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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
8/72

8話 いたずら・再会・号泣

これからはもう書き上げたら順次載せていきます。

 彼、この城の料理長であるレオレ・オルロは困惑していた。


バクバク モグモグ ングング


 レオレがこの城に料理長として前料理長である父からこの任を任されてすで二十年になる。彼の家系は代々この城の料理番を務めてきた。曾祖父の代から実に百年以上もこの城の料理長を親子代々受け継いできたのである。


「あ~~~~うめ~~~~~」


 この城の住人は王族を含め皆が彼の料理を褒めてくれる。この城の王族は少し特殊で彼らは曾祖父の代から・・・・・受け継いだこの味をとても気に入ってくれている。だからこそ彼も毎日のように丹精込めて料理を作る事ができる。


「あ、おかわり」


 レオレは困惑していた。


「・・・・・どうぞ」


「サンキュー」


 その晩彼はいつも通り明日の朝食の為の仕込みの準備をしていた。すると突然見慣れない青年が「飯を食わせろ」と厨房に入ってきたのだ。普段の彼ならばそんな得体のしれない者におとなしく食事をだすなどしないのだが何故かその青年の持つ雰囲気?といかあまりにもその自然な有り方・・・まるでこの城が自らの家と言わんばかりのその自然な雰囲気、まるで我が家の食卓に着くかのようなその仕草に思わずありあわせの食事を拵えてしまった。


「しかしお前もしかしてルオルかオレオの孫か曾孫か?」


「ど、どうして曾祖父と祖父の名前を!?」


 レオレは驚愕する。このどう見ても自分の半分程度にしか満たない青年が数十年前に死んだ祖父と曾祖父の名前を知っているのか。


「ああやっぱりそうなのか、なんとなく面影があるしなにより味がルオルのおっさんの味によく似ている。とくにこの隠し味にレーマの実を乾燥させたものを入れる所とかな」


「!」


 レオレはまたも驚愕する。代々伝えてきた秘伝の一つをこの青年が知っていることにである。これを知るのは自分の父を含めても数人しかいないはずなのにである。


「お、お前は一体誰だ?」


 レオレは若干の恐怖を覗かせた表情で青年に尋ねる。すると青年は食事を続けながらも一度口の中のモノを飲み込み口を開く。


「俺?俺はお前の曾爺さんと爺さんの知り合いだよ」


「ば、馬鹿言うな!お前どう見たって俺より年下だろうが、それがどうして何十年も前に死んだ俺の曾爺さんの知り合いだって言うんだ」


 レオレは青年の言葉に思わず反論する。青年は長寿種族である特徴が見られない為にレオレはこの青年が自分と同じ人間ヒューマンであると当たりをつけている。


「う~ん、それについては説明が少々めんどくさくてな。結論から言うと俺は実は百年ばかしでっかい氷の中に閉じ込められて寝てたんだよな。だから俺は実年齢は実は十七歳のままなんだよな~」


「?????」


 青年の言葉にレオレは全く理解ができなかった。しかししばし困惑していると昔自分がまだ子供の頃に祖父が語って聞かせてくれた話が突然思い出してきた。


ーーおじいちゃん、今日はどんなお話しを聞かせてくれるの?--


ーー今日は悪い魔法使いに氷に閉じ込められたお姫様と英雄のお話だよーー


ーーどんな話なの?--


ーーおじいちゃんがまだ子供の頃のことで本当にあった話なんだけど昔この国にはとても強い青年がいたんだよーー


ーーその人ってどの位強いの?--


ーー世界で一番さーー


ーー一番強いの?絵本に出てくる悪い奴よりも?空飛ぶドラゴンよりも?ーー


ーー強いさ、ドラゴンの王様よりも魔の国の王様よりも神様よりも強いっておじいちゃんのお父さんは言っていたよーー


ーーそんなに強い人が本当にこの国に居たの?--


ーー居たとも、おじいちゃんも何度か会ったことがあるけど見た目は普通の男の人なんだよね。おじいちゃんの目から見てもとてもそんなに強いようには見えなかったけどおじいちゃんのお父さんはすごくその人と仲が良くてねよくお父さんが城に上がる前の料亭によく料理を食べに来ていたよ。それが縁でおじいちゃんのお父さんはお城に招かれることができたんだーー


