表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
61/72

60話 休日②

「私達が鉱石などを買い付ける時は商業ギルドから原石となる鉱石等を買い付けて加工する場合があります。もちろん宝石や素材に加工済みで買い取る場合もあるのですが加工費がかかるのでほとんどが原石から加工しますね。当然買い付けには優先順位があり私のような最下層の者では無価値同然の屑石しか回してもらえません。その山の様にある屑山の中から適当にいくらか取って僅かな鉱石や宝石があることにかけるのです。しかしそれでさえかなりの運に恵まれなければいけません。私達も最初はなんの成果も出せませんでしたよ」


 店主はそう言いつつ自分の娘の頭を撫でた。


「しかしある日この子が私に付いて鉱石の買い付けに付いて行きたいと言った時にこの子が私が拾おうとしている山の中から突然自ら選び始めたんです。最初は私も半信半疑でしたが次々と全く迷いなく選んでいくこの子を見ていて信じてもいいと思いましてこの子に好きに選ばせた石を持って帰り妻に加工させてみたのです。するとその鉱石からは良質の宝石や希少金属が獲れまして。その後もこの子が選ぶ鉱石には次々と同じような結果が起こりまして・・・・・・。この店で並べる以外にも加工した宝石や希少金属を他の店等に買い取ってもらって何とか私共は暮らしています」


 店主の話を聞く間、ソウマ達は特に表情を変えることもなく話を聞いていた。その中でアイスが飲んでいたお茶のカップをテーブルに置いて口を開く。


「・・・・・・その子の能力が本物であるのであればもっと利用すればもう少し裕福な暮らしが可能なのでは?」


 そのアイスの質問に店主は困った顔をする。


「確かにその通りなのですが・・・・・できればそれはしたくないのです」


「何故でしょう?」


「商人としては私も祖父や父同様に甘いのかもしれませんが家族を金儲けにはあまり利用したくないのです。この子の才能はうまく使えば確かに財を築けるかもしれません。しかし私は祖父や父に教わりました真の財とは己の家族なのだと教えられたのです。もしこの子の才能を他の者に明かせば必ず良からぬことになります。それは絶対にこの子の未来において害になることのはずです」


 店主は一度顔を伏せてしまう。そして拳を固く握りしめる。


「しかしそれでも私は父親としても失格かもしれない。結局は妻にも子供には苦しい生活を強いている事には変りはないのですからね」


「そんなことは無いわ」


 しかしその店主の自責の言葉を遮ったのは店主の隣に居る妻だった。夫の手に重ねるようにして自らの手を重ねて顔を見つめる。


「貴方が私や・・・・何より子供達の事を一番に考えてくれていることは私が誰よりも良く知っています。確かに生活は以前と比べると苦しいかもしれません。それでも私も貴方と一緒になったことを後悔していませんし子供達も貴方を恨んではいません」


「私お父さんの事だいすきだよ?」


「ぼくもー」


「・・・・ありがとう」


 店主は二人の子供達を抱きしめる。


「では貴方は今の現状に後悔は無いと?お父上を恨んではいないと?」


「はい、父は私の誇りでした」


 アイスのこの問いに店主は一瞬の迷いなく今までの表情とは違い自信を持って答えた。


「ではもし今後何かしらの機会が有ると思いますか?」


「・・・・・・・・もしそんな機会が有るとすればきっとこの子達が私にもたらしてくれるものでしょう。私も父のように家族の為にこそ商いを行いたいと思います」


 その店主の答えに満足したかのように頷いたのは質問をしていたアイスではなくシャルロットだった。その姿は普段の幼さが残るものではなく王族特有の威厳を纏っていた。その姿に思わず店主もその妻も圧倒される。


