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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
48/72

47話 帝国回想①

 皆さん熱中症には気をつけてくださいね~

~約百年前(ソウマ封印前)~

「俺と勝負しろ、吸血鬼の姫よ」


 ここは帝国王都の城内の会議室の中。部屋の中に長方形の長いテーブルが二つ並べられそれぞれ帝国側とエテルニタ側が向かい合う形で席に着いている。その帝国側の席のアウロ王の前にいる男が対角線側にいるシルヴィアに向かって威丈高に言い放っていた。


「彼方と勝負?」


 シルヴィアは男の方に特に視線を向けずに自分の膝に座るシャルロットの頭や頬を優しく撫でながらあやしている。


「そうだ、俺の部下とお前の信頼するそこの男とを勝負させよう。そして俺の部下がその男に勝てば先の俺の提案を呑むってのはどうだ?」


「まるでお話にならない提案ね。そんな私やシャルの気持ちを無視した提案なんて受けるに値しないわ」


「何故だ?どんな女も強い男に魅力を感じるものだ。ならばお前の心許す男より俺の部下が強ければそれを従える俺にそれ以上の魅力を感じるものだ。それが女というものだろう」


「確かにそれも一理あるし否定する気も無いわ。でもそれだけが女の感じる魅力ではないわ。むしろそれのみでしか女を口説けない男は私の趣味じゃあないわ。勿論シャルの相手にも論外ね」


 そういいながらもシルヴィアはシャルロットを優しく抱きしめる。シャルロットはそんなシルヴィアの胸の中でウトウトと船を漕ぎ始めている。


「手厳しいな。それともそこの男が俺の部下に勝てないと思っているからからこの提案を受けられんのかな?」


 男の視線がラルクの隣に座るソウマに向けられる。ソウマはあまり話に集中していないのか欠伸をしながら座っている。男から視線を向けられてもソウマは我関せずという風に欠伸をしている。


「見え透いた挑発ね。それに私が乘るとでも?」


「どうかな?」


「いい加減になされよ」


 するとアウロ王が二人のやり取りを遮るようにやんわりと言葉を挟む。


「ザナス皇帝よ、悪ふざけが過ぎるというものだ」


 ザナス・カイエル・ダナーク、強大軍事国家をその強大な武力と統率力で束ねる絶対権力者である。


「アウロ王を俺はふざけたつもりはない。俺は常に本気だぞ」


「ならば尚の事、他国の者に対していきなりの要求は無礼になりますぞ」


「無礼なものか、良い女がいれば男なら誰でも手に入れたいと思うのは当たり前だろうアウロ王。ましてやそれが最上級の女ともなれば当然だ」


 ザナスは不敵な笑いを浮べてシルヴィアを見る。シルヴィアは現在は自らの顔を隠していない。普段は余計な混乱や騒動を避ける為に隠しているがシャルロットが嫌がるので彼女と居る場合は顔を隠さないようにしている。つまり現在のシルヴィアは文字通りその人外の美貌を衆目に晒しているのである。


「お前ほどの女、たとて人族で無いとしても手に入れる価値がある。しかもその強さも規格外ともなればな。勿論そこのな幼き姫も十分に将来性があると見た」


 皇帝が笑いながら言う。シルヴィアの美貌を見て真面に精神を保てるのをみれば確かに一角の人物なのだろう。普通の者がなんの保護もしていないシルヴィアの美貌を目にすればまともに会話など成立しない。事実皇帝以外の帝国の会談参加者はシルヴィアの顔を一度見てからは何とか目をそらして目にしないように努めている。


