55話 皇帝謁見
帝都の王城の一室に深夜、扉を叩く音が響く。
「入れ」
扉の中から男の声が響く。扉を叩いた男は静かに扉を開けて入室する。
「失礼します。夜分遅くに申し訳ありません、皇帝陛下。しかし出来ればすぐにお耳に入れていただきたいことがあります」
ここは皇帝の寝室。そこかしこに高価そうな調度品の数々が置かれており王族の私室らしさを表しているがただ一部分だけ異質なものがある。壁一面に立てかけられている様々な武器の数々。この部屋が武力国家の王族の私室であることを物語っている。
「別にいい。今夜は少し眠れなかったからな」
そう言って皇帝はベッドから上半身だけを起こす。その皇帝の両脇には全裸の女性がそれぞれ荒い息を吐きながら赤らんだ顔でベッドに伏せている。
「あまり侍女達に無理をさせますと次の日の仕事に支障が出てしまうので少しは抑えてください」
しかしその光景もいつものことなのか男は特に動揺も見せることなくむしろ若干眉をひそめて苦言を呈してくる。
「まあそう言うな。眠れない夜は女を抱くと良く眠れるからな。それで?俺に何か報告があるのか?」
「はい。つい数時間前にご報告したゴド卿とレイト卿、それと奴隷商館襲撃の犯人が捕縛できました」
「何、もうか?以外に早かったな。あれだけのことを平然とやってのけた輩だからそれなりの手練れだと思ったのだがな」
「いえ、それがそうも言えないかもしれません」
「ほう」
男の言葉に皇帝は面白そうに笑みを浮かべる。
「なんでも捕えていた賊の一人である男がそこに居合わせたランザ殿と口論になったようなのですが・・・・」
そこで男は一度言葉を切る。その顔はどう言ったらいいか分からないといった顔だ。
「どうした?ランザと口論にでもなってその男がまさかランザに殺されたか?」
「いえ、実は少し報告が要領を得ないのですが・・・・・・結果だけをいいますと、ランザ殿が意識不明の重体です」
「何?」
男の言葉に皇帝が驚いた声を出す。
「ランザがやられたのか?その男は捕えられていたのだろう?」
仮にもこの国の誇る【十騎聖】の一角である。その実力は最近噂の勇者にも劣ろぬと自負している。それが賊にやられたということが信じられなかった。
「はい、報告ではその男は縄で縛られて両手が使えない状態だったようです。兵士の報告書に書かれていることをそのまま読みますと最初に激高したランザ殿が男に殴りかかりランザ殿の拳が砕かれたそうです」
「待て、何故の殴りかかられた男がではなく殴ったランザの拳が砕けるのだ。その男は何か特別な防具を持っていたのか?」
「いえ、そのようなものは身に着けてはいなかったそうです。しかもランザ殿は男の額にめがけて拳を振るったそうです。そして拳が当たったと思ったら次の瞬間にはランザ殿の拳の方が砕けていたそうです」
「信じられんな。ランザはその膂力と体の頑強さは【十騎聖】でも屈指だ。そのランザの拳を生身の体で逆に砕くとは・・・・・・」
「その後はランザ殿が武器を手に男に襲い掛かったのですが武器を奪われてそれで打ちのめされたようです」
その報告に皇帝は更に怪訝な顔になる。
「本当にそいつは縛られていたのか?」
「間違いなく両手は後ろに縛られていたようです。足払いからの体勢が崩れた所を器用に後ろ手で武器を奪ったそうです」
「むう・・・・・・」
皇帝は喉を鳴らして唸る。皇帝の知るランザの武器は巨大な戦斧である。そもそもが並の者であれば持ち上げることすら難しい得物である。それを縛られた状態で奪い尚且つその武器で逆に【十騎聖】であるランザを倒すのがどれほど困難かを皇帝は知っている。
「もしその話が兵士の虚言ではなく真実だとすれば・・・・・・・・」
「はい、もし真実であるのならばそれほどの実力者が簡単に捕縛されたのは不可解です。ほぼ間違いなく捕まったのは何か意図したものがあったからです」
