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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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53話 救出作戦②

 ソウマとダガが屋敷に侵入していた頃、シルヴィアとサーサも目的の貴族の屋敷の前まで来ていた。


「どうやって侵入しようかしら・・・・」


「貴女ならば正面からでも楽々と突破できるのではないか?」


 シルヴィアが侵入方法に思案しているとサーサが伺う様にシルヴィアに問い掛ける。


「それも出来なくもないけれど・・・・・それじゃああまり優雅じゃないわ。ここは吸血鬼らしく闇に紛れて侵入と行こうかしら・・・・・・・・」


「誰だそこにいるのは!」


「あら?」


 すると突然シルヴィア達に向かって怒号が飛んできた。


「貴様等ここで何をしている!ここは帝国貴族のボルロ様の御屋敷だぞ!」


「あら大変見つかったわ」


「全然大変そうに聞こえない。それに屋敷の正面入り口で会話してれば見つかるのは当然だ」


 サーサは実に冷めた目でシルヴィアを見ている。


「まあ見つかったものは仕方がないわね。正面突破と行きましょう。どのみち公にするのが目的な部分もあるのだからし」


「貴様等一体何か・・・・・・・」


 そう言ってシルヴィア達に近付いてきた男の一人がシルヴィアを見て思わず息を飲む。今シルヴィアは顔を隠すヴェールや変装等を一切していない素顔の状態である。初めてシルヴィアの素顔を見る者は大概の者がその美しさに一瞬動きを止めてしまうのだ。シルヴィアの隣には見た目の美しさで有名なエルフがいるがそのサーサですらが比較対象にすらならない。


「私達の目的?教えてあげるわ。そこの屋敷の中に用があるの」


 シルヴィアの言葉に我に返った男は訝しんだ後に厭らしい笑顔をシルヴィアに向ける。


「用ってのは何だい?屋敷の貴族様の娼婦にでもなる気か?それだったら先に俺らが相手してやってもいいぞ。屋敷の貴族は金に汚いからな。俺達だったら奮発するぜ」


 男の視線は徐々に下に下がっていきシルヴィアの突き出した二つの巨大な膨らみに引き寄せられる。


「あら、あなたが私の相手をしてくれるのかしら?」


 その視線を弄ぶようにシルヴィアが自らの胸の下で腕を組んで持ち上げるような仕草をする。それだけの仕草に男達は目を離せないような妖艶さを感じて思わうず生唾を飲み込んでしまう。シルヴィアは今度はゆっくりと自分の目の前にいる男に手を伸ばす。男は何かを期待するような顔をする。するとシルヴィアは男の前の手の中指と親指で輪を作るようにしてかざす。