「どれ程の美麗麋竺を並べられても私の気は変わりません。ましてや彼方方のような人族以外を奴隷同然に扱うような国にシャルを預けられるわけがないでしょう」


 すると急に部屋の温度が下がった様な感覚を全員が味わった。そして中央の長机が見えない圧力に軋みを上げる。その原因の中心はシルヴィアだった。


「これ以上ふざけた事を言うと言うのなら・・・・・・・この部屋ごと消して差し上げてよ?」


 そう言った瞬間に机に大きなヒビが入る。シルヴィアから発する殺威が更に圧力を増す。


「くっ・・・・・・・・」


 流石の皇帝もシルヴィアの殺威に冷汗を流して意識を懸命に保っている。すると音も無く室内の四人の男性が現れる。彼等が現れた途端に室内に充満していたシルヴィアの殺威が相殺される様に霧散する。


「四人がかりとはいえ私の殺威を相殺するなんて中々やるわね(本気じゃないけど)。見た所彼方達が帝国に名高い最強の騎士達の【十騎聖】で間違いないかしら?」


 そう問われた四人の内その背に巨大な斧を抱えた男が一人歩み出る。


「お初にお目に掛かる吸血鬼の姫よ。確かに我等は帝国に誉れ高き【十騎聖】の一員。私は【十騎聖】が一人【剛斧】のバンズ」


「【戦塵】のカイエス」


「【烈風】のレイ」


「【鉄壁】のロイス」


 それぞれが自己紹介をして礼を取る。しかし体からは隠し切れない闘気が出ており油断なくザナスを護れる位置取りをしている。


「噂に名高き吸血姫にお会いできたのは光栄の極み。しかし皇帝陛下へのこれ以上の無礼は我々も看過することはできない」


「無礼?無礼と言うなら最初に此方に無礼を働いたのは其方ではなくて?」


「皇帝陛下はこの国の皇帝として当然の態度をしたに過ぎない。それに皇帝陛下は条件を出されたではありませぬか、それを無下にした貴女こそが無礼と言うもの」


 その返答にシルヴィアは心底呆れたように溜息を吐く。


「その返答だけで彼方が骨の髄までこの国の人間だと分かったわ」


 この国は人族至上であると同時に皇帝絶対君主制である。皇帝の命令は絶対であり皇帝はまさに神と同等の扱いを受けるのがこの帝国である。


「シルヴィア、落ち着け」


 シルヴィアの雰囲気の変化を感じ取りラルクが宥めようと声をかける。アウロ王はやれやれと首を振っている。


「う~~ん~~~」


 するとシルヴィアの腕の中のシャルロットがむずがるように動く。完全にシルヴィアの腕の中で寝ていたシャルロットだが自身の周りの空気の変化を感じ取り眠りを妨げられたようだ。


「あ・・・・・・」


 それに気が付いたシルヴィアの険呑な雰囲気が一瞬で霧散する。


「お姫様、起きてしまったの?」


「う~~、シルヴィア姉様どうしたの?喧嘩は駄目だよ?」


「大丈夫よお姫様。喧嘩なんかしないわ。まだ眠いでしょう?お眠りなさいな」


「・・・・・・・うん」


 言われてシャルロットは再び瞼を閉じて眠りの世界に落ちていった。そのシャルロットの耳の部分をシルヴィアがそっと影で包む。


「お姫様を起こすわけにはいかないからこれ以上の諍いは私も望む所ではないわ」


 その言葉にラルクとアウロが安堵の溜息を溢す。アウロとシャルロットの護衛の名目でシルヴィアを連れてきたが半分はシルヴィアを御する為にシャルロットを連れてきたのもあるのである。それが見事に成功した形になる。


「其方の要求を呑んでもいいけれど条件はソウマがそれを了承するかどうかによるわ。ソウマは凄く気紛れな部分があるから彼がどういう反応をするかは私にも分からない時があるから」


