52話 救出作戦
あけましておめでとうございます。今年最初の更新です。
「という訳で、俺達は下手をすれば帝国で一暴れする可能性がある。一応お前にも伝えたからな。しばらく帝国の王城には近寄らない方がいいぞ」
孤児院に帰ってきたソウマ達はオラソとサリカに先程聞いたエルフ達の話と自分達の決断をそのまま話した。
「・・・・・・・・」
その話を聞いたオラソは何とも言えない表情で目を閉じて両目の間を指で挟んでいる。サリカにいたっては白目をむきそうな表情で放心している。
「その・・・・・・、話の内容は理解できました。出来ればもう少し穏便に済ませられませんか?」
オラソは何とかこれだけは言わねばならないと言葉を絞り出す。
「一応俺らも穏便に済ませられるならそうしたいがな。それには大分運が絡むことになるからな。大前提はエルフ達がまだ誰にも買われていない段階である場合だ。これは掴まっている所を襲撃して終わりだ。表向きは非合法の組織の筈だから帝国も事を荒立てることはしないだろうさ。だがもし既にどこかに買われていた場合はほぼ間違いなく帝国貴族様のどこかの筈だ。そうなったら流石に穏便には済ませるのは難しい。エルフを奪い返した場合帝国側が間違いなく報復に出るだろうからな」
「・・・・・・・・」
オラソはソウマの言葉を聞いて更に難しい顔になる。それはソウマの言っている事が間違いではないからだ。
「それに貴様達帝国は三百年前に我等エルフの里と交易・交友以外での不可侵協定を結んだはずだ!それなのにここ百数十年で同胞のエルフが何人か帝国の王都や街等で行方知れずになっている件数が増えている!我らが捜索をしたいと言っても貴様等は自分達で捜査すると言ったきりだ!」
ここぞとばかりにダガもオラソに激しく言葉を飛ばす。しかしダガの言葉にオラソは今度は困惑顔になる。
「協定?なんのことだ?私はそんな協定があるなど聞いたことがないぞ?」
オラソの言葉にダガが更に険しい表情になる。
「そんな馬鹿な!我々は確かに三百年ほど前に当時の皇帝と直接会談の場を設けて結んだ契約だぞ!私も実際にその場に居たのだから間違いないぞ!」
「あーー」
その言葉をソウマが片手を上げて制する。見ればシルヴィアも若干呆れたように苦笑している。
「ダガの言う通りそういう契約なりは確かにあったんだろうさ。だがなダガよ。こいつ等帝国の代々の皇帝は座を継いだ後に大抵前任者達の決めた法律や決まり事なんかで気に入らないのを廃止しちまうんだ」
「そんな馬鹿な事が・・・・・・」
「あるのよこの国では、それが当たり前で行われる。それが実力至上にして絶対皇帝主義の帝国なのよ」
シルヴィアは呆れるように吐き捨てる。
「祖先から受け継いだ遺産・・・・・経験や知識や歴史などを一切受け継ぐと言う意思がない。それを踏まえて利用するという気は有っても受け継いだという気は全くない。彼等歴代の皇帝の殆どが皇帝を継いだ時点でそれが帝国という国の最初の一日なのよ」
「恐らくはその契約とやらはその契約をした代の皇帝の次の代には廃止ないし忘れ去られたんだろうよ」
「何と言うことだ・・・・・・・」
ダガは信じられないように椅子から立ち上がっていた腰を下ろした。他二人のエルフの女性も同様の反応を見せている。
「だからこっちも直接的な手に訴えかけるしかないんだよ。もし現皇帝がそれで折れてくれるんならあまりことを荒立てずにすむだろうが下手すればその日が帝国最後の日になるぞ」
ソウマの何気なく言った言葉にオラソは心底から震える。もしソウマとシルヴィアの実力が伝え聞いた通りならそれすら実現可能だと思わせられたからだ。何とか穏便に済ます方法は無いかとオラソは必死に考えを巡らす。そしてある事を思い出す。