「千年早いわ。出直してらっしゃい、坊や・・・


 そう言うと同時に中指を弾いて男の額に向かって打ち出す。シルヴィアの指が着弾した瞬間に男の顔を高速で後方に仰け反り意識を刈り取った。


「な!」


 それを見た他の男達が剣を抜こうとするがそれよりも早くシルヴィアの影が彼等の足元に伸びて動きを拘束する。


「なんだ!?」

「影が足に!?」


 男達は困惑と驚愕と恐怖を同時に発して狼狽えたような声を出す。シルヴィアはそんな男達の額を順番に指で弾いて意識を刈り取っていく。


「色香に惑う程度で警備が務まると思ってるのかしら」


 呆れたように言うシルヴィアだがそれをサーサは更に呆れたような顔でシルヴィアを見る。


「貴女の色香に惑わされない男の方が少数だと思うがな・・・・・。魔性の女と言う奴だな」


「女は魔性な位が丁度いいわ」


「貴女の仲間の男が貴女の意中の男らしいがさぞ貴女に翻弄されているのだろうな」


「・・・・・・・・・」


 サーサの言葉にシルヴィアは思わずさっと顔を逸らした。まさか好きな男の口付け一つで気絶するほどシルヴィアが乙女だとはサーサは夢にも思うまい。


「さ、さあ門番は片付けたから早く目的を果たしに行きましょう」


 シルヴィアは誤魔化すように門を開けて屋敷の中に入った。


「屋敷の間取りは事前に影を使って調べてあるから分かるわ。貴女の仲間が居る部屋は屋敷の二階の左側の一番奥の部屋よ」


「早速向かうぞ!」


 サーサはシルヴィアの言葉を聞いて一目散に駆けだした。どうやらサーサは感じる魔力からこの屋敷に居るエルフに見当が付いているようだ。そしてあっという間に目的の部屋に辿り着くと部屋の扉を蹴破るように入室する。部屋は窓には鉄格子が嵌められており壁は普通の壁に見えるが対魔力と物理耐性に優れたミスリルが仕込まれて扉にも魔術による鍵がかかっているという厳重振りである。


「!」


 そしてその部屋の中央に大きなベッドがありそこで手足を拘束され口に猿轡を噛まされたエルフの女性が上半身裸の男に押し倒されていた。エルフの女性は拘束されながらも必死に抵抗を示しており男はそんな彼女の首を掴みながら可笑しそうに片手を胸に置いている。男はそんな楽しみの最中に突然扉を蹴って入室してきたサーサに驚きの顔をして振り返る。


「貴様ぁ!」


 サーサも部屋に入ると同時に飛び込んできた光景に一瞬で激高して男に飛び掛かった。


「何だ貴様ぶぁ!」


 サーサに向かって何かを言おうとした男だったが男に肉薄したサーサが問答無用で男の顔面に拳を叩き込んだ。その一撃で男はあっさりと意識を飛ばしてベッドから転がり落ちた。 


「あらあら、容赦ないわね。顔面骨折確実ね」


 シルヴィアは悠然と部屋に入りながらベッドから転がり落ちた男に一度視線を向ける。しかし直ぐに視線をベッドの方に戻す。サーサはゆっくりとベッドに拘束されているエルフに近寄りその口にハメられている猿轡と手足を拘束する紐を外す。


「シルシ・・・・・・・」


「義姉さん・・・・なの・・・・?」


 シルシと呼ばれたエルフは今し方自らの目の前で起こった出来事とそれ成した人物を見て驚愕と困惑の表情を浮かべている。


「この・・・・馬鹿者が!何故一人で里を出たのだ!お前が身重であったのなら尚更だろうが!」


「迷惑をかけたくは無かったんです。あの年は獲物が獲れず皆が苦しんでいた。それなのに彼に・・・・・ガナにあれ以上迷惑をかけたくなかった・・・・・・」


「だから一人で人族の国に来てまで物資を手に入れようとしたのか・・・・・。確かにその年は獲物が付近で獲ることが出来ずに私や弟などの戦士や狩人は毎日のように遠出して狩りをしていた」


 シルシは両目に涙を溜めながら言葉を溢す。それをサーサは静かに目を閉じて同意の言葉を返す。しかし次の瞬間に目を見開いてシルシの両肩を強く掴む。


「見損なうなよ馬鹿者が!私も弟もそれを負担と思うことなど絶対に無い!寧ろお前が私や弟を信頼していなかったことの方が悲しいぞ・・・・・」


 その言葉にシルシの両目から涙が溢れる。


「我々エルフは同胞の為なら一族が一丸となって動くのだ。ましてやお前と弟は夫婦であり私の義妹でもあるのだ。私達が家族を蔑ろにするものか!」


「義姉さん・・・・・ごめんなさい・・・・・ごめんなさい」


 シルシは涙を止めどなく流しながら謝罪を言葉を口する。


「もういい、さあ帰ろう。弟もお前の帰りをずっと待っている。お前が返ってくることを今も待っているんだ」


「義姉さん、私はあの人の元に帰れません。私の体はもう穢されてしまいました。それにあの人の・・・・・私達の子供を私は・・・・・・・私は・・・守れませんでした。今更・・・・今更のどのような顔であの人に会えばいいのか私には分かりません」