「だろうな」
「そしてどうも賊の方もその目的を口にしたようです。何でも・・・・・皇帝陛下に合わせろ・・・と」
「ほう・・・・・・」
皇帝の瞳に面白そうな感情を宿す光が灯る。顎に手をやってその口は愉快そうに笑っている。
「なかなか面白い奴だな・・・・」
「それともう一つご報告が・・・どうやら今回捕縛された賊ですが、人数こそ合いませんが背格好などが【死の領域】で報告された男女に酷似しているようです」
「それは本当か?」
「はい、一応と思いまして実際にその姿を目撃した兵を連れてきて確認させましたので間違いないかと思います」
「ならばそいつらのお望み通り俺が会ってやろうではないか。俺の方もそいつらに興味が沸いたぞ」
皇帝のその言葉にしかし臣下の男は眉を顰める。
「個人的な私の意見としてはそれは賛成しかねます。もし賊の目的が皇帝陛下の暗殺であれば敵をみすみす皇帝陛下の眼前に招き入れることになります」
そんな臣下の言葉にも皇帝は顔色を変えることなく鼻で笑ってみせる。
「そんな豪胆な輩ならばむしろ出会ってみたいわ。そんなに心配ならば【十騎聖】を全員招集すればよいではないか。残り九人全員が居ればどうとでもなろうよ」
皇帝の愉快そうな様子に臣下の男は頭を抱える。
「何故自分が暗殺されそうな可能性でそんな態度がとれるのか私には理解がしかねますな」
「武力国家の皇帝である俺が暗殺など恐れてどうするよ?それにそれ程の強者ならば会いたいと思うものだ。しかもそいつらが本当に【死の領域】から出てきた奴らならば女は相当な美女なのだろう?」
それに臣下は更に顔を顰める。
「目的の半分はそれでしょう・・・・・」
「俺は強い奴も好きだか良い女も好きだからな」
「異種族などを囲えばまた周りが煩く言いますよ?」
「ふんっ!そんな古い考えなど俺はどうでもいいわ。未だにあの教会の連中は人族こそがどうのと言っているが俺の考えはもっと単純なんだ。強い奴は強いし良い女は良い女だ」
「もうどうなっても知りませんからね」
臣下の男は溜息をついてもう何を言っても無駄だと悟り諦める。
「捕縛した者達は現在この城の地下牢に閉じ込めてあります。お会いになるのは明日の朝にしてください」
「分かった。下がっていいぞ」
「それでは失礼します」
そう言って臣下の男は部屋を退室していった。男が出て行った後、皇帝はベッドの脇に置いてある台の上から酒の入った瓶を取るとそれをグラスに注がずにそのまま飲む。
「さて、どんな奴らか楽しみだ」
そう言って皇帝は不敵に笑った。
※※※※
ソウマ達は現在帝国の王城地下の牢に入れられている。地下牢にはソウマ達以外は入っておらず見張りとなる兵もいない。あたりは不気味な静寂が包んでいる。
「静かでいいぜ」
四人はソウマだけを別にして隣同士の牢に入れられている。ソウマはシルヴィア達のいる側の牢の壁に背を預けるように座りくつろいでいる。頭の後ろで組んで腕には鎖が嵌められており両手を拘束されている状態だ。
「看守は地下牢の入り口に一人いるのみ。巡回もなし。この監視体制の薄さ加減はこの牢の性能にそれだけ自信がある証拠かしらね」
サーサが己の手の平を見つめた後に壁を軽くこずく。
「壁一面に魔力の流れや収束を阻害する術が施してある。そして壁や格子の素材は対魔力・対物理に優れた世界最強の金属オリハルコンだ。ここに閉じ込められてはたとえ剛力で知られるオーガであろうと脱出は不可能だろう。魔術も使えないから転移で逃げることも逆に入ることもできない」
「この手枷もオリハルコンだナ」
ナーバが自分の手枷の匂いを嗅いでそう言う。どうやら匂いで素材の種類をある程度把握できるようだ。
「何でこんなところで無駄に金を使ってるんだかな」
