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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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57話 強者たち

 ナーバの試合が終了した後、しばらく休憩を挟んで二回戦、三回戦の予選が行われそれぞれ【十騎聖】が勝ち上がった。


「今回はそれなりに腕に憶えのある者達が出場しているようですがやはり【十騎聖】に勝つのは難しいようですね」


「そりゃあ一応あいつらも人族の中では間違いなく抜きんでた実力者達だ。そうそうそこらの奴等に負けることはないだろうぜ」


「そうですね。最近私の強さの常識がどうにかなりそうですが彼等も間違いなく実力者達なのですよね」


 アイスは苦笑しながらソウマやシルヴィア達を見る。彼女とて【十騎聖】相手に一対一のならば正直負けるとはあまり思わない。しかし無傷で勝てるとも楽に制することができるともはっきり断言はできない。


「それでも世にはあまり知られてない世捨て人みたいな実力者存在するがな。そんな奴は滅多に表舞台には出てこないが・・・・・・」


 そう言いながらソウマはどこかに視線を送っている。


「どうしました、師匠マスター?」


「ん・・・・。ああ、何でもねえ」


「うふふふふ、楽しくなりそうね」


 ソウマの不自然な行動にアイスは疑問を感じたがソウマは手をひらひら振って視線を切った。それを見てシルヴィアは意味深に笑っている。アイスはそんな二人を見て更に疑問を深めるが追究しても無駄そうなので気にしないことにした。


「次は私の出番ね」


「ん」


 シルヴィアがそう言うとソウマは枕にしていたシルヴィアの膝から頭を上げて起き上がる。


「シルヴィア姉様頑張ってね」


 シャルロットが手を振ってシルヴィアを送り出す。ちなみにナーバは試合を終えてすぐにソウマ達の元に戻ってくるとシャルロットと共に食事を再開してそのまま食べ終えるとシャルロットを後ろから抱き枕のようにして抱えて寝てしまった。代わりにその間にシルヴィアがソウマを膝枕していたのだ。


「また帰ったらしてあげるわ」


 シルヴィアがそう言ってソウマに笑いかける。シルヴィアは現在素顔を晒している。そもそもシルヴィア達はナーバが合流してからは姿を魔術等で隠したり変えたりしていない。ナーバがそういうのを嫌ったのもあるがソウマ達もそろそろ面倒くさくなってきたので止めている。元々あまり正体を隠す気も自重する気も無かったソウマ達はあっさり隠すのをやめてしまったのだ。


「そうしてくれ」


 普段街中などを移動する時は余計な騒動等を避ける為に素顔を黒のヴェールで隠しているシルヴィアも今は素顔を晒している。只でさえ予選一回戦を突破したナーバが異種族でありながら際立った美貌を持っていた為に彼女が席に戻ってきた時に視線を集めてしまった。視線の集まった先にはこれまた際立った美貌を持つシャルロットやアイスまで居りさらに視線を集めた。そして最後に向けた視線でその視線が全員止まってしまう。この世の美という概念が形になったかのような美貌を持つシルヴィアに男女問わず全ての視線が固まってしまった。そして次いでそのシルヴィアに膝枕されているソウマに男達から嫉妬と羨望と殺気が飛ばされる。


「そこそこに頑張れよ」


 もっともそんなものソウマに取って見れば微風ほども感じていないが・・・・。


 そしてシルヴィアが席を立ち姿を消してからしばらくして四回線の選手達が入場する。その選手達の中にシルヴィアが居ることが分かって観客達がざわつく。入場する選手達もシルヴィアにちらちらと視線を送っている。


「何と・・・・美しい・・・・」

「まさに人外の美だ・・・・。他種族であるのもある意味納得だ・・・・」

「あれは・・・・・吸血鬼だ・・・・。あの美しさ・・・・銀の髪・・・・深紅の瞳・・・まさか!」


 観客も選手もシルヴィアの美しさに釘付けとなっている。


「よもやあれ程の・・・・・」


 観覧席から試合場の様子を見る皇帝も初めて見るシルヴィアの素顔に正直見惚れていた。王城でシルヴィアは顔に薄いヴェールを被せていた。それでも十分にシルヴィアの美しさを認識できていた。


