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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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64話

 闘技場に降り立ったソウマは闘技場から貸し出された帝国騎士団の使う通常の騎士剣の握りを確認する様に弄びながら反対側から対戦相手が現れるのを待つ。


「さて、次の奴の相手は【十騎聖】達を破った男だったな」


 皇帝が闘技場を見下ろしながら興味深そうに笑みを溢す。


「名前は・・・・・なんと言ったか?」


 皇帝の疑問に後ろに控える【十騎聖】の一人が応じる。


「名前は登録されていません。本人の希望により無記名で出場しております。ただし、種族は人族と記入されています」


「鑑定技能で鑑定して視てみたのか?」


「一応は鑑定持ちに鑑定する様に指示しておりました。しかし、何も分からなかったそうです」


「そうか・・・・・」


 この世界の鑑定技能は所有者本人の技量に依存する代物である。己の力量を大きく上回る相手の鑑定を行ってもほとんどその情報を取得できないのだ。


「その鑑定技能持ちの力量はどれほどだったかな?」


「冒険者ランクで言えばBランク相当の実力はあります。その鑑定で全く何も見えないとなると相当の実力でしょう」


「情報が全く取得できないとなれば単純に2ランク以上は確実でしょう。相性次第では【十騎聖】が敗れてもおかしくはないかと」


 オラソが冷静に分析する。その言葉に隣に居る【十騎聖】の男が不満を籠めてオラソを睨む。


「・・・・・・(全く・・・)」


 オラソはその視線を表情を変えずに受け流しつつも心の中で溜息を吐く。


「(自分達が最強だと言う幻想から何時になったら覚めるのか・・・)」


 【十騎聖】が最強等と言う幻想はそれこそ帝国の中でしか今や通用しない事である。聖王国や神国、それに大陸を渡った大和などに強者はいくらでも存在する。それこそ当代の【十騎聖】よりも強い者などいくらでもいよう。実際にこの大会でもそれは証明されている。確かに種族の優劣に関わらず、埋められる差というものは存在する。しかし逆にシルヴィアやナーバのように生物として絶対に埋まらない部分を持つ者も確かに存在する。自分達人族はそれを弁えた上で己を高めなければならない。


「(もっとも、どんな事にも例外と言うものは存在するものだがな・・・・・)」


 そう思いながらオラソはソウマの姿を思い浮かべる。


「お前はどう見る、この試合を」


 皇帝がオラソに尋ねる。オラソは数瞬だけ思案するが直ぐに口を開く。


「私自身の主観が入りますが恐らくはソウマ殿が勝つでしょうね。正直に申しまして私では彼が敗北する姿を想像することが出来ません」


「まあ・・・・・実は俺もだ」


 オラソの言葉に皇帝は苦笑いしながら同意する。


「今回の事・・・・大会の優勝そのものはどうでもよかった」


 皇帝は傍に用意されていたグラスを手に取り酒を飲み干す。


「知りたかったのは奴等の実力の程よ。予想通りの予想以上だったがな。俺も若い時分に世界を巡り様々なものを見た。目の前の相手がどれほどの怪物かくらいは分かるつもりだ。その中でも吸血姫や竜人の娘程の規格外は見たことが無い」


 皇帝の言葉にオラソが頷く。


「そうですな。本来はあの領域の種族や生物は滅多なことでは人族の生存領域に入ってきません。本来なら一生に一度お目にかかれれば運が良いでしょうな」


 シルヴィア達、王族級の吸血鬼ロイヤル・ヴァンパイアは本来生きるために血を必要としない。嗜好品として気に入った者の血を吸う場合や儀式などで親や同族の血を得る場合である。しかし、それも極々稀な出来事である。同族以外の血を吸ったことが有る王族級の吸血鬼ロイヤル・ヴァンパイアの方が少数派である。

