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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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50話 孤児院の依頼

 突然だが、人には勢いというものがある。気分が異様に高揚したり理性では制御できないような怒りや憤り、又は喜びを感じた時に人はその感情の赴くままに本人も茫然とするような行動をとってしまう。つまり何が言いたいかというと・・・・・・・・。


「わあ~~~~~~~」


 シャルロットが感嘆の声を上げて前方に広がる光景を凝視する。


「・・・・・・・・はあ」


 アイスが呆れと驚嘆と諦観を全て内混ぜにしたような溜息を吐く。その氷のような表情も今は疲れが見えるかのようだ。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


 そしてその二人の前にはどこか茫然とするようなソウマ・シルヴィア・ナーバが立ち尽くしていた。


「凄いね~~~!」


 シャルロットは今度はその場で両手を上げて楽しそうに前方の更地と化したかつての帝国の王城・・・・・・・・・を見ている。


「・・・・・何故こんな事になったのでしょうか・・・・・・・」


 アイスが光を失いどこか虚ろな瞳を跡形もなくなった帝国の象徴に向けている。そしてその惨状を作り出したであろう元凶三人は・・・・・・・・。


「・・・・・アレ?」

「・・・・・アレ?」

「・・・・・アレ?」


 三人仲良く訳が分からないと言ったように首を傾げた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」


 そして再びアイスの深い深いため息が辺りに響き渡った。

 

 ※※※※

 時間は大分遡る。ソウマ達は冒険者ギルドで受けた依頼場所である孤児院を目指して歩いていた。


「随分と王都の外れの方にあるんだな」


 ソウマはギルドで渡された地図を見ながら孤児院を目指していた。地図を見ながら歩くソウマ達は段々と街の喧騒から遠ざかり薄暗い路地の奥を進んでいた。


「治安の良さそうな帝国の御膝元もこういった街の外れではその限りではないですね」


 アイスが周りを見渡す。薄暗い路地裏には身なりの良くない者達がそこかしこで屯している。


「強者こそ全ての帝国なら当然こういう輩が増えることになるだろうさ」


 強さを至上とする以上は当然の事強者に敗れ奪われた側である敗者もいることになる。ここにいる者達のほとんどはそんな敗れた側の者のようだ。


「まさに帝国の闇の部分な訳ね」


 シルヴィアがシャルロットを不躾な者達から守るような立ち位置で歩いている。しかしシルヴィアにはそれ以上の視線が集中しているのであまり意味があるとは思えなかった。


「少し怖い」


 シャルロットがシルヴィアの背中にしがみ付くようにしている。


「下らない連中ダ。全員が負け犬の眼をしていル」


 ナーバは鼻を鳴らして悠々と進んでいる。


「まあここにいる以上はほとんどがそうなんだろうがな」


 ソウマは苦笑いをしながらも視線は周囲をしっかりと観察している。この路地裏に足を踏み込んでからシルヴィア達女性陣に対して不埒な事を考えた者は少なからず存在した。身なりの良い者の身包みを剥いで金銭を得ようとしそれが女性なら己の欲望をぶつける。それが帝国の掟によって敗北者に落ちた者の末路ともいうべき姿である。


エテルニタ王国うちとは大分違うんだね」


 シャルロットは周囲を見回しながら自分の故郷との違いに驚愕する。


「治安と言う点では我がエテルニタ王国は大陸一と言われています」


 アイスがその氷の美貌に若干の誇らしさを滲ませて言う。現王国騎士団長として国の安全と治安を預かる者としての自負も有ったのだろう。


エテルニタ王国うちは少し特殊だから。アウロは王国の兵士を常に国中の村や街に配置・巡回をさせていたしラルクも兵士から上がってくる案件ならどんな些細な事でも逐一耳に入れるようにしていたわ。当然アウロもそれを報告されて耳に入れている」


 シルヴィアの言葉にアイスも頷く。


「それにアウロ王は国の防衛をラルク様の張った結界に一任して国中の治安維持にほとんどの兵を割いています。国境には最低限の兵士を配置して入国する者だけを王城に報告させています」


「しかも国中にラルクの使い魔や私の影を散りばめて情報を集めていたから不穏な動きも直ぐに察知できたしね」


「今はシルヴィア姉様が居なくても大丈夫なの?」


「エテルニタ王国位なら今のラルク一人でも十分に賄えるのよ。もともと私が協力していたのもラルクが少し楽になる程度の協力だったしね」


「国全体に配置できる程の使い魔を使役すると言う時点で上級魔導士ですら正気の沙汰ですけどね・・・・・・・」


 この方法を取り出したのは実はソウマが封印された百年前からである。結界だけでは対策不十分と考えたラルクが行ったもう一つの方策だった。どんな些細な事も見逃さないようにとの配慮である。


