天使たちに愛の手を
薄暗い暗雲立ち込める空。黒々した厚い雲が白亜の城の上空に差し掛かる。今にも雨が降り注ぎそうだ。
公共施設、行政機関を含め、数多くの宮が立ち並ぶ帝宮。一都市が丸々入るほどの広さがある帝宮の奥宮から本宮へと続くある回廊の中を、全速力で走り抜ける二つの足音が響いている。
「これはヤバイよ、キール」
「くっそ。誰だよ!あんなの寄越したヤツは⁉︎」
いつもホンワカした雰囲気のラースの顔に緊張感が走っている。いつも余裕ある表情を崩さぬキールも、いつになく余裕のない悪態を吐く。
いくつもの宮を抜け、回廊を抜け、今は図書棟に程近い渡り廊下。キールとラースの二人は体力の限り、宮から宮へと走り抜ける。
汗ばむ背中。額から流れる汗。息が切れ出す。背後から死の影が迫ってくる。
「何が引っかかった⁉︎」
「バリスネリア侯爵の件かな?それともフライネ伯爵夫人?」
「どっちもヤベーわ!」
「だね〜〜。コレ、僕たち本気で消されかけてるよ」
「これでも俺たち第三と第四の皇子なんだがなっ!」
キールことキリュース殿下とラースことラティール殿下はこのエステル帝国の皇族であり、第三皇子と第四皇子でもある。勿論、皇位継承権も有している帝室の重要人物だ。
そんな彼ら二人の皇子たちは今、命の危機に瀕していた。
暗殺者に襲われているのだ。
しかも白昼堂々と帝宮内で、だ。
帝宮内の警備、それも皇族の護衛は近衛騎士の仕事。それを抜けて二人の皇子たちに魔の手が迫っているのだ。あり得ない事態だった。
「やっぱり、カイネルに下剤を盛ったのがマズかったか……⁉︎」
「キ、キール!そんな事したの⁉︎」
キールはクッと顔を悔しそうに背ける。だが、ラースは兄弟のしでかした事に対して驚愕を表した。寧ろ責めた。
カイネルというのは双子の皇子たちを守る近衛騎士の名なのだ。キールは自らの守護者に下剤を盛ったと言っているのだ。
「いくら頑丈なカイネルでも、下剤を盛られたら動けないんじゃ……」
「……」
ラースのツッコミにキールは速攻で押し黙った。
近衛騎士は騎士の中でもエリート職だ。個人の持つ技能は勿論、その忠誠心はダントツである。均等の取れた体躯、強靭な肉体と精神力を兼ね備えた騎士は、そう簡単に怪我を受ける事はおろか、病気などにも滅多にかからない。
また、第三・第四とはいえ皇子の守護者に選ばれた近衛騎士カイネルは、大変優秀な男であった。年齢はまだ二十代後半であるのにも関わらず、近衛第五騎士団の副団長を務めている。第五騎士団でも人望があり、後輩からも慕われる騎士だ。また、文官としてもやっていけそうな程、その頭脳も優秀だった。
そんな自他共にデキル男、近衛騎士カイネルにキールことキリュース殿下は下剤を盛ったという。いくら頑丈で丈夫な漢と言えども、腹の中から攻撃されれば太刀打ち出来ないのでは、とラティール殿下には思われた。
「……。キール。何でカイネルに下剤なんて盛ったの?怒らないから言ってみて」
「うっ……」
ラースの素晴らしい笑顔がキールに向けられた。しかしその目は全く笑ってはいない。この顔をしたラースが一番怖い事をキールはよく知っていた。何せ兄弟ーー双子なのだから。
「だ、だってよ。カイネルのヤツ、この前のコトめちゃくちゃ怒ったんだよっ!」
「この前のコトって、どれ?」
「……。アリア姫に接触したコト」
「あれは……僕も怒られたけど……?」
キリュース殿下とラティール殿下。二人の皇子たちは単身、アリア姫との接触を持った。でもそれは半分以上、偶然の出会いだった。現に彼らはアリア姫との接触を求めて図書棟を訪れた訳ではなかったのだ。いつも通り奥宮からの裏道を通って図書棟を通りかかった際にたまたまアリア姫に出会ったのだ。