「ならば尚更お前は帰らなければならない。よく聞けシルシ。お前の子供は・・・お前と弟の娘は生きている」


「!」


 サーサの言葉にシルシは泣く事も忘れて目を見開いて顔を上げる。


「ある人族が行なう孤児ばかりを集めた施設がある。そこにお前の娘は保護されているのだ」


 シルシの目から再び涙が流れる。


「あの子に・・・・・・・シルルに会えるのですか・・・・・まだ名も付けてあげてもいないあの子に会えるのですか・・・・・・・」


「会えるとも、その名前であの子を呼んであげるがいい。あの子もそれを望んでいる」


「ああ・・・・・・・・・」


 シルシはその場で泣き崩れる。


「ねえ・・・・ちょっと良いかしら?」


 それまでその場を黙って見守っていたシルヴィアが二人に声をかける。


「今ここに大勢の気配が近寄って来ているわ。急いでここから離れた方が良いわね」


 それを聞いたサーサはシルシの体にシーツを包ませると肩を支えて立たせる。同時に入り口の方から数人の鎧を着た騎士たちが入ってくる。


「ゴド卿、ご無事ですか!?」


 どうやら屋敷の警備の騎士たちがようやく門で起きた出来事に気が付いたようだ。


「卿!」


 騎士の一人がベッドの脇でひっくり返って倒れている主を発見する。慌てて騎士が助け起こす。


「卿!ゴド卿!しっかり!」


 騎士に揺すられたゴド卿はゆっくりと目を覚ます。


「はっ!だ、誰だ!この私にこのような無礼を働きよってっっっ!」


 目覚めてまず己をこんな目に会わせた相手を探す。若干声がどもっているのは鼻が潰れているからだろう。


「エルフか!おおかた仲間を助けに来たのだろうな」


 そしてシルシを庇う様に背にして立つサーサに視線が行く。するとその顔に憎々しさから嫌らしい笑顔に変わる。


「ふむ、やはりエルフは皆どれも美しい個体が多いな。エルフ族はその美しさだけは実に私好みで評価できる。まさに我々人族の奴隷に相応しい」


 ゴドは鼻血を出しながらその顔をだらしなく歪める。彼の中では既に美しいエルフ二人を思うようにする想像が展開されているようだ。


「全く・・・・・・どうして世の男共の考えることは皆こんなに下品なのかしら。(ソウマにはもう少しこういった部分が欲しいところだけれど)」


 シルヴィアが溜息をつきながらそんな不躾な視線に晒されている二人の前に出る。ゴドはそうして初めてシルヴィアの存在に気が付きそして目を見開く。


「これは!なんと美しい!これほど美しい女がこの世に居ようとは!お前達、あの女は絶対に無傷で捕えろ!絶対に傷つけるな!」


 ゴドはシルヴィアの美貌に一目見た瞬間に一瞬で逆上のぼせ上りシルヴィアの後ろのエルフの二人のことすら頭から消滅してしまった。自らの部下達に鼻息を荒げてその拍子に潰れた鼻から鼻血を噴出しながらもシルヴィアの捕縛を命令する。それ聞いたゴドの部下達は武器を構え臨戦態勢を取りシルヴィアは再び溜息をする。


「下品な上にお決まりの行動ね。もう見るに堪えないわ」


 ゴドの部下たちが大きな盾を構えてシルヴィアをぐるりと取り囲む。このまま包囲を縮めてシルヴィアを抑え込むつもりのようだ。


「確かに彼方達の戦法は非力な相手を多人数が単体を無傷で無力化するには有効でしょうね。でもそれは相手が非力ではなかった場合は自分から相手の間合いに入っていく危険な行為の裏返しよ」