「今の言葉に偽りはないと私は感じました。だから彼方に私は機会を与えたいと思います」


「え?」


 店主はその言葉が未だ理解できないでいた。というよりもシャルロットの雰囲気に完全に飲まれていると言ってよかった。するとアイスが懐から大量の金貨を取り出した。


「これでそこにある一番高価な宝石を全て買わせていただきます。これで足りるでしょうか?」


「ええ!!??」


 いきなり目の前に広がった金貨の山に夫婦そろって驚愕の声を上げる。


「な、なななな何故いきなり!?」


「これを元手にして護衛でもなんでも雇ってこの帝国を出ろってことだ。これだけあればかなりの腕の立つ護衛も雇えるだろよ」


 ソウマの言葉に店主は更に慌てた様子を見せる。


「この国を出ると言われましてもそんな急に・・・・・・・・・」


「よく考えろ。確かに現在の帝国は少し前よりは良くなったらしいが今の状態からアンタが一から築き直すには環境が悪すぎる。何よりこの国とアンタの人柄は相性が悪い。この状況を変えるには土地と環境を変えるしかない」


「しかし、どこに行けばいいのか・・・・・・。祖父も亡くなり妻の親族にも頼るわけにはいきません。何より国を変えたとしても資金は元より繋がりが全くない状態では商売をしても家族を養うことなどとてもできません」


「エテルニタ王国に行きなさいな」


 今度はシルヴィアがエテルニタ王国の方角を指差しながら言う。


「エテルニタ王国・・・・・・確かにそこなら・・・・・いや、しかしそれでも私はエテルニタ王国には一度も言ったことが無い」


 エテルニタ王国は大陸でも有名な程に治世に優れている国として有名である。シルヴィアやアイスの武勇やラルクの智慧などにより彼の国は大陸でも有数の人口を誇る大国でもあるのだ。最近では魔族との戦闘を恐れて移住する者も増えているために国の拡張工事も行われているほどだ。


「いくらエテルニタ王国でも何の伝手のない状態ではとても商売は始められない」


 新たな土地での商売を成功させるためにはその土地の者達との繋がりがあるか十分な資金がある必要になる。なんの後ろ盾もなく商売を成功させるなどそれこそ賭けに等しい行為だ。とても養うべき家族がいる者が出来る行為ではない。


「アイス姉様」


 シャルロットがアイスに視線を投げるとアイスは分かっていたかのように懐から一枚の紙を取り出した。シャルロットはその紙にアイスから渡されたペンで紙に何事かを書き込んだ後に紙の右下に親指を押し付けた。


「これを持ってエテルニタ王国に行ってください」


 それは紹介状だった。その紙はラルクが開発して今やこの世界中で普及しているといっていいものであり、登録した者の魔力をその魔力に通すと特殊な刻印が紙のどこかに浮かび上がる。主に各国の王族の特徴である紋章が一般的に使われておりその刻印に対してはその国の王族の魔力にしか反応しないようにできている。エテルニタ王国の紋章は乙女が何かを祈るような姿が描かれた刻印である。そして当然商人であればその紙の意味と各国の国の紋章は当然知っている。その紙には薄桜色の色で浮かび上がるエテルニタ王国の紋章が浮かび上がっていた。


「貴女は・・・・まさか・・・・」


 店主はその事実に驚いて声も出せないでいる。店主の妻も片付けようとした飲み物の入れ物を地面に落としてしまったがそれにも気が付いていない。唯一子供たち二人だけが意味を分かっていないために再びナーバにしがみ付いて遊んでいる。


「エテルニタ王国王位継承権第二位シャルロット・ウトピーアが貴方達に機会を与えます。これを持って私の国に入ればそれだけで信用には十分でしょう。貴方の子供達の為にもそこで一からもう一度やり直してください」


 そしてようやく状況が理解できた商人夫婦はその場の地面に膝をついて頭を下げる。


「な、何故エテルニタ王国の王女殿下がここにおられたのかは存じませんが私共や子供達が大変なご無礼を・・・・・・」


「それについては別に気にしていません。むしろ貴方達にこのよう様な形で正体を明かしてしまし申し訳なく思っています。しかしそれでも私は貴方達を頬っておけなかったのです。詳しい事は聞かずどうか私の我儘なこの善意の押し付けを受け入れてくださいませんか?」


