プロローグ
サイキックブレイバーズで煮詰まってたので、新しいの投稿しました。
サイキックの方は、12月3日に再投稿する予定で、それまではこっちの作品を細々と投稿していく予定です。
一応、1日一話投稿を目標にしたいですが、継続するのが大の苦手なので、あまり期待しないでいただけると助かります。
……ん?他力本願の方はどうしたのかって?
あれは、年内に投稿する予定はないです。
一応、まだ続きはありますけど……。
今のところは特に書くつもりはないです。
「では、私はそちらの手違いで死んだ、と?そういう解釈で宜しいんですね?」
「はい……」
真っ白な部屋。
何もかもが存在しない空白の空間で、私こと仮令響真は、見知らぬ女性と向かい合っていた。
「ほんとに、ほんとうに申し訳ありません……」
若干涙目の、否既にもう泣き崩れる寸前まで行っているであろう、真っ赤な目元を見て、私の殺意は幾分か削がれてしまう。
「ふぅ……」
心を落ち着かせるため、一度深い溜息を吐く。
私の一挙手一投足に、目の前の女性が怯える。
ふぅ……。
そんな彼女の姿に、再度内心で溜息を吐く。
……大事な時期だった。
その日、つまりは私が亡くなった当日は、私の妻の出産日だった。
私は、「そろそろ生まれる可能性が高いので、奥さんの側に居てあげてください」という医師からの連絡を受けて、車で病院へと移動しているところだった、のだが………。
「うっ、うっ………ほ、ほんとに、すみませんでしたぁあああっ」
この、目の前にいる女性、ひいては女神と自称している女の手違いで、酔っ払い運転のトラックに車の横から激突されてあえなく死亡。
と、いうことになったらしい。
らしい、というのは、私が気が付いたときには既にこの場所に居たので、恐らくぶつかった瞬間に即死した、という事しかわからないからだ。
さて、まぁ30を過ぎた私の怒りなんていうのはこの際置いておいても構わないだろう。
順風満帆で、それなりに良い思いもしていたし、成人前に亡くなったという訳でもないんだ。
親より先に死んでしまった不孝はそれなりに痛いものがあるが……。
それでも個人的な感情を押し殺して仕舞えばそこまでのものでもないだろう。
問題は……。
「私の妻と、その子どもの安否はどういった状態なんですか?」
「ふぇ?あっ、響真様の奥様とお子様ですか!?そ、それなら問題なく無事に出産なさって、二人共元気に過ごしてらっしゃいますよ」
「そうですか……」
なるほど……二人共、元気か……。
ならば、私に悔いが残るなんてこともないな。
惜しむらくは、その二人の姿を己の目で見れなかったことだが……。
まぁ、それは欲張り過ぎというものだろう。
今回は、二人が元気であるという部分だけで充分と捉えるべきであろう。
私は心の内に秘められた悲壮を押し潰して笑顔を作る。
「そうですか……では、私からは特に言うことはありません。……ただ、少しだけ温情をいただけるならば、どうか妻には再婚の良縁を授けていただけると幸いです」
「さ、再婚の良縁……ですか?」
「ええ、折角の祝福の日だというのに、妻も一人では寂しいでしょうし、息子も父親が居ないというのは流石に不憫ですからね……。本当は、私自身の手で育てたかったのですが……この有様では、ね」
「うっ………す、すいません」
「いえ、特に気にしてはいません」
これから、妻は色々と入り用の時期になる。
それなのに、息子をたった一人の手で支え上げなければいけないとは……。
女神の手違いと雖も、私としてもあまり看過できるものではない。
一応、生命保険には入っていたのでお金にはそれほど困らないとは思うが……。
念には念を、というやつだ。
出来れば、陰ながらそれなりに援助して欲しい、と。
そんな意を込めて女神を見つめれば、
「わかりました。私の、女神の権限で良縁の加護、それと一家が邁進できるよう幸福の加護を授け、出来る限りの援助をしておきましょう」
と、先程までの泣き顔から一転、凛とした顔つきになって真面目に答える。
「ありがとうございます。これで私も心置きなくあの世に旅立てます」
さて、話すべきことも話したし、私は現世を去るとしよう。
……いや、よく考えてみればここが既にあの世の様なものではないか?