 シルヴィアは次の瞬間に兵士達の足元にまで影を拡げて全員をあっという間に拘束する。


「時間を掛けるつもりも彼方達に付き合うつもりもないの。悪いけれど直ぐに済ませるわね」


 シルヴィアが指を鳴らすと男達の顔を影が包み込む。


「もぐぉ!」


 兵士達は自らの視界と呼吸を遮る影を取り去ろうとする。


「ミスリルを引き千切るくらいの腕力が有れば外せるわよ。頑張って見なさいな」


 兵士達はしばらくシルヴィアの影を外そうともがいていたがやがて息が出来ない為に窒息で意識を手放してばたばたと倒れて言った。


「な、ななななな!!!」


 自らの部下達があっという間に全滅してゴドは最初の余裕も忘れて狼狽する。それにシルヴィアはゆっくりと近づいてゴドの前に手を持っていく。


「目的は果たせたから早く戻りたいからここでお別れ。じゃあお休みなさいね」


 そして人差し指を弾いてゴドを気絶させる。


「一応は一人も死んでいないから数時間後には誰かが目を覚ますでしょう。取りあえず私達はソウマ達と合流しに一度孤児院に戻りましょう。恐らくはソウマも戻っているはずだからね」


「分かった。行こうシルシ」


 サーサはシルシを支えるように歩かせる。


「孤児院までは私の《影獣(オンブラ・ベスティア)》で運びましょう。その子も大分消耗しているようだからその方が良いわ」


「何から何まで世話になるな」


 サーサの感謝にシルヴィアは手を振るだけで応える。


 ※※※※

「そっちも首尾よく言ったようだな」


「ソウマの方も上手くいったようね」


 ソウマとシルヴィアは孤児院でほぼ同時に帰って来ていた。ダガとサーサは今は保護したエルフを孤児院の一室で寝かせて休ませている。


「お前の助けたエルフの方は娘と会えたのか?」


「ええ、さっきまで抱き合って泣いていたわ。初めて自分の娘を名前で呼んであげられて抱き上げたのだから無理もないけれど」


「まあ本人は完全に娘は死んだと思っていたらしいからな」


「奴隷狩りに捕まった後に檻の中で出産したらしいけれど直ぐに子供と引き離されてしまったそうよ」


「うちのお姫様も喜んでるから良かったな」


「今は娘と一緒に眠って休んでいるわ」


「後はナーバとアイスの向かった奴隷商の方だけだな」


「そうね」


 そうしてソウマとシルヴィアは二人の向かった奴隷商の在る方を向く。


「!」

「!」


 するとその方向から巨大なちからの波動が起こるのを同時に感じ取る。そして次の瞬間・・・。


 カッ!!!!!!


 巨大な火柱が天にも届く程の勢いで奴隷商のある地点から吹き上がった。しばらく茫然とその火柱を見上げている二人。やがてどちらかともなく溜息をつく。


「あ~どう考えてもナーバの仕業だな」


「そうね。何が有ったのかは知らないけれど随分と怒っている様ね」


 シルヴィアは背中から羽を出現させる。


「私達が行った方が良いみたいね。今のでナーバを怒らせた原因がどうなったのかは分からないけれどまだ怒りが収まっていないのならアイスに止めるのは荷が重いわね」


「だな」


 そう言って二人はそのまま未だ余波の残る奴隷商跡に向かって高速で向かった。


 ※※※※

 目的の場所に到着したソウマとシルヴィアがまず最初に発見したのはアイスの方だった。アイスはソウマやシルヴィアには気付かずに眼前に広がる炎の情景を茫然と見上げている。アイスの傍には毛布に包まりながら身を寄せ合うエルフ達が数人いた。どうやら目的のエルフの救出は出来ているようだ。


「アイス」


「師匠!姉上も!」


 ソウマが呼び掛けるとアイスはようやく二人がこの場に来たことに気が付いたようだ。


「これをやったのはナーバだと思うが原因は何だ?」


「実は・・・・・・・・・」


 ※※※※

「何だお前等は・・・・・」


 アイスとシルヴィアは目的の奴隷商に到着と同時に正面入り口に立っていた。


「お前等ここがどういう場所か分かってんのか?」


 入り口に立っていた男は現れたアイスとナーバとナルスに下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる。


