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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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56話 闘技大会

 ソウマ達は王城から(半ば無理やり)出てアイス達との落合場所である孤児院近くの宿に居た。


「王城での経緯はそう言う事だ」


 ソウマはアイスとシャルロットに王城で起こった出来事を説明していた。もっとも、シャルロットは帰ってきたシルヴィアとナーバにしばらく甘えた後にシルヴィアの膝で眠ってしまっている。


「それで師匠マスター達はその闘技大会に出るという訳ですか・・・・・。これで一応の事態の収束の目途は立ちましたね」


 アイスはその話を聞いて一安心したように胸を撫で下ろす。大会での勝敗での結果の有無自体はまるで気にしていない。ソウマやシルヴィアやナーバが出る時点で既に結果はアイスの中では決定しているのだ。


「何呆けてんだ。その大会にお前も出るんだよ」


「わ・・・私もですか!?」


 ソウマの言葉を聞いたアイスが珍しく狼狽えた声を上げる。


「何故私が出る必要があるのでしょうか?師匠マスターや姉上達が出る以上は私が出場する意味があるとは思えませんが・・・・・」


 アイスとして当然の疑問を口に出す。ソウマは当然としてシルヴィアもナーバも世界最強に数えられる存在である。当然のアイスは自分よりも遥かに実力が上の三人が出る時点で自分の出る幕は無いと考えている。


「阿呆。修行だ修行。実戦に勝る修行は存在しない!」


「な・・・・・・」


「(なんだかんだでアイスのことを弟子として考えているわね)」


 シルヴィアがシャルロットの頭を撫でながらソウマとアイスのやり取りを微笑みながら見ている。ソウマの弟子を自称しているアイスとしては師匠ソウマにそう言われては反論できない。


「俺達もそうだがお前にも出場するにあたり戦闘での制限を付けるぞ」


「制限ですか?」


「ああ、俺はエスパーダは使わない。シルヴィアは影の能力を使わない。ナーバは爪や羽は使わない。そしてお前は氷の魔術等は使わない。俺・シルヴィア・アイスは通常の剣を使用する。そしてナーバは徒手空拳のみだ。要は純粋な剣術体術や身体能力で戦えってことだ」


「私もそれでいいと思うわ。私達にはそれぐらいが丁度いいだろうし貴女にも良い訓練になるわ」


「私も別に構わン。あの程度の連中に爪を使う気など最初からないからナ」


「・・・・・・・分かりました。確かに私としても願ってもないことです」


 アイスは両手を握りしめて闘志を瞳に宿す。少しでもソウマ達の強さを目指すアイスとしては自らに課される試練はむしろ歓迎である。それにソウマが自分のことを少しでも弟子のように扱ってくれたのも嬉しかった。


「ちなみに俺達の誰かがお前に当たった場合はそれなりに覚悟しとけよ」


「え゛」


 ソウマは話し終えて立ち上がり部屋を出ていく前に最後に爆弾を投下していった。それにアイスは喉から絞り出すような声が出てしまった。それをシルヴィアが苦笑しながら見ていた。


 ※※※※

「ある程度の予想は出来ていたが・・・・・・・・まさかあれ程とはな・・・・・・」


 皇帝は自らの自室で椅子にもたれ掛かりながら一人思案に耽っていた。


「この俺が心底から心胆寒からしめられるとはな」


 正直な所を言えば彼はソウマ達の実力にある程度の予想をしていた。【十騎聖】の一人であるランザを斃した話と【死の領域】を踏破した話を踏まえて(確認はしていないが確信はある)ソウマ達の実力は確実に【十騎聖】達を凌駕していると考えていた。


「しかしまさかそれ以上の怪物だったか・・・・・・・」


 シルヴィアが最後に発したあの威圧は彼の人生において比肩するものが無いほどの強烈な威圧だった。彼も皇帝として様々な人物や種族にも会って来た。その中で威圧や殺意、そして殺威も見て感じてきたがそれが涼風程度にしか思えないほどのものだったのだ。


「あのエルフはともかく人族の男と竜人の女もあの吸血鬼と同等の強者だとすれば・・・・・・・・」


 皇帝の顔に何度目かは分からない冷汗が流れる。しかしその後に小さく笑い傍らに置いてあるグラスの酒を手に取り一気に飲み干す。


「だが面白いではないか。それ程の強者ならば是非にともその強さをこの目で見てみたいものよ」


 この皇帝の本質は結局のところは強者を尊ぶという所が一番優先される。正直なところを言えば今回の騒動がどういう結果になろうと興味があまり沸いていない。それ以上にソウマ達の強さの方こそ興味を引かれている。