「そうです!ソウマ殿、今度ここ王都で帝国の恒例行事である武闘大会が開かれます。もしそこで優勝を修めることが出来れば皇帝陛下が自らに可能な事ならばどんな願いでも一つ褒美に叶えて下さいます。それで優勝出来ればそのエルフ達も取り戻せるのでは・・・・・」
「武闘大会か・・・・・・」
言われたソウマは少し考える。
「駄目だな。確かにその方法なら穏便に事が済むかもしれんがその間にそのエルフ達の身が保証されるわけじゃない。最悪の場合だって考えられる」
「それならこうしましょうよ。先にそのエルフを助けてしまいましょう。そしてそのまま皇帝に武闘大会で優勝するから自分達のやったことを不問にしろって言えばいいわ」
「私は難しい事は分からんがそれが一番簡単じゃないカ?」
「私達は彼女達同胞が助かるならばそちらの案に乗らせてもらう。出来る事なら彼女達の安全を確保できるその案を採用して欲しい」
「・・・・・」
「・・・・・」
ダガもシルヴィアの案に賛同しサーサもナルス頷いて同意している。
「・・・・・・・・。どうやらそれが一番穏便に済ませる方法の様ですな・・・・・・」
しばらく悩んだオラソもシルヴィアの案が一番穏便な方法だと思ったようで諦めたように溜息を吐いた。
「しかしその掴まった姉妹というのがこの王都内に居るとしてどうやって見つけるのですか?自慢ではありませんが【十騎聖】と言っても私はあまり貴族連中とは仲が良くないのでそういった伝手は期待されてもこまりますよ?」
「まあお前がこの孤児院を運営しているのを見れば何となく分かるよ」
「それなら心配は無用よ。私の《影獣》を使って王都中を虱潰しに探すわ。昼間は私からあまり離れられないこの子達も夜になれば闇に紛れて王都中を捜すことなんて造作もない事よ」
「杞憂でしたか・・・・・・」
「出来ました」
すると部屋の奥からアイスが出てくる。その手には小さな小瓶が握られておりその中には白く薄っすら光る液体が入っている。
「速かったな」
「神冥草の質がとても良かったですから思ったよりも精製が簡単ですみました」
孤児院に帰ってからアイスだけは神冥草を使って堕天病の薬を作っていたのだ。神冥草は薬に精製するには深い薬学の造詣が必要になる。人族ではそれなりに名の知れた薬剤師や錬金術師が生成することができるがそれでも時間が掛かる場合が多い。
「流石、大賢者の指導を受けただけはあるわね」
「まさか神冥草を精製できる方がソウマ殿のお連れに居られたとは感謝の言葉もありません」
「まだまだラルク様には及びませんが・・・・・」
アイスは少し照れたように頬を染める。
「里を出る前も一応は一通りのモノは学んでいたのですがエテルニタ王国でラルク様と偶々それ関係で話す機会がありその後まだまだ学んでおいて損は無いと言われてご指導を賜っていました。まさにその通りでしたね」
そして手に持っていた薬をサリカに手渡す。
「この薬をさじ等で少量ずつ時間をおいて与えてください。一度に与えるとまだ幼い体では急激な症状の変化に耐えられませんから」
「ありがとうござます!ありがとうございます!」
サリカはそれを胸に抱きしめて目に涙を溜めてアイスにお礼を言う。彼女は内心では実はもう助からないのではないかと諦めていた部分もあった。それが突然訪れた冒険者達によって僅か数日で解決してしまったのだ。彼女のこの反応も無理からぬことだろう。
「お礼は結構です。さあ、早く彼女の元に行ってあげてください」
「はい!」
