61話 本戦開始
本当に久しぶりです。実は数年前から脳の病気を患いまして更新が完全に途切れてしまいました。読んでくれていた人には本当に申し訳ありません。この話も実は入院中のベッドの上で書いています。今後どの程度の頻度で更新が出来るか分かりませんが頑張って更新していきます
本戦開始前の三日間の休みをソウマ達は十分に堪能した。名物料理や名所を回りながら観光を楽しみ。偶に出現するシルヴィア達に対するちょっかいを問題なく片付けながら休みを満喫した。
「一応帝国できることはあらかたやりつくした感じだな」
「そうね。料理も食べたし心残りは無い感じね」
「美味かったナ」
「美味しかったね」
「いやいやいや、師匠も姉上もナーバもシャルもまだ終わっていませんよ。闘技会が明日から本戦が始まりますよ。一応それに私達の誰かが優勝に成らなくてはいけないのですから」
「そう言えばそんな事もあったな」
シルヴィアが呆れながらソウマ達を嗜める。ソウマにいたっては本当に明日の朝にはこの国を出立しそうな感じである。
「一応エルフ達を助ける名目もあるのだから最後までキチンとしましょうか」
「本戦の組み合わせはどうなるんでしょうか」
「帝国側からすれば自分達が有利になるように私達が潰しあうような組み合わせにすると思うけど」
「まあ、それは無いだろうよ。あの皇帝はそんな小細工をするような奴じゃないだろうよ」
「でしょうね。というよりも多分どうやっても自分達が勝てないのを薄々感じているんじゃないかしら?」
「あの人間の王は確かに相手との力量差位は感じ取れる程度には見えたナ」
「そう言った意味では当代の皇帝陛下は歴代と比べても中々に懸物ということでしょうか」
「まあ考えた所で結果が分かるわけじゃない。こうして考えていても埒が明かないから寝ようぜ」
ソウマは欠伸を噛み殺しながら自分の部屋に帰っていった。
「確かに考えても仕方ないですね。私達も寝ましょう」
「ナーバ姉様、今日は私と一緒に寝よう!」
「ああ、いいゾ」
シャルロットはナーバの腕に抱き着いて部屋まで付いて行った。
「それでは私も・・・・」
そう言ってアイスも自分の部屋に帰っていった。
「ところで・・・・・・・」
自分の部屋に帰ってきたソウマは扉を閉めて溜息を吐くと後ろを振り返る。
「なんでお前は付いてきてんだ?」
ソウマが後ろを振り返るとそこには笑みを浮かべたシルヴィアが立っていた。
「別に恋人の部屋に来るのは自然な事でしょう?」
「寝ないのか?」
「ソウマも私も本来なら睡眠は必要ないでしょう。だったら恋人同士有意義に時間を使いましょうよ」
「しょうがねえ。有意義に使うとするか」
「!」
そう言った瞬間ソウマはシルヴィアの手を取る。そしてそのままふわりとシルヴィアの体が浮き上がりシルヴィアはその早業に抵抗する事すら出来ずにベッドに投げ飛ばされる。
「よっと」
ソウマはベッドに仰向けになったシルヴィアに覆いかぶさる。
「あの~ソウマ?」
「恋人同士にしかできない有意義な使い方をしようと思ってな」
ソウマの行動にシルヴィアはいつも通り真っ赤になってしまっている。
「普段のソウマさんからは考えられない行動に私は非常に戸惑っているのですけれど・・・・・・」
あまりの動揺に口調が若干変わってしまっている。
「俺だって健全の男だぜ?そりゃあ好きな女と一緒の部屋にいりゃあやることなんて限られてくるさ。こちとらつい最近まで童貞だったんだぜ?」
「武道家は厳しい修行で自分を律することを得意としてるんじゃないの?」
