68話
明けましておめでとうございます。今年もそれなりによろしくお願いいたします。
「エルフ達との盟約とエテルニタ王国との同盟ね。いきなり単刀直入に要件を言って来たけれど・・・・。説明が有るのかしら?」
内容を確認したシルヴィアがどこか面白そうに皇帝に質問を投げる。
「勿論だ。まずエルフとの再びの盟約を結ぶ。これは後のエテルニタ王国との同盟をするにあたっても必須だと考えている。現実問題我が帝国でも人族至上主義こそあれど人族以外の種族自体も多く住んでいる」
「当代の皇帝陛下は人族至上主義ではないのだ。しかし、歴代の皇帝から根付いてきた価値観とはそう簡単に皇帝と言えど覆せるものではない。だから強く否定もしてこなかったのだ」
オラソが皇帝を擁護する様に言う。その言葉にシャルロットが少し納得したような表情をする。
「一番最初に会った時から皇帝のおじちゃんはそんなに嫌な感じがしなかったんだ」
「おじちゃんは少し心外だ。だが、エテルニタ王国の姫君そう言ってもらえてほっとしている。俺の見た所貴女の第一印象が其方に大きな影響を与えると見ているのでね」
それにソウマは可笑しそうにする。
「なかなか良く観察してるな。確かにその通りだな。シャルが許したら基本こいつらは何でも許すぜ。そしてオラソの奴がやっている孤児院の後ろ盾・・・・・アンタなんだろ皇帝陛下」
「驚いた・・・・そこまで分かっていたか」
「こちらも少し推理すれば簡単な話だ。いくらオラソが【十騎聖】だといってもこの人族至上主義が根強く残るこの帝国であんなに安定して孤児院を経営出来るわけがない。何かしらの迫害や妨害なんかが起こってもおかしくない。だが、あの孤児院は暮らしこそひっそりとではあるが子供達が迫害にあったり貧困に喘いでいる様子は無かった。つまりはあの孤児院は表向きは放置と言う形を取りながらも裏では最低限の権力者の後ろ盾が働いている」
「その通りです」
一息吐いてオラソがソウマの言葉を肯定する。
「如何に私と言えど子供達の安全を常に保障することは出来ない。実は皇帝陛下が裏か手を回して信頼できる手の者に常に孤児院の護衛を請け負って頂いている」
「だから孤児院の周りにそう言った連中がウロチョロしていたのカ」
「そうね」
ナーバが用意された菓子を頬張りながら言う言葉にシルヴィアが同意を示す。
「正直に話そう。帝国は変わるべきなのだ。力を至上とする考えを変えるのではない。人族こそ至上という考えと武力こそ唯一の力という考えを変えていかなくてはいけないのだ。力とは武力のみを差す言葉ではない。権力・知力・魅力、力というものは一方向に差した言葉ではない。特に国全体を富増す為には武力だけではだめだ。話が帝国では文官の数が少ない。情報部門の拡張も俺が皇帝になってからようやくある程度形になってきている。そして戦い以外の技術を高めなくては臣民は豊かにならん」
「だが、先に言ったように長年の間に植え付けられた価値観と言うのは簡単には変わらない。仮に皇帝陛下がそのような法を敷いたとしても多くの国民は納得しないでしょう。この国の人族主義はある意味武力主義以上に強いのです」
「如何に歴代の皇帝達のように当代の皇帝たる俺が好きなように法を敷けるといっても限度がある。これまでの法の改正や撤廃などは現在の帝国の主義に沿う部分があったから今まで問題なかった」
「つまり皇帝陛下の狙いは現在の帝国の価値観を変える切っ掛けを作ることが目的というこだね」
「その通りだ【大賢者】。もはやこの帝国の流れは生半可なことでは変わらん。今までが逆にうまく行き過ぎていたのだ。取り返しの着かなくなる前になんとかせねばならない。そんな時に現れたのがお前達だった。俺は絶好の機会だと思ったよ。この国に根付いた価値観を完全に打ち壊してくれる存在だと期待した。この帝国の帝国民の前で我が国の【十騎聖】が絶対強者ではないと教えると同時に異種族の者達の強さを教える絶好の機会だとな」
「帝国の人達は【十騎聖】の強さに対してある種の信仰に近いものを抱いているものもおります」
