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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と北国の皇子
141/491

※裏舞台11※ 父と娘

 

「何故……何故私が罰せられねばならないの……?」


 リアナの零した呟きが牢の中にポツリと落ちた。その言葉に答える者はこの場には誰もいなかった。


 広く豪奢な部屋は一見しては牢には見えない。帝宮の騎士団所有の地下にあるそこは、政治犯を収容する牢だ。現に、部屋と廊下とを遮るものは鉄格子の嵌められた頑丈な扉だった。鉄格子の隙間から見える廊下には、屈強な男ーー牢屋番を受け持つ兵士が二人。彼らは牢内にいる囚人リアナとその父ルスティル公爵を見張っていた。

 リアナの父ルスティル公爵は、隣の牢に入れられている。音の遮る事のない部屋なので娘リアナの呟きも父親には聞こえているだろうが、それに父親として応する事はなかった。


「私は悪くないわ……。私は、私は公爵令嬢なのよ?皇太子の正妃となるべき令嬢なのよ……」


 リアナは親指の爪を歯でギリギリと噛みながら鉄格子の外に視線を投げた。リアナの目は廊下を見てはいるが、鉄格子の向こうの兵士を瞳に写している訳ではない。ここにはいない『誰か』をその瞳に写しているのだ。それは愛しのユークリウス殿下であったり、憎っくきアリア姫であったり、愛する父親ルスティル公爵であったりした。

 牢屋番の兵士は独り言を発するリアナが可笑しな真似をしないか見張りはしているが、決してリアナの妄言に付き合う事はない。時折、冷ややかな目線をリアナに投げつけるのみ。また、その視線の意味をリアナが理解する事もなかった。


「後宮において妃たちが殿下や陛下の寵を競って争うのは当然でしょう?常識でしょう?なのに何故、私が罰せられねばならないの……?」


 後宮とは皇帝陛下や皇太子殿下の持つ宮の一つで、皇帝陛下の妃や皇太子殿下の妃が暮らす場所だ。愛の育まれる場所でもある。皇族の妃となった者は、次代を産み育てる事が何より重大な仕事となる。皇帝陛下も皇太子殿下も一人の皇妃と複数の側妃を持ち、多くの子を為す事が義務付けられている。その中でより皇帝に相応しい者が次代を担うのだから、その教育も重要だといえた。

 皇妃、側妃となる令嬢にはエステル帝国に忠誠を誓った賢女が望ましい。エステル帝国の次期皇帝となる男児を教育せねばならぬのだ。血筋もさる事ながら、その教養も重要と言えよう。

 帝室に一夫多妻にはつきものと言えるが、一人の夫に対して複数の妻など、争わない訳がない。一人の男の寵を独り占めしたいと思うのは、女として妻として当然の感情なのだから。故に、後宮ではしばしば、妃同士の争いが巻き起こる。それに対し、夫たる皇帝や皇太子が一々口を出す事はない。所詮、女同士の争いなのだから。

 エステル帝国1000年の歴史の中には、地で血を洗う争いが後宮で巻き起こった事とてある。そのような時も、皇帝が直々に事件解決を図った事はない。

 リアナがアリア姫に行ってきた数々の『嫌がらせ』は悪戯の範疇であろう。少なくともリアナはそう理解していた。

 嘲笑や侮蔑の含まれた呪いの手紙も噂もお茶会も、どれもが可愛い悪戯ではないか。女同士の世界ならば何処ででも起こりうる出来事だ。実際、アリア姫がユークリウス殿下の正妃となり後宮と入った暁には、後から後へと入ってくる側妃と同じように争うのだ。それが繰り上げられてスタートしたに過ぎないではないか。

 リアナの認識はその程度のものだった。だからこそ自身の置かれた状況が理解出来なかった。何故自分が罰せられねばならぬのかが理解出来なかった。


「アリア姫が皇太子の正妃となるのならば通るべき過程でしょう?どこの国でもそれは同じ筈だわ……。なのに何故……?」

「ーーそれは貴女が『叛逆者』だから、ですよ?」


 今度はリアナの言葉に反応する者がいた。リアナが意識を内から外へと向けると、鉄格子の外に牢屋番の兵士とは別に一人の騎士が立っていた。

 騎士は鉄格子越しにリアナと向かい合っていた。薄暗い室内からは廊下にいる騎士の表情まで判断する事はできない。しかしその声音からはリアナに対し、労わりの念を持っていない事は明らかであった。


