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仮面の勇者  作者: トカゲ
2/11

1.オルソフィア・ルーン・エルトランド(前編)

明日もこの時間帯に投稿予定です。



「ふむ、今回の勇者召喚でまさか四人も来ていただけるとは……」


エルトランド王国国王、ヴェルディオール・ルーン・エルトランドの第一声がこれだった。


「いやはや、よくぞおいでくださった、勇者様方。私は、一応この国の長を務めている者だ」


そう名乗りを上げて、私たちに浅く一礼する。

ヴェルディオール国王が礼をすると同時に、


「おお!国王様の礼が見られるとは!」


「あの勇者様たちはなんと幸運な人たちだ!」


と、周辺に侍っていた貴族、もしくは騎士の皆様が騒ぎ立てる。

貴族たちの言っている内容には、明らかに私たちへの侮蔑の意が込められていたので、他の勇者3人たちは眉を顰めていた。


明らかな無礼。

しかしながら、ヴェルディオール国王は特に貴族たちの言を諌めるでもなく、淡々と話を進めていく。


「ふむ、私の紹介も終わったところで、だ。勇者様方よ、其方らの名を聞かせてはくれないか?」


「「「……」」」


偉そうにふんぞり返っている国王を目の前にして、勇者3人はしばし口を閉ざすも、このままでは話が進まないと考えたのか、一人ずつ名乗りを上げていく。


日応(ひおう)千渡(せんと)です。今年で16になります……」


まず、一人目。

外見は……一瞬すごい優男な男性かな、と思ったが、スカートをつけているし、胸元も若干膨らんでいるのでボーイッシュな女の子だと判断。

黒髪黒目のボブカットで、綺麗な顔立ちをしている。


梨紅(りく)(しおり)。歳はそいつと同じ16」


次に二人目。

二人目も名前からわかる通り女子生徒。

色を染めているのか、真っ赤な髪の毛と緋色の目が特徴的で、眦がつり上がっているせいかとても気が強そうに見える。

否、実際に気が強いのかも知れない。

今だって、一国の主たる国王に向かって失礼なぐらい強烈な眼光を向けている。

国王自身は特に何とも思っていないようだが……周りの貴族たちからすればあまり嬉しくない態度なのだろう。

結構顔が真っ赤になってる奴が多い。


鋼野(はがねの)一鉄(いってつ)!向こうでは学生をやっていた。歳はまだ15だ」


3人目、というか私を抜かしたら勇者最後の一人。

これも名前通りのがっしりとした体型の男の子で、15歳にして既に大人同じぐらいの威圧感を感じさせる。

頭に生えた髪をスポーツ刈りに短く切った硬派なヤンキー、といった印象を受ける。


「……次は君だよ?」


「ん?ああ、そういえばそうでした。私でしたね、最後は……」


私が勇者3人の考察をしていると、日応さんから肘で突かれた。

私は慌てて立ち上がり、静かに礼をする。


「此度の勇者召喚で参上することと相成りました、仮令響真です。歳は前二人の方と同じく16になります。以後、お見知りおきを……」


そう言って、また静かに一礼をすると、周りの貴族から感嘆の声が上がる。


「うぅむ、最後の勇者は格段に美しいな」


「うむ、確かに……見目はもちろんのこと、所作も優雅で……」


「なにぶん、期待を寄せてしまいますな」


「ははっ、一理あるな」


貴族はこそこそと会話をしている間に、ヴェルディオール国王が進行を続ける。


「ふむ、皆の自己紹介も済んだところで……そろそろ本題に入るとするか。フィア!来なさい」


「はい、お父様」


ヴェルディオール国王の呼び声に応答して入って来たのは、まだ歳の頃が10歳にもなっていないであろう可憐な幼女が入って来た。


「フィア、勇者様方に挨拶を」


「はい!わたしは、オルソフィア・ルーン・エルトランドです。今年で9歳になりました。今回は、勇者さんたちの指南役全権を担当することになりました。よろしくお願いします!」


え?この子が私たちの指南役?


どう見ても、というか本人が仰っていた通り9歳の、それもまだまだ遊びたい盛りを抜けていないような子どもに、指南される、と言われ私はしばらく思考停止する。


「あの……オルソフィア、様はまだ9歳ですよね?本当に僕たちを指南できるんですか?」


案の定、私以外にも疑問に思った人はいたらしく(見た限り全員が疑問に思っていそうだが……)、日応さんが手を上げてヴェルディオール国王に尋ねる。


「ああ、指南役全権というのはただのお飾りに過ぎんのでな。そこまで気にすることはない。貴殿らにはちゃんとした先生をこちらからお出迎えしておるからな。この娘はオマケだと思ってくれればいい」


「そうですか……なら、特に問題はないです」


ヴェルディオール国王の言葉に、私たち四人は脱力する。


その間に、オルソフィア姫は幾何学的な文様を地面に書いていき、そしてプロジェクターのような画面を空中に映し出す。


「はい、というわけで、わたしはあくまでみなさまの補助しかできませんが……ちょっとした説明ぐらいはお手の物です!なので、今からみなさまにしてほしいことを説明しまーす!」