女神自身がはっきりとここがあの世であることを明言していないので、確信には至らないが……。
まぁ、どちらにせよ私が死んだことには変わりがないのだ。
さっさと成仏させるなり来世に転生させるなり、処置をして欲しいものだ。
私がそう考えて女神を見つめると、女神は神妙な面持ちでこう言った。
「……実は、天界に住む最高神から提案がありまして………」
「提案?」
「はい、『よかったら、異世界に転生しないか』と」
「へ?異世界?」
「はい、異世界です」
「……」
どうやら私の人生はここで終わりではないらしい。
ということが、女神によって知らされた。
◆
「勇者に、魔王……ですか」
「はい、どうでしょうか?」
女神は、相変わらず俺に対してびくびくと怯えながらそう言う。
異世界に転生。
しかもどうやら今世(いやもう死んだから前世といえば良いのか?)の記憶を受け継いだままでの転生らしく、俗に言う強くてニューゲーム的なものである。
ただ、少しだけテンプレートの異世界転生と違うところは……。
「はい、出来れば3人の勇者の巻き添えで召喚された一般人の体を装っていただく形にしたいと、思っています……」
そう、私はどうやら勇者召喚に巻き込まれての転生、という形になる様だった。
「勇者召喚……」
学生の頃、いや会社勤めのサラリーマンとなった今でもそうだが、私はライトノベルを読むのが最大の娯楽であった。
例え、息子や娘が生まれ、そのライトノベルに嫌悪したとしても決して読むのを止めないと決心するぐらいには。
そんな私にとって、異世界での勇者召喚に巻き込まれるというのは少年時代の夢と言っても過言ではない。
勇者召喚されて、あれこれと異世界で名を上げる。
その行動に私は密かな憧れを抱いていた。
しかし、私ももう30を過ぎて久しいおっさんである。
流石にもう夢を見る時代は終わりを告げた、と。
そう思っていた頃にまさか、こんな提案をされるとは……。
「性格は至って善良。日本で何か悪さをしたというわけでもなく、人付き合いもかなり上手で、顔つきも中の上以上はあり、勉学、スポーツもそれなりにこなしていたため、学生時代に告白されていたこともしばしば……。正に、お手本の様な善人の生です」
「いえ、そこまで褒められる様なことでは……」
「いえいえ、貴方の人生は胸を張れるものだったと私は認知しています」
女神にそう言われ、私は少しばかり照れてしまう。
いや、確かに私はそれほど後ろめたいことはないが……あくまでこれは運が良かっただけであり、今後も上手くいくとは限らない。
それに……。
「それに……異世界は随分と殺伐とした世界だと聞きました。私の様な平和ボケした人間では、あちらの世界に行っても皆様のご迷惑になりそうです」
「大丈夫です!私と最高神、それに美の女神から貴方へ加護と特典をプレゼントしちゃいますから!」
「加護と特典……?」
「はい!私たちだって貴方をただ異世界に転生させるだけじゃないんですよ?ちゃんと貴方があちらの世界で苦労しなくて良い様に、それなりの優遇処置を取る予定なんです!」
そう言って、会ってから一番良い笑顔を私に見せる。
ん?何がそんなに嬉しいんだろうか?