ーーへえー。でもそんな強い人がどうして悪い魔法使いにやられちゃったの?--


ーーおじいちゃんも実は詳しく知っているわけじゃないんだけど大分卑怯な手を使われたってお父さんは言っていたよ。きっとお姫様を人質に取ったんだって言ってもいたね。でも悪い魔法使い事態は彼が氷に閉じ込められる前にやっつけたらしいよ。それでもその巻き添えで結局お姫様もその青年も氷に閉じ込められてしまったというんだーー


ーーそれじゃあそのお姫様と強い人は今氷に閉じ込められているの?--


ーーそうだね、この城のどこかにそれがあるらしいんだーー


ーー二人は出てこられないの?--


ーーう~ん、レオレも知ってるだろうけどこのお城にはとても優秀な魔導士様がいるだろ?--


ーーうん、ラルクさまだよね?--


ーーそうだよ、そのラルク様が今とっても頑張ってお姫様と英雄を助け出そうとしているからきっといつかでてこれるよーー


ーー僕がいる間に二人は出てこられるかな?--


ーーそれはわからないな、でももしかしたらレオレがいる頃に二人が出てこられるかもねーー


ーーうん、僕二人に会いたいなーー


 それから数十年後、ある日突然この城に行方不明の王女と言われる少女が現れた。桃色の髪をしたとても可憐な少女だった。当時はそれがまさか祖父に聞かされた王女とは夢にも思わなかった。しかしなにかの拍子にそれが本当の事だと知ったときは割りと衝撃を受けた覚えがあった。その後その少女は大変美しく成長し今では大陸一の美姫と言われている。


「(まさか、な・・・・)」


 レオレの脳裏にある一つの回答が浮かぶ。何故その回答に至ったのかレオレ自身理解ができなかった。目の前の青年はどう見てもあまり強そうには見えない。それなりに鍛えているようには感じるがこの城にいる騎士達の体格と比べるとどうしても見劣りしてしまう。


「(それがなんであの英雄と思ったんだ?)」


 青年の持つ空気や醸し出す雰囲気、むしろ存在が生み出す密度というべきかレオレ本人にも説明のつかない思いに困惑していた。それは動物が日常の中で感じる全ての生物が持つ本能、即ちこの生物は己より強い・・・・・・・・・・である。


「(とりあえず名前を・・・・)お、おい、お前名前は?」


「俺?俺は・・・・・・」


 ※※※※


 ラルク・カイザードは困惑していた。


「全く、相変わらずこちらの想定をいつも斜め上に裏切ってくれる」


 ラルクは目の前で真っ二つになった黒い氷の塊を見て頭を抱えている。


「もう少しタイミングとか感動的な場面でも選んで出てくればいいモノを」


 遡ること少し前、深夜の巡回中の兵士から不審な人物が城内を徘徊していたと報告を受けた。不審人物の特徴について報告した兵士はいまいち要領を得ないものだったがラルクは何となく何かが心に引っかかり思わずこの部屋に足が向いた。そしてそこに広がる光景は・・・・・・。


「しかしまたえらく唐突に出てきたものだね。そして予想通りこちらがなにもしなくても勝手に出てきましたか、そしてこちらも予想通り彼が出てきたことを察知できませんでしたか。未だにこの城には彼の気配が覆っているので城内にいるようですがさてさて何処に行ったのやら・・・・・」


 ラルクはそう言いながら割れた氷に近寄っていく、そして氷の目の前まで来るとしゃがみ込んで氷を観察し始める。


「ふむ、やはり規格外ですねぇ、これは封印を内側から無理やり力でぶち破って出てきたようですね。全く本来なら神ですら破壊が困難だというのに・・・・・しかも内側からとは・・・・・」


 ラルクはしばらく氷を触りながら観察を続ける。


「・・・・・・・・・と、いけないいけない。つい好奇心に負けてしまいました。しかし・・・・・ふむ・・・・どうしたものか、先に彼を探すかそれとも姫様とシルヴィアにこのことを伝えるか・・・・・」


 しばらくその場で悩んだラルクはニヤリと笑みを浮かべる。


「このまま黙っていた方が面白そうですね。明日の朝が楽しみです」


 ラルクはそういうと何事もなかったかのように部屋から出て静かに扉を閉める。しかしその扉を閉める時の顔は実に・・・・そう実にいい笑顔を浮かべていた。

 