「だが今回の大会の内容と起こった事件で帝国民の一部は知っただろう。【十騎聖】は絶対ではない。どうしようもない事態と言うのも起こりうる。そして今回の顛末を魔族の一部が起こしたものとして公表する。この戦争は決して他人ごとではないと帝国に伝聞させるのだ」
「(歴代の皇帝をいくつか知っているけれど、今代の皇帝は色々な意味で今までの皇帝とは違うようね。野心そのものは歴代の皇帝ともそう変わりないけれどそれは自らではなく民の為の野心になっている。覇気は人種にしては大したものね。個人の武力も中々のようだしもしかしたら【十騎聖】も相手次第なら倒せるくらいかしら?なにより瞳の奥に子供のような好奇心が覗いている。今回のこの件の持ちかけは国の利益以上に個人的な感情も入っていそうだわ。自身の感情に素直で好奇心が強いところはシャルやソウマに少し似てるかも)」
シルヴィアは目の前に出されたお茶を啜りながら内心で皇帝の評価を改めていた。
「こっちも単刀直入に聞くぜ。帝国としての思惑はまあ大体分かった。じゃあ今度はお前個人の思惑を聞かせてもらおうか?」
ソウマが顔に笑みを浮かべながらどこか面白そうに皇帝に質問を投げる。その問いに皇帝はしばし考え込むようにしてから口を開いた。
「俺は・・・・・昔から物語が好きだった」
皇帝はどこか昔を懐かしむように、だがどこか今もその情念を胸に燻らせているように言葉に出した。
「英雄譚、勇者物語、冒険譚。様々な物語の本を幼少から読み漁った。同じ内容でも何度も何度もな。若かりし頃は俺自身も物語の登場人物達に憧れたものだ。自身もまた英雄・勇者たれと鍛錬もそれなりに積んだ。いつか己の名を世界の歴史に残してやろうと、全ての生き物に俺の存在を知らしめてやろうとな」
どこか熱を籠めたような表情は途端に覚めたように冷静な顔に戻る。
「だが、俺は気付いた。いや、気付かされた。若き日にオラソの強さを目の当たりにし、その時にオラソから自分など足元にも及ばぬ者達がいくらも存在するという事を聞いた。その時に知った、本当の英雄や勇者と呼ばれる者は俺如きでは到底到達不可能な領域に行かなければなれないということにな。所詮俺は人族の中で多少優秀なだけの男なのだと俺は悟った。だから俺はせめて皇帝として帝国の歴史に位は刻まれる男になろうと努力してきた」
そして、皇帝は自身の目の前に用意されていた飲み物を一気に飲み干した。
「そんな時にお前達が現れた。お前達の強さはまさしく物語の中にある英雄・・・・いや、それ以上だろう。そして先程に聞いた魔神の話、俺は確信した。今、俺は神話の戦いの入り口を覗いているのだとな!」
皇帝の表情に先程以上の興奮と熱が籠りだす。
「俺に物語の伝説の英雄になるのは無理だ。だが、その登場人物になることは出来るかもしれない。今、その席と機会が目の前に有るのかもしれない。そう思ったら居てもたってもいられなくなったのだ。お前達とお前達の国と関係を築くことでこの神話の戦いを当事者として目撃できるかもしれない」
その言葉を聞いていたソウマは実に可笑しそうに笑っている。
「随分と買ってくれているがお前の期待に応えられるかどうかは分からんぞ?俺達の目的は魔神と戦う事じゃないしこの出来事だって案外ひっそりと終わってしまうかもしれないからな」
「それはそれで仕方ないだろう。僅かであろうと可能性が有るというだけで俺には十分だ。それに皇帝としてお前達と交友関係を築いておきたいのも偽らざる本心だからな。だが俺は可能性は大いに有ると見ている」
「その根拠は?」
「命には宿命が有る。役割と言ってもいいな。本人が望む望まざるともその宿命という名の流れに巻き込まれるものだ。俺にも帝国皇帝と言う宿命があるがソウマよ。お前の宿命はどんな奴よりも複雑で大きく激しい流れのような気がする」
「そんなものか?」
「分かる気がするゾ」
皇帝の言葉に苦笑いをするソウマとは違い、ナーバが真剣な表情でソウマを見つめていた。
「その男が言っていた言葉。昔に御爺様が似たような言葉を言っていたのを覚えていル。我々力有る竜も自由に生きながらも役目をこなしていル。だからこそ私も分かル。ソウマは何か大きなモノを背負っていル」
