51話 死の領域
今年の更新はこれがたぶん最後です。
【死の領域】、この世界の各地に点在する様に存在する瘴気に満ちた領域。そこに生息する奇怪且つ強靭な生物は並の者では太刀打ちできず竜ですら弱い個体ならば生き残れない。しかしそんな場所であってもそこに踏み入る冒険者や武芸者等は一定数存在する。腕試しの為だったり自身の名声を高める為だったりと理由は様々だが大半の理由が【死の領域】の素材を求めて入るのである。高濃度の瘴気で変質・育成された生物や植物は濃い瘴気と同時に強力な魔力も帯びている。瘴気は高位の聖職者であれば浄化することが出来る。そうすれば強い魔力を帯びた素材が手に入る。植物は効果の高い回復薬や補助薬になり生物の骨や皮や牙等は魔力を帯びた武器や防具等の魔法武具になる。【死の領域】の素材によって歴史に名を残す魔法武具がいくつも生み出されている。
「【死の領域】の生物は一頭だけでも莫大な金額で取引されます。もし個人で討伐・入手できれば自身が強力な武具を入手できると同時に遊んで暮らせるだけの金銭を得ることが出来る。だからこそ冒険者や武芸者、権力者などは己や部下の命を賭けて【死の領域】に挑む・・・・・・・・・はずなのですが・・・・・・」
アイスが遠い目をしている。その目はまさに長い年月をかけて悟りに至った修験者のような顔である。
「森まではまだ遠いか?」
「一応目で見える所にはあるわね」
「こいつらがいちいちちょっかいを出してくるから中々進まないんダ!」
そう言ってナーバは自身の足元に転がっている魔獣の頭を蹴り飛ばす。
「まあ、【死の領域】の生物は私達にも躊躇なく襲い掛かるのばかりだからそれも仕方ないわ」
シルヴィアも自分の足元の魔獣をつま先で突く。
「最初は退屈しなかったがこうも頻繁に来ると流石に面倒になってくるな」
そう言ってソウマは《聖王竜剣》を肩に担いで足を組んで座っている。そして二人を見下ろしながら溜息をつく。
「それで、どうする・・・これ?」
そしてソウマは自分の下を指差す。そこには山と積まれた魔獣・魔物の死骸が積み上げられていた。
「私の影に納めてもいいけれど別に使い道も無いしねえ」
「こいつらの肉は瘴気臭くて不味イ!」
「じゃあ・・・・・燃やすかぁ・・・・・」
ソウマ達が魔獣達の死骸の始末をどうするか考えている。それにおずおずとアイスが手を上げる。
「あの・・・・・一応ここの生物の素材は高額で取引されます。今回の報酬とは別にそこにある素材を持ち帰れば路銀の足しになるのでは・・・・・・・・」
その意見にソウマとシルヴィアが顔を見合わせる。
「そう言えばこいつらって瘴気を浄化すれば魔力を帯びた武具になるんだったな」
「そう言われるそうね。私もいくつか見たことがあったけれど大したことのないものばかりだったから忘れてたわ」
「・・・・・・・・・」
アイスは再び遠い目になる。ソウマやシルヴィアはこう言っているが実際はこの生物の素材で作られる武具は間違いなくどれも超一級のモノである。現在は修復中で折れてしまった彼女の愛剣も希少金属の他にもここの生物の素材が使われているほどだ。他の冒険者や騎士や商人がこの光景を見れば我を忘れて飛び掛かるだろう。決して今ソウマ達がしているような要らない物を見る目で見たりは絶対にしない。
「こんな奴等の素材で武器など作る位なら我等竜族の素材を手に入れればいいものヲ」
しかしそれも仕方がないことかもしれない。
「まあ竜の固有種から素材を入手するよりかはここの方がまだ成功する公算が高いからだろうさ」
「一応ここの生物も野生種の竜よりかは良い素材を持ってるのもいるからじゃないかしら」
今ここに居る三人の男女は世界最高峰の実力者である。シルヴィアは自らの影を使いそこらの武具等足元にも及ばない武器を作り出す。ナーバは【神竜王】ゼファルトスの直系として竜族最高硬度を誇る竜鱗を持ち全身がまさに究極の武器であり防具でもある。そしてソウマは既に世界最高の武器と防具を所持している(防具は文字通り所持だけだが)。
「一応綺麗な死骸だけ私の影に納めておきましょ。後は残しておいても邪魔だから燃やしてしまいましょう」