「ここはオメエさん達のようなお嬢ちゃん達の来るところじゃねえよ」


 男の視線は三人のつま先から頭の先まで舐るように這いまわる。


「男を買いたいんだったら俺が相手してやってもいいぜ?」


 ことさら下心を覗かせて先頭に居るアイスに話しかける。


「私達はこの奴隷商にエルフがいると聞いてきました」


「残念だったな。確かにここにはエルフの女が三人いるが全員もう買い手が決まっちまってるから無駄だぞ」


「彼女達は自ら望んで奴隷になったわけでも奴隷になった理由があったわけでもありません。誘拐されて奴隷に落ちた境遇です」


「そんなことは俺達には関係ないね。俺達の仕事は奴隷を売買することだ。第一そのエルフ達が本当にお前さんの言うように誘拐された証拠でも有るのかい?」


「私が会えば分かる。私と彼女達は同じ里の出身のはずだ」


 そう言ってアイスの後ろにいたナルスが被っていたフードを取る。そうしてエルフ種族特有の横長の三角耳を晒す。


「!」


 男の顔を少し驚きをあらわにする。先程の態度からどうやらこの男はこの奴隷商でもそれなりの役職にいる男の様でこの状況の不味さを理解しているようだ。


「其方が納得するのならば我々の方から可能な限りの金銭を支払っても構いません」


「だ、駄目なものは駄目だ!帰れ!」


「私の仲間に会わせろ!」


 ナルスが男に掴みかからんばかりに詰め寄る。


「このっ!こっちが下手に出ているうちに言う事を聞いておけよ!」


 男の怒鳴り声を合図にするように奴隷商の中から大勢の男達が手に手に凶器を持って出てくる。


「下手に出ているのは我々の方です。金銭での決着が着けれるうちに決断しておくことを進めます」


 しかしアイスは顔色一つ変えることなく淡々と交渉を続ける。しかし内心ではかなり焦っていた。その原因は・・・・・・・。


「・・・・・・・」


 アイスは視線を一度だけ自分の背後に向ける。そこには先程から一言も発さずに黙って立っているナーバが居る。その表情と醸し出す雰囲気は明らかに不機嫌さを全開にしている。しかも既に暴発寸前である。アイスはここに来た時から徐々に機嫌を損なってきたナーバに注意を払い続けている。


「(何故あんなにも機嫌を損ねているのでしょうか?)」


「へへへへっ。よく見ればお前等も随分と上玉じゃねえか。俺らで楽しんだ後に売り飛ばされたいか?」


「はあ」


 溜息をついたアイスはこれ以上の交渉は無意味と判断して待機させておいた魔術を発動させた


「《氷の牢獄アイスロック》」


 突如出現した巨大な氷塊に男達は全員あっという間に閉じ込められた。男達の中には魔力を感じ取れる者はいなかったようで会話を開始した時点でアイスが魔術を待機させていることに誰も気が付かなかったようだ。男達はまるで時間が止まってしまったかのようにそのままの状態で氷に閉じ込められた。


「取りあえず師匠マスターと姉上からはなるべく殺さないようにとは言われていますがどうせ公にすることですから多少派手にやってもいいと言われています。少々強硬策で行きましょう」


 そのままアイス達は奴隷商の中に入って目的のエルフを救出するために奴隷たちのいる牢を探す。その際に立ち塞がる者は全員アイスとナルスが無力化させる。ナーバは黙って二人の後を着いてきているが機嫌が更に悪くなっている。


「どうやらこの先の様ですね」


 しばらく進んで地下に進む道を見つけた三人はそのまま地下に降りていく。


「仲間はどこにいるんだろうか」


 そこに収容されている奴隷たちは様々な種族や人種が存在していた。人族の他にも獣人種の猫人や犬人や鳥人などもいる。それぞれが様々な瞳をしながらアイス達を見ている。怒り・絶望・悲しみ・恐れ・羨望等の様々な感情が見て取れる。犯罪奴隷だけではなく博打で破産した者や貧困で奴隷に堕ちるしかなかったものなどの様々な事情を抱えている者がいるのだろう。