「楽しませてくれよ・・・・・・」


 そう言いながら皇帝は再び酒をグラスに注いでいった。


 ※※※※

 それからしばらくの期間が経過してソウマ達は今、帝国の中心部に位置する王城の間近に建設されている闘技場に来ていた。


「ようやくか・・・・・大分待たされたな」


「まあ、しょうがないじゃないの。聞いた話では一度改めて【十騎聖】の出場と出場条件の変更とを帝国中だけじゃなく大陸中に知らせたそうよ」


「今までは帝国領内の国民のみ出場できる大会や国外の者は高額の出場料金を取られていました。それと他種族の者もよほどのことが無いと出場できません」


「それが今回の大会はそれらの一切が取り払われているわ。だから帝国外からも中々出てきているらしいのよ。それに奴隷の他種族も望めば出場できるから勝って奴隷の身分から解放されたい奴隷なんかが結構出てるらしいわ」


「【十騎聖】以外にもそれなりに面白い奴が居ればいいけどな」


「受付を済ませましょう。登録を済ませてあるから最終確認の受付を受けて済ませないと失格になってしまうわ」


「そうだな」


 今日のソウマとアイスとシルヴィアはそれぞれが通常の大陸で出回っている一般的な騎士用の剣を携帯している。


「早く済ませて人の眼が無いところに行くゾ。ここは視線が鬱陶しイ」


「私何か美味しい物が食べたいな!」


 ナーバが周囲を鬱陶しそうに見回しながら言う。ナーバの言う通り今現在彼女達は周囲の視線をかなり集めている。他種族とということもあるのだろうしシルヴィアやナーバの服装が目立つということもあるだろうがそれ以上に人の目を引いているのがやはり彼女達の美貌だろう。シルヴィアの人外の美しさもさることながらエルフとしても際立った美貌を持つアイスも野生的な美しさを持つナーバも太陽のような可愛さをもつシャルロットもかなり人目を引いている。ここまでの美貌を持つともはや帝国の人間といえど他種族と分かっていても見惚れずにはいられないようである


「確かに結構いろんな露店が出てるな。旨そうな匂いもそこかしこからする・・・・何か買って食うか!」


「わーい」


 ソウマにはいつも通り複数の嫉妬の視線が飛んできている。しかし露店の食べ物に夢中のシャルロットと同じくソウマも周りの視線に気にも留めていない。シルヴィアとアイスもこの手の視線には慣れたもの。唯一ナーバだけはこういった不躾に近い視線に慣れておらず感覚の鋭敏な彼女はそれを余計に煩わしく感じてしまっている。そんなしかめっ面のナーバの肩をシルヴィアが優しく叩く。


「ほら、ナーバもあまり周りは気にしないでって言っても無理かもしれないけれど少しでも気を紛らわすために食べ物でも食べましょう」


「・・・・・・・ン」


 シルヴィアにそう言われてナーバは周囲に視線を送るのを止めて大人しくソウマとシャルロットがいる露店の前まで歩いていく。それを見届けたシルヴィアはその一部始終を心配そうに見つめていたアイスにも微笑みを向ける。


