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最強兵士、異形の力で異世界戦争を制覇する  作者: 八目又臣
第二章:ヴォーダント王国・滅亡編
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エピローグ:LD Squad

 王都から離れた小高い丘の上で、彼女たちは待っていた。


「サトウ……!」


 ノヴさんの呼びかけに、俺は安堵した。

 俺は、彼女に認識される俺を取り戻せていると。

 互いに近寄って、帰還を報告する。


「うん……かえってきたよ、ノヴさん」

「おかえりなさい、サトウ」


 新雪の色合いをした頭を胸に押しつける彼女に、俺は軽く肩へ触れる。

 指先に返る感触が暖かく、安らいだ気分になる。

 だから、俺はそれを手放した。


「ごめん、ノヴさん……行かないと」


 最後の約束が、残っている。

 彼女を通り過ぎて、丘を登る。

 肩をすくめて、何か呆れたようにする李に目を向けると、彼女は頷いて返してきた。


 ――少女は、丘に生えた木に背を預けて、燃える王都を見つめていた。


 隣にはユーリがいて、俺の姿を認めると立ち去ろうとした。「もう、いくらも保たん」と言い残して。


 俺は、名前もうろ覚えな少女に声をかける。


「……どうだ」

「ぁ……い」


 ユーリが取替えたのであろう真新しい包帯にくるまれた、今にも死んでおかしくない容体の少女は、目を潤ませて、廃墟と化した黄金の都に見入っていた。


 紛れもない歓喜を、彼女はその瞳に宿していた。

 しかし、それだけでは無いのだろうとも思う。

 ――彼女は少なくとも、孤児ではなく。

 人として愛された事があるのだから。


 彼女は、震える唇で俺に告げた。


「あり、がとう……ございます……満足、しました。だから」


 ふ、と微笑んで。


「あの人たちのところへ、おくって、ください」


 彼女の目は、あくまで滅亡する憎い者たちへと向いていた。父母の昇ったと信じられる空ではなく。


「……あれをやったのは、俺だ」

「でも……わたしも、それを、願ったから」


「……そうか」


 一言つぶやいて、俺は彼女の名前を思い出そうとした。

 ソルトが、それを差し出してきた。


「リルカ」

「……はい」


「なら、あんたは、俺の戦友だ」


 民間人なる概念を俺は知らない。

 だが、戦友ならば。

 それが救えぬ傷を負っているのなら――終わらせてやるのが、戦場の理だ。


「いずれ、俺もそこへ行く」


 掌を差しだして、俺は呪文を唱える。

 その響きは、祈りにも似て。


「――オルフ・ムルダジェの焔の子」


 火の粉が白く、指先を照らす。


「思うままに遊べ」


 かつて彼女が受けたような、生温い炎ではない。人体を一瞬で焼却する業火だ。

 だから。


「もう、軛は外れたのだから」


 きっと、苦しまないだろう。


「《隔てなき炎(ブレイズ・ベイン)》」


 最後に浮かべた涙と共に、白い炎が少女の肉体を蒸発させた。

 空に、燐光が昇っていく。










 気付けば、背後に仲間たちが立っていた。


「行こう」


 俺は、彼女たちに声をかけた。

 いつまでも、ここに立ち尽くしているわけにもいかない。


「……どこに?」


 李が問いを返してきた。

 間抜けな問いだ、と笑いかけ――真っ直ぐに見つめ返す彼女に、思い直した。他の二人も同じくこちらを見つめている。


 俺の、意思を確認したがっている。

 頭を押さえ、のしかかる疲れに甘えたくなったが、それを自制した。


「仲間が一人――二人、いなくなった」


 ジャンと、もう一人。名前も声に出す事ができない、ソルトの友。


「だが、もう……その事で泣いたりとかは、出来なくなっちまったな」


 ――歩けない老人も、善良な若者も……無垢な子供も、お前が憎む連中の中にはいる。そいつらをまとめて、無差別に、殺したいと望むなら、お前は善良な村娘とはとうてい呼べないモノになる。


 俺は、王都の人間たちを憎んでいたわけではない。

 必要だったから、そうしただけだ。

 それは、より悪質な事なのだろう。


 必要であるというだけで、数万の人間を殺し尽くす事を一瞬たりとも躊躇わなかった。一瞬たりとも、だ。

 俺は戦場を生きる内に、人間とは呼べないモノになってしまっていた。


 この異世界に来て、ようやく自分の魂の形を知ったのだ。


「俺が生きていけるのは、戦場だけらしい。なら……そういう事だ」


幸いにも(・・・・)、この世界にも戦争は溢れている。

 覇王と魔王の争う戦場。


 ――勝ち続けてください。

 友の、最後に残した言葉を、間違っていると俺は思う。

 俺はこの世界に、負けて追い出されてきたようなものだ。


 しかし、あいつがそう言うのなら――もう二度と負けないと誓おう。

 俺は、あの世界で最強の兵士だった。

 友が俺を、そうだったと信じるなら、俺はその言葉を信じて走り抜けるだけだ。


 いずれ全てが終わるその時まで。


「俺が、じゃないわ――あたしたちも、そこに含めなさい」


 李が、俺をなじるように言った。


「……なぜだ?」


 どう取り繕っても、正気(まとも)の生き方ではない。

 彼女らには、自由に生きる選択が出来る。


「私たちも、兵士だ。違うのか、サトウ」


 ユーリの問いかけは、糾弾じみていた。


「サトウ」


 ノヴさんが、最後に言った。


「わたしたちの隊長は、あなた、だよ」


 刑罰を科すような、苛烈な言葉だと思えた。


「そうか……そう、だな」


 ギルドマスターであった少女の言葉だからこそ、俺は痛感した。

 身体を失い、友を失い、俺たちは、30:5:3(理想の比率)ではなくなった。


 ただの捨てられた孤児の集まりでしかない――しかし。

 欠けたものを、埋める存在もまたあった。


 合わせて、八人の兵士。

 部隊として戦うには、十分だ。


 ならば名乗ろう。真っ白な理想郷を生きた仲間たちの名はここに置いて。


「俺たちは、失われた敗残兵(Lost and Defeated Soliers)だ。

 必要なものが欠落した連中(Limb DeficiencieS)だ。

 生き返った死体(Living DeadS)だ」


 最悪の戦いを続ける部隊の名を。


「俺たちは、LD分隊(Squad)だ」


 俺は、この世界への、宣戦布告を口にした。


「この世界を、戦場にする」


 覇王も、魔王も、俺の戦争の邪魔はさせない。

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