 ※※※※


 レオレはまたも困惑していた。


「ンガ~ンゴ~ム~」


 突然厨房に乱入してきて飯を食わせろとのたまった男が満腹になったのか急にテーブルに突っ伏すように眠ってしまったのだ。しかも名前を名乗る前に・・・・・。


「結局なんだったんだこの男は?」


 そう言いながらもレオレはあまりにも幸せそうに眠る青年を起こすことができず。結局仕込みも終わっていたので厨房の電気を消してレオレもその日は何とも言えない思いを抱えながら自分の部屋に帰った。


 ※※※※


 翌日早朝


「あ~~~~~~~~~~~」


 突如城中に響き渡る悲鳴。それはソウマが閉じ込められた氷が置かれている部屋からのもの。


「どうした!?」

「なにがあったの?」

「お姫様!?」

「どうなさいました姫様?」

「なんだなんだ?」

「ふわ~もう朝か~?」


 その声を聞きつけてやってきたのは順に王・王妃・シルヴィア・王子・ラルク・ソウマ?である。


「あ、あああ、ああ」


 皆が部屋を覗けば床にへたり込むように座っているシャルロット姫の姿。何故かある一点を見つめて声にもならない声を上げて固まっている。


「そうしたのお姫様、何があったの?」


 シルヴィアがシャルロットの肩を揺さぶるようにして何があったのかを問い掛ける。


「あ、あああれ、あれ」


 シャルロットは未だに言葉を発することはできないがなんとか前方に指を指す。その指を追うようにしてようやく皆がシャルロットと同じ方向を見る。


「こ、これは!」

「あら~あらあらあら~」

「ま、まさか!」

「つ、遂に!」

「これは大変だ~」

「なんだなんだ~(寝ぼけ)」


 先ほどと同じ順番で驚きに声を漏らす。若干最後から二番目の声が棒読み感があり最後の声が未だに寝ぼけて状況を把握できていないようだが。


「こ、氷が割れてる」


 シルヴィアが震える声でそう嘆く。そして先ほどのシャルロットと同じようにその場にへたり込んでしまった。


「ソウマならいつかはやると思っておったが、まさかこんななんの前触れもなく突然出てくるとはな・・・」


「父上の言う通り私もソウマなら自分でいつかは出てくると思っていました。しかしもう少しタイミングを考えて欲しいものですね。何か前触れ的なものがあってほしかったものです」


「そうね~事前に分かっていればシャルロットの時みたいに何かしらの準備ができたのにね~」


「王妃様、それは仕方がないことです。シャルロット姫はソウマの鎧と僕が数十年掛かって《氷結地獄コキュートス》用に開発した術式、さらにこの結界の支柱である六体の邪神のほぼ全ての力がソウマの方に集中していたからこそ狙って姫様を救出できたのですから」


 王・王妃・王子も最初こそ驚いていたがその後は割と落ち着いた様子で口々に感想を吐露する。ちなみに未だにシャルロットとシルヴィアは氷の方を向いて固まっている。ラルクはそんなシャルロットとシルヴィアを見て実に愉快そうにしている。


「それにしてもソウマ君何処に行ったのかしら?出てきたらすぐにでもシャルロットやシルヴィアちゃんの所に行きそうなものだけど?」


「王妃様どうせソウマのことですからお腹が空いたから取りあえず厨房に行ってお腹が膨れたからどうせそのままどこぞで寝ているんですよ」


 ラルク恐ろしい(笑)洞察力で昨夜のソウマの行動をほぼそのまま言い当てる。


「それよりまずはこの二人をどうにかした方がいいと思いますよ母上」


 ライハルトはそう言って苦笑しながら未だ現在進行形で固まっている二人に指を向ける。


「あらそうね」


 王妃も頬に手を当てながらも可笑しそうに二人を見ている。


「ふむ、確かにシャルロットはともかくシルヴィアのこのような姿は珍しいな」


 アウロは何か感心したように固まった実の娘と臣下に目を向けている。


「王よ基本的にシルヴィアはソウマが絡むと大体がこんな感じではありますよ」


「ふむ、そういえばそうだったな」


 そう言うとライハルトが二人の所に歩み寄る。


「二人とも気持ちは分かるがとりあえず今は落ち着いてソウマを探そう」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 ライハルトが肩を揺すって見ても二人の反応は帰って来ない。


「これは駄目だね。二人とも完全に想定外の事態に心がどこかに行ってしまってる」


「しかし姫様は少し一途過ぎる所があるのでこういう事態はある程度予測できたけどまさかシルヴィアまでこんな状態になるとは、案外シルヴィアも乙女的な部分があるだねぇ」


「んもうラルク君、そんなこと言ったらシルヴィアちゃんに失礼でしょ!シルヴィアちゃんは普段は凛としてるしそれなりに人生経験豊富だから落ち着いてるけど中身は見た目よりもずっと女の子なんだから」


