カイトはシスティナの魔女姫からの命令に口角を吊り上げた。


「やっぱ、姫さんはカッケーなぁ!さすが俺が惚れた女ってだけはあるッ」


 アーリアの命令に全身をゾクゾクと身震いさせながら、カイトは叫んだ。


「これからアリア姫が青竜を討伐する。俺らは囮だ。ついて来い!」


 近衛騎士は空挺部隊の騎士より立場が上だ。カイトには彼らに指示だせる権限を持っていた。

 空挺部隊の隊員はカイトの命令に一瞬困惑したものの、そこはサスガ騎士。体育会系の騎士は縦社会。先輩や上司の命令は絶対なのだ。

 騎士たちも馬鹿ではない。いくら青竜が妖精族に属しており、信仰上、自分たちには討伐ーーつまり殺害に抵抗があるとはいえ、自分たちがお守りせねばならないエヴィウス殿下に命の危機が迫っているならば話は違う。騎士たちは『青竜討伐』に踏み切ったアリア姫に対して、感謝こそすれ思う所などありはしなかった。


「姫がヤるって言ってんだ!漢見せろよッ」


 カイトの号令を合図に三頭の飛竜は右に旋回を開始した。

 間もなく、地上に叩き落とされ地面に拘束されていた青竜3体ーー鎖に絡まれもがく青竜の拘束具が乾いた音を立てて弾け、空に消えた。魔力の残滓が輝き、光の奇跡がガラスのように煌めく。

 身体に掛かる負担が消えたと知った青竜は翼を数回羽ばたかせると、徐にムクリと上体を起き上がらせた。そしてギャイギャイと唾液を吐き散らかしながら宙へと飛び上がった。

 頭に血が上った状態の青竜の群れ。彼らは目に見える生き物に向かってその怒りを発散する事にしたようだ。目の前を羽虫のようにチラチラと飛び回る飛竜を見つけると、牙をむき出しにして襲いかかっていく。


「へいっデカブツ!こっちへ来いっ」


 カイトが煽るように青竜の目の前を高速で横切る。


「おっ。ついて来たついて来た」


 青竜4体のうち3体ーー地面に拘束されていた青竜が、カイトの乗る飛竜を食い殺そうと口を開けて追撃し始める。


「そっちの小せぇ方、お前らで引っ張って来い!」

「「了解」」


 二頭の飛竜は空を斜めに切るように滑らかにスライドしていく。下降に伴う風の抵抗など感じさせない飛行。見事な連携だ。

 飛竜は小柄な青竜の鼻前を掠めると、直角に舞い上がった。


「ほら、このままついて来い!」

「麗しの姫がお待ちですよ?」


 空挺部隊の隊員二人は小柄な青竜の周りを交互に旋回飛行する。風の帯が上空へ舞い上がった。


 カイトは3体の青竜の間を小馬鹿にしたように飛び回る。そして背後から空挺部隊の隊員二人が小柄な青竜を率いて飛び上がったのを見てほくそ笑むと、アーリアのいる方角へ方向転換した。


「ーー姫、カイトが来た」


 アーリアはリュゼの言葉に一つ頷くと魔術構成を編んだ。使うのは火属性の魔術。敵影確認、固定。範囲指定、威力設定、効果条件……。世界の公式。構築式に魔力を乗せてより鮮明にイメージする。


「ー詠う飛燕 大輪の牡丹ー」


 アーリアの言の葉に呼応して魔術方陣が展開を始めた。赤い光を放ちながら魔術方陣がアーリアの目の前に浮かび上がっていく。


「ー焰の神苑 天に舞う蝶ー」


 眼前に迫る3頭の飛竜。その後ろには4体の青竜が怒り任せに飛び来る。

 そして、飛竜は示し合わせたようにアーリアの前方で左右に分かれた。


「《大炎舞》、《終焉》」


 アーリアは力ある言葉を唄う。二つの魔術方陣から特大の業火が発現した。業火は向かい来る青竜の群れを一瞬で包み込んだ。次いで舞い踊る炎の蝶が青竜を愛撫すると、とてつもない爆炎と轟音が上がった。


 ーズドォォォォオオオオオオオンー


 音は光より後にやって来ると、耳を劈いた。

 結界によって爆風と熱波から守られたアーリアたちは、術の効果が発揮された後も空を無言で見つめた。

 暫く待つと煙幕の中からズルリと墨色をした物体がボトボトと地上へと落ちてきた。


「ヒュ〜〜!さっすが姫さんっ」

「なんて威力だ。消し炭か……」

「山肌が抉れている……」


 飛竜に乗った三人がアーリアたちの上空で旋回しながら、魔術による効果を肌で実感していた。

 空挺部隊の隊員二人は興奮するカイトとは様子が異なった。初めは大規模な魔術の威力に感心し、青竜を討伐出来たことでの高揚感を覚えていたが、その後直ぐに恐怖感が襲って来たのだ。


