表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
5/72

5話 邪神降臨

「ガラルド・ガイガス・・・・」


 ソウマがそう口にしたのを聞いてこの場で一番驚いたのはシルヴィアだった。


「ガラルド?ガラルド・ガイガスなの?あれが・・・・・?」


 どうやらシルヴィアも眼前の老人の名前を知っているようだがその顔には疑問符が浮かんでいる。


「ああ、間違いない。あいつはガラルドだ」


 すると突然部屋の中、ちょうどガラルドが現れた場所とソウマ達のいる位置の真ん中あたりの位置に直径1メートル程度の魔法陣が出現する。


「これは転移魔術、ラルクか」


 ソウマがそう言ったと同時に魔法陣の上にラルクが現れる。予めマーキングしておいた地点から地点へ転移する八等級の高等魔術である。


「これはこれは、お初にお目にかかる大魔法士ラルク・カイザード殿。いや現在の肩書なら大元帥っとお呼びした方がよろしいかな?」


「別にどちらでも構いませんよ。それで貴方は僕を知っているようですが僕は貴方を知りません。貴方はどこのどなたでしょうか侵入者さん?」


「これは失礼しました。申し遅れました我が名はガラルド・ガイガス。しがない魔術師ですよ」


「ガラルド・ガイガス!まさか・・・・そんな・・・・」


 老人の名前を聞いてラルクは驚愕を露わにする。ラルクは確認するようにソウマに視線を送る。


「ああ間違いないぜ。あいつは正真正銘ガラルド・ガイガスで間違いない」


「そんな・・・生きていたのですか・・・」


 ラルクが信じられないという顔をしている。するとソウマ達の後ろでシャルロットを守るように抱きしめたヘンリエッタ王妃が三人に質問する。


「三人ともあの男が誰だか知っているの?」


 その質問にまずラルクが答える。


「ええ、僕は直接会ったことはないのですが名前は知っています。王妃様2年程前にこの王国に隣接する小さな国があったのを覚えておいでですか?」


「???ええ、覚えているわ、確か人口が一万に満たない程度の小さな国だったと聞いているは、でもなにかしらのお国の事情でその国の王政が崩壊して国民は他国に流れて滅んだと聞いているけど・・・・」


 ヘンリエッタはラルクの質問の意図が分からなかったが記憶の中から情報を思い出し質問に答える。


「ええ、その国で間違いありません。でもね王妃様、その国は王政の崩壊で滅んだのではありません。目の前の男に滅ぼされたのですよ」


「え?」


 ラルクの言葉にヘンリエッタは一瞬理解できなかった。


「滅ぼされた?」


「そうです。当時その国では国内の国民が頻繁に行方不明になるという事件が多発していました。そしてそれが隣国である我が国まで噂が流れてきていたのですが、その時念の為に調べた所奇妙な噂を耳にしまして」


「噂?」


「ええ、その国の宮廷魔術師長が禁忌魔法に手を出している・・・・と言うね」


「!」


 ラルクが何を言いたいの段々理解してきたヘンリエッタは驚愕と恐怖を込めてガラルドを見つめる。

 ラルクの話に先ほどからガラルドは静かな笑みを浮かべて静観している。まるで自分の軌跡を誇るかのように。


「その国の宮廷魔術師長は当時は精々六等級程度の中級魔術師と言われていました。しかし不振に思った僕は自分の直属の密偵を使って徹底的に調べ上げた結果なんと王宮内の者は王を含めて全てその魔術師長の精神魔法にかかっていました。どうやら魔術師長・・・・・ガラルドは自分の本来の実力を外部にはひた隠し自身の目的の為にその国を中枢から掌握して禁忌魔法の実験をしていたのです」