確かに二人の皇子たちは近々、アリア姫と接触しようとは考えていた。しかし、皇太子宮から姿を現す事の殆ど無い姫とどのように接触するかを考えていた矢先、あちらが図書棟にやって来ていたのだ。
帝国の皇太子ユークリウス殿下の婚約者ーーしかもその婚約者はシスティナ国の姫だーーと第三・第四の皇子が出会い、接触を持つ事は危険な事でもあった。
派閥に属していない二人の皇子たちを己の派閥へ取り込もうと考えている貴族たちにとって、アリア姫との接触、その後の関わり方によって、派閥の勢力図が大きく変わるからだ。
キリュース殿下とラティール殿下は未だ政界には参入していない。よってどの派閥にも属していない。二人によっての一番の幸いは、彼らの生母である側妃オリヴィエが皇后陛下と親密であり、どこか一つの派閥や家と敵対していない、という事だろうか。だから息子二人も伸び伸びと生活できているのだ。
そして何より、兄ユークリウス殿下が彼らを敵と見做していない事だ。
これは最も重要な事だった。
帝国が割れる原因の八割が皇位継承問題だ。
それはエステル帝国に限った事ではない。国によっては時に次期皇帝、次期国王を巡って継承権を持つ兄弟同士で殺し合う事もあるのだから。
兄を弟が、弟が兄を憎む事など、この世界では当たり前の風景。軍事国家であるライザタニアなどは、その所為で国が荒れに荒れていると聞く。
そんな殺伐とした世界に於いて、兄殿下に睨まれずに生活できる事は、弟殿下たちにとってはこの上ない幸せだった。
「めっちゃキュートだったって言ったダケだぞ?それで何であんなに怒るんだよ⁉︎」
「……それさ。近くに第8の騎士とか居なかった?」
「第8……。あ、ああ。居たかもしれんが、それが?」
「はぁ〜〜。キール、それはマズイよ」
「何がマズイんだ?」
「キールって時々鈍いよね?」
「ハァ⁉︎ オレの何処が鈍いんだよ?」
「そーゆートコだよ!第8はユリウス兄さまの護衛騎士だよ?最近じゃアリア姫も守ってる。第8の中ではアリア姫は『麗しの魔女姫』で通ってるんだよ。知らないの?」
アリア姫の『麗しの魔女姫』という二つ名を聞いたキールは露骨に眉を寄せた。
「『麗しの魔女姫』?何だそれ?確かにアリアは可愛かったケド、麗しのって感じじゃ……」
「夢見るのはいつも男の勝手でしょ?ーーで、そんな男たちのヒロインであるアリア姫の事をキールが目の前で余計なコト言っちゃったから、カイネルは慌てたんだよきっと」
第5と第8では属する団が違ったとしても、同じ近衛騎士。交流は勿論ある。演習や訓練なども共に行う事もあるのだ。情報交換等は常に行われている。
近衛第8騎士団の忠誠心は全近衛騎士団の中でも突出しており、特に皇太子ユークリウス殿下を主と仰ぎ、生涯の忠誠を誓っているという。帝室への忠誠心も勿論持つが、ユークリウス殿下の騎士としての誇りはバカ高い。そんな第8騎士団の主人の婚約者、それがアリア姫なのだ。
自然、第8騎士団のアリア姫を見る目も厳しくなるだろう。
それなのに、そんな彼ら忠犬たちがアリア姫の事を『麗しの魔女姫』と呼ぶ。そこに彼らなりの尊敬の念を感じられてならない。
「カイネルからしたら、場がマズかったんだよ」
「ちぇ。いーじゃんそんなの。なんなの?俺、それくらいで怒られたの?」
「多分、それだけじゃナイかもね」
そんな事くらいで近衛騎士が皇子を叱ったりはしない。カイネルにはキールの言葉の中に何か、引っかかる点があったに違いない。
窓から見える空は暗雲が立ち込め、晴れる見込みはない。
「そんな事よりどーする、ラース」
「取り敢えず政治機関のある宮まで行こうよ。人が多い所まで行けば、近衛騎士たちが何とかしてくれる筈だよ」
「分かった。でも、ここからだと図書棟通らないと行けないんじゃないか?」
「図書棟か……。どうする?あそこは死角が多いよ」