サリカは返事をするとそのままミナの寝ている部屋へと小走りで向かった。
「これで依頼は果たした形になるから後は俺達の自由だな。シルヴィア、早速今夜に探りを入れてくれ。場所が分かり次第そこからエルフ姉妹を奪還する」
それを聞いてオラソも何かを諦めたように溜息をついた後に苦笑を浮べた。
「ここまで来れば私も乗りかかった船です。最後まで付き合いましょう。もしそのエルフ姉妹を保護されたならこの孤児院に匿うのが良いでしょう。ここは私が完全に個人的に運営しています。帝国側もそれを周知ですから下手に手を出す輩もおりません」
そうオラソが提案する。ソウマはその案をダガ達に目配せで確認を取る。
「私は別にそれでも構わない。ここにはエルフの孤児もいるしその他の種族の子供達もいる。この子達を見れば貴方が信用に値する人物であることは分かる」
オラソはそっとエルフの女の子を呼び寄せる。
「この子は二年前に奴隷市場で売られていた所を私が買い取ったのだ」
ダガはその子の前に跪き視線を合わせて優しく問い掛ける。
「お前の親の事は憶えているか?」
その問いにエルフの女の子は首を横に振る。
「ダガ、もしかしたらこの子は弟の子かもしれない。弟の妻のシルシがもし妊娠していればこの子位の年齢かもしれない」
「シルシはあの時妊娠していたのか?」
「分からないが彼女は自身の体調の変化を感じてここに何かの食材か物資を取りに来て居なくなった」
そう言うサーサは悔しそうに下唇を噛む。彼女とて冷静に語っていても義妹の安否をずっと気にしているのだろう。
「ついでにこの王都内に他のエルフがいるなら全員探してしまうか。シルヴィア」
「了解」
「あまり貴方達の負担を重くしても大変なのではないか?」
「別に大した労力の違いは無いわ」
「そうだ、ましてや犯罪を犯したり金銭関係の自己責任ならともかく本人の意思を無視した人攫いなら取り返されても文句は言えないからな」
「・・・・・・・感謝する」
サーサはエルフの女の子の前にダガと入れ替わり屈みこむとその頭を優しく撫でる。
「オラソ殿、この子は私達が里に帰る時に引き取りたい。こうして近くで見て実際に触れて魔力を感じれば分かる。この子は間違いなく弟とシルシの娘だ」
「私としては異論はない。どうだ?」
そう言ってオラソはエルフの女の子に優しく問い掛ける。エルフの女の子は一度オラソを見上げてからサーサを見つめる。そしてどこか不安そうにしながらも期待する様に口を開く。
「・・・・・・・お父さんに会える?」
そう小さく問い掛ける。
「会える。お前の父は我等の・・・・・お前の故郷にいる」
「・・・・・・・お母さんに会える?」
「・・・・・・きっと会える。お前がここに居たのなら彼女もきっとこの王都に居る」
その言葉にエルフの女の子は両目から大粒の涙をぽろぽろ溢し始める。
「・・・・わたし、お父さんに会いたい。お母さんに会いたい!」
涙を流しながら懸命に自分の願いを口にする。するとそんな少女を正面からシャルロットが優しく抱きしめる。そしてあやすように頭を優しく撫でる。
「大丈夫。きっと会えるよ。ソウマとシルヴィア姉様に任せておけば直ぐにでもお母さんに会えるからね」
「・・・・うん・・・・うん!」
シャルロットの言葉は何故か不思議と少女の頭にするりと入り込みそれが信じるに足る事実であるように少女を安心させ更に涙を加速させる。シャルロットは涙に濡れる自らの胸元を気にもとめすに少女を優しく抱きしめ続けていた。
※※※※
「【死の領域】から生きて出てきた者達だと?」
帝国王城の執務室で一人の男が部下から上がってきた報告を聞いて思わず聞き返す。