「時と場合に寄りけりだ。そもそも本当に自分を律して克己心を育てたい奴が強さなんて求めるかよ。修行で大事なのは必要な時に己の精神を制御する方法を学ぶことだ。そして今は・・・・・」
そうしてソウマはシルヴィアの頬に手を添える。
「本能に従えと俺の精神は言っている」
そのままシルヴィアの唇に自分の唇を重ねた。
※※※※
本戦開始当日。ソウマ達は早速闘技場の観覧席に付いて試合開始を待っていた。予選時と同じくシャルロットとナーバの両手には山盛りの食べ物が抱えられている。
「特に予選の時のように皇帝の挨拶等も無く本戦は始まるようですね」
「堅苦しい事してもしょうがねえからな。客は戦いを見に来てるわけだからさっさと始めるに限るよ」
「一応本戦は今日一日で終らせるみたいですからね」
「さっさと始めロ(モグモグ)」
これまた予選と同じくソウマ達には周りの視線がかなり集中している。シルヴィア達の美貌はもはや帝国人の異種族がどうこうという考えすらどうでも良くなる美しさであるようだ。
「予選一回戦目は私の出番のようです」
一回戦ごとに公開される組み合わせ表に視線をやり自分の名前を確認したアイスは立ち上がる。
「相手は【十騎聖】の一人のようです」
「がんばってね!アイス姉様」
「油断だけはするなよ。今のお前じゃあ【十騎聖】相手だと油断は禁物だからな」
「大丈夫よ。今のアイスなら魔術を使わなくても剣技だけで十分【十騎聖】ともやりあえるわ。なんせソウマ仕込みだもの」
「あんな奴等問題ないだろウ」
「はい、大丈夫です。油断も慢心もしません。今の条件で出せる全力で相手に向かいます」
アイスは小さく微笑むとそのまま闘技場に続く階段に向かっていった。
『皆さま!お待たせいたしました!ただ今より本戦第一試合を開始いたします!』
会場中に響き渡る魔術による放送がされると同時に観客から割れんばかりの歓声が起こる。それに押されるように二人の戦士が闘技場に入場してくる。
「エテルニタ王国騎士団長アイスクル・グラシオです」
「帝国が【十騎聖】が一人レオーネ・カルーリと申します。以後お見知りおきを」
闘技場に入り中央に歩み寄ったお互いはまずは自己紹介から入る。
「貴女が数十年前に当時の【十騎聖】を倒したことによりそれ以降の【十騎聖】は評判が下がった。大陸最強の軍と言われた帝国も今では貴女方エテルニタ王国の騎士団に奪われた」
「謝罪の言葉が必要ですか?」
「いいえ。我々帝国人にとっては種族以上に強さこそが全て。当時の【十騎聖】が貴女に敗れたのは変えようのない事実であるし実際にエテルニタ王国の騎士団も強い。しかし我々今代の【十騎聖】は貴女が破った当時の【十騎聖】よりも強い!」
そう言うと同時にレオーネが腰の剣を抜き、切っ先をアイスに向ける。
「それを貴女をここで倒すことで証明して見せよう。そして魔族との戦争に我々帝国軍が勝利することで大陸最強の軍も我々帝国軍であることも証明します。今こそ我々帝国こそが大陸最強である事を証明するのです」
「ふう」
力強く言い切ったレオーネ。そのレオーネの切っ先を喉元に突き付けられながらもアイスは眉一つ動かさず小さな溜息を吐いた。
「帝国に大層ご執心のようですね。愛国心があるのは大変結構だとは思いますが行き過ぎればただの驕りにしかなりませんよ」
その言葉にレオーネの額が軽く痙攣する。
「この私が驕っていると?」
「私の師の言葉によれば謙遜も行き過ぎれば技を曇らせるモノですが慢心や驕りは更に質が悪い代物だそうです」
ヒュンッ!