「誰、貴方……?あぁ近衛かしら……。ユークリウス殿下の騎士ならば、殿下に『わたくしは無実です』と伝えなさい。わたくしは罪など犯してはいないわ!」


 リアナは椅子から立ち上がるとツカツカと鉄格子へと近づいて、騎士へと命令した。


「いいえ。貴女は罪を犯した犯罪者ーー『叛逆者』ですよ?」

「何をバカな……⁉︎」

「バカは貴女です、リアナ嬢。アリア姫に対し数々の謀略、それは回り回ってユークリウス殿下を貶める行為だと、何故気づかれないのです?システィナのアリア姫を望まれたのは、ユークリウス殿下ご自身なのですよ?」

「……!」


 リアナは鉄格子から一定の距離を置いて立ち止まると、騎士の言葉に息を呑み唇を噛んだ。騎士はリアナの動揺など気にも留めずに、リアナの犯した罪について考察と説明を開始した。


「確かに皇太子殿下の正妃ともなれば、他の妃たちと殿下の寵を競って争う未来はありましょう。側妃から正妃への一見イジメにも見えるソレらは、正妃にとって通過儀礼のようなものなのですから」

「ならば何故ーー⁉︎」

「嗚呼……貴女はどこか勘違いをなさっていますね?それらはみな『見極め』なのですよ?エステル帝国の皇帝となるべき者の正妃として、次期皇帝を産み育てる者として、相応しいかどうかという見極めです。決して『好き』や『嫌い』などと言う乙女的思考かんじょうからなるモノではないのです」


 己の思考が乙女的思考であると騎士に断言されてしまいリアナは憤りを感じたが、口を開きかけたリアナを騎士が手で制して言葉を遮った。


「それに、正妃を支えるのは側妃の役目。正妃を潰して成り代る事が側妃の役目ではないのですよ」


 まるで幼児を諭すように「皇后陛下と側妃様方をご覧になれば、分かるでしょう?」と言われてしまえば、リアナとて反論などできはしなかった。現皇帝陛下の正妃ーー皇后陛下と側妃たちの仲が良いのは周知の事実。お互いを尊重し合い、皇帝陛下を支えておられるのをリアナも知っていた。

 騎士は目を細め、俯いて震えるリアナの姿を見据えた。そのリアナの姿から、反省の念を頂いたのではないと見て取れたのだ。


「それに……そもそも、貴女はまだ皇太子殿下の妃ではないでしょう?ただの公爵令嬢、ただ臣下でしかない」


 『ただの臣下』。この言葉はリアナの胸に深く突き刺さった。リアナにとって『皇太子殿下の正妃となるべき令嬢』という言葉ーー立場は何よりも変え難いものだったのだ。物心つく前からそう言われて教育されてきたのだ。それを疑う事などしなかった。当然の結果、当然の未来だと信じて疑わなかった。『ただの臣下』という言葉はそれら全てを覆すものだったのだ。