「帝国に逆らった者を絶対に逃がさない為でしょうね。昔からこの国は反逆や謀反を徹底的に排除してきたそうだしね」
「こんな程度で私達を拘束できると思っているとはナ・・・・・・・」
そう言ってナーバが両手に力を込めようとする。
「おい、大人しくしてろ。無暗に物を壊すんじゃないよ」
それを察ししてソウマがナーバを止める。しかし少し遅かったのかナーバの手錠には少しヒビが入っていた。
「まあ出ようと思えば簡単だけれどそれじゃあここまで来た意味があまりないものね」
「脱出が簡単と言ってしまえるお前等の方が私は恐ろしいな・・・・」
サーサの顔が引くついている。
「それでシルヴィア、一応耳を放ってるんだろ?」
「ええ」
「何か聞けたか?」
「今戻ってきたわ」
するとシルヴィアの掌の上に小さな鼠が乗る。しかしただの鼠ではなく全身が闇に溶けるように漆黒でありその目だけが紅くなっている。
「・・・・・・・・」
その鼠はそのままシルヴィアと視線を合わせるように数秒見つめ合うと掌から飛び降りてシルヴィアの影の中に沈む。
「何だって?」
「どうやら明日の朝には皇帝と謁見できるようよ」
「へえ」
「しかも私達が【死の領域】から出てきたことも知ってるみたいね」
「てことは・・・・・・」
「私達が捕まったのも故意だってことも理解しているみたいね」
「その皇帝がよほどの阿呆じゃなければ俺達の実力もある程度予測がついているはずだがそれでも俺達と会おうとするとは中々豪胆だな」
この世界では【死の領域】に入ることは文字通り死を意味する。そこを単独無いし少人数で無事出てこれるということはこの世界でも指折りの実力者ということである。
「どうかしらね。何か方法があったとか特別な抜け道でもあったとか考えていてそれを聞きだそうとするかもよ」
「そんなものがあったら誰も苦労はしねえがな。俺達には関係ないが・・」
そう言いながらソウマは大きな欠伸をする。そして体も大きく伸ばして目をこする。
「まあこうして話していてもどうしようもないしな。ひと眠りして朝を待とうぜ」
「別にソウマは寝なくても大丈夫でしょう」
「それでも寝ることは出来るし時間を潰すには寝るのが手っ取り早いしな」
「私も寝ル」
ナーバもそう言って寝ようとする。蹲り野生の獣のように丸まって寝ようとする。しかし中々いい感じの寝心地位置が見つからないのか、ごそごそと体の位置を変えて良い位置を探っている。
「ナーバ」
それを見ていたシルヴィアがナーバを呼ぶ。呼ばれたナーバは顔を起こしてシルヴィアを見る。
「こっちにいらっしゃい」
そうして微笑みながら自らの膝の上を軽く叩く。ナーバはその意図を察してそのままシルヴィアの膝の上に自らの頭を乗せる。
「どう、これなら眠れそう?」
「ん」
ナーバは特にシルヴィアに答えることなく気持ちよさそうにシルヴィアの膝に頭を乗せて頬を膝に擦り付けている。そしてそれを微笑みと共に見守りながらシルヴィアはナーバの頭を優しく撫でる。
「こうしててあげるからお眠りなさい」
「ん」
撫でられたナーバは暫くその感触を楽しんでいたがやがて気持ちよさそうに寝息を立て始める。
「サーサ、貴女も寝ておきなさい。どうせほかにすることもないのだから」
「そうさせてもらう。お前達が居れば要らない心配かもしれないが少しでも自分の体力を温存しておきたいからな」
「良い心掛けね」
「お前は寝ないのか?」
「私はそもそも睡眠が必要ない体質なの。起きていることの方が普通の状態だから気にしないで。それにこの子の寝顔を見ているだけで退屈しないわ」
そう言ってシルヴィアは穏やかな寝顔を見せるナーバを同じくらい穏やかな顔で見つめる。
「そうか、じゃあ寝かせてもらおう」
そう言うとサーサも横になる。そしてしばらくしてサーサからも寝息が聞こえ始める。