「しかし、薄い布一枚無いだけでここまで変わるものか・・・・・・」


「そうですね・・・・・私も正直に言わせてもらえば彼女と正面で相対した場合は相当に意識と戦意を集中しなければ戦うどころではないでしょうね」


 皇帝の横に控えているオラソが自らの抱く正直な感想を言う。


「だろうな。生半可な覚悟では例え同じ女であってもあの女の前ではその美しさに見惚れてしまうだろうな」


「流石は伝説にすら語られる吸血鬼。生半な精神を持つものでは戦うことすら出来ませんね」


 事実、闘技場では試合が既に開始されているというのに誰もがシルヴィアに視線を送ったまま動けないでいる。観客ですらシルヴィアの一挙一足に注目している。


「なんといいますか・・・・・姉上は戦う時が一番美しい気がしますね」


 アイス自身も若干シルヴィアに見惚れながら試合場を見ている。それにソウマがまだ眠たそうに眼を擦りながら見ている。


「当たり前だ。シルヴィア達吸血鬼も元々は戦闘に特化した部分が有る種族だ。ましてやシルヴィアはその中でも最上位にある王族級の吸血鬼ロイヤルヴァンパイアだ。どんなものであれどんな生物であれその本来の機能が発揮される瞬間が一番綺麗な瞬間だ」


「確かにそうですね。どんな美しい名剣も輝かしい鎧も飾ってあるだけではただ美しいだけ。その真の美しさや華麗な部分は使われてこそ発揮されるというものですね」


「そういうことだ」


「違うよ」


 するとソウマとアイスの会話を聞いていたシャルロットが突然否定の言葉を出す。


「シルヴィア姉様が一番で綺麗で可愛いのはソウマといる時だよ」


 そして笑顔でそれが当然とばかりに答える。その言葉に一瞬目を見開いてキョトンとしたソウマは次の瞬間には笑顔になりシャルロットの頭を撫でる。


「確かにそうですね。その女性が一番輝くのは自分の慕う者の傍に居る時です」


 そしてアイスのシャルロットの言葉に柔らかな笑顔を浮かべる。そして視線を試合場に戻す。


「しかしこれでは・・・・・・・・」


 その言葉通り試合場では試合が開始されてからそれなりに経ったが未だ誰も動こうとしない。


「このままでいても埒が明かないわね」


 その現状を作った張本人であるシルヴィアは溜息をついて歩みだす。それに誘発されるように試合場の戦士達全員がビクリと体を動かす、しかしそれ以上は動けずシルヴィアの歩みをただ見ている。そしてシルヴィアは一人の男の前に歩み寄る。


「え?」


 目の前まで来たシルヴィアに鎧を着た剣士風の男は戸惑いながらも間近で見るシルヴィアの姿に戦闘中であることも忘れて赤面してしまう。シルヴィアが微笑を浮かべると男の顔は更に赤面する。シルヴィアは右手を手刀の形にしてゆっくり掲げる。男はシルヴィアの笑顔に見惚れてそれにすら気が付かない。


「女の色香に惑わされるのは半人前の証拠。もう一度精神修行からやり直しなさいな」


 そして男の首の急所に正確に手刀を打ち込む。男はそのまま意識を手放して倒れ伏す。次にシルヴィアは近くに居た別の者に視線を向ける。


「!」


 その時になってようやく今現在の己の置かれている状況を思い出した戦士達が武器を構えようとする。


「だから遅いのよ」


 しかし時既に遅しとシルヴィアが次々と高速移動をしながらすれ違いざまに手刀を正確に急所に打ち込みながら意識を刈り取っていく。


「(あまり本気で移動すると何が起こっているか分からないでしょうから気を付けないとね)」


 シルヴィアは移動速度をかなり抑えている。それゆえに観客達にはシルヴィアが一瞬現れては消えてを繰り返しているような速度に見えている。


「思い出した!あれは確か伝説のSS級の冒険者の吸血鬼だ!」


 その観客の言葉に周囲が今度は打って変わってざわつき始める。


「あれが・・・・・そうなのか・・・・・」

「噂には聞いていたが、噂以上の美しさと強さだ・・・・・」

「あれが世界最強ともいわれる存在か・・・・・・」


 ざわめきはどんどんと大きくなり会場全体が口々に様々な感嘆と称賛と畏怖の混じった言葉を口にしている。そしてそんな事も他所にシルヴィアはあっという間に全員の意識を刈り取ってしまった。手の埃を払うかのように両手を合わせて叩きながら全員が地面に伏せっている事を確認する。


