異世界でスキル『稲荷寿司』を使ったら狐獣人族に神様扱いされるお話
久々に短編書きました。
よろしくお願いします。
実は友人たちとの短編小説を書くぞといった目的で書いたものです。
「確かに、これは異世界転移とかそういったもののお約束ではあるけどさ?」
森の奥地にある泉の近くで黒髪の少女が肩を震わせる。
「現代っ子に森の中スタートはどうなのさ!!!」
少女の叫びは森の中に空しく響いた。
◇◆◇◆◇
数十分後。
混乱していた頭をどうにか整理した少女は現状の把握を開始する。
「えっと、まずはステータスを確認すればいいんだっけ?」
記憶の中からステータスの開き方を思い出そうと少女は頭を傾げる。
混乱していたせいで少し忘れかけていたが徐々に神様との会話を思い出す。
「そういえば転移特典でスキル貰えてるんだっけ?現地でステータス開いて確認しなさいって言ってたけどいったいどんなスキルがついてるんだろう?楽しみだなー、っと確か『ステータスオープン』でひら…うわっ!」
突如、目の前に一枚のタブレットサイズの画面が出現する。
そこには少女のデータが表示されていた。
「えーと、何々?」
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名前:瀬尾 美咲
性別:女
年齢:21歳
種族:人種人間族
ステータス
筋力:2
耐力:3
速力:4
魔力:1
運力:50
スキル
【料理Lv5】【短刀捌きLv3】
パッシブスキル
【同性魅了】
Exスキル
【稲荷寿司】
称号
【異界からの来訪者】【女神の祝福】【女性キラー】
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「いや、待っておかしい。ステータスが低いのは、まぁわかる。どうせ現代っ子の運動不足人だからね?」
少女、美咲は現代もやしっ子である。運動は大学に入ってから全くと言っていいほどしていない。休日は家で引きこもり。用事で出かけることはあるものの走ったりすることなんてかれこれ3年はしていない。
「それよりも、このパッシブスキル【同性魅了】って何?称号の【女性キラー】って何!?」
美咲は同性にモテた。はっきり言うと異常なぐらい。
小中学校とはまだ少し周りの女子からスキンシップが多い程度だったが、高校に入り共学にもかかわらず3年間で告白を受けた回数実に100回。そのすべてが女子からである。同学年、先輩後輩は当たり前。はてには教師や学園祭に来た大学生や近所のお姉さん方にまで告白され、カフェ等に連れていかれたこともあるぐらいだ。大学に入ってからはもっと顕著で、合コンなどに参加しようものなら美咲を酔い潰してお持ち帰りしようとする者まで現れたぐらいだ。もちろん、女性である。というか、幼馴染である。幸い、美咲はお酒に強く酔い潰れる前に誘ってきた女子が潰れてしまうため、美咲が家まで送ることもしばしばあった。
と、まぁこんなように美咲は女子にとにかくモテたのだ。その反動か男子からは一切モテなかった。美人であるし告白しようとした人もいたが、全て美咲を狙っていた女子たちに阻止されていた。
「私はどノーマルですから!!いや、別に女と女の所謂百合とかは好きだけどあくまで私は眺めるのが好きであって私自身がなりたいとは思ってないから!!!」
自身の思いを絶叫し酸素が足りなくなる。
荒い息を繰り返し息を整えるともう一度ステータスに目を向ける。
「スキルの【料理】や【短刀捌き】はなんとなくわかるかな、一人暮らしでよく料理してたし包丁も短刀と言えなくはないしね。それよりExスキルの【稲荷寿司】って何よ詳細とかってないわけ?」
そう言うと稲荷寿司の右下辺りに新しく画面が表示される。
「わーお、詳細機能あるのね。なんて便利な…」
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Exスキル【稲荷寿司】
稲荷寿司を作り出すことができる能力。
味や大きさ、ワサビの量まで自在に操作できる。
