4.名無しの仮面《ノー・フェイス》
早く、バトル書きたいなぁ……。
オルソフィア姫のメンタルケアを行ってから、早くも一週間が経過した。
私は、オルソフィア姫の指導の下、異世界の地理、歴史、政治、経済etc……と沢山の知識を仕入れることに成功し、この世界での一般人ぐらいの知識を手に入れた。
そして、今日この日……私が待ちに待ったあの実習が行われる。
それはーーー
「では、キョウマ様。今から魔法についてわたしとクルエルで教えますね」
そう、魔法である!
異世界と言えば、魔法。
そして魔法と言えば異世界。
と、こんな問答がラノベ好きな人々からすれば当たり前に論じられるぐらいに当たり前な関係性。
魔法がない世界など異世界に非ず!と若かりし頃の私はよく叫んでいたなぁ、と感慨に耽るほどに憧れていた存在である。
当初の予定としては、先に魔法のことを教えてもらいそれからその他雑学を教えてもらおうと考えていたのだが……。
『キョウマ様のように先の先まで考えておられる方には、先に我が国の歴史から学んだ方が良いと思うんですっ!そうすれば、何故この魔法が作成されたのか、という由来まで見えてきますし、きっととても便利ですよっ』
と、オルソフィア姫にハキハキとした声音で言われて仕舞えば、私も魔法を先に覚えたいとは口が裂けても言えなかった。
いや、だってめっちゃ楽しそうに私に教えていたし……。
それを拒否するのはちょっと……良心の呵責というかなんというか……。
そんな感じで、拒否しようにも出来ない状況に追い込まれてしまった私は、エサの眼前でお預けをくらっている犬のような気分になりながらも、必死に座学に取り組んだ。
しかも、ただ彼女の話を聞けば良いという訳ではない。
座学の後には、必ず最初と最後に復習を兼ねた小テストが提示され、それで7割以上の点数を取らないと、また同じ内容を次の日に受けさせられるのだ……。
正直に言って、地獄以外の何者でもなかったです。
ただ、王族という立場もあって人に物を教えるという行為が新鮮だったらしいオルソフィア姫は、日に日にやる気を増していき、今では1日の大半を授業に費やすほどにこの時間帯がお気に入りになっていた。
私が問題を間違える度に、聖母のような笑みを浮かべて懇切丁寧に教えてくれるオルソフィア姫。
そこには、勉強が全くできないダメダメ高校生と、その高校生に勉強を教える天才小学生女児といった雰囲気があり、控えめに言っても私のプライドはズタボロでした。
というか、その姿を見てクスクスと笑っていたクルエルに今まで感じたことのないレベルの殺意を覚えたのだが……。
ちょっといつか仕返しの一つでも出来ないものかと日課企み中である。
と、そんな今までの私の苦労を回想していると、オルソフィア姫が(どっから持ち出したのかは知らないが……)黒板のようなものに短棒を叩いて注意を集める。
「昨日の魔法史である程度基礎知識は頭に入っているとは思いますが……一応、念のために質問です。王国五英傑のそれぞれの名前と属性はなんでしょうか?」
「はい!火属性を用いるイグニス、水属性を用いるアクア、土属性を用いるテッラ、風属性を用いるウェントに、光属性という特殊属性を得意としていたルクスの計5名です!」
突然出された問題に、私は息つく暇もなくペラペラと答える。
もし彼女の質問に十数秒以内に答えられなければ、クルエルからの地獄の補習に追いやられてしまう。
一度だけ受けたことがあったが……。
あれはもう思い出すのを頭が拒否するぐらいに酷い授業だった。
クルエルの出す問いに答えられない度に、精神的苦痛(主に毒舌的な悪口)を与えられ、あまり長くやり過ぎていたら、別の何かに目覚めそうになるくらいにヤバイ代物であった。
そんなこともあってか、私はオルソフィア姫の唐突な質問にも瞬時に答えられるようになっていた。
「はい、よくできました!」
「ありがとうございます!」
