67話
「わあ~~~~~~~」
シャルロットが感嘆の声を上げて前方に広がる光景を凝視する。
「・・・・・・・・はあ」
アイスが呆れと驚嘆と諦観を全て内混ぜにしたような溜息を吐く。その氷のような表情も今は疲れが見えるかのようだ。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
そしてその二人の前にはどこか茫然とするようなソウマ・シルヴィア・ナーバが立ち尽くしていた。
「凄いね~~~!」
シャルロットは今度はその場で両手を上げて楽しそうに前方の更地と化したかつての帝国の王城・・・・・・・・・を見ている。
「・・・・・何故こんな事になったのでしょうか・・・・・・・」
アイスが光を失いどこか虚ろな瞳を跡形もなくなった帝国の象徴に向けている。そしてその惨状を作り出したであろう元凶三人は・・・・・・・・。
「・・・・・アレ?」
「・・・・・アレ?」
「・・・・・アレ?」
三人仲良く訳が分からないと言ったように首を傾げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」
そして再びアイスの深い深いため息が辺りに響き渡った。
「あははははははははは!」
ラルクは大声を上げて笑っている。
「おい!ここ王城だったのかよ!」
「そうだった・・・・・みたいね。何か見覚えがあった気はしていたのだけど・・・・・・・」
「最初に来たデカイ家だったのカ・・・・・・」
三人はそれぞれ綺麗に更地と化した城跡地を見回している。
「おい、どうすんだよ。城が跡形もなくなっちまったぞ」
本来、ソウマ達は戦闘の余波で何が壊れようと気にするような殊勝な精神構造はしていない。だが、壊したら面倒くさい物が何かは理解している。それでも面倒くさければ姿を晦ませればいいが今回ばかりはそうもいかない。
「知らないわよ。ソウマも気が付かなかったじゃない」
今回の騒動の発端の一部は帝国とエルフの揉め事にソウマ達が介入したことが関わっている。流石にこのまま知らぬ存ぜぬで行方はくらませない。何よりラルクが居る今ソウマ達を逃がさないだろう。
「まあ、良いじゃないカ。結果的に城以外の被害は軽微ダ」
ナーバがうんうんと首を縦に振りながらどこか訳知り顔で頷いている。人はそれを開き直りと言う。
「そもそもナーバが《息吹》の威力の調節を間違えたのが原因でしょう」
シルヴィアがジト目でナーバを睨む。
「あ、あれは・・・・・・・大賢者の結界が・・・そうダ!大賢者の結界が脆かったのいけないんダ!」
「結界はあれ以上強度を上げると抑え込み過ぎて結界内のエネルギーの流れが不安定化して抑え込みに失敗する恐れがあった。結界の強度を調節することで適度に結界との鬩ぎ合いをさせて逆に安定させていたんだよ」
「・・・・・・・・」
即座にラルクからの反論が返ってきてナーバはあっという間に押し黙ってしまう。
「ナーバもゼファルトスのおっさんを目指すなら自身の力をもう少し掌握するようにするんだな」
「ム・・・・・・・・・・」
ソウマにまで言われてナーバが口をへの字に曲げて唸り声を上げる。その後もその場であーだこーだと小さい言い合いが続いていた。
「こ、これは!?」
するとそこにオラソを初めとした部下を数名引き連れた皇帝が戻って来ていた。
「「「「あ」」」」
皇帝は目の前に広がっている光景に唯々茫然としている。それは後ろにいる部下達も同様の様で全員が口を半開きにして茫然としている。唯一オラソだけが冷汗を流しながら苦笑いを浮かべている。
「ソウマ・カムイ、何が起こったのか・・・・・・説明をしてもらえるんだろうな?」
皇帝はソウマに詰め寄る。
「それは僕の方から説明させてもらう」
するとソウマの後方から歩いて顔を出した人物を確認した瞬間に皇帝は目を見開いた。
「お前は!エテルニタ王国の【大賢者】ラルク・カイザード!いつここに来たのだ!?」
「僕としては【大賢者】よりも【大魔導士】の方が良いんだけれど・・・。まあ、それはいい。ここに着いたのは先程だよ。大きな存在の気配とソウマ達の戦闘を感知して転移魔法で移動してきたんだ」
「転移魔法だと・・・・そんなものが存在していたのか?」
皇帝がこめかみを指で揉み解しながら絞り出すように口を開く。
「完成したのは最近だよ。それでも制限や制約は多少あるけどね。知りたいなら今度術式を教えてあげるよ。別に隠すようなことでもないしね」
「・・・・・・普通なら一生涯隠匿しそうな情報だと思うのだが・・・・まあ教えてくれるなら教えてもらおう」