「俺なら構わないぞ」


 すると突然シルヴィアの横から声が聞こえた。


「ソウマ、起きていたの?」


「ああ、話は大体聞かせてもらった」


 するとラルクが呆れたように溜息を吐く。


「嘘を言いなさい。君はさっきまで本気で寝ていたじゃないか。どうせシルヴィアの言葉の「ソウマが了承するかどうか」の部分しか聞いてなかったんでしょうが」


 ラルクが問い掛けながらも半ば以上確信を持って言い切る。


「うぐっ!」


 そしてそれは言われたソウマの反応で証明された。


「ま、まあいいんだよ。内容はどうであれ俺に出来ることで解決するなら俺は構わんぜ」


 その言葉にはある種のシルヴィアに対する信頼が含まれていた。


「どうせ俺に誰かと戦えとかそういう感じのだろ?」


「当たり。ここに居る帝国ご自慢の【十騎聖】と戦えとさ」


「因みに何でだ?」


「(やっぱり聞いてないね)そこの皇帝様がシルヴィアを御自分の愛人にされたいと言ってね。当然シルヴィアは断った。それで今度はシルヴィアの信頼する君と皇帝様の信頼する【十騎聖】で勝負をして勝てば自分の要求を呑めと言っているんだよ」


「ふーん、どうせシルヴィアの気持なんか完全度外視での提案なんだろ?」


「まあね」


「ふーん」


 一見興味無さげに頷くソウマだが室内の温度は明らかに再び下がった。未だにシルヴィアの気持ちに応えていないソウマだが内心でシルヴィアを憎からず想っているソウマとしてはやはり面白くはない。


「まあいいや、兎にも角にも俺が勝負に勝てばいいだけだから別にどんな条件でも関係ないな」


 するとソウマの言葉にバンズの片眉が上がる。


「その言葉だけを聞けばまるで我等に勝つことなど容易いと言っているように聞こえるが?」


「その通りに聞こえてもいいよ」


 何でもない事の様にソウマは言う。いつものように淡々と当たり前の事実を口にするようにその口調は軽やかである。


「我々も舐められたものですな」


 皇帝の後ろの四人から隠し切れない怒りの気が漏れだしてくる。


「それでは誰が貴殿の相手をするかを決めようか。此方で決めようか、それとも貴殿が誰かを指名するかね?それならば全員を此処に呼んでもよいが・・・・」


「全員でいいよ」


「何?」


 ソウマの答えにレイが思わず聞き返す。


「聞き間違いか?もう一度言って貰えるかな」


「だから全員でいいって言ったんだよ」


 その答えに先程以上の怒気が四人から膨れ上がる。


「我等【十騎聖】を貴様一人で一度に相手すると言うか!」


 ソウマはその怒気に何処吹く風という風に肩を竦めて受け流す。


「別にそれでも構わないし一人ずつ順番に相手しても良いぜ。何なら組みやすい奴と組んでもいいよ。どうせお前さん方は誰が俺に負けても自分ならって思って心からは納得しない輩が多いだろ?だったら最初から全員相手した方が手っ取り早いからな」


「・・・・・・その言葉に二言は無いな?」


「くどいね。俺は一度言った言葉を曲げるのはあまり好きじゃないんだ」


「いいだろう。貴様の望み通り我等全員で貴様を相手してやろうではないか。但し対戦方法は一対一だ」


「良いぜ。じゃあ早速ろうか。場所はあるんだろ」


「この城の中央には闘技場がある。そこでやるといいだろう」


 皇帝が答える。


「了解、流石に実力至上主義の国だな。王城の中に闘技場を設立しているとはな(金の無駄遣いだな)」


「それでは残りの【十騎聖】全員に闘技場に来るように通達しろ」


「はっ」


 皇帝が近くにいた兵士に命令を下すと兵士は部屋を早足に出て行った。


「それでは我々は闘技場に向かうとするか」


 皇帝が席から立ち上がり皆を先導する様に部屋から出る。それに追従するように他の兵士や部下や【十騎聖】が続いて部屋から出て行った。


「我々も行くとするか」


 帝国の者達が全員退室してからアウロ王が席から立ち上がる。


「ごめんなさいね、ソウマ。面倒な事に巻き込んで」


 シルヴィアの謝罪にソウマは顔を向けずに手をひらひらさせながらぶっきらぼうに応える。


「別に気にしてねえよ。それどころかむしろ願っても無いな。俺も帝国の【十騎聖】には少なからず興味が有ったからな」


「・・・・・・ありがとう」


 そう言って皆は部屋を出て行った。


※※※※


 闘技場に到着したソウマ達は早速中に入った。中では大勢の兵士達が武器を取り訓練をしていた。ザナス皇帝や【十騎聖】の面々が姿を現すと皆が訓練を中断して此方に注目する。