というか、その特典とやらは俗に言うチートという奴では……。
「チートだなんて、そんなっ!?これは貴方が貰うべき正当な報酬ですよ!」
「そう、ですか?」
「はい!ですから、貴方は私たちの加護と特典を受け入れ勇者召喚をされた後は、どこか人里離れた場所でのんびりと余生をエンジョイして頂ければ良いんですっ!」
行け行けドンドン、の勢いで、女神は前のめりになって私にチートを勧めてくる。
しかしなぁ……。
「あ!それとも英雄として派手な生活をするのがお好みですか!?でしたら、私の加護である幸運に、英雄の性を付け加えてあげますよ!ね?これなら安心ですよね!?」
「いや、あのぉ……特にそう言った願望を持っているわけでは……」
「え?だって、子どもの頃は仮○ライダーになるのが夢だと短冊に書いていませんでしたか?」
「いや、まぁ……確かに書いていましたが………」
それは、あくまで子どもの頃の夢だ。
今は、それなりの生活が平穏無事に送れたらそれで良い、と。
その程度にしか考えていない。
と言っても、その平穏無事な生活はつい今し方目の前の女神に壊されたばかりなのだが……。
「平穏無事な生活をお望みでしたら、やはり私の幸運の加護は役に立つと思いますよ!病苦に遭わないのは勿論のこと!災害、人災、悪意……その他諸々の傷害全般から貴方の身を守りますし、金運や良妻に会える縁についてもそれなりに補助することが出来ます!……だから、ここは一度騙されたと思って異世界転生してみませんか?」
まるでテレビショッピングに出てくる○○社長を彷彿とさせる様な語り口で、私に懇々と異世界転生の利点を伝えてくる女神。
その必死な姿には、私への贖罪の気持ちが見え隠れしていた。
まぁ、この様子ではそこまで過酷な世界ではないだろう……。
と、そう判断した私は、女神の提案を承諾する。
「えっ?受けて頂けるんですか!?」
「はい、まぁここまで熱心に勧めてくれているので……そこまで悪いことにはならないかな、とそう判断しまして……」
「ええ、絶対にしませんとも!むしろ貴方に危害を加えるものがいれば、それが天災であろうと悪神であろうと、私自らが裁きに行きます!」
「ははっ、期待しないで待っておきます……」
「はいっ、待っててくださいっ」
女神は握り拳を作って立ち上がる。
うぅむ、あまりに熱心だからついつい承諾してしまったけれど、女神が一人の人間にここまで肩入れするというの結構危ないのではないだろうか?
そう思考するも、女神の上に最高神という神様がいらっしゃることだし……。
女神がもし暴走している様だったら、彼(or 彼女)が止めてくれるだろう、と。
そう楽観視する。
「では、響真様の異世界転生が決定した所で……貴方が受け取ることになっている加護と特典を紹介しておきますね」
そう言って、女神から透明な板を手渡される。
ーーー
名前:仮令響真
年齢:16
性別:男
加護:【幸運】【美粧】【天啓】
特典:【身体能力上昇】【成長速度促進】【不老】【冷静】【神装】【言語読解】
ーーー
うーん……随分と余計なものが付いている気がするが……。
「響真様の言いたいことはわからないでもないですが……異世界は日本と比べて大分危険です。貴方が日々を平穏に暮らすためにはどうしてもこれくらいの補助が必要になってしまいます」
「そうですか……なら、仕方がないですね。後、私の年齢が16というのは……?」
「他3人の勇者に合わせての年齢ですね。召喚された中で一人だけ年取ってたら浮くじゃないですか」
「確かに……」
「他に聞きたいことはありますか?」
「うーん……では、それぞれの加護の効果と、それと神装というのがどういったものなのかを説明していただけると、助かります」
「加護と神装の説明ですね?加護は、私転生の女神、美の女神、最高神の順番で表示されていますね。【幸運】は読んで字の如く、貴方を災厄から守り、祝福を与えるものです。【美粧】は、美の女神から、『こんなに綺麗な心根をしているんだから、もっと容姿も綺麗になった方が良いよ!』ということで、貴方の容貌に多大な恩恵を与えるものです」