「そう、それを知ったラルクと王はすぐに私とソウマをその国に向かわせたの、問答無用でガラルドの実験を粉砕する為にね。でも・・・・遅かった」


 そこでシルヴィアは悲痛な顔になる。


「遅かった?」


 シャルロットが恐る恐る尋ねる。その振るえる手は必死に母であるヘンリエッタの服を掴んでいる。


「私とソウマが着いた時には既にガラルドの実験中の禁忌魔法がすでに発動していたの。そしてその代償はその国の国民全員」


「!」


 シルヴィアの言葉に今度こそヘンリエッタとシャルロットは絶句する。


「そうあの男は当時の自分の住んでいた国の国民全てを禁忌魔法の犠牲にしたの」


「一体そんな大それたことをしてなにをしようとしたの?」


 ヘンリエッタは震える声でそれでも言葉を紡いで目の前の男の正体に迫る。


「邪神の召喚だ」


 ソウマが一息に答える。


「そんな!不可能だわ。邪神とはいえ神を直接下界に召喚するなんて・・・・・」


 ヘンリエッタは驚愕を露わにする。

 この世界でいう所の神とは通常とは違うここよりもさらに高次元に存在する高次元生命体を指す言葉である。彼ら神は様々な形で持って此方の世界に干渉してくる。大陸各地にはかつてのそ姿を見せた神達を祭る神殿や彫像などが存在する。当然高次元生命体である彼ら神はこの世界の大半の住人とは比較にならない圧倒的な力を持っている。しかし彼ら神と言われる存在も通常は存在する次元が異なる為にこちらの世界には簡単には干渉できない。


「それが禁忌魔法ならそれが可能なんだ。だからこそ奴は一万人近い人間の命を禁忌魔法の代償に使わなければならなかった」


 そう、彼ら神が此方の世界に干渉・現界する為の方法の一つが禁忌魔法である。神と言われる存在にもいくつか個性のようなものがあり高い知性も獲得している。それは時に人に助言を与えたり更なる英知を授けたりなど様々だがそんな神達の中に人種の命を好んで食らう邪神と言われる類の神が存在する。一説によれば知性ある生命体の方がより得られるエネルギーも豊富であるかららしいが。


「それじゃまさか二年前の突然の大地震は・・・・・」


「そうです、邪神召喚による影響が大地に出ていたのです。奴ら邪神は人の命を喰らいそのエネルギーで持ってこちらの次元の通り道を空けて現界するのです」


「そんな・・・・なんてことを邪神がこの世に顕現することでどれだけの悲劇が訪れるか分かっているの?」


 ヘンリエッタは今度は強い怒りを込めてガラルドを睨む。かつて遙かな昔にも邪神が召喚されるという事が起こったがその時でさえ竜王が邪神を滅ぼすまで相当な数の国や大陸が莫大な被害を被ったと物語に残されている位である。それが再現されようとしていたことにヘンリエッタは恐怖を覚えた。