「まあ帝国は治安維持よりも兵力強化の方に指針を置いてるからな。というかこの様子を見れば興味も無いのかもな」


 周囲の無法者達は先程からソウマ達に襲い掛かろうとしてそれが出来ずに足踏みするということが続いていた。それはソウマやシルヴィアやナーバの無意識に放つ強者の気を男達が感じ取っていたからである。このような場所に落ちてきた者達が生き残るのに最も必要な能力は襲う相手の力量を正確に見切る能力だ。でなければ襲い掛かった瞬間に返り討ちに会ってしまう。故にこそ初見の相手の力量を見る事こそが最も生き残るのに必要なのである。その彼等の本能にまで刷り込まれた能力が過去最大減の警鐘を鳴らしているのである。目の前に居る見た目こそ極上の女とそれを連れた男は獲物などでは断じてないと。


「どうやら着いたみたいだな」


 そうこうしている内にソウマ達は目的地である孤児院に辿り着いたようだ。結局ソウマ達は一度も襲撃を受けることなく路地裏を抜けることが出来た。抜けた路地裏からはせめてこれだけはというように粘つく視線だけは飛んできている。


「何でこんな王都の外れに孤児院が有るのかと思ったが・・・・・・・・」


「これなら、納得ね・・・・・・」


 ソウマ達が辿り着いた孤児院の建物は少し古い一軒家のようだった。しかし大きさはそれなりにありどうやら古くなり誰も住まなくなったものを孤児院として利用しているのだろう。しかしそれ以上にソウマ達の注目したのは・・・・・・。


「人族の孤児院ではなく他種族の子供の孤児院だったのですね・・・・・・・・」


 そう、どうやらこの孤児院は人族ではなく他種族の子供を収容する孤児院のようで表で遊んでいる子供達の頭には様々な形の耳を生やした子供達がいる。ほとんどが獣人の子供だがなかにはエルフの子供もいる。

遊んでいる子供達は動きを止めてやってきたソウマ達を珍しそうに見ている。


「よう、坊主」


 ソウマはそんな子供達の中で一番年上と思しき少年に話しかける。


「な、なんだよ兄ちゃん達は!」


 頭に犬耳を生やした少年は後ろの年下の子供達を後ろに庇いながら初めて見るソウマ達に警戒心をあらわにする。ソウマはそんな少年の態度に思わず苦笑する。


「兄ちゃん達は少しお前達の家に用事が有って来たんだ。誰か大人の人が居ないかい」


「・・・・・・・・・家の中に院長先生がいるよ」


 ソウマの敵意を感じさせない顔に少し警戒心を解いた少年はソウマの質問に素直に答える。


「ロウ、どうかしましたか?」


 すると少年の声が聞こえたのか一人の女性が孤児院の中から出てきた。女性は歳は二十代前後に見え少し顔がやつれて疲れて見えるがそれでも十分に整った容姿をしている。そして女性の露出している顔や二の腕には所々に鱗が見えている。その眼は縦長の瞳孔になっており爬虫類を思わせる。


「責任者の院長は鱗人か・・・」


 ソウマがそう口にする。鱗人とはその肌と瞳の特徴から竜人と勘違いされることが多いがその特徴は完全に異なる。鱗人には竜人のように背中に翼を生やして飛ぶことも出来ないし尻尾も存在しない。しかし竜人程ではないが高い身体能力を持ち戦士を志すものが多い戦闘種族でもある。


「あの・・・・・この孤児院になにか御用ですか・・・・・・?」


 鱗人の女性は犬族の少年と同じようにソウマ達に若干の警戒心を抱きながら訊ねる。しかし視線はむしろソウマよりも後ろの女性陣に注がれている。


「俺達は怪しい者じゃあない・・・・・なんて常套句をいっても説得力は無いな。簡潔に言うと俺達はギルドの依頼を受けてやってきた冒険者だ」


「あ・・・・・!」


 その言葉に鱗人の女性は驚きの顔から次いで喜びの表情に変わった。


「冒険者の方ですか!これは失礼しました!どうぞこちらに」


 ソウマ達は鱗人の女性に促されるままに孤児院の中に入った。


 ※※※※

「どうぞ」


 ソウマ達は今孤児院の一番広い部屋・・・・一軒家で言う所のリビングのある位置の中心にある恐らく子供達が一緒に食事する大きな机に向かい合う形で座っている。ソウマ達の前には鱗人の女性サリカから出されたお茶が置かれている。