「ええっ?では、私は日本にいた頃の顔で転生できないのですか!?」
「はい、いえ、まぁ……それなりに貴方に似せて作りますが、そこまでは似てないと思いますよ」
「そうですか……」
実を言うと私は、ナルシストとまではいかないが、それなりに自分の容貌に愛着を持っていたりした。
私の容貌は、妻をして『地味……』と言わしめるものであるが、私はむしろ自分の地味な顔に一種の安堵感を覚えていた。
地味……。
通常ならば、貶しているとしか思えない発言でも、私からすれば一種の褒め言葉の様に聞こえていたのだ。
それが……。
「で、ですから……ちゃ、ちゃんとこちらで調整してやり過ぎないようにしますから。できるだけ貴方の今の容貌に近い形にしますので……」
「そうですか……では、お願いします」
「はい、任せてください!」
まぁ、女神が言うんだ。
きっと酷いことにはならないだろう。
と、そう考えて再度女神の説明を聞く。
「そして、最高神からの加護は、【天啓】ですね。これはもし貴方自身の力ではどうしようもなくなったときにお使いください。私たちが直で助けてあげますから!」
「わかりました……」
うん、【天啓】は封印だな。
神が直でくるとかそれこそ災害ものの案件である。
私は脳内で、【天啓】危険とメモをすると、最後に神装について質問した。
いや、本当は【不老】という特典も気になっているのだが……それを聞こうとすると女神が身構えてくるので、もうスルーすることにしている。
「【神装】……ですか。これは他の勇者3人にも備わっているものでして……実を言うと能力は異世界についてからでしかわからないんです」
「そう、なんですか?」
「はい、この【神装】というのはどうやらその人の心の有り様で力が決まる様でして……」
「なるほど、私の心の有り様は私にしかわからない、と?」
「はい。一応、覗こうと思えば覗けますけど……プライバシーの権利とかで最近はあまり手軽に覗けませんし……。だから、貴方がどの様な神装を授かるかはちょっとわかりません。
ですが……」
「ですが?」
「響真様の様な心根の持ち主であれば、きっと素晴らしい【神装】が宿るでしょう」
「そうですか……」
「はい!ですので、楽しみにしていてください」
「わかりました」
「まだ、他に質問はありますか?」
「いえ、特には……」
「では、異世界に転生させますね?」
「はい、お願いします」
女神は白い板に手を置いて、何事かを呟く。
すると、地面に魔法陣のような幾何学的な文様が浮かび上がり、そして徐々に私の身体が薄くなっていった。
「あっ、それと……一応、もう一つだけ確認を」
「なんですか?」
「くれぐれも、自身が転生者であることは言わないでください。イレギュラーだと捉えられて、殺される可能性もなくはないですので……」
「ああ、そうですか。では、あまり悟られないよう同年代に見えるように振る舞いますね」
「はい、お願いします」
女神は私の言葉に安堵の笑みを浮かべ、「良い、転生生活をお過ごしください」と、そう一言言って、白い板をタップした。
私は意識が遠のき、そしてーーー
◆
「ゆ、勇者が四人も!?」
「すごいぞ、今回は大成功だ!」
「おい、そこのお前!はやく殿下に伝えんか!『今回の勇者召喚が成功した』と!」
「は、はい、了解です!」
目が醒めると、そこには16、7歳の3人の男女が床に倒れていた。
床には、女神の部屋で見かけた文様と似たようなものがある。
「うぅ……ここは?」
「なに、ここ……?」
「ちっ……頭がイテェ」
三者三様、それぞれの反応を見せて、男女つまりは勇者たちが上半身を起こす。
その姿に、西洋風のローブを身に纏った男たちが歓声を上げる。
床の文様、壁に飾られた見たこともない謎の調度品、それに窓から見える月の数……。
そして極め付けは……。
「よくぞ、おいで下さいました!勇者様!!!」
この勇者という呼称。
うん、間違いない。
私は、確かに異世界に転生したようだったーーー
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