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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
6/72

6話 禁忌魔法

そろそろ連続がきついかなぁ・・・・

 かつて彼ら神と呼ばれる者達の世界で一つの噂が流れたことがある


ーーーーー古から生きる竜の王であり神である竜王が人間に敗れたーーーーー


 そんな噂である。

 リーブルはその噂を当時は一笑に付した。邪神達にとって忌々しい存在である竜王は遙か太古よりあの世界に行こうとする神の行く手を阻んできた。特にあの世界の住人が邪神と呼ぶリーブルのような人種の魂を喰らうのを好む神を特に嫌悪しているようだった。そしてその力はあの下位次元の世界にあっても高次元存在である神々の力を遥かに上回るものだった。だからこそリーブルは信じられなかった、あの竜の王がたかだが人間如きに負けたなどとは。恐らくどこかの下界を覗いていた神の一人が面白半分にそんな噂を流したのだろうと。しかし・・・・・・。


「馬鹿な、こんな馬鹿な」


 今現在リーブルの目の前に対峙する男が手にする剣は間違いなくあの竜王ゼファルトスの物だ。それ以外の力も感じるがそれを歯牙にもかけぬような圧倒的な程の力を放つ存在感は見間違うはずもない。


「まさかあの竜王が人間に敗れたというのは本当だったのか!?」


 あれを手に入れたという事は少なくとも目の前の人間はあの竜王を前にして牙を手に入れられるだけの実力を持つということだ。リーブル自然と体が半歩後ろに下がるのを自覚した。


「ああ、あの竜王のおっさんは強かったぜ。俺が今までやった中じゃ間違いなくダントツで強かったな」


 そう言ったソウマの圧力がまた一段と増した。それに圧されるようにリーブルはさらに半歩後ろに下がる。


「さて、続きをやろうか神様。俺もそろそろ終わらせないと連れが待ちくたびれちまう」


「!」


 リーブルは咄嗟に両手から全力で消滅と破壊の力を左右それぞれから放つ。その力は手から放たれた瞬間右手の消滅の力は大気を消滅させながら次元に穴を開け左手の破壊の力はその力の余波だけで並の生物ではその存在構成を見ただけで破壊される程のものだった。


「《双刃》」


 ソウマが放つ二つの斬撃に切り裂かれた途端まるで最初からそこにないかのように消え去る。ソウマが放った二つの斬撃はリーブルにはソウマの手が一瞬消えたようにしか感じなかった。


「これもちょっとした小細工でな、この世界で力を行使する以上はその力は必ず魔力か神力か魂力等を使うもんだ。俺は竜王のオッサンからちょっとした特典を貰っててな、そういった力を構成する核が見えるんだよ。だからそこを切ると・・・・・・な?」


 そう言ったソウマの目は黄金色に染まり瞳孔は縦に裂けている。


「竜眼・・・・・」


 リーブルが驚愕と同時そう漏らす。その体は自らの攻撃がかき消されたと同時にさらに後退している。


「真名持ちで人型でも多分お前さん真名を知ってまだそんなに立ってないだろ?精々十年二十年てとこかな?俺と闘り合うならせめて百年は経ってないとな」


 リーブルはそこでハッキリと自覚した。目の前のこの若造と言っていい年齢の見た目の少年は自分よりも遙か格上の生物であることが。


「っっっっ!」


 それを自覚した途端リーブルは迷わず逃走を選択した。眼前の生き物と対峙すれば確実にこの世から消える。その確信にもにた予感に自らのプライドすら忘れてリーブルの本能は眼前の生物からの逃走を選択させた。


「逃がすと思うか?」


 しかしそんな思惑も空しくソウマは一瞬でリーブルの前方に回り込む、先ほどまでの戦闘で見せていたスピードは完全に手を抜いていたと分かる程の段違いの速度だった。


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


 リーブルは今や完全に先ほどまでの余裕ある態度はかなぐり捨ててがむしゃらに攻撃を繰り出している。しかしその攻撃の悉くをソウマは黄金に光る竜眼で正確に核を切り裂き霧散させていく。


「ああ、一つ言っておくことがある」


 リーブルの眼前にまで迫ったソウマは剣を振りかぶりながら突然言葉を投げかける。リーブルにはそのソウマの言葉が不思議と良く聞き取れた。


「お前が最初に言葉だが、竜王のオッサンが動く気配がないっていってたよな?あれはな、動かなかったんじゃない動く必要がなかったんだ。俺が居たからな」


 そう言ってソウマが不敵に笑った。それがリーブルの見た世界での最後の光景だった。


「はあ!」


 上段から勢いよく振り下ろされた《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》が寸分違わずリーブルの体を頭部から二つに分断する。そして分断された体は頭の天辺から砂のように崩れて消えていく。