 するとラルクが小さく笑った。


「ラルク?」


 ヘンリエッタが訝しげにラルクを見る。


「王妃、当時邪神が召喚されたことによる被害が周辺の国や我が国に出ましたか?そしてその場に誰がいましたか?その時その場に誰が居たのかをお考え下さい」


「あ!」


 ラルクの言葉にヘンリエッタはその視線をソウマへと向ける。


「そうだ、我が野望、我が望みはそこの男に無残にも砕かれたのだ」


 すると先ほどまで黙って話を聞いていたガラルドが憎悪を込めた瞳でソウマを睨む。


「まさかソウマ君・・・・・貴方・・・・神殺しまでやっていたなんて・・・・」


 そんなヘンリエッタの驚愕の言葉にソウマは肩を竦める。


「おいおい、王妃さま。大昔に召喚された邪神を倒したのは竜王だろ?俺はその竜王に勝った男だぜ?」


 そう言ってソウマはヘンリエッタやシャルロットを安心させるように笑って見せる。


「それについてはこの私も予想外と言わざる終えなかったよ。まさか・・・・・多少混ざっているとはいえ生身の人間が正面から邪神に勝利するなどとは・・・・な」


 ※※※※


 そこは薄暗い地下の部屋だった。しかし現在はその地下の部屋全体が赤黒い激しい光が満たしていた。


「ちっ、間に合わなかったか!」


「ソウマ!まさかこれは!」


 ソウマが舌打しシルヴィアが焦りを含んだ嘆きを漏らす。

 彼らは現在ある王国の王宮の地下室にいる。二人はラルクにこの国の王宮魔術師長が禁忌魔法の実験をしているとの情報を掴んだためそれを確認あるいは破棄の為にこの国に侵入していた。そして強力な魔力の波動を感知してここ王宮の地下室までやってきていた。


「この波動は!」


「間違いない、野郎邪神を召喚しようとしてやがる!どうやら周辺の町の中や王宮に人っ子一人いなかったのは既に生贄にされちまった後だからみたいだな」


「なんてことを・・・・・!」


 ソウマの言葉にシルヴィアが悲痛な顔になる。


「止められないかシルヴィア」


「駄目よ!術が既に起動してる。他の魔法や魔術ならともかく禁忌魔法は一度発動するとその効果が完全に発動するまで起動式を壊しても術者を殺しても通常の手段では意味はないわ」


「そう、止めるなら発動前に止めないと・・・・ね」


「!」

「!」


 焦りを見せるジルヴィアと厳しい目で魔法陣を見つめるソウマは突然自分達に掛けられた言葉に反応する。すると空間が裂けそこからローブを羽織った中年の男性・・・・・が姿を見せる。


「オッサンは誰だ?」


「お初にお目に掛かる。世界最強の呼び声高き貴公の有名は我が耳にも届いている。そして吸血姫殿、貴方の噂もかねがね、いやはや聞きしに勝る美しさよ。申し遅れた、我が名はガラルド・ガイガス」


「じゃあお前さんが・・・・・」


「察しの通り私がこの国の宮廷魔術師長にして今現在起動している魔法の術者本人だ」


 するとシルヴィアが前に出て厳しめでガラルドを睨む。その眼には明らかに怒りが滲んでいる。


「貴方自分が何をしたか分かっているの?邪神を召喚するなんて下手をするとこの世界が滅ぶほどの危険を孕んでいるとうのに、あれら神は・・・・特に邪神と呼ばれる類の存在はとてもではないけど人間程度では支配も同意も得られないわよ?あれらは自分以外の生命を餌程度にしか思っていないのだから」


 するとガラルドは小さく含み笑いを漏らす。


「何が可笑しいの?」


「いや、あまりにも検討ハズレな読みに思わず笑ってしまってね。支配?同意?そんなことは端からするつもりはないよ。ただ私は見たいのだよ。邪神がこの世に現界する。それのみが重要なのだよ」


「そういうこと?」


「私は邪神をこの目で見てみたい。その姿を!その知性を!その圧倒的な力を!私は間近で見てみたい。それができるなら邪神に殺されることなど取るに足らないことだよ」


 そう言い切るガラルドの瞳にははっきりと狂気が浮かんでいた。


「典型的な力に邪神の力に魅入られた者の目ね」


 シルヴィアが嫌悪の籠った目でガラルドを睨む。すると先ほどから激しく輝いていた光が収まり地下室に静寂と薄暗さが戻る。


「ソウマ・・・・・」


「ああ、お出ましのようだな」


 ソウマは油断なく魔法陣が輝いていた場所を見つめている。シルヴィアもソウマと同じく同じ方を見ていたがその顔にはソウマと違い明らかに焦燥が浮かんでいる。シルヴィアは感じているのだ、眼前に召喚された者は自分よりも位階の上の存在であるということを。