「全員落第ね。敵と相対したのならそれがどんな容姿をしていようと精神を乱されないようにしなさいな」


「(んな無茶な)」


 シルヴィアの辛口な批評にソウマは心の中で反論する。しかしそれはソウマ以外の会場全体も同じ思いであった。シルヴィアの美しさは感性の豊かなものがその姿を直視すれば己の美的感覚すら崩壊又は書き変わるほどのものだ。ともすれば魂にすら直接訴えかけるその容姿は姿形の全く異なる他の種族や生物であってもその造形の在り方に美しさを見出すほどだ。見る者の魂にまで作用する美。それはもはや一つの能力と形容していい程のものである。素顔のシルヴィアと戦う場合においてはその美しさを見ても動じないだけの精神と魂の強靭さが求められるのだ。それを今向き合っていた試合場の戦士達に求めるのはいささか酷と言うものだろう。


「私も最初に姉上と立ち合いをした時にはその容姿に思わず見惚れてしまい動きが止まってしまいました。それから私の最初の課題は姉上を前にして武器を構えることが出来るようになる事でしたね」


「私もシルヴィア姉様と初めて会った時にはすっごく綺麗でびっくりしちゃったの」


「ああ、確かにシャルロットはシルヴィアに会った瞬間にそんなこと叫びながら抱き着いたな」


 ソウマがその時のことも思い出すように笑いを浮かべる。


「あの時のシルヴィアの面食らった顔は中々に見物だったぜ」


「私も姉者に会って初めて人型の生き物を美しいと思ったゾ」


「それでも姉上と初見でなんの動揺も無く戦えたナーバも並ではありませんよ」


「まあナーバの美的感覚がそもそも人型よりじゃないのもあるだろうがそれ以上に魂と霊格の強靭さもさすが竜王のおっさんの孫だけのもんはあるからな」


「何の話をしていたの?」


 するとソウマの両肩に手を置いて上から覗き込むようにシルヴィアが顔を覗かせる。どうやらソウマ達が話している間に試合場を後にして戻ってきたようだ。


「シルヴィア姉様の話だよ」


 シャルロットが嬉しそうに答える。


「まあそうなの、どんな話かしら?」


 シルヴィアが指を立てて顎に添えながら首を傾げる。するとソウマが一瞬だけイタズラを思いついたような顔をした後に顔を上げてシルヴィアに笑いかける。


「改めてお前が可愛いって話をしていたのさ」


 そしてさらっとそんな事をのたまった。


「ぴゃ!?な、なななななな何を!」


 それを聞いた瞬間にシルヴィアの顔が一瞬で真っ赤に変わる。その姿は先程試合場に居た人物とはかけ離れている姿だった。そしてその姿を見てシャルロットは満面の笑顔になりアイスとナーバが納得の表情になる。


「やっぱりシルヴィア姉様はソウマといる時が一番可愛いよね♪」


「ですね」


「だナ」


「もう!何なのよ!」


 訳知り顔で頷いているアイスとナーバにシルヴィアは尚を赤面したままの顔で憤りを叫んだのだった。


 ※※※※

 二回戦が終了し皇帝は自らの脇に置いてある酒の注がれたグラスを手に取り中身を一気に飲み干す。そして自らの椅子に背を預ける。


「ある程度の予想はしていたが・・・・・・・あれほどとはな・・・・・・・・」


 そして天を仰ぐように見上げ虚空に向かって大きく息を吐く。それに同意する様にオラソとは逆の位置に控えているもう一人の護衛の男が渋い顔になる。


「正直に言いまして甘く見ておりましたな」


「奴等の中にエテルニタ王国の姫が居たのには驚いたがなればこそあの一党の人選も納得ではあったのだが・・・・・・・」


「かつて我等帝国の闘技会において当時の【十騎聖】すら破ったエテルニタ王国の騎士団長のエルフ。世界最強の呼び声も高い唯一のSS級冒険者でもある吸血鬼。そしてこれまた伝説の竜人族の戦士。最後の一人の男については情報が無く分かりませんでしたがこの三人だけでも戦力としては十分すぎると今確信しました」


 元々ソウマ達が自分達の正体について無頓着であったことからも帝国側は調べあげることは容易であった。そもそもシャルロット・シルヴィア・アイスの容姿についてはそれなりに有名であり、特に桃色の髪を持つエルフと言えばこの大陸である国の王族を示す象徴のようなものなので調べなくとも知っている者なら直ぐに分かる程度のものである。