「ふう、たかが小国の王宮魔術師長程度が起こすには少し厄介すぎる事件ではあったな、まあここに俺が最初に来たことは運が悪かったと諦めな」


 一息入れたソウマは剣を再び異空間へとしまう、すると戦闘が終わるのを見計らっていたのかソウマの影からシルヴィアが出てくる。


「お疲れ様、ソウマ。ほんとこの国は気の毒ではあったけど邪神が召喚された直後の現場にソウマが居たのは不幸中の幸いね。もしソウマがいなければあれだけの神だもの国の一つか二つは消えたかもしれないわね」


「確かに、この世界の住人が相手するにはちと厳しい相手だったな、若いとはいえさすがは人型で真名持ちの神だけのことはあったからな」


 ソウマのそんな言葉にシルヴィアが苦笑する。


「貴方がそれを言うの?たった今その神をほとんど苦戦もせずに倒した人が?」


「ありゃ神の中でも精々中の上ってところだ。あいつクラスの神なら向こうの次元にはゴロゴロいるよ、単にこっちに呼ぶのが難しいってだけの話だよ。あれより遙かに強い神を俺は何人か知ってるぜ?」


「普通なら一笑に付すところなんでしょうけど貴方が相手だと信じてしまうわ、やっぱり私じゃまだ神を相手にするには足りない様ね」


「まあシルヴィアでも下位の神位なら普通に勝てると思うけどな、それにシルヴィアも少しずつ強くなってるよ」


「あら?女性に言うんだったら強くなったよりも綺麗になったのほうが嬉しいものよ?」


 すると突然シルヴィアはソウマに艶のある流し目を送る。


「馬鹿言ってないで帰るぞ。ラルクに報告しないとな。まあさっきの戦闘の波動を感知しておおよその事情は察してそうだけどな」


「もう、相変わらずつれないわね。まあソウマを誘惑するのは城に帰ってからにするわ、それより例の魔術師長さんはどうするの?連れて帰るの?」


 そう言ってシルヴィアは王城だった・・・・・ものに目を向ける。それは完全に原型を留めておらずもはや瓦礫の山というよりは荒地といった方がいいくらいの有様だった。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 ソウマとシルヴィアはしばらく瓦礫・・・・・・砂山を見つめて暫く。


「生存者無し」


「そうね、生存者は居ないわ、残念だけどここに生きている存在は私達しかいないようね」


 どうやら探すのがめんどくさくなったらしい。恐らくこの惨状を見てガラルドは巻き込まれて死んだだろうと思ったことも理由だろうが・・・・・。


「ともかく帰ろうぜ」


「そうね」


 こうして小国で起こったこの大陸どころかこの世界中に知れ渡ってしまう程の事件は一部の人間以外に知られることなく僅か数時間で終わったのだ。


※※※※


「まさかあの現状から生きてたなんてな、驚いたぜガラルド」


「ええ、私も貴方はあの時完全に瓦礫の下に埋まったと思っていたもの」


 ソウマとシルヴィアが当時の事を振り返り驚を表しているとそれをラルクが胡散臭げな眼差しで見ていた。


「なんだよ、何か言いたいことでもあるのかラルク?」


「いえ、僕が当時の報告を二人から聞いたときにも思った事ですが貴方方どうで探すのがめんどくさかったんでしょう?」


「な、なにをいうんだラルク君。俺達はあの時は既に生存者がいないことは事前に分かっていてだな」


「そ、そうよラルク。決して影を出して探すのが億劫だとか瓦礫を掘り起こして埃にまみれるの嫌だったとかでは決してないわ」


 ラルクの言葉にソウマとシルヴィアはあからさまに狼狽したような態度になる。シルヴィアなどは若干墓穴を掘っている。


「・・・・・・・まあいいでしょう、その件については既に終わったことなので深くは追及しません。現状はこの招かれざるお客様をどうするかのほうが重要案件でしょうから」


 そう言ってラルクは今度は鋭い敵意を乗せてガラルドを睨む。それにガラルドは口の端を歪めて笑う。


「私が生きていたことについてだが私は元来用心深い質でね、もし何かの事態に私が意識を失い防御魔術などを行使できないときに備えていたのだよ。もし私が自分の意思以外の要因で意識を失った場合自動的に防御壁の展開と一時期的に私の体を仮死状態にして転移させるという魔術が私の服の内側に練ってあったのだよ」