「とはいえいつまでもこのままという分けにもいくまい。なんとかして二人を正気に戻さねばなるまい」


「そうですね、手っ取り早いのはソウマを見つけてきて二人の前に連れてくることですけど」


「よし、二人は俺に任せろ」


 すると今まで後ろ事態を静観していた(寝ぼけていたともいう)者が突然前にでる。実は今まで話はほとんど耳に入っていない、それどころか未だに正常な判断ができていない。


「うむ、まかせたぞソウマ。我々がソウマを探してくる間になんとか二人を正気に返しておいてくれ」


「そうね~ソウマ君なら二人も正気に返ると思うからお願いね」


「頼むよソウマ。今から私達が手分けしてソウマを探してくるからその間だけでも」


「ソウマなら大丈夫だよ(確信犯)」


「おう、任せろ」


 全員がそう言って部屋から出ていこうとする。


「・・・・・・?」


 しかし誰かが己の言葉のおかしさに気付いて立ち止まる。そしてしばしの静寂が過ぎて全員が己の言葉を振り返る。


「ん?」

「ん?」

「ん?」

「ふふふ」

「お?」


 そして固まった二人を除いた全員が一斉にある人物の方に視線を集中させる。


「ソウマ!」

「ソウマ君!」

「ソウマ!」

「おや、ソウマ」


 一人を除いて皆が驚愕の声を上げる。


「え?ソ・・・ウ・・・マ?」


「え?」


 すると今まで石像のように固まっていた二人がソウマの名前に反応してようやく動き出す。そうしてゆっくりと自分たちの目の前に居るソウマへと視点が向く。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 二人して再び無言で固まる。どうやら目の前にいるソウマが本当にソウマなのか認識できていないようだ。


「え~と、ひ、久しぶり?」


 さすがのソウマも場の空気を察したのかそれとも目が覚めて昨夜空腹が満ちたらすぐに寝てしまったことに若干今の二人を見て申し訳なく思っているのかとりあえず少し申し訳なさそうに再開の挨拶をする。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 それでも二人は動かない。


「い、いや~シルヴィアは相変わらず綺麗だけどお姫さんもすごく綺麗になったな最初ちょっとわかんなかったぜ」


 尚も反応のない二人にソウマは二人がもしかして自分に対して怒りを溜めていたのでは?と思い今度は褒めてみる。すると・・・・・・。


「ふぇっ」


「うっ」


 二人の顔が突然歪む。


「え゛」


 次の瞬間。


「ふぇぇぇぇぇぇぇんそうまだ~~~~~ふぇぇぇぇぇぇぇん」


「う゛う゛う゛う゛う゛ひっく、ひっく、そうま?ほんとうにそうまなの?」


 シャルロットはその場で大声で泣き始めシルヴィアは声を押し殺すように大粒の涙をポタポタ落とす。


「え゛、え、ちょ、待って、マジで!泣くの?え?ここで?」


 ソウマは完全に狼狽えている。助けを求めて他のメンツに助けを求めれば。


「(ソウマく~ん頑張って~)」


 他の人間は二人が泣き出した時点で既に部屋の外に出ていこうとしていた。王妃などはこちらに向かって笑いながら手を振って口パクをしている。王はしきりにシャルロットに視線をやり、王子は困ったように苦笑しラルクは顔を伏せて肩を震わせている。


「(ラルクの野郎完全に笑ってやがる)」


 ソウマはラルクを睨みつけるが四人は結局この場はソウマに任せることにしたのかそのまま部屋から出て行ってしまった。


「ひっく、ひっく」


「うぅぅぅぅぅぅ」


「え~~と」


 結局ソウマは泣いた状態の二人を前に一人取り残される結果となった。しかしソウマはどうしていいかわからず頭を搔くしかできない。


「あの、な?その、取りあえず泣き止んでくれ、な?俺が悪かったから、ちょっと帰ってくるのが遅かったな、ごめん、謝るから泣き止んで下さい」


 ソウマはしばらく考えて結局その場で二人に謝罪してみることにした。


「うえ、うえ、うえぇぇぇぇぇん」


「うぅぅぅぅ、そうまぁ~そうまぁ~」


「ええ~!また泣き出すの!ちょ、マジで!ごめんなさい!ほんとにごめん。なんで?今何がいけなかったの?今何か俺したの?」


 すると二人はさらに泣き出してしまう。そしてソウマも更に慌ててしまう。


「ちょっとお二人さん、ほんと落ち着いて、まずは泣き止んで、ね?ほんとマジで泣き止んで下さい」


 ソウマの方もだんだん泣きは入ってきたようだ。かつてどんな巨大な怪獣と相対した時もどれほど強大な力を持った強者と対峙した時も動揺すら見せなかったソウマは今かつてない程動揺していた。