「自国の姫を護衛するためにその国の最高戦力を付けるのは納得だ。吸血鬼にしても確か活動拠点はエテルニタ王国に居を構えている聞いている。姫の護衛の依頼でも出したのだろう。だが奴等も竜人族など当たりを付けたものだな。エテルニタ王国の周辺に奴等の集落でもあったのか?」


 竜人族はその個体数の少なさもさることながら彼等自身が俗世を嫌い大抵の生物の近寄れぬ奥地に集落を形成する事がある為に滅多な事では集落から出てこないし彼等の集落を見つけることは困難なのだ。


「彼等は誇り高く義と調和を重んじる種族です。他種族などの勢力争いや諍いなどには決して加担せずましてや金銭等では絶対に従うことは無い者達です」


「つまり今奴らに同行する竜人族の女は損得で同行しているわけではないという訳だな」


「少なくとも政治的な意図があってあの姫はここに来たのではないでしょうな」


「最後の男は一体何者だ?」


 皇帝はグラスに再び酒を見たし口にする。そして渡されているソウマ達の資料に目を通してソウマの項目の部分で首をかしげる。


「その男についてはほとんど情報を見つけることが出来ませんでした」


「縛られた状態のままでランザを倒すほどの男だぞ。今までなんの噂も聞かなかったというのか?」


 皇帝は目を通していた資料を床の上に放り投げる。その投げられた資料をオラソが拾い上げる。


「しかし皇帝陛下、世には己の研鑽のみを目指して人里離れた地などで修業に明け暮れるような世に知られていない達人達はそれなりにいます」


 そして皇帝の傍の机の上に資料を置きなおしながら自身の意見を述べる。一応オラソはソウマの経緯については聞いているのだがそれをここでわざわざ明かす気は無いようだ。


「俺も貴様が言う様にそういった類の者には何度かあったことがある。そういった者は大抵の場合は地位や金には興味を動かさん。【十騎聖】誘ったことも何人かあるが全て断られたよ。そうだとしても奴は何か違う感じがするのだ」


 皇帝のその言葉に傍に控える男が怪訝な顔をする。


「何かが違うとは若すぎるということですか?確かに山奥にでも引きこもって修行に明け暮れていたにしては少し若すぎるような・・・・・」


「いや、そうではない」


 側近の男の言葉を皇帝は即座に否定する。


「確かに見た目には若いようだが肝心なところはそこではない」


「と、言いますと?」


「今までに会って来た本物の武人や達人などその道をある程度極めている者達にはある種独特な雰囲気のようなものがある。それは研鑽と経験によって身に付いた自信などから来るものだと思うのだ。天才と呼ばれる才に恵まれただけの者や神々の加護を授かっている勇者等とは全く違う雰囲気だ」


 そして皇帝は視線をオラソに向ける。


「正に鍛え上げられた真の強者のみが持つ雰囲気と言うものだ。お前のようになオラソよ」


 それに一瞬目を見開いたオラソだが直ぐに笑顔に変わる。


「光栄です皇帝陛下。それで、では彼にはそれとは違うものを感じるという事ですか?」


「奴には何と言うのだろうか・・・・・・雰囲気そのものは真の強者が持つ雰囲気に近いのだが・・・・何か・・・・・何かを越えた・・・・・・ものを感じる」


「何かを越えた・・・・ですか?」


 側近の男はその要領を得ない皇帝の言葉に首をかしげている。


「そうだ。先に言った達人達が持つ雰囲気は辿り着いた者達が持つものだ。どちらかと言えば奴等の仲間のエテルニタ王国の騎士団長のエルフがそうだと言える。だが奴は違う。それ以上の何かある種超越したような雰囲気を持っている」


「それは今の吸血鬼や竜人のようにですか?」


「それも違うな。吸血鬼や竜人は生まれ持っての純粋な強い生き物だからな。ある種天災や災害と一緒の自然の驚異と言う奴だ。だが奴は全てを越えるモノを感じる」


「・・・・・・・・・」


 側近はそれ以上は口を挟まなかった。帝国の歴代の皇帝達は代々武力国家の長として相手の強さを測る目や強者を嗅ぎ分ける感覚が非常に優れている者が多い。特に現皇帝ザナス・バイエル・ダナークは歴代の中でも特にそう言った感覚に特化していると言われている。そしてそんな皇帝がここまで言い切ると言う事に彼等も疑いの言葉を持てなくなっていた。