「そりゃ実に用心深い事で」


「私にとってもっともあの時予想外だったことは邪神が君に倒されたことだよ。まさか人間が正面から邪神を・・・・・しかも高位の邪神を正面から打倒するなど自身の目で確認したとしても信じがたかったよ。君の存在があの時の私にとって誤算だった」


 言い方や態度こそ冷静に見えるガラルドだがソウマを見つめるその瞳の奥には狂気と隠し切れない憎悪の感情が渦巻いている。


「それで?お前はいまさら俺達の前に現れて一体どうしようってんだ?まさか正面から俺やこのメンツにケンカふっ賭けに来たとかじゃないんだろうな?」


「まさか?いくら私でもそこまで無謀ではないよ。【世界最強】に【吸血姫】それに【大魔導士】なんて文字通り世界最強クラスのメンバーに私一人で挑むなど自殺行為を通り越している。それに・・・・私の狙いは君だよソウマ・トカイ」


 ガラルドそう言って今まで被っていたフード取り去る


「!」


 ソウマの後ろでシャルロットが息を飲む。ガラルドの容貌は二年前ソウマ達が見た時とはかけ離れていた。頭髪は全て白く染まり先ほどから狂気と憎悪を覗かせていたのは左目のみで右目は完全に空洞と化している。顔には所々傷があり、その顔色はまさに死人一歩手前と言った有様である。そしてあの時失ったはずの腕は何故か元に戻っておりなにか不気味な鼓動のようなものを刻んでいる。そしてなにより・・・・・。


「ソウマ、彼は・・・・・」


「ああ」


 ラルクは何かに気付いたのかソウマに確認を取る。ソウマはそれに間違いないと頷く。見ればシルヴィアも同じように頷いている。


「お前・・・・見た目だけじゃない。中身どうした?・・・・・・・


 ソウマがそう問うとガラルドは自身の腹部を抑えながら傷のある顔を醜く歪めて笑う。


「置いてきたよ。この腕やその他必要なモノの為には代償が必要だったのでね」


「代償?まさか自分を生贄にしたの?正気とは思えないわ。あなた、もう長くないわよ」


「そんなことは百も承知さ【吸血姫】。目の前の男にあの時私の宿願を阻まれた復讐を果たすためにそれだけの代償が必要だった。ただそれだけだ、たまたま・・・・己の命が代価だった。これはそれだけのことなのだよ」


「なるほど・・・・・・ラルクの言う通り確かにこの男は正気ね。ただ狂気だけが常軌を維してるわ」


 シルヴィアは二年前にガラルドに向けた以上の嫌悪の感情を向けている。


「じゃあ見せてもらおうか、それだけの代償を払ってまで俺を倒す策ってモノを」


「もう見せている」


 ガラルドそういった瞬間、部屋一体が赤黒い魔法陣に包まれる。


「これは!禁忌魔法」


 ラルクが瞬時に看破する。そして即座に妨害用の策である魔法陣を発動する。すると部屋全体を包んでいた赤黒い魔法陣は突如出現した緑色の魔法陣に上書きされるように打ち消される。


「ほう、我が禁忌魔法を上書きして打ち消したか、さすがは【大魔導士】殿だ。魔術・魔法の腕前は私よりも遙かに上ですな」


「今のを見て分かったでしょう?この部屋はおろかこの王都全体では禁忌魔法は発動しません。禁忌魔法は確かに一度発動すればそれを阻止するのは困難です。ならば最初から発動させなければいい、この王都全体にはその為の魔法陣がいくつも仕掛けられています。ここでは禁忌魔法う発動の為の魔力は確保できません。おとなしく拘束されることをお勧めします」


 ラルクにそう言われてもガラルドの余裕は消えない。


「ふふふふふ、確かにこのままではこの王都では禁忌魔法は使えない。ならば|この国全体で使えばいい(・・・・・・・・・・・)」


 ガラルドが再び手を上げる。すると今度は先ほどとは違い今度は部屋の中は魔法陣で包まれることはなく赤黒く染まるのみだった。しかしラルクの顔は先ほどとは段違いに焦っている。


「まさか!」


「くくくくくくく、そうだ【大魔導士】。察しの通り今禁忌魔法が発動している範囲は王都全体ではない。この国全土だ」


 ラルクの顔が驚愕に染まる。シルヴィアも焦ったような顔に変わっている。


「まさか!不可能だ。いくら禁忌魔法でもいくらなんでも範囲が広すぎる。これでは碌に魔法の効果が発動する分けがない。それに代価が足りないはず、これほどの魔法陣を起動させるのには相応の代価が必要なはず。いくら貴方の体を代償にしたからといって足りるわけが・・・・」