「訓練の邪魔をするぞ。今から面白い余興を行おうと思う。何なら貴様等も見て言っても構わんぞ」


「皇帝陛下、余興とは?」


 訓練の責任者と思われる兵士が皇帝の前に跪いて尋ねる。


「ここに居るエテルニタ王国から来た戦士ソウマが我等が【十騎聖】と決闘を行う」


「【十騎聖】と・・・・・・・それはまた・・・・・・・」


 聞いた兵士は呆れたような表情をする。彼等帝国の兵士にとって【十騎聖】こそが最強の象徴である。その彼等の挑むという事がどれだけ愚かな事かを彼等帝国兵士は身を持って知っている。


「して・・・・・【十騎聖】のどなたと・・・・?」


「聞いて驚くな。何とも剛毅なことだが【十騎聖】全員と決闘するそうだぞ」


「そのような身の程知らずな者がいるのですか!?」


 驚愕と呆れを含んだ声を兵士の男は上げる。その声にはまさに正気を疑うような気持ちが込められていた。


「まあ良い余興になるではないか。それにこれは俺が持ち掛けた勝負でもあるからな。もしこの決闘で【十騎聖】が勝てば俺はあの女を手に入れることができる」


 そう言って皇帝が指し示した方を兵士が見る。そして兵士は思わず喉を鳴らす。そこに立っていたのはまさに絶世と呼んでも何ら差し支えない程の美女が立っていたのだ。どうやら人族では無いようだがそんなことすらどうでもよくなる程に視線の先に居る美女の美しさは正に突き抜けていた。


「・・・・・・・・」


 兵士は言葉も忘れたのかと思わせる程に茫然とシルヴィアを見ている。それはその兵士だけではないようで訓練をしていた全ての兵士が茫然としていた。

 ちなみに皇帝がそうならないのはシルヴィアには到底及ばないにしてもほぼ毎日美女を侍らせて生活している故の女慣れした部分もあるがそこは一国の王として覇気を有する稀物である。それでも最初に少し見惚れたのは言うまでも無い。シルヴィアの素顔を見る者はそれが男女の区別なくかなりの気を張っていないと真面に目を合わせることすら困難である。


 パンッ!


「!」


 突如闘技場に乾いた音が木霊する。それはソウマが両の掌を打ち合わせた音だった。その音は大きくはなかったが不思議と全員の鼓膜の奥まで響いた。それはシルヴィアの美貌に心奪われていた者も例外では無く全員が正気に返るようにソウマの方を振り返る。


