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魔宝石物語  作者: かうる
魔女と北国の皇子
135/491

※裏舞台10※ 宰相府

 ルスティル公爵邸から帝宮へ向かう道すがら、ユークリウス殿下は舞踏会会場に置いてきたアーリアを想っていた。


 今頃、婚約者(パートナー)のいないアリア姫はルスティル公爵家の令嬢リアナの格好の的になっているだろう。

 しかし、ユークリウス殿下にはそれに対しての心配や問題を感じてはいなかった。抱くのは信頼のみ。アーリアならば己の役割をしっかりと果たしてくれるだろう。そうユークリウス殿下は確信していた。


 ーアーリアは実に(したた)かな女だー


 ユークリウス殿下はアーリアをそのように評価していた。

 二国間に渡る思惑からエステル帝国へ捕らえられたシスティナの魔女アーリア。己の味方は護衛騎士一人しかおらず、身を守る術は己の魔力と知識のみ。そんな中であってもアーリアは、ユークリウス殿下の望む役割を良くこなしてくれていた。仲間(ユークリウス)の思惑すら分からぬ状況に於いて、少しの不満すら言わないアーリアはまさに『理想の駒』といえた。


「アーリア様ならば大丈夫でしょう」


 ユークリウス殿下の考えを見通したかのようなヒースの言葉に、ユークリウス殿下の思考は中断され、現実へと引き戻された。


「彼女は己の役割をよく分かっておいでですので」

「ああ。勿論、そのような事には何ら心配していない」

「そうですか……」

「俺は、他の男の目線を心配しているだけだ」

「…………」


 ヒースは主の口から齎された意外な一言に、真顔で押し黙った。

 良い意味でも悪い意味でも、これまで女気のなかったユークリウス殿下から、仮とはいえ婚約者の身を心配をする言葉が出るとは、長年側で仕えているヒースも思ってもいなかったのだ。


「……。なんだ、その目は?」

「いいえ。殿下からそのようなお言葉を聞かせて頂けるとは、思いませんでしたので」

「フン!仮であろうとアーリアは私の婚約者。心配して何が悪い?」

「何も悪くございませんよ。ええ、ええ、私もとても心配です。あのようなお召し物は、男にとっては目に毒ですからね」


 仮面舞踏会の衣装は通常のドレスとは異なる。薄布を重ねた柔らかな形状。透けるような白い羽の装飾。通常見せぬ足首を晒した裾丈。

 皇帝陛下より下賜された舞踏会用のドレスは、アーリアの肌の白さと美しさを実に良く引き立てるデザインであった。そのドレスと靴は()()()アーリアの身体のサイズにピッタリであった事に対しては、苛立ちと疑問を残した息子ユークリウス殿下ではあったが……。


「大変、お似合いでしたからね」

「……まぁな」


 面白くないとでも言いたげに鼻を鳴らして外を見るユークリウス殿下のそのイライラした様子は、年相応の男のものに見えた。大国の皇太子として早くから大人に混じり、政治の世界に身を置いてきたユークリウス殿下は、これまで年頃の遊びという物を全くしてこなかった。

 だからだろうか。アーリアとリュゼがユークリウス殿下の元に来て以来、殿下が時々みせる年相応な表情に、ヒースは大変微笑ましい気持ちになるのだ。


「『まんまと乗せられておびき寄せられた皇太子』と、奴らは思うだろうか?ヒース」


 ユークリウス殿下は馬車に揺られながら、向かいに座る自身の右腕ヒースに語りかけた。


「さて、それはどうでしょうね?主観によるところが多いかと」


 ヒースは手に持つ書類をチラリと見た後、睫毛を上げた。その顔には笑みこそ浮かんでいるが、瞳には強い怒りが見えた。それはそうだろう。何故ならばヒースの唯一の(あるじ)である皇太子ユークリウス殿下を侮辱した貴族に対し、並々ならぬ怒りをその身の内に宿していたのだから。