 ナーバの本来の種族である竜族はこの世界の管理者であり中立者であり調停者である。【縁竜王】ウェントゥスの庇護する風の国のような場所もあるが彼等も竜王の力を争いや戦争に使おうとも思っていないしウェントゥス自身も本来はただそこに在るだけの存在である。上位の竜族は余程の例外が無くば自ら竜族以外の種族と直接関わったり手を降したりはしないのだ。


「彼等程のクラスの生き物は人族の勢力図の版図をたやすく塗り替える。ただそう言う生物程思慮深いので滅多な事では手を出さないものです」


「では、何故奴等程の者達がエテルニタ王国にちからを貸しているのか。あの国には【大魔導士】も居る。何が奴等をあの国に留める?」


 皇帝がどこか悔しそうに、そして羨むように息を吐く。


「私の私見ですが・・・・・彼等は金や権力と言うモノに一切興味を示しません。国に忠誠を誓うとも思えません。私の先祖ガラ・コラソの言葉を伝え聞いたことが真実なら彼等は王家の者そのものを気に入ってちからを貸しているようだと」


 エテルニタ王国の歴代王達は皆共通して領土的野心を持たない。周辺国から攻め込まれているのを撃退していくうちに領土を少しずつ拡大していったのだ。


「【大魔導士】はともかく【吸血姫】等は当代の王からだと聞く・・・・・全く羨ましいことだ」


 そうこう話をしている内にソウマと対戦相手の男が闘技場に現れる。


「まあいい、今回のあの男のお手並みを見せてもらおうではないか」


 皇帝は意識を切り変えて闘技場に視線を落とした。


 ※※※※

 ソウマは闘技場に現れて対戦相手の男を視界に収めた瞬間に、強烈な何とも言えない違和感の様なものを感じた。


「(何だ?)」


 ソウマは自らが感じた違和感のようなものの正体の答えを得るために目の前の男を観察する。


「・・・・・・」


 顔を伏せるように佇んでいる男の表情は見えず、その感情は伺い知れない。しかし僅かに見えたその口元がどこか邪悪に歪んだように見えた。


「あ、この野郎!」


 それを確認した瞬間、一瞬で動いた者達がいた。


「アイス!シャルを連れてこの場を離れて!早く!」


 シルヴィアが立ち上がり全身から噴き出すように漆黒の影が噴出してシャルとアイスを護るように前方に出現する。


「何ダ!?」


 ナーバは表情を驚きに染めながらも両手足を竜の鱗で覆い、戦闘態勢を整えている。体内に凄まじい量のオーラを溜め込みながらいつでもこの形態での放てる最大威力の息吹ブレスの準備をしている。

 しかし、この場でもっとも速く行動を起こしていたのはソウマだった。シルヴィアとナーバが行動を起こす更に一瞬早くソウマは最初に闘技場に設置されているライフの加護をもたらす巨大な砂時計を剣圧で破壊する。そして、そのままほぼ同時に男に肉薄すると迷うことなく男の首を斬り飛ばした。


「・・・・・・・・」


 会場はソウマの行動に(ほとんど見えてはいなかったが)唖然として固まっている。砂時計が破壊されたという事は闘技場での復活は叶わないという事である。つまりこれは明確な殺人行為である。


「どういつもりだ、ソウマ・カムイ。流石に故意の殺人行為は容認できんぞ!」


 皇帝が立ち上がり闘技場を見下ろすようにソウマに問いただす。


「・・・・・・」


 しかしソウマは皇帝の言葉には一切反応を見せず、首を落とされて崩れ落ちて倒れている男の亡骸睨んでいる。


「チッ!やっぱ無駄かよ!」


「何を言っている!?」


 自身の言葉に反応をせずに何か悪態をついたソウマに訝しんだ皇帝だったが直後襲ってきた強烈な悪寒に体が硬直した。


「な、な・・・・にが・・・?」


 声を上げることも出来ずに皇帝はその場で膝を着いてしまう。まるで蛇に睨まれた蛙のように体中が思い通りに動かない。


「皇帝・・・・陛・・下」


 そしてそれは皇帝以外も例外ではなかった。周りに控えていた兵や部下は勿論、【十騎聖】の男も膝を落として動けずにいる。辛うじてオラソだけは立っているがその顔からは冷汗が噴出している。