そう言ってシルヴィアはふわりと浮き上がるとアイスの更に後方に着地する。
「お疲れ様キューちゃん。ちゃんとシャルを見ていてくれたのね」
シルヴィアは自らの使い魔の窮奇を頭を撫でて労う。窮奇はそれを喉を鳴らして嬉しそうに受け入れる。そしてそんな窮奇の背中ではシャルロットが気持ちよさそうに寝息を立てて寝ている。ここにきて早々にシャルロットはうとうとしてきていた。どうやら寝ずに堕天病の女の子に付いていたのが災いしたようだ。それでシアルヴィアが窮奇を呼び出してその背中にシャルロットを乗せて寝かせたのだ。窮奇はこの【死の領域】の魔物達よりも強く魔術も使えるのでシャルロットを護るだけなら出来る。しかも窮奇の周りにはシルヴィアも《影獣》達も無数に配置しておいた。
「シャルはまだ寝ているわね」
シャルロットが落ちないように窮奇は自らの羽を使い器用にシャルロットを支えている。《影獣》はアイスの周りにも数体配置されている。現在の《アイスコフィン》が無い状態のアイスではここ【死の領域】の生物は少し厳しい相手だからだ。
「(あの死骸の山の下にいる魔獣なら・・・・・・今の私でも多少の手傷を負う程度で勝てそうですね。真ん中に付近にいるのは・・・・・《アイスコフィン》が無いと厳しいでしょうか?今、師匠が座っている人型の魔物は私では倒せないでしょう・・・・・)」
アイスはソウマが座っている死骸の山を見つめながら厳しい顔で思案している。
「サッサと森まで行って神冥草を取って帰ろうぜ。ここは夜になれば更に強力な奴がどんどん来るからな。更に進むのが遅くなっちまうぞ」
ソウマは【死の領域】の更に奥を見つめながら言う。
「それもそうね。今回の私達の目的は討伐ではなく採取だからこいつらに構ってばかりもいられないわね」
「空を飛んでもいいが神冥草はどちらにしろ森に入らねば見つけられン」
「それに空を飛んだら余計に目立って群がってくるぞ」
「やっぱり歩いて行くしかないわね」
ソウマ達は森を目指して歩き始めた。
※※※※
ここは帝国領の【死の領域】の手前に設置された関所の一つ。大陸の各所に存在する【死の領域】が在る国では【死の領域】を囲む形で壁や柵を建てて関所を設けている。その目的は【死の領域】への侵入を妨げるものではなく【死の領域】内の生物などが領域外に出た場合に逸早く発見する為である。壁や柵は出るのを防ぐ為では無く外に出たことを分かりやすくする為にありそれを監視する為に関所が配置されている。
「さっき中に入っていった奴等・・・・・どうなったかなぁ・・・・」
「もう結構時間が経ってるからな・・・・・・・」
関所内では先程入っていったソウマ達を話題にしていた。彼等の普段の仕事は【死の領域】の生物が外に出た場合に即座に王城に報告する為に存在する。しかしその事態が発生することそのものが非情に稀であり彼等は殆どが柵や壁の状態を確認したり稀に【死の領域】に入る冒険者や武芸者を見送る位である。当然見送った殆どの者は返ってはこないが・・・。
「しかし好い女共だったなぁ・・・・・」
「ああ、異種族の女だがあれだけ見目が良いと関係なくなるな。あれなら人族じゃなくてもお相手願いたいぜ」
「特に銀髪の女が居たがあれはやばいな。思わず放心しちまったぜ。この世であれ程の女に出会う機会が有るとは思わなかったな」
「俺は一緒に居たエルフの女も良かったな。エルフは皆綺麗所が多いが中でもあれは極上だった」
男達は口々に先程出会ったシルヴィア達の事を口にする。彼等の職務は大概がこうして一日を話だけで終わる。しかし【死の領域】の生物が一匹だけでも外に出ただけで甚大な被害をもたらしたことが過去にいくつもある。故に滅多に起きない事態でも警戒せぬわけにはいかないのだ。
「しかし何が目的で入ったかは知らないがこれだけ時間が経って誰も帰って来ないとなると全員ここの生物の餌になっちまったかなぁ。ああ~勿体ねえなぁ。せめて女だけでも置いて行ってくれたらよかったのになぁ~」
男達は誰一人としてソウマ達が生きているとは思ってはいなかった。