無言でアイスの首に向かって振るわれたレオーネの一閃。アイスはそれを数センチ首を後ろに逸らすだけで表情一つ返す回避する。
「良く避けましたね。しかし今の一撃にもし私が魔力や込めたり斬撃を飛ばしていれば貴女は・・・・・」
するとアイスが初めてその表情を変えて小さな微笑を浮かべる。
「馬鹿にされたものです。先程の一撃、魔力が込めていないことは見なくとも感じられます。それに今程度の斬撃の速度ではとてもそんな芸当は不可能です」
今度はアイスが腰の剣を抜き放ち切っ先を突き付ける。
「お喋りはもういいでしょう。これ以上言葉を並べた所で私と貴方は平行線です。ならば剣での決着を言葉の代わりにするのが良いでしょう」
「いいだろう!」
先程以上に強く踏み込んだレオーネの一撃は先の倍以上の速度でアイスの首に迫る。その斬撃をアイスは今度は大きく横に避ける。振り切られた斬撃の延長線上に地面が切り裂かれる。その結果を流し目で確認したアイスに更に追撃で数撃飛ぶ斬撃が接近する。アイスは振るわれたその攻撃を全て落ち着いて回避する。
「【飛閃】のレオーネの斬撃から逃げられれると思うな!」
表情一つ崩さずに回避するアイスに焦りを感じたのかレオーネは只管に攻撃を繰り返す。
「今の代の【十騎聖】はあんな感じのしかいないのかねえ」
観客席から見下ろしながらソウマが少し残念なような呆れるような表情で観戦している。
「そうね。正直に言ってしまえばオラソが頭二つ分位は実力が抜け出てる感じね。確かにそこいらの者達に比べれば強者の位置に居るのかもしれないけれど・・・・・・」
そこまで言ってシルヴィアも溜息をつく。
「【十騎聖】という地位に胡坐を掻いて驕り高ぶっている者だらけなのかしらね」
そう言いながら視線を闘技場に戻せばレオーネが未だに我武者羅に斬撃を飛ばし続けている。
「はあっはあっはあっ!」
傍から見れば攻め続けているレオーネがアイスに攻撃の隙さえ与えない猛攻をしているように見えるがその消耗度は一目瞭然。レオーネは息を完全に切らしておりその顔には誰の目にも明らかだ。対してアイスの方は汗一つ掻いておらずその表情も試合開始時点から全く変化しておらず無表情のままである。
「・・・・・・・・・」
観客は最初こそ攻め続けるレオーネを応援していたが今や静まり返っている。最初の頃にレオーネの勝利を確信していた観客達も今ではその表情は凍り付いている。
「何故反撃してこない!」
体力の限界を迎えたのか、レオーネは剣を降ろして攻撃を中断する。しかしの好機においてもアイスは反撃することなく距離を取ったまま様子を見ている。
「私を愚弄しているのか!」
「そう思うのであればそう思っていてもいいです。私と彼方の実力差が理解できないのであればここでこの試合は終わりです」
アイスはこの試合で始めて剣を構えた。そして静かではあるがその構えている剣以上の鋭い殺気を放ち始める。
「・・・・・・・」
「くっ!」
アイスが先程とは打って変わって構えた状態でじりじりと距離を詰めようと接近する。しかし今度はレオーネの方がアイスの接近を嫌がるように後退する。先程までは斬撃を飛ばしつつも距離を詰めようとしていたレオーネだったが今度はアイスの接近を嫌がるようにアイスのゆっくりとした接近に合わせて一歩ずつ後退していく。
「あらあら、完全にアイスの殺気に押されているわ。馬鹿な男ね。アイスが実力を悟らせて優しく終わらせる機会を上げたのにね」
「どういうこと?」
シルヴィアの言葉にシャルロットが砂糖菓子を舐めながら首を傾げる。それにシルヴィアは微笑みながらシャルロットの頭を撫でる。
「戦士の度量は自身の技量以外にも相手の技量を素直に認められるかどうかもあるのよ。相手の強さと自分の強さを認められるのも強さの内よ。それを認められずに挑むのは勇気とはいわないわ。蛮勇と言うのよ」
「でも前にソウマは勝てない相手にも挑むことがあるって・・・・。ナーバ姉様だって・・・」
シャルロットはソウマとナーバを交互に一度見ながら恐る恐る言葉にする。どうやら以前ソウマとナーバの戦いの事を言っているようだ。
「理由だよ」
「理由?」
シャルロットの疑問にソウマが答える。
「実力差を埋めるだけの理由がある場合は違うんだよ。信念や誇りや魂、言い方はまあ色々あるが負けられない理由とはまた違う終われない理由って奴だな。あの野郎にはそこまでのものはねえ。ただアイスとの実力の差が理解できていないだけだ。【十騎聖】とやらの誇りもあるのかもしれないがそこまでのモノには見えないしな」