彼方(アチラ)からすればさぞ、マヌケな皇子に見えた事だろうな?」

「そう思われるように誘導なさったので御座いましょう?」


 ユークリウス殿下はニヤリと笑った。それはユークリウス殿下が一番似合うニヒルな表情であった。


「俺は馬鹿が嫌いだ。馬鹿の娘も嫌いだ」

「存じております、殿下」


 今までユークリウス殿下はそう言って擦り寄ってくる貴族や令嬢を切って捨ててきたのだ。皇太子ーー次期皇帝に最も近い皇子でありながら、これまで正式な婚約者も持たずに来たのは偏に、殿下本人が『馬鹿を娶る気はない』と言い続けてきたからに他ならない。


「さぁ、俺自ら貴様らの掌の上で踊ってやっているんだ。精々、俺を楽しませてくれよ」


 ユークリウス殿下は足を組んで馬車の小窓から外を見た。そこには月夜に照らされた白亜の城が女性的で柔らかな曲線美を魅せている。

 ユークリウス殿下はこれから起こる事件に、今まさに起こっている事件に、白亜の城を舞台に演じる役者たちに想いを馳せた。



 ※※※※※※※※※※



 帝宮ーー宰相府。


 帝宮とは皇族の住まう宮殿という意味とは別に、政治機関という意味合いを持つ。大小様々な建物の総合複合建造物、それが帝宮であった。その中枢に位置する場所に宰相府は存在する。

 宰相府とは皇帝陛下の側近であるブライス宰相閣下率いる政治機関だ。宰相符には皇帝陛下の目となり耳となる事が要求されている。また他の省の意見が集結する場所であった。


 そんな宰相府のある宮、その一室に今、書類を引っ掻き回す音が響いていた。


 ガサガサと書棚を漁る音。

 バサバサと床に落ちる紙の束。


 項目毎に整理された書棚から、ファイルに挟まれた書類が落ちて床に広がり重なる。

 書棚を掻き回すように目当ての書類を探していたその男は、足元に広がる書類の海に一つ舌打ちしたあと膝を折り、落ちた紙を一枚一枚拾い上げてその内容を確認していく。そして何十枚と確認した後、お目当の書面を見つけて目を光らせた。


「お目当てのものは見つけられましたかな?ノートン男爵」

「ーー⁉︎」

宰相府(我々)が国費を不正に流用したとする書類を」


 国費の不正流用となれば国家の大逆だ。宰相府の人間は皆わ審議にかけられる事は必至。その長である宰相閣下ーーブライス公爵の失脚は確実になるだろう。

 不正書類を見つけ宰相閣下の弱味を握ること、その為にこの男は官僚たちが退勤し、誰もいない宰相府の中を家捜ししていたのだが……


「あ、貴方は……」

「何を驚いておる?ここは宰相府。その長たる私がいても何ら可笑しい事はなかろう?」

「ブライス宰相閣下ーー!」


 喉から絞り出すようにして、ノートン男爵は眼前の人物の名を漸く口にした。


「嗚呼、このように散らかして。これは片付けが大変だ」

「そうだのう。だがかえって良かったのではないか?久々に大掃除ができるであろう」

「ライニー侯爵、イグニス公爵も……」


 あり得ぬ大物貴族お三方の登場に、ノートン男爵は尻餅を突いて後退った。その顔は恐怖と混乱とで引きつっている。


「どうしたのだノートン男爵?そのように慌てて……」

「み、皆さまはルスティル公爵家主催の舞踏会に行かれたのでは……?」


 ブライス宰相閣下は何もかもを見通した目で、腰の引けたノートン男爵を見下ろし嘲笑の表情を見せた。

 イグニス公爵はノートン男爵の質問にあからさまに嫌悪感を現した。


「あのような不粋な夜会、儂の趣味ではない!若い娘が足首を晒すなどと……全く嘆かわしい事だ!」

「私は良いと思いますよ?若い女の子はみんな可愛いじゃないですか」


 反対にライニー侯爵はあっけらかんとした表情で、舞踏会に於ける女性の衣装を肯定してきた。


「ライニー侯爵、貴殿はまだまだ若いな。しかし、そんな事を言っておるとまたご息女に嫌われてしまいますぞ?」

「嗚呼、それはいけないな!」


 ハハハと乾いた笑いのライニー侯爵。彼には年頃の令嬢がいる。そんな彼の娘は、父親であるライニーを避ける時があるのだ。何もないのに避けられたりする時などは本当に泣きたい気分になるそうで、ライニー侯爵は常々『難しい年頃だ』と嘆いている。