「なんてことだ・・・・・」


 オラソは信じられないというように目の前の光景を見ている。闘技場では全ての観客が皇帝達のように声も出せずに膝を折り中には地面に倒れ伏し泡を吹いている者もいる。


「あれは・・・・・・!」


 そして視線を向けた先には先程ソウマが首を斬り落とした男の周囲から黒い霧のようなモノが噴出している。そしてその霧のようなものの中から首を失った体がゆっくりと起き上がった。


「姉者、あれは何ダ?姉者の影のようなものカ?」


 ナーバがちからを溜めた状態を保ち油断なく状況を観察しながらシルヴィアに問い掛ける。


「あれは・・・・違うわ・・・・」


 シルヴィアも自らの体に影を纏いながら眼前の出来事を油断なく見ている。その表情にはハッキリと焦燥のようなものが感じられる。


「あれは・・・・穴だよ」


 ナーバがシルヴィアの言葉の続きを促そうとした時、別の方向から言葉が飛んできた。


「シャル?」


「あれは・・・穴。黒く見えているのはきっと光さえもあれには届いていないから。光を遮る闇だとかじゃない。光も闇も・・・・全てを飲み込む深く・・・深く広い穴」


 そう本来、今ソウマ達の目の前に現れている現象は何の色も宿していない。しかし、その圧倒的な底の見えないようなちからの奔流が全ての事象を拭き散らかしている。世界を構成する全てのモノを拒絶する激流のようなちから。まさに世界に空いた穴である。光すら拒絶するが故に生物の視界には黒く見えているのである。

 

「おい!皇帝!オラソ!」


 状況に呆気に取られている皇帝とオラソに向かってソウマが叫ぶ。その言葉に皇帝とオラソがハッとなる。


「腹から気合を入れろオラソ!皇帝、テメエも一国の主なら動いて見せろ!這ってでもいいから人を周辺から避難させろ!」


「し、しかし、この、状況では・・・・・」


 息も絶え絶えながらオラソがソウマの声に反応する。


「チッ!」


 ソウマが舌打ちする。確かにオラソの言う様にまともに動けないこの状況では周辺の住民の避難どころかこの闘技場からすら退避させることも難しいかもしれない。


「破ッ!」


 ソウマが目前の靄に攻撃を試みるが、その斬撃はまるでそこに何もないかのように影響を及ぼさない。


「やっぱり呑まれちまうか・・・・・。これ以上の攻撃となると周囲を気にしている余裕がないが・・・・」


 忌々しそうに目の前のソレを睨みつける。目前の状況を呑気に眺めているほどソウマは悠長な男ではない。敵の目的が果たされるのを黙って見守る程優しくも無い。しかし、現状目前のソレをどうこうするには如何せんここには人が多すぎる。仮にソウマがこれを阻止する規模の攻撃を繰り出せば、間違いなく会場の人に犠牲が出る。目の前のソレはそれほど脅威を感じさせた。


「シルヴィアとナーバに避難の頼むか?いや、シャルとアイスを先に避難させるか・・・・・」


 ソウマとて聖人君子ではない。優先順位として先にシャルロット達を最優先に避難させようと考えた時、突如として美しい歌声が響き渡った。


「シャルか・・・」


 ソウマが視線をやった先には美しい歌声を響かせながら歌い続けるシャルロットの姿があった。


「体が・・・!?」

「動く!動くぞ!」

「逃げるんだ!」


 その歌声を聞いた人々が次々と体の自由を取り戻し始めている。そして我先にとこの場から後にしようとしている。


「皇帝陛下!」


「うむ!兵士達に通達だ!周辺の市民の避難を・・・・・・」


「出来るだけ遠くに避難させろ!」


 皇帝の言葉を遮ってソウマが声を張り上げる。


「何だと!?」


「周辺被害を考慮できるような状況じゃあないぞ。人死にを出したくなけりゃあいけるところまで人を遠ざけろ!」


 皇帝は即座に己の言葉を飲み込んだ。今まさに目の前に現れようとしているソレ・・は間違いなく尋常の存在ではない。皇帝の本能が強く呼びかけているのだ。今から最悪・・が顕現しようとしていると。