「押し付けなどとんでもございません!訳も詳しくは聞きません!王女殿下が与えてくださったこの機会に全力で応えるだけでございます!」


「ありがとう」


 店主の言葉にシャルロットは嬉しそうな笑顔を浮かべる。すると何か気付いたのかネーナがシャルロットの方にやってくる。


「お姉ちゃんありがとう」


 そしてシャルロットに向かってお礼と同時に頭をちょこんと下げる。


「どうしたの?」


「うんと・・・・・なんだが誰かにお礼しなさいって言われたの、わたしにもよくわからないけど・・・・・・」


 ネーナは自分でも何を言っているか分からないように首をかしげている。


「でもでも、お姉ちゃんがお父さんの為に良いことをしてくれたのはわたしにも分かるの。だからありがとう!」


 意味は分からずともネーナは自身の精一杯の笑顔でシャルロットにお礼を言う。それを見てシャルロットもつられる様に笑顔に変わる。そしてネーナに視線を合わせるようにしゃがみ込む。


「お礼は言わなくてもいいけどその気持ちは大切に受け取るね。でもね、私がお父さんにしてあげたことは君の御かげでもあるしお父さんお母さん自身の御かげでもあるの。だから、これからもネーナもローもお父さんとお母さんの事を支えてあげてね」


「うん!」


 その後すぐにシャルロット達はその場を後にした。店主と妻はシャルロット達の姿が見えなくなるまで頭を下げ続け、ネーナとローは最後まで笑顔で手を振り続けた。


「なるほどね」


 ネーナ達と別れてしばらくして、雑踏の中を歩きながらソウマが突然そう言う。何やらシルヴィアと会話していたすえの納得の声を出したようだ。


「シャルがえらくあの子に興味を抱いていたのはそう言うことだったのか」


「そう、あのネーナという子には精霊が懐いていたの」


「はい、それも土精霊ノームの眷属に類する下位の精霊でしたね」


 アイスもそう補足を入れる。


「俺はそもそも精霊が見えないから。お前等は何時気が付いたんだ?」


「シャルがあの子に近付いてしばらくしてからよ。多分、アイスもナーバも大体同じじゃないかしら?」


「姉上の言う通りです」


「私もダ」


「そうなのか、何か切っ掛けでもあったのか?」


「恐らくシャル影響でしょうね」


「どういうことだ?」


「【精霊神楽曲】を見に付けたことによってシャルは前以上に精霊や神等の上位存在に強い干渉力を獲得したと思うの。逆にいえがそれは精霊や神達からのシャルに対する影響力や干渉力が強まったことでもあるわ。多分だけれどシャルの傍にいる精霊はしばらくすると他の者にも見えるくらいに可視化するんじゃないかしら」


「じゃあ何で俺には見えないんだ?」


「それは多分精霊側のちからが弱いからじゃないかしら。下級の精霊だとアイスや私達みたいな元々感受性の高い者にしか見えるようにならないんでしょうね」


 本来精霊はエルフやハイエルフであろうとその姿をはっきりと捉えることができる者は極々少数である。ほとんどの者がその存在を感知することだけしか出来ない。例えば他のエルフやハイエルフがシャルロットを見た場合、その周りの多くの精霊が漂っているのを感じることが出来る。しかしその精霊がどんな姿形をしているかは分からず、なんの種の精霊かはちからを使うまで分からない。例外と言えるのがアイスの《アイスコフィン》に宿る精霊のように魔力の高い物質や者に使われることによって他者にもその姿が見えるようになった精霊や上級精霊や精霊王などのほんの一部だけである。


「じゃあ今お前等にはシャルの周りに居る精霊が見えてるのか?」


「今は見えないわね。多分だけど・・・・・・・」


 するとシルヴィアはシャルロットに近寄って何事かを囁いている。そうするとシャルロットがソウマのところまでやってくる。そして両手をソウマの前にだして何やら集中すると・・・・・・。


「おお!」


 ソウマが感心したように声を上げる。見ればシャルロットの両掌に小さな羽の生えた小人が立っていた。小人はシャルロットの手の上で嬉しそうに踊ったり跳ねたりしている。


「ありがとう」


 シャルロットがそう言うと小人はふっとソウマの前から消えてしまった。


「今のは精霊であってるのか?」


「そうよ。私の考えを確かめる意味もあったけどどうやら間違いないようね。どうもシャルが強く意識した精霊は他の人にも見えるようね」


「しかもシャルが意図的にそうしようと思えば師匠マスターのように元々精霊を感じることできない者でも見えるように出来るようですね。あの時はそこまで強く意識していなかったから私達にしか見えていなかったのでしょう」