「貴女も行きましょう」


 そして彼女にも声をかける。


「はい、姉上」


 そうして露店で大量の食べ物を買い込んだソウマ達は客席の端の方で落ち着いていた。ナーバもシャルロットと一緒に食べ物を食べていれば特に視線も気にしなくなっている。


「どうやら参加者が予想よりもかなり多かったようですから予選と本戦の形式で分けるようです」


 アイスは先程受付を済ませた後にしばらくして受付から手渡された大会事項の書かれた紙を見ている。


「予選と本戦?」


「ええ、予選はある程度の人数を一度に戦わせる乱戦形式にして勝った一人を本戦に進ませるというものだそうです。それで本戦は勝ち上がり式の一対一の対戦形式だそうです」


「その方が手っ取り早いナ。一々弱いのを一回ずつ相手にするのは面倒ダ。もぐもぐ」


「まあ・・・・・・無駄に時間をかけるのもな・・・・・・」


「そうね。早く済むならその方がいいでしょうね」


 更にアイスは紙に目を走らせる。


「一応ここには予選の組み分けが書かれています。私達はそれぞれ全員が違う枠組みの様です。【十騎聖】の方々も違う組ですね」


「俺達はまあ分かるとして【十騎聖】のように明らかにそれなりに実力が有る奴は高確率で本戦に残るから予選からあまり当てないようにの配慮だろう」


「一応本戦の方でお客さんを楽しませるようにの采配でしょうね」


「アイス姉様は一応正式な身分で参加してるんでしょ?もぐもぐ・・・・・・」


「さずがに私は本名で出るので身分も隠すのも限界がありますので・・・・・」


 シャルロットの言う通り今回、アイスは本来のエテルニタ王国騎士団長としての身分を明かして出場している。アイスの性格上本名を偽っての出場は不本意であるようで(エルフは自らの名を誇りにする傾向があるので自分の名前を略称することはあっても偽らない)本名であるアイスクル・グラシオで出場している。そしてその場合は彼女の本名はエテルニタ王国の氷の騎士団長としてかなり名が通っている。所属もそう登録したので今大会でも話題の一つに上っているのだ。それともう一つの理由がある。


「確か、貴女三十年位前にも帝国にアウロ王の護衛で付いてきた時に特別招待戦士で出場して優勝しているわよね?」


「・・・・・ええ、当時の・・・・・先代皇帝になりますが、皇帝にどうかと言われまして・・・・・・。その時に一緒にいたラルク様も腕試しのつもりで出てみろと・・・・・・」


「それで優勝したのか?」


「はい、当時も私はラルク様や姉上に鍛えていただいていましたから・・・・・それなりに腕に憶えはありましたので・・・・当時の出場者の質にも助けられて優勝することができました」


「謙遜することはないわ。誰にでも出来る事じゃない立派なことよ。それに貴女その後の当時の【十騎聖】との戦闘にも勝利してるじゃない。それは誇っていい事よ」


「いえ・・・・姉上や師匠マスター達を前にすればそう素直に自慢できないというか・・・・・」


 そう言ってアイスが何となくソウマの方を見る。ソウマはそんなアイスの視線に気が付いて露店で買った串焼きを頬張りながら顔を向ける。


「シルヴィアの言う通りだぜ。勝利に驕れるのは問題だが勝利を正しく捉えるのはまた大事なことだ。驕りは油断に繋がるが正しい自信は次の戦いの大きな武器になる。自身の成長を正しく認識するのは大切な事だ。謙遜しすぎるのも良くないぞ」


「はい」


 アイスはソウマの言葉に静かに頷いた。


「しかし、それでか・・・・アイスが受付するとき周りの何人かが少し緊張したのは・・・・あれは帝国の関係者だな」


「三十年前だから当時の事を覚えている人もいるかもね。特にアイスは長命種で外見が変わっていないから余計憶えていたのでしょうね」


 シルヴィアもその時を思い出すように視線を泳がしている。


「正直に言えば帝国側は屈辱だったのでしょう。人族ではなく異種族の者が帝国の闘技会で優勝するのは滅多になく。更には当時の【十騎聖】も私に敗れましたから・・・・・・」


「帝国側からすれば絶好の名誉挽回の機会ってわけだな」


 すると周囲に響き渡るように女性の声が響き渡る。それは音響増幅効果の魔道具による会場全体に聞かせる進行の合図だった。


「どうやら皇帝様が何か話すようだな」


 声が響き渡ると同時に会場が静まり返る。そして闘技場の一番高い位置に有る闘技場全体が見渡せる場所に座る皇帝が立ち上がり会場全員が見える位置まで進み出る。そして隣に居た男に何かを手渡されてそれを口元に持っていく。


「今日は良く集まってくれた」


 それは先程の進行役の女性も使っていた魔道具だった。


「今回は異例の事があったゆえに少々の変更が有ったことを皆に詫びたい。しかし、それでも今回の闘技会は今までにない数の出場者が集った。今この場においては人族も異種族も関係ない!ここでは強者のみが正義だ!勝てばこの帝国皇帝ザナス・バイエル・ダナークの名において我が帝国のちからの及ぶ限りの望みを叶えると約束する!」


 オオオオオオオオッッッッ


 周囲から一気に歓声が上がる。


「勝が良い!勝利し、己の望みを!己の強さを証明しろ!」


 オオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!