「その報告は事実なのか?」
「私の方でも確認を取った所どうやら事実の様でございます。皇帝陛下」
男の名前はザネス・カイエル・ダナーク。当代の帝国皇帝である。
「関所の兵の報告によれば人族の男が一人と亜人種の女が四人の構成で入っていったそうです。女の方は恐らくはエルフが二人と一人が雰囲気から吸血鬼ではないかと、そして最後の一人が竜人のようです」
「なんとも奇妙な組み合わせの男女だな。それに竜人など俺も一度も見たことが無いぞ」
「竜人族は僻地に居を構えて滅多にそこから降りてきませんからな」
「それに吸血鬼か・・・・・・・」
「入っていったのは昼間だそうですからその吸血鬼は昼間歩くであることは間違いないでしょう」
「であればその吸血鬼の女も相当に高位の存在のようだな」
「それとこれも四人の亜人全員がかなり見目麗しい外見をしていたそうです」
「ほう」
その報告に皇帝は面白そうに眼を細める。
「それでそいつらは何人が生きて出てこられたのだ?」
「報告ではどこから侵入したのか更に三人のエルフの男女を加えた状態で出てきたそうで全員が全くの無傷であったそうです。まるで散歩から帰って来たかのように入った姿そのままで出てきたそうです」
「・・・・・・その報告が事実ならその男女は全員が相応の実力を持っているようだな」
「そうですね。特に吸血鬼と竜人が居れば【死の領域】から無事に出て来れるのも頷けますな」
吸血鬼も竜人もこの世界では固有種の竜族を除けばほぼ最強に位置する種族である。種族の全体数こそ人族に比べれば遙かに少ないがそれでもその個々が持つ圧倒的な種族能力は決して無視できるものではない。
「可能ならばその他種族の者共には是非とも俺の傘下に加えたいところだな」
そう言って皇帝は笑う。どうやら当代の皇帝は他種族を見下すことよりも強さに重きを置く傾向の皇帝のようで報告にある実力者たちに大層興味を抱いたようだ。
「あまり他種族を重要視しますと他の者の反発を招きますぞ」
「そんな者は黙らせる。俺は皇帝、この国では俺こそが法なのだ」
そう言って皇帝は自信と覇気に満ち溢れた表情で笑う。
「それに如何にその竜人や吸血鬼が居ようと我が国最強の【十騎聖】が居れば恐れることは無い。当代の【十騎聖】は歴代最強の集団だ。その実力は一人一人が召喚された勇者共にも引けは取らん。【十騎聖】史上最強と言われた【神閃】ガラ・コラロにも並ぶものがいつか現れるだろう。それに我が国にも勇者はいる」
そう言って皇帝は更に機嫌が良さそうに笑う。まさに最強の手札は自らの手の内にあるという余裕から来る笑みである。・・・・・・・・・・・果たしてその笑みが続くのは何時までのことか・・・・・・・。
※※※※
「もう心配ないです。後は少しずつ美味しいもので栄養を付けて体力を徐々に回復させれば一月もせずに起き上がれるようになるでしょう」
アイスはベッドに眠るミナの額に手を置きながら様子を観察してそう答える。ミナの顔は全ての羽が抜け落ち、元の幼いながら可愛らしい顔が表れている。その顔は最初に見た時とは比べ物にならない程穏やかな寝顔を見せている。
「本当にありがとうございます」
サリカがそれを聞いて再び深々とアイスに頭を下げる。その顔には隠し切れない安堵と喜びが表れている。
「私達は依頼をこなしただけです。それにもしお礼を言うのなら師匠や姉上やナーバにお願いします。私では到底神冥草を取ってくることは出来ませんでした」
「それでも薬を調合して頂いたのは貴女に他なりません。薬の調合は依頼外であるはずなのにです。もし薬の調合師を探すことになれば更に長い期間ミナを苦しませる結果となっていました。貴女自身にも感謝してもしきれません」