「俺は別に何かを意識して生きているつもりはないがなぁ・・・・。その時に一番やりたいことをやっているだけだからな」
「それでいいんだよ。お前のような男はそれで自身が大きな流れを生み出すのだ」
そうして皇帝の言葉が終わると同時に意図してか偶然か室内に静寂が訪れた。一息ついてラルクが口を開いた。
「大体の皇帝陛下の真意は知れました。此方としても同盟は望むところです。それで、エルフの密約は我々が仲介に入ればいいのですかな?」
「察しが良いな」
「まあ少し考えれば。一度反故にされた帝国が再び約を結ぶと言ってもエルフ達は信用しないでしょう。そこで私達が間に立つ。我が国はエルフを始め他種族が多く住んでいる国だ。そして僕がエテルニタ王国に仲介代表になればエルフ達も話を通しやすいだろう。自分で言うのなんだが僕の名はエルフではそれなりに有効に使えるので」
「そこまで読んでいるのなら俺からの説明は要らないな。ならば頼みたい。こんな事が有った以上は帝国はエルフと揉めている場合ではないのだ。我々もエテルニタ王国の考えに賛同を表明し帝国がエテルニタ王国に歩み寄る為にもエルフとは和解せねばならん」
「帝国臣民や貴族達や文官や軍人達を納得させられるの?」
まるで試すように、面白がるようにシルヴィアが皇帝に尋ねる。
「やらねばならん。今、ここが帝国の分岐点だと俺は考えている。恐らくはここを逃せば帝国に待っているのは衰退のみだ。ならば多少の無理を押してでもやり遂げなければ最悪の場合に帝国は俺の代から数代後には国があるかも怪しい」
「そこまでの先見の明が有るとは、貴方を見縊っていたようですね」
ラルクが感心したように顎に手をやって頷いている。一国の主に対するには余りにも不敬な態度と言葉ではある。しかし、それでも許されてしまうだけの実力と経験がラルクにはあるのだ。それはこの場の誰も、皇帝やオラソですらがそれも当然と言う顔をしていることからも分かるだろう。
「俺は全面的にお前を・・・・、エテルニタ王国を信じよう。交渉や同盟の内容の精査も任せる。その間に俺は帝国領内の混乱を治めるのに注力しようと思っている」
「承知した。其方の信頼と期待に応えられるようにエテルニタ王国も全力で事に当たらせてもらう」
※※※※
皇帝はソウマ達との会合を終えたその夜、仮の宿としている帝国の高級宿の最上級の一室にて一人グラスに注いだ酒を飲みながら一人過ごしていた。
「歓迎しよう」
誰に言うともなく呟かれたはずの言葉だった。本来誰も居ないこの部屋の中においてそれは独り言以外の何でもないが・・・・。
「流石だな。気付いたか」
闇の中から皇帝の言葉に返事を返す存在がいた。部屋の隅の闇から姿を現したのはソウマだった。
「御立てるな。お前が気配をたいして殺しもせずに居たからだ。それにしても何故隠れて侵入などした。貴様なら正面から堂々と入ってくればいいだろう。この場にお前を止められるものなどおらん」
「一応気を使ったつもりなんだがな。流石にそれをやったら兵士達に申し訳ないからな。何せ極々個人的な用事で皇帝に会おうってんだからな。護衛の少なさに少々拍子抜けだったがな」
そう言ってソウマは肩を竦めて見せる。
「何となくではあるが今晩お前が来そうな気がしたのでな。警備の数を最低限にしておいたのだ」
そう言って何でもないように皇帝は言う。だが、それは裏を返せばそれだけ皇帝個人の武力が信用されている証拠でも有る。流石は武力主義帝国ではある。
「まあ、俺もお前はそうするんじゃないかと何となく思っていたがな」
ソウマはそう言いながら皇帝の正面に位置するソファに腰を下ろして足を組んだ。何時のまにか皇帝が用意していたソウマ用の酒が注がれたグラスの中の酒を口にする。
「一応用意してはいたが、イケる口だったようだな」
「別に進んで飲む方じゃないがな。シルヴィアやアウロのおっさんなんかの親しい奴との時は飲むことが有る位だな」
「それは・・・・、俺の事を友を思っていると、とって良いのかな?」
「ああ、そう取ってもらっても構わねえよ」
そう言ってソウマはグラスの中身を一気に飲み干した。