「なるほど・・・・・・しかしあの子にはそれでも精霊が見えてなかったようだがそれで精霊が懐くようなことになるのか?」


 そのソウマが感じた疑問に答えたのはシャルロットだった。


「きっとあのお父さんとお母さんの優しい気持ちと子供達のお父さんとお母さんを思う優しい気持ちに精霊さんが応えてくれたんだよ」


「そうかもしれないわね。精霊は純粋な者や願いに惹かれる性質が有るらしいから。まあ、それいがいにもネーナがただ気にいられただけの可能性もあるけれどね」


「精霊は気まぐれな性質も併せ持っていますからね」


「あそこでシャルがネーナを見つけたのも文字通り奇跡の巡りあわせなのかもしれないわね」


「腹が減っタ」


 すると唐突にナーバが自身のお腹を押さえながらそんなことをぼそり言った。


「さっきまで散々露店の食い物食い漁っていたくせにまだ食い足りないのかよ」


 ソウマが呆れたように溜息をつく。ソウマのシャルロットも大食いの部類ではあるがはっきり言ってナーバは文字通り規格が違うと言っていい。もともとが巨大な竜だけありその胃袋の許容量はその姿からは想像できない量を収めてしまう。


「まだ食い足りン。文句が有るカ?」


「いや、別に」


 ナーバのジロリと向けた視線に肩を竦めるように受け流す。


「いいじゃん、私もまだまだ美味しいもの食べたいな!」


 シャルロットも賛同する様にナーバの腕にしがみ付く。


「じゃあ今度はどこかのお店に入って腰を落ち着けて食べましょうか」


「そうですね。そろそろお昼時でもあるのでこの通りも更に一通りが増えます。その前にどこかの店に入っての食事の方が下手に行列などに巻き込まれなくて済むはずです」


 シルヴィアとアイスもそれに頷いて周辺の飲食店を物色し始める。


「あそこが良さそうですね」


 アイスが見つけたのは落ち着いた雰囲気のある小さな飲食店だった。人の入り自体はそれほど多くは無さそうだが店内からは食欲をそそる良い香りが漂ってくる。


「いいんじゃないか。繁盛してたり高級そうな店の方が美味いとは限らないからな。隠れた名店的な感じかもしれないぞ」


 ソウマもその匂いに食欲を刺激されたのか興味津々で店に近付いている。


「じゃああそこにしましょう」


 そうシルヴィアが決断したことで皆で店内に入っていった。


 ※※※※

「美味しかったねー」


 店での食事を終えたソウマ達は再び街を散策していた。


「そうね、使われている食材そのものは何でもないものだったけれど十分に素材を生かせていたわ」


「素朴ですが高級料理にはない良さがありました」


「ああいう単純な味付けも食べやすいナ」


「俺はああいった下町料理が結構好きだぜ」


 半ば適当に選んだだけの店ではあったが予想以上に満足いく料理だったせいか全員の足取りはどこか軽くなっている。


「さて、何だがやることなくなった感があるが・・・・・・・・」


「まだお昼を少し過ぎた程度ではありますね」


「何だかんだで私達って普段からそんなにやってることってないわよね」


「鍛錬ばかりだな・・・・・」


「何をしようかしら?」


 どうやら昼を過ぎた時点でやることが無くなってしまったようだ。


「誰か他にやりたいことがあるかしら?」


 シルヴィアが皆に視線を送りながら訊ねる。するとナーバがどこかそわそわしたかのように何かを言いたそうにしている。


「ナーバ、どうしたの?」


「私は・・・・少しやりたいことが有るんだガ・・・・・・・」


 ※※※※

 ソウマ達は今大海原のど真ん中にいた。


「うわーーーーーーーーーー♪」


 シャルロットが嬉しそうに声を上げながら正面から吹き付ける風になびく髪を押さえている。吹き上がる海水の飛沫が顔や服を濡らすがそれすら気持ちよさそうに受け止めている。