「や、やめてやめてやめてーーッ!」


 リアナは頭を抱えて蹲った。絶叫しながら頭を振り乱し、頭を掻き毟る。


「ヤメテ!わたくしは公爵令嬢!皇太子ユークリウス殿下の正妃となるべき令嬢なの‼︎」


 リアナの取り乱した様に、騎士はそれを心配するどころか薄くほくそ笑んだ。そして目を細めてリアナを見下ろした。その舌に毒を乗せて、言の葉を紡ぐ。


「殿下を貶める発言の数々、それは皇族への反逆と捉えられるもの。叛逆者と言っても過言ではございませんよ……?」


 「身に覚えがございましょう?」と恋人に甘く囁くかのように、騎士はリアナへと問い掛けた。甘い声音とは裏腹にその瞳には鋭い棘が含まれている。

 リアナは騎士からの冷ややかな視線を受けて、まるで凶悪な肉食獣に睨まれた草食獣のように、身体をカタカタと震わせ始めた。


「私は……我々は、貴女を許しはしません」



 ※※※※※※※※※※



『何故……何故私が罰せられねばならないの……?』


『私は悪くないわ……。私は、私は公爵令嬢なのよ?皇太子殿下の正妃となるべき令嬢なのよ……』


『後宮で殿下や陛下の寵を競って争うのは当然でしょう?常識でしょう?なのに何故、私が罰せられねばならないの……?』


 リアナのーー愛娘の声が隣の牢にいたルスティル公爵にも届いていた。だがルスティル公爵は自己肯定に走るリアナの言葉に、父親として言葉を返す気はなかった。混乱し叫ぶ娘に心配や同情などしなかった。逆に不甲斐ないと憤りを覚えた程だった。

 ルスティル公爵は娘リアナを公爵家の令嬢として相応しい娘ーー強いては、皇太子殿下の正妃に相応しい令嬢にと育てたのは自分だと自覚していたからだ。そして、人生を賭して育てた娘が、この程度で混乱を来す弱い自尊心しか持ち合わせていない事実に落胆し絶望した。


「お前はその程度の令嬢むすめということか……」


 ルスティル公爵は泣き叫ぶリアナの声を壁越しに聴きながら、見えぬ空を見上げた。


「それは貴殿も同じでしょう?ルスティル公爵殿」

「第8の……団長殿か……?団長殿自らのお越し、痛み入る」


 突然の声がけにもルスティル公爵は驚く事なく、声の主の正体を当ててみせた。叛逆者となり牢に繋がれようが腐っても大貴族ーー公爵閣下と言うべきか。彼はエステルの官僚として、おもだった官僚は勿論、有力な官吏、騎士の名を全て記憶していたのである。それは貴族の頂点たる公爵として、また官僚として当然の努力と能力であった。


「私を裁きに来たか、猟犬よ」

「いいえ。貴殿を裁くのは司法の仕事。私はその領分を侵す真似は致しませんよ。貴殿のように、ね……」


 ルスティル公爵はふんっと鼻を鳴らして視線を騎士から外した。

 騎士はルスティル公爵の態度に益々、眼を細めた。なんと矮小な小物か、と。


「貴殿は思い違いをなさっておいでのようだ」

「……何?」

「アリア姫に醜聞を浴びせ表舞台からの退場を図る事は、エステル帝国の貴族がシスティナ王家を貶めていると取られ兼ねない」

「それの何がいけないと言うのか?現にエステルは精霊かみを冒涜するシスティナを低位な国家と見做しているだろうが?」


 エステル帝国の多くの貴族ものたちが隣国システィナを『精霊かみを冒涜せし野蛮人の国』と言って憚らない。確かにシスティナは帝国に比べれば領土も小さく、その歴史も浅い。新興国家と言っても過言ではない。

 だが、その歴史浅きシスティナは今や、世界にその名を轟かせている。この数百年で『魔導士』なる者を輩出したの国家として。彼らの齎した『魔宝具』は決して無視できない成果を世界に齎している。


「ええ、これまでは。ですが、これからは違います。違うのですよ?」

「なにが違う……?」

「ユークリウス殿下はシスティナとの歩み寄りを求めておられる。その為にシスティナの姫を欲されたのです」

「それが何か……?何と愚かな考えに取り憑かれておるのか、私にはユークリウス殿下のお考えが理解しかねますな!」


 自分のあるじを『愚か』と罵るルスティル公爵を騎士は睨め吸えた。殺気を抑えることもせず、鉄格子越しのルスティル公爵の未だに野心燻る表情を眇めた。


「だから貴方たち親子は愚かだと言うのですよ……」


 嘆息混じりの騎士の言葉をルスティル公爵の耳は正確に捉えた。そして烈火の如く怒りを爆発させ、騎士へと掴みかかった。しかし、鉄格子の間を抜けたルスティル公爵の手は騎士には届かず、虚しく空を切るのみ。