 更に大きな大歓声が巻き起こる。


「流石になかなかのカリスマ性ね」


「武力国家を束ねるだけの事はあるってことだな」


 そしてすぐさま会場に女性の声が再び響き渡る。


「どうやら予選が始まるみたいね。最初は・・・・・・ナーバからね」


「むぐむぐ」


 会場に響き渡っていた進行役の女性の声も皇帝の声もまるで意に介さずにシャルロットと露店の料理を食べ続けているナーバ。


「ナーバ、試合よ」


「むぐ?」


 シルヴィアに呼びかけられてようやく顔を上げる。シルヴィアはそんなナーバに闘技場を指さす。


「試合、貴女の出番よ」


「むぐむぐ・・・・・んぐ、分かっタ。行ってくル」


 口の中にある料理を噛んで一気に飲み込んだナーバは立ち上がる。


「ナーバ姉様、頑張ってね!」


「ああ、、任せておケ!」


 シャルロットからの応援にナーバも笑顔で自信満々に答える。


「殺すなよ」


「手加減してあげなさい」


「ほどほどが一番ですよ」


「分かってル」


 しかし続くソウマ・シルヴィア・アイスの言葉にナーバは唇を尖らせる。


「(獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすとはいうが・・・・・・・・竜が蟻に本気を出してたら洒落にならねえよな)」


 ソウマはナーバの背中を見送りながらそんなことを考える。ソウマ的には何もどんな相手にも全力を出さずとも相手の力量を正確に見極めて油断さえしてなければいいと考えている。でなければナーバが相手であれば大抵の相手が戦力過剰の弱い者いじめになってしまう。


「お待たせいたしました!ただいまより予選第一試合目を開始したいと思います」


 そして会場中に響き渡る司会進行の声。それと同時に闘技場に繋がる大きな扉が開き戦う戦士達が数十名入場してくる。その中にはナーバの姿もある。


「ナーバ姉様頑張れーーーーー!」


 シャルロットはその姿を見つけると声を張り上げて声援を送る。


「今回の闘技会は参加人数も多いために予選と本戦を分ける形式としました。予選はそれぞれ組み分けられた出場者を約十四名に分け一度に戦います。そして計十四回予選を行いそれぞれ勝った一人が本戦に進む形式となっております」


 進行役の女性の声が今回に試合形式を説明する。


「今回の大会には我等が帝国の誇る【十騎聖】も出場しております。噂によればその他にもかなりの実力者も出場しており今大会は皇帝陛下も大変注目しております。皆さま、今大会は例年にない素晴らしい好試合が期待できるでしょう」


 司会女性の解説に会場が大いに沸く。


「それでは早速予選最初の試合を始めたいと思います」


 その言葉を合図に入場していた選手たちがそれぞれの武器を構える。


「・・・・・・・」


 会場に緊張感が流れる。


「始め!」


「喰らえぇぇぇぇぇぇぇ!」


「はあっ!」


「ふんっ!」


 開始の合図と同時に選手たちが一斉に近くの選手達に攻撃を仕掛ける。喧々囂々とする試合場の真っ只中でナーバは周りの戦闘などまるで意に介さず自然体で佇んでいる。するとそんなナーバの前に一人の男が立った。ナーバはゆっくりと視線をその男に向ける。


「どうしたい、異種族のねーちゃん。そんな風にぼーとしてたら後ろから襲われちまうぜ?」


 男の格好は革鎧を纏っただけの簡素な装備に肩に担ぐようにメイスを持っている。粗暴な雰囲気と手入れのない無精髭はその男がゴロツキ崩れの冒険者である事を見る者に分からせている。そしてそんな男の視線が無遠慮にナーバの体を見まわす。


「どうだい、アンタみたいな別嬪がこんな所にいるのは似合わねえな。怪我をしないうちに俺に優しく倒されておきな。なんならその後に俺の泊まってる宿の部屋で俺が介抱してやってもいいぜ?こう見えて俺は異種族の女にも優しいんだよ。ましてやアンタみたいな別嬪なら尚更だ」


 どうやらナーバの種族を竜人ではなく鱗人だと思っているようだ。実際のところ竜人を見たことがある者自体が稀なので分からなくても無理はないところではある。この男も鱗があるだけで無条件で鱗人だと思っているようだ。


「なあ、どうだ・・・」


「前置きが長いナ」


 男の言葉をナーバが溜息をつきながら遮り言葉を吐く。そして普段は見せないような前かがみになりその豊かな双丘を見せつけるようにしながら男に指を立てて誘う。その仕草に目の前の男だけでなく周りで戦っている男達ですら何人か目を奪われている。


