66話
「さて・・・・・・・・」
ソウマ達は目の前の事態にどう対処するか思案していた。
「ソウマなら魔神がああしようとする前に止められたんじゃないの?」
「無茶言うな。元々あいつの体内のエネルギーは顕現時点でほとんど暴走状態みたいなもんだった。しかも本人が最初からほぼ制御する気が無いと来てる。今の状態はその元から無い制御を手放しただけだ。なんぼなんでも急すぎる」
「二人とも呑気に話している場合カ?このまま行くとこの都市は跡形も無くなるゾ?」
全く焦りを見せないソウマとシルヴィアに、ナーバが呆れを含んだような言葉を投げ掛ける。そう言う本人も全く深刻そうに見えないのだが・・・。
「ふむ、一応何とかするか。シャルとアイスはシルヴィアの獣が連れて安全圏まで行ってる」
「一応護衛も来ているし心配はないでしょう」
「あの賢者を呼んでいたのカ」
ナーバの気配感知の感覚にはシルヴィアとアイスの傍にラルクが来ている事を伝えていた。
「この騒動の気配をあいつも感じて転移してきたらしい」
「それで、どうするの?」
ソウマ達の目の前には今やソウマ達が見上げるほどに膨れ上がった魔神の体があった。
「限界を迎えて破裂する瞬間に攻撃を叩き込んで威力をある程度減衰と指向性を持たせてナーバのブレスで範囲を限定的にして相殺する」
「簡単ね」
「合図は任せるゾ」
「さてと」
しかし、次の瞬間にソウマ達にとって予想外の事態が起こった。
「「「!」」」
なんと魔神の体が超高速で飛び上がったのだ。
「どこに行きやがる!」
「逃げるのカ!?」
「いや、恐らくは膨張する力に押されて跳ね上がっただけね」
三人は即座に魔神の後を追って跳躍する。
「場所が変わったが大丈夫か?」
「今この帝都には人が居ないからどこでも平気よ」
「もう爆発寸前だゾ!」
ソウマ達は広い中にはのような場所に降り立った。
「何か見覚えが・・・・・」
「構えろ!」
シルヴィアが一瞬あたりを見渡して場所を確認しようとしたがソウマの言葉に中断を余儀無くさせられる。
「ハアアアアアアアアアアアアアア!」
叫び声と同時にナーバの姿が一瞬で白銀の鱗を持つ巨大な竜へと姿を変える。そのまま上空に飛び上がり魔神の真上に位置取ると《息吹》を放つために力を溜める。ソウマも剣を上段に構えて闘気を籠める。シルヴィアは自らの影を胸の前に掲げた両掌の間に収束させていく。
「!」
ソウマとシルヴィアが同時に準備を終えた瞬間、魔神の体が一瞬の光と共に膨張する。
「「破ッ!」」
世界から音が消失する程の衝撃が周囲に拡がろうとする瞬間にソウマとシルヴィアが左右から放った斬撃と影の塊が同時に爆発した魔神に着弾する。ソウマの膨大な気を食って《聖王竜剣》が放った超高密度の質量を持つ斬撃とシルヴィアの影が同じく超圧縮された影の玉が爆発の威力を左右から挟み込む形で押さえむように押し合う。
「良いタイミングだぜ」
それに合わせるようにして遠方からラルクの放った結界が、ソウマとシルヴィアの攻撃と魔神を囲う様に結界が展開される。その結界は真上だけは展開されていなかった。本来ならば如何にラルクの結界と言えどこれだけの威力を結界で抑え込むのは不可能である。精々が数秒抑え込めれば良い方だろう。だが、どんなものであろうと流れやすい方に流れるものである。ソウマとシルヴィアに抑え込まれた魔神の爆発の威力の残りは全て真上に逃げていく。
「ナーバ!」
「バルアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!」
その瞬間を待ち構えていたナーバが溜めていた力を《息吹》に変えて真下に放った。
キイィィィィィィィィィッッッッッッッッッッ
ナーバの《息吹》と真上に流れてきたエネルギーの衝撃波が衝突した瞬間、周囲一帯に鼓膜を掻きむしるような甲高い不協和音が流れる。帝都の外まで避難していた王都の全ての人達が突如響いた鼓膜を揺さぶるような高音に耳を塞いで蹲った。
「上手い具合に相殺できそうか?」
ナーバから放たれた《息吹》はしばらくの拮抗を見せた後に徐々にではあるが逆に結界内に衝撃を押し返し始めていた。
「ソウマ、そう言う事言ったら・・・・・・・」
ソウマとシルヴィアの会話が終わったと同時に・・・・・。
ビシィィィィィィッッッッッ!!!!!!