例:稲荷寿司(通常)、五目稲荷、聖天稲荷、蕎麦稲荷等
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「えぇ…?食料には困らないけどさこれってどうなの?」
あまりのスキルに混乱する、美咲。
確かに、こんな森の中食べられる野草やきのこ、木の実の知識のない美咲からすれば食糧は非常に重要な課題であった。その課題が解決できるのは非常にありがたい。ありがたいのだが…
「普通はこう、ものすごい剣の才能がーとか魔法の力がーとかそういったものじゃないの?なに、【稲荷寿司】って!どゆこと!!?」
そう叫んだあと目の前に小さな揺らぎができる。
「え、なにこれ?」
その揺らぎは少しずつ大きくなり…やがて黄金色の鮮やかな油揚げに包まれた稲荷寿司が2つ出現した。
稲荷寿司はゆっくりと落下を始める。地面に落ちないよう慌てて手を差し出すと湿った音とともに手のひらに冷たい感触が感じられた。
「これは、なんともおいしそうな稲荷寿司で…って、違うそうじゃない!どうして、出現したの?」
突如出現した稲荷寿司に美咲は困惑する。
「…まさか、スキル名を呼んだから?もう一回呼べば出てくるのかな?…【稲荷寿司】」
そういうと、またも空間に揺らぎが発生し…稲荷寿司が2個出現した。
「やっぱりそうだ、スキル名を呼べば発動するのね」
納得したように頷く美咲。
両手で4つの稲荷寿司を持ちながら首肯する姿はなんとも不思議な姿だ。
「とりあえずこれ食べますか…いただきます」
出現させて稲荷寿司を捨てるのも勿体ないので食べようと一つつまみ口の中に運ぶ。
「~~ぅんん!なにこれ!?すっごい美味しい!!!」
噛むたびに口の中で油揚げに染みた甘辛い汁が飛び出し、酢飯とよく絡む。ほんのりと効いたワサビが後味に出てきてそれがまたうまい。
「これならいくらでも食べられちゃいそう!」
そういい、口の中に1つ2つと放り込んでいく。
最後の一つを食べようとしたとき不意に草むらが揺れ音を立てる。
「な、なに!?」
美咲は最後の一つをつまんだ状態で固まってしまう。
稲荷ずしを食べるのに夢中で、ここが森の中だということをすっかりと失念してしまっていた。
森の中ということは当然野生の生物もいるはずで、それが狸やアライグマならまだましだがハブなどの毒蛇、猪や熊だったら最悪だ。ましてやここは異世界。魔物が居てもおかしくない。
緊張で背中にいやな汗が伝う。
草むらをかき分け、それは美咲の前に現れる。
「け、け!?獣っ娘きたぁあああああああ!」
「ひゃい!!?」
目の前に現れたのは狐耳を頭につけ腰からふさふさの狐尻尾を生やした少女だった。
「あ、貴女何者ですか!?ここで何をしているんですか!!」
目の前の狐獣人は威嚇するようにこちらを鋭い目つきで睨んでくる。
「あ、えっと私は別に怪しいものじゃなくてですね?」
「怪しい人はみんなそう言うです!」
「あぁ、確かに」
「何、感心してるですか!?」
全身の毛を逆立たせ威嚇する狐獣人の少女。
ちょっとおちょくりすぎたかと美咲は内心反省する。
「私は瀬尾美咲、えっと…迷子、かな?」
「セノーミサキ?それが名前ですか?」
「こっちじゃ、どういうのか分からないけど瀬尾が名字で美咲が名前ね」
「名前と名字が逆なんですね、ということは美咲は東の国出身なのですか?」
「んー、まぁ東と言えば東なのかな?信じられないかもしれないけど私こことは違う世界から来たの」
「と、ということはミサキは女神様の来訪者なのですか!?」
さっきまでの警戒心はどこへいったのか、目をキラキラさせる狐獣人の少女。
「い、一応そうかな?」
「ステータス見せてもらっていいですか!」
「いいけど、まずあなたの名前教えてもらっていい?」
「はっ!そういえば名乗っていませんでしたね。私はシェナ・リッカーバーグと言います」
「じゃあ、シェナちゃんだね。えっと、ステータスってどうすれば他人に見せられるのかな?」