「この奥から強い魔力を感じます。この感じはエルフの魔力で間違いないでしょう」


 アイスにナルスも頷くとそのまま一応警戒をしながら進んでいく。


「~~~~~!!」


 奥に行くにつれてそこから何か呻く様な声が聞こえてくる。その声に顔を見合わせたアイスとナルスは駆け出して声のする方に向かった。


「何度言えば分かる!その生意気な目を止めろ!数日後には貴様は貴族様に買われていく予定なんだぞ!失礼があったらどうする!」


 アイスとナルスが目撃したのは部屋の隙間から男がエルフの女性に馬乗り状態になりその頬を激しく叩いている光景だった。馬乗りにされているエルフの女性は猿轡を噛まされておりその頬は赤く腫れている。しかしその瞳だけは気丈にも男を強く睨み返している。


「その目を・・・・・止めっ!?」


 男が再びエルフの女性を叩こうと手を振りあげた瞬間にアイスは部屋に侵入し男の手を掴み取った。


「な、なんだお前は!?」


「女性の顔を打つとは感心しませんね」


 アイスはそのまま男の腕を捻りあげながら壁に向かって勢いよく投げつけた。アイスもソウマ達から見れば非力の部類であるがそれは比較がおかしいからであってアイスも普通の者と比べれば十分に鍛えられた膂力を持っている。投げられた時に捻りあげていた男の手首と肘と肩は在らぬ方向に曲がり壁にぶつかった瞬間に男は声もなく顔を潰されて気絶した。


「????」


 突如現れたアイスの存在にエルフの女性は困惑の表情を見せる。しかし次にアイスの後ろから現れたナルスの姿を見て驚きと喜びの表情に変わる。


「マーム、大丈夫か?」


 ナルスはマームと呼んだエルフの女性の猿轡を優しく外す。


「ナルス、どうしてここに!?」


「仲間を助けに来た。当然のことだ」


 ナルスの言葉にマームは涙を浮かべる。


「マーム、泣くのは後だ。他の同胞はどこにいるか分かるか?」


「ああ、恐らくはこの奥の特別収容房だと思う。そこには数十年前からずっと捕らわれている同胞がいる。どうやら買われた買い手が死ぬか手放すたびにここに戻って来ているようだ。最近では姉妹が新しく掴まってしまっている」


「よし分かった。直ぐに救けに行こう」


 そのままアイス達はマームを連れたまま一番奥の部屋に到着したそこには更に数人のエルフが捕らわれていた。


「皆、救けに来たぞ!」


「救け!?救けが来てくれたのか!」


「帰れるの!里に帰れるのね!」


 ナルスの姿と言葉に室内のエルフ達は皆が喜びを露わにする。しかし一人だけ部屋の隅で蹲り暗い顔で沈んでいる幼い少女が居た。


「お前はメムか。まだここに居たんだな。無事でよかった」


「お姉ちゃんが!お姉ちゃんが連れて行かれちゃったの!」


 どうやらこの少女が攫われたエルフの姉妹の妹のようだ。


「大丈夫ですメムちゃん。あなたのお姉さんなら頼りになる人達が救けに行っています。私達に着いてくれば必ずお姉さんに会えます」


 アイスは少女の前に跪くと優しくそれでいて確かな確信をもって断言する。


「ホントに?」


「はい。ですからここは私達に着いてきてください」


「うん!」


「・・・・・もう、いいナ」


 すると今まで黙ってアイス達の後ろにいたナーバが突然に喋りだした。


「ナーバ?」


「目的のエルフは全員探しだしたナ。これで少なくともそいつらは怪我をすることはなイ」


「何を言っているのですか?」


「他の奴隷の連中には悪いが少々の火傷を覚悟してもらおウ。生憎と私は御爺様のようにまだ制御ができないから見えないところの奴は避けられン」


「ナーバ!」


 アイスが声を上げた瞬間にナーバの体から凄まじいちからの奔流が溢れだした。


「(これはまさか!)」


 それは浄化の光。この世界の頂点に君臨する【神竜王】ゼファルトスのみが使用できると言われる絶対の光の洗礼にして聖別の輝き。使用者の認識する物質を有機物、無機物問わずに滅したいものだけを殲滅する攻撃である。