「・・・・・・・ここの子達をとても大切に想っているのですね」
アイスはそんなサリカの言葉と態度に少し優しい表情で見つめる。
「はい、ここに居る子達は皆が私の妹であり弟であり娘であり息子です。この子達は私のかけがえのない家族なんです。この帝国で迫害や酷い仕打ちを受けてきた子がこの先の未来を少しでも明るいものであって欲しい。少しでも幸せを感じて欲しいと思っています」
「そうですね・・・・・・・私もそう感じます」
サリカの言葉にアイスも薄く微笑んだ。
「アイス」
すると部屋の外から扉を叩く音が聞こえてきた後にソウマの声が聞こえた。
「師匠」
「話し中スマンな。シルヴィアがついさっきエルフ達を見つけたと言ってきた」
「流石姉上ですね。日が暮れてまだ数時間しか経っていないというのに・・・・・・」
「それでやるなら早い方がいいから早速今から救出に行こうと思う。場所は拠点も含めて複数あるから個別に当たろうと思うからお前にも手伝ってもらいたいんだ」
「お任せ下さい。その程度であれば私も師匠や姉上たちのお役に立てるはずです」
「目的は一応エルフの救出のみだ。極力殺すな。救出対象以外の奴隷を解放するかはお前の判断に任せるが責任はお前が持てよ」
「はい」
ソウマは淡々と要項のみをアイスに伝えていく。その一種冷淡とも言える態度は自らの行いが正義の行いでは無くただの独善であると考えからの事である。独善を行う以上はその行いの責任も自らが負わなくてはならない。
「それじゃあ各自行く場所を決めるぞ。俺とシルヴィアはそれぞれエルフがいるらしい貴族の屋敷まで行ってくる。ナーバとアイスは姉妹がいる奴隷商まで行ってくれ。姉妹は買い手が決まってはいるがまだ引き渡されてはいないらしい。ダガは俺にサーサはシルヴィアにナルスはナーバ達に付いて行ってくれ」
「私達はエルフ達と面識が無いからそれぞれダガ達に付いてもらうわ。ナーバ達の方は姉妹がまだ幼いから安心させる為に同族のエルフを二人つけた構成よ」
「要はエルフをここに連れてくればいいんだロ」
「まあそういう事だ。自分達と救出対象の安全を第一に考えて行動しろ」
そうして全員が外に出る。
「それじゃあ朝までに決着をつけるぞ」
全員が頷く。
「皆頑張ってね!」
留守番のシャルロットが皆を鼓舞する様に両手を握りしめる。
「皆様の無事をお祈りしております」
サリカが頭を下げて見送る。オラソは城での勤めが有るので日が暮れる前に城に向かっている。
※※※※
ソウマとダガはエルフが捕らわれている貴族の屋敷の中に侵入を果たしていた。
「・・・・・よっ」
ソウマは屋敷の警備をしている者の背後に音も無く忍び寄ると首に軽く手刀を打ち込んで気絶させる。
「屋敷の警備は大体気絶させたかな?」
「正直簡単すぎて拍子抜けしてる位だ」
ダガはソウマの手際に感心と呆れを含んだ表情で見ている。決して屋敷の警備が手薄な訳では無い。恐らくはダガ一人ならばこの警備の中を発見されずにここまで侵入することは不可能だっただろう。
「見た感じこの屋敷の主の貴族の姿が見えないな」
「ああ、捕らわれている同胞もどこにいるのか分からない」
屋敷内を一通り散策した二人だが目的のエルフを発見できなかった。
「・・・・・・・」
ソウマはそのまま周囲に視線をやった後に徐に視線を下にやって床を踵で軽く叩く。
「下か・・・・・・・」
「地下室か!」
「ああ、かなり広い空間とそこに複数人の気配がある」
「どこかに入り口に行く仕掛けがあるはずだ」