「おお・・・・あれが邪神・・・・」


 ガラルドは自身の術の成功と邪神の姿を見たことの歓喜の表情を浮かべている。


「さて、どんな奴が出てきたか・・・・・」


 ソウマは光により眩んでいた目が徐々にここの暗さに慣れてくることにより召喚された邪神の姿が視界に入る。そこに静かに立っていたのは見た目で言えば二十代程度の青年の姿をした男だった。


「人型か・・・・・」


 邪神の姿は首から上は普通の人間の顔をしているが首から下は全身が真っ黒に染まっている。まるで闇に同化してしまいそうなほどの漆黒に染まったその体は輪郭すらも曖昧に映っていた。


「ははははっははははは。やった、やったぞ。私は遂に邪神の召喚に成功したのだ。これで私の力を世界中が知ることになる。私を認めなかった奴らに邪神の力で持って思い知らせるのだ。あははははははははは」


 ヒュンッ


「あ・・・・・・?」


 それは突然起こった。一瞬風が通ったような音がしたと思ったらガラルドの腕がどさりと地面に落ちる。


「あ、あああああああ?私の腕が?何故?え?え?」


 ガラルド自身己の体に起こったことを認識できなかったようだ。茫然と地面に落ちた自らの腕と無い体の方を見ている。


「これは・・・・がはっ」


 ガラルドはそのまま自身に何が起きたことも分からないまま突然意識を失った。突然増した邪神の重圧に耐え切れなくなったようだ。


「それで?アンタ真名はあんのか?見た所かなり高位の神ぽっいが」


 ソウマが邪神に対して質問すれば、邪神は静かにその視線をソウマに向ける。先ほどガラルドにした行為は邪神にとってハエでも払うような行為だったのかもしれない気絶したガラルドには目もくれない。


「下等種である人間如きがこの私に問いを投げるとは随分と思いあがったものだ。・・・・だが私は今とても気分が良い」


 そう言ってソウマに視線を向けた邪神の瞳は瞳孔が存在せず眼球全体が真っ黒に染まっている。


「良いだろう、貴様の問いに答えてやろう。我が真名はリブール・デイルガ。破壊と消滅を司る神なるぞ」


 邪神リブールが自身の真名を口にした途端それまで発せられていた邪神リブールの圧が一層強くなる。


「・・・・・・・」


「くっ・・・・・」


 ソウマは顔色を変えずシルヴィアは若干耐えるようにその圧を受け止める。


「ほう、貴様等我が真名を聞いてもまだ意識を保っているとは下等種にしてはそれなりに力を持っていると見えるな、まああくまで下等種にすればの話ではあるがな」


「それやどうも、それにしても人型の邪神とは・・・・・あの魔術師野郎よくもまあこんな大物呼べたもんだ」


 神と呼ばれる存在達には決まった姿形は存在しない。どうやらこちら側に召喚される時に自らの力と格に即した姿を自然と取るようだ。そして神達はこちら側に来る時に高位の神である者はほとんどが人型を取る。これは明確な理由は分からないが昔ある一人の神が残した言葉によればかつて彼ら神と呼ばれる者達とこの世界の人種などの生物を創造した存在は同じものであるらしくその中でも人種特に人間はその存在が自らの姿に似せて作ったのが人間であるらしい。そして神達も高位の神になる程にその姿を定める時に自然と創造主と同じ姿になるように成る為に人型の神は総じて強力な個体が多い。


「しかも真名持ちとはな」


 さらに極稀に真名持ちと呼ばれる者がいる。真名持ちとは己の魂の真の名前を自覚した者の事を指す。それは単に自身の名前を名乗るとは違い真名を知るという事は己の魂の真の力も自覚することになる。その力は真名を知る神と知らない神とではその力の差は天地ほども隔たる程である。