 それからソウマはしばらく根気よく二人に語り掛け続けた結果ようやく二人は少しずつ落ち着いてきた。


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


「・・・・落ち着いたか?」


「・・・・うん」


「・・・・ご、ごめんなさい、見っとも無い所を見せたわね」


 二人は顔を伏せながら持っていた手布で顔の涙を拭く。そして若干赤くなった顔を上げて二人とも改めてソウマを見る。


「ホントにソウマなんだね?」


 シャルロットが確かめるようにもう一度ソウマに問い掛ける。


「他の誰に見える?」


 ソウマはそんなシャルロットの頭に手を乗せながら優しさを宿した顔と声を投げかける。その際頭に置いた手をゆっくりと撫でるように動かす。


「あ・・・・・、ソウマだこの手は、ソウマ・・・・だ」


 シャルロットは自らの頭に乗せられた手に自分の手を重ねて確かめるようにその手を握り締める。そして再びその瞳に光るものが出始める。


「おいおい、また泣くのかよ」


 ソウマは再び泣き出したシャルロットに困った顔はするものの今度は止めようとはせず頭に乗せた手を再び撫でる為に動かす。


「いいじゃない、ずっと待っていたんだもの少し位甘えさせてあげなさいな」


 シャルロットの頭を撫でているソウマの後ろに回る形で今度はシルヴィアが抱き着いてくる。


「私だってずっと待っていたんだもの。このくらいの事はさせてよね?」


「それについては本当に申し訳なく思ってるよ。姫さんもそうだが特にお前は随分と待たせちまったみたいだからな」


 ソウマは後ろから抱き着くシルヴィアのするがままにさせてシャルロットの頭は撫で続ける。


「気にしなくてもいいわ。私の種族は普通の種族と違って長寿な分時間的な感覚が違うからそれにお城の皆もシャルやソウマが居ない間も良くしてくれたからあまり寂しくなかったわ。途中からはシャルも居てくれたから・・・・・・・でも・・・・やっぱり嬉しいわ」


 シルヴィアはそういうとソウマがシャルロットを撫でている右手側とは反対の左側に背中から回り込みソウマの手を取る。


「ほんと・・・・悪かった」


 ソウマはそんなシルヴィアの頬に優しく手を伸ばし撫でる。シルヴィアはそれを目を細めて気持ちよさそうに堪能する。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 いつまでそうしていたのかソウマはしばらくの間シャルロットの頭とシルヴィアの頬を撫でていたが誰ともなく無言で三人同時離れる。


「そろそろ他の皆にもソウマをお話しさせてあげなくちゃね。私達ばっかりがソウマを独占していては皆に文句を言われてしまうしね」


「でももうちょっとソウマとゆっくりしたいな」


 シルヴィアの言葉にシャルロットは名残惜しそうにそうこぼす。


「もうソウマは何処にも行かないのだからいつでもゆっくりできるわ、そうよねソウマ?」


 ソウマはシャルロットの頭に再び手を伸ばして優しく撫でながらシルヴィアの言葉に苦笑しながら反対の手で頬を搔く。


「まあ、少なくとも二度とお前達の前から突然居なくなったりはしないよ」


「?」


 ソウマの含みのある言い方にシャルロットは若干訝しみながらも頭を撫でられる心地よさに身お任せることにする。


「うふふふふ、まあ今はそれでいいわ。なんだか私達も楽しくなりそうね」


 シルヴィアは何かを察したのかより一層嬉しそうな顔になる。


※※※※


 ソウマは現在王族が謁見以外の個人的に客人を迎える応接室のソファーに腰を降ろしている。現在部屋にはソウマ以外にアウロ王、ヘンリエッタ王妃、ライハルト王太子、シャルロット姫、ラルク、シルヴィアが居る。