「チッ、仕方ねぇな。カイネルたちが来てくれるまで何とか逃げ切るしか道はねぇ!」
キールは苦々しく思いながらもラースの言葉に頷いた。
いつも撒いている近衛騎士を頼らねばならない自分たちの身が情けなかった。
キリュース殿下とラティール殿下は共に11歳。成長期真っ盛りだ。まだ背丈や筋肉なども未発達で、剣術や槍術、魔法も訓練を受けてはいても、それは大人の足元にも及ばない。自分の身を自分で守る事がままならないのだ。
それが堪らなく情けなく思えた。
ーバンー
キールとラースの二人は木の扉の両側を手で乱暴に押し開いた。途端、立ち込める古い本の匂い。普段から薄暗いそこは天気の悪さが影響して、さらに陰鬱な雰囲気を醸し出している。
古めかしい装丁の本ばかりが並ぶそこは大図書館の最奥だ。千年の歴史がこの本の中に閉じ込められている。
普段からこの最奥には人が踏み入れる事はあまりなく、子どもが二人、血相を変えて飛び出して来たにも関わらず、咎める者は誰も居なかった。
二人は迷わず最重要文化財の中を走り抜け、政治家や官僚が資料を保管するエリアに足を向けた。そこから他の政治を行う宮ーーつまり兄殿下がいる宮へ抜けられる事を知っているのだ。
「兄上なら何とかしてくれるはずだ」
「兄さまなら何とかしてくださいますよ」
「……。なんか俺たち、情けねぇな……」
「ええ。全くです……」
他人任せも良い所の発想に、二人同時にげんなり俯いた時だった。
「えっ……?きゃっ!」
小さな悲鳴が聞こえたのだ。それも女のものだ。
「わ……⁉︎」
「え……⁉︎」
二人は大きな柱の陰から出てきた人物に気づかず突進し、知らず体当たりをかましていたのだ。キールとラースはその人物に覆い被さるように倒れこんだ。
「「ーー!」」
子供といえど二人分の体重だ。何処の誰かは分からないが、押しつぶされれば、たまったものではない。
そう判断したキールとラースはとっさに受け身をとって横に転がった。そして直ぐさま起き上がった時、自分たちが誰にぶつかったのかが知れた。
「ご無事ですか、姫?……君たちも平気かい?」
「え、ええ。ありがとう、リュゼ。ーーあ……キールくんとラースくん?」
そこにはなんと、アリア姫とその護衛騎士の姿があったのだ。
「「アリア姫⁉︎」」
キールとラースの二人にぶつかって転ぶ寸前を護衛騎士に助けられたようで、アリア姫は背後から身体を支えられていた。アリア姫の腕の中には本があり、どうやら彼女は『受け身を取る』という事を思いつかないタイプのようだった。
「すまない!」
「ごめんなさい!」
「俺たち急いでて……!」
「僕たち急いでいたんです……!」
急いでいたとはいえ、婦女子にタックルをかまして良い訳はない。キールとラースは慌てて謝罪した。
「お気になさらず。少し驚いただけですから。それより二人は平気?怪我はない?」
「俺は大丈夫だ」
「僕は大丈夫です」
「それなら良かった」
アリア姫はホッとした表情をキールとラースに向けた。
「3人で和んでいる所、悪いんですが……。姫、スキルを」
「うん、もう見てるよ」
アリア姫の肩を支えていた護衛騎士が、苦笑しながらアリア姫に声をかけた。アリア姫は護衛騎士へ笑みを浮かべながら頷いた。
「アリア姫、ごめんな。俺たち、急いでいて……」
「謝罪は改めて後日に行います!」
背後から迫る死の影を感じたキールとラースは、慌ててその場を離れる事にした。幾ら何でも兄殿下の婚約者を巻き込む訳にはいかないと考えたのだ。
「ううん、君たちは動かないで。ーーいいえ、もう出られないわ」
アリア姫はキールとラースの肩に手を置くと、何か悟ったような言い方で二人の動向を阻止した。
「『出られない』ってどういう事です?」
「俺たちと一緒ないては、貴女が危険なんだ」