※※※※
「はっ!」
ソウマの振るう《聖王竜剣》が眼前に迫る魔物の体を左右に綺麗に二等分して切り裂く。
「フン!」
ナーバの振るった拳が目の前の人型の魔物を防御しようとした両腕事ごと頭を吹き飛ばす。
「やれやれ」
シルヴィアの展開する影が辺りの魔獣や魔物を飲み込む。その影の中から獣の断末魔が聞こえてくる。
「はあっはあっはあっ・・・・・・はあ」
アイスは剣を杖代わりに片膝を着いて荒い息を整えている。
「神冥草ってこれか?」
「だからそれはただの野草よ。見たことが無いからって適当に探すのはやめなさいってのソウマ!」
「私はその草を見たことが無いから邪魔な生き物の掃除だけすル」
三人はそのまま襲ってくる魔物達を次々始末しながらどんどん森の奥深くまで歩いて行く。
「アイス姉様大丈夫?」
その後ろをシャルロットが窮奇に乗りながら付いて行く。そしてアイスの横に来て心配そうに声をかける。
「大丈夫です。師匠達も一応私の力量を考慮した魔物達を相手させているようですから・・・・」
そう言いながらもアイスの息はまだ整はない。森に入る前にアイスはソウマ達に自分も戦わせて欲しいと申し出た。流石にこのままソウマ達だけに戦わせて自分がその後ろを付いて行くだけなのは戦士としての矜持が許さなかった。ソウマはそれを了承したので現在のアイスの力量に見合った奴をアイスに回していた。
「やっぱり《アイスコフィン》が無いとここの奴らはきびしいか?」
「はい・・・・・正直に言えば・・・・そうですね。《アイスコフィン》があればもう少し楽に戦えると思うのですが・・・」
「そうだろうな・・・」
そう言いながらソウマは自分に飛び掛かってきた魔獣の頭を振り向くことなく鷲掴みにする。魔獣は暴れてソウマの腕に爪をたてようとするがソウマの気で覆われた腕は全く歯が立たずに拘束から逃れようとするもソウマの膂力は小揺るぎもしない。
「自分の力量に見合った武器を持って戦うのも戦士の力量の一つでありそれが手元に無いのは不運な証拠でもある。それでも現状の装備である程度戦果を出せるようにしないとな。敵がそれで待ってくれるわけじゃないからな」
「・・・・はい」
ソウマはそのまま掴んでいる魔獣を地面に叩きつけて止めを刺す。
「剣貸してみな」
ソウマはアイスから剣を受け取って敵の前に進み出る。
「ここの敵は濃度の濃い瘴気を纏った生物だから魔術や魔力を伴った攻撃に高い耐性を持つ。だから気を使った物理攻撃の方が有効だ」
ソウマはアイスから受け取った騎士剣を構える。
「武器には込められる気の総量は決まっている。それ以上の気を込めようとすると武器は破壊される」
ソウマの持つ騎士剣が気によって輝き始める。
「ならば込める気の密度と練度を上げるしかない。少ない気で最大の効力を発揮する」
ソウマが振り抜いた騎士剣は眼前の敵だけでなく後方の数十体いる敵だけでなく更に後ろの鋼鉄より遙かに硬いはずの木々までも果実の様に数十本切り裂いた。
「重要なのは武器も自分の手足の延長線上だと認識する事と気を武器に込める時に武器の限界を確実に見極め密度を上げた気を戦闘中に維持し続ける集中力だ。当然これでも限界はあるし使い過ぎれば武器は壊れる。だがこれが出来るだけで通常の武器でも戦闘力はかなり上がるし本来の武器を持てば更に上がるぞ」
ソウマはそう言ってアイスに騎士剣を返す。
「気の密度を上げる・・・・ですか・・・・・」
「只単に気を大きくするのとは違うことだ。十の気しか込められない武器に百の密度の気を込める精密作業だからな。ただ気を垂れ流すのとは訳が違う」
するとソウマは懐から数枚の透明な板を取り出した。
「硝子の板ですか?」
「見てな」
ソウマは右手の指を一本立てる。指先がほのかに光を放つ。それをかざした硝子板にゆっくりと近づけるとソウマの指は硝子板をそのまま綺麗に貫通した。そして指を引き抜いた硝子板をアイスに差し出す。
「やってみ」
「・・・・」
そう言われたアイスは無言で先ほどのソウマがやったように指先に気を集中して硝子に近づけてみた。
「あ・・・」