「そうすればいい。それをどう使うかは君達次第だ。全ては自己責任でお願いするよ。さて、ここで話をするのもなんだ。どこか建物の中に場所を移動しようか」
※※※※
ソウマ達と皇帝達はそのまま帝都内の宿屋に使われている建物の一番大きな一室に集まっていた。宿屋の関係者や宿泊客などは全てが帝都の外に避難しており宿は完全に無人だった。この宿は帝都でもかなりの高級宿に該当し要人や大商人等御用達の宿だった。その宿の一番高く一番良い部屋に腰を下ろした皇帝は部屋の入り口に護衛を配置してソウマ達をテーブルを挟んで正面になるように腰を下ろす。
「さて、改めて話を聞かせてもらおうか」
「改めてと言われてもね。まず僕達は何から聞かせればいいのかな?」
「そうだったな。では此方から一個一個質問させてもらおう。まずソウマ・カムイ。お前達がこの国に来たのは偶然なのか?」
「偶然だ。俺の基本目的は大陸をぶらぶらすることだ。別に何か目的や目標があってこの国に来たわけじゃあない」
「分かった。では次の質問だ。あの黒い穴から出てきた化け物は一体何なんだ?お前達はあれが何か知っているのか?」
「その質問を答える前に逆に聞くけどそれを聞いたら厄介な事態に首を突っ込むことになるけれどそれでもいいかい?」
ラルクのその言葉に皇帝は後ろに目配せをした後に左腕を上げる。するとオラソを残して全員が部屋から退室する。若干【十騎聖】の一人が不服そうな視線を向けていたが大人しく部屋を出た。
「大賢・・・・・【大魔導士】よ。この部屋に防音の魔術をかけてくれ」
皇帝がそう言うとラルクが無言で指を鳴らした。その瞬間部屋の中が不可思議な空間に包まれるのが感覚として伝わった。
「これでこの部屋の中の会話は外に決して聞こえることは無い。ついでに結界を張っておいたから無理やり入るのも出来ない」
「うむ、これから聞くことは俺とオラソしか聞かん。その方が良いと感じたのでな」
「それが良いかもな」
ソウマも皇帝の言葉に同意する。
「それじゃあ・・・・・・」
そうしてラルクが一通り魔神の事に付いて説明していく。時々ソウマやシルヴィアの補足も交えながらも話は続いて行く。
「・・・・・・・・」
その話が進むにつれて皇帝の顔の冷汗の量が増していく。それは後ろに控えているオラソも同じだった。
「取りあえず現時点で僕たちの持つ情報はこれだけだね。これを聞いて君はどうする?」
「・・・・・信じられん。魔神か、いつかの日に寝物語に聞いたようなお伽噺・・・・吟遊詩人が語る様な絵空事の類と思っていたが・・・・・」
皇帝は闘技場で見たアレの姿を思い出して再び冷汗を垂れ流す。
「信じないわけにはいかんだろうな。しかし、ともすれば大陸どころか世界全体の危機と言ってもいいくらいの事態だな。かつての勇者と魔王の戦いですらが比較にならんだろう」
そうしながらも皇帝は思案顔で何かを考えている。
「魔神の復活は回避できんのか?」
「先も言ったが復活というならもう復活できる状態だろうよ。あとはどれだけより完全に此方側に出てこれるようになるかだな。そもそもその条件が良く分からんから邪魔も出来ない」
「それについては僕の予想がある」
「何だ?」
「遥か古代の時代に魔神を封印した神々は魔神をどこに封印したか分かるかい?」
ラルクの問いかけにシルヴィアが直ぐに気が付いたように顔を上げる。
「この大陸ね」
その答えに数人が驚愕を顕わにする。そして答えを聞いたラルクは満足そうに頷く。
「その通り。かつての神々は魔神の封印にこの大陸そのものを依代に使ったんだ。この大陸の地下深くに《氷結地獄》を掛けて大陸一つ分の地脈を利用して術を強化、更に各地に神殿などを配置することによって魔神を封印した。そして魔族達が今回とった方法は術式自体は分からないが何らかの方法でこの大陸で死んだ命を利用して少しづつ地脈に干渉して魔神の封印を弱めるという作戦だった」
「それで各地で無差別に争い事を起こしていたのか」
「この作戦そのものが何時から始まっていたのかは分からない。それこそ魔神が封印された直後から始まっていたとしても納得はできるけどね。それ程に魔神の封印は強靭だったはずなんだ。本来時間経過程度では弱まるはずが無いほどにね」
「つまりここ最近の魔族共が表立って活動を始めたのは魔神の復活が確実になったからか」
「そうだろうね。復活は確実、後はそれをどこまで完璧に仕上げられるか。だからこそ彼等はその一歩を詰めるために現在活動している」