「安物のお茶しかなくて・・・・・・・」


「気にしないわ。お茶は高価なのも大事だけれど入れ方でも十分に美味しくなるわ。・・・・・・・うん、美味しい」


「・・・・有り難うございます」


 シルヴィアの言葉にサリカは恐縮したように顔を赤くする。そしてシルヴィアの美貌とそのお茶を飲む所作のあまりの美しさに思わずため息をこぼし更に顔を赤くする。


「あーそれで依頼内容を詳しく教えてもらっていいか?ギルドじゃここで詳しいことを聞けって言われたんだ」


 ソウマの言葉にサリカはハッとしたように正気に戻る。


「すいません。実は私はここで子供達の面倒を見ていますが実質的な責任者は私ではありません。現在その責任者に連絡をとって此方に来ていただいているのでもうしばらくお待ちください」


「分かった」


 ソウマがそう言うとサリカは今度はチラチラとナーバの方を気にし出す。ナーバは手持無沙汰なのか初めて見るソウマ達に興味津々の子供達に尻尾で遊んであげていた。子供達はナーバの尻尾につかまり持ち上げられたりして嬉しそうに笑っている。



「あ、彼方達あんまり失礼な事をしてはいけませんよ」


 サリカがそれをみて慌てて諫めようとする。


「気にするナ。私も子供は嫌いではないからナ」


「(根が単純な分波長が合うのか?)」


「何か失礼なことを考えていないカ?」


「イヤ、ベツニ・・・・」


 睨まれたソウマがあからさまに惚ける。ナーバの言葉を聞いてもサリカは恐縮しているような素振りを見せる。


「あのお姉ちゃんどうしてあんなに気にしてるのかな・・・・・・・?」


 シャルロットが隣のシルヴィアに小声で問い掛ける。


「彼女達鱗人は別名を亜竜人といって竜人と祖を同じくする種族らしいのよ。でも何かの理由で彼等の血は薄く竜人程のちからを持っていない。だから彼等は肌に多少鱗が出る程度の変化しかないのよ。だからこそ彼等は自分達とは違い完全な竜人達を深く崇拝しているのよ」


「へえ~」


「一説によれば長い年月他種族と交配を重ねた結果血が薄まったといわれているけれどね」


 本来は竜人はハイエルフと同じく上位種族の為に他種族と交わったとしてもおいそれと血が薄まるという事は無い。しかし稀に突然変異のように極端に血が薄まる子供が生まれる場合も実は存在する。そういった子供を正式名称で混血児というのである。他のシャルロットやライハルト達のことは混じり者と言う。


「鱗人達はこの混血児たちの子孫とも言われているのよ。その所為で一昔前ではそれを理由に迫害されたりしたわ」


「・・・・・・・ちょっと他の人と違うだけでイジメるなんて可哀そう・・・・・」


 シャルロットが悲しそうな顔をする。それをシルヴィアは優しく頭を撫でる。


「でもその迫害も竜人たちの御かげで無くなったの。彼等竜人族はナーバ達竜族と同じく誇り高く思慮深い一族よ。そんな下らない理由で迫害なんかしないわ。かつて彼等が一度大々的に鱗人を自分達と同じ種族と認める宣言をしたの。それから表立って彼等を迫害する者は減ったわ」


「良かったね」


 シルヴィアの話を聞いてシャルロットの顔に笑顔が戻った。


「そして竜人達の高潔さに深い感謝を抱いた彼等は自分達を竜人と同じに見られるのは畏れ多いと自分達の事を亜竜人や鱗人と呼ぶようになったの」


 だからこそサリカのナーバに向ける視線も納得できるものである。当然ナーバは竜人ではなくそれに更に祖とされる竜族ではあるが見た目にはそれを判断できないので仕方ないだろう。


「すげ~姉ちゃんこの尻尾力強いんだな!」


「お姉ちゃん鱗がきれ~い触っていい~?」


 しかし子供達はそんなことは意にも介さずナーバに寄って行く。


「お前を持ち上げる位訳はないゾ。乗って見るがいいゾ。掌で良かったら触っても構わんゾ」


 ナーバは笑顔のまま子供達をあやしている。見ればナーバだけでなくシルヴィアはエルフの女の子を膝に乗せて髪をすいてあげている。シャルロットはいつの間にか庭で子供達と一緒にはしゃいでいる。アイスだけはその冷たい印象から子供達は近づけずにいる。それに内心アイスが落ちこんでいる。