 イグニス公爵とライニー侯爵の茶番に一つの嘆息を零しつつ、ブライス宰相閣下はノートン男爵に目線を戻した。


「我々は不参加だ。若者の集いは我々のような者には辛い。それにな……宰相府に鼠が入り込んだという知らせが届いては、おちおち舞踏会になど行ってはいられぬではないか?」


 今にも射抜きそうな目線で見下ろされたノートン男爵は、息をするのも忘れて目を見開いた。


「それでどうです?ノートン男爵」

「お目当てのモノは見つかりましたかな?」


 宰相府に於ける不正流用の証拠を探していたノートン男爵。大貴族三人に侮蔑の目で見下ろされた男爵は、自分の行動の全てが目の前の男たちに筒抜けであった事を悟った。


 ノートン男爵はブライス宰相閣下率いる『穏健派』の一員だ。しかし彼は、金と権力欲しさにルスティル公爵ワイルナーの子飼いとなった。

 これまでルスティル公爵に頼まれた悪事を細々と熟していたノートン男爵はこの度、ルスティル公爵の雇い入れた賊を帝宮内に侵入させた。そればかりか、そのドサクサに紛れて以前より調べていた宰相府の不正の証拠を持ち帰ろうとしていたのだ。


 帝宮内は賊の侵入により、近衛騎士たちが対処に追われている筈だった。


 帝宮と一言で言ってもその領土領域は広い。一般貴族にも解放された図書館や広間なども点在し、そんな場所への侵入は難しくない。しかしそのような場所への賊の侵入程度では、帝宮中を混乱させることは出来ない。まして、皇太子殿下を誘き出すには事件が小さすぎる。だからこそノートン男爵は賊を帝宮内、それも政治機関の集中する宮に誘い入れた。今、ノートン男爵が荒らした書棚と書類も、賊の仕業にするつもりだった。


 ノートン男爵は数枚の書類を手に立ち上がると、ブライス宰相閣下に向けてその書類を掲げた。


「ええ有りました。これがそうです」

「ほう……?」

「随分と余裕ですな、宰相閣下。これを私が奏上すれば貴方は破滅なさるのですよ?」

「それで……?」

「今なら、これを貴方に返して差し上げても構いません。そのかわり……」

「宰相府の不正を見逃す代わりに金品と権力を要求する、か」


 ブライス宰相閣下はそう呟くとヤレヤレと溜息混じりに呟き、眉根を顰め、首を振る。

 ニヤついた笑みで己を脅迫するノートン男爵の表情に、ブライス宰相閣下の胸中には怒りを通り越して呆れが占め始めていた。それは背後にいる宰相閣下の友イグニス公爵、そして部下のライニー侯爵も同じくしていた。年若いライニー侯爵などは「なんと小物か」と苦々しく吐き捨てている。


「……お好きになさるが良い、ノートン男爵。私は止めぬよ」

「なんーー……⁉︎」


 ブライス宰相は溜息を一層深くさせた。


「奏上でも何でもお好きになさるが宜しかろう」


 目を白黒させるノートン男爵を他所に、ブライス宰相は強い口調で言い放つ。

 その威圧のこもった目線に、ノートン男爵は尻込みした。

 宰相府の不正を握る自分の方がブライス宰相閣下より優位に立っている筈であるのに、互いの立ち位置に少しの変化もなかった。いつ迄も何年経ってもノートン男爵はブライス宰相閣下に頭が上がる事などない。宰相閣下の前でヘコヘコと頭を下げ身体を縮こませているのは、ノートン男爵にとっては日常風景で、だからこそ苛立ちが治らない。


「くそっ……」


 優越感を持ったのも束の間、より一層、ノートン男爵の中に惨めな気持ちが広がっていった。そして、何時迄も余裕を崩さぬブライス宰相閣下の態度を見留めたノートン男爵はある可能性に気づき、ハッと手の中の書類に目線を落とした。