「しかし皇帝陛下、貴方の言葉が真実であるならば今回出場している【十騎聖】達があの一党に勝つのは・・・・・・・」


「難しいだろうな。まあそれそのものは最初から予想はしていた。今回の肝は奴等の実力を確かめることと【十騎聖】に上には上がいることを教えるためだ」


 そうして更に酒を呷る。


「もはや人族を至上と考えて他の種族を見下したりする時代は古い。魔族と今相対する時こそ人族と言う狭い枠で閉じこもっていては駄目なのだ。勇者を当てにする気は無いがそれでも我々だけでも出来る事は限りがある。まあ・・・こんなことは他では言えないゆえに強がりを言わねばならんがな。それでも内側から少しずつ変わらなければならん。・・・・お前のようにな、オラソよ」


 そう話を振られたオラソは一瞬の動揺こそ見せたものの直ぐに感服するように頭を下げる。


「皇帝陛下の考えに感服いたしました。そして流石でございます。やはり気が付いていたのですね」


「まあな。それに元々お前達の一族は最初からそういった気風の家だったと聞いている。しかし話は変わるが貴様なら奴等の誰かに勝てるか?」


「なかなかに意地悪な質問をなさいますな。率直に言わせていただきますとまず皇帝陛下の言われる通り男と吸血鬼と竜人に関しましては間違いなく逆立ちしても勝機は無いでしょう。エルフの騎士団長は正直五分五分と言った所でしょうね。実際に立ち会って見ないと何とも言えませんが・・・・」


「【十騎聖】最強の貴様がそこまで言うとはやはり本物のようだな」


「・・・・・・!」


 オラソの言葉に側近であるもう一人の【十騎聖】の男は驚愕する。オラソの実力は己の力量に絶対の自信を持つ者の多い【十騎聖】の者達が認める程の実力である。現在各国に存在する勇者であろうと単独で勝利するのは恐らくは難しいであろう程の実力者が絶対に勝てないと言う程の存在に驚愕を隠せないでいた。


「奴等三人の内一人でも我が国に勧誘できればな・・・・・・・・」


 皇帝の言葉にオラソは即座に首を振って否定する。


「無理でしょうね。先に言った竜人もそうですが残り二人も金銭や地位などで動く人物ではないでしょうね。吸血鬼の方も男の方も恐らくは依頼とは別の個人的な心情で動いているでしょう」


「いやに奴等に詳しいようだな」


 皇帝が意味ありげな含み笑いでオラソを見るがオラソはその視線をうまく躱す。


「まあ、奴等の強さを見る良いか機会だ。滅多に見れん程の強者を俺もじっくり見せてもらおうじゃないか」


 ※※※※

 しかし、事態と言うのは往往にして予想とは違う事態が起こり得るものである。


「・・・・・・・ば、馬鹿な・・・・・」


 そう言って【十騎聖】の一人ハイルが崩れ落ちた。それを静かに見下ろす男。他の出場者達は既に全員意識を失い男とハイルだけになっていた。その時点で既に観客達は【十騎聖】のハイルが勝ち残ると思っていた。しかし蓋をを開けてみれば立っているのは別の男だった。


「今回の闘技会は身分や経歴など一切関係なく出場できると聞いてまいりました。しかし流石は名高き【十騎聖】。危ないところでした」


 片目を包帯で多い、長髪を頭の後ろで結った痩身の男だった。年の程は四十に届くかどうかという程度の老け込みをみせており、ともすれば枯れ木のような印象を与える男だった。佇まいに隙は無く片手に携えた槍も遠目に強い魔力纏った魔槍であることが分かる。急所の身を覆っただけの簡素な鎧は先程見せた技量を見れば納得の軽装である。


「き・・・・貴様!名を・・・・名を、名乗れ!」


 ハイルが最後の意地かいつか来る再戦の為か男の顔を目に焼き付けるように睨み名を訪ねる。


「私は己の研鑽の為に世界を巡っているアムラと申します」


「その名・・・憶え・・た・ぞ」


 そういしてハイルの意識はそこで途絶えた。それと同時に巻き起こる観客の声援。自国の誇りである【十騎聖】が敗れたことは残念な事実ではあるがそれ以上に強い者を尊び歓迎するのがこの国の風習である。退場していくアムラに観客から大きな拍手が起きている。そしてその背中を同じく上から見ていたアイスが静かに眺めている。