「無礼な!」

「無礼なのは貴殿では?貴殿がユークリウス殿下を見下しておられるのは周知。ですが、殿下を侮りすぎているのは頂けませんね……」


 『ルスティル公爵はユークリウス殿下の政策に反対を示している』。これは貴族官僚内では誰もが知る事実だ。ルスティル公爵自体がその言を憚らずに公言しているのだから。

 しかしシスティナを蕃国と罵る一方で、ルスティル公爵家がシスティナ国に王妃を輩出した格式高い家系として、エステル帝国で幅をきかせていた。そのなんと厚顔で無恥な精神か。

 それでも、ルスティル公爵家がエステル帝国に於いて公爵位を持つ最有力貴族だと言うことには変わりがない。彼がどれだけ悪しき精神ココロを持っていようとも、無碍に扱う事などできはしない。それが身分制度というものだった。


「殿下がシスティナとの歩み寄りを求めておられるのは、エステルがシスティナの魔導士に対し恐怖し、弱腰になっているからではございません。全ては帝国の為、帝国民の為、帝国の未来の為です」


 エステル帝国の皇太子が格下のシスティナ国へ歩み寄りの姿勢を見せ、の国から姫を娶る。これはエステル帝国の内部から見れば、一見、皇太子がーー延いてはエステル帝国帝宮がシスティナ国に頭を下げ、屈したように見え兼ねない。


 だがそれは違う。


 ユークリウス殿下はシスティナに屈した訳ではない。全ては自国の未来の為に、システィナを己が力の一部にしようと画策しているのだ。


「殿下の政策を、貴殿は己の利益の為だけに潰そうとした。ーー殿下は勿論、皇帝陛下も貴殿には大層お怒りですよ……」

「皇帝陛下、が……⁉︎」


 ルスティル公爵はアリア姫を通じユークリウス殿下を貶めたと思っているが、それは検討が甘かったとしか思えない。ユークリウス殿下がシスティナの姫アリアを皇太子妃にと認めたのは、皇帝陛下のご意志なのだ。皇帝陛下が一度認めたシスティナの姫を貶める事態を、許そう筈もない。

 もし、アリア姫を傷つけたならば、それはユークリウス殿下やシスティナ国を貶めるどころか、皇帝陛下のお考えに泥を塗る行為となるのだ。


「貴殿は皇族を侮り過ぎておられるようですね……。帝国と共に1000年続いた帝室。皇族のプライドは天よりも高いのですよ?」


 エステル帝国1000年の歴史。それは血で血を洗う戦乱の歴史だ。多くの国を取り込み、国の主幹を維持して現在の『精霊信仰国家』体制を築いてきた大国。その中枢で、これまで帝国を繁栄させてきたのは帝室のあるじーー皇帝陛下を中心とした皇族方の努力を置いて他にはない。

 彼ら皇族がこれまで他国とどのような関係を築き、またこれからどのように関係を築いて行くのか。それは帝室に連なる者たちの使命であり、課せられた大きな責任でもある。

 彼らエステル帝国の皇族たちのプライドは、自国と他国とを利用し、己が権力と利益のみ求めるルスティル公爵とは確固たる差がある。それは比べようもない程の差だ。


「リアナ嬢が良縁に恵まれなかった段階で気づくべきでしたね」


 リアナは公爵令嬢として皇太子妃に相応しい格式と血を有していた。だが、ユークリウス殿下を始め、どの皇子の婚約者候補にも入ることは叶わなかった。

 その段階で、ルスティル公爵にはユークリウス殿下の正妃にリアナを押し上げるしか、手段が残されていなかったのは分かる。『年頃の公爵令嬢に婚約者がいない』状況など、醜聞でしかないのだから。

 皇族の妃が駄目でも、他国の王子との縁談、高位貴族への縁談はあって然るべきなのだ。それが無いというのはどういう事なのか。

 それは即ち、エステル帝国に留まらず周囲の国々までがルスティル公爵家を嫌厭していると捉えられる事態なのだ。

 ルスティル公爵はユークリウス殿下の政策を悪し様に避難している。だが、一方でユークリウス殿下に娘を娶らそうとしている。そんなルスティル公爵をユークリウス殿下は勿論、皇族たちは皆、嫌悪していた。