結界に目に見えて大きなヒビが入った。
「げ!」
「ほら、言わんことじゃない」
その光景にソウマは目に見えて動揺し、シルヴィアは呆れるように額に手をやって首を振る。
「これは・・・・・」
遠方で結界を維持していたラルクも状況を察して困ったように眉根を寄せる。
結界にヒビが入った原因はナーバであった。だが決してナーバが意図してやったものではない。ナーバの《息吹》は確実に衝撃を結界内にまで押し返した。本来であればそのまま結界内で衝撃の威力を完全に相殺して押し殺すのが目的であった。だが、ナーバの放った《息吹》がソウマとシルヴィアによって威力を削られた爆発の衝撃を上回ってしまった。当然の事、押し返した《息吹》の残りの威力はそのまま結界に負荷を与える。如何に威力を相殺し合っているとはいえ、魔神の爆発に加えてソウマの斬撃、シルヴィアの影球とナーバの《息吹》が結界内に留まっているのだ。ラルクの張った結界といえど耐えられないのは当然だった。
「駄目だな。もう結界の崩壊は回避できねえ」
「ナーバの力の制御もまだまだねぇ」
流石のソウマとシルヴィアもここまで複雑に複数の力が臨界まで高まった状態では無事に済ますことは出来ない。ソウマもシルヴィアもナーバも爆発の威力を上回る一撃で爆発を掻き消すことは出来るかもしれないが、確実に帝都は甚大な被害を被ってしまう。
「退避しましょう。目標とは違ったけれど十分威力は相殺されているはずよ。ラルクの結界もあるから極小的な爆発に留まるはずだからこの周囲数十メートル位で済むはず」
「そうだな。ナーバ、引くぞ!」
ソウマとシルヴィアが跳躍してナーバの上に飛び乗る。それと同時にラルクの結界が崩壊して激しい閃光が迸る。ナーバは閃光と同時に凄まじい速度でその場から移動する。
「ん?あの場所は・・・・・」
最後の閃光に包まれていく場所をソウマは怪訝な顔で見つめていた。しかし直ぐにそこは光に飲まれてしまい見えなくなる。
「お疲れ様」
ソウマ達はそのままシャルロットやラルクが居る場所に降り立つ。
「お前こそ、来るとは思わなかったぜ」
ソウマが降り立つと同時に声を掛けてきたラルクに軽口で返す。
「正直に言うと驚いたけどね。城の書庫で本を整理していてたらとんでもない存在規模の個体がいきなり帝国のど真中に出現したんだから。思わずその場で転移で来てしまった。多分、城では僕が居ないことに気が付いた者が僕を捜している頃かもしれないね。ソウマ達が居るのも分かっていたけど念の為に来たんだよ」
ラルクが光が収束して消えていく場所を見ている。
「不完全とはいえ魔神が顕現するとはね・・・・・」
「ラルク、解析は済んでるんでしょ。あれは何だったの?」
シルヴィアが駆け寄ってきたシャルロットの頭を撫でながらラルクに問い掛ける。
「僕も完全ではないけどね。一つ目の要素は触媒になった男(?)の魔神との親和性の高さだね。しかもかなりの年月をかけて偽神として力を体に馴染ませていたようだね。二つ目の要素は憑依術だね。本来憑依術は自身の体に祖霊や高位存在の精神を降ろすことによって己では不可能な技や術の行使を可能にする術だ。本来この術は術者本人の力量や才能を大きく超える規模の力は使用できない。降ろされた存在は術者の力量に見合った規模の技しか使えないのが基本だね。そして、これも基本だけど本来なら偽神に憑依術を使う事は無い。意味がないと言うより効率がすごく悪い。直接神の力を降ろした肉体に精神を降ろしたところで術の無駄遣いだ。寧ろ最悪の結果をもたらせる事になる」
「最悪の事?」
ラルクの話を聞いていたシャルロットが頭に疑問符を浮かべて質問する。それに答えたのはラルクではなくシルヴィアだった。