「あ・・・・・・・・」


 サリカはそれを見て思わず茫然としてしまう。


「気にするな。うちの連中は一々細かい事で目くじら立てたりしないよ」


「彼方は珍しい人ですね。この帝国領内で他種族の女性を複数人連れて歩くなんて・・・・・・・」


 それにソウマが肩を竦める。


「それを言ったらこの孤児院こそ珍しいモノだろう。人族至上主義の帝国内で他種族の子供の孤児院を経営する、ましてや他種族の大人が面倒を見ている。よほどの訳有りと強力な後ろ盾が必要だ。裕福には見えないが他種族が帝国のこんな場所で無事に孤児院を経営するには強力な後ろ盾が絶対必要だな」


 事実ソウマ達がこの孤児院の敷地内に足を踏み入れてから路地裏で感じていたような視線を感じなくなっていた。明らかにこの孤児院周辺に近寄ることを避けている様子である。


「まあアンタがそれなりにやる・・ってのも理由なんだろうが・・・・・それだけだとやっぱり説明がつかない」


 ソウマは最初にあった時からサリカの佇まいを観察してかなりの戦闘経験を積んでいることは分かっていた。さすが戦闘特化の鱗人といえるだろう。そこらの腕自慢のゴロツキ程度では相手にもなるまい。しかしそれでもソウマの納得には繋がらない。


「アンタの雇い主、もとい孤児院の責任者とやらは帝国の貴族のなんかかい?道楽かなんかでこの孤児院を経営しているのかそれとも変態貴族に子供を売りつける為に育てているか・・・・・・・」


「そんなことはありません!」


 ソウマの言葉を遮るように言葉が響く。サリカが机を両手で激しく叩き叫ぶように言葉を吐きだしたのだ。その剣幕に孤児院は一瞬静まり返る。しかしソウマはそのサリカの態度に慌てる様子を見せずに座っている。


「だろうな。冗談だ許してくれ」


「・・・・・いえ、私の方こそ・・・」


 一瞬動きを止めていた子供達もその後すぐに遊び始めていた。


「サリカ!冒険者が来たのか!」


 すると玄関の方から慌てたような男性の声が聞こえてきた。その後にドタドタと此方に向かってくる音が聞こえる。そしてソウマ達の居る部屋に現れた男性は三十台と思しき精悍な顔と体つきをした偉丈夫だった。鎧を着てはいなかったがその腰には自らの身長以上の反り・・・・・・・のある長刀・・・・・が下げられている。その鍛え抜かれた体と雰囲気はまさに歴戦の武人を彷彿とさせる。その顔が今は驚愕に彩られている。その視線はソウマ達・・・・・正確にはエルフの女の子を膝に抱えたシルヴィアに注がれている。


「どこかで会ったかしら?」


 シルヴィアがいつもとは違い真面目な顔で問い掛ける。その理由は男の視線の感情には純粋な驚愕だけが有ったからだ。


「もしや貴女はSS冒険者のシルヴィア様ではあるまいか?」


「・・・確かにそうよ?」


 次いで男性はソウマに視線を向ける。


「ま、まさかこの御仁は・・・・・ソウマ・カムイ殿か?」


「確かに俺はソウマ・カムイだが・・・・どこかで会ったか?・・・・いや、お前・・・・その腰の剣は・・・・・」


 すると男性は突然ソウマ達の目の前でいきなり土下座を敢行したのだった。


「は?」

「は?」


 そのあまりの見事な土下座といきなりの行動にソウマとシルヴィアが驚く。


 ※※※※

「自己紹介が遅れました。私の名前はオラソ・コラロといいます」


「・・・・・・コラロ?」


 オラソが名乗った名前にソウマが思わず疑問を浮かべる。見ればシルヴィアもどこか聞き覚えがあるのか考え事をしている。


「昔にソウマが帝国ここで一緒に遊んでた御爺ちゃんと同じ名前だね」


 するといつのまにか子供達と一緒に家の中に入っていたシャルロットがそう言った。


「ああ・・・・・そう言えば、確かに昔に帝国にいた【十騎聖】の親子の性も確かコラロだったわね」


「そうか、どうりで見覚えがあると思ったがその腰の刀は《秋月》だったのか・・・・・」


 ソウマとシルヴィアがシャルロットの言葉に納得顔になる。そしてそう言われればどこか見覚えのある面影を残す偉丈夫を見る。


「つまりおっさんはガラの爺さんとギドの血縁って訳か」


「はい、私はコラソ家の英雄ガラ・コラソから数えて五代目になります」


「つまり彼方はギドの曾孫ということになるの?」


「はい」


「良く俺等のことが分かったな」


 そう言われてオラソはどこか懐かしむような誇らしい様な顔をする。


「私は幼い頃によく曾祖父たるギド・コラソに良く寝物語に聞かされたのです。恐ろしくも美しい吸血姫と全ての魔道を極めた大賢者、そして世界最強の男の話を・・・・・・・」