「いや、その必要は無い」
「何故だ?」
「気配の一つがかなり弱い。恐らくこの感じはエルフで間違いないがかなり弱っている。急いだ方がいいだろう」
ソウマのその言葉にダガは同胞が現在どんな目にあっているかの想像が出来てしまい焦りと怒りが沸いてくる。
「どうする?」
「このままぶち抜く!」
そう言うとソウマは右の拳を振りかぶりそのまま床に叩きつけた。拳を叩きつけられた床はそのままソウマとダガの足場ごと崩れ去った。そしてそこにはかなり広い空間があり幾つかの部屋があった。
「な、何事だ!」
そして部屋の一つから一人の中年の男が出てくる。全身丸々と太って頭に申し訳程度の頭髪が乗っている姿をした典型的な権力と財力で肥え太った貴族そのものだった。その貴族は今から何かを始めようとしたのか下着一枚の姿をしておりその醜い体を晒している。
「貴様等は一体なんだ!?屋敷の警備の者がいたはずだぞ!」
ソウマ達は男の言葉を無視して男が出てきた扉の奥の部屋を覗き込む。そこには天井から吊るされた縄で縛られたエルフの女性が居た。エルフの女性は服を着用しておらず口には猿轡を噛まされており全身に無数の傷跡がある。意識を失っているのかその瞳は閉じられている。
「己!」
その姿を見た瞬間ダガは怒りに任せて部屋に突撃しようとする。しかしそれをソウマが手で制して止める。
「落ち着け。部屋の中にいるのはお宅の仲間とあの豚だけじゃない」
「それに気付く坊主も中々やり手のようだな」
ソウマの言葉に返事を返すように部屋の中から数人の男達が姿を現した。
「こいつ等は侵入者だ!見た所1人はエルフのようだから大方仲間を取り返しに来たに違いない。殺せ!容赦するなよ!男のエルフはどうせ高く売れん!」
「と、いう事だ。お前さん達も仲間を救けに来ただけなんだろうがこの国の掟は強さだ。それが金の力でも権力でも武力でも力は力だから俺達はそれに従うだけだ。そしてお前さん達もこの国に居る以上はそれに従うしかないんだよ」
「くそっ」
ダガは武器を構える。
「(こいつら全員それなりに手強そうだ。一対一ならばともかく複数人に囲まれると対処が難しくなる。ここは回避に専念しつつ一人ずつ倒せる機会を伺うしかないか)」
ダガが内心で作戦を考えている中、ソウマは無造作に男達の前に進み出る。
「強さが全ての考えに異論を唱える気は無い。それもまたこの世の真理の一つではあるからな。力が無ければ己の主張や願いを押し通すこともできないからな」
ソウマの言葉にリーダー格の男が笑みを浮かべる。
「だったらこの現実も受け止めるんだな」
「ああ、だから俺も自分の主張を自分の力で押し通すだけだ」
「なん、ぼ!!!!」
そう言った瞬間ソウマの姿が男の目の前から消える。男が困惑の声を上げようとした瞬間その顔は真上に跳ね上げられた。ソウマが一瞬で男の真下に回り込みその顎を掌底で真上に打ち上げたのだ。
「お前等みたいに欲望に忠実な奴等もまあいいだろうさ。己の強さを利用して好きに生きるのも強い者の権利だからな。だが自由には代償が伴なう。自由に振る舞うってことそれだけ危険が伴うんだよ」
そのまま回し蹴りで茫然としている男の一人を吹き飛ばす。
「な!」
「テメエ!」
「この野郎!」
ようやく事態を把握した男達がそれぞれ武器を手に取って構える。
「遅いんだよ」
しかしソウマは武器を構えた男達の背後に回り込んでおり最後に部屋から出来た男の背中に蹴りを叩き込む。
「ぐぼ!」
背中を蹴られた男はそのまま凄まじい速度で男達に突っ込みぶつかる。
「うわ!」
「くそっ!」
「終わりだ」