「?」
しかしソウマの説明を聞いてもシャルロットには未だに理解が及ばないのか疑問符が消えていないようだ。それも仕方のないことかもしれない。そもそも戦う者ではないシャルロットには理解しにくい事である。そんなシャルロットの頭に今度はナーバが手を置く。
「野生の世界においても相手の力が自分より上かどうか判断するのは生き残るうえで重要な要素ダ。むしろそれこそ最初に身に付ける能力だナ。まあ私はソウマと姉者に最初に会った時は御爺様の事での怒りで眼が曇ってしまったガ・・・・」
「ほれ、そうこうしている内に決着が着くぜ」
ソウマの言葉に視線を闘技場に戻せばレオーネが等々壁際まで追い込まれていた。その顔は憔悴が誰の目にも明らかであり一撃も貰っていないとはとても思えない様子である。
「う、うううううわああああああああ!!!」
壁際に追い込まれたレオーネがついにアイスからの殺気の刃に耐えられなくなったのか叫びをあげながらアイスに向かって上段に剣を構えて向かっていった。
「はあっ!」
振り下ろされた剣はその必死さゆえかこの試合で最も鋭い一撃を放っていた。しかし・・・・。
「!」
振り下ろした本人自身の目は焦りと恐怖で曇っていたようだ。振り下ろした剣の先には既にアイスはおらずに殺気の残り香による幻影をレオーネは見ていたのだ。そしてそれを認識した時には全てが遅かった。
「・・・・・ふっ」
レオーネの最後の視界に移ったのは腰を深く落として腰だめに構えた剣を振り切ろうとするアイスの姿だった。それを見た瞬間にレオーネの意識は闇に落ちていった。
「やはりあの者も強いな・・・・・・」
その試合の決着を最も高い位置から見ろしながら皇帝がそう感想を漏らす。
「あれが恐らくはあの一行のシャルロット姫を除けば最も戦闘力に劣る者だと言うのだからな・・・・」
「それでも弱いはずはないでしょう。彼女はかのエテルニタ王国の騎士団長です。間違いなく我等【十騎聖】と同等以上の実力を持っています」
「それは貴様以上という事か?」
そう言って皇帝は可笑しそうに斜め後ろに控えているオラソに訊ねる。
「・・・・・まあ、勝てないと、言う訳にはまいりませんが・・・・・・・」
そう言いながらオラソは闘技場を後にしようと歩いているアイスの背を見つめる。
「(・・・・・・純粋な剣の技量では・・・・・私が上だろう。恐らくは魔術は意図的に使用していないのだろう。彼女の本来の戦闘スタイルは剣術と魔術を織り交ぜた魔剣士型だ。あの剣も彼女本来の剣ではないだろう。それを踏まえた上で・・・・・・五分五分か・・・・・)」
オラソが内心で考えている自らとアイスの戦力分析はソウマの分析とほぼ同じ内容だった。今回の闘技会にはオラソは参加していない。皇帝の最強の近衛たる【十騎聖】が全員大会に参加するわけにもいかず、ほぼ半数以上の【十騎聖】が参加する以上は皇帝の護衛には【十騎聖】最強のオラソが付くしかない。なによりオラソ自身の内情もあって闘技会には参加しなかった。
「・・・・・・・」
しかしそれでも無意識に戦士としての本能が自らの腰に下げた愛刀の柄を触らせる。疼く戦士の本能が無意識に戦闘態勢を取らせている。それを横目で確認した皇帝は小さく笑っている。
「しかしアウロ王が羨ましいな。あれ程の強者が集う国なら俺ならば大陸の覇権を取る為に動くところだがな。大魔導士に伝説の吸血姫、氷の騎士団長にあの実力の底のしれん男もいる。アウロ王自身も何か得体のしれないモノになった噂もある」
グラスの酒を呷る。
「あれで奴や周りの部下に野心さえあれば大陸の覇権は今頃は・・・・・・・・。まあ仮定を想像しても仕方が無いがな」
「お疲れ様」
観客席に戻ってきたアイスにシルヴィアが微笑みながら声をかける。
「まあまあの内容だったぜ。もう少し殺気に鋭さを持たせる事だ。そうすりゃあ最後の一太刀も必要なくなる」
「アイス姉様恰好よかったよ!」
「ありがとう、シャル」
「ふぉくあっあた(訳:良くやっタ(食事中))」
「ナーバ、せめて労うなら口の中の食べ物を飲み込んでからしなさいな」
「どうやらこの後は私の出番のようね」
次に発表された組み合わせを見たシルヴィアが立ち上がる。
「まあほどほどに頑張れ」
「シルヴィア姉様頑張って」
「姉上ならばなんの心配もありませんね」
「楽勝ダ」