「我が力が少しでも感じ取れたかね?ならば無駄の抵抗はやめろ。おとなしく我が供物となるがいい」


「いや、あんたには来てもらった所悪いが早々にあちらにお帰り願いたいな」


「その願いを私が聞き入れると思うかね?」


「思わない。だから力尽くで帰ってもらう」


「力尽く?貴様が?たかが人間如きの貴様がか?笑わせる」


「そういうアンタは良いのかい?あんまりのんびりしていると竜王のオッサンが来ちまうぜ?」


「竜王?ああ、あのいまいましいトカゲ共の王か」


 邪神達が方法がいくつかあれどやすやすとこちら側に来れない理由の一つに古の竜達の王である古竜王ゼファルトスの存在がある。


「竜王のオッサンは邪神連中がとにかく嫌いだからな。お前の気配を察知したとたん飛んでくるぜ?」


「貴様が何故竜王のことを知っているのかは知らぬが要らぬ心配というものだ。我にとって幸いにして竜王の奴は先ほどから動く気配が無い。ここで貴様らの魂を喰らい竜王がここに来るまでに姿を隠し力を蓄えるまでよ」


「それであのオッサンに勝てるとは思えないけどな」


 ソウマはいつの間にか剣を抜いており静かに邪神との距離を詰めている。


「シルヴィア、お前は下がってろ」


「ええ、悪いけどそうさせてもらうわ。悔しいけどあの邪神は私じゃまだ勝てそうもないわ。ここはおとなしく下がることにするわ」


 シルヴィアはそう言うと自分の影に身を沈める。・・・・・ちなみにガラルドは放置である。


「ふん、まあいいだろう。あちらの方は貴様を喰らってからゆっくり追えばいい。あれほど美しい造形をしているのならさぞ魂も美味であろう、吸血鬼の魂は初めてであるしな」


 そう言って邪神リブールはその顔を邪悪に染める。先ほどからリブールの圧は高まり続けている。その圧に耐え切れず城内全体が鳴動を始め崩壊しようとしている。


「さて、始めるか。幸いにしてもうこの周辺・・・・というかこの国には人がほぼ存在しないから被害は建物以外は気にしなくていいからこっちもやりやすい」


「貴様が心配するのは周りの被害ではなく貴様自身の身の心配だろう。もっとも貴様がどのような抵抗を試みようと無駄な事ではあるがな」


「それはやってみないと分からないだろう?人間をあまり舐めてると足元掬われるぜ神様」


「舐める?馬鹿な、貴様等人間は食い物にそんな感情を向けるのかね?目の前にある食い物はただ食すのみだ。そこに食す以外の喜びなど存在しない」


「そうかい、それじゃ分からせないといけないみたいだな。人間もマシなのが少しはいるってことを」


 そう言った瞬間ソウマはリーブルに切り掛かった。


 ※※※※


 シルヴィアは自分の影に身を潜めた後そのまま王宮の外まで脱出していた。現在の位置は王宮から約500m程離れた地点の城下町の外れである。シルヴィアは自分の影から出てすぐに視線を王宮の方へと向ける。


「あの邪神・・・・・間違いなく神話クラスの力の持ち主だわ。・・・・・ラルクがソウマをここに来させたのは正解だったようね」


 そう言った瞬間王宮全体が地下からの凄まじい力によってコナゴナに吹き飛んだ。


「!」


 コナゴナになった王宮の破片の瓦礫の中から二つの影が瓦礫を粉砕して飛び出してくる。


「ソウマ!」


 シルヴィアは思わずソウマの名を呼ぶ。二つの人影は凄まじい速度で攻防を交わしながらさらに瓦礫となった王宮をさらに細かい瓦礫へと変えていく。


「人間にしては中々やるようだな。それも神を相手にするには少々役不足ではあるがな」


 そういいながら邪神リーブルは手の平から直径2センチ程度の球形の黒い物体を数十個発生させ、それをソウマに向かって放つ。


「どうかな?それは最後までやってみないとわからないだろう」


 ソウマ自身もそう言いながら迫る黒い物体を空中の瓦礫を足場にしながら回避する。ソウマが回避した黒い物体の一つが瓦礫の一つに触れるとその瓦礫が黒い物体を中心に発生した2メートル程の膜に包まれたと思うと瓦礫は跡形もなく消滅した。