『ルスティル公爵に未来はない』


 周囲にそう見られるのは当然ではないか。未来のない公爵家に取り入ろうとする者など、何処の国にも居はしまい。

 ユークリウス殿下との確執。暗殺者を雇いアリア姫への襲撃。帝宮に侵入させた不審者による陽動撹乱。下級貴族の買収。皇族と帝国とを裏切らせた貴族による宰相府への侵入、強盗未遂。数えられる犯罪は最早片手では足りない。

 次期皇帝陛下となる皇太子殿下への擦り寄りも失敗に終わった。しかも、3人の弟殿下たちから距離を置かれている現実がある。それこそ、絶望的な人望の欠如と言えまいか。


 ーそして、決定打はシスティナ国への内部干渉ー


「エステルは勿論ですが、システィナも貴殿を許されますまい」


 ルスティル公爵家はシスティナの北の魔女と通じ、システィナの国家転覆を目論んでいた。その主犯格の一人だ。

 ルスティル公爵家はシスティナのハーバント公爵家と政略結婚を行なった経緯がある。ルスティル公爵の叔母にあたる令嬢はハーバント公爵家に嫁いだ。その人物が産んだ娘が現システィナ国の王妃なのだ。そして北の魔女シルヴィアは孫にあたる。

 こう見ると、ハーバント公爵家もルスティル公爵家も、大層格式高い血筋と言えよう。しかし、それもまたこれまでのこと。

 例え血筋が良いとはいえ、それだけで王妃に相応しい家とは言えない。周囲から一目を置かれるよう、貴族として官僚として、弛まぬ努力が必要だ。それなのに、ルスティル公爵は勘違いした。


 『血筋と家格さえ高ければ何をしても良い』と。


 ルスティル公爵は己が利益の為だけに娘リアナを、そして血の繋がりを使い、システィナ国の北の魔女シルヴィアを利用した。そんなルスティル公爵をーー公爵家をシスティナが放置する訳がない。

 ルスティル公爵家がシスティナ国王妃へ連なる家として、システィナへの切り札になる事も絶望的となった。それはシルヴィアの反逆により、より明確になってしまった。


「システィナの北の魔女は『病死』されましたよ?」

「ッーーーー」


 騎士から齎された事実に、ルスティル公爵の顔が一瞬で恐怖の色に染まった。システィナ国の北の魔女シルヴィアの『病死』。それがどのような意味かという事を、ルスティル公爵は正確に理解できたのだ。


 騎士は一歩、また一歩と鉄格子へと近づくと、ルスティル公爵はその分後退った。


「貴殿にどんな裁きが下るか、楽しみですね……?」


 そう、ルスティル公爵には後がなかった。

 夜会の最中に齎された情報。全てが露見したと知ったあの瞬間、ルスティル公爵にはアリア姫を殺害する他に未来は残されていなかった。だが、今思えばそれが誰かの思惑の範疇だったのではないか。ルスティル公爵にはそう思えてならなかった。

 その思惑とこの結果を齎した者、それは『誰』なのかを、ルスティル公爵は正に今、正解にたどり着く事ができた。できてしまった。

 自分が『何に』手を出したかということをーー!


「あ、ぁあ、あああああーーーー……」


 ルスティル公爵は頭を抱えてその場に蹲った。そこには既に大貴族としての威厳など有りはしなかった。

 彼に、彼らの未来はもう、明るい陽の下にはない。

 ルスティル公爵親子は手を出してはならぬ存在に手を出した、その所為でーー……。



お読み頂きまして、ありがとうございます!

ブックマーク登録、感想、評価など、大変嬉しいです!ありがとうございます‼︎


裏舞台11父と娘をお送りしました。

普段温厚な人を怒らせると怖いです。

ヒースはユークリウス殿下の忠臣なので、殿下を貶める者に容赦はありません。


裏舞台や小話を挟みながら、本流に進みます。

次話も是非、ご覧ください!


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