しかし指は硝子を貫通することなく止まってしまった。
「くっ・・」
アイスは更に指に気を集中しようとした。
パリィィィィィッン
硝子は貫通では無く粉々に砕けてしまった。
「それは気に反応・吸収する性質を持つ特殊な鉱石を結晶化して硝子にしたものだ。気が少なすぎれば今みたいに吸収されるだけだし逆に気が多すぎれば吸収しきれずに壊れる。指先に気を完全に集中させつつ硝子を貫通できるだけの密度を纏わせなけりゃ貫通は出来ない。渡しとくから暇な時に練習しな」
「はい」
そう言って硝子板を受け取るアイスはどこか嬉しそうだ。彼女はソウマから何か教わり授けられ度に胸に言い知れぬ幸福感を抱いていた。
「さて、早いとこ目的を果たして帰ろうか」
「そうね。一応あの堕天病の子もまだ猶予があるとはいえ急ぐに越したことはないわ」
「何か探す目印みたいなものが有れば早いのだがナ」
三人が周囲に視線を巡らせていると突然シャルロットが空中に視線をやる。
「瘴気が特に濃い場所に群生してるみたい。この森の生き物の気配の多い方がそうだって」
そしてどこか確信する様に口にする。
「シャル、もしかして今精霊から聴いたの?」
「うん、近くに誰かいないかなって呼びかけたら応えてくれたの。だから聞いたんだ」
「よく精霊が居たナ。精霊は普段はこんな瘴気の濃い所には近寄らないものだガ」
「いや、ここに居たといよりはシャルに付いてきた樹精霊系の精霊だろう。だから瘴気が濃くても植物の場所なら分かるんだろうさ」
そう言いながらソウマが森の気配を探る。
「あっちに強い気配が結構な数いる。多分そこが瘴気が濃くて強力な生物の住処だな。シャルの聴いた通りならその周辺に神冥草もあるはずだ」
しばらく一行は更に森の奥深くに入る。
「これか?」
そして森の中心部分に近い場所に不自然に群生する様に咲く花があった。
「それだわ。昔暇つぶしにラルクの部屋で見た図鑑にそんな感じのものが載っていた気がするわ」
「私もそれだと思います。よく見れば周囲の瘴気を少しずつ吸収しているようですし」
その花の花弁は外側が黒く染まり中心に行くほどに白くなっている。
「恐らくこの花弁の外側から瘴気を吸収して取り込みながら中心に向かって浄化しているんだろう」
ソウマは襲い掛かってきた魔獣を切り捨てながら花を観察する。
「どれだけ持って帰ればいいんだ?それとも今後に備えてある分だけ摘んで帰るか?」
「いえ、3~4つ位で十分です。神冥草は瘴気を吸収し続けなければ2日程でボロボロに枯れてしまうそうです。だから必要な分以外は摘んでもここ以外では長期保存は困難です」
「了解」
そうしてソウマ達は神冥草を入手して引き返すことにした。
「ん?」
「あら?」
「?(干し肉を齧っている)」
ソウマ・シルヴィア・ナーバの3人が同時にある方向を向いた。
「どうしました?」
アイスは急に立ち止まった3人に怪訝な顔を向ける。ちなみにシャルロットは再び窮奇に背中で安らかな寝息を立てている。
「いや、あっちの方角に複数だが魔獣や魔物とは違う気配が居てな」
「動き的には魔獣か魔物に追われてるみたいね」
「【死の領域】奥側まで迷って入ったとは思えんナ」
言われてアイスも3人と同じ方向を見る。そして目を凝らして遠方を眺めれば3人の男女が此方に向かって走ってくるのが見えた。しかも・・・・・・・。
「どうやら全員エルフのようですね」
3人とも軽装の旅衣装に外套を羽織った姿をしている。彼等の頭の横にはエルフ・ハイエルフ特有の尖った耳がある。3人の内エルフの男が逃走を続けながら背後の追跡者に対して弓を射かけている。風魔術を纏わせて放っているようだが追跡者は全く意に介すことなく進み風の弓矢は追跡者の体に当たった瞬間特に効果を表すことなく砕け散る。
「ちっ!」
エルフの男は舌打する。その顔には明らかに焦燥が見て取れた。
「ソウマ、助けてあげて!」
するといつの間に起きていたのかシャルロットがソウマに向かって懇願する。
「あいよ」
そしてソウマはシャルロットが言い終わるとほぼ同時に駆けだしていた。エルフ達も自分達に向かって走ってくるソウマに気が付いた。