「だから借りたのだよ地脈の力をな」


「では、まさか!」


 ラルクの顔がさらに驚愕に歪む。


「ラルクどういうことだ?」


 ソウマがラルクに問い掛ける。しかしそれに答えたのはガラルドのほうだった。


「私は人間の生命力の代わりに地脈の力を利用したのだよ。その為に私は自ら精神魔法を施したものを重要な六つの地脈の収束点で戦闘行為をさせその地に人間の血を染み込ませたのだ。そしてこの王都は丁度この国の中心にある。この国全体を魔法陣にするのはまさに地脈は打ってつけだったわけさ」


「それではそのほかのいくつかの戦闘行為は我々の目を欺くための陽動というわけですね」


「その通り」


「それでもやはり不可能だ。地脈を利用するにはその地脈を制御・支配する為に強力な柱の役割をする存在が必要なはず。以前調査した時にはそんなものが設置された痕跡はなかった」


「ふふふふ、私が何のために地脈の収束点に人間の血を染み込ませたと思う?魔法陣の起動の為の印の為だけではない、目印の役割も兼ねているのだよ」


「目印?」


「そう邪神の出現の為のね」


「!、馬鹿な六体もの邪神・・・・それも地脈を制御できるほどの力を持った邪神などそれこそ禁忌魔法を発動するよりも代償が大きいはず」


「確かに、そのままでは代償が大きすぎる。しかし邪神自らが力のみ貸してくれた場合は話が別だ。ソウマ・トカイよ貴様随分と邪神連中に恨みを買っているようだね。君を排除する為だと言ったら喜んで協力してくれたよ」


「なんだとこの野郎。俺は邪神に恨まれることなんて・・・・・・結構一杯してるけど・・・・自業自得だろこの野郎」


「ラルク可能なの?いくら邪神側が協力的だからと言って一度に六体も邪神が召喚されるなんて・・・・」


「通常は不可能だ。いくら邪神が協力するからといってこちら側の世界にくるにはやはりそれなりの代償が必要だ。いくら邪神側がそれをいくらか肩代わりしたとしてもさすがに六体なんて数は不可能に近いだろう。でも・・・・」


「他に方法があるの?」


「ある力ある地点を起点としてその力のみを顕現させるだけならあるいは可能かもしれない。神殿でも信者の祈りなどで力を得た神が奇跡を行使する場面があるだろう?恐らくあれに近い現象が起こっているんだと思う」


「さすがさすが、その通りだ。地脈の収束点を起点としてその地に染み込んだ人間の血を目印に邪神の力のみを借り受けた。六体の邪神の力を起点にこの王国全土を覆う禁忌魔法を全て貴様を倒すために向けるのだ」


 ガラルドがソウマを指さすとソウマの足元がさらに激しく輝きだす。


「これは・・・・」


 するとソウマの足元から黒い氷が出現し始める。それはソウマの足元から纏わりつき徐々に上にのぼり始めている。


「ソウマ!それは《氷結地獄コキュートス》と言われる封印魔法です。しかもこの黒い氷はそのなかでも最も強力な《最終氷結ジュデッカ》!」


「その通り、さすがの博識振りだな【大魔導士】。そうこれは《氷結地獄コキュートス》、かつて遙か古の時代に神々が強力な力を持った神・・・・邪神を複数体一度に封じ込める為に作られた禁忌魔法というよりは神代魔法と言った方が良いしろものだよ」


「まさか!私達吸血鬼の古文書にさえ名前しか記されていないほどの大昔の魔法よ?」


「正気ですか!これをたった一人の個人に向かって使用するだなんて、それ以前に貴方がどうやってこの魔法を・・・・・・っまさか!」


 一瞬の驚愕と疑問を浮かべたラルクは次の瞬間には答えを自ら導き出しさらに驚愕する。


「そうだよ、お察しの通り私にこの魔法を教えたのは今現在私に力を貸してくれている邪神達だ」


「これを・・・しかも《最終氷結ジュデッカ》を知る程の存在とは、それほど古く強力な存在が貴方に力を貸しているといことですか」


「くくくくく、彼らは全員が自らの真名と人の姿を持つ高位の邪神達だ。しかも二年前ソウマ・カムイが倒した存在よりも遙かに強力な存在さ」


 会話の間もソウマの足から上っている黒い氷は徐々にソウマの体を覆おうとしている。


「・・・・・・・」


 ソウマはそれを無言で見つめていた。


「はははははは、どうかな?ソウマ・カムイ。確かに君は世界最強だ。正面から君と事を構えれば例え神といえども敵うまい。しかし、しかしだ。ならば闘わなければいいんだ。君を倒すことはできないが君を封印するだけなら邪神の力を借りればできる。しかも君は油断していたね?私が君を殺すために何かを策していたのは警戒していたがこういう絡めては想定していなかっただろう?ははははははははははははは」