そこで話を聞きながらずっと考え事をしていた皇帝が再び口を開く。
「では復活事態は阻止できなくとも完全な状態での復活は防げるという事か?」
「その条件次第としかいえないね」
「そもそも彼方もアレを見たのなら理解できてるはずよ。あれは魔神のほんの切れ端・・・・・力の本の一部部分でしかないことが。例え完全な状態でなくとも規格外以外の何物でもない存在なのよ」
シルヴィアの言葉に皇帝は押し黙る。如何に隔絶した実力差が有ろうと皇帝とて武力国家を治める頂点である。それなりの観察眼は持っているつもりである。
「確かに・・・・・・アレを見て感じていた。まるで目の前に広がる一面の海を見ながらもその目に見える範囲が全体の本の一部でしかないような感覚だった」
「そういうこと。残念ながらもし不完全とはいえ魔神が本当に今私の想像通りの力なら私には勝ち目が有るとは言えないわね」
「私もダ」
「僕も正直荷が重いね」
三者が正直な感想を吐露する。間違いなく世界最強クラスの個人である三人がハッキリと己が敵わないと宣言したことに皇帝とオラソが目を伏せて押し黙ってしまう。しかし皇帝が静かに眼を開いてその視線をゆっくりとソウマへと向けた。
「ソウマ・カムイよ。お前なら勝てるのか?先の闘技場での戦いとお前の仲間達の態度からも解る。お前は強い。この場の誰よりも、そんなお前だからこそ聞く。お前は魔神に勝てるのか?」
それはもしかしたら皇帝自身が安心をしたいが為の確認だったのかもしれない。魔神という規格外の脅威。それが現実として目の前の脅威として明確に迫っている。いかな大国の皇帝といえど不安を押し隠すことは出来ないのかもしれない。そんな皇帝にソウマは・・・・・・・。
「そんなの分からんよ」
事もなげに斬って捨てた。
「闘る以上は負けるつもりも死ぬつもりもない。だが勝つか負けるかなんて勝負してみるまで分からんもんだ。だがな・・・・・それでも絶対勝つつもりで闘るのが俺だからな。だが、以前もシルヴィア達を前にして言ったが俺が守ると決めた奴に害が及ぶのなら手を出した奴に後悔させるだけだ」
「・・・・・・・・」
勝利宣言ではない。しかし敗北宣言でもない。だがその言葉には不思議とこの場の者を安心させる重みが含まれていた。
「敵には太古の大戦時に魔神側に付いた邪神も複数柱いるでしょう。さて、皇帝陛下。この話を聞いた上で彼方の出方を聞かせてもらいましょうか?僕達の邪魔さえしなければどのような方針でも基本的には感知しません。とっ言ってもそれはあくまでもエテルニタ王国の見解なのでソウマ達の行動までは縛れませんが・・・。因みにアウロ王にも了承は既に頂いています」
皇帝はしばし思案する。
「・・・・・・・アウロ王は・・・・・魔族共と戦うつもりなのか?」
「最初期の戦争開始時に我が国は表明していますが魔族とは戦争はしません。我々が敵対するのは魔神を復活させようとする者達のみです。エテルニタ王国は魔族そのものを敵とは見なしていません。国の中には魔族の方も生活自治区を用意して亡命を許しています」
「!」
その言葉は皇帝とオラソに少なからずの衝撃を与えた。大陸中では今は魔族対他種族的な構図が出来ている(少なくとも人族はそう思っている)。それなのに魔族を自国領土に亡命を許すという事は裏切りと取られてもいい程の行為である。下手をすれば大陸中の国家が敵に回る。
「それを俺に言って・・・・・いや、そうか・・・・・それでもお前等は・・・・・」
即座に皇帝は理解する。アウロ王とラルクは侵略や戦争等の手段としては武力は使用しないが力そのものを行使すること自体に躊躇する類の者ではないと。己の信念・思想を護る為ならどんな巨大な相手でも真っ向勝負を挑むのだと。そしてその行為にソウマやシルヴィア達は手を貸すことに躊躇はしないだろう。
「(日和見的な平和主義者なら如何様にも出来るだろうが信念と力を持つ相手は非常に厄介だ)」
「非難するかい?」
ラルクがまるで試すかのように皇帝に問い掛ける。それを皇帝は苦笑を持って応じる。
「そんなことはせんさ。お前等は・・・・・エテルニタ王国は俺達帝国よりも強い。帝国は強さを誰よりも尊ぶ。俺達は強さに従う。俺達帝国はお前等エテルニタ王国を否定せん」
そう言うと皇帝は懐から二枚の紙を取り出した。
「お前等の強さをこの目で確認してから考えていた。そして今の話を聞いて心は決まった」
広げられた二枚の紙の内容にアイスが目を見開いた。
「エルフ達との盟約と・・・・・エテルニタ王国との同盟!?」
多分今年最後。良いお年を