「悪いが、用事はとっとと済ませようぜ。お姫さんが早めに遊びに行きたそうにしてるんでな」


 その言葉に【十騎聖】達から再び怒気が膨れ上がる。


「その言葉そっくりそのまま返してくれるは!」


「最初は誰からだ?誰でもいいぜ」


「誰でも同じよ。その最初の一人で貴様は敗北するのだ!」


 その言葉と共にバンズが背中の巨大な戦斧を構えて前に出る。


「己の力量に自信を持つのは良い事だが血気盛んで勇み足なのはお前さんの悪くせだなぁ」


「何だと!」


 すると突如闘技場の見物席側から声が掛けられる。


「貴様達・・・・・・・・」


 そこには呼ばれてやってきた残りの【十騎聖】の六人が居た。各々が手にする武器は様々ではあるが全員が人族としてみなかなりの力量であることが伺える。


「その坊や・・・・・いや、坊やの姿をした怪物はお前さんの手に負える代物じゃあないよぉ」


「ガラ爺!何を言うか!俺がこんな小僧に負けると言うか!」


「そう言ってんだよぉ」


「如何にガラ爺といえどその言葉は許せんぞ!」


「その通りです。我々【十騎聖】は帝国最強の戦士です。どのような相手とはいえ後れを取る者ではありません」


「・・・・・まあ、無理に止めなよぉ」


「そういうことだ小僧まずは俺が相手をする!」


「・・・・・・爺さんの言う事は素直に聞くもんだけどなあ」


 そう言いながらソウマは闘技場の中央に移動していく。兵士達は巻き込まれることを恐れて闘技場の見物席まで下がる。


「一撃で終わらせてやる。安心するがいいこの闘技場にもライフ神の加護が効いている。安心して死ぬがいい!」


「そりゃ安心、手加減はするが万が一お前さんを殺してもなんとかなるな」


「その減らず口を二度とたたけ無くしてやるぞ!」


 バンズは巨斧を大上段に構えて猛烈な勢いでソウマに肉薄する。


「粉微塵になるがいい!《烈破爆砕》」


 巨大な戦斧に莫大な気を込めてバンズはソウマの頭上に目掛けて振り下ろす。振り下ろされて衝撃で辺りに砂塵が舞い上がる。それは本来大型の魔獣や魔物に使用する技でありもし通常の人族に使用した場合は文字通りバラバラになる程の一撃だろう。ソウマはその一撃を避ける素振りすら見せなかった。


「まあ大体予想通りの一撃で決着したか。しかしもう少し余興としては楽しみたかったがな。吸血鬼の姫よ、賭けは俺の勝ちのようだな。早速今夜から可愛がってやるから湯浴みでもしてくるか?」


 皇帝が勝ち誇った笑みでシルヴィアに言う。しかしシルヴィアは眠っているシャルロットを優しく抱き締めながらその表情は微笑を浮べながら余裕を全く崩していない。


「そういう言葉を結果をしっかりと見てからの方が良いのではなくて?」


「見るまでもないだろう。奴はバンズの一撃を避ける気配すらなかったぞ。あの一撃をまともに受ければ下位の竜種でもかなりの痛手を受ける程だ。あの小僧が耐えられるような一撃では無い」


「そうかしら?」


 尚も余裕の崩れないシルヴィアに怪訝な顔をした皇帝は再び闘技場の中央に視線を向ける。


「悪くない一撃だ。人族としては確かに良い線いってるだろうさ」


 砂塵が晴れたそこにはソウマが傷一つ無い姿でそこに立っていた。


「そんな馬鹿な!?」


 ソウマはバンズの振り下ろした戦斧を掌で受け止めていた。ソウマの足元は威力の為か大きく陥没しておりその一撃の凄まじさを物語っている。


「素手で受け止めたというのか!?」


「おっさんの気を込めた一撃よりも俺の掌を覆った気の防御の方が上回っただけだろうさ」


 ソウマは簡単に言ってのけたが気を込めた武器と素手ではどちらに強度が勝るかなどはもはや論ずるまでも無い。それで素手の方が防御で勝るなどどれ程に込められた気に差があるかなど想像も出来ない。


「そん・・・・な、事が・・・・」


 バンズは目の前で起こった事がよほど信じられないのかソウマに掴まれたままの戦斧を動かそうともしない。


「何をやっているバンズ!狼狽えるな!まともに受け止めた訳が有るか!きっと重力系の魔術か能力に違いないぞ!もう一度喰らわせてやれば今度こそ受け切れまい!それ程の能力や魔術なら貴様の一撃を一度受けるので精一杯のはずだぞ!」