「・・・・・・・・ふんっ」


ーーーーーゴキィンーーーーー


「・・・・・・・・は?(×3)」


 間の抜けた声はラルク・シルヴィア・ガラルドの三者から発せられたもの、それもそのはず今の今までただ黙って自分の体が黒い氷に包まれているのを黙って見ていたソウマが突然気合いを入れたと思ったら黒い氷に包まれた右足の部分の氷が砕け散ったのだ。


「おお!結構頑丈だなこれ。いまかなり強めにやったのに右足の氷しか砕けなかった」


 ソウマが何やら感心したように言葉を漏らす。その事態にいち早く正気に戻ったのはラルクだった。


「いやいやいやいや、ソウマ。そもそもそれは本来破壊不可能な魔法のはずなんですよ?今気合い?を入れたみたいですがそれはそもそもそんなことで壊れるのはおかしいですからね」


「そんなこと言われても壊れたもんは仕方ないだろうが、それにそれは今まで壊せる奴がいなかっただけで壊せないわけじゃないんだろ?」


「それは・・・・そうですが・・・・そもそもそれは複数体の強力な神を封印するためのものです、それをそんなやったらできたみたいな言い方をされても・・・・・」


「ラルク・・・・・私達もいい加減学びましょう。そもそもソウマに常識や法則を当てはめて考えること自体が間違いなんだってことに、でないと私達の精神が持たないわ」


ラルクの次に正気に戻ったシルヴィアが半ば諦観の表情でラルクにそう促す。それにソウマはかなり不満そうな顔になる。


「なんだよー。お前らー。できるんだからいいじゃねえかー」


「そうよ、シルヴィア姉様、ラルク。ソウマはなんだって出来るんだから」


 いつのまにか先ほどまでヘンリエッタの腕の中で怯えていたシャルロットがソウマの近くまできてまるで自分の事のように胸を逸らしてソウマのことを自慢する。


「コラ、お姫さま。危ないからこちらにいらっしゃい」


 シルヴィアがそんなシャルロットを自分の方に下がらせようと手招きする。


「大丈夫よシルヴィア姉様。ソウマは一番強いんだからあんな奴に負けないんだから」


「いいからお姫さん。シルヴィアの言う通り危ないからあっちに・・・・・・」


ーーーーーガッーーーーー


 ソウマは言葉の途中でシャルロットの眼前に手を伸ばした。


「おいおい、何のつもりだ?お前の狙いは俺だろう?」


 ソウマが掴み取った手にはシャルロットの文字通り目と鼻の先迫ったガラルドの手があった。シャルロットはどちらも見えなかったのか突然自分の前に現れた手の平に困惑している。


「少し遅かったなソウマ・カムイ。やはり油断していたんじゃないかな?私の目的は既に達せられた。まさかこの策を使うことになるとは思わなかった。この魔法が発動する前の策は使うと思っていたがまさか発動してから策を使うとは思っていなかった」


 ガラルド言葉にソウマは一瞬訝しむ、そして次の瞬間ハッとしてシャルロットを見る。


「何・・・・・これ・・・?」


 見ればシャルロットの胸元に小さな赤い魔法陣が出来ていた。よく見ればガラルドのフードの中の顔の額にも同じ魔法陣がある。その魔法陣は鼓動を刻んでおりガラルドとシャルロットの魔法陣の鼓動は同じリズムを刻んでいる。


