孤独意識 Ⅰ
――――――――――――――ああ、五月蠅い。
―――――――まるでテレビのような、けたたましい音がする。
他人がせっかくキモチよく寝ていたというのに―――――――
―――――――泥沼の闇の中から、半ば強制的に意識が覚醒させられる―――――――
「――――――――――――」
―――――――窓から差し込む暖かい陽の光。
―――――――とてもぽかぽかとした光に部屋が包まれている。
こんな穏やかな陽気ならば、寝てしまうのも無理はない。
―――――――ふと、時計を確認する。
時計の針は午前11時すぎを指していた。
「――――――――――――」
どうせ予定もないんだし、このまままた寝てしまう。というのもアリだ。
こんな穏やかで、静かな日が次に訪れるのは一体いつのことになるのだろうか―――――――
とか、別段何かやることも無いので、そんなコトを思わず考えてみたりする。
―――――――と。
「先輩、コーヒーいかがですか」
と、自分が座っているソファーの傍らから、少女の声が聴こえた。
―――――――腰まで伸びる長髪。
―――――――絹のように美しく、白い髪。
―――――――朱い珊瑚石のような眼。
彼女の名を、伏儀 鈴乃という。
―――――――と。不意に、
「おはようございます。先輩」
と、彼女はそんなコトを言った。
・・・毎回思うのだが、何故にこうも無防備なのだろうか。
僕もまだ若いとはいえ、純粋な男の子である。 自分よりも年下―――――――さらにいうと後輩の少女に笑顔で挨拶されるというシチュエーションに遭遇した―――――――。
・・・たったそれだけの、”挨拶をする”という非常に当たり前のコトなのに何故無防備なのか、とかいうコトを考えていると、なんか、こう――――――――――――――
「あれ、宗君起きたんだね」
と。僕が頭のナカで考えているのも知らずに、事務机に座っている女性は陽気にそう言った。
―――――――結ばれた朱い髪。
―――――――エメラルドグリーンのような瞳。
彼女の名を、赤井 朱子という。
・・・余談ではあるが、朱子は魔術師である。
一応、魔術協会には所属しているのだが、何故かよろず屋(というよりは、探偵職のほうがしっくりくるのだが)のような事務所をやっているのである。
・・・本人曰く、
「え?なんでこんなことをやっているのかだって? ・・・ん~なんでだろう。なんか成り行きかな」
と、非常に適当な理由なのであった。
・・・・・・とまあ、余談はこのくらいにして。
「鈴乃くん、私もコーヒーを一つ。それと、報道、見たかい?」
「―――――――」
何のことだと思い、さっきからついていたテレビを見てみる。
―――――――いや、ちょっと待て。
僕が起こされた”けたたましい音”って、これのことだったのか。
・・・どうやら事件というのは、最近多発している”連続自殺事件”のことらしい。
これまでに6人も自殺しているのだとか。
1日にひとりの少女が自殺していることになる。
・・・尋常ではない数。
何かが絡んでいるとしてもおかしくはない。だが、一体ナニが絡んでいるのか。
・・・残念ながら、今の自分では判らなかった。
「朱子さん、どうぞ」
鈴乃は朱子にコーヒーを手渡す。
「ああ、すまないね。・・・で、だ。その6人というのが、全員高校生くらいの少女なんだ」
「―――――――――――何!?」
――――――自殺した少女たち。
――――――その全員が高校生ほどの少女たちだという。
「驚くのはまだ早い。 実はね――――――」
朱子さんはそう言って、1枚の紙を事務机から取り出した―――――――