「それも知らないんですね。簡単ですよ。自分のステータスを表示した後に見せたい相手の名前を言った後、オープンと言えばいいです」
「わかったわ、ステータスは開いたままだから…『シェナ・リッカーバーグ、オープン』…どう?見える?」
少し不安げに美咲がシェナに尋ねる。
「大丈夫です。ふむふむ…本当に女神様の祝福と来訪者の称号があるですね」
「怪しいものじゃないって信じてもらえたかな?」
「女神様から祝福をいただいてる方は悪い人じゃないのでとりあえず怪しい人物ではないことが分かりましたです」
「よかったぁ…」
ほっと、美咲は胸をなでおろす。
「ところでその手に持っている甘い匂いのするものは何ですか?」
「あぁ、これ?私の故郷の食べ物で【稲荷寿司】っていうんだけど…って、あぁ!?」
「急に驚いてどうしたですか!?」
スキル名を読んだことによりまたもや何もない空間から稲荷寿司が出現する。
「また出てきちゃった」
「…」
「あれ?シェナちゃん?固まってどうしたの?」
「み、ミサキは創造系のスキルが使えるのですか!!?」
「ふぇ!?」
シェナに肩を掴まれ揺さぶられる美咲。
「ストップ!ストーーープ!!シェナちゃん止まってぇ!!!」
「はっ!ご、ごめんなさいです!!」
頭は揺れているが、美咲はどうにか稲荷寿司を落とさずに済んだ。
「創造系ってそんなにすごいの?」
「もちろんです!創造系は神格級のスキルです!!本来、神様にしか使えないスキルなのですよ!!!」
「へー、こんなお寿司を出すスキルがそんなにすごいのかな」
美咲にしてみればたかが稲荷寿司が出てくるだけのスキルだ。いくら神様級のスキルといえど稲荷寿司が出てくるだけでは凄みにかける。
「あ、そうだせっかく出したんだし食べる?」
そういいながら手に出した稲荷寿司をシェナに進める。
怪しい人物ではないとシェナから言われたとしても美咲は見知らぬ人物だ。警戒はしているだろうから手に乗った稲荷寿司を一つ口に運び目の前で咀嚼する。
それによって、毒などが入ってないことが分かったのかシェナはおずおずと手を出し稲荷寿司を一つ摘み取る。
「い、いただくです」
「どうぞ、召し上がれ」
シェナは目をつむり稲荷寿司を口の中に放り込む。
暫く咀嚼すると目を見開く。
「おいしいです…ものすごくおいしいです!」
「それはよかった」
「もう一つ貰ってもいいですか!?」
「えぇ、どうぞ」
手に乗っていた最後の稲荷寿司をシェナは摘み、口の中に入れる。
ほっぺたに手を当てうっとりした仕草をするシェナは非常に可愛らしい。
思わず美咲はキュンとしてしまった。
「よ、よかったらまだ出せるけど食べる?」
「まだ出せるのですか!是非、是非いただきたいです!!」
「わかった、【稲荷寿司】」
そこから先は美咲がひたすら稲荷寿司を召喚しシェナが食べ続けた。
◇◆◇◆◇
「食べましたぁ…」
「お粗末様でした」
結局、あの後28個の稲荷を平らげ合計30個もの稲荷をシェナは食べきった。
途中小さい体のどこにそんなに入るのか疑問に思い考察をしていた。もしかしたら日本でよく言われている狐は油揚げが好きという伝承がこっちの世界でも関係してるのかもしれないと…。
「村の皆にも食べさせてあげたいです」
「この近くに村があるの?」
「はい、森の中に小さな集落があってそこで私たち狐人族が30人ぐらい暮らしています」
「ねぇ、その村私が行っても大丈夫?」
「うーん…私がついているんで大丈夫とは思いますが、ダメだったときはステータスの称号を村の人たちに見せて怪しいものじゃないと証明すれば入れると思いますよ」
「やった!連れて行ってもらっていい?」
「わかりました!こっちです」
そう言った、シェナの後を追いかけ美咲は追いかける。
これからの異世界生活に少しの不安と大きな期待を込めて。
しかし、この時美咲は考えてもいなかった。
いずれ自分が神様と崇められる様になってしまうことを…
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