「ソウマ!それは生体リンクの術式だ!」


「生体リンク?」


「その術式の根幹やそれを成す術者と命をリンクさせて相乗作用で効果を高めるものだ。だがこれの目的は恐らく・・・・」


「その通り。今私とそこのお姫様と《氷結地獄コキュートス》は一本のラインで繋がった。私もしくは《氷結地獄コキュートス》の術式を破壊すればお姫様も道連れに死ぬぞ」


「!」


 ガラルドの言葉に一同は驚愕する。


「やってくれたなテメエ」


 ソウマは睨みを効かせてガラルドを睨む。そうしながらも右手にあるエスパーダを握りなおす。


「おっと、ソウマ・カムイ。君はここまでやっても安心できない。君ならなにかやりかねない。いや、やるだろうな。だからここでさらに保険をかけさせてもらう」


「やっ、なにこれ!?助けてソウマ!」


 ガラルドがそう言った途端今度はシャルロットの足元もソウマと同じように黒い氷が出てきたのだ。それはソウマの足元の氷よりも遙かに早い速度で進行している。


「これは!」


「シャルロット!」


 ヘンリエッタがシャルロットに駆けよる。しかしシャルロットは既にその場から動くことができなくなっていた。


「どうやら抵抗力が低い分貴様よりも早く氷が進行しているようだな。どうだ?私を殺したり術を破壊したりすればそこのお姫様は死ぬ。かといってこのままにしていても君はともかくお姫様は《氷結地獄コキュートス》の氷に捕らわれては命の保証はないぞ?もっとも生きていようが死んでいようがこの中からは脱出不可能だがね」


「野郎!おいラルクなんとかできないのか?」


「ハッキリ言って難しいです。さっきも言いましたがこの手の魔法は一度発動してそれに嵌まった場合ほとんど回避の方法がありません。まして現在この術式は生体リンクで姫様と繋がっています。無理やり術を解除しようとするとその影響で繋がっている姫様にどんな影響があるか・・・・」


「くそっ」


「そんな・・・・」


 ソウマは歯噛みしシルヴィアは悲痛な顔になる。


「ソウマ・・・・・」


 シャルロットは不安そうな顔でソウマを見る。


「・・・・・・くっ」

 

 油断・・・・・・ではない、ソウマは一度も油断はしていない。ましてやこれは慢心がもたらしたものとも少し違う、ではなにか?あえて言うならそれはソウマの性質が招いてしまった事態だった。

 ソウマは世界最強になろうと思ってなったわけではない、彼は純粋な求道者。己の限界をただ只管に極めんとするのが彼の本質、その結果図らずも彼は世界最強の強さを手に入れた。しかし今回はその求道者としての面が仇になる。ソウマは己の強さを極める過程であらゆる技術を収めてきた。それは時に人からの教えだったり人のを見て盗み取ったり果ては敵との戦闘中にも敵自身からも技術を吸収・学習してきた。ゆえにソウマは初めて見る技は必ず最初に観察する・・・・・・・・・という癖がついてしまった。しかもソウマは守る戦いにも慣れていない守る者がいる状況での戦闘に不慣れであることも原因でもある。

 終わらせるだけなら最初にガラルドが部屋に現れた瞬間に一瞬でできた。又は禁忌魔法を発動する一瞬のタイムラグを付いてソウマなら発動前にガラルドを切り捨てることはソウマには出来た。しかしソウマは観察してしまった。自分を狙っている相手が一体どのような手段・方法で自分を倒すのか、それを確かめる為にガラルドを観察してしまった・・・・・・・・


「(俺の所為だ・・・・)」


 ソウマは悔いる。己の過ちで自分だけならともかく守るべき少女まで危険な目にあわせている状況に、それを生み出した自分自身にたいする怒りに震えている。


「私の勝ちだ、ソウマ・カムイ。このまま姫と一緒に氷漬けになるがいい。姫もソウマになにか恨み言があれば言うがいいそれぐらいの時間はあるぞ」


 ガラルドがソウマを嘲笑うかのようにシャルロットに話しかける。しかしシャルロットは自身が氷に包まれるのも意に介さず強い力の籠った瞳をガラルドに向けていた。


「ソウマは負けないもん!」


 そうハッキリと言い切った。


「お姫さん・・・・」


「ソウマは世界で一番強いんだから、貴方なんかにソウマが負けるわけない!」


 恐怖が無いわけではない、自身の身に起こる現象になんの恐怖も抱かないはずがないのにシャルロットは目に涙を一杯に溜めながらもそう強く言い切った。


ーーーーソウマは絶対に負けないの?----


ーーーーああ、お姫さんが見ている前じゃ俺は絶対負けないよーーーー


ーーーー約束よ。嘘ついたら許さないんだからーーーー


ーーーー分かった。約束だーーーー


 ソウマの脳裏にいつかシャルロットと交わした約束が思い出される。


「(そうだよな、約束だもんな)」


 ソウマの瞳に力が戻る。


「ラルク」


「なんですかソウマ?」


「この術、解除は出来なくてもいいから姫さんだけこのリンクから切り離せないか?」


「既に姫様に発動している《氷結地獄コキュートス》は解除できませんが姫様とこの術を繋ぐリンクそのものは貴方の協力があれば可能です。僕が生体リンクのラインを姫様の体に繋がる部分のみをピンポイントで供給を一瞬断つことができます、ソウマがその刹那の瞬間を狙いリンクを切り裂けばいけます。そしてシルヴィア」