その後シルヴィア、ソウマ、ナーバと続けて試合が行われた。三人の相手はいずれも【十騎聖】であったがまるで問題にせずに三人は勝ち残った。残りの四試合も終了し次に残る八人の戦士が決定した。帝国国民にとっての予想外は残った八人の内【十騎聖】が二人しか残らなかったことだろう。本戦に残った七名の【十騎聖】の内四名がソウマ達に敗れ去り一名が本戦に残った無名選手に敗れ去ったのだ。帝国民の予想を言えばもし【十騎聖】が敗退することがあったとしてもそれは【十騎聖】同士の対戦に限ったことだと思っていたのだ。帝国民達は今回の闘技会の行く末に不安を隠せないでいた。
「結局【十騎聖】は二人しか残らなかったみたいね」
今日の試合が終わり本戦二回戦が翌日と伝えられたソウマ達は宿まで戻った後に食事をする為に飲食店に来ていた。
「予選で【十騎聖】を破ったアムラと言う方も本戦でも【十騎聖】を破って勝ち残りましたね。他に予選を勝ち上がってきた者同士が当たり一人が勝ち上がり他の【十騎聖】二人も勝ち残りました」
「ソウマは私達以外に残った人達で気になる事はある?」
シルヴィアが隣で食事しているソウマに問い掛ける。ソウマは口一杯に頬張っている食事を粗食しながら視線をシルヴィアに向ける。次に視線を彷徨わせた後に口の中の物を飲み込んだ。
「まあ純粋に気になると言えばアムラと言う奴だな。中々の技を持っているようだからな。もう一人の一般参加は名前は何て名前で登録してるんだ?」
ソウマの質問の仕方に違和感を覚えたアイスだがそれ以上は気にせずソウマの問いに答えるべく記憶を掘り起こす。
「確か・・・・・・あれ?何と言うお名前でしたでしょうか・・・・思い出せません」
アイスが困惑を顔に浮かべている。
「何故思い出せないのでしょうか・・・・・。いえ、それどころか・・・・」
「そいつが戦った姿すら思い出せない、だろ?」
「!」
ソウマの指摘にアイスが目を見開いて驚きを露わにする。
「師匠は何かに気付いているのですか?」
「そんな大層なもんでもないがな。そいつに関しては最初から俺があまり関心を寄せていないから判断がつかない。今回もまあ何とも面倒事が起きそうだってことくらいだからな。シルヴィアもナーバも何となく感じてるんだろ。この肌がビリビリ来る感じ」
「そうね。私もあんまり他の試合を真剣に見ていないから。それでもなんだがこの大会が開始されてから良く分からない悪寒が有るのよね」
「実は私もそうだナ。尻尾の鱗がザワザワとこすり合っていル。まるで私を叱る前の御爺様の前にいるようダ」
「その表現はどうなのかしら?ともあれ私達三人が同じように感じているという事はこの感覚は気のせいというわけではないようね」
「以前にヴェント国でのように魔族が何かを企んでいるのでしょうか?まさか魔神の封印が?」
「それは分からないわね。でも今回はヴェントの時とは違ってシャルが変わった様子を見せていないのよね」
シルヴィアの言う通りシャルロットは特に変わった様子を見せずに相変わらず食事を楽しんでいる。
「どうでしょう。シャル場合は前回のことで精霊がシャルを怯えさせないように気を使っている様にもみえなくもありません。以前にも増して精霊がシャルに過保護に接している様にも感じますし・・・・」
するとシャルが食事の手を止めて顔を上げた。
「精霊さん達はこの国に来た時からずっと不安な気持ちを拡げているよ。最近はそれが段々と強くなっているよ」
「じゃあどうして貴女はそんなに落ち着いているの?いつもなら不安そうにしているはずだと思うけれど・・・」
「うん・・・・前までの私だったらそうだったかも。すぐにソウマやシルヴィア姉様に縋ってたかもしれない。でもそれじゃあ駄目だって気付いたんだ。ヴェント国の時は違ったけど私はやっぱり皆みたいに強くないから戦いでは役に立てない。だったら私に出来る事はどんな時でもソウマや姉様達を絶対に信じることだから」
そう言ったシャルロットをシルヴィアは嬉しそうに抱きしめる。
「貴女は本当に強くなったわね」
「それだけソウマや姉様達が強いってことだよ」
「ともあれ俺達の感じているものが何かは分からない。原因がその名前も分からない奴が原因の可能性は高いだろうな。だが現状どうこうしたところで何かが変わるのかは分からない。向こうも自分の正体がバレるのを前提で動いている気もするしな」
「何かしてくるなら正面から叩き潰す、のよね」
「そうだな。狙いが俺達ならいいし帝国の皇帝の命なら・・・・まあそん時に考えるか」
「帝国側にこの事は?」
「言った所であの皇帝のことだから敵が何を企んでるか知りたいとかって言って普通に大会を運営するさ」