「おい、ぼけっとするな!殿下たちを救出するぞ」


 カイトはそんな空挺部隊の隊員を無視して指示を出した。隊員たちはハッとした後、カイトに続いて降下し始めた。

 雪の斜面に降りて来たカイトたちは鞍の上で手綱を握ったまま、手を差し伸べてきた。それは一度降りてしまえば、すぐに飛び立てないからだった。


「エヴィウス殿下、頭上から失礼致します。こちらへお乗りください」

「分かった」

「アリア姫とリュゼはそちらの二人の鞍へ」


 カイトの指示に皆が同意し動き出そうとした時、突然、異変は起こった。

 急に飛竜が妙な唸り声を上げたかと思うと、騎手の意思を無視して前脚を大きく蹴り上げたのだ。


「なんっ……」

「オイッ……」


 苦しみもがく飛竜の瞳は徐々に黄から赤へと染まっていった。轡を千切る勢いで牙を剥いて鳴き狂い、前脚と後脚をバタつかせて雪と土とを抉り飛ばした。

 そして飛竜の一頭がアーリアの頭目掛けてその爪を立てた。


「ーーッ⁉︎」


 魔術の鎖を展開するも、その効果は一歩及ばなかった。襲い来る爪の脅威にアーリアは思わず腕を上げて顔を庇った。


 ーガツッー


「リュゼッ!」


 アーリアを庇ったリュゼの額から鮮血が飛ぶ。リュゼはアーリアを腕に抱きながら背後に大きく飛ぶと、額から血を滴らせながら膝をついた。雪の上にポツポツと血がたれ、跡をつくる。


「リュゼッ!」

「大丈夫だから、子猫ちゃんは飛竜を」


 アーリアは逸る胸を抑えて飛竜に向き直ると、拘束魔術を発動させた。


「《銀の鎖》」


 《銀の鎖》は三頭の飛竜の身体に巻きつくと、身動きの取れぬように地面に拘束した。カイトと騎士二人は鞍を蹴って飛びのくと地表を転がった。


「カイト、殿下を非難させろ!」

「おう」


 リュゼの声にカイトは立ちすくむエヴィウス殿下を庇うように保護した。

 アーリアは全員を囲むように結界魔術を発動させると、膝をつくリュゼの頭に手を伸ばした。


「リュゼ……」

「大丈夫、平気だから」


 額から血を流すリュゼを見たアーリアは心臓が止まりそうなほど動揺していた。唇が揺れて声が上手く出せず、手が悴んだかのようにガタガタ震える。膝が震えてその場に立っていられなくなり、その場に崩れ落ちた。膝が雪に埋もれズボンを濡らすが、今のアーリアにはそのような事は気にもならなかった。

 リュゼは膝をついたアーリアの震える手を取ると、落ち着けるように「大丈夫」と何度も繰り返した。今にも涙を零さんばかりのアーリアの様子に、リュゼは何とも言えない気持ちになった。そして、今すぐ自分の胸の中に抱きしめたい衝動をぐっと堪えた。


「《癒しの光》」


 アーリアは震える手をリュゼの額の上に翳すと回復魔術を施した。魔術は額の傷を少しずつ癒しいく。


「ーーどうする?飛竜がこの様子だ。帰る足にも困ったが……応援を頼むにしろ飛竜がこの様子じゃあな。ひょっとすると他の飛竜も同じ状態にあるんじゃないか?」


 カイトがいの一番に声を上げた。年長者の余裕なのか経験値の差なのか、カイトのその冷静な言葉に空挺部隊の騎士二人はハッと顔を曇らせ、エヴィウス殿下は無言で眉間にシワを寄せた。


「飛竜が暴走するなど……」

「だが現に私たちの飛竜があのような状態にある。他の飛竜とていずれ……」

「まあ、それは帰ってみんと何とも分からんが……」


 カイトは動揺を隠せぬ若い騎士二人を横目にぽりぽりと頬を掻く。


「まず、帰る方法を考えねばならないな。と言っても、もう徒歩で山を降りるしか方法がないが……」


 エヴィウス殿下は溜息混じりに肩を竦めた。

 麓の村へのだいたいの方角なら分かっていた。しかし、そこへまで道なき道を歩いて行かねばならないのだ。そしてその道中に於いて、魔物や暴走した青竜が襲って来ないとは限らない。

 そんな道を歩いて行かねばならない状況に、エヴィウス殿下を始め、体力馬鹿の騎士たちもがその肩を落とした。


 ーピュイ、ピュイっ!ー


 その時、パキパキと枯れ枝の折れる音がして後方より新たな竜が二匹現れた。それは飛竜よりもずっと小柄な種のようで、ぬいぐるみのような柔らかい産毛に覆われていた。その白い翼は胴体よりも小さく、どのように身体を支えているのかが分からない。しかしその小さな翼を懸命に羽ばたかせる様は、何故どこか小動物のような庇護欲を掻き立てられた。

 その小竜はアーリアたちにその円らな瞳を輝かせて、急に飛びかかってきた。

 騎士たちがいち早く反応し、腰の剣を抜き放とうとした時ーー……


「おやめ、お前たち」


 鈴の音のような軽やかな声音がアーリアの耳に届いた。





お読み頂きまして、ありがとうございます!

ブックマーク登録、感想、評価など、大変嬉しいです!ありがとうございます‼︎


大山と精霊10をお送りしました。

アーリアは魔宝具の素材集めの為、師匠に連れられて赤竜狩りへ行っていたので、竜に対しての恐怖感は少ないです。

エヴィウス殿下もドン引きの落ち着きっぷりはソコから来ています。

全ては師匠の愛ーースパルタ教育の賜物です。


次話も是非ご覧ください!

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