「私にもなにかできることがあるの?」


「貴方の役割はソウマの鎧を姫様に纏わせることです。確か君もソウマからあの鎧の使用権を認められていましたよね?」


「ええ、ソウマがもしもの時に身を守るのに使っていいって、アレは別に身につけなくても力を発揮できるものだから・・・・・でもそれをどうするの?一度これが発動したらこの鎧じゃ《氷結地獄コキュートス》の解呪は・・・・・」


「確かに《氷結地獄コキュートス》の解呪はできません。しかしあの鎧の役割は解呪ではなく姫様の生命維持が目的です。あの鎧には使用者の生命を最適に保つ役割もありますからあれを纏わせれば姫様も封印のなかでも生存が可能です、リンクから切り離されればそれも可能です」


 シルヴィアが納得とともにガラルドに視線を送る。


「話は理解したわ。でもあの男がそれをすんなりさせてくれるかしら?」


「それなら心配は要りませんよ。あの男はこの術を維持するので精一杯で僕たちの邪魔をする力はさきほどの姫様に生体リンクを施したのが最後の力ですよ」


「くっ」


 ラルクに指摘された通りガラルドは額に脂汗を浮かべてその場に蹲ってしまった。その顔は先ほどの勝ち誇った顔とは違い焦りと苦悶の表情となっている。


「行きますよソウマ、シルヴィア。これはタイミングが命です。特にソウマ、貴方が失敗すればそのフィードバックは全て姫様に向かいます。良いですね?」


「ああ、分かった。お姫様・・・・・悪いがその命俺に・・・・」


 その先は言えなかった。


「いいよ、ソウマのこと信じてるもん」


 少女の満面の笑みと全幅の信頼を乗せた言葉に遮られた。


「・・・・・・・やってくれラルク」


「・・・・・・・・――――――――――――♪」


 ソウマがシャルロットに感謝を示しラルクに対して頷く。するとラルクは無言で目を閉じ詠唱を開始する。それはまるで歌っているようにも感じる静かな旋律だった。次第にシャルロットの周りが緑色の光で包まれる。


「今ですソウマ!」


 そしてラルクの合図でラルクが詠唱中に集中を研ぎ澄ませ準備をしていたソウマはエルスパーダを鞘に納めた状態で腰だめに構えていた。誰に教わったわけでもない自然と身に着けていた技術、自身最速の一撃を繰り出す為の構え。

 生体リンクの術式は文字通り命と命を繋ぐ魔術、それを繋ぐパスは生物の反射神経を遥かに凌ぐ伝達速度で伝わる。ゆえにラルクがそのリンクを断ったとしてもその空隙はまさに刹那の一瞬、通常であればなんの意味も一瞬である。されど・・・・・。


「《絶影ぜつえい》」


 彼は世界最強、常人には不可能なことを彼はいくつも可能としてきた。ならば・・・・・いまさらこの程度のこと造作もなくやってみせよう!


ーーーーーパアァァァァァァンーーーーー


 破裂音と共にシャルロットとガラルドと禁忌魔法の間で通っていた。なにか断ち切れる感覚が全員に伝わる。


「シルヴィア!」


「疎は大地の守護者、万物を司りし柱にしてその力の体現《四精の鎧エレメンタル・マスター》」


 シルヴィアがソウマの呼びかけと同時に手を掲げて名を告げると空中より四つの光が現れる。赤・緑・黄・青のそれぞれの色をした光の玉は次に青は右手のガントレット、赤は左手、緑は右足のレガース、黄は左足とそれぞれ形態を変えた。


「お願い」


 そしてシルヴィアの声に呼応するように再び光の玉に戻ると今度はシャルロットをその光で包み込んだ。


「ば、馬鹿な!がっっっ!?」


 ガラルドが驚愕の顔に染まる。しかし次の瞬間それは苦痛に染まる。ソウマが即座にガラルドの残る腕を切り落としたのだ。


「随分やってくれたじゃねえか。キッチリ礼をさせてもらうぜ」


「わ、私を殺せば貴様も・・・・・」


「この程度の術式が俺に効くと思ってんのか?こんなもん・・・・・・はっ!」


 ソウマが気を発すると生体リンクの術式のパスは霧散してしまった。しかしさすがに既に腰の下まで進行していた氷は砕けることはなかった。


「く、くそっ」


「とりあえずこの氷はもうどうにもできないみたいだからしょうがねえ。今回は俺の未熟が生んだ事態と甘んじで受けよう。だがなテメエだけはこのまま無事にいさせたら俺の腹の虫が収まらねえ」