「えらく物騒な物を・・・・・・分解か?いやありゃ違うな」


「消滅だ。言っただろ?我が司るのは破壊と消滅だと、我が力の波動に触れる者はこの世界から完全に消滅するのだ」


「そりゃやばいな。だったら是非とも喰らわないようにしないとな」


「なに、安心しろ。体の全てを消滅はせんよ、それをしては魂も消滅してしまうのでな」


「なんの安心もできないお気遣いどうも」


 ソウマもリーブルの放つ黒い球体を回避しながら接近して斬撃を放つがリーブルはそれを空中で器用に回避する。それに加えて先ほどからリーブルの放つ黒い球体はどうやら物体に触れないと消えないらしく瓦礫に当たらなかった分は空中に止まり続けソウマの動きを制限していく。


「どうした人間?早く私を倒さないと逃げ場がなくなるぞ?」


 リーブルはそれを実に愉快そうに眺めていく。まるでこの光景が初めから分かっていたかのように。


「・・・・・・・・」


 たいしてソウマは無言になり自身の動きが制限されながらも少ない空間を移動してリーブルに攻撃を加え続ける。その斬撃は一流の騎士であっても視認することも難しい程のものだがリーブルはなんの危なげもなく回避していく。


「はははははは、それでは一生私には届かないぞ?そらそら」


 リーブルはさらに空中に黒い球体をばらまく、これではソウマの動きはほとんど制限されてほぼ正面からしかリーブルに攻撃を加えられない。


「ふっ」


 そしてさらに・・・・。


 ガキィィィィン


 ソウマがリーブルに正面から切り掛かった結果は、ソウマの剣はリーブルの額に当たったがまるで硬質な物体に触れたかのようにその剣がリーブルの皮膚より先に進むことはなかった。


「一抹の希望の味は噛みしめたかな?最初は興が乗っていたゆえに回避などとゆう戦いらしい行動を演出してみたがもう躱すのにも飽きたのでね。通常の武器では普通に攻撃しても我々には届かんよ。せめて教会から祝福された剣でも持ってこないとな」


 そう通常神を相手にする場合普通の武器では彼ら神の肉体にダメージを与えることはできない。肉体・精神・霊格に至るまで神の肉体はこの世界の生物よりも上の位階に存在する。その位階の上の肉体を持つ神の肉体に傷をつけるには武器又は本人に相対した神に対応した霊格・強度が求められる。


「貴様の霊格と武器では私に傷はつけられん。これは初めからこうなる結果の戯れだったのだよ人間」


「・・・・・・・はあっ」


 ソウマはリーブルの言葉には反応せずひたすら無言で斬撃をリーブルに放ち続ける。リーブルはその攻撃をまるで意に介さず回避も防御もとらずただ茫然と立っているのみである。