そのまま体勢の崩れた男達の首筋にそれぞれ手刀を叩き込んで気絶させた。
「取り越し苦労だったな。やはり私の出番は無かった」
ダガが構えていた武器を降ろしてく笑みを漏らす。
「一応はこいつらが準備が整うまで一秒は待ってやったんだが・・・・・・思った以上に駄目だったな」
「あれで待ってやったのか・・・・・?」
「生死を賭ける戦いはゼロコンマの奪い合いだぜ。一秒も待ってやったのは大分甘いぞ」
「そうなの・・・・・・・か?」
ダガは何とも微妙な表情をしている。
「ひっ!ひっ!ひあっ!」
この屋敷の主である男は護衛の男達が一瞬の内に無力化されたのを認識するとその体からは考えられないような素早い動きで出てきた部屋の中に逃げ込み中から鍵をかけた。
「素早いなあの豚。火事場の馬鹿力か?」
そう言いながらソウマは扉の前に立つと取ってを無視してそのまま扉に手を添える。
「何をする気だ?」
ダガがソウマの行動を不思議そうに見ている。
「久しぶりに使って見ようと思ってな」
そうして呼吸を整えたソウマは扉に手を添えた状態で足を開く。
「ふっ!」
そして全身を一気に稼働させる。足から発生させた回転の力をそのまま体に伝えるようにして扉に当てた手の平まで誘導させると同時に溜めた気を打ち込む。それを打ち込まれた扉は轟音と共に内側に向かって鍵を破壊しながら吹き飛んだ。
「ぎゃびゃあ!」
扉が吹き飛ぶと同時に聞くに堪えない叫び声が上がる。どうやら貴族の男が扉の内側に張り付く様にソウマ達の様子を伺っていたようだ。ソウマが扉を吹き飛ばしたことによって男も扉と一緒に吹き飛んだようだ。
「ぎゃび!ぎゃび!」
男は顔中から血を流しながらも這う様にして逃げようとしている。
「・・・・・・・」
ダガは部屋の中に素早く入り吊るされているエルフの女性を降ろして助け出す。
「どうだ?」
「気を失っているだけのようだ。私はこのまま彼女を拠点(孤児院)まで連れて行こうと思う。後は任せても大丈夫だろう?」
「勿論」
ソウマはダガに振り返ることなく男に向かって歩きながら手をひらひら振りながら応える。それを確認するとダガはそのままエルフの女性を抱えて部屋から出て行った。
「さてと・・・・・・お前にはまだ用がある・・・ぞ!」
男に追いついたソウマはそのまま男の背中を踏み受けて動きを封じる。
「ぶぎゃ!」
「別に殺しはしないからそんなに暴れるな」
そう言いながらもソウマは背中に乗せた足に更に力を籠める。無力な女に一方的に暴行を加えるような輩に同情する気はさらさら無かった。ソウマは軽く殺気を発しながら脅しをかける。
「俺の名前はソウマ・カムイ。今日の事を皇帝の耳に入れろ。町外れの孤児院の近くにある宿に俺は居るから衛兵でもなんでも寄越せ。いいな?でないと今度は本当に息の根止めに来るぞ」
男はソウマの言葉にひたすら首を動かしながら了承する。ソウマの殺気に当てられて顔面は蒼白でありその股間は湿っている。
「これに懲りて二度とこんな目に会いたくなければ大人しく生きるんだな(まあこの手の手合いは時間をおいたら絶対またやるがな)」
「あがっ!」
ソウマはそのまま男の頭を踏みつけて気絶させる。
「俺の方は終わったな。シルヴィアの方も多分終わってるはずだな。アイスの方もナーバが付いてるからまず心配は・・・・・・別の意味であるがまあ大丈夫だろう」
そのままソウマは部屋から出ていこうとして立ち止まる。そのまま気絶している男を見る。
「・・・・・・(何かを思いついた顔)」
実にいい笑顔で笑いながら男に近付いた。
※※※※
次の日の早朝に男は全裸の状態で街の真ん中に吊るされていた。