「何度体験してもすごいですね」


 アイスはシャルロットの隣で彼女の体勢が崩れないように支えながら自らの現在の状況を堪能している。


「ナーバ姉様凄ーい!」


 現在、ソウマ達は竜に戻ったナーバの上に乗って大海原を突き進んでいる。


「普通の奴なら一生かけても体験できるようなもんじゃないからな」


「竜の背に乗るなんて奇跡と同じ扱いされることもあるしね」


『大丈夫かシャル、アイス』


「大丈夫だよ!」


「貴女が行使してくれている姿勢制御用の風魔術の御かげで存外快適です」


『ならば少し速度を上げるぞ』


「おお~~!」


「お手柔らかにお願いしますよ」



 ナーバの宣言にシャルロットは両手を上げて喜びを表しアイスは苦笑を浮べている。


「あまりはしゃいで落っこちるなよー」


 ソウマがシャルロット達の方に向かって声をかける。ソウマとシルヴィアはナーバの背中の上の羽の付け根部分に座って景色を眺めている。シャルロットとアイスはナーバの頭上におり、はしゃぐシャルロットを支えるようにアイスが後ろから腰を押さえている。


「それにしてもナーバが竜に戻って泳ぎたいというとは思わなかったな」


『私だって思い切り羽を伸ばしたい時もあるぞ』


「まあそうよね」


 彼女達竜族は人型に変身しても確かに身体的に負担や窮屈さを感じることは無い。しかし精神的な面ではそうはいかない。如何にナーバが人型での状態を好もうとも本来の形態は竜の状態であるからどこかで不満のようなものが溜まっていく。だからこのように文字通り羽を伸ばすことが必要である。


「別に普段からこうして一人で羽を伸ばしてもいいんだぞ?」


『・・・・・・・どうせならシャルや皆を過ごしたい』


 ソウマに聞かれたナーバが少し小さな声で返した後に恥ずかしそうに鼻を鳴らした。


「だから私達をわざわざ背中や頭に乗せたの?まあそれだけ私達を信頼してくれている証だから嬉しいのだけれど」


 竜族はその誇り高さと気高さから決してその背中を他の者に許さない。それを許すときはよほど相手を信頼したときか相手の強さを認めた時などに限られる。固有種の竜族にその背を許された存在と言うのはそのほとんどが伝説に名を残す英雄英傑だけである。


『私のつがいのソウマは当然として姉者も私に勝利している。シャルは私の義妹だしアイスも私が認める戦士だ。お前達が私の背に乗ることになんの問題もない』


「ナーバ姉様の鱗って凄くきれいだよね」


 シャルロットがナーバの頭の鱗を触っている。


『あまり鱗のふちに触るな。手が切れてしまうぞ』


「強度だけを見ても伝説の武具も裸足で逃げ出す代物だからな」


「神竜王の血族の竜の鱗だものアルティマタイトに匹敵する強度が有るでしょうね」


『その自慢の鱗を砕いたり切り裂いたりできるソウマや姉上に褒められてもあまり嬉しくない』


「でも綺麗なのはホントだよ!」


 シャルロットの言う通りナーバの白銀色に輝く鱗は照りつける太陽光と上がる海の飛沫と相まって非常に美しく幻想的に映っている。


「そう言えば・・・・」


 寝転がっていたソウマが上半身を起こしてナーバの頭に視線を送る。


『なんだ?』


「お前の逆鱗ってどこにあるんだ?」


『お前・・・・それを本人に聞くのか・・・・・・』


「あれ?やっぱりまずかったかな?」


「場所にもよるでしょうけど女性に聞くことではないでしょうね」


 シルヴィアが呆れたようにソウマの頭に軽く手刀を落としながら言う。


「アイス姉様、げきりんって何?」


「逆鱗ですか?逆鱗と言うのは竜族が体のどこかに持つと言われる最も柔らかいと言われる一枚の鱗です」


「柔らかいの?」


「他と比べてと言う程度です。ナーバならばたとえ逆鱗といえど並の攻撃など通らないでしょうが」


「じゃあ他に意味があるの?」


『我等竜族にとって逆鱗とは二つの意味がある。一つは身体的な面だ。竜族の体には一枚アイスが言ったように柔らかい鱗が有る。それは生まれたての頃に最初に生えてきた鱗なんだ』