「私が欲しいのだろウ?ならばちから尽くでモノにすればいイ。ちからが全てがこの国の掟なのだろウ?」


 それを聞いた男は一瞬面食らったような表情になるが次いで顔を歪めて笑った。


「そういことなら遠慮なく!」


 そう言って男はナーバに向かって一歩を踏み出した。


「!」


 そして男は自らの額に突如強い衝撃を受けてそれ以降の意識を完全に手放した。糸が切れた人形のように崩れ落ちる男の前にいつの間にか間合いを詰めたナーバが中指を立てた状態で立っていた。


「今のはナーバが何かしたのでしょうか?」


 観戦していたアイスは疑問を口にする。どうやら遠目からではナーバが何をやったのか彼女には分からなかったようだ。


「男の目の前でデコピンかましたのさ」


 ソウマはアイスの疑問に答えるように中指を親指に噛ませて弾いてみせる。


「あれでも十分手加減はしているはずだ。全力でデコピンしていたら首から上が消し飛んでいるはずだからな」


 そうこうしているうちにナーバの周りにいた他の出場者達が何が起こったのかは理解できていないがナーバが何からの方法で男を倒したと思い厄介と判断したのか一斉に飛び掛かった。


「ふん」


 しかし周囲を見回して一度鼻を鳴らしたナーバはそのまま動じることなく腕を組んでしまう。飛び掛かった男の一人が諦めたのかと一瞬思う。


「んがっ!!」


 しかし男の意識はそこで途切れる。最後に見た光景はナーバが自分に対して背を向けた姿だった。それ以降ナーバの周辺にいる出場者達が次々と意識を失い倒れていく。


「すごい!ナーバ姉様の周りの人達がどんどん倒れていくよ!」


 シャルロットはそれを見ながら飛び跳ねながら嬉しそうにしている。その際に抱えていた食べ物がいくつか宙に舞うがそれをシルヴィアが何事もないかのように掴み取る。


「シャル、応援するのはいいけれど飛び跳ねたら危ないし食べ物が飛んでしまうわ」


 そして静かにシャルロットを諭す。


「ごめんなさい、シルヴィア姉様」


 シャルロットは大人しく座りなおす。シルヴィアはそれを見て苦笑しながらシャルロットの手から離れた食べ物を手渡す。それを受け取ったシャルロットの頭を撫でながら視線を闘技場に戻す。


「ナーバは手早く片付けることにしたみたいね」


「あれは・・・・・・ナーバが尾で相手を倒しているのですか?」


 アイスが目を凝らすように闘技場を覗き込んでいる。その目にはナーバの尻尾が時折消えるようにブレるのが何とか捉えることが出来ていた。


「そうだな。ナーバの尻尾の射程距離は大体が二メートル程度だがその範囲内に入った相手の顎を的確にうち抜いてる」


 ソウマはアイスの言葉を肯定する。


「早めに終わらせてシャルと飯を食べル」


 ナーバが尻尾での攻撃を選択したのはそれが一番手加減をしやすいからだ。人型の時のナーバの唯一竜である部分を残している。つまりナーバにとって人型の時に一番扱いやすいのは手足ではなく尻尾である。いくら竜の時と人の時で戦闘力に差が無いとはいえそれは飽くまでも全力戦闘時であり人型の時は手加減がしにくいのだ(元々ナーバは手加減が苦手であることもあるが)。


「下手に殴ると首から上が飛んでしまうからナ。指を弾くのも頭蓋骨を砕いてしまいそうダ。尻尾なら上手い感じに気絶だけさせられル」


 戦闘に於ける生死は成行きの結果である。運が有れば生き残るし悪ければ死ぬ。更に勝者の気分や場の状況でも生死は分かれる。そう言った点からナーバは本来であれば戦った相手の生死をあまり考慮しない。しかし最近では色々と学んだことによりその考えにも多少なりとも変化が起きている。戦う以上は相手の死は仕方ないと思うのは変わらないが殺すべきではない状況と言うのも理解できるようになってきた。


「シャルの悲しむことはしたくないしナ」


 シャルロットも如何に優しい性格とはいえ世の全てが綺麗事で済むとは思っていない。しかし理解と感情は違うものだ。なるべくなら人死には見たくないのが彼女の本音である。ナーバもそれを分かっている。


「ナーバ姉様は私の為に優しいね」


 そしてそんなナーバの心を理解するシャルロットも嬉しそうにする。


「そうね」


 シルヴィアも同意してシャルロットの頭を撫でる。


「ここでは生き返れるけど死ぬのは痛いし怖いからそんな思いしなくて済むんならその方が良いよね」


 話している内に闘技場では既にナーバを除いては二人ほどになっていた。その二人は同時にナーバに仕掛けようとしている。どうやらナーバが一人ずつでは手に負えないと判断して共闘することにしたようだ。それをソウマは呆れたように見る。