「憑依ではなく乗っ取りになるのよ」
「?」
「偽神は相性のいいの者が己の体に神の力を降ろす行為。憑依術は一時的高位存在の精神を体に降ろして代わりに術や技を使ってもらう行為。本来これは同時に使えるものじゃあないの。神の力が宿る体に他の精神が入り込むのは原則不可能なのよね」
そこからはラルクが引き継いだ。
「しかし、何事にも例外はある。偽神の力の源になった神の精神を憑依術で自らの体に降ろす。これは可能なんだ。でもそれをやった場合におこるのは降ろした高位存在に体を乗っ取られる事態が発生します。まあ当然と言えば当然だね。自分の力宿る体を操れない道理はないからね」
「それでは最初の闘技場に現れたあの男(?)はあの時点で魔神に乗っ取られていたということですか?」
「そうだね。そこであの魔神のやったことは自分で自分を召喚したんだよ」
「なるほどな。確かに魔神の結界は緩んでいるから強引に出てこようと思えば出てこれる。だが、それなりに代償がいる。代償も無くかつ不完全でも確実に封印から出てこれる方法だったんだろうな」
ソウマが納得したように頷いている。
「では今回のことは魔族の策謀だったというこですか?」
「いや、多分そんな格好いいものじゃない」
「え?」
「恐らくは魔神の個人行動の結果だろうよ」
「遊び相手を探していタ」
「だな」
「正確に言うならソウマを捜していたのでしょう。以前表層意識のみでソウマを知覚したときからソウマに興味を持っていたようですから。今回実際に会いに来たという事でしょうね」
「つまりあいつの狙いは師匠だったというこですか。しかも・・・・・あれでも不完全な状態だった・・・・・・」
アイスは以前に感じったことのある魔神の気配をいまだに鮮明に覚えている。身の毛がよだつほどの恐ろしい存在感。立ち向かおうとすら考えられなかった圧倒的な実力差を覚えている。
「返って好都合だな。魔神の狙いが俺になってるならもし復活したとき他に被害が出なくても済む」
「そう楽観的に行くかしら?魔族の狙いが本当に魔神の復活だけが狙いなら確かに楽だと思うけど・・・・」
「・・・・・・考えすぎても仕方ない。どこまで考えたとしても憶測にしかならない」
「いっそのこと魔族達に居る本拠地に攻め込んで直接聞くか潰した方が早くないカ?」
ナーバが人の姿に戻ってソウマ達の会話に参加する。
「ことはそう単純でもないんだ。確かにソウマや君たちの実力ならばそれも可能だろう。ただそれはあくまでも相手の位置が正確に分かっている場合に限るんだ。奴等の居場所は残念ながら未だ不明だからね」
「【大賢者】にも分からないのカ?」
「残念ながらね。恐らくだけど魔王達は魔神の力に守られた空間か何かに身を潜めている。そこかどこかも分からないし本当に魔族達に大陸に有るのかも分からない。僕の力では魔神の力には干渉することができない」
「恐らく他の魔族達を尋問したとしても口を割らないでしょうね」
「というよりも知らない方が自然でしょう。一度会った魔王の一人の印象から見ても計画の全容は恐らく本当に一部の者か魔王しか知られていないようでした」
「話しの途中で悪いがまずは確認だ。魔神の野郎のエネルギーの暴発が収まったようだぜ」
見れば確かに球体状に広がっていたエネルギーのドームが収束して消えていこうとしていた。
「一応の確認で痕跡を見ておこうぜ」
「・・・・・・そうだね」
「確認は大事ね」
シルヴィアが先程からの会話をどこか不安そうにしながらも大人しく聞いていたシャルロットを抱きしめながら爆心地を見つめている。
「行くカ」
「・・・・・はい」
ソウマ達は確認の為に歩き出した。