 観戦していた【十騎聖】の一人がバンズに吠えるように叱責を飛ばす。それにバンズははっとしたように我に返りソウマに掴まれた己の武器を取り戻そうとする。


「ぬおおおおおおおおおおお!」


「・・・・・・・」


 雄叫びを上げて全身の筋力を振り絞りソウマから戦斧を取り戻そうとする。しかし・・・・。


「!」


 ソウマが掴んでいる戦斧はビクともしなかった。バンズが押し込もうとしても逆に引き戻そうとしても全く動かすことができなかった。


「遊んでいる場合かバンズ!早くその小僧を捻り潰せ!」


 仲間からそう激が飛ぶもバンズの顔には大量の汗が浮かびその顔にははっきりと焦りと恐怖が浮かんでいた。


「俺はあんまり弱い者いじめは好きじゃないんだ。ましてや怖がっている奴をいたぶる趣味もない。だからこれで終わりにしてやる」


 そう言ってソウマは掴んでいる方とは逆の拳に気を込めてバンズの腹部に向けて撃ちこんだ。


「ごばぁ!」


 打ち込まれた拳は鎧を一瞬でコナゴナに打ち砕きバンズの腹を深々と撃ち抜いた。バンズはそのまま闘技場の壁まで一直線に吹っ飛んでいく。ソウマは拳を振り抜いた構えのまま反対側の手はバンズの戦斧を握ったままだ。


「・・・・・・」


 闘技場内は一斉に静まり返る。帝国兵士や皇帝や【十騎聖】のほぼ全員が茫然とバンズが吹っ飛んでいった壁を凝視している。そんな静まり返った闘技場内でラルクとシルヴィアの押し殺したような笑い声とアウロ王の溜息が妙に響いた。


「だから言っただろぅ。あの坊やはとんでもない怪物だってよぅ」


「そんな馬鹿な、我等の中で攻撃力と防御力に特に優れたバンズをああも容易く倒すとは・・・・・」


「だから止めとけってぇ。ありゃあ同じ土俵で競うようなもんじゃあねえよぉ」


「その言葉で引き下がれるか!我らは誉れ高き帝国【十騎聖】だぞ!」


 そう言って一人闘技場のソウマの前に飛び降りた者がいた。戦闘が開始前に他の【十騎聖】の所まで下がっていた【烈風】のレイと名乗った男だった。


「今度の相手は俺だ!俺はバンズのように油断はせんぞ!」


 そう言うとレイは腰に差していた細身の剣を抜き構えた。


「・・・・・」


 それを見たソウマは闘技場の端まで歩いて行き壁に立てかけてあった訓練用の剣を手に取った。


「そのような剣で俺の相手をするというのか!」


 レイは憤慨する。ソウマが手に取った訓練用の剣は普段から兵士達が訓練に使う物の為にあまり質は良くなくしかもあまり手入れをされていないのか所所で刃が欠けている所もあるような状態だった。


「まあ一回くらいならこれで大丈夫だろうさ」


「いいだろう後で後悔するがいい。膂力は中々のものだが速度はどうかな?如何に腕力が有ろうと俺の剣が見えなくては防ぎようが有るまい」


 レイは剣を正眼に構えて状態でソウマに突進してくる。


「疾ッ!」

 

 そして目にも止まらぬ速度で突きを無数に繰り出す。それは残像を伴い突きの壁となってソウマに迫る。


 ガシッ!


「は?」


 しかしソウマはそれを事も無げにも無造作にその剣先を掴み取った。レイはその光景よほど信じられなかったのか間抜けな声を出してしまう。


「確かに速さは中々だがその分狙いが少し雑だな。速度を生かすんなら狙いを本命と偽装を使い分けて出さなきゃな。一撃の全てが必殺級ならともかく小技で出すならも少し考えなきゃな」