「こっちに来るな!」
エルフの男がソウマに向かって手を振って警告を発する。どうやら意図してソウマ達の方に逃げてきたのではないらしい。ソウマはそんなことはお構いなしに走る速度を更に加速させる。そしてエルフ達に目前まで迫った瞬間にソウマの姿が彼等の目の前から掻き消える。
「!」
「え!」
「消えた!」
3人のエルフは突如消えたソウマに驚愕の声を上げる。しかし何かを切り裂く音に背後を振り返り更に驚愕することになる。
「何・・・・だと!」
「・・・嘘・・・・」
「・・・・・・・・」
3人のエルフの前から消えたソウマは既に彼等は疎か追跡者の魔物すら通り過ぎており魔物はすれ違いざまにソウマに首を刎ねられて絶命していた。
「で、アンタら3人はこんな所で何をしていたんだ?」
ソウマは悠然と《聖王竜剣》を肩に担いで茫然としている3人に訊ねた。
※※※※
ソウマ達は今シルヴィアの影から出した家の中にいる。取りあえず落ち着いて話を聞く為にこの家を出した。家の外では魔獣や魔物達が家の中のソウマ達を襲おうと群がっているがどれだけ爪や牙を立てても魔術を打ち込んでも家の壁には傷一つ付かない。それどころか一切の振動や音すら遮断している。
「・・・・信じられん・・・」
エルフの男は窓の外から見える光景に再び茫然としてしまう。
「それで、改めて聞くがアンタ等3人は何で【死の領域】のこんな奥に居たんだ?悪いがアンタ達の実力じゃあここの奴等の相手をするのは厳しいはずだ」
「・・・・・・・」
「何か訳が有るのでしょう?貴方達の眼は欲や名声を求めている者の眼ではないわ。何か別の目的があってここに来たはずよ」
ソウマもシルヴィアも3人が落ち着いたのを見計らって再度目的を訊ねる。エルフの3人は互いに視線を交差させる。そして頷き合うと改めてソウマ達に向き合った。そして代表して最初にエルフの男が口を開いた。
「まず最初に助けてくれたことに感謝する。あのままであれば我等は全員か若しくは誰かが犠牲になっていただろう。私の名はダガ」
「私はサーサ」
「私はナルス。私からも感謝を言わせてください」
3人はそれぞれ名を名乗り感謝を表す為に頭を下げる。
「我々がここにいた目的は・・・・・金を作る為だ」
「金を?」
「大金が必要なんだ」
ダガは拳を強く握りしめる。他二人も唇を噛んで悔しそうにしている。
「我々の里の仲間が帝国に攫われた・・・・」
「里の外に薬草を積みに出ていた時に帝国の者に攫われたようです」
「姉妹なのですが姉の方は戦士でしたが恐らく幼い妹を先に捕らわれてしまい抵抗が出来なかったのでしょう」
「確か大陸の暗黙の了解でエルフやハイエルフ等の上位種族を攫うのは禁止のはずよ。彼等は仲間意識が強く一人を攫うと種族全体から恨みを買う事になるわ」
エルフやハイエルフはこの世界の管理者と呼ばれる程に重要な役目を負った種族である。それをいたずらに迫害・誘拐しようものならば大陸中の国や種族から非難を浴びることになる。故に如何に帝国といえども他種族を忌み嫌ってもエルフだけには表立って手を出していないのだ。
「まあそれも建前だろう。エルフは裏で高値で取引されるから代償を冒してでも手に入れたい奴もいるだろうさ」
「それで何故金を必要とするの?恐らくは金の使い方は攫われた仲間を取り戻す為なのでしょうが普通に取り返そうとは考えないの?」
シルヴィアの問いにナルスが落ち着いて答える。
「それでは万が一にも関係の無い人族が犠牲になるやもしれません。確かに仲間を攫ったのは人族かもしれませんがそれでも全ての人族を憎むのは間違っています。彼等の法で正当に取り戻せるならそうすべきです」
それは確かな信念を持った言葉だった。恨みを忘れずに飲み込むことは言う程簡単な事ではない。それを飲み込んであえて純粋に仲間を取り戻そうとする心にシルヴィアは少なからず感心する。だが・・・・。
「無駄だろうな」
ソウマはそれを非情にも斬り捨てる。