「オラソ、兵士達を総動員して住民をこの帝都から出来るだけ遠くに移動させろ!事情の説明をしている暇はない故、多少強引でも構わん!住民共も後から死ぬよりはマシだった納得するはずだ!」


「了解しました!聞いた通りだ!今すぐに皇帝陛下指示通りに行動を開始しろ!」


 皇帝の指示に動けるようになった他の【十騎聖】や護衛の兵士までも走り去っていく。彼等は皇帝陛下の命令以上に本心からこの場から一秒でも早く去りたかったのだ。この場には皇帝とオラソしかいなくなる。


「貴様も住民の避難に回ってもいいのだぞ?」


 皇帝が冷汗を流しながらそれでも小さく笑ってオラソに言う。それにオラソも自嘲気味に笑って応じる。


「正直に申しまして今すぐ陛下を抱えてこの場から逃げだしたい気持ちでいっぱいです。しかし・・・・、もう一方で武人としての私の本能は今目の前で起こる出来事を絶対に見過ごすなと言っています」


「ははははははは!どうやらお互いに大馬鹿者のようだな」


 皇帝は全身から冷汗を流しながらも心底可笑しそうに大笑いする。


「あいつら逃げねえのか・・・・」


 ソウマは気配から皇帝とオラソが逃げる気が無い事を察していた。しかし、その視線は油断なく目の前のモノに注がれている。


「もう待ってられねえな」


 観客全員が避難は出来ていない。だが、目の前のモノをこのまま放置も出来ないと判断したソウマは右手を虚空に掲げる。


「《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》!」


 するとその手に凄まじいちからを秘めた竜を象った剣が現れる。


「破ッ!」


 剣を握った瞬間、ソウマは一瞬で間合いを詰めて目の前のソレに向かって刃を振り下ろした。真面に振り下ろされればその余波でこの会場の一部は吹き飛び恐らく少なくない数の住民が負傷することになるだろう一撃をソウマは躊躇なく振り下ろした。そうしなければその程度の被害では済まない事態になると直感していたからだ。


「(最悪ラルクの野郎を呼びつけて住民の治療にあたらせるか)」


 しかし、ソウマの内心の配慮は杞憂に終わる。


「・・・・ほお」


 ソウマは表情を崩さぬままそう溢す。


「まさか!」


 その光景を見たアイスは驚愕に目を見開いている。

 ソウマの振り下ろした《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》の刃が黒いモノから生えてきた腕に掴み取られていたのだ。


「・・・・・・・」


 無言で《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を掴み取られた腕を見つめるソウマ。すると徐々にモノの中から腕以外の全身が出てくる。一見するとそれは普通の人種の青年だった。見た目の年齢はソウマとほぼ同じ。身長も似たようなものだ。だが、最大の相違点があった・・・・・。


「何だ・・・・・あれは・・・・・顔が・・・・」


 皇帝が呟いた言葉、目の前の生き物のような存在には顔が無かった・・・・・・。いつの間にかソレが出てきた黒い穴は消失していたが代わりのようにソレの顔にはソレが出てきた黒い穴が開いていた。まるでそれと相対するもの全てを飲み込みかのような不気味さをソレは醸し出している。


「多少姿形は違うかもしれないが、こんなに早く出会うことになるとは思わなかったぜ」


 ソウマは好戦的な笑みを浮かべながら目の前のソレ・・と平然と相対している。


「■■■■?」


 対してソレ・・何事かを呟きながら首を傾げている。その呟きはこの場の誰にも理解されないものだった。


「思ったよりも真面な外見してるなあ・・・・・・魔神」


 ソウマはそう言って闘気を開放した。

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