「《竜王審判 属性・炎》」


 そしてナーバはそれを炎を形で現出させる。息吹ブレスとは違い直接的な攻撃力は劣るが殺さずに済ます為には此方の方がいいとナーバは判断したようだ。ナーバの体から吹き上がった炎はアイスやエルフ達を当然覆い尽くす。エルフ達は悲鳴を上げる。


「???」


 しかしその炎が彼女達の身を焼くことは無く。むしろ心地よさすら感じる優しいそよ風のようだった。だが周りの被害は甚大だった。周辺の壁や天井等はあっという間に燃え上がり石で出来ていようと金属で出来ていようとその炎は容赦なく対象を燃やし尽くした。支えを失った天井が崩れてくるがそれも落下の途中で燃え尽きた。吹き上がった光の炎は建物全体に広がり全てを焼き尽くしていく。


「ナーバ、落ち着いてください!」


 アイスは必死にナーバに呼びかけるが光の放出を続けるナーバにその声は届いていない。広がり続ける浄化の炎は奴隷商の建物だけを円状に取り囲みそれ以外の範囲には一切影響を出さずに燃やし尽くしていく。


「ぎゃああああ!」

「何だ!何だこの火は!?」

「熱い!」


 館のそこかしこで悲鳴が聞こえる。恐らくは奴隷商の売人や使用人、或いは牢に入れられている他の奴隷達の悲鳴なのだろう。燃やし尽くしているのは建物だけのようだがアイスや他のエルフ達とは違い完全に被害が無いとはいえないようで多少なりとも炎の影響を受けて軽い火傷程度は負っているようだ。本来であれば使用者の認識した物体だけに影響を及ぼす能力なのだがナーバが未熟ゆえかそこまでの繊細さはまだないようだ。


「・・・・・・」


 ものの数十秒で館は跡形もなくなった。後には毛布に包まりながら震えるように一か所に固まる奴隷エルフ達と圧倒的な光景に茫然とするナルス。そしてこの事態をどう治めるかを悩んでいるアイスが未だ天まで届く火柱を上げるナーバを見つめている。その他の奴隷商の住人や他の奴隷達は軽度の火傷で悶えていたりナーバの気に当てられて気絶している。


「アイス」


「師匠!姉上も!」


 そのすぐ後にソウマとシルヴィアがやってきたのだ。


 ※※※※

「なるほど」


 自分達が来るまでの顛末を聞いたソウマはそう言って視線を未だに火柱の上がる中心部にいるナーバに向ける。


「さて・・・」


 そしてまるで散歩にでも出かけるようにナーバに向かって歩きだした。炎の柱の効果範囲寸前で立ち止まったソウマは吹き上がる炎に向かって出現させた《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を上段から振り下ろした。


「おお!!??」


 ナルス達エルフは更に驚愕する。ソウマが剣を振りぬいた瞬間に炎はまさしく縦に真っ二つになった。天まで届く火柱が文字通り左右に分かたれる光景はあまりにも非現実的な光景だった。


「竜王のおっさんと比べれば密度も練度も文字通りお遊戯程度だがまさかこれを使えるとは思わなかった。だがな・・・・・・・・・」


 炎を割ったソウマはそのままナーバの元まで再び歩いて行き彼女の元に辿り着くとゆっくりと右手を振り上げて手刀の形にする。それをナーバの頭に振り下ろす。


「あうっ!」


 それなりの勢いで振り下ろされた手刀はナーバの脳天に直撃しナーバは小さい悲鳴を漏らす。その瞬間に炎が一瞬で消え去りまるでそこに炎など初めから無かったかのように消え去った。手刀を喰らったナーバは涙目で手刀を振り下ろしたソウマを見る。


「何だソウマ・・・・」


「下界の・・・・・それも神でも臨界者でもない奴にこんな技を出すんじゃない」


 そう言って軽くナーバを叱りつけたのだった。

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