「お前等の心意気は立派だ。正直俺も頭が下がる。帝国の連中にも見習わせたいくらいだ。それでも、だ。仮にお前達がその姉妹を買い戻すだけの金を用意したとしても奴隷商人共に言いように利用されてお前らが掴まるだけだぞ。それでなくとも結局血は流れる」
「そんな・・・・・・・」
「それに恐らくだがそのエルフの姉妹が攫われてからもう結構な日数が経ってるだろ?だったらもうほぼ間違いなくその姉妹は最悪別々の奴に買われてるはずだ。そうなったらお前らがいくら金を用意したとしても通り返すことは無理だろうな。物理的手段で取り返そうとしてもエルフを秘密裏に買うような奴は間違いなく帝国上層部の貴族なんかだ。取り返すことも正直お前等の実力じゃあ犠牲無しも難しいだろうな」
彼等は悔しそうにする。彼等とて弱いわけではないが厳重な警備を掻い潜って攫われたエルフを救出することは不可能だろう。そうなっては帝国側も報復に動くことになる。そうなれば関係ない人族どころか同族のエルフにまでも累が及ぶことになる。
「我々はどうすれば・・・・・・・」
「ソウマ・・・・・・」
ダガ達3人が絶望師様な顔になり話を聞いていたシャルロットも不安そうな顔でソウマを見る。アイスも同じエルフとして内心ではどうにかしたいと考えているようだ。
「貴殿の言う通りだろうな。私は以前に帝国の【十騎聖】の戦いを目にしたことがある。それに帝国兵の練度も確認したことが有る。奴等帝国の亜人差別は許せんがその練度は本物だろう。伊達に軍事国家を名乗っていない。我々だけで帝国兵の護る王都から仲間を救出するのは困難だろう。もし救出に成功したとして【十騎聖】が攻め込んで来れば我等の里は抗えぬ。奴らの実力は間違いなく人族でも最高峰だろう」
「帝国の奴らは世界の秩序とかは特に考えない馬鹿が皇帝してるからなぁ」
ソウマは頭を搔きながらダガの言葉を肯定する。
「貴殿なら・・・・・・」
ダガは少し言い難そうに口を開く。
「貴殿達ならば可能なのではないか?貴殿とそこの・・・恐らくはかなり高位の吸血鬼であると見受けられる貴殿は相当の実力を持っていると見た。見れば他の御連れも竜人様と同胞のエルフとその神聖な魔力はハイエルフ様までおられる」
エルフとハイエルフの見分け方はその魔力で判断できる。この世界においてはハイエルフ以上に神聖で澄んだ魔力を持った種族は存在しない。少しでも魔力を感じられるものならば一目で判断できるのだ。
「私は純血じゃないよ。そんなに畏まられても困るな」
「それでもそれ程の精霊に慕われておられる。私も過去ハイエルフには幾人も会って来たが貴女ほど精霊に慕われている方は見たことが無い。そしてそんな貴女やそこのエルフ殿が同行している貴殿ならば十分に信用に値すると考えている」
そう言うとダガと他二人が立ち上がりソウマ達に頭を下げる。
「会って間もない分際で図々しい事は重々承知している。しかし、それでも我等には今は藁にもすがりたい気持ちなのだ。どうか、どうか我々に力をお貸し願いたい!」
3人は額をテーブルに擦り付けんばかりに頭を下げる。ソウマは腕を組んで視線を仲間達に向ける。シルヴィアは微笑みを浮べナーバは自信に満ちた笑みを浮かべている。シャルロットとアイスはどこか懇願するような表情でソウマを見ている。ソウマはそれらを見て口元を緩めて笑みを漏らす。
「まあ事情だけを聞いてはいさよならって言う程俺も鬼畜じゃねえ。それにうちの連れ二人も気持ちも無下にしたくないからな。それになにより・・・・・・・」
そう言ってソウマは実に意地の悪い笑みを浮かべた。
「俺、帝国嫌いなんだ。あいつらを困らせていい正当な理由が出来るんなら俺としても願ったりだね」
その笑みと言葉に3人のエルフは呆けてしまう。
「そんな理由で一国を敵に回すことに笑みを浮かべるとは本当に貴殿は大したものだ」
「あ、有り難うございます!」
「有り難う!」
「さて詳しい方策は先に俺達の用事を済ませてからにしようか。お前さん達も一緒に来てくれ。一応信頼できる奴が帝国にいるからそこで改めて話をしようか。流石にそいつ抜きで帝国で暴れるのも悪いからな」
「暴れるのは確定なのね」
シルヴィアが面白そうに笑っていた。
良いお年を~