「・・・・・・ねえ、ソウマ」
「なんだ?」
シルヴィアがナーバの寝顔に視線を落としながら何気なく隣に向けられた言葉に当然のように応えが返ってくる。
「寝るんじゃなかったの?」
その返事にシルヴィアは苦笑する。
「寝てたさ、数秒だけだがな」
「それは寝てたとは言わないわ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
しばらく沈黙が続く。
「シャルは・・・・・もう寝たかしら?」
「寝ただろう。あんま遅くまで起きてられる奴じゃないからな」
「そうね」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
再び沈黙が場を支配する。
「ソウマ、あまり皇帝をいじめたら駄目よ?一応この国も人族が魔族と戦う上でも重要な戦力を担っている国なんだから」
「別にいじめる気はねえが俺に喧嘩を売る気なら話は別だぞ」
「喧嘩を売りに行くのはどこの誰なのかしら?」
「お前こそ皇帝に下らん事言われてあまり怒るなよ?」
「シャルやアイス達に変な事をしなければ別に怒る気はないわよ」
「まあ兎にも角にも皇帝とこの国の対応次第だな」
「それもそうね」
それっきりソウマとシルヴィアの会話は無く。夜の静寂だけが辺りを包んでいた。
※※※※
「貴様等が我が帝国に楯突いた賊達か?」
翌朝、まだ日が昇りきっていない程の早朝にソウマ達は牢から出され、現在王座の間に連れてこられている。
「そういうお前がこの国の皇帝様か?」
「質問したのは俺が先だが・・・・・まあ答えてやろう。そうだ、俺がこの国の現皇帝ザナス・バイエル・ダナークだ。そら、次はお前等が俺の質問に答える番だぞ」
「折角答えてくれたんだから俺も正直に答えようか。賊かと問われれば賊だと答えようかね」
玉座から見下ろす形で話しかける皇帝と縄で縛られて跪く形で見上げるソウマ。立ち位置的に対照的な二人だがその顔には両者とも不敵な笑みが浮かんでいる。
「何故そのような行動に出た?エルフが欲しかったのか?それともエルフ共に同情したか?もしくは我々帝国に単に逆らっただけか?」
「理由を聞かれると・・・・・・・」
「貴様等が約定を破ったからだ!」
答えようとしたソウマを押しのけるような形でサーサが吠えるように怒りの声を上げる。
「お前達!先程から聞いていれば皇帝陛下に何と言う口を聞いている!」
すると皇帝の脇に控える純白の鎧を着ている騎士の男が声を荒げる。今まで黙って見ていたようだが遂に我慢の限界を迎えたようだ。しかしそれを皇帝が手で制する。
「よい、ギルダスター。この場は俺に対する態度は全て不問にする」
「しかし!」
「よいのだ。俺の予想通りならこいつらが俺に対してのこの態度も納得だからな。それに今回は俺がこいつらと純粋に話がしてみたいだけだからな」
「・・・・・・・」
ギルダスターはなおも不満そうにしていたがそれでも皇帝の言には忠実なのかそのまま押し黙る。
「それで、約定とは何の話だ?俺はエルフとの約定などした覚えがないがな」
「今から三百年前に貴様等帝国と私達エルフとの間で交わされた不可侵の約定だ!」
「三百年前・・・・・・えらくまた昔のことだな」
そして皇帝は顎に手を当ててしばらく思案をする。
「それ程の昔なら約定を交わされた当時の皇帝から何代が後には廃止ないしなかったことにされただろうな。帝国の歴代の皇帝に代替わりされる度に前皇帝の制度や方策を見直しないし廃止したりするからな。恐らく現在の帝国の城の資料を漁っても出てくまいな。捨てるかされているだろう」
「くっ!」
それを聞いてサーサは悔しそうに歯噛みする。事前にソウマ達にこの予想を聞いていなければ更に激高して飛び掛かっていたかもしれない。