「己舐めるな!」


 レイはソウマに掴まれている武器を即座に捨て去り腰に差していたもう一本の武器を抜き放つ。


「《疾駆先針》」


 放たれた攻撃は再び突き攻撃。しかし今度は明らかに武器の間合いの外からの攻撃だったが武器の先端から透明の刃が繰り出される。


「おっ?」


 ソウマはそんな暢気な声を出しながら剣に気を込めてレイの技を危なげなく捌いて行く。


「くそっ!」


 繰り出した技が通じないと悟ったレイは今度は闘技場内を高速で移動を始めた。


「レイの速度を見切るのは同じ【十騎聖】でも至難の技よ」


「(このまま俺を見失った所で一思いに首を刎ねてくれるわ!)」


 ソウマは首を動かして周囲を見回す。それは傍から見ればレイの姿を見失い姿を捜しているように見える。


「(今だ!)」


 レイはソウマの背後に高速で回り込んで即座にソウマの首に狙いを定めて剣を振り抜いた。


「!」


 しかしレイの剣がソウマの首に届く刹那にレイは確かに見た。ソウマの視線が自分に向いた瞬間を。


「そ、そんな・・・・・」


 そしてレイの剣はソウマによって人差し指と中指の指二本で止められていた。


「ば、化け物め・・・・・・」


 レイの顔にははっきりと恐怖と驚愕が張り付いていた。


「お前もこれで終わりだ」


 ソウマはにこやかに右腕を振りかぶる。レイは咄嗟に武器を手放して回避しようとするがそれよりもソウマの攻撃の方が遙かに早かった。


「・・・・!!!」


 レイは声も無く吹っ飛んでいく。そしてそらくソウマは狙ったのだろうが丁度バンズの真横の壁に埋まる結果となった。


「さて、次に壁の飾りになりたい奴は誰だ?」


 ソウマは殴った腕をグルグルと回しながら仲間が二人も吹き飛ばされ茫然とする【十騎聖】達に声をかける。そして茫然としているのは皇帝も同様だった。


「奴は一体何者だ?」


 その表情には最初の余裕は完全に失われていた。


「本当に人族なのか?」


 その疑問にシルヴィアは微笑を浮べる。


「まあ今は多少中身・・が微妙だけれど正真正銘ソウマは生粋の人族よ」


「それではあの強さは一体なんだ!?帝国が誇る【十騎聖】の二人を歯牙にもかけず倒すなど並の者に出来る訳がないだろう!」


「あなたも一国の皇帝なら噂位は聞いたことがあるでしょ?最強の男の噂を」


「あの始祖竜に勝っただの魔王に勝っただの歴代最強の吸血鬼の姫に・・・・・・・・!」


 そう言おうとしてザナスは思わずシルヴィアの方を見る。シルヴィアは実に艶のある笑みを浮かべている。しかしザナスの戦慄はシルヴィアの美貌すら眼に入る状態ではなかった。


「真実だというのか!?あの眉唾物の話が!?」


 ザナスはかつてとある戦場でシルヴィアが戦っている姿を見た事がある。それは凄まじいものだった。人外の美貌と能力はまさに規格外に相応しく例え帝国全戦力で挑んだとしても抗しえるものかと戦慄を覚えた。そしてその強さと美しさに完全に心を奪われたのだ。大賢者ラルクの実力は広く世に知られているしザナスも十分に理解している。しかしシルヴィアの強さはそれにすら迫るものがあった。今回の賭けを持ちかけたのもシルヴィアの美しさに惹かれたのも間違いないがもしその武力までも己の手中に収めればこの大陸だけでなく世界すらこの手に掴めるのではないかと夢想したからだ。


「奴は貴様よりも強いと言うのか!?」


「というか正しく言うとソウマの実力はシルヴィアと僕が二人掛かりでも勝てないよ」


「!」


 ラルクの面白そうな言われた言葉にザナスは今度こそ言葉を失ってしまった。


「そうさ大賢者も吸血姫も魔王も竜の王すら敵わない。そんなお伽話のように噂される彼が・・・・・ソウマが一部の者達になんと呼ばれているか、君は聞いたことがあるかい?」


 ラルクがまるで生徒の質問するかのようにザナスに問い掛ける。ザナスは余裕を完全に失い己がどれほど分の悪い賭けを申し出たのかようやく理解した顔で必死に喉を動かして言葉を絞り出した。


「・・・・・・世界・・・最強・・か」


「正解」


 正解を言い当てた生徒ザナス教師ラルクは満面の笑みを見せた。

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