「驚きました。まだ野にあれ程の実力者が居たのですね」


「周りの観客や相手をしていた【十騎聖】の反応を見れが帝国の者でも無ければ名が知られているわけでもないようね」


「【十騎聖】の方の実力も決して弱くはありませんでした。事実彼の方も無傷では済んでいません」


ちからと速さでは負けた方が上だったナ。だが戦闘の経験値や人で言う技量と言う奴が圧倒的に上を行っていたナ。前にソウマと何度がやりあった時と同じようなことをやっていタ」


「確かに軽い手傷を負いながらも致命傷になるような攻撃は確実に捌いていた。順当勝ちって奴だな」


 ソウマもゆっくりと退場するアムラの背を見ながら欠伸をしている。


「しかしあれ程の武人が無名のままいるとは・・・・・・・」


「別に珍しくないだろうよ。俺の知り合いにもそんな偏屈な奴が何人かいたぜ。どいつもこいつも化け物みたいな連中だがな」


 その言葉にシルヴィアが小さく笑う。


「私もその人達は何人か知っているけれど彼等からすればその言葉はソウマだけには言われたくないでしょうね」


「まだ生きてるかどうか知らねえがな」


「世には私の知らない強者も多く存在しますね。私も足元を掬われないようにしなければ」


 アイスはソウマを一瞬見た後に気合を入れるように剣の柄を握りしめる。そんなソウマは空を仰ぎながら考え事をする。


「(しかし、あれ位ならアイスの相手にも丁度いいかもしれんな・・・・・。そう都合よく当たってくれるとは限らんけどな)」


 思案の内容は完全に弟子の世話を焼こうとする師匠の思考である。シルヴィアは気合が入っているアイスの肩に手を置いて小さく語り掛ける。


「(良い心掛けね。でも大丈夫よ。少なくともソウマを目標にしている限りは慢心する余裕なんて来ないから)」


「そうです・・・・・・ね」


 その言葉で握りしめていた柄を離して肩の力を抜いた。その両肩を優しく叩く。


「気合を入れるのも良い事だけれどあまり肩のちからを入れすぎても余計な失策で本当に足元を掬われるわよ。いつも通りでいいの。いつも通りが最善なのよ」


「毎日毎回自分の最大値の実力を出し切る必要は無い。毎日毎回常に自分の七割から八割の実力をどんな状況だろうと発揮できるようになれればいいんだよ」


「はい」


「さて、確か次はお前の出番の筈だろ。何にしてもまずは予選を通過するのが今の目標だ。本戦で俺等の誰かと当たるまで負けるんじゃねえぞ」


「そうよ。私も貴女と戦いたいわ」


「楽しみにしていル」


「はい!」


 ソウマ・シルヴィア・ナーバの三者からの激励にアイスは普段に無いほどの覇気に満ちた返事を返して自らの舞台に向かうために観客席を後にする。するとシャルロットが立ち上がる。


「アイス姉様!」


 呼ばれたアイスが静かに振り返る。


「アイス姉様なら大丈夫だよ!」


 笑顔でそう自らの精一杯の応援の言葉を贈る。その笑顔には普段にソウマやシルヴィアに向けている絶対の信頼が宿っている。


「ありがとう、シャル」


 その笑顔に宿る信頼をアイスも感じ取り自らのその信頼に精一杯の笑顔で応える。そのやり取りに周りの観客が一瞬見惚れるほどの美しい笑顔だった。その背を見送りシルヴィアがソウマの隣に腰を下ろす。


「もう認めてるんでしょ?」


「何がだ?」


「それとも今回のこの闘技会が最後の試験なのかしら?」


「・・・・・・・・はあ、お前には敵わん」


 ソウマはシルヴィアの問いかけと笑顔に降参する様に手を上げた。


「あなたの口からその言葉を言わせられるなんて光栄ね」


「確かにお前の言う通りだ。それと別にこの大会を試験代わりにしてるわけじゃない。別に言わなくてもいいと思っているだけだ」


「直接言ってあげた方が喜ぶと思うわよ。アイス自身も心の奥底ではソウマがどう思っているのか気になっているようだし」


 ソウマは頭をガシガシ掻いて決まりが悪そうな顔をする。


「今更言葉で言うのもなんだかな・・・・・・・」


「いいじゃない別に」


 それでもソウマは渋い顔をしてシルヴィアはそれを見て可笑しそうに笑っていた。

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