「ま、まさかこの書類は……⁉︎」


 ー偽物なのか……⁉︎ー


 ノートン男爵は信じられぬ思いで三人の大貴族を見つめれば、彼らは愚者を見るような目で自分を見てくる。その目から、ノートン男爵はこの不正書類が偽物なのだと確信した。


「いつから……」

「さてな」


 ブライス宰相閣下の言葉に、ノートン男爵は手の中の書類を床に落とした。ハラハラと溢れ落ちる数枚の用紙が、ノートン男爵の足元に広がった。


 ー嵌められたのだ。私の行動を予め予測して、私がまんまと罠にハマる様を眺めていたのだ……!ー


 さぞ滑稽な姿だったに違いない。ノートン男爵は自分のしてきた悪事や言動の数々が、大貴族にして高官の彼らにとっては酒のつまみ程度にしかならなかった事を悟り、屈辱と絶望に身体を震わせた。

 ノートン男爵はギリっと唇を噛むと、ブライス宰相を睨みつけた。


「いつもいつも貴方は……あなた方は、私を見下して……!」

「見下してなどおらぬよ。そなたが自分自身を軽視していたに過ぎぬ」

「煩い!私は、私は……俺は……ッ!」


 男爵位しか持たないノートン男爵は、政界に入った当初は前向きに努力していた。その日々の努力と能力とが認められ、遂に宰相府の扉を叩く事のできた日には、自分は帝宮に認められたのだと感慨に浸った。しかしノートン男爵の感情は間を置かず覆された。

 幼い頃より周囲から神童だ天才だと囃し立てられ、同年代の者たちより頭一つ分抜きん出ていたノートン男爵だったが、宰相府に入った途端、それが幻覚だったのだと思い知った。宰相府にはノートン男爵以上にデキル男は大勢いたのだ。それどころか、自分よりもよっぽど柔軟性があり頭の良い貴族(おとこ)がゴロゴロ転がっていた。

 間も無く、ノートン男爵は宰相府にあっても自分が平凡であると強く思い知らされる。自分の代わりなど掃いて捨てるほど居る。しかも自分よりも高い爵位を持ち、顔も良く金も権力も持つ者が大勢。ーーそうして、ノートン男爵のプライドは粉々に砕かれた。


「貴方は諦めたのでしょう?」


 ライニー侯爵の一言にノートン男爵は鬼の形相を見せた。


「お前に何が分かる⁉︎ 侯爵家に生まれ、悠々と爵位を継ぎ、宰相閣下からの信頼も厚いお前が!」

「分かりませんね。貴方の気持ちなんて」

「貴様ーー!」

「貴方もここが何処かなのかはご存知でしょうに?ここは宰相府。帝宮に於いて最上位に位置する政治機関ですよ?愚か者がここに居る資格はないのです」


 宰相府に所属する者は努力を余儀なくされる。それは一時的な努力ではなく、継続する努力をだ。努力をせぬ者は宰相府どころか、どこの部署に於いても不要ではないか。

 ノートン男爵は宰相府に入る事こそが目標だったのだろう。それが達成された後の未来を描いていなかったに違いない。でなければ、これほど簡単にプライドが折れてしまったりはしまい。


「ーーもう良いか?ブライス宰相殿」


 半開きの扉をコンコンコンとノックしながら、ユークリウス殿下は扉から半身を覗かせた。


「ええ。構いませんよ、殿下」


 ブライス宰相閣下の言葉に、ユークリウス殿下は近衛騎士を連れて宰相府へと足を踏み入れてきた。


「ユークリウス殿下……⁉︎ なぜ、ここに……」

「ノートン男爵。貴殿を拘束させて頂く」

「な、何故……」

「ん……?何故とは?私がここに来た理由か?それとも貴殿を拘束する理由か?」

「そんな事をわざわざ殿下の口からご説明頂く必要がございますかね?」

「キ、キースクリフ宰相補佐!」


 キースクリフ宰相補佐。ユークリウス殿下の左腕と呼ばれる敏腕官僚だ。宰相府の重鎮にして、ブライス宰相閣下率いる『穏健派』に属さぬ変わり者とされているが、彼の能力は疑う事なく秀才だ。