「見苦しい。もういいだろう人間。貴様との戯れも飽きた。そろそろ・・・ん?」


 リーブルがそんなソウマの行動に呆れと侮蔑を込めた目を向け。ソウマに止めを刺す為周囲の黒い球をソウマに向けて放つ為に腕を挙げよとした時それは起こった。


「・・・・これは・・・・?」


 それは血、リーブルの頬から一筋の・・・・しかし確かに血が流れていた。


「一体何が起こった?」


 リーブルは一瞬理解が遅れる。そして次に起こった出来事で正気に戻る。


「っっっっ!」


 今度はハッキリ感じた。かつてこちらの世界に来たとき竜王に与えられた感触・・・・・それは間違いなく痛みの感覚。見れば己の体の斜めにハッキリと斬撃の傷が出来ていた。


「き、貴様ぁ!」


 己の体に傷を付けた男をリーブルは憎悪を込めた瞳で睨め据える。


「駄目だぜ神様、油断したら。敵の攻撃が効かないのはもしかしたら敵の作戦なんじゃないのか?とか疑わないと。相手が力を隠している場合だってあるんだぜ」


 ソウマそんなリーブルの視線を柳に風とばかりに受け流す。


「己!」


 リーブルはもう問答無用でソウマを始末する気なのかソウマの背後まで迫っていた黒い球体を一斉にソウマにけしかける。


「終わりだ!人間」


「は、笑わせんな」


 ソウマは迫りくる黒い物体に対して後ろを振り返り全てを一瞬の内に真っ二つに切って捨てる。すると黒い球はソウマの剣に当たってもソウマの剣を消滅させずさりとて空中で消滅反応も見せずそのまま消える。


「な!馬鹿な貴様今どうやって私の《消滅の波動》をどうやって消したのだ」


「何って見てだだろ?普通に切っただけだよ」


「馬鹿なことを言うな!私の《消滅の波動》は触れたもの全てを消滅させる死の具現、それを通常の斬撃で切るなぞ貴様がこの私よりも霊格が・・・・・・・!」


「ご明察、武器も普通、攻撃も普通となれば答えは一つ。俺がお前さんよりも単純に霊格が上なんだよ」


 神の肉体や攻撃に対して攻撃・防御を行う場合にはいくつかの方法がある。一つは武器や防具に霊的な付与を施すこと、魔法付与の場合では単純な魔力量で負けてしまい有効でも効果は薄くなる。よって霊的な付与を施す場合は魔術師ではなく聖職者が祝福を施す。その場合も施す聖職者によって武器・防具に宿る霊的付加価値は大きく変わる。もう一つの方法が単純に本人が相対した神よりも霊格で上回ることである。神の攻撃には全て霊的な概念が備わっている。ゆえに本人自身がその神より霊的位階に置いて同等及び上回る場合今ソウマがやったように通常の攻撃で神の肉体を傷つけ神の攻撃を相殺できるのだ。


「馬鹿な人間が霊格でこの私を上回るなどありえん!そも人間ではいかに鍛えたところで魂そのものの霊格を意図的に上げることなど不可能だ。貴様どうやって私よりも霊格を上げたというのだ」


「企業秘密、とは言わないがすぐにネタ晴らししたら面白くないだろ?それに納得いかないならこんなのはどうだい?」


「何!」


 するとソウマはリーブルが放った先ほどよりもさらに巨大な《消滅の波動》に向かって行く。


「はあぁぁぁぁぁぁぁ!はっ」


 ソウマの体を青白いオーラが包んだと思うと今度はそれがソウマの手に持つ武器に流れ武器全体が青白いオーラを発する。ソウマはそれを迷わず《消滅の波動》に向かって振り下ろす。一瞬の拮抗・・・・やがて。


「はあ!」


 真っ二つにする。すると真っ二つにされた《消滅に波動》は先ほどソウマに切られた時とは違いそのまま消えずに一度空中で黒い膜を作りそのまま消えるしかしその効果はソウマまでは届かない。


「な、に」


 リーブルがまたも驚愕に染まった顔でその漆黒に染まった目でソウマを見る。


「今のはれっきとした人間の技だ。己の魔力に闘気を融合させてそれを肉体や武器に宿らせることによって肉体や武器の物理的・霊的な抵抗や効果を上げることができる技さ、これがあれば魔法や洗礼の使えない戦士職にも霊などの霊的存在にダメージを通すことができる。これを《魔装闘武》といってな俺の得意なのはこっちなんだ」


「馬鹿な、その方法では確かに霊的な存在に対してダメージを与えることはできるがそれを私のような神に届かせるには圧倒的に魔力と闘気が足りないはずだ!魔力や闘気を霊格の代わりにするのならば通常の数百倍もの魔力が必要なはずだ。そんな魔力や闘気を持つなど有りえない!」