「その判断は開始時点で全員とするべきだったな。まあ、どっちにしろ結果は変わらねえけどな」


 ソウマがそう言うのと同時に二人はナーバに斬りかかった。しかし尻尾の射程距離に入った瞬間に二人は意識を失い飛び掛かった慣性のままにナーバを通り過ぎて地面に倒れ伏す。


「・・・・・・・・」


 全員倒し終わった時には闘技場は静まり返っていた。試合が開始された最初は盛り上がって歓声を上げていた観客達もナーバに近付く選手達が一人また一人と地面に倒れ伏す光景に徐々に言葉を失っていった。そしてナーバを除いた全員が地面に倒れ伏した時には騒めきすらなく静まり返ってしまった。今まで彼等が見てきた者達とはあまりにも違いすぎる事態に完全に言葉を失っている。過去にもこれと同じ方式で試合を行ったことはあったがどれも選手入り乱れての中々に盛り上がる内容だった。しかし今回のようにまったく理解の及ばない事態は初めてだった。


「何が・・・・・起こったんだ?」

「分からない・・・・・」

「選手達が彼女に近寄ったら次々に倒れていったぞ・・・」

「何かの魔術か?」

「本当にあの女が倒したのか?」

「何か不正をしたんじゃないのか?」


 次第に騒めいていく観客の中に段々と不穏な事を言いだすものが現れ出す。


「何か良くない流れですね・・・・」


 アイスが周囲の変化を感じとって怪訝そうに顔を顰める。ソウマも席に身を預け両手を頭の後ろで組みながら眠そうに欠伸をしながら観察する。


「そりゃあ無理もないだろうぜ。いくらナーバが手加減したとはいえ生半可な奴にその動きが捉えられるはずがないからな。更に言うならナーバが観客に見えるようにわざわざそんな配慮をするはずもないからな」


「ではどうなるかしらね」


 終わったとみて食べ物に集中し始めたシャルロットの世話を焼きながらシルヴィアもあまり心配してなさそうに笑っている。


「しかしこのままナーバの試合結果に観客達が不満を募らせれば面倒なことになるのではないですか?」


「・・・・・・・」


 アイスがこのまま事態が進んだ場合の危惧を口にしソウマが感情の読めない表情で闘技場を見ている。すると皇帝が立ち上がり観客達が見える位置まで進み出る。皇帝の姿に観客達のざわめきも次第に収まる。


「観覧していた者達よ。諸君らの疑問は理解できている。しかし案ずるなそこな竜人族の女は不正を行ってはいない。それはこの皇帝ザナス・バイエル・ダナークが保証しよう。諸君らの眼には見えなかったかもしれんが彼女は間違いなく他の戦士を自ら倒している。よって彼女の予選突破を私は認める」


 魔術で増幅された皇帝の声に観客達は騒めきながらも徐々に納得の感情を覗かせていく。そして数人が拍手をすれば次第に会場全体に拍手が巻き起こった。


「皇帝が言うなら間違いはないだろう」


「それにしても竜人族なんて生きている内に出会う機会があるなんてな」


「俺も初めて見た!」


 そして次の話題が伝説の種族である竜人族であることに切り替わる。そしてその様子を安堵の表情でアイスが見ている。


「何とか会場は収まりそうですね。それにして中々の統率力ですね現皇帝殿は、好きにはなれませんが流石は武力国家を纏める王ですね」


「それにしても私達も今のナーバの試合で一つの課題が出来たわね」


「そうだな」


 口の周りにソースを付けたシャルロットの口元を拭いてあげながらシルヴィアが言い。ソウマもそれに同意する。


「俺達の時はちゃんと客の納得できる勝ち方しないといけないという事だな。本戦の一対一の時ならともかう乱戦の時は倒す人数も多いから分かりにくいんだろうな」


「それはそれで疲れるわね」


「まあ別に俺達の誰かが優勝すればいいだけだから無理に全員が上に上がる必要は無いんだが・・・・・」


 ソウマの言葉もシルヴィアは小さく笑いアイスは瞳が鋭く光る。


「私達は基本負けず嫌いだものね」


「だな」


 シルヴィアの言葉にソウマも小さく笑いを溢した。

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