 キースクリフ宰相補佐は憂鬱そうに眼鏡をグッと押し上げると、ノートン男爵に厳しい目線を向けた。


「そんなにも知りたいのならば、馬鹿にも分かるように教えて差し上げましょう」

「なっ……!馬鹿とは私のことか⁉︎」

「馬鹿でしょう?ーーノートン男爵、貴殿を帝宮に賊を侵入させた罪で拘束します。他には文書の改竄、他部署への文書の流出による金品の授受、アリア姫への暗殺補助、まだまだありますよ……」


 キースクリフ宰相補佐は手元にある書類をペラペラ捲りながら淡々と罪状を読み上げた。それに対してノートン男爵は愕然と口を開け、身体をわなわなと震わせた。


「フン。積もり積もってと言った処か。しかも最後にはこれほどの大罪を犯すとは……」

「ユ、ユークリウス殿下……貴方はブライス宰相閣下と確執があるのでは……?」

「確執⁇それが何だと言うのだ?そんなモンで政治などできんだろうが」


 ユークリウス殿下はノートン男爵の言葉を一笑の下に切り捨てた。


「だから馬鹿だと言うのです。ここに居る者は皆、国の臣なのです。好き嫌いで国が守れますか⁉︎」


 キースクリフ宰相補佐は近衛騎士たちに拘束されたノートン男爵を、射殺さんばかりの目線で睨め付け、口調強く言い切った。

 キースクリフ宰相補佐は奇しくもノートン男爵と同年代。かつては共に切磋琢磨した同輩でもあった。だからこそ、堕ちて行く同輩を見るのが耐えられなかった。情けなく、辛かったのだ。


「連れて行け」


 ユークリウス殿下はノートン男爵の弁明など聞く気はさらさら無かった。『ノートン男爵は許し難い罪を犯した』。それが事実であったからだ。

 ノートン男爵は項垂れ、近衛騎士に引き連れられて行った。それを感情のない目で追った後、ユークリウス殿下はブライス宰相閣下に向き直った。


「災難であったな、宰相殿」

「いいえ、殿下ほどではございません。……舞踏会より呼び戻されたのでございましょう?」

「ああ、『宰相府』より呼び出しを受けてな。それもあの者の仕業であったようだが」


 ブライス宰相閣下はユークリウス殿下の前に跪き、(こうべ)を垂れた。


「申し訳ございません。部下の管理が至らぬばかりに殿下のお手を煩わせましたこと、ここに深くお詫び致します」

「許す。宰相府の汚辱を濯いだのも宰相府の者であった。宰相府の綱紀を改められよ」

「は」


 ブライス宰相閣下の言葉に頷くと、ユークリウス殿下は颯爽と身を翻した。


「私は舞踏会へ戻る。もう一人の罪人を捕らえねばならんのでな。このまま事後処理を貴殿に任せても良いか?」

「勿論でございます。……アリア様もお寂しくなさっておいででしょうからね?」


 ブライス宰相閣下の一言に、なんとユークリウス殿下は足元の太いファイルの角に足を取られてタタラを踏んだ。それでも何とか体制を整えると、無言で宰相府より出て行った。


「若いですなぁ……」

「仕方がないでしょう。あのようにお可愛らしい婚約者をお一人、狼の巣に置いてきたのですから……」

「陛下も罪な人だ。姫にあのような衣装を贈られるのだから……」


 三人の大貴族はユークリウス殿下の背中を見送りながら、それぞれが好き勝手な言葉を呟いた。ユークリウス殿下はそれらの声を全て無視して、廊下を足早に突っ切った。



お読み頂きまして、ありがとうございます!

ブックマーク登録、感想、評価など、すごく嬉しいです!ありがとうございます!


裏舞台10をお送りしました。

宰相閣下率いる小父様方の言葉巧みな術に、ノートン男爵も掌で転がされています。

不正書類は本当に偽物だったのでしょうか?彼らは一度も「そうだ」とは言っていません。真実は狸の腹の中ですね。


次話も是非、ご覧ください!

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