「実際にできるんだから現実を受け入れな。神様のくせに目の前で起こったことを素直に受け取れないとは情けないぜ」


「己!侮辱するか人間の分際で、魂を喰らうために多少手心を加えていれば調子に乗るなよ人間が!」


 するとリーブルは今度は一旦ソウマと距離を取り手を左右に広げる。そして己の霊格を一気に高める。その霊格の圧に耐え切れず周囲の空間が歪み始めている。やがてその手の平から黒い靄のようなものが出現する。それは徐々に広がりを見せソウマの周りを取り囲みだす。


「今度はどうだ、どこにも回避はできないぞ。しかも先ほどのよりも威力も霊格も格段に上の攻撃だ。貴様の生半可な攻撃は全て飲み込み消滅させるぞ」


「確かにこれはめんどくさいな」


 ソウマはそう言いながらも剣に《魔装闘武》を纏わせながら剣を振り回しながら迫る黒い靄を切り払い続ける。どうやら霊格による防御は本人が面白くないからかあまりやりたくないようだ。


「ははははははははは、随分頑張るなぁ人間。しかしいかに貴様自身がその靄を防げ続けるとしてもいずれは・・・・」


 パキイィィィィィィン


 ソウマの武器がソウマの《魔装闘武》に耐え切れずに砕け散った。


「はっはははははは、そら見たことか貴様の力は確かに人間にしては大したものだが肝心の貴様の武器が貴様の力に着いてこれないみたいだな」


「ちっ、この剣市場で見つけた結構掘り出し物の剣だったのに、やっぱこのレベル戦に耐えるのは無理か」


 ソウマは砕けた剣を空中に放り投げるとその手を地面に付ける。


「何をするつもりだ?諦めてお祈りでもしているつもりか?どちらでも構わん死ね!」


 リーブルはソウマに止めを刺す為に黒い靄を操り四方から一斉にソウマへと襲い掛かる。


「力を示すがいい強大なる竜王の咢から生まれし剣よ《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》」


 ソウマがその名を呼んだ瞬間黒い靄は一瞬にして両断・霧散してしまう。


「何!」


 そしてそのままその斬撃の波動は靄を突き抜けてリーブルの右腕を肩の付け根の部分から切り飛ばす。


「ぐおおおおおおおおおお!きぃぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁ。今一体何をした!?」


 リーブルの切り落とされた右肩の部分からは血ではなく黒い霧のようなものが立ち上る。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ、馬鹿な、傷が、腕が再生しないだと!何故だ!この程度ならばこの私の再生能力で一瞬で・・・・・!貴様・・・・それは!?」


 リーブルはソウマの手に握られた剣を見て驚愕に顔を歪める。その剣から放たれる圧倒的なオーラは剣単体だけでも己の力を遥かに超えているのをリーブルは本能で感じていた。


「まさか!まさかその剣の素材は!」


「お察しの通りこの剣は古竜王ゼファルトスの牙を精霊とドワーフがその技術の全てを込めて作った一品・・・・・らしいんだが俺も実はよく知らねえんだ。ゼファルトスのおっさんと闘った時に俺の愛剣折られちまってな、そのことに文句言ったら後日この剣をくれたんだ。まあ今の俺の全力に耐える貴重な相棒だから今では感謝してるがな」


 リーブルはソウマの言葉があまり耳に入っていないのか切り落とされた肩の部分を抑えながらその視線はソウマの剣から外されていない。


「その剣を持つという事は・・・・・まさか貴様が・・・・まさか・・・《超越者》なのか?」


「なんだ?俺ってそっちの世界じゃそんな呼び方されてるのか?こっちの世界じゃもっと簡単な呼び方されてるぜ」


「?」


「世界最強・・・・・てな」


 ソウマそういうと同時に己の剣を構えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 役不足は…主役級がガヤやってるようなものなので…力不足ではないでしょうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