「竜族は生まれた時は体を覆う鱗はない状態でつるつるしてるのよ」


 シルヴィアがいつの間にかシャルの横に来て補足を入れる。


『私達は生まれてすぐに自意識に目覚めるからな。だから自分の体に生えてきた一番最初の鱗に愛着があってそこを攻撃されると腹が立つんだ。二つ目は精神的な面だな。その竜にとって最もやってはならな行為を相手がした場合だな。大切な者や物を傷つけたり盗んだりしたものがその怒りを味わうことになる』


「精神面はお前の場合は竜王のおっさん絡みかな?」


『まあ概ね間違っていないな』


「じゃあ鱗はどこにあるのかしら?」


『それだけは教えられん』


「どっか恥ずかしい場所にでもあるのか?」


『教えられん!』


 ソウマとシルヴィアの追及にナーバは拒否の言葉を発することしかしない。その気迫にソウマとシルヴィアはこれ以上は無理と判断して肩を竦める。


「じゃあ逆鱗っていうのはすごく許せないことってこと?」


「纏めてしまえばそう言うことでしょうね。ということは逆鱗とは固有種の竜族特有なのですか?」


『そうだな。野生の知性のない竜にはそういうのは存在しない。我等知性ある固有の竜のみ逆鱗が存在する』


「古来より竜の逆鱗に触れた者は生きては帰れないと言われているほどその怒りは凄まじいと言われています」


「まあ竜に限らず誰にだって絶対に許せないことの一つや二つあるものよね」


「そうだな」


 泳ぐ速度を落としたナーバの背でソウマ達はゆったりと景色を眺めながらとりとめのない会話を楽しむ。それから一時間ほど海上で過ごしたソウマ達は適当に見つけた無人島の海岸に降り立った。


「さて、そろそろ飯でも食うかな」


 そういってソウマは片手に持っていた袋から様々な魚介類を取り出した。


「途中色々と海のなかで食い物捕って良かったな」


「まあ必ず帰る前にお腹が空くのは分かってたから」


 そう言ってシルヴィアも優雅にナーバの背中から飛び降りる。相変わらずの漆黒のドレスを着るその出で立ちは陽射しが降り注ぐこの海岸の砂浜では実に異質に映る。しかしその肌からは一滴の汗すら流れておらずその表情も涼しげですらある。ソウマ達以外に誰もいないために素顔は晒していても太陽光を反射するかのように肌は白い。


「なんつうか、吸血鬼が真っ昼間から海岸の砂浜に立ってるってのはどこか場違い感があるな」


「なによ」


 シルヴィアが抗議するように頬を膨らます。


「確かにこの日差しの強さは太陽光に強い抵抗力を持つ上位の吸血鬼といえど長時間はたえられないでしょう」


 しかしアイスはソウマに同意する。


「まあ姉者達のような王族級はハイエルフ以上に滅多に他種族の前に姿を現さなイ。我々竜族の方がまだ人前に姿を見せることが多いナ」


 すると海の中から人型に成ったナーバが上がってくる。


「まあ王族級(わたしたち)から見たら他の吸血鬼()達の方が不自然なんだけれど」


「確か王族以外の吸血鬼は夜の加護が薄いから太陽に抵抗出来ないんだったか?」


「実は私も詳しくは知らないのだけれどね。昔からそう言われていたわ。単純に強さが足りないだけのきもするけどね」


 会話をしながらもソウマは手際よく火を起こす準備を進めていく。そしてそう時間をかけずに簡素な炉が完成する。


「こんなもんかな」


 ソウマがその出来映えに満足そうに頷くと炉の中に拾った流木を砕いた薪を入れる。


「ナーバ」


 ソウマがナーバに呼びかけるとその意図を察したナーバは炉の方に歩み寄る。


「フッ!」


 そして軽く息を薪に向かって吹きかける。吹きかけられた息は小さな炎となり薪に火をつける。


「まだ食べられないの?」


 シャルロットがソウマの様子を覗き込みながら聞いてくる。


「もう少しかかるから待ってな」


「はーい」


「シャル、あっちで私と少しお散歩しましょ」


「私もお供します」


「私も行こウ」


「皆でお散歩ー♪」


「行って来い行って来い。その頃には飯も出来てるよ」


 結局この後、森に入ったシルヴィア達が森の獣を捕まえてきて更に食材が追加されることとなった。何だかんだとナーバが物足りないと感じていたようだ。こうしてソウマ達はこの日をのんびりと過ごしたのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