 そう言ってオラソはソウマとシルヴィアを見る。


「一目で分かりました。その尋常ならざる美しさと強者としての圧倒的な佇まい。そしてそんな貴女がまるで全てを預けるかのように信頼を向けている方こそソウマ・カムイ殿だと」


 一目でシルヴィアとソウマの実力とその間にあるモノを看破するオラソもまた超一級の武人と言えるだろう。


「俺としてはただ自分が楽しんだだけって印象が強いんだけどな」


 ソウマが頬を搔きながら苦笑を浮かべる。


「・・・・・・曾祖父は話の最後に何時も決まって同じ言葉をそれは嬉しそうに言っていました。『自分はこの世で一番強い男と闘ったんだぞ』と、その顔は幼い私から見てまるで同い年のように無垢な笑顔でした・・・・・・・」


 ソウマもシルヴィアも何も言わなかった。ただ少し照れたように少し冷めてしまったお茶を口にした。


「まあ話が逸れたが依頼の話を聞こうかな」


 ソウマが咳払いをして本題を切り出した。


「そうですね。しかしここで貴方達がこの依頼を受けてくれたのはまさに私達にとって天恵といえるでしょう。本来なら普通の者では命すら危うい依頼ですが貴方達ならば必ず果たして頂けるでしょう」


「ん?命の危険が有るという事は何かの討伐か素材の依頼なのか?」


「ええ、とある素材を捜して頂きたいのです」


「依頼を受ける立場の俺らが言うのも何だがお前の実力ならそこらの冒険者を雇うよりもよっぽど確実だっただろう」


 そう言うソウマにしかしオラソは少し気落ちする。


「お恥ずかしい話私でも少々荷が重い仕事なのです。今回もし依頼を受けた冒険者が居た場合はそれなりの報酬を用意して話を内容を聞いてから断るのも自由でした。今までこの依頼を受ける為に来た冒険者はそれなりに居ましたが内容を聞いて皆断りました」


「・・・・・・依頼内容は?」


「まずは此方に・・・・・・」


 するとオラソは立ち上がりソウマ達をある部屋に案内する。孤児院の建物の一番奥にある個室だ。扉を開けたその部屋にはベッドと直ぐ傍の小さな机と以外は何もない簡素な部屋だった。そしてそのベッドの上には一人の小さな少女が静かに眠っていた。


「これは・・・・・・」


 アイスが若干息を飲む仕草をする。その少女は見た目の特徴から猫獣人の少女のようだ。ようだと言うのは少女は全身が黒い羽根で覆われていたからだ。体全体を覆う様に手足や体だけでなく顔からすら黒い羽根が生えている。頭部から辛うじて耳が見えることから猫獣人という事が分かる。


「堕天病か・・・・・・・しかも末期に近いな」


 ソウマがそう口にする。


「堕天病・・・・私も目にするのは初めてです」


 アイスがそう口にする。


「堕天病って何なの?」


 シャルロットが痛ましそうに少女を見ながらシルヴィアに訊ねる。


「堕天病というのは見た通り全身に黒い羽根が覆い死をもたらす病気よ。最初は体のどこかに数本白い羽根が生える。それが徐々に数を増やしていき全身に現れ出すのが第一段階よ。そして発症した者はそこで急に体調を崩すこれが第二段階。それから体から生えた羽は徐々に黒く染まっていく。そして最終段階で全身の羽が漆黒に染まった時に発症した者は死亡するのよ」


「そんな・・・・・・」


「見た所その子の進行段階はかなり末期ね。持って十日と言った所ね」


 シルヴィアは少女の様子を見て冷静にそう判断する。


「この子・・・・・ミナが倒れたのが三か月前・・・・・それからここまで様々な方法で治療を試みてきましたがどれも目立った効果を表さず精々がこの子の症状を緩和する程度でした。そしてこの堕天病を治す方法が分かりその為の素材の名前と生息場所が分かったのが二か月前です。しかしその場所は・・・・」