「わ、私は・・・・・」


 ガラルドがなにか言うよりも早くソウマがガラルドを問答無用で一刀両断にした。ガラルドの体は左右に分かれて倒れ二度と起き上がることはなかった。


「本望だろ?二年前お前が召喚した邪神と同じ死に方をしたんだからな」


 ガラルドを始末したソウマは一息付きエルスパーダを空間にしまうとラルクとシルヴィアに向く。


「さて、ラルクこんなことになったのは完全に俺の予想外だったが後の事は頼めるか?」


「・・・・・・仕方ありませんね。今回は僕も奴の思惑と策に気付けなかった。僕自身にも過失はありました。わかりました後は任せて下さい。貴方の事ですからどうせ封印内でも死ぬことはないでしょう。とっとと戻ってきてください。姫様のことは私が責任もって封印からお出しします」


「ああ、お前がそう言うんならお姫さんは大丈夫だ。それじゃあ・・・・・シルヴィア・・・」


 ソウマは今度は静かにシルヴィアを呼ぶ。呼ばれたシルヴィアは静かな面持ちでソウマと向き合う。


「その・・・悪いな、こうなっちまって、せっかくお前やお姫さんとその・・・・」


「別に気にしてないわよ。そんなことを気にする位だったら早くその封印を破って出てきてよね。幸い私は種族的にもいくら年数が掛かっても気にしないから」


「別に俺を待つ必要はむぐ・・・・・・・」


 するとシルヴィアは人差し指でソウマの口を押さえる。


「それこそ無用よソウマ。こう見えても私は結構一途なのよ?だから早く返ってきなさい」


 そう言ってシルヴィアはソウマと軽く唇を合わせて離れる。


「分かった」


 頷いたソウマは最後にシャルロットに向き直る。


「お姫さんもごめんな、こんなことになっちまって。俺の尻拭いに付き合わせる形で巻き込んじまった」


「私も別に気にしてないよソウマ。ラルクも言ってたじゃないすぐにこれから出してくれるって。よくわからないけどずっとこの中に居なきゃいけないわけじゃないんでしょう?」


「はい、それについては僕が保証します。それに姫様は封印内ではソウマの鎧に守られている状態になりますから、実質眠っているのとほとんど変わらない状態になると思います」


「ね、ラルクもこう言ってくれているから、ソウマも早く出てきてね」


「わかった、約束する」


「うん♪ソウマは約束は破らないもんね」


 そう言ってシルヴィアは精一杯ソウマに左手の小指を伸ばす。それにソウマは自身も小指を伸ばし絡ませる。


「シャルロット・・・・・」


 そしてさきほどから事態を見守っていたヘンリエッタがシャルロットに歩み寄る。


「お母様、しばらくのお別れのみたいです。お元気でいてくださいね。私が目が覚めた時に元気がないと悲しいからね?」


「ええ、ええ、貴方がいつ目覚めてもいいように私は笑顔でいつも貴方を待っています。だから・・・・お休みなさい」


 ヘンリエッタは瞳に涙を一杯に溜めてそれでも精一杯の笑顔を作りシャルロットに答える。


「すまないな、王妃さん。俺がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかった」


「いいえソウマ、それは違います。貴方が居たから誰も死ななかったのです。二年前も今回も貴方が居なければこの国もその他の国も大変な被害を受けていたでしょう。それにシャルロットも死ぬわけではありません。また会えます。だからソウマも早めに戻ってきなさい。シャルロットやシルヴィアとの式も挙げないとね」


 ヘンリエッタの言葉にソウマは苦笑する。


「了解、まったく全員頼もしい限りだ。それじゃ遠慮なくしばらく長い休暇を貰うとするよ。アウロのおっさんとライハルトにはよろしく言っといてくれ」


 いよいよソウマの首の下まで氷が上がってきた。シャルロットは既に氷に包まれている。しかしその全身は四色の淡い光に包まれその顔は実に穏やかなものだ。


「あの二人もきっと私達と同じようなことを言うと思うわよ?」


 シルヴィアがそう言うとソウマもそれもそうだ言う顔をする。


「ま、そろそろ時間切れみたいだ。じゃあな」


 そう言ってソウマの全身も黒い氷に包まれた。


 

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