「それでもあなた達人族の間では人攫いや犯罪者以外での本人の了承なくしての奴隷化は禁止されているのではなくて?」
今度はシルヴィアが皇帝に質問をする。それに皇帝は面白そうに破顔する。
「聞いていた話の通り実に美しいな。どうだ俺の愛人にならんか?」
質問に答えずに口説きに来た皇帝に対してシルヴィアは呆れるように溜息を吐く。
「全く帝国の皇帝って歴代全員がこんな感じなのかしら。女と見れば口説く位しかできないのかしら」
「そう言うな。良い女を見れば口説くのは礼儀と言うものだ。しかしそうだな。質問に答えようか。確かにこの大陸にはそう言った共通の法が存在する。我が帝国でも一応は建前として禁止している」
「建前・・・・・ね。表立っては禁止しているけれど裏ではそこまで厳しく取り締まってはいないということかしら?」
「まあ概ねそう言うことで間違いではない。俺は別にエルフの奴隷なんぞ興味は無いからな。他の貴族共や奴隷商人の連中が何をしようと特に気に留めていないだけだ。やりたいことがあるならばやればいい。それが己の持つ力でどうにか出来るのならな。何せこの帝国は・・・」
「力を持つものが全てという訳ね」
「そう言う事だ。武力・権力・財力。どんな種類であれ力が有るのならこの帝国では全てが許される。文句があるのなら同じく力(ちから)で抗うしか方法は無い」
「その理論で言うのであれば今回の私達の行動も許されるのではなくて?彼女達は私達と言う武力を行使して奪われた仲間を取り返しただけなのだから」
「その通りだ。しかしそのお前等は現在は帝国に捕えられている身だ。我々もまた武力でもって報復した結果だ。もっとも・・・・・・」
そう言うと皇帝は笑みを消して真剣な眼差しになる。
「貴様等が本当に捕まったのならな」
そう言った瞬間に場の空気が一瞬で重たくなる。皇帝が発した覇気によってその場は一瞬で支配される。ソウマ達の放つ威圧や殺気や殺威とは違い人の上に立つものだけが持つ王の気迫である。
「(なかなかの覇気だな。流石は帝国に君臨する皇帝って所か)」
ソウマがそう言う通り周りに控える騎士達ですらその顔に冷汗を浮かべている。その他の戦士ではない文官系の者達は完全に顔が青ざめている。
「何を考えているかは知らんが下手な芝居ならやめることだ」
そう皇帝がソウマ達に視線を向けると更に覇気が強くなる。それにサーサも気圧されるように顔を伏せてしまう。
「やれやれ。やっぱり普通に感づかれるよな」
「まあ、普通に気付かないわけはないわよね」
「・・・・・・・」
しかしソウマ・シルヴィア・ナーバの三者は皇帝の放つ覇気の中でもまるで何もないかのように涼しい顔をしている。というよりナーバにいたっては先程から黙っているかと思えば完全に膝立ち状態で眠っている。器用に尻尾で自らの体を支えて倒れないように寝ている。
「お察しの通り俺達はアンタに用があって俺達はここまで来たんだ。一応穏便な方法で来るには捕まるのが一番手っ取り早いからな」
「まるで来るだけなら簡単なような言い草だな。この城には常に半数以上の【十騎聖】が常駐している。しかも最近は魔族との小競り合いもあって【十騎聖】は全員がここにいる。それでもか?」
「別にそれが障害になるとは思わないがな」
ソウマがそう答えた瞬間に王座の間に皇帝の覇気以外の殺気が八つ程発生する。それは皇帝の玉座の傍に控える九人の鎧を騎士達から発生した殺気だった。ただし九人の内一人は頭を抱えている。この皇帝の傍に控える九人の騎士こそが帝国が誇る【十騎聖】である。その中には先程の純白の鎧を着たギルダスターや頭を抱えているオラソもいる。
「なかなかに豪胆な奴だな。だがあまりこいつらを刺激するな。その手を挑発をされて軽く受け流せる程温厚な奴はあまりおらんのだ」