「言葉通りの意味だよ。それに私は平気だから」
「では、コイツらの狙いは君たちなんだね?」
ラースはアリア姫の言葉に疑問を呈した。キールは自分たちの状況を教えた。
しかし、そのどちらにもアリア姫は驚く事はなく、寧ろ「平気だ」と二人を諭してくるのだ。護衛騎士に至っては、キールとラースの二人の状況把握までしてくる始末。慌てた風はまるでない。
ーピカッ!ゴロゴロゴロ……ー
その時、稲光が窓の外を奔り、一拍遅れて轟音が轟いた。次いでザァッと雨音が天井に音楽を奏でるように打ち付け始める。
「キールくん、それにラースくんも。二人は絶対にそこから動かないでね」
アーリアが不安な顔をした天使たちを自分の方へ引き寄せた。
「後方2、前方3」
「了解」
アリア姫の言葉に護衛騎士は即座に頷くと、腰の剣の柄に手を添えた。とその時、黒い影がキールとラースの目の前に飛び込んで来た。
「「ーー!」」
「大丈夫。貴方たちを傷つけさせる事なんて、させないよ」
そのアリア姫の柔らかな声音。暗殺者の登場に恐怖で固まっていたキールとラースはアリア姫の声にハッとして、顔を見上げた。
「《光の壁》」
ーバチンー
アリア姫を中心に展開した光の結界。
暗殺者の武器は結界に阻まれ、その身体ごと弾き飛ばされる。
「《銀の鎖》」
アリア姫の前方から襲いきた影3体が鈍色に輝く鎖に絡みとられた。その時、背後から2つ影が死角を突いて飛び出し、影たちは一様にアリア姫の首を狙って刃を繰り出した。
「「アリア!」」
キールとラースは思わず声を上げていた。
「リュゼ」
「任せて」
リュゼと呼ばれた護衛騎士が結界より飛び出した。
剣を一閃。そして背後に大きく跳ぶ。
「《影縫い》」
護衛騎士リュゼは自分にだけ聞こえる声で小さく呟いた。途端、後方の影2つは床に足裏を縫い止められた。
「これで君たちは動けない」
「バカな……」
「こんな小さい子ども襲ってんじゃねーよ。ーー姫!」
「《銀の鎖》」
影に縫いとめられた後方の2体も銀の鎖に巻きたられ、身動きが取れなくなる。全ての影があっという間に捕らえられたのだ。
キールとラースは茫然自失、ポカンと口を開けてアリア姫と護衛騎士の二人を交互に見遣った。
「後はこの結界を……」
アリア姫は二人の少年から向けられている視線に気づかず、ふっと天井を見上げた。
「ふ……フハハハハ!お前たちはこの結界から出ることは叶わない!これは我が同胞が作りし最高の魔法なのだ!」
捕らえられた影の一人が急に笑い出した。目が血走り、獣のように唾を撒き散らしながら吠えたてる。
「ここでお前たちの命もお終いだ。
ー影の王 死の影ー
ー尖兵の足音 迷える……」
影は口早に呪を唱えるが、それを凛とした声音が遮った。
「《雷針》」
どんな魔法なのかようとして知れないが、アリア姫から繰り出された雷の術によって、中断を余儀なくされた。ピカッと光が奔った途端、黒ずくめの暗殺者たち全員がパタリと倒れたのだ。
「……。あー、姫。これはまた容赦のない攻撃で。でもさアレ、感電したんじゃないの?」
「室内だもん。派手な術は使えないでしょ?それに図書塔には貴重な本もたくさんあるんだし」
「デスヨネ。暗殺者よりも本の方が大事ですよね〜〜」
「当たり前じゃない!本は文化だよ。歴史なんだよ⁉︎」
「あーはいはい」
アリア姫と護衛騎士の呑気なやりとりが暫く続く。その後、アリア姫が「よし」と呟くと、キールとラースに笑みを向けた。
「二人とも、少しだけ離れていてね。ああ、大丈夫よ。私の騎士が貴方たちを守るから安心して」
アリア姫はキールとラースを護衛騎士の側へ移動させると一人、通路の中央に佇んだ。すると突然、アリア姫を取り巻く空気が変化し始めたのだ。
フワリとアリア姫の黄金の髪が棚引き、虹色に輝く瞳には赤みを帯び、キラキラと光を放ち始めたのだ。