「基本はちゃんとできている様ですので……今からキョウマ様お待ちかねの得意属性の把握に移りたいと思います。器具の用意を……クルエル、お願いできますか?」
「はい、かしこまりました」
「お願いします。では、キョウマ様。今からクルエルが専用の器具を持ってくる間に、わたし達は別のことをしましょうか?」
「別のこと、ですか?」
「はい、わたし達現地人には存在しない力ーーー神装の把握です」
◆
結局の所、私は今すぐに魔法の演習に取りかかれる訳ではないことが判明した。
というのも、私達地球人はもともと魔法という概念が存在しない世界から来ていたのだ。
異世界に魔法があるというテンプレの知識のお陰で私は混乱せずに済んではいるが、普通の人であれば、ここで魔法というものの根底が理解できないのである。
まぁ、私は理解できているし、更に言えばここに来てからオルソフィア姫とクルエルからみっちりと教えを請うたので魔法への理解度は高い、のだが……。
「頭で理解するのと、体で実践してみるのとでは、全然違うんですよ?」
という9歳女の子による正論によって、私は諭されてしまった。
……まぁ、なんだ。
とりあえずは、頭で理解できていても体が追いつかない、ということなのである。
「それではどうやって魔法を習得するんですか?」
「わたしやクルエルのような現地人からすれば、こういう道具で魔力の把握から始めないといけないんですが……」
そう言って、オルソフィア姫はハンドグリップっぽい器具を左手でニギニギしてみせる。
「これだと早くて一週間、遅いと一ヶ月はかかりますから……あんまり使いたくない物なんです」
苦々しい顔をしてみせるオルソフィア姫。
どうやら本人も魔力の把握には苦労したようだ。
「しかし、勇者様達が持っている神装を使えば、それ自体が莫大な魔力の発生を伴う代物ですので、近くにいるキョウマ様は一瞬で魔力の感覚を掴むことができます」
「なるほど……」
そうか……私が念願の魔法を使うにはまずは神装で体を慣らしてから、というわけだな。
そうと分かれば、善は急げだ。
私は手を突き出してポーズを取りーーー
……あれ?そういえば、神装とはどうやって出すんだっけ?
今まで座学ばっかりやってきたから厨二力が低下しちゃったのだろうか?
なんて、バカなことを考えていると、オルソフィア姫が言葉を発した。
「まだ、話は途中です。……キョウマ様も先ほど体験したと思いますが、神装というのはそう易々と引き出せるものではありません。いえ、魔力の把握よりかは随分とマシなんですけど……。その、何と言えばいいんでしょう?……こう、今まで感じたことのない気配、のようなものを感じ取らないと、神装を引き出すことはできません」
「何か感じたことのない気配、ですか?」
「はい。キョウマ様は今まで神装という力を手にしたことはありませんよね?」
聞かれて私は頷く。
オルソフィア姫は、その答えに満足して話を続ける。
「神装は、その人の心の力を形にした物です」
……どこかで聞いた覚えのあるフレーズだ。
「ですから、恐らくですけど……キョウマ様の体内に、何か今まで感じたことのないような気配を、何か感じるはずなんです。……異物感、と言えばいいんでしょうか?とにかく、なにか違和感はありませんか?」
と、そこまで言われて私は確かに何かを感じ取った。
それは、やけに静かで冷たい……。
正しく氷を思わせるようなとても寂しげな気配を、私は“自覚”した。
と、同時に、私の体に異変が起きた。
「ーーー!?」
眩い、光のような何かを纏い、それは現れた。
手の平よりは若干大きく、楕円形に近い形をしており、表面には朱色の文様が刻まれている。
何だかずっと見つめていると妙な気分にさせられるそれはーーー
「えっ?………仮面、ですか?」
そう、オルソフィア姫の言う通り。
お祭りの屋台とかで売ってある、白い仮面であった。
ブクマ、ポイント、ありがとうございます!
すいません、次話の投稿は明日に延期になります。
その代わりに、二話連続で投稿します。