「(別に挑発じゃなくて事実なんだが・・・・・・)」
意外とこの場の空気を読んで発言を控えるソウマ。
「それで、そろそろ本題に移ろうか。お前達は俺に何か交渉ないし要求が有って来たんだろう?」
「まあな。このまま行くと帝国はエルフの里に報復無いしそれ相応の行動に出るだろ?」
「まあ、その可能性も有るな。このまま黙ってやられたままと言うのも帝国の威信にも関わるからな」
「貴様等帝国も魔族と戦争している最中だろう。そんな事をしている場合なのか!?」
サーサが再び怒鳴り声を出す。流石に自分の故郷が帝国の脅威に晒されると知っては黙っていられなかったようだ。
「俺達帝国が魔族なぞ恐れる者かよ。各国のように異世界の勇者なんぞに頼る軟弱な国の連中と一緒にするな」
「ああ、その点だけは俺は見直してやるよ。異世界の部外者を巻き込まないだけでも大したもんだ。どうせそんな良心的の考えじゃないだろうがな」
「まあ、中々の力を持っているらしいからな。戦力として足らなくなったら足しにしてもいいがな」
「ほらな」
皇帝の即座の返しにソウマは溜息をつく。
「それに貴様等エルフの里を潰すことなぞ片手間で出来ることだからな。特に考慮する必要もないわ」
「このっ!・・・・・・・くっ!」
再び何かを反論しかけたサーサだが事実その通りの為に押し黙る。如何にエルフが魔力が高く優れた魔術師が多い種族とはいえ多勢に無勢であり流石に彼女達の里に【十騎聖】に対抗できる実力者は存在しない。もし帝国側から武力による報復があれば結果は火を見るよりも明らかである。
「まあ俺達としてもそれは避けたい。だから別の方法で手を打とうと交渉しに来たんだ」
「ほう、別の方法だと?」
「ああ、聞いたところだと近々ここ帝国で闘技大会が開かれるそうじゃないか。しかも優勝報酬は帝国皇帝の出来る範囲での褒美を与えると言っている。そこで俺を含めた仲間が数名出場して誰かが優勝すれば今回の件を不問にしろ」
「ほう」
「他に条件があるならモノによっては了承してやる。お前ご自慢の【十騎聖】全員を出場させてもいいぞ」
「それでもなお優勝できる自信があると?」
「そう取りたいならそうとって構わない。どちらにしろ俺達のやることは変わらないからな」
「なかなか生意気な口を聞く小僧め!」
「奢るなよ!」
「我等帝国最強の【十騎聖】相手に勝ち目があると思っているのか!先日は何かの運でランザを倒したらしいが奇跡は二度も続かんぞ!」
ソウマの言葉に皇帝の傍に控える【十騎聖】達から怒りの声が多数あがる。
「大層な自信だな。そういう奴は俺は嫌いじゃないがな」
「別に自信があるとかじゃなく自分の望んだ状態での戦闘が始まること自体が珍しいからな。敵の有利な条件で勝負が始まることが当たり前だと基本考えてる」
「なかなか見上げた心掛けだ。ではお言葉に甘えようか。本来闘技会には【十騎聖】は基本的に参加しない。闘技会の優勝者が望んだ場合に指名した【十騎聖】と勝負を行い勝った時に【十騎聖】が入れ替わる。だが今回は特例のとして参加する者の条件に制限は無しとしよう。身分や立場を一切問うことなく腕に覚えのある者ならば誰でも参加できるものとしようじゃないか」
その皇帝の言葉に傍で控えていた文官が眉を顰める。
「王よ、よろしいのですか?あの者の案に乗るおつもりで?」
「良い、最近は特に退屈だったから丁度いいわ」
「しかし、万が一にも・・・・・」
「我等【十騎聖】が負けるというのか!?」
「いえ・・・・決してそのような・・・・・・」
文官の言葉の先を読んだ【十騎聖】の一人が声を荒げる。それも再び皇帝が手で制する。
「良い。全て良い。ここは武力国家である帝国だ。強い者こそが正義なのだ。もしこいつらが勝ち今回の事を不問にしたとしてもそれはこいつらが強かったというだけの話だ」