アリア姫の魔力の高まりを感じた精霊たちが、アリア姫の周りに集い始め、詠うように飛び交う。それはまるで精霊を従わせる精霊女王のように見えた。
「《解錠》」
アリア姫が手をスッと横へとスライドさせた。カーテンでも開けるかような軽い仕草であった。
次の瞬間、立ち込めていた重苦しい空気が晴れていくかのように、清廉な風が吹き込んできたのだ。
「さぁ、これで出られるよ?」
アリア姫は満面の笑みを浮かべながら、キールとラースへと振り向いた。
キールとラースはアリア姫へと歩み寄ると、アリア姫の手を握りしめた。
「お前、スゴイんだな⁉︎」
「まるで精霊女王のようでした!」
「え……」
「益々気に入った!」
「素敵でした。『麗しの魔女姫』とはこのような由来があったのですね?」
「は……はぁ?」
「皇太子の婚約者なんてやめて、俺たちの所へ来いよ!」
「僕たち、貴女が年上でも全然構いませんよ?」
アリア姫は右手をキールに、左手をラースに掴まれて口説かれ始め、困惑し始めた。オロオロと焦り出す様子には、先ほどの『麗しの魔女姫』というイメージはない。と、そこへ……
「殿下ーー!!」
背の高い近衛騎士が血相を変えて現れた。金の髪を振り乱し、額から汗を流している美青年の顔には、苦渋が広がっていた。
その背後には大勢の近衛騎士を引き連れており、捕らえられた暗殺者の姿を確認すると、周囲の警戒を始めた。
「キリュース様!ラティール様!ご無事ですか⁉︎」
金髪の近衛騎士がキールとラースの足元へ駆け寄ると、怪我がないかをくまなくチェックし始めた。
「カイネル、俺たちは大丈夫だ」
「アリア姫が守ってくれました」
キールとラースはアリア姫に引っ付いたままそう答えると、それを聞いた近衛騎士カイネルはアリア姫の足元に跪いた。
「アリア姫。我が主君たちをお守りくださり、有り難く存じます。またこの度の不手際、近衛第5騎士団を代表し、お詫び申し上げます」
「許します。殿下方がご無事で何よりです」
アリア姫の言葉にトゲを感じたキールとラースは、ドキッと心臓を躍らせた。
ーマズイ。バレた⁉︎ー
「どうやら殿下方には敵が多いようですね?」
「ハイ……。お二人は少々悪戯がお好きなもので……」
「ふふふふ」
「あははは」
そろぉ、と逃げ出そうとしたキールとラースは、ガシィッとカイネルに首根っこを捕らえられてしまう。
「キール様、ラース様。まだお話の途中ですよ?」
「そうですよ、殿下方。まだお聞きせねばならぬ事が沢山あります。このまま何処かへ行ってしまわれては困ります。それにまだ、この者たちの仲間も潜んでいるやも知れませんしね」
普段温厚なカイネルとアリア姫の顔には麗しい笑顔が。その目が全く笑っていない事を除けば、美男美女の眩い笑顔だった。
ー温厚な人ほど怒らせると後が怖いー
キールとラースの背中には今日一番の恐怖と冷や汗がはしった。
「「ハイ……。何なりとお聞きください」」
こうして帝室の天使たちは陥落した。
ーー数日後、アリア姫からキリュース殿下とラティール殿下のもとへ、結界魔術の付与された魔宝具が贈られた。その腕輪型の魔宝具を、二人の皇子たちは大層気に入り、肌身離さず身につけたそうだ。
お読み頂きまして、ありがとうございます!
ブックマーク登録、感想、評価等、本当に嬉しいです‼︎ ありがとうございます!
天使たちに愛の手を をお送りしました!
黙っていれば天使な皇子たち。しかし彼らの護衛を任されるのは、精神的に疲れそうです。
※皇族を守る近衛騎士は大勢います。また帝宮内を警備する騎士もいます。しかし今回の事件では、キールとラースが逃げる事に夢中で裏通路ばかり通るので、騎士たちは追いかける事に一苦労でした。
次話も是非、ご覧ください!