「さて・・・・」


 まず最初にソウマが口を開く。


「俺が百年間氷漬けだった間のことをいくつか聞きたいわけなんだが・・・・・」


 そう言ってソウマは室内の人間をゆっくり見回す。


「それでソウマは何が聞きたいんだいソウマ?」


 ラルクが先を促す。


「・・・・それじゃあまず一番最初に気になったことを聞くぜ」


 そう言うとソウマは視線をアウロ王に向けて指を指す。


「おい、おっさん。なんでアンタまだ生きてんだ?」


 ソウマはそう質問した。ソウマの記憶が確かならアウロ王は間違いなく普通の人間のはずだ。本来普通の王族は自己の血統を重んじる傾向が強い故に基本的に他種族の血を王族に加えない。このエテルニタ王国は元々亜人種に対して開放的な国である。それでも異種族の血が王族に加わったのはアウロの代が初めてである。つまりアウロが覚醒遺伝を起こして長寿種族の血が目覚めることは考えられない。


「俺が本当に百年間眠っていたのならおっさんの見た目がほぼ変化していないのはおかしいだろう?おっさん以外の連中は百年程度じゃたいして変化はないから分かんねえけどよ」


 ここにいるアウロ王以外の者は(ソウマを含む)全員が長い年月を生きることができる。ヘンリエッタとラルクはハイエルフ、ヘンリエッタの子供であるライハルトとシャルロットはハーフエルフ。シルヴィアは王族の吸血鬼である。

 ハイエルフは本来排他的な種族であり世界樹の根元に作る集落から出てくることはほとんどない幻とも言われる種族である。種族特徴はエルフ以上に魔力の親和性に優れ寿命もエルフは長くても千年程度だがハイエルフはほぼ永遠に近い時を生きると言われる。ハイエルフの混血はエルフの混血と同じ括りでハーフエルフと言われるがエルフの混血とハイエルフの混血ではそのあり方は少々違う、エルフの混血は寿命・魔力は人間よりは長くて強いがエルフよりは短くて弱い、対してハイエルフの混血は見た目こそ人間に近く見える場合もあるものの寿命や能力は純潔のハイエルフと何ら変わることがないのである。因みにハイエルフ・エルフは同族もしくは人族(人間)としか子供を作れない。

 吸血鬼は数こそ人族には及ばないもののその分布は世界中に点在している。吸血鬼という種族はその特性上あらゆる特徴を備えた種族である。吸血鬼の最たる特性に己の眷族を己自身で生み出すことができる《吸血》と言われる特性である。この吸血鬼の《吸血》はほぼあらゆる種族に対してその性能を発揮する。吸血鬼に一度噛まれた生物は噛まれた吸血鬼の僕となる。これ以外にも吸血鬼には様々特殊能力を持つ種類も存在する。もちろん噛まれた生物は噛まれる前の種族特性や技能を使用できる、それ以外に親となる噛んだ吸血鬼の特性を受け継いだ能力を身に付ける場合もある。


「ふむ」


 ソウマの質問にアウロは一旦手に持った飲み物をテーブルに置いて一呼吸置く。


「確かに、ソウマの疑問は最もだな、ソウマがあの氷に捕らわれた時点で儂の年齢は四十と三、本来ならとっくに天寿を全うしている年齢だろうな」


 アウロはうんうんと頷きながらも少し可笑しそうに言葉をこぼす。


「それで?勿体ぶらずに教えろよ。まさか実は俺が氷から出て十年くらいしか経ってないなんてオチじゃないんだろう?」


「まあそれについては別に隠す程のことはない、若さの秘訣はここにある」


 アウロはニヤリと笑いながら自分の上着を少し着崩し自らの首筋を露出させる。


「あ?」


 その露出された首元には傷があった。小さな二つの傷跡、丁度なにか牙の鋭い獣に噛みつかれたような・・・・。


「あ?」


 ソウマはもう一度同じ間の抜けた声を上げて今度はシルヴィアを見る。


「シルヴィア、お前まさか・・・・・・」


「・・・・・・、あは♪」


 シルヴィアはソウマの問い掛けを含んだ視線に一瞬きょとんとしたが次の瞬間には満面の笑みとなる。その笑みが零れる美しい唇の隙間から彼女の口には不釣り合いな程大きい二本の牙が覗いていた。


「カブっといきました」


 そしてシルヴィアは満面の笑みのまま実に楽しそうに言葉を放つ。その時彼女の口から覗く大きな二本の牙がキラリと光った。


 

キャラの設定や種族の設定は一度に説明せずに物語が進むごとに少しずつ明らかにします。後感想を一般公開にしました(設定すんの忘れてた)。こちらもよろしくお願いします。

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