「・・・・・・・・」
皇帝の言葉に周りの全員が納得するように黙る。それを見まわして満足そうに頷いた皇帝は玉座から立ち上がる。
「では決定した。お前たちの要求を受け入れてやる。国中に知らせを走らせろ!闘技大会の日時を変更し日数を延長して参加条件の変更なども知らせて改めて参加者を集うが良い。【十騎聖】が参加する大会なら逆に辞退するものもいてもおかしくはないからな」
皇帝の命令に部下たちは跪いてそれを受ける。そして皇帝はソウマ達に向き直る。
「そういうことだ。お前たちの望み通り闘技会でお前たちの誰かが優勝すれば今回の件で帝国がエルフに何かすることは無いと約束しよう」
「思った以上に話の分かる皇帝で見直したぜ。すんなり話が通ってこっちも助かるよ」
「そうね。今まで見てきた歴代の皇帝を考えると随分と話が通じるみたい」
「言ってくれるな。しかしお前達、いつまでそのままでいるつもりだ?」
すると皇帝が可笑しそうに笑いながらソウマ達に指摘する。それに部下達は疑問符を浮かべる。
「欺くためなのか抵抗の意思が無いことを示す為なのかは知らんがそんな見え透いた擬態が俺に通用すると思ったのか?」
そう言われたソウマ達は顔を見合わせて一度息を吐く。
「一応俺達も気を使ってたんだよ。おい、ナーバ起きろ!」
「んあ!?」
ソウマが座った姿勢で器用に熟睡していたナーバを起こす。するとナーバは体をビクンッとさせて目を開ける。
「帰るぞ」
そう言ってそのまま立ち上がって無造作に縛られている縄を引き千切る。シルヴィアも寝ぼけ眼のままのナーバも簡単に縄を引き千切る。玉座の間にざわめきが起こる。この縄も牢に居た時に着けていたオリハルコン製の手枷程ではないがミスリルを特殊な方法で加工して作った鋼線で編んだ縄である。間違っても今のように無造作に引き千切れるものではない。実際にサーサは縛られたまま何とか立ち上がろうとしている。それをシルヴィアが爪を引っ掛けてあっさり切ってしまう。
「それじゃあ期日が決まったら教えてくれ。その間俺達は冒険者ギルドに居るはずだから知らせるなりなんりすれば自分達で受付しにいくからよ」
踵を返してソウマ達は玉座の間を出て行こうとする。
「最後にもう一つだけ聞かせろ」
すると皇帝が呼び止める。
「何だ?」
「貴様等の種族はなんだ。そこの女がエルフだという事は分かるが貴様は本当に人族か?そこの女二人もよくわからんぞ。そっちの尻尾が有る女は鱗人ではあるまい」
「俺は正真正銘人族だよ」
「私は吸血鬼よ」
「私は竜・・・・・人ダ」
思わず自分の本来の種族を答えようとしたナーバは何とか思いとどまり竜人と答える。シルヴィアも本当の種族を言うといろいろ面倒が多いので吸血鬼とだけ答える。
「吸血鬼に竜人か・・・・しかも吸血鬼の女の方もかなりの高位種と見た。中々に面白いことになりそうだ。ますます俺のモノにしたいな」
「もし本当に貴方のご自慢の【十騎聖】が私達に勝てれば考えてあげるわ」
それに皇帝はさらに笑顔になる。
「やはりお前達も出場するのか」
「当然でしょう。そして言った通り本当に私達が負ければそちらの要求を全て飲むわ。ただし・・・・・・」
その瞬間に玉座の間に先程の皇帝が発した覇気を遥かに凌ぐ重圧が発生する。それはシルヴィアの発した威圧だった。本気の威圧ではなくシルヴィア的には少々敵意を表したようなものだが【十騎聖】の何人かは膝をつき、普通の騎士や文官は気絶してしまっている。
「彼方たちもそれなりの覚悟を持って私達の相手をすることね」
シルヴィアの氷のような視線を受けてさしもの皇帝も笑顔を決して冷汗を流す。
「それじゃあ闘技大会で会いましょう」
そう言ってシルヴィア達は玉座の間を後にした。