そんなオルソフィア姫の間延びした声で、私たち勇者の存在意義が説明された。







プロジェクターを交えての三時間の説明を受けて終えて、私たちは凝り固まった体をほぐしながら、いつの間にか用意されていた椅子へと着席する。


「というわけで!勇者さんたちには、魔王を倒してもらうよう尽力してほしい、というのがわたしたちのお願いなんですっ」


ぱちんっ、と可愛くウィンクを決めるオルソフィア姫。


結局のところ、私たち勇者が受けた説明は、異世界系いうところの王道と言った内容だった。

一文に纏めると、魔王軍と王国及びその他の人族陣営の勢力争い協力して欲しい、という戦争への加入、というかほぼほぼ強制的な参加を懇願している、ということであった。


「まおうぐんは、わたしたち人族では話にならないぐらい強いので、こうして勇者さんたちの力を借りようと思い、勇者召喚をしました!」


ねえ、凄い名案でしょ!と言わんばかりの輝かしい表情を見せるオルソフィア姫。

そこに、鋼野くんから質問が入った。


「元の世界に帰ることは、出来んのか?いや、俺たちをここに呼び出すことに成功してんだから、当然返す方法も考えてんだろうなぁ?」


「え、えーと……それはーーー」


「ーーーふむ、それには私から答えよう」


鋼野くんの質問に口をモゴモゴさせ始めたオルソフィア姫を置いて、国王自らが答えてきた。


「結論から言うと、申し訳ないが現状としてはその方法を見つけることには成功できていない」


「ーーーは?」


国王の一言で、場の気温が低下したように感じた。

日応さん、梨紅さんは勿論のこと、質問をした当の本人である鋼野くんは口が開きっぱなしの状態で凍り付いていた。


そんな状態を目の当たりにしながらも、ヴェルディオール国王は尚も言い募る。


「ふむ、しかしな?我らが見つけきれていないだけで、もしかしたら魔王軍が所持している可能性がある。だからーーー」


「ーーーだから、俺たちに魔王を倒せ、っーて言うんじゃねぇだろうな?」


「っ!?」


ヴェルディオール国王の言葉に被せるようにして鋼野くんは、怒気を孕ませた声音で言う。


「テメェ、寝ぼけてんじゃねぇぞ?俺たちは、なぁ。異世界人という存在であり、別にお前ら王国軍とやらを助けるための勇者(ヒーロー)として生きてるわけじゃねぇんだよ。俺らにだって、それなりの事情があって向こうで生活していたんだ。それを、テメェがぶち壊しておいて、『返し方は知らないんで自分で探してください』ってか?そりゃあ、道理が立たないんじゃねぇのか、国王様よぉ!?」


「な、な……き、貴様、不敬であるぞ!即刻のその態度を改めーーー」


「ーーー下っ端は黙ってろよ、ボケェッ!!!」


「ひ、ひぃいいいっ」


鋼野くんの眦は吊りあがり、遠目から見ても彼の怒気が伝わってくるほどの熱量を感じる。

そんな熱量を間近で受けた兵士は、屁っ放り腰の姿勢で後ずさってしまっているのだが……。

まぁ、実際あれは凄まじく恐ろしいし……誰も兵士を貶すことは出来ないだろう。


現に、先ほどまでザワザワと騒がしかった貴族連中も一言も言葉を発せないでいる。


鋼野くんはそんな彼らの様子を見て馬鹿らしくなったのか、怒気を引っ込めると徐ろに席を立った。


「ぁーあ、やめやめ、くだらんわ!こんなところに居ても、兵士として使い潰されるのがオチだなぁ。……俺、ここ抜けるわ。後はテメェらで好きにしててくれよ……な?」


「……勇者どのが退室だ。誰か、彼に案内を頼む」


「ーーー了解しました」


そう言って、部屋を去っていった鋼野くんの後を何人かの給仕が追いかけていった。


これにて一件落着。

やっと本題に入れる、とそう思っていたところでーーー


「「すいません、僕(私)も抜けます(るわ)」」


「なっ、何故だ、勇者様方!?」


「いえ、その……」


「私たちも生活かかってますから、ね。あんまり容易に承諾するのは、ね」


「うん、僕もそう思う。だから、今はまだその話には乗れません」


「じゃっ、そういうことで、先に失礼します」


「……失礼します」


そう言って、二人は去っていってしまった。


そして、この場に残ったのは、貴族と騎士、国王とその娘に、私だけ……。


「くっ……勇者様も、此度はお疲れ、でしょう。御付きの者を付けますので、今日は部屋で英気を養っていただきたい。今日の話は、また明日にでも……」


「わかりました、では私も失礼します」


「ふむ、ゆっくり休んでくれ……」


こうして勇者召喚1日目は意外にも何の話の進展もなしに終わりを迎えてしまった。





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