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最強兵士、異形の力で異世界戦争を制覇する  作者: 八目又臣
第一章:ヴォーダント王国・開戦編
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プロローグ:少年兵・サトウ

「なぁ、シュガー。なんで君はこのゲームをやってるんだ?」


 狩りも一息ついた後、フレの鮮血大吟醸氏の発言があまりに藪から棒で、俺は一瞬……とも言えない程の長い時間言葉に詰まってしまった。


 これは、あれか? 君ももう18だろう、ゲームばかりやってないで受験勉強でガリガリ鉛筆と脳ミソを磨り減らし、大学ではテニサーでウェーイウェーイと種族特有の鳴き声を発し、就活期にはメガバンクに三拝九拝しつつ上司に恩讐を倍返しする機会を伺うリーマンソルジャーを目指せという人生の先輩からのありがたーい御説法、ザ・先輩風ってヤツですか。


 これは心に防風林を植えねばなりませんかね。


 ……俺の中の「平凡な日本人の人生設計」像はかなりあやふやだ。

 今の御時世、そんな生き方をするヤツはどこにもいないだろう。


 鮮血大吟醸さんも、そういうつもりで言ったわけではあるまい。

 運営が用意した人工知能(サクラ)って噂もある程の人だ。

 わざわざ決して多くはないユーザーを突き放すような発言はすまい。


「えー、っと。つまり、俺が〝アルビノーグ〟をプレイする動機が知りたいと?」

「それ以外に解釈のしようがあったか?」

「いや……俺ぁ多感な年頃の若者でして。大人の言葉はまず疑ってかかっちまうんですよ」


 首を傾げる大吟醸さんに軽口を返す。

 ふむ、彼が運営サイドだという噂を鵜呑みにするなら、顧客の意識調査ってところか。


 なら、多少ヨイショもしてあげたい所だ。

 VRMMORPGの運営なんて不平不満と人格批判でメールボックスが埋まるような生活だろう。

 彼らに気持ちよく仕事をさせてあげる事はやぶさかでない。

 これでも、好きでやってるのだ。この〝アルビノーグ〟を


「そりゃあ、いまどきここまでクオリティの高いRPGは配信されてないですし? レンダリングエンジンもセンシティブエンジンも自前でしょ、これ。大したモンですよジッサイ」


 見渡す限りの平原。風になびく雑草。空を飛ぶバナナ型のロングシップ。野良パーティにポップするたび切り刻まれるMOB。


 ケルト神話を素材にしたVRMMORPG・真白き理想郷(アルビノーグ)は実に様式美に溢れた剣と魔法のファンタジーだ。

 この冒険心をくすぐる世界を駆け回る快感は何者にも代え難い。

 ゲーミングマウス片手に「モニターの中に入りてぇなぁー」とボヤいていたであろうご先祖様方にはドヤ顔で自慢したい。


「そう言ってくれると嬉しいけどね、ほら、今時のVRコンテンツといったらほとんどFPS一択だろう? やっぱり、剣やら魔法なんてイメージの沸きにくい戦闘よりは、銃の方がいいんだろうねぇ」


 発言のはしばしにサクラ説を補強するものをまじえつつ(ここまで露骨だと、そう誤解させるロールプレイなのか? とも思うが)お疲れ声を出す鮮血大吟醸氏。


 確かに、現代のVR化されたゲーム業界の主流はFPSだ。

 競うようにキラーコンテンツがバンバン出てくる。


 大企業がジャブジャブ金を投じて開発するから、描画精度なんか現実さながら。

 神経系のナノマシンをクラックして脳内麻薬を分泌させてるんじゃないかってくらいプレイ感はキモチイイの一言。


 銃の重み、撃発の反動、硝煙の香り。

 一発の銃弾でたまらなく快感を得られると中毒者は言う。


(……快感、ねぇ?)

「俺、FPSって苦手なんですよね」


 肩をすくめて俺は言う。


「どうも、撃たれるのがね、怖くて」

「あはは。そういう事言う子、たまにいるよ。クオリティ高すぎて、撃たれれば本当に死にそうだって。そんなワケないのにね」


 おどける俺に、苦笑で返す大吟醸氏。


「ええ、ホント」


 あっはっは、と愛想笑いする俺。


「まぁ、戦闘だけがゲーム性の全てってワケでもないしね。特に君は、気のおけない仲間がここにいるわけだし。――〝30:5:3〟のみんなは?」

「もう落ちましたよ。ムっさんが、明日は曜日クエでタラ車最低でも100個泥狙うから徹夜に備えろって言うモンで。ホント自己中なヤツです」


「はは。彼は実に得なキャラだねぇ。――って事なら、遅くまで狩りに付き合わせて悪かったね。なにせ大釜クエは腕の良いドルイドがいるかいないかで効率がダンチなもので」

「いえいえ。吟醸さんも今度ハイレベルレイドに付き合って下さいよ。ペトだけじゃヒーラーが心許なさ過ぎるんで。いやマジで」

「おやすい御用だ。じゃ、お疲れ」

「おつです」


 軽い挨拶を交わして、俺はサーバーとの接続をカットする――






 現実に戻った瞬間まず感じたのは、頬の圧迫感だった。

 慌ててライフルを身体から引き剥がす。

 銃を抱えたまま没入していたのを忘れていた。


「うげっ……跡になってないだろうな」


 慌てて頬を撫で、感触を確かめる。

 兵隊仲間のハヤシにでも見つかれば、一発で訓練をサボっていたのがバレるだろう。


 しかし、ナノマシンと量子通信技術ってのは大したモンだ。

 こうして兵舎の裏に隠れてゲームも出来る。VR空間は時間の感覚も調整できるから、軽く三時間は遊んでいても現実では十分くらいしか経過していないし。


「うーん、しかし……」


 俺はうなりながら、抱えた銃を見下ろす。

 M91。

 薬室にエアコンがついてて発射薬の湿度管理までしている、兵舎の蒸し風呂よりも住環境に優れた〝正味俺ら1ダースより高いライフル〟だ。


「ゲームの中でまで、こんなモン抱えて走り回りたくはないわなぁ」


 俺がVRFPSをやらない理由は、ただそれだけの事に過ぎない。


 ――俺の名前はサトウ。名字なんてものはない。ただのサトウ。

 十八歳で、軍暦十八年の、筋金入りの少年兵ってヤツだ。

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