「そんな気がしますね」
そう後、ソウマ達は他愛無い会話をしながら食事を終えて宿に帰った。そしてソウマが自室でゆっくりしていると訪ねてくるものがいた。
「どうぞ」
「ソウマ」
ソウマが返事をすると入室してきたのはシルヴィアとシャルロットだった。二人の表情には笑顔は無く少し真剣な面持ちだった。
「どうした?真面目な顔で俺の部屋になんの用事だ?」
「ソウマに少し訊ねたいことがあるの」
「そりゃまたなんだ?」
「ソウマ、魔神の復活を防げると思う?」
「・・・・・・何故それを?」
「シャルも実は心の奥底でいつも不安を感じているの」
「私の心のどこかでいつもそれが有るんだ。変えられない不安な未来が必ずやってくる予感があるの」
「俺の予想では・・・・・いや、恐らくは竜王のおっさんも感づいているだろうが、魔神の封印は既に効力を失っている」
「!」
「!」
「以前ヴェントで野郎の気配に直に触れたがほぼ間違いないだろう」
そのソウマの言葉にシャルロットは青ざめシルヴィアは驚愕を隠せないでいる。
「じゃあどうして封印から出てこないのかしら?」
「いつでも出てこれるのかもしれないがそれなりの代償も必要なのかもしれないな。魔族の連中はそれをより完全に近い形での復活を行うために今動いているんだろうよ。つまりどっちにしろ魔神の復活は防げない。だがこのまま魔族の連中の思惑を邪魔していれば恐らくは完全な形での魔神の復活は防げるはずだ」
「・・・・・・仮に完全な復活を防げたとしても魔神を倒せる?」
「倒すさ」
シルヴィアの問いにソウマはいつものようになんの迷いもなく即答する。
「ソウマ」
「魔神の野郎が相当強いのも分かってる。なんせ大昔に竜王のおっさんが仕留めきれなかった位だからな。だが、その事実自体も些細な問題だ。やる以上は俺は勝つ。例え相手が俺よりも強くても俺がそいつよりも強くなればいいだけの話だ。俺はそうやって今まで強くなっていったんだからな」
ソウマは自分の両手を見つめる。その後に視線をシルヴィアとシャルロットに向ける。その瞳には恐れや不安は無い。自らのやるべきことを見定め迷いなく進んでいくものの瞳だった。その瞳を見つめていると二人の心に有った不安が霧散していく。
「自分より強い奴と戦うのは俺の・・・・・武術の得意分野だ」
そう言った時のソウマの言葉と表情に二人のソウマに焦がれる女性の心臓は跳ね上がる。
「ソウマ!今日は私もソウマと一緒に寝たいよ!」
そう言うと同時にシャルロットがソウマに抱き着いてくる。ソウマはそれをがっしりと受け止める。
「別に良いが・・・・・・」
「シルヴィア姉様も一緒に寝よ!」
その言葉にシルヴィアはくすりと笑う。
「良いわよ(この子にはまだやっぱり早いみたいね・・・)」
その日の晩、ソウマ達はシャルロットを真ん中に挟んでまるで家族のように眠りついた。
「三人で寝るのも久しぶりだな」
「そうね。シャルがまだ小さい時にしかしていなかったものね」
「私は本当は今も毎日三人で寝たいんだよ?」
三人で横になってしばらく他愛もない会話を続けているといつしかシャルロットから規則正しい寝息が聞こえ始める。
「この子の寝顔は一晩中眺めていても飽きないわね」
「ああ」
「ソウマ」
「ん」
「この子の笑顔を守ってね」
「ああ」
「私もよ?」
「言われるまでもない」
ソウマとシルヴィアはシャルロットの体の上に自分達の手を重ねて微笑んだ。その手から感じる感触をお互いが確かめるように握りしめ合うソウマとシルヴィア。
「ソウマ・・・・・・姉様・・・・・・」
するとシャルロットがソウマとシルヴィアの握り合う手の上に自らの両掌を重ねてきた。相変わらずその両の瞳は閉じられておりその口からは規則正しい寝息が聞こえてきている。どうやら寝言を言いながら手を自然とそうしたようだ。それを見たシルヴィアとソウマが小さく笑う。そして自分達の手の中にシャルロットの手を包み込む。
「大丈夫よ。私もソウマも決して貴女を一人にしないわ。ずっと傍に居てあげるから」
その言葉が眠る彼女の意識に届いたのか分からないがシャルロットの寝顔が先程以上に安らかなものへと変化する。そして更に握る手に力を籠める。
「・・・・・・・・」
静寂が包む室内でソウマとシルヴィアは飽きることなくシャルロットの寝顔を眺めていた。
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