「堕天病を治す為の薬草・・・・・神冥草。そしてそれが生息する唯一の場所が・・・・【死の領域】の森の中だけだ」


「ソウマ殿はご存知でしたか!」


「確かにこの依頼は並の奴じゃあ生きて戻るのも難しいな。例えお前でも神冥草を持ち帰るのは厳しいだろうな」


「・・・・・はい」


 オラソが悔しそうに唇を噛む。


「【死の領域】・・・・・大陸各所に数か所存在する何人も立ち寄らせない死の大地」


 アイスが深刻な顔をする。


「大陸のあちこちに存在する瘴気が途轍もなく濃い領域によって通常の生物は一切立ち寄ることが出来ず、更にその地で変質した凶暴な魔獣・魔物達が跋扈する過酷な地ね」


「別名は神々に見捨てられた地だナ」


「そしてそこで育つのが瘴気を吸ってそれを吸収・浄化・栄養にするのが神冥草。そして堕天病は体内に瘴気が蓄積されて発症する稀な病気。つまり神冥草を煎じて飲めば体内の瘴気は浄化されて堕天病は完治する」


「そこで変質・生息する生物は時に下位の竜種ですら捕食の対象になる程の強さだと聞きます。相当の実力者でもまず生き残ることが困難な地獄・・・・・」


 皆が口々に【死の領域】について口にする。それを聞くたびにオラソとサリカの表情が沈んでいく。


「皆さんの仰る通り【死の領域】は未だ未熟な私では生き残る事すらが難しくましてや【死の領域】の森深くにある神冥草を入手するなど・・・・・・・・・。唯一の望みが隠密行動に長けた冒険者などに神冥草を入手できないかと・・・・・それが出来なければ私が命を賭けて・・・・・」


 その言葉をサリカが遮る。


「駄目です!もし貴方に何かあればこの孤児院は・・・・私は・・・・・・」


「サリカ・・・・・・・・」


 サリカは目に涙を溜めながらオラソの服にしがみ付く。その様子は主従関係というよりはむしろ・・・・・。


「それじゃあ早速明日には取りに行くか。一応今日は準備の為に近くに宿を取らしてもらう」


「!」


「行って頂けますか!」


「まあ依頼の内容的に受けない理由は取りあえずないな。一応知っている奴の身内だしなにより・・・・・」


 ソウマは視線をベッドに向ける。そこには少女に寄り添いながら優しく少女の額を撫でるシャルロットの姿があった。その姿は普段の幼さの残る雰囲気とは異なりどこか神聖な雰囲気を漂わせている。そして少女の額を撫でる仕草やその視線は普段シルヴィアがシャルロットにするような慈愛に満ち溢れている。


「何よりうちのお姫様が助けてやりたいと思っている。それだけで俺達にとっては助ける理由には十分すぎる。まあ報酬はキチンと貰うけどな」


 シャルロットに撫でられている少女は最初の苦しそうな寝息から次第に穏やかな寝息に変わっていった。


「シルヴィア、帝国領の【死の領域】の危険度ってどの位のもんだっけ?」


「どこも似たようなものではあるのだけれどここのは確か生息する生物が特に凶悪な傾向にあったわね」


「私はまだ【死の領域】の生物とは相対したことはありませんがその脅威は幾度か耳にしたことがあります」


「【死の領域】に生息する生物はよほどの例外を除けば滅多にそこからでてこないから。もし出てくれば人族なら相当の手練れで徒党を組んで対処しないといけないわね。今でいう所の少なくともBランク以上が数十人はいないと餌にしかならないわ」


「かつて数代前の皇帝が軍を編成して【死の領域】を制覇しようと試みたそうですが領域の百分の一も進まぬうちに壊滅したそうです。生き残ったのは僅かな兵と【十騎聖】数名と皇帝陛下のみだったと・・・」


 この世界に生きるほとんどの者にとって【死の領域】とはまさに不可侵の領域なのである。しかし・・・・・。


「あそこに行くのも久しぶりだなー」


「昔は退屈凌ぎに良く入ってたわねー」


「私も暇な時に良く入って遊んでいたナ。しかしあそこの奴らは瘴気臭くて不味イ!」


 ここにはそのほとんど・・・・に該当しない例外が存在したようだ。


「・・・・・・・・・」


「た、頼もしいですな」


 アイスはいつも通りの諦めの表情でオラソは顔が引きつった笑顔で笑っていた。

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